説明

ダビガトランエテキシレート過剰投与による活性炭の緊急処置

【課題】その医薬的に許容され得る塩の形態にあってもよい下記式Iの活性物質ダビガトランエテキシレートの過剰投与を治療する方法を提供する。
【化1】


I
【解決手段】有効量の木炭を投与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その医薬的に許容される塩の形態にあってもよい下記式Iの活性物質ダビガトランエテキシレートによる過剰投与を治療する方法であって、有効量の木炭を投与することを含む、前記方法に関する。
【0002】
【化1】

I
【背景技術】
【0003】
1の化合物は、先行技術から知られており、最初に国際公開第98/37075号パンフレットで開示された。式1の化合物は、例えば、術後の深部静脈血栓予防に、また、卒中予防に、特に心房細動患者の卒中を予防するのに使用し得る強力なトロンビン阻害剤である。国際公開第03/074056号パンフレットには、特に有効なダビガトランエテキシレートのメタンスルホン酸付加塩(すなわち: ダビガトランエテキシレートメタンスルホン酸塩)が開示されている。
化合物は、通常経口投与される。特に、例えば国際公開第03/074056号パンフレットに開示されるように、いわゆるペレット製剤が用いられ得る。これらの製剤は、結合剤を含有し、更に必要により分離剤を含有してもよい活性物質層が、医薬的に許容され得る有機酸からなるかまたはそれを含有する実質的に球状のコア材料に適用される組成物である。コア層と活性物質層は、いわゆる分離する層によって相互に分けられる。この種類の活性物質製剤の概略構造は、国際公開第03/074056号パンフレットの図1に示されている。
ダビガトランエテキシレート(I)はプロドラッグであり、これは生体内で活性部分ダビガトラン(下記式IIの化合物)、強力な直接トロンビン阻害剤に急速に変換される。
【0004】
【化2】

(II),
【0005】
すなわち、ダビガトランエテキシレートは、実際に有効な化合物、すなわち、ダビガトランには体内で変換される。
この薬剤は、現在、心房細動(SPAF)患者の卒中予防について試験されており、これらの患者にワルファリン代用品としてより長期間にわたって投与されている。長期間にわたる抗凝血剤治療での出血合併症のリスクのため、薬剤の緊急中和が求められる場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
着手している本発明の目的は、特に過剰投与の場合、ダビガトランエテキシレートの緊急中和に適切な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述した課題の可能な解決法に関する。
本発明は、その医薬的に許容され得る塩の形態にあってもよい下記式Iの活性物質ダビガトランエテキシレートによる過剰投与を治療する方法であって、有効量の木炭を投与することを含む、前記方法に関する。
【0008】
【化3】

I
【0009】
本発明は、患者の胃においてダビガトランエテキシレートを中和する方法であって、それを必要としている患者に有効量の活性炭を経口投与する、前記方法に関する。有効量の活性木炭は、通常20〜130g、好ましくは50〜100gの範囲にある。用いられる木炭の量は、過剰投与の程度による。
ダビガトランエテキシレートIは、ダビガトランの二重プロドラッグ、下記式(II)の化合物である。
【0010】
【化4】

II,
【0011】
すなわち、ダビガトランエテキシレートIは、実際に有効な化合物、すなわちダビガトランIIに体内で変換される。
他の実施態様において、本発明は、血漿においてダビガトランIIを中和する方法であって、患者の血漿を活性炭上で精製することを含む、前記方法に関する。過剰投与されたダビガトランIIの血漿からの吸収は、木炭フィルタ上で血液灌流によって行われ得る。
本明細書の下で記載される実験においてダビガトランエテキシレートとダビガトランの木炭への驚くほど高い程度の吸収が証明された。これらの実験において、水中でのダビガトランエテキシレートの活性炭への結合は、胃液における大量のダビガトランエテキシレートの最近の経口摂取(2-5、好ましくは2-3時間)をシミュレートするものである。血漿におけるダビガトランの活性炭への結合は、ダビガトランが経口摂取後に吸収されるとともに血漿中に高濃度で存在した状況をシミュレートするものである。
以下の項において、ダビガトラン剤形の製造方法とこのようにして得られた剤形を記載する。
前述の臨床試験に用いられる医薬組成物の製造方法は、一連の部分工程を特徴とする。最初に、医薬的に許容され得る有機酸からコア1を得る。本発明の範囲内の酒石酸を用いて、コア1を調製する。次に、このようにして得られたコア材料1を分離用懸濁液2に噴霧することによっていわゆる別個の酒石酸コア3に変換する。続いて、これらの被覆されたコア3上に調製されたダビガトラン懸濁液4をコーティングプロセスによって1つ以上のプロセス工程で噴霧する。最後に、このようにして得られた活性物質ペレット5を適切なカプセル剤に包装する。
【0012】
エアジェットふるい分けによる酒石酸の粒径の測定
測定装置および設定:
測定装置: エアジェットスクリーン、例えばAlpine A 200 LS
スクリーン: 必要に応じたもの
加える質量: 10g/スクリーン
所要期間: 1分/スクリーン、次に0.1gの最大質量減少までそれぞれ1分
試料の調製/生成物の供給:
物質を乳鉢に入れ、存在するいかなる塊も徹底的に砕くによって破壊する。ゴムシールとカバーを有するスクリーンをはかりに載せ、ゼロに設定し、10.0gの砕いた物質をスクリーン上で量る。
スクリーンとその内容物、ゴムシールおよびカバーを、装置に配置する。タイマーを1分に設定し、この時間エアジェットふるい分けによって材料を処理する。次に、残留物を計量し、記録する。エアジェットふるい分けの後の残留物の質量の減少が<0.1gになるまで、このプロセスを反復する。
【実施例】
【0013】
実施例1 - 出発ペレットの調製
皿状端部とスターラーを有する慣用の混合容器内で、480kgの水を50℃に加熱し、120kgのアカシア(アラビアゴム)を撹拌しながら添加する。透明溶液が得られるまで一定温度で撹拌を続ける。透明溶液になるとすぐに(通常1〜2時間後)、600kgの酒石酸を撹拌しながら添加する。撹拌を続けながら酒石酸を一定温度で添加する。添加が終了した後、混合物をさらに約5〜6時間撹拌する。
噴霧及び粉末適用ユニットを有するゆっくりと回転(毎分3回転)中の穴が開けられていない水平パン(例えばDriamat 2000/2.5)に1000kgの酒石酸を加える。噴霧が開始する前に、酸の試料をふるい分析にかける。該当する酸は、粒径が0.4-0.6mmの範囲にある酒石酸粒子である。このようにして得られた酒石酸粒子に上記の方法によって得られた酸ゴム溶液を噴霧する。噴霧中、空気の供給量を1000m3/時間および35-75℃に調整する。差圧は2ミリバールであり、パンの回転速度は毎分9回転である。ノズルは、充填から350-450mmの距離に配置されなければならない。
以下の工程を交互に行うことにより、酸ゴム溶液を噴霧する。約4.8kgの酸ゴム溶液を粒径0.4-0.6mmの酒石酸粒子に噴霧し、溶液を分散させた後、湿った酒石酸粒子に約3.2kgの酒石酸粉末を振りかける。該当の酒石酸粉末は、粒径が<50μmの微細な酒石酸粒子からなる。合計で800kgの酒石酸粉末が必要である。前記酒石酸粉末を振りかけ、散布した後、約40℃の生成物温度に達するまで噴霧材料を乾燥する。これに続いて酸ゴム溶液を噴霧する。
酸ゴム溶液を使い切るまでこのサイクルを繰り返す。プロセスが終了するとすぐに、酸ペレットをパン中で3rpmにおいて240分間乾燥する。乾燥終了後のケーキングを防ぐために、断続的プログラムを3rpmで1時間毎に3分間行う。この場合、パンを3rpmで1時間の間をおいて3分間回転させ、次に放置することを意味する。次に、酸ペレットを乾燥機に移す。次に、酸ペレットを60℃で48時間かけて乾燥する。最後に、粒度分布をふるい分析により求める。0.6〜0.8mmの粒径が生成物として対応する。この画分が>85%を構成しなければならない。
【0014】
実施例2 - 出発ペレットの分離
分離用懸濁液を調製するために、666.1(347.5)kgのエタノールを混合容器に入れ、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(33.1(17.3)kg)を約600rpmで撹拌しながら添加し、溶解させる。次に、同じ条件下で0.6(0.3)kgのジメチコンを添加する。使用直前に、再度撹拌しながらタルク(33.1(17.3)kg)を添加し、懸濁させる。
酸ペレット1200(600)kgをコーティング装置(例えばGS-Coater Mod. 600/Mod. 1200)に注入し、回転中のパンの中で上記分離用懸濁液を噴霧し、1200kgの混合物については32kg/時間または600kgの混合物については21kg/時間の噴霧速度で数時間続ける。連続して70℃までの空気供給によりペレットを乾燥させる。
GS-Coaterが空になった後、別個の出発ペレットをふるい分けにより分画する。直径が≦1.0mmの生成物画分を保存し、用いる。
【0015】
実施例3 - ダビガトランエテキシレート懸濁液の調製
プロペラスターラーを備えた1200リットルの混合容器内で、26.5kgのヒドロキシプロピルセルロースを720kgのイソプロパノールに添加し、完全に溶解されるまで(約12〜60時間; およそ500rpm)混合物を撹拌する。溶液が透明になるとすぐに、132.3kgのダビガトランエテキシレートメタンスルホン酸塩(結晶形I)を撹拌しながら(400rpm)添加し、混合物を更に約20〜30分間撹拌する。次に、21.15kgのタルクを一定の撹拌速度で添加し、同じ速度で更に約10〜15分間撹拌を続ける。上記の工程は、好ましくは窒素雰囲気下で行われる。
形成された塊をUltraTurraxスターラーでホモジナイズすることにより破壊する(約60〜200分間)。懸濁液温度は全製造プロセスを通して30℃を超えてはならない。
処理の準備ができるまで懸濁液を撹拌して(およそ400rpmで)、沈降が起こらないことを確実にする。
懸濁液が30℃未満で保存される場合には、長くても48時間以内に処理されなければならない。例えば、懸濁液を製造し22℃で保存する場合には、60時間以内に処理されることになる。懸濁液を例えば35℃で保存する場合には、長くても24時間以内に処理されなければならない。
【0016】
実施例4 - ダビガトランエテキシレート活性物質ペレットの調製
容器に穴が開けられていない水平パンを用いる(GS Coater Mod. 600)。流動床法とは異なり、“トップスプレー”法により回転中のパン中のペレット流動床に懸濁液を噴霧する。直径が1.4mmのノズルで噴霧する。いわゆるイマージョンブレードによってペレット床に乾燥空気を送り、コーターの後壁の開口部を通って進む。
実施例2に従って得られた320kgの酒石酸ペレットを水平パンに充填し、ペレット床を加熱する。生成物温度が43℃に達するとすぐに、噴霧を開始する。上記実施例3に従って調製された900kgの懸濁液を、最初に噴霧速度20kg/時間で2時間、次に24kg/時間で噴霧圧0.8バールで噴霧する。懸濁液は常に撹拌する。供給される空気の温度は最高75℃である。供給される空気の量は約1900m3/時間である。
次に、ペレットを水平パン(毎分5回転)中で空気流入温度が最低30℃、最高50℃で、空気流入量が500m3/時間で約1〜2時間かけて乾燥を行う。
このようして得られた325kgのペレットをもう一度水平パンに装填し、43℃に加熱する。上記実施例3に調製された900kgの懸濁液を、最初に2時間は噴霧速度20kg/時間、次に24kg/時間で噴霧圧0.8バールで噴霧する。懸濁液は常に撹拌する。供給される空気の温度は最高75℃である。供給される空気の量は約1900m3/時間である。
次に、ペレットを水平パン(毎分5回転)中で空気流入温度が最低30℃、最高50℃で、空気流入量が500m3/時間で約1〜2時間かけて乾燥する。
その後、乾燥したペレットをメッシュサイズが1.6mmの振動ふるいに通過させ、処理が必要となるまで乾燥剤を有する容器に保存する。
上記のプロセスに従って得られたペレットに基づき以下のカプセル剤を調製した:
【0017】

【0018】

【0019】
以下の項において、木炭に対する薬剤の驚くべき高吸収を支持する実験を記載する。
ダビガトランエテキシレートの5、10、20個のカプセル(150mg/カプセル)の内容物を、100mlの水(ほぼ胃の容積、それぞれpH 2.7、2.5、2.4)に懸濁させた。各懸濁液を半分に分けた。1つの部分に、新たに調製された活性炭懸濁液(125mg/ml、Ultracarbon(登録商標)、Merck)を添加した。双方の懸濁液(木炭を含むものと含まないもの)をろ過し、ダビガトランエテキシレート濃度をHPLCによって評価した。
8.3、15.6および29.6mg/mlのダビガトランエテキシレートレベルを、水中の未処理懸濁液においてHPLCによって回収した。木炭処理懸濁液において、ダビガトランエテキシレートピークがもはや検出可能でなく、これにより、>99.9%のダビガトランエテキシレートが3つの試験した濃縮物すべてについて活性炭によって吸収されたことが示された。
血漿実験において、ダビガトランを470ng/mlと940ng/mlの上記治療濃度で血漿プールに添加した。次に試料を分割し、その半分に製造者の指定された濃度(125mg/ml)またはこれの1:11の希釈液で活性炭を添加した。確認されたLC-MS/MS方法によってダビガトラン血漿レベルを測定した。ダビガトランを血漿に添加した後、394±19.4ng/mlと824±39.3ng/ml(平均±SD)の値を未処理血漿において得た。活性炭を双方の濃度で添加すると、ダビガトランのレベルが<1.01ng/mlに低下した(すなわち、分析の定量化の下限の近くかまたはそれより低い)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その医薬的に許容される塩の形態にあってもよい下記式Iの活性物質ダビガトランエテキシレートの過剰投与を治療する方法であって、それを必要としている患者に有効量の木炭を投与する工程を含む、前記方法。
【化1】

I
【請求項2】
木炭が、経口投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
経口投与された木炭の量が、20〜130gの範囲にある、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
その医薬的に許容される塩の形態にあってもよい下記式Iの過剰投与されたダビガトランエテキシレートを中和するための木炭の使用。
【化2】

I
【請求項5】
有効量の木炭の経口投与を含む、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
木炭の量が、20〜130gの範囲にある、請求項4または5に記載の使用。
【請求項7】
その医薬的に許容され得る塩の形態にあってもよい下記式Iの過剰投与されたダビガトランエテキシレートを中和するための木炭。
【化3】

I
【請求項8】
経口投与される、請求項7に記載の木炭。
【請求項9】
経口投与された木炭の量が、20〜130gの範囲にある、請求項7または8に記載の木炭。
【請求項10】
患者の血漿からダビガトランIIを吸収する方法であって、血漿を活性炭上で精製する工程を含む、前記方法。
【化4】

II,
【請求項11】
ダビガトランIIの血漿からの吸収が、木炭フィルタ上で血液灌流によって行われる、請求項10に記載の方法。

【公表番号】特表2013−502449(P2013−502449A)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526022(P2012−526022)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【国際出願番号】PCT/EP2010/062229
【国際公開番号】WO2011/023653
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(503385923)ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (976)
【Fターム(参考)】