説明

ターボ分子ポンプ

【課題】 吸気口フランジを介した熱流入があっても、ロータ温度の上昇を低減することができるターボ分子ポンプの提供。
【解決手段】 ターボ分子ポンプ1は、ケーシング13内に、複数段の動翼8が形成されたロータ2と、スペーサ10A,10Bにより保持された静翼9を備えている。積層されたスペーサ10A,10Bは、ケーシング13の係止部13bとベース4との間に挟持されている。スペーサ10Bの下側のスペーサ接触面には溝100が複数形成されていて、凹凸面となっている。そのため、スペーサ10Bと下側のスペーサ10Aとの接触面積が減少し、スペーサ10Bからスペーサ10Aへの熱伝達が抑制される。その結果、スペーサ10Bより下側のスペーサ10Aおよび静翼9の温度上昇が抑えられ、それらからの輻射熱によるロータ2の温度上昇を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置や分析装置などの中真空から超高真空にわたる圧力範囲で使用されるターボ分子ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ分子ポンプでは、複数段の静翼に対して複数段の動翼を高速回転させることにより排気作用を得ている。静翼と動翼とは交互に配置されており、各静翼はリング状のスペーサによって上下に挟持されるように保持されている(例えば、特許文献1参照)。このようなターボ分子ポンプは、例えば、ドライエッチング装置やCVD装置などのように、高真空のプロセスチャンバ内で処理を行う装置に用いられる。この種のプロセスを行う装置では、ターボ分子ポンプの直上に、チャンバ圧力調整に用いられるコンダクタンス可変のAPCバルブ(自動圧力調整バルブ)が設けられる。通常は、塩素系やフッ素系の反応生成物が堆積するのを防止するために、APCバルブは80℃〜120℃程度に加熱されている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−303293号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ターボ分子ポンプはAPCバルブの直下に設けられているため、APCバルブの熱がポンプケーシング、スペーサ、静翼の順に伝達され、静翼からの熱輻射によってロータへと熱が伝えられる。その結果、ロータ温度が許容温度を越えてしまう場合があり、クリープによるロータ変形の速度が大きくなり、ロータ寿命の低下を招くという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明によるターボ分子ポンプは、複数段の動翼が形成されたロータと、動翼に対して交互に配置される複数段の静翼と、吸気口フランジが形成されたポンプケーシングと、ポンプケーシングのスペーサ係止部とポンプベースとの間に積層されるように挟持され、複数段の静翼を所定位置に保持する複数のスペーサとを備えたターボ分子ポンプに適用され、複数段の静翼の一段分を挟む一対のスペーサの接触面の一方を凹凸面としたことを特徴とする。
請求項2の発明は、複数段の動翼が形成されたロータと、動翼に対して交互に配置される複数段の静翼と、吸気口フランジが形成されたポンプケーシングと、ポンプケーシングのスペーサ係止部とポンプベースとの間に積層されるように挟持され、複数段の静翼を所定位置に保持する複数のスペーサとを備えたターボ分子ポンプに適用され、スペーサ係止部のスペーサとの接触面を凹凸面としたことを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項1に記載のターボ分子ポンプにおいて、スペーサとポンプケーシングとの隙間とロータが配設されている空間とを連通する溝を接触面に形成して、その接触面を凹凸面としたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、静翼を挟む一対のスペーサの接触面の一方を凹凸面としてスペーサ間の接触面積を小さくしたり、スペーサ係止部のスペーサとの接触面を凹凸面としてスペーサとの接触面積を小さくしたことにより、ポンプケーシングからスペーサへの伝導熱を低減することができる。その結果、スペーサや静翼の温度上昇が抑えられ、静翼からの熱輻射によるロータ温度の温度上昇を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。図1は、本発明によるターボ分子ポンプの一実施の形態を示す断面図である。図1に示すターボ分子ポンプ1は磁気軸受式のターボ分子ポンプであり、ロータ2とシャフト3とを結合した回転体は、ベース4に設けられたラジアル電磁石51,52およびスラスト電磁石53によって非接触支持され、モータ6によって数万rpmで回転される。シャフト3の浮上位置は、磁気軸受用に設けられたラジアルセンサ71,72およびスラストセンサ73によって検出される。
【0008】
ターボ分子ポンプ1のベース4には、ロータ2を回転駆動するモータ6、保護ベアリング27,28が設けられている。保護ベアリング27,28にはメカニカルベアリングが用いられ、電磁石51〜53による回転体の磁気浮上がオフされたときに回転体を支持する。回転体の回転数は回転数センサ14により検出される。ベース4上には吸気口フランジ13aが形成されたケーシング13が固定されている。
【0009】
ロータ2の上部にはターボ分子ポンプ部の一方を構成する動翼8が軸方向(図示上下方向)に複数段形成されている。一方、ケーシング側にはターボ分子ポンプ部の他方を構成する静翼9が複数設けられている。動翼8および静翼9はそれぞれタービン翼から成り、静翼9の翼角度は、動翼8の翼角度と逆向きになっている。静翼9と動翼8とは交互に配置されており、各静翼9はリング状のスペーサ10A,10Bによって上下に挟持されるように保持されている。その結果、静翼9は、静翼9と動翼8との隙間が数mm程度に保持されるように位置決めされる。なお、後述するようにスペーサ10Aとスペーサ10Bとは下端部の形状が異なっている。
【0010】
ロータ2の下部には、ネジ溝ポンプ部の一方を構成する円筒部12が形成されている。一方、ベース4には、ネジ溝ポンプ部の他方を構成するステータ11が設けられている。ネジ溝ポンプ部においては、ステータ11の内周面または円筒部12の外周面のいずれか一方にらせん溝が形成されている。不図示のボルトによりケーシング13がベース4に固定されると、ケーシング13内に積層されたスペーサ10A,10Bは、ケーシング13の係止部13bとベース4との間に挟持されることになる。
【0011】
スペーサ10A,10Bとケーシング13との間には隙間が形成され、その隙間とロータ配設空間とは、スペーサ10Bに形成された溝(後述する)により連通している。ケーシング13の吸気口フランジ13aは装置側に設けられたAPCバルブ5に締結されている。
【0012】
上述したように、反応生成物の堆積防止のために、APCバルブ5が80℃〜120℃程度に加熱されると、APCバルブ5の熱は、APCバルブ5に接続されたケーシング13を介してスペーサ10A,10Bへと伝達される。そして、積層されたスペーサ10A,10Bを上側から下側へと熱が伝わるとともに、スペーサ10A,10Bに挟まれた静翼9へも熱が伝わり静翼9の温度が上昇する。その結果、対向する静翼9からの熱輻射により動翼8が加熱され、ロータ2の温度が上昇する。なお、ロータ2およびシャフト3から成る回転体は磁気浮上しているため、ほとんど輻射でしか熱を逃がすことができず効率的な冷却が難しい。
【0013】
そこで、本実施の形態では、以下に述べるような方法で静翼9に伝達される熱を低減するようにした。図2はスペーサ10Bを説明する図であり、(a)は図1のA部拡大図、(b)はB1矢視図、(c)はスペーサ10Bの一部を斜め下方から見た斜視図である。なお、図2(a)は図2(b)のB2−B2断面図でもある。図2(a)に示すように、スペーサ10Bの下端部分には外周側が下側に突出するような段差が形成され、スペーサ10Aの上端部分には内周側が上側に突出するような段差が形成されている。この段差寸法は上端部分よりも下端部分の方が大きく設定されていて、スペーサ10A,10Bを重ねると内周部分に溝が形成される。静翼9はこの溝内に挟み込むように保持される。
【0014】
スペーサ10Bの下端部分には、溝100がリング状スペーサ10Bの全周にわたって複数形成されている。溝100の上下方向寸法H1は、スペーサ10Aの上端部分の段差寸法H2よりも大きく設定されている。そのため、ケーシング13とスペーサ10Aとの隙間は、溝100を介してスペーサ10A,10Bの内側の空間、すなわちロータ2が配設されている排気空間と連通し、真空排気される。
【0015】
図3はスペーサ10Aを示す図であり、(a)は断面図、(b)はC矢視図である。スペーサ10Aは従来のターボ分子ポンプに用いられるスペーサと同様の形状をしており、溝100が形成されていない点がスペーサ10Bと異なっている。すなわち、スペーサ同士の接触面は上下両端面とも平面になっている。そのため、従来のターボ分子ポンプでは、スペーサ同士の接触面積が大きく、積層されたスペーサの上側から下側へと熱が伝わりやすく、スペーサや静翼の温度が上昇することによるロータ2の温度上昇という問題があった。
【0016】
しかし、本実施の形態では図1,2に示すように、上から3段目のスペーサ10Bに溝100を形成して接触面を凹凸面としたことにより、3段目のスペーサ10Bと4段目のスペーサ10Aとの接触面積が減少する。その結果、4段目よりも下側のスペーサ10Aや静翼9に対するAPCバルブ5の熱の影響が低減され、4段目よりも下側のスペーサ10Aや静翼9の温度上昇を抑えることができ、ロータ2の温度上昇も抑制することができる。
【0017】
また、従来のターボ分子ポンプでは、スペーサ10Aの一つに図3の二点鎖線で示すように貫通孔101を形成していたが、本実施の形態では図2に示すように溝100によって積層したスペーサ10A,10Bの外側(スペーサ10A,10Bとケーシング13との隙間)と内側(ロータ2が配設される空間)とが連通しているので、そのような貫通孔101をわざわざ設ける必要がない。本実施の形態では、いずれのスペーサ10Aにも貫通孔101は形成されていない。
【0018】
図1に示した例では、スペーサ10Bを3段目に配置したが、APCバルブ5からの熱量に応じて最上段から最下段のいずれの位置に配置しても良い。さらに、3段目に設けられたスペーサ10Bよりも上段のスペーサ10Aを、図4に示すようなスペーサ10Cに置き換えるようにしても良い。スペーサ10Cでは、スペーサ下端部の接触面に溝102を形成して、接触面を凹凸面とした。このようにすることにより、伝導熱による1および2段目の静翼9の温度上昇を抑制することができ、ロータ2の温度上昇をさらに低減することができる。なお、溝102の段差寸法H3は断熱効果が得られれば良いので、1mm程度と小さくてもかまわない。
【0019】
また、スペーサ10Bに代えてスペーサ10Cを用いても良い。この場合には、スペーサ10Aの一つに貫通孔101が形成されたものを用いる必要があるが、貫通孔101が形成されたスペーサ10Aの配置にかかわらず、断熱用のスペーサ10Cを所望の位置に配置することができる。
【0020】
図5はスペーサ10Cの他の例を示す図であり、スペーサ10Dの一部を斜め下方から見た図である。スペーサ10Dでは、下側の接触面に周方向に形成されたリング状の溝105を設けた。切り欠き106は、スペーサ10Dとスペーサ10Aとを積層したときに溝105の領域が孤立したエアポケットとならないように、空気抜き用に形成したものである。切り欠き106によって、スペーサ10Dとケーシング13との隙間(図2参照)と溝105とが連通する。なお、上述した例では、スペーサ10B,10Cの下側の接触面に溝100,102,105を形成したが、スペーサ10B,10Cの上側の接触面に溝100,102,105を形成しても良いし、上下両面に形成しても良い。
【0021】
さらに、全てのスペーサの形状を従来と同じスペーサ10Aと同一形状とし、図6に示すようにケーシング13のスペーサ接触面を凹凸面とするようにしても良い。図6はケーシング13とスペーサ10Aとの接触部の一部を示す図である。ケーシング13の係止部13bには複数の溝104が形成されている。
【0022】
なお、以上の説明はあくまでも一例であり、発明を解釈する際、上記実施の形態の記載事項と特許請求の範囲の記載事項の対応関係に何ら限定も拘束もされない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明によるターボ分子ポンプの一実施の形態を示す断面図である。
【図2】(a)は図1のA部拡大図、(b)はB矢視図、(c)はスペーサ10Bの斜視図である。
【図3】スペーサ10Aを説明する図であり、(a)は断面図、(b)はC矢視部である。
【図4】スペーサ10Cを説明する図であり、(a)は断面図、(b)はD矢視部である。
【図5】スペーサ10Dの一部を示す斜視図である。
【図6】ケーシング13とスペーサ10Aとの接触部の一部を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
1 ターボ分子ポンプ
2 ロータ
4 ベース
5 APCバルブ
8 動翼
9 静翼
10A,10B,10C,10D スペーサ
13 ケーシング
13a 吸気口フランジ
13b 係止部
100,102,104,105 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数段の動翼が形成されたロータと、
前記動翼に対して交互に配置される複数段の静翼と、
吸気口フランジが形成されたポンプケーシングと、
前記ポンプケーシングのスペーサ係止部とポンプベースとの間に積層されるように挟持され、前記複数段の静翼を所定位置に保持する複数のスペーサとを備えたターボ分子ポンプにおいて、
前記複数段の静翼の一段分を挟む一対のスペーサの接触面の一方を凹凸面としたことを特徴とするターボ分子ポンプ。
【請求項2】
複数段の動翼が形成されたロータと、
前記動翼に対して交互に配置される複数段の静翼と、
吸気口フランジが形成されたポンプケーシングと、
前記ポンプケーシングのスペーサ係止部とポンプベースとの間に積層されるように挟持され、前記複数段の静翼を所定位置に保持する複数のスペーサとを備えたターボ分子ポンプにおいて、
前記スペーサ係止部の前記スペーサとの接触面を凹凸面としたことを特徴とするターボ分子ポンプ。
【請求項3】
請求項1に記載のターボ分子ポンプにおいて、
前記スペーサと前記ポンプケーシングとの隙間と前記ロータが配設されている空間とを連通する溝を前記接触面に形成して、その接触面を凹凸面としたこと特徴とするターボ分子ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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