説明

ダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給機構

【課題】燃料が受動的に供給されなくなった際に、電力を用いずに適量の燃料を供給するダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給機構を提供する。
【解決手段】燃料タンク2と、発電部3とを備えているとともに、燃料タンク2の燃料流出口10と発電部3の燃料流入口7との間に燃料が流れる第一管路4と、発電部3の燃料流出口8と燃料タンク2の燃料流入口12との間に燃料と燃料を酸化して生じた生成物とが流れる第二管路5とが設けられているダイレクトメタノール型燃料電池1の燃料供給機構14において、燃料タンク2に設けられているとともに、外力を用いて燃料タンク2を加圧することで燃料タンク2の燃料流出口10から発電部3の燃料流入口7に燃料を放出させ、外力を除いて燃料タンク2を減圧することで発電部3の燃料流出口8から燃料タンク2の燃料流入口12に燃料と生成物とを流入させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池の燃料循環のためのものであって、特に燃料タンクから燃料電池スタックに燃料を供給するダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル機器用の電源として、液体燃料であるメタノールやエタノールなどを直接、アノード極(燃料極)に供給して、電気化学反応を生じさせることができるダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)が注目されている。DMFCにはアクティブ型とパッシブ型との2種類あるが、より簡素化と小型化とを目指すために、特に、燃料や空気の供給にポンプやファン等の動力機構を用いないパッシブ型が提案されている。
【0003】
特許文献1の発明は、ポンプを用いずに少なくとも短い時間にわたって燃料を消費する機構もしくは系に燃料を供給することを目的としている。特許文献1の発明は、燃料容器と、燃料容器を燃料室と他方の室とに仕切るダイヤフラムと、流入通路と、流出通路と、流入通路に設けられた逆止弁と、流出通路に設けられた圧力調整兼減少装置とによって構成されており、燃料室の容量を燃料室の内部圧力に関連して変化させる手段が備わっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−314376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、発生ガスである二酸化炭素がタンク内に戻ることでダイヤフラムが燃料タンクに対し押圧をかけることにより、燃料電池スタックに燃料を継続的に送ることが出来る、とされている。しかしながら、例えば出力が小さい燃料電池の場合、発生ガスの量が少なくなると同時に燃料タンクに対する押圧も小さくなるため、燃料電池スタックに燃料を供給できなくなるおそれがあり、この点での改善の余地がある。
【0006】
この発明は、上記の技術的課題に着目してなされたものであり、燃料が受動的に供給されなくなった際に、電力を用いずに適量の燃料を供給するダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給機構を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、液相の燃料を貯留する燃料タンクと、前記燃料を酸化して発電するとともに、その発電に伴って生成物を生じる発電部と、前記燃料タンクの燃料流出口と前記発電部の燃料流入口とを連通する管路と、前記発電部の燃料流出口と前記燃料タンクの燃料流入口とを連通する他の管路とを備えているダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給機構において、外力を用いて前記燃料タンクを加圧することで前記燃料タンクの前記燃料流出口から前記管路を介して前記発電部の前記燃料流入口に前記燃料を放出させ、その外力を除いて前記燃料タンクを減圧することで前記発電部の前記燃料流出口から前記他の管路を介して前記燃料タンクの前記燃料流入口に前記燃料と前記生成物とを流入させるように構成された燃料供給機構が、前記燃料タンクに設けられていることを特徴とするものである。
【0008】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記燃料供給機構は、内径方向に外力を加えることで圧縮されると同時に内部に発生した陽圧で前記燃料タンクを加圧し、その外力を除くことで膨張すると同時に内部に発生した陰圧で前記燃料タンクを減圧する伸縮自在な袋状体であることを特徴とするダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給機構である。
【0009】
また、請求項3の発明は、請求項1の発明において、前記燃料供給機構は、軸線方向に外力を加えることで圧縮されると同時に内部に発生した陽圧で前記燃料タンクを加圧し、その外力を除くことで膨張すると同時に内部に発生した陰圧で前記燃料タンクを減圧する伸縮自在な蛇腹状体であることを特徴とするダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給機構である。
【0010】
また、請求項4の発明は、請求項1の発明において、前記燃料供給機構は、軸線方向に外力を加えることで前記燃料タンクに軸線方向において移動可能に取り付けられている押圧部と、一方の端部が前記押圧部と連結しているとともに、前記燃料タンクの軸線方向において弾性的に圧縮変形する弾性体と、前記弾性体の他方の端部と連結しているとともに、前記燃料タンクの内面に沿って軸線方向に可動することにより前記燃料タンクを加圧または減圧する圧力調整部とによって構成されていることを特徴とするダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給機構である。
【0011】
また、請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれかの発明において、前記燃料タンクの前記燃料流出口から前記発電部の前記燃料流入口に一方向に前記燃料を流す第一バルブが、前記管路に設けられており、前記発電部の前記燃料流出口から前記燃料タンクの前記燃料流入口に一方向に前記燃料を流す第二バルブが、前記他の管路に設けられていることを特徴とするダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給機構である。
【0012】
また、請求項6の発明は、請求項1ないし5のいずれかの発明において、前記燃料供給機構に機械的に外力を加える外力供給機構が設けられていることを特徴とするダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給機構である。
【0013】
さらに、請求項7の発明は、請求項1ないし6のいずれかの発明において、非作動時には燃料の循環を妨げず、かつ作動時には燃料を一方向に循環させる送液ポンプが、前記燃料タンクと前記発電部と前記管路と前記他の管路とのいずれかに設けられていることを特徴とするダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給機構である。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、外力が燃料供給機構に加えられた場合、燃料供給機構の内部に発生した陽(正)圧で加圧された燃料タンクの燃料または燃料を酸化して生じた生成物は、燃料タンクの流出口から外力に応じた一定量の燃料タンク内の燃料を管路に押し出し、その管路に連通された発電部の流入口を介して、発電部に一定量の燃料を供給することができる。
【0015】
また、この発明によれば、燃料供給機構は、外力を除くことで元の形状に復元するため膨張し、それと同時にその内部に発生した陰(負)圧で燃料タンクの圧力を減少させる。したがって、例えば燃料供給機構に加えられていた外力を除いた場合、燃料供給機構の内部に発生した陰圧で減圧された燃料タンクは、燃料タンクの流入口から燃料供給機構の陰圧に応じた一定量の燃料と燃料を酸化して生じた生成物とを他の管路から吸引し、その他の管路に連通された発電部の流出口を介して、発電部から一定量の燃料と燃料を酸化して生じた生成物とを吸引することができる。これにより、発電部の流入口からその流出口まで燃料をまんべんなく供給することができ、発電効率を向上させることができる。
【0016】
とくに、請求項5の発明によれば、外力が燃料供給機構に加えられた場合、燃料供給機構の内部に発生した陽(正)圧で加圧された燃料タンクの燃料または燃料を酸化して生じた生成物は、燃料タンクの流出口またはその流入口から外力に応じた一定量の燃料タンク内の燃料を各管路に押し出すが、燃料タンクの流入口と発電部の流出口とを連通する他の管路に設けられた第二バルブに燃料の流入を阻害されるため、燃料タンクの流出口から発電部の流入口のみに一定量の燃料を供給することができる。また、燃料供給機構は、外力を除くことで元の形状に復元するため膨張し、それと同時にその内部に発生した陰(負)圧で燃料タンクの圧力を減少させる。したがって、例えば燃料供給機構に加えられていた外力を除いた場合、燃料供給機構の内部に発生した陰圧で減圧された燃料タンクは、燃料タンクの流出口またはその流入口から燃料供給機構の陰圧に応じた一定量の燃料と燃料を酸化して生じた生成物とを吸引するが、燃料タンクの流出口と発電部の流入口とを連通する管路に設けられた第一バルブが燃料の流入を阻害するため、他の管路を介して発電部の流出口から燃料タンクの流入口のみに一定量の燃料と燃料を酸化して生じた生成物とを吸引することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明に係るダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給機構の一例を示す模式図である。
【図2】この発明に係るダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給機構の他の例を示す模式図である。
【図3】この発明に係るダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給機構のさらに他の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
つぎに、この発明を具体例に基づいて説明する。この発明で対象とする燃料供給機構は、例えばダイレクトメタノール型燃料電池の燃料タンクに使用されるものであり、燃料が受動的に供給されなくなった際に、外圧が加えられることで燃料タンクから発電部に燃料を供給し、または加えられていた外圧が除かれることで発電部から燃料タンクに未反応燃料および発電に伴って生じた反応生成物を回収するように構成されている。図1には、この発明に係るダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)の一例を示している。ダイレクトメタノール型燃料電池1は、燃料として使用する図示しないメタノール水溶液またはメタノールを貯留する燃料タンク2と、燃料を酸化して発電する発電部3(燃料電池スタックまたはDMFCスタックとも呼ばれる)とを備えており、燃料タンク2と発電部3とを連結する管路4,5を介して、メタノール水溶液またはメタノールを燃料タンク2から発電部3に供給または発電部3から燃料タンク2に回収する構成になっている。
【0019】
燃料電池スタック3は、実質的な燃料電池に相当する図示しない膜・電極接合体(MEA)と、そのMEAの両側に配置されており、燃料として使用されるメタノールと酸化剤として使用される酸素を含む空気とをMEAに供給するとともに、MEAで反応に使用されなかったメタノール(いわゆる、オフメタノール)、空気ならびに反応生成物を排出するプレート形状のセパレータ6とを備えている。また、燃料電池スタック3には、燃料が供給される流入口7と、MEAで反応に使用されなかったメタノール(いわゆる、オフメタノール)、反応生成物が排出される流出口8とが設けられている。
【0020】
MEAは、アノードにおいて下記の(1)式に示したように、触媒(図示せず)を介してメタノールが酸化されてプロトンと電子とを生成し、そのプロトンと電子とが図示しない外部回路および電荷質膜を透過してカソードに到達し、そのカソードにおいて下記の(2)式に示したように、触媒(図示せず)を介して酸素の還元反応を生じることにより発電をおこなうように構成されている。
【0021】
アノードにおける触媒反応
CHOH + HO → CO+ 6H 十 6e …(1)式
【0022】
カソードにおける触媒反応
3/2O + 6H + 6e → 3HO …(2)式
【0023】
MEAのアノード側に対向するセパレータ6の面には、蛇行する形状の流路つまりS字状の流路であるとともに、燃料タンク2から送液される燃料をMEAに供給する燃料供給チャンネル9が形成されている。燃料供給チャンネル9は、MEAに燃料であるメタノールを供給するためのものであるから、MEAのアノード側に開口している。
【0024】
また、燃料供給チャンネル9は、その一方の端部9aが燃料電池スタック3の流入口7に接続されているとともに、その流入口7から燃料供給チャンネル9に液相のメタノールが供給され、他方の端部9bが燃料電池スタック3の流出口8に接続されているとともに、その流出口8からMEAにおける反応に使用されなかった燃料および発電に伴って生じた反応生成物が排出されるように構成されている。
【0025】
MEAとMEAのアノード側に配置されたセパレータ6との間に、言い換えれば、MEAと燃料供給チャンネル9とに挟まれて、メタノールが浸透する燃料透過層(図示せず)が設けられている。燃料透過層の一方の面は、MEAのアノード側に直接接触して設けられており、他方の面は、燃料供給チャンネル9が形成されたセパレータ6に直接接触して設けられている。この燃料透過層は、例えば延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)もしくはシリコン、ポリエチレンなどによって膜(フィルム)状に形成されている。また、この燃料透過層は、疎水性を有していてもよく、その撥水作用によって液相の水およびメタノールを弾くようになっている。要は、液体よりも気体の透過性が高くなるように構成されており、メタノールのクロスオーバーを抑える部材であればよい。また、MEAにおけるメタノールの酸化反応で生成した二酸化炭素は、燃料透過層を透過して燃料供給チャンネル9に排出される。
【0026】
MEAのカソード側に配置された他のセパレータ(図示せず)には、カソード側に空気を供給する複数の気孔が形成されている。この気孔は空気チャンネル(図示せず)であり、この空気チャンネル介してMEAに外気が導入されるようになっている。MEAとMEAのカソード側に配置された他のセパレータとの間には、言い換えれば、MEAと空気チャンネルとに挟まれて、水の排出を抑制する液体遮断層(図示せず)が設けられている。この液体遮断層は、上述の燃料浸透層と同様のものでよく、例えば延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)もしくはシリコン、ポリエチレンなどによって膜(フィルム)状に形成されている。また、この液体遮断層は、疎水性を有していてもよく、その撥水作用によって液相の水およびメタノールを弾くようになっている。要は、液体よりも気体の透過性が高くなるように構成されており、MEAから空気チャンネルに水が漏出することを抑える部材であればよい。なお、この発明に係る燃料電池スタックは、一般的に知られている構成と同様のものを使用してよく、単セル型のDMFCや複数のMEAを積層したDMFCでよい。また、供給される燃料は液相でも気相でもよい。
【0027】
また、燃料電池スタック3の流入口7には、燃料タンク2の流出口10と連通される管路4が設けられており、この管路4を介して燃料タンク2から燃料が供給される。また、この管路4には燃料タンク2の流出口10から燃料電池スタック3の流入口7に一方向に燃料が流れる逆止弁11が設けられている。さらに、燃料電池スタック3の流出口8には、燃料タンク2の流入口12と連通される他の管路5が設けられており、この他の管路5を介して燃料電池スタック3から燃料電池スタック3で反応に使用されなかった燃料、空気ならびに反応生成物が燃料タンク2に供給される。また、この他の管路5には燃料電池スタック3の流出口8から燃料タンク2の流入口12に一方向に燃料が流れる逆止弁13が設けられている。
【0028】
燃料や発電に伴って生じた反応生成物等が循環する流路を構成している燃料タンク2、管路4,5、ならびに燃料供給チャンネル9は、燃料や反応生成物等が漏出しないように構成されている。また、その流路に対して燃料の循環に必要な内圧よりも過大な圧力がかからないよう所定の圧力となった際に、自動的に開き、圧力を下げる機能を備えたリリーフバルブ(図示せず)が、燃料や発電に伴って生じた反応生成物等が循環する流路を形成している燃料タンク2、管路4,5、ならびに燃料供給チャンネル9のいずれかに設けられている。なお、逆止弁11または逆止弁13が、リリーフバルブの機能を備えてもよい。
【0029】
この発明に係る燃料タンクは、一方の端部側に底を有する円筒形状であり、他方の端部に連続された小径円筒状の開口部2aが設けられているとともに、その燃料タンク2の内部に燃料として予め定められた濃度に調整されたメタノール水溶液または無希釈のメタノールを貯留している。また、燃料タンク2には、管路4を介して燃料電池スタック3に燃料を供給する流出口10と、管路5を介して燃料電池スタック3からMEAで反応に使用されなかった燃料、反応生成物ならびに管路内の空気が流入する流入口12とが設けられている。なお、燃料タンクは、その内部に燃料として予め定められた濃度に調整されたメタノール水溶液または無希釈のメタノールを安全に貯留できるものであればよく、例えばポリプロピレンあるいは高密度ポリエチレン等の低密度ポリエチレンより剛性の高い部材によって形成されてもよく、また、その形状は上記の例に限らない。
【0030】
また、この発明に係る燃料供給機構が、燃料タンク2の開口部2aに嵌合している。燃料供給機構14は、図1に示すように、弾性部材によって形成されかつ変形することに伴ってその容積が大小に増減するように構成された中空である楕円形状(袋状)のスポイトである。燃料供給機構14は、外力Fを内径方向に加えることで圧縮され、それと同時にその内部14aに発生した陽圧で燃料タンク2の圧力を増加させる。言い換えると、燃料供給機構14は、その内径方向に外力Fが加えられた場合、その内部14aの圧力が燃料タンク2の圧力よりも高くなるとともに、その内部14aの気体あるいは燃料が燃料タンク内に押し出され、燃料タンク2の圧力を増加させる。したがって、例えば燃料が受動的に供給されなくなった際に人の手によって外力Fが燃料供給機構14に加えられた場合、燃料供給機構14の内部14aに発生した陽圧で加圧された燃料タンク内の気体または燃料は、燃料タンク2の流出口10またはその流入口から外力Fに応じた一定量の燃料タンク内の燃料を各管路4,5に押し出すが、燃料タンク2の流入口12と燃料電池スタック3の流出口8とを連通する管路5に設けられた逆止弁13が燃料の流入を阻害するため、他の管路4を介して燃料タンク2の流出口10から燃料電池スタック3の流入口7のみに、一定量の燃料を供給することができる。その結果、燃料電池スタック3の流入口7に接続されている燃料供給チャンネル9に、つまり燃料電池スタックに一定量の液相の燃料を供給することができる。
【0031】
また、燃料供給機構14を用いた際に、燃料や発電に伴って生じた反応生成物等が循環する流路を構成している燃料タンク2、管路4,5ならびに燃料供給チャンネル9に燃料の循環に必要な圧力よりも過大な内圧がかかった場合、リリーフバルブが流路の過大な内圧を開放することで、流路の内圧を抑制することができる。
【0032】
また、燃料供給機構14は、その外力Fを除くことで弾性力によって元の形状に復元し、それと同時にその内部14aに発生した陰圧で燃料タンク2の圧力を減少させる。言い換えると、燃料供給機構14は、加えられていた外力Fが除かれた場合、弾性力によって元の形状に復元しようとその内部14aの体積が大きくなるとともに、それに伴って内部14aの圧力が燃料タンク2の圧力よりも低くなり、燃料タンク2の気体あるいは燃料を燃料供給機構14の内部14aに吸引し、燃料タンク2の圧力を減少させる。したがって、例えば燃料供給機構14に外力Fを加えていた手を離した場合、燃料供給機構14の内部に発生した陰圧で減圧された燃料タンク2は、燃料タンク2の流出口10またはその流入口12から燃料供給機構14の陰圧に応じた一定量の燃料、MEAで反応に使用されなかった燃料、空気ならびに反応生成物を吸引するが、燃料タンク2の流出口10と燃料電池スタック3の流入口7とを連通する管路4に設けられた逆止弁11が燃料の流入を阻害するため、管路5を介して燃料電池スタック3の流出口8から燃料タンク2の流入口12のみに一定量のMEAで反応に使用されなかった燃料、空気ならびに反応生成物を吸引することができる。その結果、燃料電池スタック3の流出口8に接続されている燃料供給チャンネル9から一定量のMEAで反応に使用されなかった燃料、空気ならびに反応生成物を排出することができる。さらに、燃料電池スタック3の流入口側の燃料供給チャンネル9における液相の燃料を、燃料電池スタック3の流出口側に吸引することができるため、燃料供給チャンネル9の全体に供給し、発電効率を向上させることができる。
【0033】
また、燃料供給機構14を用いて燃料タンク2から燃料電池スタック3に燃料を供給した際に、燃料透過層を介して燃料供給チャネル9からMEAに供給された燃料は、水と反応して、発電に伴って二酸化炭素を含む反応生成物を生じる。MEAで生じた二酸化炭素は、燃料透過層を介して燃料供給チャンネル9に戻ることにより、燃料供給チャンネル9の内圧を高める。この燃料供給チャネル9の圧力上昇に伴って加圧された燃料供給チャンネル内の気体または燃料は、燃料電池スタック3の流入口7またはその流出口8から燃料供給チャネル9の上昇した圧力に応じて各管路4,5に押し出されるが、燃料タンク2の流出口と燃料電池スタック3の流入口7とを連通する管路4に設けられた逆止弁11が気体または燃料の流入を阻害するため、管路5のみを介して燃料電池スタック3から燃料タンク2に供給されることができ、その結果、燃料タンクの圧力を増加させることができる。つまり、MEAで生じた二酸化炭素を含む空気は流路の内圧を高めるため、燃料供給機構に外力を継続的に加えなくとも、一定量の燃料を受動的に一方向に循環させ、燃料タンクから燃料電池スタックに燃料を供給することができる。また、燃料や発電に伴って生じた反応生成物等が循環する流路を構成している燃料タンク2、管路4,5ならびに燃料供給チャンネル9に燃料の循環に必要な圧力よりも過大な内圧がかかった際に、リリーフバルブが内圧を開放することにより、流路の内圧を抑制することができる。
【0034】
なお、燃料供給機構は、外力を用いることで燃料電池スタックと燃料タンクとを燃料が循環することを目的とするものであって、燃料または圧力等が漏れないように燃料タンクの開口部を密閉するとともに、外力を用いて燃料タンクを加圧することで燃料タンクの流出口から燃料電池スタックの流入口に燃料を流入させ、その外力を除いて燃料タンクを減圧することで燃料電池スタックの流出口から燃料タンクの流入口に燃料を流入させるように構成されていればよい。
【0035】
例えば、燃料供給機構15は、第2実施例である図2に示すように、軸線方向に外力Fを加えることで圧縮されると同時に内部に発生した陽圧で燃料タンク2を加圧し、その外力を除くことで元の形状に膨張すると同時に内部に発生した陰圧で燃料タンク2を減圧する伸縮自在な蛇腹状のスポイトでもよい。
【0036】
また、例えば、燃料供給機構16は、第3実施例である図3に示すように、一方の端部が開口している燃料タンク17に設けられているとともに、燃料タンク17の開口部に嵌合しており、軸線方向に外力を加えることで燃料タンク17に軸線方向において移動可能に取り付けられている押圧部18と、燃料タンク17の外に燃料または空気等が漏れないように押圧部18の外周部と燃料タンク17の内面との間に介在させられており、押圧部18の環状溝に嵌合されたシールリング19と、一方の端部が押圧部18と連結しており、燃料タンク17の軸線方向において弾性的に変形する弾性体20と、弾性体20の他方の端部と連結しており、燃料タンク17の内面に沿って軸線方向に可動することにより燃料タンク17を加圧または減圧する圧力調整部21とによって構成されてもよい。例えば、人の手によって外力Fが押圧部18に加えられた場合、押圧部18は燃料タンク17の軸線方向において底部側に移動し、外力Fを弾性体20に伝達する。押圧部側から外力Fを加えられた弾性体20は、弾性的に伸縮し、圧力調整部21に外力を伝達する。弾性体20から外力を伝達された圧力調整部21は、燃料タンク内の気体または燃料に加圧することによって、燃料タンク17の流出口22から外力Fに応じた一定量の燃料を押し出すことができる。また、例えば押圧部18に外力Fを加えていた手を離した場合、圧力部18は弾性体20によって燃料タンク17の開口端側に押し戻され、燃料タンク内の圧力は減少する。その結果、燃料供給機構16は、燃料タンク内を減圧することによって、燃料タンク17の流入口23に接続された管路5を介して燃料電池スタック3から、燃料供給機構16の陰圧に応じた一定量のMEAで反応に使用されなかった燃料、空気ならびに反応生成物を吸引することができる。
【0037】
また、燃料供給機構に機械的に外力を加える機構を設けてもよい。例えば、図示しないアクチュエータまたは動力源の回転軸に設けられた運動の方向を変えるカムもしくはクランクシャフトにコネクティングロッドを介して設けられたピストンが、燃料供給機構14、15,18に接触することで外力を加えるように設けられてもよい。つまり、燃料供給機構に、例えば手を用いて外力を与えるのではなく、機械的動力源を用いて外力を与える機構であればよい。さらに、燃料や発電に伴って生じた反応生成物等が循環する流路に、非作動時には燃料の循環を妨げず、かつ作動時には燃料を一方向に循環させる送液ポンプを設けてもよい。例えば、燃料や発電に伴って生じた反応生成物等が循環する流路を構成している燃料タンク2、管路4,5ならびに燃料供給チャンネル9のいずれかに、非作動時には燃料の循環を妨げず、かつ作動時には燃料を一方向に循環させる図示しないダイヤフラム型ポンプまたは軸流ポンプなどを設けてもよい。
【0038】
また、本発明は、上記のダイレクトメタノール型燃料電池に適用した例に限定されず、外力を用いることで燃料電池スタックと燃料タンクとを燃料を循環させ、燃料電池スタックに燃料を供給することを目的とする燃料電池の燃料タンクに適用したものであればよい。
【符号の説明】
【0039】
1…ダイレクトメタノール型燃料電池、 2…燃料タンク、 3…発電部(燃料電池スタック)、 4…管路、 5…他の管路、 7…(発電部の)燃料流入口、 8…(発電部の)燃料流出口、 10…(燃料タンクの)燃料流出口、 11…第一バルブ、 12…(燃料タンクの)燃料流入口、 13…第二バルブ、 14…燃料供給機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液相の燃料を貯留する燃料タンクと、前記燃料を酸化して発電するとともに、その発電に伴って生成物を生じる発電部と、前記燃料タンクの燃料流出口と前記発電部の燃料流入口とを連通する管路と、前記発電部の燃料流出口と前記燃料タンクの燃料流入口とを連通する他の管路とを備えているダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給機構において、
外力を用いて前記燃料タンクを加圧することで前記燃料タンクの前記燃料流出口から前記管路を介して前記発電部の前記燃料流入口に前記燃料を放出させ、その外力を除いて前記燃料タンクを減圧することで前記発電部の前記燃料流出口から前記他の管路を介して前記燃料タンクの前記燃料流入口に前記燃料と前記生成物とを流入させるように構成された燃料供給機構が、前記燃料タンクに設けられていることを特徴とするダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給機構。
【請求項2】
前記燃料供給機構は、内径方向に外力を加えることで圧縮されると同時に内部に発生した陽圧で前記燃料タンクを加圧し、その外力を除くことで膨張すると同時に内部に発生した陰圧で前記燃料タンクを減圧する伸縮自在な袋状体であることを特徴とする請求項1に記載のダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給機構。
【請求項3】
前記燃料供給機構は、軸線方向に外力を加えることで圧縮されると同時に内部に発生した陽圧で前記燃料タンクを加圧し、その外力を除くことで膨張すると同時に内部に発生した陰圧で前記燃料タンクを減圧する伸縮自在な蛇腹状体であることを特徴とする請求項1に記載のダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給機構。
【請求項4】
前記燃料供給機構は、軸線方向に外力を加えることで前記燃料タンクに軸線方向において移動可能に取り付けられている押圧部と、一方の端部が前記押圧部と連結しているとともに、前記燃料タンクの軸線方向において弾性的に圧縮変形する弾性体と、前記弾性体の他方の端部と連結しているとともに、前記燃料タンクの内面に沿って軸線方向に可動することにより前記燃料タンクを加圧または減圧する圧力調整部とによって構成されていることを特徴とする請求項1に記載のダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給機構。
【請求項5】
前記燃料タンクの前記燃料流出口から前記発電部の前記燃料流入口に一方向に前記燃料を流す第一バルブが、前記管路に設けられており、
前記発電部の前記燃料流出口から前記燃料タンクの前記燃料流入口に一方向に前記燃料を流す第二バルブが、前記他の管路に設けられていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給機構。
【請求項6】
前記燃料供給機構に機械的に外力を加える外力供給機構が設けられていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給機構。
【請求項7】
非作動時には燃料の循環を妨げず、かつ作動時には燃料を一方向に循環させる送液ポンプが、前記燃料タンクと前記発電部と前記管路と前記他の管路とのいずれかに設けられていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のダイレクトメタノール型燃料電池の燃料供給機構。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate