説明

ダイヘッド

【課題】 ダイヘッドの分解や組み立てを容易に行なうことができ、更に、スリットギャップのギャップ寸法のばらつきを小さく抑制して組み立てることができると共に組立再現性にも優れたダイヘッドを提供する。
【解決手段】 それぞれがスリットギャップ17を形成するためのギャップ壁面と互いに突き合わせて組み立てるための合わせ面を備えた第一ダイブロック12及び第二ダイブロック13を、永磁チャック14に形成している平坦な吸着面14a上に乗せ、その位置で第一ダイブロックと第二ダイブロックを、互いの合わせ面を突き合わせた状態として、永磁チャック14の吸着スイッチ25をオンとし、永磁チャックに第一ダイブロックと第二ダイブロックを吸着保持させ、一体化する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラーフィルタ製造工程、有機EL素子製造工程、燃料電池製造工程、フォトマスク製造工程、包装材製造工程などにおいて、ウェブや板材などの被塗工物に対して塗工液を塗布するために用いるダイヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、走行中のウェブ(被塗工物)にダイヘッドを対向、配置し、該ダイヘッドから塗工液を膜状に吐出して塗布する塗工装置、及び、定盤等の支持台上に載置された板材又はシート(被塗工物)にダイヘッドを対向、配置し、そのダイヘッドから塗工液を膜状に吐出しながら板材又はシートに対して相対的に移動させ、塗布する塗工装置が知られている。図7、図8に示すように、この種の塗工装置に用いるダイヘッド1は、第一ダイブロック2と第二ダイブロック3を備えており、その第一ダイブロック2と第二ダイブロック3はそれぞれ、スリットギャップ4を形成するためのギャップ壁面2a、3aと、互いに突き合わせて組み立てるための合わせ面2b、3bを有し、一方のダイブロック2はマニホールド5を有している。この二つのダイブロック2、3は、その合わせ面を互いに合わせ、塗布幅方向に間隔をあけた複数箇所に配置したボルト6によって両者を締結して一体化され、ギャップ壁面2a、3aの間に塗工液を吐出するためのスリットギャップ4が形成される構成となっている。
【0003】
この構造のダイヘッド1では、各ダイブロック2、3のギャップ壁面2a、3a及び合わせ面2b、3bを高精度に加工しており、ダイブロック2、3を、合わせ面2b、3bを合わせて、各ボルト6を一定トルクで締め付けて組み付けることにより、ギャップ壁面2a、3a間に形成されるスリットギャップ4のギャップ寸法dが所定の値となるようにしている。ところが、実際には全部のボルト6を一定トルクで締結しても、ボルトの状態、長さ、ダイブロック2側に切られた雌ねじのねじ山の状態等により、ダイブロック2、3に与える締付力が変化し、また、ボルト締結によりダイブロック2、3に不均一なたわみが生じることもあり、スリットギャップ4のギャップ寸法dに塗布幅方向のばらつきが生じ、均一とすることが困難であった。また、組立の再現性を得ることも困難であった。ギャップ寸法が一定になるように、1本1本のボルトの締結トルクを変化させて調整することは不可能ではないが、この方法の調整の場合、締結トルクが適正トルクよりも極端に大きい、或いは小さいといったことが起きてしまうため、ダイヘッドの品質劣化、液漏れといった不具合を起こす可能性がある。また、広幅ダイヘッドの場合、幅方向に設けられるボルト本数は数十本となり、洗浄などの運用面で負担が大きい。
【0004】
従来より、スリットギャップ寸法のばらつきを補正する手段として、ダイヘッドの塗布幅方向に複数設けられた調整ボルトによりスリットギャップを微調整し均一化を図るものや、塗布幅方向に複数設けられた油圧ユニットに圧力を加えることにより、スリット部をたわませ、スリットギャップの均一化を図るもの(特許第3501159号公報参照)などが知られている。
【0005】
しかし、調整ボルトによるスリットギャップの微調整は、調整量が雄ねじ側のねじ山のピッチに依存してしまうため、ミクロンオーダーでの微調整は困難であり、調整に長時間を要した。油圧ユニットによるスリットギャップの微調整は、短時間且つミクロンオーダーでの調整が可能であるが、スリットギャップを狭める方向にしか調整することができなかった。また、油圧ユニットは、組み直しによる完全な圧力再現性がなく、温度変化にも弱いという欠点があった。
【特許文献1】特許第3501159号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、ダイヘッドの分解や組み立てを容易に行なうことができ、更に、スリットギャップのギャップ寸法のばらつきを小さく抑制して組み立てることができると共に組立再現性にも優れたダイヘッドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するため、それぞれがスリットギャップを形成するためのギャップ壁面と互いに突き合わせて組み立てるための合わせ面を備え、その合わせ面を互いに合わせて組み合わせた時に前記ギャップ壁面の間に塗工液を吐出するためのスリットギャップが形成される構成の第一ダイブロック及び第二ダイブロックの少なくとも一方を永磁チャックに吸着保持させ、第一ダイブロックと第二ダイブロックとを組み合わせた状態に保持する構成としたものである。なお、本明細書において永磁チャックには、着脱操作時のみに通電を要する永電磁チャックも含むものとする。
【0008】
ここで、永磁チャックを用いて第一ダイブロックと第二ダイブロックとを組み合わせた状態に保持する形態としては、永磁チャックに第一ダイブロック及び第二ダイブロックを吸着保持可能な平面状の吸着面を設け、その吸着面に第一ダイブロック及び第二ダイブロックを組み合わせた状態で吸着保持させる構成を挙げることができる。
【0009】
また、永磁チャックを用いて第一ダイブロックと第二ダイブロックとを組み合わせた状態に保持する他の形態としては、永磁チャックに前記第一ダイブロック及び第二ダイブロックの一方を吸着保持するための吸着面を設けておき、その永磁チャックを前記第一ダイブロックと第二ダイブロックの一方に固定し、他方を永磁チャックの吸着面に吸着保持させる構成を挙げることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のダイヘッドは、永磁チャックの吸着面に第一ダイブロックと第二ダイブロックの一方又は双方を吸着保持させることで、第一ダイブロックと第二ダイブロックの合わせ面を互いに突き合わせた状態に保持する構成としているので、第一ダイブロックと第二ダイブロックには、ボルトで締結した場合のように余計なたわみが生じることがなく、第一ダイブロックと第二ダイブロックとを加工精度そのままの精度で組み立てことができ、第一ダイブロックと第二ダイブロックとの間に形成されるスリットギャップのギャップ寸法を、所定の値とすることができると共に塗布幅方向のばらつきを、ボルトで締結する場合よりも小さくすることができる。また、組み立て毎に同じ精度で組み立てることができるため再現性に優れる。かくして、本発明のダイヘッドを用いることで、常に高品質で安定した塗布を行うことができる。また、組み立てや分解は、単に永磁チャックの吸着スイッチのオン・オフで行うことができるので、極めて簡単であり、作業負担を大幅に軽減できると共に作業時間も大幅に短縮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は本発明の好適な実施の形態に係るダイヘッドを、端板を分解した状態で示す概略斜視図、図2はそのダイヘッドに用いている永磁チャックの一部の概略斜視図、図3はそのダイヘッドの分解斜視図、図4は端板を除去した状態で示すダイヘッドの概略端面図である。全体を参照符号11で示すダイヘッドは、第一ダイブロック12及び第二ダイブロック13と、その第一ダイブロック12及び第二ダイブロック13を吸着保持する永磁チャック14と、両端に配置する端板15、15を備えている。
【0012】
第一ダイブロック12及び第二ダイブロック13はそれぞれ、スリットギャップ17を形成するためのギャップ壁面12a、13aと、互いに突き合わせて組み立てるための合わせ面12b、13bと、永磁チャック14の吸着面14aに着座して吸着保持されるための被吸着面12c、12cを備えており、更に一方のダイブロック12はマニホールド18を備えている。第二ダイブロック13に形成されているギャップ壁面13aと合わせ面13bは同一面上に位置しているが、第一ダイブロック12に形成されているギャップ壁面12aと合わせ面12bは、その合わせ面12bを第二ダイブロック13の合わせ面13bに合わせて組み立てた時に、ギャップ壁面12aとギャップ壁面13aとの間に所定のギャップ寸法dのスリットギャップ17が形成されるように、段差が付けられている。第一ダイブロック12及び第二ダイブロック13の被吸着面12c、13cは、永磁チャック14で良好に吸着されるよう平滑な面に仕上げられている。更に、第一ダイブロック12及び第二ダイブロック13のギャップ壁面12a、13a、合わせ面12b、13b及び被吸着面12c、13cはそれぞれ、高精度の平面度を確保できるよう高精度に機械加工されており、これにより、第一ダイブロック12と第二ダイブロック13を、高精度の平面度を持った平坦面上(例えば、永磁チャック14の吸着面14a上)に、被吸着面12c、13cを接触させる形態で乗せ、互いの合わせ面12b、13bを突き合わせることで、所定ギャップ寸法dの且つ塗布幅方向にばらつきの小さいスリットギャップ17を形成することができる。第一ダイブロック12及び第二ダイブロック13は、永磁チャック14による磁力で吸着される材料、例えば、マルテンサイト系ステンレス鋼(SUS403、SUS410等)やオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304等)で作られている。
【0013】
永磁チャック14は、永久磁石による磁力によって対象物を吸着保持するものであり、マグネット及び鉄心を内蔵した本体21と、吸着面14aを形成している面板22、セパレータ23、磁極24と、往復回転させることで、着脱操作のために磁力をオン・オフさせる吸着スイッチ25等を備えている。吸着面14aは、第一ダイブロック12と第二ダイブロック13を良好に吸着保持することができるよう、また、両者を高精度で所定位置に保持できるよう、平滑で且つ高精度の平坦面となるように加工されており、且つ第一ダイブロック12と第二ダイブロック13の被吸着面12c、13cの全面を支持することができる大きさに作られている。更に、永磁チャック14の吸着面14aにあるセパレータ23は、ダイヘッドの塗布幅方向に対して直交する方向に配置されており、これによって第一ブロック12及び第二ダイブロック13に対する接触量が増し良好な吸着力が得られ、また、塗布幅方向における吸着力を均一にできる。磁極24のピッチは、極力小さくすることが、吸着力を増し且つ吸着力を塗布幅方向に均一にできるので、好ましい。
【0014】
第一ダイブロック12、第二ダイブロック13及び永磁チャック14の端面には、端板15を固定するためのねじ穴26が形成されており、端板15にはボルト穴27が形成されている。
【0015】
次に、上記構成になるダイヘッド11の組み立て方法を説明する。石定盤(図示せず)上に永磁チャック14を置き、その永磁チャック14の吸着面14a上に第一ダイブロック12と第二ダイブロック13を向かい合わせて置き、図1(a)に示すように、両者の合わせ面12bと13bをぴったりと突き合わせた状態とする。これにより、第一ダイブロック12と第二ダイブロック13のギャップ壁面12a、13aの間に所定ギャップ寸法dの且つ塗布幅方向にばらつきの小さいスリットギャップ17が形成される。次に、その状態で永磁チャック14の吸着スイッチ25を、専用工具(図示せず)を用いてオン位置に回転させる。これにより、第一ダイブロック12及び第二ダイブロック13が永磁チャック14に磁力によって吸着保持され、第一ダイブロック12と第二ダイブロック13は互いの合わせ面12b、13bを突き合わせた状態で固定されることとなる。その後、両端に端板15をボルトを用いて固定することで組み立て完了である。
【0016】
以上のようにして組み立てられたダイヘッド11は、第一ダイブロック12と第二ダイブロック13が互いの合わせ面12b、13bを突き合わせた状態で永磁チャック14の吸着面14aに吸着保持されているため、第一ダイブロック12と第二ダイブロック13には、従来のように、多数のボルトで締結した場合に生じたようなひずみが生じておらず、このため、第一ダイブロック12と第二ダイブロック13との間に形成されるスリットギャップ17のギャップ寸法dは、加工精度そのままの精度となっており、ギャップ寸法dを塗布幅方向にきわめて均一とすることができる。また、組み立て毎に同じ精度が得られ、組み立て再現性に優れている。更に、永磁チャック14は、永久磁石による磁力を利用して吸着を行うものであるので、使用中に熱の発生や熱による精度変化は起こらない。かくして、このダイヘッド11を用いて塗布を行うことで、高精度の且つ安定した塗布を行うことができる。
【0017】
なお、図1〜図4に示す実施の形態では、永磁チャック14の吸着面14aを、第一ダイブロック12及び第二ダイブロック13の被吸着面12c、13cに等しい大きさとしているが、吸着保持に支障の無い範囲で増減可能であり、若干大きい面積のものを用いることが好ましい。すなわち、永磁チャック14の吸着面14aの吸着力は、周縁領域で低下する傾向があるので、長さ及び/又は幅が数mm〜数十mm大きい吸着面14aを備えた永磁チャック14を用いることで、第一ダイブロック12及び第二ダイブロック13の被吸着面12c、13c全面に、より均一な吸着力を作用させることができ、組み立て精度を高めることができる利点が得られる。
【0018】
更に、上記実施の形態では、永磁チャック14の吸着面14aに、第一ダイブロック12と第二ダイブロック13の両方を吸着保持させる構成としたが、本発明はこれに限らず、永磁チャックを第一ダイブロック12と第二ダイブロック13の一方に予めボルト、接着剤等の適当な固定手段で固定しておき、他方のみを永磁チャックに吸着保持させる構成としてもよい。図5、図6はその場合の実施の形態を示すものである。この実施の形態に係るダイヘッド11Aも、第一ダイブロック12A、第二ダイブロック13A、永磁チャック14Aを備えているが、ここで用いている永磁チャック14Aは第二ダイブロック13Aのみを吸着保持しうる吸着面14Aaを備えたものである。また、第一ダイブロック12Aはその断面形状が、第二ダイブロック13Aよりも長くなるようにしており、その下端領域に永磁チャック14Aをボルト、接着剤等の固定手段(図示せず)で固定可能としている。この構成のダイヘッド11Aの組み立てに当たっては、あらかじめ永磁チャック14Aを第一ダイブロック12Aに固定しておき、その状態で、永磁チャック14Aの吸着面14Aa上に第二ダイブロック13Aを置き、第一ダイブロック12Aと第二ダイブロック13Aの合わせ面12bと13bをぴったりと突き合わせ、永磁チャック14Aの吸着スイッチ25をオン位置に回すことで、第一ダイブロック12Aと第二ダイブロック13Aを組み立てることができる。この場合も、第二ダイブロック13Aを永磁チャック14Aで吸着保持することで、第二ダイブロック13Aを第一ダイブロック12Aに対する一定位置に固定することができ、このため、組み立て毎に再現性よく、且つ加工精度に応じた精度で組み立てることができ、所定のギャップ寸法dで且つ塗布幅方向にばらつきの小さいスリットギャップ17を形成できる。
【0019】
なお、以上の実施の形態では、永磁チャック14、14Aとして吸着スイッチ25を機械的に回転させることでオン・オフ動作を行う構成のものを用いているが、本発明はこれに限らず、通電することでオン・オフ動作を行う構成の永電磁チャックを用いても良い。永電磁チャックは、オン・オフ時には通電を必要とするが、吸着保持中は永久磁石による磁力を用いているため、使用中、熱の発生や熱による精度変化は起こらない。このため、永電磁チャックを用いたダイヘッドでも、安定して高品質での塗布を行うことができる。
【0020】
上記した実施の形態は本発明の説明用のものであって、本発明を限定するものではなく、本発明は特許請求の範囲の記載範囲内で種々変更可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の好適な実施の形態に係るダイヘッドを、端板を分解した状態で示す概略斜視図
【図2】図1に示すダイヘッドに用いている永磁チャックの概略斜視図
【図3】図1に示すダイヘッドの分解斜視図
【図4】図1に示すダイヘッドを、端板を外した状態で示す概略端面図
【図5】本発明の他の実施の形態に係るダイヘッドを、端板を外した状態で示す概略端面図
【図6】図5に示すダイヘッドを分解して示す概略端面図
【図7】従来のダイヘッドの概略断面図
【図8】従来のダイヘッドの概略分解斜視図
【符号の説明】
【0022】
11 ダイヘッド
12、12A 第一ダイブロック
13、13A 第二ダイブロック
12a、13a ギャップ壁面
12b、13b 合わせ面
12c、13c 被吸着面
14、14A 永磁チャック
14a、14Aa 吸着面
15 端板
21 本体
22 面板
23 セパレータ
24 磁極
25 吸着スイッチ
26 ねじ穴
27 ボルト穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれがスリットギャップを形成するためのギャップ壁面と互いに突き合わせて組み立てるための合わせ面を備え、その合わせ面を互いに合わせて組み合わせた時に前記ギャップ壁面の間に塗工液を吐出するためのスリットギャップが形成される構成の第一ダイブロック及び第二ダイブロックと、前記第一ダイブロック及び第二ダイブロックを互いに組み合わせた状態に保持するよう、少なくとも一方を吸着保持する永磁チャックとを備えたことを特徴とするダイヘッド。
【請求項2】
前記永磁チャックが、前記第一ダイブロック及び第二ダイブロックを吸着保持する平面状の吸着面を備えていることを特徴とする請求項1記載のダイヘッド。
【請求項3】
前記永磁チャックが、前記第一ダイブロック及び第二ダイブロックの一方に固定して設けられており、他方を吸着保持する吸着面を備えていることを特徴とする請求項1記載のダイヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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