説明

ダイヤモンド薄膜を被覆した炭素材料及びその製造方法

【課題】本発明は、水素ラジカルによってエッチングの影響を受けにくい状態でダイヤモンド粒を炭素質基材上に添着させることで、基材エッチング速度を抑制し密着性に優れたダイヤモンド薄膜を備えた炭素材料及びその製造方法を提供することを目的としている。
【解決手段】ダイヤモンド合成条件下において重量減少が見られる炭素質基材の表面にダイヤモンド粒が配置され、更に、このダイヤモンド粒を核とするダイヤモンド層が形成された炭素材料であって、上記ダイヤモンド粒の単位面積当たりの重量が、1.0×10−4g/cm以上3.0×10−3g/cm未満に規制されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素質基材上ヘダイヤモンド薄膜を合成した炭素材料及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドはその強度、熱伝導率、耐薬品性等において有意義な特性を有し、それらの物性を発揮した工業材料を主とした応用展開へのポテンシャルが非常に高い材料である。CVDダイヤモンドはその成膜手法の発見より久しく、既に工業用途として主に切削、研削加工用を始めとして、(電子回路部品の)放熱基板や(過酷環境で働く)センサー、光学窓材、(素粒子物理学実験の)検出器、スピーカーの振動板など多岐にわたる分野で活躍しており、今後さらに用途は拡大することが期待されている。
【0003】
工業用途におけるダイヤモンドの作製手法としては、高圧合成法と気相合成法とに大別できる。前者は、ダイヤモンドの原料となる炭素源として例えば黒鉛に対して高温高圧を与えることにより、黒鉛からダイヤモンドヘと転化する、自然界におけるダイヤモンドの生成を模した手法であり、後者はダイヤモンドの構成元素である炭素由来の原料をガス状態にし、電磁波若しくは発熱体を介した励起、分解を始めとする化学反応を経て、基板上にダイヤモンドとして再構築する手法である。
【0004】
上記気相合成法における代表的な手法としては、プラズマCVD(Plasma−a ssisted Chemical Vapor Deposition)法、および熱フィラメントCVD(HFCVD:Hot Filament Chemical Vapor Deposition)法、並びに燃焼炎(Chamber flame)法が挙げられる。これら手法の相違点は、気相空間での分子の分解・励起手段として、プラズマ中での電子、イオン、ラジカル種、または発熱体、もしくは熱エネルギーによるものである点、即ち、エネルギーの与え方が異なる点にある。
【0005】
上記手法で合成されるダイヤモンドは膜状形態を成し、被覆材の表面形状を転写した形でダイヤモンドが得られる。また、原料となるガス種を選定することにより、ホウ素、リン、窒素などの不純物を膜中に含有(ドーピング)することが可能であり、これらの元素を導入した膜は、電気的に半導体的挙動を示し、含有量の増加に伴いやがて導体へと性質を変える。
【0006】
ここで、各種炭素質基材上にCVDダイヤモンドを成膜する際に、基材とCVDダイヤモンド層との間には熱膨張係数差があり、過度の熱膨張係数差が存在する場合、成膜調製後の温度下降工程で、CVDダイヤモンド層は基材に対して圧縮、若しくは引っ張り方向に対して応力を受けるため、剥離に至ることがある。
【0007】
従来、この問題を解決する手段として、CVDダイヤモンド層と基材との間の付着力を上げる工夫として、基材表面を粗化することにより、ダイヤモンド層に対して機械的なアンカリングを行い保持する手法などが検討されてきた。例えば、CVD法によって基材上にダイヤモンド層を形成する方法として、下記特許文献1に記載のブラスト処理により、基材表面を粗化して発生した凹凸の上にCVD法による膜を形成する方法が行われている。この方法により、凹凸面を転写した形で膜が形成され、接触面積を増やすと同時に基材が膜に対して楔を打つ形で固定(アンカリング)し、膜と基材間の付着力を高める。この方法による処理は、膜と基材との熱膨張係数差による膜の伸縮を原因とした剥離や、クラックの発生の防止を図ることができ、非常に有用な表面処理手法として実践されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−224902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、CVD法における炭素質基材へのダイヤモンド薄膜合成では、原料に水素を用いていることから、ダイヤモンド生成と平行して、活性化した水素ラジカルによるエッチングが基材表面で起きる。この現象により、基材表面がエッチングされるだけでなく煤が発生するため、炭素質基材とダイヤモンド薄膜との密着性が低下して、やはり剥離が生じるという課題を有していた。
【0010】
そこで、本発明は、水素ラジカルによってエッチングの影響を受け難いダイヤモンド粒を炭素質基材上に添着させることで、基材エッチング速度を抑制し密着性に優れたダイヤモンド薄膜を備えた炭素材料及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明は、炭素質基材の表面にダイヤモンド粒が配置され、更に、このダイヤモンド粒を核とするダイヤモンド層が形成された炭素材料であって、上記ダイヤモンド粒の単位面積当たりの重量が、1.0×10−4g/cm以上3.0×10−3g/cm未満に規制されることを特徴とする。
【0012】
ダイヤモンド粒は水素ラジカルによるエッチングの影響を受け難いので、このダイヤモンド粒が炭素質基材上に配置された状態でダイヤモンド粒を核とするダイヤモンド層を形成すれば、炭素質基材のエッチング速度が抑制され、これによって、炭素質基材の表面に密着性に優れたダイヤモンド層が形成されることになる。
尚、ダイヤモンド粒の単位面積当たりの重量を上記範囲に規制するのは、当該重量が1.0×10−4g/cm未満であると、ダイヤモンド粒の量が少な過ぎて、炭素質基材の表面にダイヤモンド粒を配置した効果が十分に発揮されない一方、当該重量が3.0×10−3g/cm以上になると、ダイヤモンド薄膜と炭素質基材との密着性が得られなくなり剥離するという不都合を生じるからである。
【0013】
上記ダイヤモンド粒の単位面積当たりの重量が、2.3×10−4g/cm以上に規制されることが望ましい。
このように規制すれば、ダイヤモンド層の形成後に炭素質基材の重量が減少するのを抑制しつつ、ダイヤモンド層が炭素質基材から剥離するのを防止できる。
【0014】
前記ダイヤモンド粒は結晶性を有すると共に、XRDから得られる格子定数が0.36nm以下であって、しかも0.003μm以上10μm以下のクラスター分布を有することが望ましい。
格子定数を0.36nm以下に規制するのは、この値を超えた場合にはダイヤモンドとしての結晶性が悪く水素ラジカルによるエッチングの影響を受けやすいからである。また、クラスター分布を0.003μm以上に規制するのは、0.003μm未満のダイヤモンド粒は気相合成雰囲気下においてガスの流れによりチャンバー中に対流してしまう可能性がある一方、クラスター分布を10μm以下に規制するのは、10μmを超えると炭素質基材に対する付着力が小さくなるからである。
【0015】
上記炭素質基材は、ダイヤモンド合成雰囲気において無垢の場合には−4.0%以下の重量減少がみられることが望ましく、また、上記炭素質基材は、一元系若しくは二元系の原料からなる炭素質であり、X線回折図形において2θ=10〜30°に現れる(002)回折線の形状が非対称であり、且つ、少なくとも2θ=26°付近とこの26°付近よりも低角の回折線の2本の成分図形を有することが望ましい。更に、上記炭素質基材は、上記26°付近よりも低角の回折線から求めた結晶子サイズが2nm以上32nm以下であることが望ましい。
【0016】
前記ダイヤモンド層は、窒素、ホウ素およびリンからなる群から選ばれた少なくとも1つの導電性付与元素を含有し、且つ、当該層の電気抵抗が1×10−3Ω・cm以上に規制されることが望ましい。
電気抵抗が1×10−3Ω・cm未満とするダイヤモンド層を作製するには、原料ガス濃度B(ホウ素)/C(炭素)の比率が10000ppmを超える必要があるが、現在の装置性能から困難であり、また、過剰なドーパントは結晶成長によるダイヤモンド層の形成を著しく阻害する恐れがあるので、上記の如く規制するのが望ましい。尚、このことはホウ素に限らず、窒素、リンでも同様である。
【0017】
本発明炭素材料の製造方法は、ダイヤモンド粒を作製するステップと、単位面積当たりの重量が、1.0×10−4g/cm以上3.0×10−3g/cm未満となるように、炭素質基材の表面にダイヤモンド粒を配置するステップと、気相合成法により、上記ダイヤモンド粒を核とするダイヤモンド層を形成するステップと、を有することを特徴とする。
このような方法により、上記炭素材料を作製することができる。
ここで、高圧合成法によるダイヤモンドの合成においては、核となるダイヤモンドは必要ではないが、大きな形状のダイヤモンドの合成は難しく、数mmが最大である。一方、気相合成法によるダイヤモンドの合成においては、大きな形状の基材上にダイヤモンドの合成を行うことは可能であるが、成膜速度と製造コストの観点から、核となるダイヤモンドが必要となる。こうして得られたダイヤモンド薄膜を粉砕することでダイヤモンド粒を作製することも可能である。したがって、上記構成の如く、ダイヤモンド粒を作製し、これを炭素質基材の表面に配置した後、気相合成法によりダイヤモンド層を形成することにより、炭素質基材とダイヤモンド層との密着性を維持しつつ、広範囲にダイヤモンドを円滑に作製できる。尚、ダイヤモンド粒における単位面積当たりの重量を、1.0×10−4g/cm以上3.0×10−3g/cm未満に規制するのは、上述した理由によるものである。
【0018】
また、上記炭素質基材の表面にダイヤモンド粒を形成するステップにおいて、ダイヤモンド粒の配置はダイヤモンド粒を分散した溶液を用いて超音波による添着(超音波法)もしくはスプレー法によって行われるが、スプレー法により行われることがより望ましい。
ダイヤモンド粒を分散させる溶液としては、エタノール、ブタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、アセトニトリル、水、純粋、ポリビニルアルコール溶液などを用いて分散させることができるが、低温で溶媒が除去可能であってダイヤモンド粒が比較的分散するエタノールを用いるのが好ましい。
当該方法によれば、炭素質基材の表面にダイヤモンド粒の層を簡単に形成することができ、しかも、炭素質基材とダイヤモンド粒とダイヤモンド薄膜との接着性が良好に保たれるからである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、水素ラジカルによってエッチングの影響を受けにくい状態でダイヤモンド粒を炭素質基材上に添着させることで、基材エッチング速度を抑制し密着性に優れたダイヤモンド薄膜を備えた炭素質基材及びその製造方法を提供することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】炭素質基材の26°付近よりも低角の回折線から求めた結晶子サイズに対するダイヤモンド合成条件における重量減少率の関係を示すグラフである。
【図2】ダイヤモンド粒における単位面積当たりの重量とダイヤモンド薄膜形成前後の基板重量変化量との関係を示すグラフである。
【図3】ダイヤモンド薄膜形成時に於ける炭素原料ガスに対するホウ素原料ガスの仕込み量と形成されたダイヤモンド薄膜の電気抵抗との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
先ず、高圧合成法によってダイヤモンド粒(平均二次粒子径:1μm)を作製した後、このダイヤモンド粒が1.0wt%の割合で分散されたエタノール溶液を作製し、超音波法を用いて炭素質基材にダイヤモンド粒を添着させた。その際の基材表面のダイヤモンド粒(ダイヤモンド種結晶)の単位面積当たりの重量は2.3×10−4g/cmであった。
【0022】
次に、熱フィラメントCVD法を用い、下記に示す条件で、上記ダイヤモンド粒を核とするダイヤモンド層を形成した。
【0023】
フィラメント種:タングステン
フィラメント温度:2400℃
原料ガス:水素ガス、メタンガス、トリメチルボロンガス(尚、B〔ホウ素〕/C〔炭素〕=1000ppmの比率となるように、メタンガス、トリメチルボロンガスとで導入)
炉内圧力:50Torr
処理時間:11時間
【0024】
得られたダイヤモンド薄膜(ダイヤモンド層)について、Raman分光分析を行ったところ、1333cm−1にダイヤモンドに起因するピークが観察された。また、得られたダイヤモンド薄膜について、SEM観察を行ったところ、基材表面がダイヤモンド薄膜で覆われていること、及び、粒径約1μmの自形を有するダイヤモンド粒から成る多結晶膜であるということが確認された。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明は下記実施例の内容によって制限されるものではない。
〔下記実施例及び比較例で用いる炭素質基材について〕
下記表1は、下記実施例及び比較例で用いる炭素質基材の結晶子サイズを示したものである。炭素質基材I〜Vは、一元系若しくは二元系の炭素質原料からなり、X線回折図形において2θ=10〜30°に現れる(002)回折線の形状が非対称であり、少なくとも2θ=26°付近と前記26°付近よりも低角の回折線の2本の成分図形を有する炭素質基材である。
【0026】
【表1】

【0027】
図1は、前記炭素質基材I〜Vの、ダイヤモンド粒を添着させない状態で、前記熱フィラメントCVD法の条件下に暴露した時における重量変化率を示すものである。前記26°付近よりも低角の回折線から求めた結晶子サイズが小さい炭素質基材ほど重量減少変化を示しており、これは反応性の高い結晶子端面(エッジ面)が水素ラジカルと反応しやすく、水素ガスによりエッチングされ易い炭素質基材であることを示している。
【0028】
〔実施例1〕
上記発明を実施するための形態で示した方法により作製した炭素材料を用いた。
このようにして作製した炭素材料を、以下、本発明材料A1と称する。
尚、炭素質基材には、最もエッチングされ易い炭素質基材Iを用いている。
【0029】
〔実施例2〕
エタノール溶液中のダイヤモンド粒の割合を1.0wt%とし、且つ、スプレー法により炭素質基材Iにダイヤモンド粒を添着させた他は、上記実施例1と同様にして炭素材料を作製した。
このようにして作製した炭素材料を、以下、本発明材料A2と称する。
尚、炭素質基材にダイヤモンド粒を添着したとき、基材表面におけるダイヤモンド粒濃度は、5.7×10−4g/cmであった。
【0030】
また、得られたダイヤモンド薄膜について、Raman分光分析を行ったところ、1333cm−1にダイヤモンドに起因するピークが観察された。更に、得られたダイヤモンド薄膜について、SEM観察を行ったところ、基材表面がダイヤモンド薄膜で覆われていること、及び、粒径約1μmの自形を有するダイヤモンド粒から成る多結晶膜であるということが確認された。
【0031】
〔実施例3〕
エタノール溶液中のダイヤモンド粒の割合を2.0wt%とした他は、上記実施例1と同様にして炭素材料を作製した。
このようにして作製した炭素材料を、以下、本発明材料A3と称する。
尚、炭素質基材にダイヤモンド粒を添着したとき、基材表面におけるダイヤモンド粒濃度は、6.0×10−4g/cmであった。
【0032】
〔実施例4〕
エタノール溶液のダイヤモンド粒の割合を0.05wt%とした他は、上記実施例1と同様にして炭素材料を作製した。
このようにして作製した炭素材料を、以下、本発明材料A4と称する。
尚、炭素質基材にダイヤモンド粒を添着したとき、基材表面におけるダイヤモンド粒濃度は、1.1×10−4g/cmであった。
【0033】
〔実施例5〕
エタノール溶液中のダイヤモンド粒の割合を5.0wt%とし、且つ、スプレー法により炭素質基材Vにダイヤモンド粒を添着させた他は、上記実施例1と同様にして炭素材料を作製した。
このようにして作製した炭素材料を、以下、本発明材料B1と称する。
尚、炭素質基材にダイヤモンド粒を添着したとき、基材表面におけるダイヤモンド粒濃度は、2.3×10−4g/cmであった。
【0034】
〔比較例1〕
ダイヤモンド粒を添着しない他は、上記実施例1と同様にして炭素材料を作製した。
このようにして作製した炭素材料を、以下、比較材料Z1と称する。
【0035】
〔比較例2〕
エタノール溶液中のダイヤモンド粒の割合を0.01wt%とした他は、上記実施例1と同様にして炭素材料を作製した。
このようにして作製した炭素材料を、以下、比較材料Z2と称する。
尚、炭素質基材にダイヤモンド粒を添着したとき、基材表面におけるダイヤモンド粒濃度は、1.0×10−5g/cmであった。
【0036】
〔比較例3〕
エタノール溶液のダイヤモンド粒の割合を0.01wt%とした他は、上記実施例1と同様にして炭素材料を作製した。
このようにして作製した炭素材料を、以下、比較材料Z3と称する。
尚、炭素質基材にダイヤモンド粒を添着したとき、基材表面におけるダイヤモンド粒濃度は、2.0×10−5g/cmであった。
【0037】
〔比較例4〕
エタノール溶液のダイヤモンド粒の割合を5.0wt%とした他は、上記実施例1と同様にして炭素材料を作製した。
このようにして作製した炭素材料を、以下、比較材料Z4と称する。
尚、炭素質基材にダイヤモンド粒を添着したとき、基材表面におけるダイヤモンド粒濃度は、3.0×10−3g/cmであった。
【0038】
〔比較例5〕
エタノール溶液のダイヤモンド粒の割合を10.0wt%とした他は、上記実施例1と同様にして炭素材料を作製した。
このようにして作製した炭素材料を、以下、比較材料Z5と称する。
尚、炭素質基材にダイヤモンド粒を添着したとき、基材表面におけるダイヤモンド粒濃度は、6.0×10−3g/cmであった。
【0039】
〔実験1〕
上記本発明材料A1〜A4、B1及び比較材料Z1〜Z5について、ダイヤモンド薄膜の可否及び基材重量変化率について調べたので、それらの結果を、表2及び図2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
表2及び図2から明らかなように、比較材料Z1、Z2、Z3では、ダイヤモンド層は基材との界面で剥離すると共に、ダイヤモンド層の形成前よりも形成後の方が基材重量が減少していることが認められ、また、比較材料Z4、Z5では、ダイヤモンド層の形成前よりも形成後の方が基材重量は増加しているものの、ダイヤモンド層は基材との界面で剥離することが認められる。
これに対して、本発明材料A1、A2、A3では、ダイヤモンド層の形成前よりも形成後の方が基材重量が増加しており、しかも、ダイヤモンド層と基材との界面で剥離していないことが認められる。また、本発明材料A4では、ダイヤモンド層の形成前よりも形成後の方が基材重量が若干減少しているものの、ダイヤモンド層と基材との界面で剥離していないことが認められる。
【0042】
尚、水素ラジカルによるエッチングの影響を最も受けにくい基材Vを用いて作製した本発明材料B1においても、ダイヤモンド層の形成前よりも形成後の方が基材重量が増加しており、しかも、ダイヤモンド層と基材との界面で剥離していないことが認められる。
【0043】
〔実験2〕
上記本発明材料A1を作製する際に、B〔ホウ素〕/C〔炭素〕の比率(以下、B/C比率と称する)を変えてメタンガスとトリメチルボロンガスとを導入し、作製された炭素材料の抵抗を調べたので、その結果を図2に示す。
図3から明らかなように、B/C比率が10000ppmでホウ素量が飽和に近づきつつあるので、それ以上にホウ素を添加しても、極めて大量に添加しない限り抵抗の大幅な減少は望めないことがわかる。加えて、B/C比率が10000ppmであっても、ダイヤモンドの結晶性は若干阻害されるため、これ以上B/C比率が大きくなると、結晶成長によるダイヤモンド層の形成が著しく阻害される恐れがある。したがって、B/C比率が10000ppm以下(抵抗は0.001Ωcm以上)であることが望ましい。
【0044】
〔実験3〕
上記本発明材料A1、A2をフッ素発生用電解電極として用い、その電極性能について調べたので、その結果を以下に示す。
尚、実験は、本発明材料A1、A2を建浴直後のKF−2HF系溶融塩中に陽極として取り付ける一方、ニッケル板を陰極として取り付け、電流密度20A/dmで定電流電解を実施した。
その結果、電解24時間後の槽電圧は5.6Vであった。そして、引き続き電解を継続し、更に24時間経過した後の槽電圧は5.6Vであり、時間経過により槽電圧は変化しないことが認められた。さらに、48時間経過後の陽極発生ガスを分析したところ、発生ガスはFで発生効率は98%であることが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、炭素材料にダイヤモンド若しくは導電性ダイヤモンドの特性を付与したものであり、フッ素発生用電解電極、放電加工のワーク、及び、熱伝導と絶縁とを利用したヒートシンク材などに用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素質基材の表面にダイヤモンド粒が配置され、更に、このダイヤモンド粒を核とするダイヤモンド層が形成された炭素材料であって、
上記ダイヤモンド粒の単位面積当たりの重量が、1.0×10−4g/cm以上3.0×10−3g/cm未満に規制されることを特徴とする炭素材料。
【請求項2】
上記ダイヤモンド粒の単位面積当たりの重量が、2.3×10−4g/cm以上に規制される、請求項1に記載の炭素材料。
【請求項3】
前記ダイヤモンド粒は結晶性を有すると共に、XRDから得られる格子定数が0.36nm以下であって、しかも0.003μm以上10μm以下のクラスター分布を有する、請求項1又は2に記載の炭素材料。
【請求項4】
上記炭素質基材は、ダイヤモンド合成雰囲気において無垢の場合には−4.0%以下の重量減少がみられる、請求項1〜3の何れか1項に記載の炭素材料。
【請求項5】
上記炭素質基材は、一元系若しくは二元系の原料からなる炭素質であり、X線回折図形において2θ=10〜30°に現れる(002)回折線の形状が非対称であり、且つ、少なくとも2θ=26°付近とこの26°付近よりも低角の回折線の2本の成分図形を有する、請求項1〜4の何れか1項に記載の炭素材料。
【請求項6】
上記炭素質基材は、上記26°付近よりも低角の回折線から求めた結晶子サイズが2nm以上32nm以下である、請求項5に記載の炭素材料。
【請求項7】
前記ダイヤモンド層は、窒素、ホウ素およびリンからなる群から選ばれた少なくとも1つの導電性付与元素を含有し、且つ、当該層の電気抵抗が1×10−3Ω・cm以上に規制される、請求項1〜6の何れか1項に記載の炭素材料。
【請求項8】
ダイヤモンド粒を作製するステップと、
単位面積当たりの重量が、1.0×10−4g/cm以上3.0×10−3g/cm未満となるように、炭素質基材の表面にダイヤモンド粒を配置するステップと、
気相合成法により、上記ダイヤモンド粒を核とするダイヤモンド層を形成するステップと、
を有することを特徴とする炭素材料の製造方法。
【請求項9】
上記炭素質基材の表面にダイヤモンド粒を形成するステップにおいて、ダイヤモンド粒の配置はスプレー法により行われる、請求項8記載の炭素材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−222165(P2010−222165A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70037(P2009−70037)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】