説明

ターボ過給機

【課題】固定ノズルをタービンンハウジング内に高精度に組み付けることができて、効率低下が抑制されたターボ過給機を提供する。
【解決手段】タービンホイール110の軸線方向において互いに隔壁部30で隔てられた第1及び第2のスクロール室20,21を備えるタービンハウジング10と、複数のノズルベーン51,52で構成されて第1及び第2のスクロール室20,21内のガスをタービンホイールに導く第1及び第2のノズルと、第1及び第2のノズルが形成された円盤状の中間プレート53とを有しタービンハウジング10内に配置される固定ノズル50とを備え、タービンハウジング10の隔壁部30は、その内周に固定ノズル50と係合してその軸線方向の位置決めをするための段差部31が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等に適用されるターボ過給機に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるツインスクロール型のターボ過給機は、例えば、特許文献1等に開示されているように、エンジンの排気ガスが供給されるタービンスクロールの内部がタービンの軸線方向において隔壁により2つに隔てられており、これら隔てられた2つのスクロール室のそれぞれに対してノズルが設けられる。そして、エンジンの低速運転時には、各スクロール室へガスを導く導入部の面積を制御バルブで変更して一方のスクロール室のみを使用して過給圧力を高め、エンジンの高速運転時には制御バルブを開いて両方のスクロール室を使用することにより過給圧力を抑制している。
ここで、ツインスクロール型のタービンハウジングの一例を図10に示すと、
このタービンハウジング300は、隔壁部330により2つのスクロール室310と320とが区画されるが、このようなタービンハウジングは、鋳造により製造され、スクロール室310,320は、中子により形成される。
そして、タービンハウジング300内に配置されるノズルは、例えば、円盤状のプレートの両面にそれぞれ複数のノズルベーンにより形成されたノズルをもつ固定ノズルが用いられる。この固定ノズルは、スクロール室310,320をそれぞれ流れるガスをタービンホイールに導く。
【特許文献1】特開2006−37818号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、固定ノズル及びそのタービンハウジングへの組み付けは、高い寸法精度が要求される。組み付け精度が低いと、タービンンハウジング300内を流れる流体(ガス)の流れが乱れるなどしてタービンの効率の低下を招くからである。
しかしながら、タービンンハウジングは、鋳造により製造されるので、寸法精度がそれほど高くない。特に、2つのスクロール室310,320を隔てる隔壁部330の厚さAは、例えば、3mmの厚みで±0.8mm程度の公差ΔAが必要とされる。このため、隔壁部330を基準に固定ノズルを組み付けたのでは、十分な組み付け精度が得られず、ターボ過給機の効率が低下するという問題があった。
【0004】
本発明は、上記の事情に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、固定ノズルをタービンンハウジング内に高精度に組み付けることができて、効率低下が抑制されたターボ過給機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るターボ過給機は、タービンホイールの軸線方向において互いに隔壁部で隔てられた第1及び第2のスクロール室を備えるタービンハウジングと、複数のノズルベーンで構成されて第1及び第2のスクロール室内のガスをそれぞれタービンホイールに導く第1及び第2のノズルと、当該第1及び第2のノズルが両面にそれぞれ形成された円盤状の中間プレートとを有し、タービンハウジング内に配置される固定ノズルと、を備え、タービンハウジングの隔壁部には、その内周に固定ノズルと係合して軸線方向の位置決めをするための段差部が形成されていることを特徴としている。
この構成によれば、タービンハウジングの隔壁部に固定ノズルと係合して軸線方向の位置決めをするための段差部を形成することにより、タービンハウジングに固定ノズルを高精度に組み付けることができる。
【0006】
上記構成において、固定ノズルは、中間プレートの外周に、隔壁部に形成された段差部に嵌合する段差部が形成されている、構成を採用できる。
これによれば、固定ノズルの軸線方向の位置決め及び軸線に対する芯出しの双方を精度良く行うことができる。
【0007】
上記構成において、タービンハウジングは、固定ノズルの一方のノズルの先端部と対向する対向面に、当該先端部との干渉を防ぐための逃げ溝が形成されている、構成を採用できる。また、この逃げ溝は、タービンハウジングの隔壁部の段差部に形成された基準面を基準として加工されている、構成を採用できる。
この構成によれば、隔壁部の段差部を基準として逃げ溝を加工すれば、固定ノズルの一方のノズルの先端部が対向面に適切に突き合わさるので、高い組み付け精度が得られる。
【0008】
上記構成において、固定ノズルは、タービンハウジングとこれに固定される遮熱機能を有するシュラウドプレートとの間に挟持されている、構成を採用できる。また、上記構成において、タービンハウジングのシュラウドプレートと当接する当接面は、タービンハウジングの隔壁部の段差部に形成された基準面を基準として加工されている、構成を採用できる。
この構成によれば、遮熱機能を有するシュラウドプレートを用いて固定ノズルを固定することにより、構造を簡素化できると共に、タービンハウジングのシュラウドプレートと当接する当接面を隔壁部の段差部に形成された基準面を基準として加工することで、高い組み付け精度が得られる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、固定ノズルをタービンンハウジング内に高精度に組み付けることができて、効率低下が抑制されたターボ過給機が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の最良の実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
図1ないし図6は本発明に係るターボ過給機の一実施形態を示す図であって、図1は本発明の一実施形態に係るターボ過給機の要部の構成を示す図、図2はタービンハウジングの断面図、図3は固定ノズルの斜視図、図4は固定ノズルの側面図、図5はシュラウドプレートの斜視図、及び図6シュラウドプレートの軸線方向に沿った断面図である。
【0011】
このターボ過給機は、例えば、エンジンの過給に適用されるものであって、図1に示すように、タービンハウジング10、タービンブレード100が形成されたタービンホイール110、一端がタービンホイール110と連結されて他端に図示しないコンプレッサが連結される回転軸120、タービンハウジング10内に配置される固定ノズル50、タービンハウジング10に図示しないボルトにより固定された遮熱機能を有するシュラウドプレート70等から構成されている。
【0012】
タービンハウジング10は、図1及び図2に示すように、タービンホイール100の軸線方向において互いに環状の隔壁部30で隔てられた第1及び第2のスクロール室20,21を備え、ガス通路15,16から導入された排気ガスが第1及び第2のスクロール室20,21へ導かれるようになっている。尚、ガス通路16には、図1に示すように、制御バルブ35が設けられており、この制御バルブ35により通路面積を調整可能になっている。
タービンハウジング10は、鋳鉄等の金属材料により鋳造され、隔壁部30で隔てられた第1及び第2のスクロール室20,21等の内部空間は中子により形成される。
【0013】
また、タービンハウジング10は、図2に示すように、隔壁部30の内周に形成された後述する固定ノズル50の軸線方向の位置決め用の段差部31、第1のスクロール室20の側壁を形成していると共に後述する固定ノズル50のノズルベーン51の先端部51aが対向する(突き合わさる)対向面に形成された環状の逃げ溝40、後述するシュラウドプレート70と当接してシュラウドプレート70の軸線方向において位置決めする環状の当接面45等を備えている。
【0014】

段差部31は、隔壁部30の一端面からの軸線方向の距離(深さ)が所定値となるようにその基準面31aが機械加工されており、この基準面31aが後述する固定ノズル50の環状の当接面55aと当接して固定ノズル50の軸線方向の位置決めをする。また、段差部31の円筒状の内周面31bも機械加工されており、この内周面31bには、後述する固定ノズル50の円筒状の外周面55bが嵌合する。これにより、タービンハウジング10に対する固定ノズル50の軸線の芯出しが行われる。
【0015】
逃げ溝40は、段差部31の基準面31aからの軸線方向の距離が所定値となるように機械加工される。具体的には、逃げ溝40は、段差部31に位置決めされる後述する固定ノズル50のノズルベーン51の先端部51aが突き合わさる(当接する)深さとなるように機械加工されている。
当接面45は、後述する固定ノズル50のベース56の後端面56aと略面一となる、すなわち、基準面31aからの軸線方向の距離が所定値となるように機械加工されている。これにより、当接面45に後述するシュラウドプレート70の環状の当接面が当接すると、シュラウドプレート70が軸線方向において位置決めされて後述する固定ノズル50のベース56の後端面56aと突き合わさる。
【0016】
固定ノズル50は、図3及び図4に示すように、第1のスクロール室20の内周側に配置されるノズルを構成する複数のノズルベーン51、ノズルベーン51がその一端面に一体的に形成された環状の中間プレート53、中間プレート53の他端面に形成された第2のスクロール室21の内周側に配置されるノズルを構成する複数のノズルベーン52、ノズルベーン52の基部が一体的に形成された環状のベース56等から構成され、この固定ノズルは、機械加工により精密に加工されている。
中間プレート53の外周部には、段差部55が加工されており、この段差部55は、隔壁部30に形成された段差部31の基準面31aと当接する環状の当接面55aと、段差部31の内周面31bに嵌合する円筒状の外周面55bを備える。
【0017】
シュラウドプレート70は、図5及び図6に示すように、環状の外形を有しており、図1に示した回転軸120が貫通する貫通孔72を備えており、タービンハウジング10に図示しないボルトにより固定されて固定ノズル50をハウジング10と協働して保持(挟持)すると共に、タービンハウジング10から図示しないコンプレッサ側へ向かう熱の放出を遮断する遮熱機能を有する。
このシュラウドプレート70は、タービンハウジング10に形成された当接面45に当接する軸線に対して垂直な環状の当接面71を備えており、この当接面71は機械加工されており、当接面45に当接することで軸線方向において位置決めされ、固定ノズル50のベース56の後端面56aと略当接するようになっている。
【0018】
ここで、図7ないし図9は、タービンハウジング10に固定ノズル50及びシュラウドプレート70を組み付けた状態を示す断面図であって、図7はタービンハウジング10の隔壁部30の寸法が設計値Aと等しい場合、図8は隔壁部30の寸法が公差ΔAだけ薄い場合、及び図9は隔壁部30の寸法が公差ΔAだけ厚い場合をそれぞれ示している。
【0019】
図7に示すように、鋳造したタービンハウジング10の隔壁部30の寸法が設計値Aと等しい場合には、ハウジング10には逃げ溝40が基準面31aから所定距離L1(固定ノズル50の当接面55aからノズルベーン51の先端部までの距離)の位置に加工され、固定ノズル50のノズルベーン51の先端部はこの逃げ溝40に略当接する。
また、タービンハウジング10の当接面45は、基準面31aから所定距離L2(固定ノズル50の当接面55aからベース56の後端面56aまでの距離)の位置、すなわち、基準面31aから固定ノズル50のベース56の後端面56aまでの距離の位置に加工される。これにより、シュラウドプレート70の当接面71が適切な位置に位置決めされて、当接面71と固定ノズル50のベース56の後端面56aとは略当接した状態となる。これにより、固定ノズル50は、タービンハウジング10内に精度良く組み付けられる。
【0020】
また、図8に示すように、鋳造したタービンハウジング10の隔壁部30の寸法が公差ΔAだけ薄い場合には、図7に示した場合よりもさらに逃げ溝40の深さが深くなる。隔壁部30の寸法がさらに小さくなると、基準面31aから当接面45までの距離が所定距離L2よりも長くなってしまうので、この場合には、鋳造したタービンハウジング10は不良品である。また、図9に示すように、鋳造したタービンハウジング10の隔壁部30の寸法が公差ΔAだけ厚い場合には、逃げ溝40が形成されない。この場合には、隔壁部30の寸法が厚すぎるので、タービンハウジング10は不良品である。
すなわち、隔壁部30の寸法がばらついても、設計値A+公差ΔA〜設計値A−公差ΔAの間にあれば、隔壁部30の寸法に応じた深さの適切な逃げ溝40を機械加工できて、タービンハウジング10に固定ノズル50を精度良く組み付けることができる。
【0021】
以上のように、本実施形態によれば、鋳造により製造されるタービンハウジング10の隔壁部30の寸法精度が所定の公差内に収まっていれば、隔壁部30の寸法にばらつきがあっても固定ノズル50をタービンハウジング10に精度良く組み付けることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係るターボ過給機の要部の構成を示す図であって、一部に破断断面を含む外観斜視図である。
【図2】タービンハウジングの断面図である。
【図3】固定ノズルの斜視図である。
【図4】固定ノズルの側面図である。
【図5】シュラウドプレートの斜視図である。
【図6】シュラウドプレートの軸線方向に沿った断面図である。
【図7】タービンハウジング、固定ノズル及びシュラウドプレートの位置関係の一例を示す断面図である。
【図8】タービンハウジング、固定ノズル及びシュラウドプレートの位置関係の他の例を示す断面図である。
【図9】タービンハウジング、固定ノズル及びシュラウドプレートの位置関係のさらに他の例を示す断面図である。
【図10】タービンハウジングを鋳造した際に発生する隔壁部の寸法誤差の問題を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0023】
10…タービンハウジング
15,16…ガス通路
20…第1のスクロール室
21…第2のスクロール室
30…隔壁部
31…段差部
31a…基準面
31b…内周面
35…制御バルブ
40…逃げ溝
45…当接面
50…固定ノズル
51…ノズルベーン
51a…先端部
52…ノズルベーン
53…中間プレート
55…段差部
55a…当接面
55b…外周面
56…ベース
56a…後端面
70…シュラウドプレート
71…当接面
72…貫通孔
100…タービンブレード
110…タービンホイール
120…回転軸
A…設計値
ΔA…公差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンホイールの軸線方向において互いに隔壁部で隔てられた第1及び第2のスクロール室を備えるタービンハウジングと、
複数のノズルベーンで構成されて前記第1及び第2のスクロール室内のガスをそれぞれ前記タービンホイールに導く第1及び第2のノズルと、当該第1及び第2のノズルが両面にそれぞれ形成された円盤状の中間プレートとを有し、前記タービンハウジング内に配置される固定ノズルと、を備え、
前記タービンハウジングの隔壁部は、その内周に前記固定ノズルと係合して軸線方向の位置決めをするための段差部が形成されていることを特徴とするターボ過給機。
【請求項2】
前記固定ノズルは、前記中間プレートの外周に、前記隔壁部に形成された段差部に嵌合する段差部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のターボ過給機。
【請求項3】
前記タービンハウジングは、前記固定ノズルの一方のノズルの先端部と対向する対向面に、当該先端部との干渉を防ぐための逃げ溝が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のターボ過給機。
【請求項4】
前記逃げ溝は、前記タービンハウジングの隔壁部の段差部に形成された基準面を基準として加工されていることを特徴とする請求項3に記載のターボ過給機。
【請求項5】
前記固定ノズルは、前記タービンハウジングとこれに固定される遮熱機能を有するシュラウドプレートとの間に挟持されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のターボ過給機。
【請求項6】
前記タービンハウジングの前記シュラウドプレートと当接する当接面は、前記タービンハウジングの隔壁部の段差部に形成された基準面を基準として加工されていることを特徴とする請求項5に記載のターボ過給機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−8173(P2008−8173A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−177998(P2006−177998)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】