説明

ターボ分子ポンプ

【課題】部品点数の削減、および、組み付け作業の効率化を図ることができるターボ分子ポンプの提供。
【解決手段】複数段の固定翼33の少なくとも一段は、周方向に接するように配置された複数の分割固定翼33a,33bで構成され、分割固定翼33a,33bは、周方向に並設された複数の翼ブレード330と、該複数の翼ブレード330の外周部が連結されて、該複数の翼ブレード330を所定位置に位置決めする円弧状のスペーサ部332とを備える。その結果、従来のスペーサリングを必要とせず、備品テンスの削減、および、組み付け作業性の向上を図ることができる。さらに、複数の分割固定翼をOリング40で互いに結合されているので、結合部における気体の逆流を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボ分子ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ分子ポンプは、固定翼に対して回転翼が形成されたロータを高速回転させることにより、気体の排気を行っている。固定翼は、回転翼に対して軸方向に交互に配置されるように複数段設けられている。各段の固定翼は、リング状のスペーサリングにより挟持され、軸方向および径方向に関して位置決めされている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−144694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、各固定翼は上下の回転翼段の間に挿入されるように配置されるため、回転翼の側方から組み付け可能なように半円形状に分割されている。分割された半円形状の固定翼は、外周部分をスペーサリングで挟持することにより位置決めされている。そのため、スペーサリングを組み付ける際に固定翼がずれることがあり、作業性が悪かった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、軸方向に複数段の回転翼が形成された回転体と、複数段の回転翼に対して軸方向に交互に配置される複数段の固定翼とを備えるターボ分子ポンプに適用され、複数段の固定翼の少なくとも一段は、周方向に接するように配置された複数の分割固定翼で構成され、分割固定翼は、周方向に並設された複数の翼ブレードと、該複数の翼ブレードの外周部が連結されて、該複数の翼ブレードを所定位置に位置決めする円弧状のスペーサ部とを備えたことを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載のターボ分子ポンプにおいて、複数の分割固定翼を互いに結合させる結合部材を設けたものである。
請求項3の発明は、請求項2に記載のターボ分子ポンプにおいて、結合部材を、周方向に配置された複数の分割固定翼のスペーサ部の外周に装着された弾性体リングとしたものである。
請求項4の発明は、請求項2または3に記載のターボ分子ポンプにおいて、結合された複数の分割固定翼の各スペーサ部は、円弧状を成すスペーサ部の端面同士が当接し、その当接部分において径方向または軸方向に関するラビリンス構造を形成していることを特徴とする。
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載のターボ分子ポンプにおいて、分割固定翼を、鋳造により一体成型したものである。
請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載のターボ分子ポンプにおいて、複数の分割固定翼で構成される固定翼が、積層されるように複数段設けられ、スペーサ部の端面同士が当接する部分の周方向位置が、隣接して積層された固定翼同士で異なっていることを特徴とする。
請求項7の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載のターボ分子ポンプにおいて、径方向のネジ溝を備えたジーグバーンポンプ段を有し、ジーグバーンポンプ段は、周方向に接するように配置された複数の分割部が弾性体リングで互いに結合されたものであり、複数の分割部は、ネジ溝が形成されたポンプ部と、該ポンプ部の外周に形成されて、該ポンプ部を所定位置に位置決めする円弧状のスペーサ部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、組み付け作業の効率化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明によるターボ分子ポンプ1の概略構成を示す断面図である。
【図2】本実施の形態における固定翼33を説明する図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図3】固定翼33の積層構造を示す断面図である。
【図4】分割線の変形例を示す図であり、(a)は第1の変形例を示し、(b)は第2の変形例を示す。
【図5】本実施の形態におけるジーグバーンポンプ段50を説明する図であり、(a)は平面図、(b)は半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。図1は本発明によるターボ分子ポンプ1の概略構成を示す断面図である。図1に示したターボ分子ポンプ1は磁気軸受式のポンプであり、ロータ30は、5軸磁気軸受を構成する電磁石37,38によって非接触支持される。磁気軸受によって回転自在に磁気浮上されたロータ30は、モータ36により高速回転駆動される。
【0009】
ロータ30には、複数段の回転翼32と円筒状のネジロータ31とが形成されている。一方、固定側には、軸方向に対して回転翼32と交互に配置された複数段の固定翼33と、ネジロータ31の外周側に設けられたネジステータ39とが設けられている。各固定翼33の外周部分には、スペーサとして機能する肉厚のスペーサ部332が形成されている。スペーサ部332が重なるように各固定翼33をベース20上に積層することにより、各固定翼33は、回転翼32間の所定位置に位置決めされる。吸気口フランジ21が形成されたポンプケーシング34をベース20に固定すると、積層された回転翼33がベース20とポンプケーシング34との間に挟持される。
【0010】
ベース20には排気ポート22が設けられ、この排気ポート22にバックポンプが接続される。ロータ30を磁気浮上させつつモータ36により高速回転駆動することにより、吸気口21a側の気体は排気ポート22側へと排気される。
【0011】
図2は、本実施の形態における固定翼33を説明する図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。図2では、翼高さが比較的低い下段部分の固定翼33の一段分を示した。前述したように、組み付け時には、固定翼33をロータ30の側方から回転翼32間に挿入するので、円形状の回転翼33を少なくとも2つに分割する必要がある。図2に示す例では、回転翼33は半円形の一対の分割固定翼33a,33bによって構成されている。符号L1は分割線を表している。
【0012】
各分割固定翼33a,33bは、半リング状の内側リブ部331およびスペーサ部332と、それらの間に形成された複数の翼ブレード330を有している。 図2(b)の側面図に示すように、2つの分割固定翼33a,33bは、弾性体リング40で構成された結合部材によって一体化されている。本実施の形態では、弾性体リング40としてOリングを用いている。なお、Oリング40は、分割固定翼33a,33bを結合して一体化する機能と共に、図1に示すように、ポンプケーシング34との隙間をシールする機能を有している。このシール機能により、固定翼33とポンプケーシング34との隙間において、Oリング40の下流側と上流側とが分離され、上流側への気体逆流を防止することができる。
【0013】
図3は図2(a)のA−A断面に相当する断面図であり、積層構造が分かりやすいように2段分の固定翼33を示した。スペーサ部332は固定翼33を積層する際のスペーサとして機能し、その上面および下面には凹凸が形成されている。固定翼33を積層すると、一方の固定翼33のスペーサ部上面に形成された凸部335が、他方の固定翼33の下面に形成された凹部336に嵌り込む。このような嵌め合い構造とすることで、互いの固定翼33が径方向(図示横方向)にずれるのを防止している。スペーサ部332の外周面には、Oリング40を装着するための溝334が形成されている。例えば、図3の下側の固定翼33の上に上側の固定翼33を組み付ける際には、まず、下側の固定翼33の上に一対の分割固定翼33a,33bを横方向から載置し、分割線L1の面をぴったり合わせる。その後、分割固定翼33a,33bの溝334内にOリング40を装着して、分割固定翼33a,33bを結合する。
【0014】
本実施の形態においては、分割固定翼33a,33bはダイカスト等の鋳造により製作されるが、鋳造でなくても構わない。従来のターボ分子ポンプでは、固定翼とスペーサリングとは別個に形成されるとともに、円形状の固定翼を2分割にカットするのが一般的である。そのため、分割線の部分の隙間は、固定翼カットの際の工具の幅寸法とほぼ同程度となり、組み付けの際に分割固定翼がずれやすいという問題があった。また、分割固定翼がずれないようにスペーサリングを積層する必要があるため、組み付け時に手間がかかっていた。
【0015】
一方、上述した分割固定翼33a,33bの場合には、従来の回転翼の部分とスペーサリングに相当する部分(スペーサ部332)とを一体に成形しているので、加工コストの低減および部品点数の削減ができるとともに、組み付け時の作業性の向上を図ることができる。さらに、Oリング40で一体に固定しているので、組み付け時に分割固定翼33a,33bがずれる心配もない。また、分割線L1部分の気体逆流も低減することができる。なお、このスペーサ部332における逆流は、下流側に粘性流に近い領域ほど顕著になる。
【0016】
また、ダイカストにより一体成型した場合には高精度の成型が可能なので、分割線L1部分の隙間を組み立て精度程度まで小さくすることができ、弾性体であるOリング40で一体としたときに分割線L1部分で両者をぴったり合わせることが可能となる。その結果、分割線L1部分における気体の逆流を、ほぼ防止することができる。
【0017】
なお、固定翼33を上下に積層したときに分割線L1の位置がそろっていると、逆流経路が複数段に渡って形成されるため、より上流側まで逆流の影響が出てくる。そこで、固定翼33の組み付けの際に、図3に示すように分割線L1の位置をずらすことで、逆流の影響を低減することができる。例えば、固定翼33が2分割されている場合には、互いに90度ずらすようにする。そのように、ずらして配置するために、上下のスペーサ部間に位置決めピンを設けるようにしても良い。
【0018】
図4は分割線の変形例を示す図である。図4(a)は分割線の第1の変形例を示す図であり、分割線L2を含む分割固定翼33a,33bの一部を示したものである。分割線L2は、スペーサ部332において、径方向にジグザグ状に折れ曲がっている。すなわち、分割線L2の部分は、径方向に関してラビリンス構造を形成している。このようなラビリンス構造とすることで、回転翼32よび固定翼33が設けられている排気領域と、スペーサ部332とポンプケーシング34の隙間空間とをより確実に分離することができる。
【0019】
一方、図4(b)に示す固定翼33(33a,33b)の側面図は、分割線に関する第2の変形例を示したものである。なお、図4(b)においては、Oリング40の図示を省略した。分割線L3の場合には、軸方向に関してジグザグ状に折れ曲がっている。すなわち、軸方向に延びていた分割線L3は、途中で周方向に折れ曲がり、その後、再び軸方向に折れ曲がるように形成され、分割線L3の部分はラビリンス構造を成している。分割線L3のような形状とすることにより、スペーサ部332における上下方向の気体の逆流を抑制することができる。
【0020】
ところで、下流側のポンプ段にジーグバーンポンプ段を備えるターボ分子ポンプものもある。図5は、そのようなジーグバーンポンプ段において、上述した固定翼33のように、スペーサリングの一体化および分割構成を採用した場合を示す。ジーグバーンポンプ段50は円板状をしており、円板の少なくとも一方の面には径方向に延びる渦巻状の凸部500と凹部501とが形成されている。この凹凸部500,501がネジ溝を構成している。ロータ側には凹凸部500,501と対向するように平面状の円板やネジ溝が形成された円板が設けられている。
【0021】
本実施の形態では、ジーグバーンポンプ段50は2つの分割部50a,50bから成り、凹凸部500,501の外周側には、スペーサリングと同様の位置決め機能を有する円弧状のスペーサ部502がそれぞれ形成されている。スペーサ部502の側面には、Oリング40が装着される溝504が形成されている。スペーサ部502の上面には凸部505が形成され、下面には凹部506が形成されている。これらの凹凸部505,506は、上述した図3の凹凸部335,336と同様の機能を有している。このジーグバーンポンプ段50の場合も、分割部50a,50bをOリング40によって一体化することにより、分割線L1部分の密着度を向上させ、分割線部分L1における逆流を極力抑えるようにしている。
【0022】
上述した実施の形態では、分割固定翼33a,33bや分割部50a,50bの一体化するための結合部材として、弾性体リングであるOリング40を用いているが、コイルバネの両端を連結して円形状にしたものを用いても良い。結合部材の他の例としては、例えば、針金等のワイヤがある。
【0023】
上述した実施の形態では、磁気軸受式のターボ分子ポンプを例に説明したが、本発明は、磁気軸受式に限らず他のターボ分子ポンプにも適用することができる。また、図1に示す例では、全ての段の固定翼33に関して図2に示すような構造を採用しているが、一部(例えば、下流側の固定翼段)のみ図2の構造を採用し、他の段に従来の構造を採用するようにしても構わない。さらに、固定翼33やジーグバーンポンプ段50の分割数は2でなくても構わない。
【0024】
上述した各実施形態はそれぞれ単独に、あるいは組み合わせて用いても良い。それぞれの実施形態での効果を単独あるいは相乗して奏することができるからである。また、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。
【符号の説明】
【0025】
1:ターボ分子ポンプ、30:ロータ、32:回転翼、33:固定翼、33a,33b:分割固定翼、40:Oリング、50:ジーグバーンポンプ段、50a,50b:分割部、330:翼ブレード、331:内側リブ部、332,502:スペーサ部、334,504:溝、335,500,505:凸部、336,501,506:凹部、L1〜L3:分割線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に複数段の回転翼が形成された回転体と、前記複数段の回転翼に対して軸方向に交互に配置される複数段の固定翼とを備えるターボ分子ポンプにおいて、
前記複数段の固定翼の少なくとも一段は、周方向に接するように配置された複数の分割固定翼で構成され、
前記分割固定翼は、周方向に並設された複数の翼ブレードと、該複数の翼ブレードの外周部が連結されて、該複数の翼ブレードを所定位置に位置決めする円弧状のスペーサ部とを備えたことを特徴とするターボ分子ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載のターボ分子ポンプにおいて、
前記複数の分割固定翼を結合させる結合部材を設けたことを特徴とするターボ分子ポンプ。
【請求項3】
請求項2に記載のターボ分子ポンプにおいて、
前記結合部材は、前記周方向に配置された複数の分割固定翼の前記スペーサ部の外周に装着された弾性体リングであることを特徴とするターボ分子ポンプ。
【請求項4】
請求項2または3に記載のターボ分子ポンプにおいて、
前記結合された複数の分割固定翼の各スペーサ部は、円弧状を成すスペーサ部の端面同士が当接し、その当接部分において径方向または軸方向に関するラビリンス構造を形成していることを特徴とするターボ分子ポンプ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のターボ分子ポンプにおいて、
前記分割固定翼は、鋳造により一体成型されることを特徴とするターボ分子ポンプ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のターボ分子ポンプにおいて、
前記複数の分割固定翼で構成される固定翼が、積層されるように複数段設けられ、
前記スペーサ部の端面同士が当接する部分の周方向位置が、隣接して積層された固定翼同士で異なっていることを特徴とするターボ分子ポンプ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のターボ分子ポンプにおいて、
径方向のネジ溝を備えたジーグバーンポンプ段を有し、
前記ジーグバーンポンプ段は、周方向に接するように配置された複数の分割部が弾性体リングで互いに結合されたものであり、
前記複数の分割部は、ネジ溝が形成されたポンプ部と、該ポンプ部の外周に形成されて、該ポンプ部を所定位置に位置決めする円弧状のスペーサ部とを備えることを特徴とするターボ分子ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−74903(P2011−74903A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230306(P2009−230306)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】