説明

ターボ圧縮機複合体の制御法及び制御システム

【課題】連結された複数のターボ圧縮機の、社内実務的に知られている負荷分散調節を改善する。
【解決手段】少なくとも2台のターボ圧縮機(1.1、2.1)の制御において、それぞれのターボ圧縮機はそれぞれのポンプ限界曲線(P1、P2)までの距離を保つための一つの制御装置(1.2、2.2)を有しており、各ターボ圧縮機についてそのポンプ限界曲線までの第1の距離(A1.1、A2.1)が求められ、及び、前記制御装置内において、保持すべき距離が、前記第1の距離(A1.1、A2.1)から微調整可能であって、これら少なくとも2台のターボ圧縮機(1.1、2.1)を制御するために、一つの制御装置(2.2)の前記保持すべき距離(A2.2)が、もう一方の制御装置(1.2)の微調整(A1.1→A1.2)に基づいて、総プロセス変量(dV/dt)が略一定に保たれるよう、その第1の距離(A2.1)から微調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一つの複合体に統合された2台又はそれ以上のターボ圧縮機の請求項1のおいて書きに記載した制御法、及び、そのような方法を実行するためのシステム及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ圧縮機の特性要因図は、ポンプ限界曲線により一つの安定領域及び一つの不安定領域に分割される。ポンピングが生じるのは、ターボ圧縮機の運転点が、吐出量低下により、又は、圧縮比の上昇により、前記特性要因図の前記不安定領域に入った場合である。これにより、圧縮された媒体の周期的な吐出及び逆流が起こり、また頻繁にターボ圧縮機内の高振動、サージ、急速な温度上昇が伴う。その結果、例えばベアリング損傷、こすれによる損傷、インペラ損傷、又はブレード損傷が起こる可能性があり、それらは運転中断につながる可能性がある。
【0003】
これを回避するために、前記ポンプ限界曲線に対して固定の又はあらかじめ設定可能な距離を保つための制御装置が知られており、該制御装置によりターボ圧縮機の運転点が制御され、例えば、その回転数が相応に変更されたり又はアンロード弁が開放されたりする。以下、調節、つまりフィードバックされた実測値及び該実測値と基準値との比較に基づいた制御も、制御と称される。
【0004】
ポンピングは優先的に回避する必要があるため、複数のターボ圧縮機が共同で一つの媒体を吐出するように連結されている場合、一般的に、各圧縮機について一つの、該圧縮機とポンプ限界曲線との距離を保つための制御装置が設けられている。
【0005】
これら制御装置の協調が行わなれなければ、複数の制御装置が互いに拮抗することにより、個々のターボ圧縮機の不均一な負荷分散、及び、全体システムの不安定化につながる可能性がある。
【0006】
したがって社内実務的には、すべての圧縮機においてそれぞれのポンプ限界曲線から略同一の距離が保たれるように個々のターボ圧縮機の運転点を選択することによる負荷分散調節が知られている。この負荷分散は中央コントローラ又は上位のコントローラなしで機能し、個々の圧縮機の制御装置の相互通信に基づいている。
【0007】
これに対して特許文献1では、負荷分散が個々の圧縮機の吐出体積係数に基づいて行われる中央制御装置が提案されている。特許文献2では、連結された複数の圧縮機の負荷分散のために、全体の仕事を最小限にすることが提案されている。特許文献3では一つの優位な圧縮機が選ばれ、この圧縮機に応じて個々の圧縮機の運転点が決定される。これらのコンセプトにおいては、負荷分散においてポンプ限界曲線までの距離は考慮されていない。
【0008】
上述の、社内実務的に知られている負荷分散調節においては、個々の制御装置の手動の微調整が行われ、この手動の微調整により、ポンプ限界曲線までの保つべき距離を、すべての圧縮機について略同一の一つの距離から変更することが可能である。本書でいう微調整とは、一つの制御装置が一つのターボ圧縮機について保とうとする、ポンプ限界曲線までの距離をずらすことを指す。このような微調整により、例えば、意図的に個々の圧縮機にいっそう負荷をかけたり、負荷を軽減したり、又は、そのポンプ限界に近づけたり遠ざけたりして運転するために、個々のターボ圧縮機の運転点をずらすこと、つまり負荷分散調節をある程度手動で過剰制御することが可能である。
【0009】
しかしながら、社内実務的に知られている前記負荷分散調節においては、すべてのターボ圧縮機についてポンプ限界曲線からの距離が略同一である距離が、連結された複数の圧縮機が全体として所望の全体プロセス変量、たとえば総吐出量及び総圧縮比を示すように選ばれる一方で、個々の制御装置の手動の微調整が残りのターボ圧縮機を考慮せずに行われると、この全体プロセス変量の変化が所望しないものになる。たとえば2台のターボ圧縮機の複合体において、一方の圧縮機のポンプ限界までの距離のみを減少させた場合、このことは、圧縮比が同じであれば、その吐出量低下につながり、それにより、該複合体の総吐出量の所望されない低下につながる。
【0010】
特許文献4では、総プロセス変量を保つために、複数のローカルなポンプ限界コントローラを一緒に調節する一つの中央コントローラが提案されている。個々の制御装置を意図的に微調整することは行われない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第6602057号明細書
【特許文献2】米国特許第5743714号明細書
【特許文献3】米国特許第6233954号明細書
【特許文献4】米国特許第5347467号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、社内実務的に知られている、前記の負荷分散調節を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この課題を解決するために、請求項1のおいて書きに記載の方法を、その特徴的要件により発展させる。請求項7はそのような方法を実行するシステムに関するものであり、請求項8は、対応するプログラムコードを持つコンピュータプログラム製品又はデータ媒体に関する。従属請求項は好適な発展形に関する。
【0014】
一つの総プロセス変量を実現するために2台又はそれ以上のターボ圧縮機を連結して一つの複合体にすることができる。そのためたとえば2列又はそれ以上のターボ圧縮機トレインを並列に連結し、一緒に、吸引圧力と最終圧力との間の総圧縮比及び総吐出量を設定することができる。一列又は複数のこのターボ圧縮機トレインに、さらに、2列又はそれ以上のターボ圧縮機トレインを直列に連結することができる。
【0015】
これらのターボ圧縮機の少なくとも2台には、それぞれのターボ圧縮機のポンプ限界曲線までの、望ましくはあらかじめ設定可能な距離又は自ずと生じる距離を保つための制御装置がそれぞれ一つ備わっている。これらの制御装置によりたとえばそれぞれのターボ圧縮機の回転数の変更及び/又はアンロード弁の開放を行うことができる。
【0016】
これらのターボ圧縮機のために、そのポンプ限界曲線までの第1の距離が計算される。連結された複数の圧縮機における性能分散を最適にするため、この第1の距離は望ましくはすべての制御装置について略同一の値とすることができる。
【0017】
保持すべき距離は、制御装置内において、この第1の距離から微調整することが可能である。つまり、該制御装置が、この第1の距離の代わりに、微調整された距離の方を保持しようとするように、制御装置を設定することができる。微調整可能な制御装置を用いたこのような負荷分散調節は、社内実務的にすでに知られている。
【0018】
本発明においては、少なくとも一つの制御装置の保持すべき距離は、その第1の距離から、その他の制御装置の微調整を基に、総プロセス変量が略一定になるように微調整される。その他の制御装置の微調整を考慮することにより、たとえば総吐出量、総吐出体積、総吸引及圧力び/又は最終圧力、及び/又は、総圧縮比の変化など、総プロセス変量の望まない変化及び不利な変化を、一つの制御装置の微調整により回避することができる。
【0019】
たとえば並列に吐出を行う3台の圧縮機、又は、直列に連結された2台の圧縮機と第3の圧縮機とが全体として並列に吐出を行うなど、3台又はそれ以上の圧縮機が連結されている場合、そのような複合体の自由度はより高い。それによりこの場合一台又は複数の制御装置を微調整することができる。本発明により、微調整された制御装置の微調整に基づいて残りの制御装置が微調整されると、ここでも総プロセス変量の望まない変化を回避することができる。
【0020】
特に好適となる可能性があるのは、ある一つの制御装置がその保持すべき距離を、その他の制御装置から伝達された微調整に基づいてその第1の距離から微調整するために、複数の制御装置が互いにその微調整を伝達し合う場合である。このときこれら複数の微調整はたとえば、まず第1の制御装置の一つの微調整が与えられ、この第1の制御装置から他の制御装置に伝送されることによりインタラクティブに決定されることができる。これら他の制御装置はまた、第1の制御装置の微調整を相殺するためにそれぞれが微調整を行う。これらその他の制御装置の微調整は、第1の制御装置に伝達される。その他の制御装置の微調整は、当初与えられた第1の制御装置の微調整を相殺するものであるため、第1の制御装置内ではさらなる微調整は行われない。同様に、すべての制御装置の微調整も一緒に決定することができる。
【0021】
特に、すべての所与の微調整が同時に実現されると総プロセス変量が変化してしまう場合、好適な実施形態においては、保持すべき複数の距離は複数の制御装置内において、一方では総プロセス変量が略一定に保たれるよう、及び、他方では、個々の制御装置の微調整の比又は差が互いの間で又は互い同士で、所与の微調整の比に略対応するように、その他の制御装置の微調整に基づいてその第1の距離から微調整される。
【0022】
さらなる長所及び特徴は、従属請求項及び実施例から理解できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態による、連結された2台のターボ圧縮機の複合体及びこれらを制御するための本発明によるシステムの図式化された図である。
【図2】図1に記載された2台のターボ圧縮機の特性要因図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図を用いて詳細に説明する。
【0025】
図1には、並列に連結された2台のターボ圧縮機1.1、2.1の複合体が示されている。各ターボ圧縮機には、ポンプ限界曲線P1又はP2(図2)までの距離を保つための一つの制御装置1.2又は2.2が設けられており、該制御装置は、この距離を保つためにたとえばそれぞれの圧縮機の回転数を変化させたり及び/又はアンロード弁1.3又は2.3を開く。図1の破線の両矢印が示すように、前記2台の制御装置1.2、2.2は互いに交信し、特に、ポンプ限界曲線に対して保つべき距離を交互に伝達し合っている。
【0026】
図2を参照しながら、前記複合体を制御するための本発明の一つの実施例に基づく方法について詳細に説明する。
【0027】
図2には前記2台のターボ圧縮機1.1、2.1の特性要因図が、吐出体積dV/dtに関する圧縮比Δpの形で表現されている。このために2台の圧縮機についてそれぞれポンプ限界曲線P1又はP2、及び、いくつかの一定回転数の線n1.1、n1.2又はn2.1、n2.2が示されている。
【0028】
まず、所望の総吐出体積dV/dt及び総圧縮比Δpのために、社内実務的に知られた負荷分散調節により両ターボ圧縮機について、それぞれのポンプ限界曲線P1又はP2までの同一の第1の距離A1.1=A2.1が計算される。これについて図2では、これら2つのポンプ限界曲線P1、P2までの距離を示す曲線が一点破線で示されており、微調整されていない制御装置の場合、この曲線の上に両ターボ圧縮機の運転点B1.1又はB2.1がある。
【0029】
第1の制御装置1.2においては、保持すべき距離は、操作者が、より短い、保持すべき距離A1.2を与えることにより、第1の距離A1.1から手動で微調整される。これにより第1のターボ圧縮機1.1の運転点もB1.2に移動し、その吐出体積はΔ(dV/dt)だけ下がる。
【0030】
A1.1からA1.2への微調整は、第1制御装置1.2から第2制御装置2.2に伝達される。第2制御装置2.2においては、総吐出体積dV/dtが略一定になるように、前記微調整A1.1→A1.2に基づいて、保持すべき距離A2.2が、その第1の距離A2.1から微調整される。
【符号の説明】
【0031】
1.1 第1ターボ圧縮機
1.2 第1制御装置
1.3 第1アンロード弁
2.1 第2ターボ圧縮機
2.2 第2制御装置
2.3 第2アンロード弁
A1.1、A2.1 第1の距離
A1.2、A2.2 保持すべき距離
B1.1、B2.1 運転点
B1.2、B2.2 微調整された運転点
dV/dt 総吐出体積
Δp 総圧縮比
P1、P2 第1ポンプ限界曲線、第2ポンプ限界曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれのターボ圧縮機が、それぞれのポンプ限界曲線(P1、P2)までの距離を保持するための一つの制御装置(1.2、2.2)を備える、少なくとも2台のターボ圧縮機(1.1、2.1)の制御方法であって、各ターボ圧縮機について、そのポンプ限界曲線までの第1の距離(A1.1、A2.1)が計算され、また、前記保持すべき距離が、前記制御装置内において前記第1の距離(A1.1、A2.1)から微調整可能である制御方法において、一つの制御装置(2.2)の前記保持すべき距離(A2.2)が、もう一方の制御装置(1.2)の微調整(A1.1→A1.2)に基づいて、総プロセス変量(dV/dt)が略一定になるよう、その第1の距離(A2.1)から微調整されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第1の距離がすべての制御装置について略同一であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記総プロセス変量に、総吐出量、総吐出体積(dV/dt)、総吸引圧力、総最終圧力、及び/又は総圧縮比(Δp)が含まれることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
一つの制御装置の前記保持すべき距離が、その他の制御装置の微調整に基づいて、総プロセス変量が略一定に保たれるように、その第1の距離から微調整される、3台又はそれ以上のターボ圧縮機の制御が行われることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記保持すべき距離が、その他の制御装置の微調整に基づいて、個々の制御装置の微調整の比又は差が、互いの間で又は互い同士で、それら制御装置の所与の微調整の比又は差に、互いの間で又は互い同士で略対応するように、制御装置内においてその第1の距離から微調整されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記制御装置が互いに微調整を伝達し合い、及び、ある一つの制御装置の保持すべき距離が、伝達されたその他の制御装置の微調整に基づいて、その第1の距離から微調整されることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
各ターボ圧縮機のポンプ限界曲線までの距離を保つための制御装置(1.2、2.2)を有する、少なくとも2台のターボ圧縮機(1.1、2.1)の制御システムであって、前記制御装置が、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法を実行するために設定されていることを特徴とするシステム。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか一項に記載の方法を実行するためのプログラムコードを有するコンピュータプログラム製品であって、該プログラムをコンピュータで実行する場合の、コンピュータプログラム製品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−159741(P2010−159741A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283147(P2009−283147)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(501473888)マン ターボ アーゲー (21)
【氏名又は名称原語表記】MAN TURBO AG
【Fターム(参考)】