説明

ダブルノックアウト非ヒト動物

【課題】動脈硬化治療薬のスクリーニングに用いることができるノックアウト非ヒト動物などが求められていた。
【解決手段】LDLR遺伝子の全部又は一部、並びにEBI3遺伝子、IL27−p28遺伝子及びWSX−1遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の全部又は一部の機能が失われた、ノックアウト非ヒト動物又はその一部。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノックアウト非ヒト動物、その疾患モデル動物として使用、それを用いた治療薬のスクリーニング方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
動脈硬化は、動脈壁の肥厚、動脈壁の弾性の低下等を示す動脈病変の総称である。動脈硬化が進行すると、血管内腔が極度に狭窄し、或いは閉塞することによって、臓器や組織に循環障害が生じる。このような動脈硬化は、病理学的に、アテローム性動脈硬化、メンケベルグ動脈硬化、及び細動脈硬化の3つに分類することができる。
【0003】
アテローム性動脈硬化は、大型又は中型動脈に生じる硬化病変であり、肥厚した血管内膜層へのコレステロールエステルを主とする脂質の蓄積などが見られる。このアテローム性動脈硬化は次のように生じると考えられている。すなわち、先ず、血液中の単球が血管内膜へ接着する。内膜に接着した単球がマクロファージへと分化する。このマクロファージが、スカベンジャー受容体を介して、酸化低密度リポタンパク質(酸化LDL)などの変性LDLを多量に取り込み、泡沫細胞となる。この泡沫細胞が血管内膜に蓄積される。血管内膜に蓄積された泡沫細胞は、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP−9等)や、炎症性サイトカイン(インターロイキン6(IL6)、IL12等)を分泌する。また、中膜平滑筋細胞が内膜へ遊走し、内膜で増殖する。そして、これら血管内膜での泡沫細胞の蓄積と血管内膜での中膜平滑筋細胞の増殖が、アテローム性動脈硬化を生じさせる。
【0004】
上記のようにLDLは、動脈硬化の発生に重要な役割を果たす。LDLは、ほとんどがコレステロールから構成されるリポタンパク質である。LDLは、通常は、LDL受容体(LDLR)を介して細胞に取り込まれる。そして、LDLのコレステロールは、胆汁酸や、ステロイドホルモン、細胞膜成分などとして利用される。ところが、血漿LDLの量が過剰になると、LDLは、動脈壁内へ透過し、変性(酸化など)する。変性したLDLはLDLRへの親和性を失う。その場合、変性LDLは、スカベンジャー受容体を介してマクロファージに取り込まれるようになる。マクロファージは、変性LDLを過剰に取り込んで、泡沫細胞となり、上記のように動脈硬化を引き起こす。
【0005】
ところで、インターロイキン27(IL27)は、IL27−p28とEpstein−Barr virus(EBV)−induced gene 3(EBI3)の2つの異なるサブユニットを含むサイトカインである。一方、IL27受容体(IL27R)は、WSX−1とglycoprotein 130とのヘテロダイマーで構成される。IL27は、例えば、単球、マクロファージ及び樹状細胞のような抗原提示細胞で発現する。抗原提示細胞で発現したIL27は、CD4ナイーブT細胞の増殖を促す。また、IL27は、IL12と共にCD4ナイーブT細胞に作用し、TH1型サイトカインであるインターフェロン−γ(IFNγ)の産生を促す。さらに、IL27は、TH1型免疫応答に特異的な転写因子であるT−betをアップレギュレートさせ、これにより、TH2型免疫応答に特異的な転写因子であるGATA−3をダウンレギュレートさせる。IL27は、免疫細胞の増殖に必要なIL2の産生を抑制し、また炎症が関わる疾患の病態形成に重要な役割を果たすTH17型細胞の分化を抑制する。また、IL27は、様々な炎症性サイトカインの産生を抑制する作用を有している。したがって、IL27は、様々な免疫・炎症反応を抑制する作用を有する。
【0006】
ここで、特許文献1:特表2007−523169号公報には、IL27Rノックアウトマウスは、TH1型免疫応答が失われており、例えば、(a)IFNγの産生量が減少する、(b)Leishmania、Listeria、及びTrypanosomaのような細胞内病原体に対して過敏になる、(c)TH1型T細胞依存性抗体(IgG2aサブタイプ)の産生量が少なくなる、(d)Bacillusに応答して異常な肉芽腫を形成する、などの症状が見られることが記載されている。さらに、IL27Rに対するアンタゴニストを投与することにより、皮膚の炎症状態、関節炎、クローン病、気道過敏性、気道の炎症、アテローム性動脈硬化症などが改善できることも記載されている。
【0007】
特許文献2:特表2007−525415号公報には、IL27Rに対するリガンドを使用することにより、免疫疾患又はヘルパーT細胞媒介性疾患を治療できることが記載されている。また、免疫疾患又はヘルパーT細胞媒介性疾患の一つとして、アテローム性動脈硬化症が挙げられている。
【0008】
特許文献3:特開2008−228726号公報には、LDLR欠損マウスに高脂肪食を摂取させることによりアテローム性動脈硬化症の発生を促すことが記載されている。
【0009】
非特許文献1:Immunity 15, 569−78には、IL−27の作用が失われたマウスにおいて、Leishmania major感染後のTh1型免疫反応の低下が記載されている。
【0010】
非特許文献2:Immunity 19, 657−667には、IL27の作用が失われたマウスにおいて、Trypanosoma cruzi感染後に炎症性サイトカインの過剰生産が生じることが記載されており、非特許文献3:J Immunol 177, 5377−85には、IL27がリンパ球に作用して、様々なサイトカインの産生を抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表2007−523169号公報
【特許文献2】特表2007−525415号公報
【特許文献3】特開2008−228726号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Yoshida, H., Hamano, S., Senaldi, G., Covey, T., Faggioni, R., Mu, S., Xia, M., Wakeham, A.C., Nishina, H., Potter, J., Saris, C.J., Mak, T.W. (2001) WSX−1 Is Required for the Initiation of Th1 Responses and Resistance to L. major Infection. Immunity 15, 569−78.
【非特許文献2】Hamano, S., Himeno, K., Miyazaki, Y., Ishii, K., Yamanaka, A., Takeda, A., Zhang, M., Hisaeda, H., Mak, T.W., Yoshimura, A., Yoshida, H. (2003) WSX−1 Is Required for Resistance to Trypanosoma cruzi Infection by Regulation of Proinflammatory Cytokine Production. Immunity 19, 657−667.
【非特許文献3】Yoshimura, T., Takeda, A., Hamano, S., Miyazaki, Y., Kinjyo, I., Ishibashi, T., Yoshimura, A., Yoshida, H. (2006) Two−Sided Roles of IL−27: Induction of Th1 Differentiation on Naive CD4+ T Cells versus Suppression of Proinflammatory Cytokine Production Including IL−23−Induced IL−17 on Activated CD4+ T Cells Partially Through STAT3−Dependent Mechanism. J Immunol 177, 5377−85.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記状況において、ヒト動脈硬化症の病態により類似し、なおかつ動脈硬化治療薬のスクリーニングに用いることができるノックアウト非ヒト動物などが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、低密度リポタンパク質受容体(LDLR)遺伝子の全部又は一部、並びにIL27又はIL27受容体の遺伝子の全部又は一部の機能が失われた、ノックアウト非ヒト動物が、動脈硬化治療薬のスクリーニングに有用であることなどを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、以下に示す、ノックアウト非ヒト動物、ノックダウン非ヒト動物、それらを用いた動脈硬化治療薬のスクリーニング方法などを提供する。
(1) LDLR遺伝子の全部又は一部、並びにEBI3遺伝子、IL27−p28遺伝子及びWSX−1遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の全部又は一部の機能が失われた、ノックアウト非ヒト動物又はその一部。
(2) LDLR遺伝子、並びにIL27及び/又はIL27R遺伝子の発現量が、野生型と比較して低下している、ノックダウン非ヒト動物又はその一部。
(3) 上記(1)若しくは(2)記載の動物又はその一部からなる、動脈硬化若しくは動脈硬化性疾患モデル動物又はその一部。
(4) LDLR遺伝子の全部又は一部、並びにEBI3遺伝子、IL27−p28遺伝子及びWSX−1遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の全部又は一部の機能が失われた、ノックアウト細胞。
(5) LDLR遺伝子、並びにIL27及び/又はIL27R遺伝子の発現量が、野生型と比較して低下している、ノックダウン細胞。
(6) 動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬のスクリーニング方法であって、
(a)上記(1)〜(3)のいずれか1項記載の動物若しくはその一部又は上記(4)若しくは(5)記載の細胞に被検物質を接触させ、
(b)被検物質を接触させた動物若しくはその一部又は細胞における動脈硬化又は動脈硬化性疾患の状態と、対照の動脈硬化又は動脈硬化性疾患の状態とを比較し、
(c)(b)の比較結果に基づき、被検物質の動脈硬化改善効果又は動脈硬化性疾患改善効果を評価し、
(d)動脈硬化改善効果又は動脈硬化性疾患改善効果を有すると評価された被検物質を選択する
ことを含む、前記方法。
(7) 対照が、被検物質を接触させない、LDLR遺伝子の全部又は一部の機能が失われているが、EBI3遺伝子、IL27−p28遺伝子及びWSX−1遺伝子の機能が失われていないノックアウト非ヒト動物若しくはその一部又はノックアウト細胞である、上記(6)記載の方法。
(8) IL27シグナル活性化剤のスクリーニング方法であって、
(a)上記(1)〜(3)のいずれか1項記載の動物の一部又は上記(4)若しくは(5)記載の細胞に被検物質を接触させ、
(b)被検物質を接触させた動物の一部又は細胞におけるIL27シグナルの活性化の状態と、対照のIL27シグナルの活性化の状態とを比較し、
(c)(b)の比較結果に基づき、被検物質のIL27シグナル活性化亢進作用を評価し、
(d)IL27シグナル活性化亢進作用を有すると評価された被検物質を選択する
ことを含む、前記方法。
(9) 対照が、被検物質を接触させない、LDLR遺伝子の全部又は一部の機能が失われているが、EBI3遺伝子、IL27−p28遺伝子及びWSX−1遺伝子の機能が失われていないノックアウト非ヒト動物の一部又はノックアウト細胞である、上記(8)記載の方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、LDLR遺伝子の全部又は一部、並びにIL27及び/又はIL27Rの遺伝子の全部又は一部の機能が失われたノックアウト非ヒト動物を提供する。該動物は、野生型非ヒト動物や、LDLR遺伝子の遺伝子の全部又は一部の機能が失われているが、IL27及び/又はIL27Rの遺伝子の全部又は一部の機能が失われていないノックアウト非ヒト動物と比較して、動脈硬化病変の形成量が増加していることから、動脈硬化モデル動物などとして使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、高コレステロール食を12週間(a)16週間(b)投与した各群マウスの大動脈内膜側の代表例を示す写真である。オレンジ色にオイルレッドOで染色された部分が動脈硬化巣である。
【図2】図2は、動脈硬化巣の大動脈に占める割合を定量評価したグラフである(実施例5)。図2に示したように、動脈硬化巣の大動脈に占める割合がLDLRノックアウトマウス(LDLR−/−)に比してLDLR/EBI−3遺伝子ダブルノックアウトマウス(LDLR−/−EBI3−/−)及びLDLR/WSX−1遺伝子ダブルノックアウトマウス(LDLR−/−WSX−1−/−)において増加していることを示す。
【図3】図3は、各群マウスの腹腔内マクロファージによるDiIラベルアセチルのLDL取り込みの様子を示すコンフォーカル顕微鏡像(代表例)である。マクロファージに取り込まれたアセチルLDLが赤色で、マクロファージの核が青色で染色されている。
【図4】図4は、各群マウスの腹腔内マクロファージに取り込まれたDiIラベルアセチルLDLの量を比較したグラフである。グラフの縦軸は、蛍光強度(Fluorescence Intensity)(単位:aubitory unit)を示す。マクロファージに取り込まれたアセチルLDLの量は、DiIの蛍光強度と比例しており、蛍光強度が高ければ高いほど、マクロファージに取り込まれたアセチルLDLの量が多いことを示す。図4に示したように、マクロファージに取り込まれたアセチルLDLの量は、LDLRノックアウトマウス(LDLR−/−)に比してLDLR/EBI−3遺伝子ダブルノックアウトマウス(LDLR−/−EBI3−/−)及びLDLR/WSX−1遺伝子ダブルノックアウトマウス(LDLR−/−WSX−1−/−)において増加していた。
【図5】図5は、各群マウスの腹腔内マクロファージが培養上清中に産生したサイトカインの濃度を示すグラフである。図5(a)は、マウスIL1β(Ms IL−1beta)の濃度を、図5(b)は、マウスIL6(Ms IL−6)の濃度を、図5(c)は、マウスIL12(Ms IL−12)の濃度を、図5(d)は、マウスIL10(Ms IL−10)の濃度を、それぞれ測定した結果を示すグラフである。グラフの横軸において、「L」は、LDLRノックアウトマウス(LDLR−/−)を、「LE」は、LDLR/EBI−3遺伝子ダブルノックアウトマウス(LDLR−/−EBI3−/−)を、「LW」は、LDLR/WSX−1遺伝子ダブルノックアウトマウス(LDLR−/−WSX−1−/−)をそれぞれ表す。また「LPS 0」及び「LPS 10」は、それぞれ、対照溶媒投与群と、リポポリサッカライド投与群を示す。グラフの縦軸の数値は、サイトカインの濃度(pg/ml)を示す。図5に示したように、LDLR/EBI−3遺伝子ダブルノックアウトマウス及びLDLR/WSX−1遺伝子ダブルノックアウトマウスにおいて、LDLRノックアウトマウスに比して、リポポリサッカライド刺激による炎症性サイトカイン(IL1β、IL6、IL12)の産生増加と抗炎症性サイトカイン(IL10)の産生低下がより大きかった。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
なお、本明細書に記載した全ての文献及び刊行物は、その目的にかかわらず参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする。
【0019】
本発明のノックアウト非ヒト動物は、LDL受容体(LDLR)遺伝子の全部又は一部、並びにIL27及び/又はIL27受容体(IL27R)遺伝子の全部又は一部の機能が喪失するように作出されたものである。
【0020】
LDLRノックアウト非ヒト動物に高脂肪食餌を摂取させることにより、動脈硬化症の発生を促すことができることが知られている。一方、IL27及び/又はIL27Rノックアウト非ヒト動物では、野生型非ヒト動物と比較して、動脈硬化病変の形成量に有意な差は無いことが広く知られている。ところが、本発明において、LDLR遺伝子、並びにIL27及び/又はIL27R遺伝子をノックアウトさせた非ヒト動物を作製したところ、該動物は、IL27及び/又はIL27R遺伝子をノックアウトせず、LDLR遺伝子のみをノックアウトさせた動物と比較して、動脈硬化病変の形成量がさらに増加することが分かった。このことから、本発明の動物は、ヒトの動脈硬化に類した病態を表すモデル動物として使用できる。
【0021】
1.本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物又はその一部
本発明のノックアウト非ヒト動物とは、該動物のLDLR遺伝子の全部又は一部、並びにIL27及び/又はIL27R遺伝子の全部又は一部がその本来の機能を発揮しないように、破壊されているか、又は組み換えがなされている動物を意味する。これらの遺伝子は、ゲノム上の一方のアリルが機能しないように破壊又は変異されたヘテロノックアウト(ヘテロ接合体)でもよく、両方のアリルが破壊又は変異されたホモノックアウト(ホモ接合体)でもよい。本発明のノックアウト非ヒト動物には、このような動物の子孫も含まれる。
【0022】
「遺伝子の全部の機能が失われた」とは、遺伝子が完全に失われることを意味し、「遺伝子の一部の機能が失われた」とは、遺伝子の一部が欠如することにより遺伝子の機能が野生型と比較して低下している状態にあることを意味する。従って、「その本来の機能を発揮しない」とは、LDLR、並びにIL27及び/又はIL27Rの発現自体が行なわれないようにするか、或いは発現してもタンパク質の活性が低下又は喪失していることを意味する。
【0023】
「ノックダウン」とは、特定の遺伝子の発現量を抑制することを意味する。遺伝子の発現量の抑制は、例えば、遺伝子の転写量を減少させること、翻訳を阻害することなどにより、達成することができる。本発明のノックダウン非ヒト動物とは、該動物のLDLR遺伝子、並びにIL27及び/又はIL27R遺伝子の発現量が、野生型と比較して低下している動物をいう。
【0024】
LDLR遺伝子は、LDLRをコードする遺伝子である。LDLRは、血中主要コレステロール運搬体であるLDLと結合し、LDLを細胞内に取り込む機能を有する。
【0025】
IL27遺伝子は、IL27をコードする遺伝子であり、IL27R遺伝子は、IL27Rをコードする遺伝子である。IL27は、IL27−p28とEpstein−Barr virus(EBV)−induced gene 3(EBI3)の2つの異なるサブユニットを含むサイトカインである。一方、IL27受容体(IL27R)は、WSX−1とglycoprotein 130とのヘテロダイマーで構成される。IL27は、例えば、単球、マクロファージ及び樹状細胞のような抗原提示細胞で発現する。
【0026】
本発明においてノックアウト又はノックダウンの対象となるIL27遺伝子は、例えば、EBI3遺伝子、及び/又はIL27−p28遺伝子である。また、本発明においてノックアウト又はノックダウンの対象となるIL27R遺伝子は、WSX−1遺伝子である。したがって、本発明においてノックアウト又はノックダウンの対象となる「IL27及び/又はIL27R遺伝子」とは、EBI3遺伝子、IL27−p28遺伝子及びWSX−1遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子を意味する。本発明においてノックアウト又はノックダウンの対象となる「IL27及び/又はIL27R遺伝子」は、好ましくは、EBI3遺伝子、IL27−p28遺伝子、又はWSX−1遺伝子である。
【0027】
本発明においてノックアウト又はノックダウンの対象となるLDLR遺伝子、EBI3遺伝子、IL27−p28遺伝子及びWSX−1遺伝子は公知であり、その塩基配列情報及びアミノ酸配列情報は、GenBank等のアクセッション番号から知ることができる。以下に、LDLR遺伝子、EBI3遺伝子、IL27−p28遺伝子及びWSX−1遺伝子の塩基配列情報及びアミノ酸配列情報を示すアクセッション番号を例示する。
【0028】
・マウスEBI3遺伝子のDNA配列:NM_015766(配列番号:1)、
・マウスEBI3のアミノ酸配列:NP_056581(配列番号:2)、
・ラットEBI3遺伝子のDNA配列:NM_001109421(配列番号:3)、
・ラットEBI3のアミノ酸配列:NP_001102891(配列番号:4)、
【0029】
・マウスIL27−p28遺伝子のDNA配列:NM_145636(配列番号:5)、
・マウスIL27−p28のアミノ酸配列:NP_663611(配列番号:6)、
【0030】
・マウスWSX−1遺伝子のDNA配列:NM_016671(配列番号:7)、
・マウスWSX−1のアミノ酸配列:NP_057880(配列番号:8)。
【0031】
本発明においてノックアウト又はノックダウンの対象となる非ヒト動物は、LDLR遺伝子、IL27遺伝子及びIL27R遺伝子を有するヒト以外の動物ならば、いかなる動物でもよいが、非ヒト哺乳動物が好ましい。非ヒト哺乳動物としては、例えば、ウシ、ミニブタ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、マウス、ラット、サル等が用いられる。非ヒト哺乳動物のなかでも、病態動物モデル系の作製の面から個体発生及び生物サイクルが比較的短く、また繁殖が容易なげっ歯動物、とりわけマウス又はラット等が特に好ましい。
【0032】
本発明において動物の一部とは、当該動物由来の組織、細胞、これらの破砕物又は抽出物、及び体液を意味し、特に限定されるものではない。非ヒト動物由来の組織としては、例えば、心臓、肺、腎臓、胆嚢、肝臓、膵臓、脾臓、腸、精巣(睾丸)、卵巣、子宮、胎盤、筋肉、血管、脳、骨髄、甲状腺、胸腺、乳腺、リンパ節、血液等が挙げられる。
【0033】
本発明において動物由来の細胞としては、上記組織、臓器又は体液に含まれる細胞を意味し、単離及び培養して得られる培養細胞も含まれる。細胞は、例えば、マクロファージ、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、心筋細胞、骨髄細胞、リンパ球等の各種の細胞が挙げられる。培養細胞としては、初代培養細胞及びその株化細胞の両者を含む。発生段階(胎生期)における組織、各器官、細胞、破砕物又は抽出物及び体液も非ヒト動物の一部に含まれる。
【0034】
さらに、動物由来の血液、リンパ液、尿等の体液も本発明において動物の一部に含まれる。
【0035】
本発明のノックアウト非ヒト動物は、例えば高脂肪食を摂取させた時などに動脈硬化病変を多数形成し、その動脈硬化の形成量が、野生型非ヒト動物やLDLRノックアウト非ヒト動物と比較して、有意に増加していた。したがって、本発明のノックアウト又はノックダウン非ヒト動物は、動脈硬化若しくは動脈硬化性疾患モデル動物又はその一部として使用することができる。
【0036】
動脈硬化性疾患としては、脳動脈疾患(例、脳梗塞、脳出血など)、冠動脈疾患(例、心筋梗塞、狭心症などの虚血性心疾患など)、大動脈疾患(例、大動脈瘤、大動脈解離など)、腎動脈疾患(例、腎硬化症、腎硬化症などに起因する腎不全など)、末梢動脈疾患(例、閉塞性動脈硬化症など)等を挙げることができる。大動脈疾患は、好ましくは、大動脈瘤である。
【0037】
2.ノックアウト非ヒト動物又はノックダウン非ヒト動物の作製
2.1.ノックアウト非ヒト動物の作製
本発明のノックアウト非ヒト動物は、定法に従って作製することができる。例えば、(1)LDLR遺伝子と、IL27及び/又はIL27R遺伝子とを不活性化させたES細胞を作製することによる方法、又は(2)LDLR遺伝子ノックアウト非ヒト動物と、IL27及び/又はIL27R遺伝子ノックアウト非ヒト動物との交配による方法を用いて、本発明のノックアウト非ヒト動物を作製することができる。
【0038】
2.1.1.LDLR遺伝子と、IL27及び/又はIL27R遺伝子とを不活性化させたES細胞を作製することによる方法
当該方法は、
(a)遺伝子のターゲティングによりLDLR遺伝子、並びにIL27遺伝子及び/又はIL27R遺伝子の全部又は一部の機能を欠損させたES細胞を作製すること、
(b)ES細胞を用いて、キメラ非ヒト動物を作製すること、
(c)キメラ非ヒト動物を野生型マウスと交配してヘテロノックアウト非ヒト動物を作製すること、
(d)ヘテロノックアウト非ヒト動物同士を交配して、ホモノックアウト非ヒト動物を作製すること、を含む。
以下、上記各工程について詳細に説明する。
【0039】
工程(a):遺伝子ターゲティング
遺伝子ターゲティングでは、先ず、目的遺伝子(LDLR遺伝子、並びにIL27遺伝子及び/又はIL27R遺伝子)の機能を喪失させ、或いはその機能が低下するように破壊又は組換えたDNA断片を作製する。目的遺伝子のターゲティングベクターは、目的遺伝子を破壊することにより当該遺伝子の全部又は一部を喪失させ、機能を全く失わせるか、或いは機能を低下させるものである。「遺伝子の全部を喪失させ」とは、遺伝子が完全に失われることを意味し、「遺伝子の一部を喪失させ」とは、遺伝子の一部が欠如することにより遺伝子の機能が野生型と比較して低下している状態にあることを意味する。従って、「遺伝子の全部又は一部を喪失させ」とは、目的遺伝子がコードするタンパク質の発現自体が行なわれないようにするか、或いは発現してもタンパク質の活性が失われているか、又は野生型と比較して低下していることを意味する。
【0040】
ターゲティングベクターは、相同組換えを起こさせた後の組換え体のスクリーニングが容易となるように構築することが好ましい。例えば、ポジティブ−ネガティブ選択をするために、ベクターに薬剤耐性遺伝子又は毒素遺伝子などの選択マーカーを連結することができる。ポジティブ−ネガティブ選別法は、当分野において周知である。すなわち、ポジティブ選別は、選択マーカー遺伝子が組み込まれなかった細胞は、薬剤を含む培養液で培養すると、耐性遺伝子を含まないために死ぬことを利用するものであり、ネガティブ選別法は、組み込みがランダムに起こった細胞では、ネガティブ選別用遺伝子が発現するために、細胞が死ぬことを利用するものである。その結果、相同組換えを起こした細胞のみが生き残り、選別される。
【0041】
選択マーカー遺伝子は、ポジティブ選択用として例えばネオマイシン耐性遺伝子(neo)、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子などを使用することができ、ネガティブ選択用として例えばヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV−tk)、ジフテリア毒素A遺伝子などを使用することができる。
【0042】
上記の方法により作製したターゲティングベクターを用いて、相同組換えを行う。現在確立されている遺伝子ターゲティング法では、ノックアウト非ヒト動物を作製する場合には、ES細胞を使用することが望ましい。ES細胞として、TT2細胞、AB−1細胞、J1細胞、R1細胞などを適宜選択して使用することができる。
【0043】
相同組換えを起こさせるために、目的遺伝子の機能を喪失させたターゲティングベクターを細胞中に導入する。ターゲティングベクターを細胞に導入する方法としては、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、DEAE−デキストラン法、リポソーム法などを使用することができる。効率、作業の容易性などを考慮して、エレクトロポレーション法を用いることが好ましい。そして細胞中の目的とするゲノムDNA配列を、ターゲティングベクターの相同組換えによって置換する。
【0044】
相同組換え効率を高めるために、例えば、バクテリオファージP1由来の組換えシステムであるCre−loxPシステムを使用することができる。Creは組換え酵素であり、loxPと呼ばれる34塩基の配列を認識して、この部位で組換えを起こさせることが可能となる。従って、ターゲティングしたい遺伝子(目的遺伝子)をloxP配列とloxP配列との間にはさみ、Creリコンビナーゼ遺伝子を特異的プロモーター下流に組み込むことにより、部位特異的及び時期特異的にCreが産生されてloxPで挟んだ遺伝子を切り取る(すなわち、目的遺伝子の機能を喪失させる)ことができる。
【0045】
その後、PCR法、サザンブロット法等により、目的遺伝子がターゲティングされているか否かを確認する。
【0046】
PCRにおいて、プライマーは、例えばターゲティングベクターの外側のゲノムDNA領域上、及びターゲティングベクターの配列のうち薬剤耐性遺伝子上から設計することができる。
【0047】
サザンブロット解析は、例えば以下の通り行うことができる。ターゲティングベクターに含まれないゲノム領域を認識する1又は2種類のプローブを設計する。目的遺伝子ゲノムを含むクローンを適当な制限酵素で処理することにより得られるDNA断片と、上記プローブとのハイブリダイゼーションを行なうことにより、目的遺伝子の破壊の有無を確認することができる。
【0048】
工程(b):キメラ非ヒト動物の作製
相同組換えの結果得られた組換えES細胞を、8細胞期又は胚盤胞の胚内に移植する。このES細胞移植胚を偽妊娠仮親の子宮内に移植して出産させることによりキメラ動物を作製する。
【0049】
ES細胞を胚内に移植する方法として、マイクロインジェクション法、凝集法などの公知手法を用いることができる。
【0050】
マウスの場合、まず、ホルモン剤により過排卵処理を施した雌マウスを、雄マウスと交配させる。その後、8細胞期胚を用いる場合には受精から2.5日目に、胚盤胞を用いる場合には受精から3.5日目に、それぞれ卵管又は子宮から初期発生胚を回収する。回収した胚に、相同組換えを行ったES細胞を注入し、キメラ胚を作製する。
【0051】
一方、仮親にするための偽妊娠雌マウスは、正常性周期の雌マウスを、精管結紮などにより去勢した雄マウスと交配することにより得ることができる。作出した偽妊娠マウスに対して、上述の方法により作製したキメラ胚を子宮内移植し、その後出産させることによりキメラマウスを作製することができる。
【0052】
マウス以外の非ヒト動物についても、上記と同様にして、キメラ非ヒト動物を作製することができる。
【0053】
工程(c):ヘテロノックアウト非ヒト動物の作製
上記のようにして得たキメラ非ヒト動物の中から、ES細胞移植胚由来の雄キメラ非ヒト動物を選択する。マウスの場合、選択したES細胞移植胚由来の雄マウスが成熟した後、このマウスを純系マウス系統の雌マウスと交配させる。そして、誕生した子マウスに、ES細胞に由来するマウス(ES細胞に組み込まれたゲノムを有していたマウス)の被毛色が現れることにより、ES細胞がキメラマウスの生殖系列へ導入されたことを確認することができる。そして、胚内に移植された組換えES細胞が生殖系列に導入された目的遺伝子欠損ヘテロノックアウト非ヒト動物を繁殖する。
【0054】
工程(d):ホモノックアウト非ヒト動物の作製
上記のようにして得た目的遺伝子ヘテロノックアウト非ヒト動物同士を交配させて、遺伝子欠損ホモノックアウト非ヒト動物を得ることができる。
【0055】
工程(c)又は(d)においてノックアウト非ヒト動物が得られたことの確認については、組織から染色体DNAを抽出しサザンブロット法やPCR法で行うことができる。さらに、組織からRNAを抽出し、ノーザンブロット解析により遺伝子の発現パターンを解析することもできる。目的遺伝子がコードするタンパク質に対する抗体を用いてウエスタンブロッティングを行なってもよい。
【0056】
また、樹立した動物系統について、ヘテロノックアウト非ヒト動物及びホモノックアウト非ヒト動物の表現型を解析することもできる。表現型の解析は、肉眼的観察、解剖による内部の観察、各臓器の組織切片、X線撮影による観察、行動や記憶の観察、血液検査や血清生化学検査行う。解析時期は、胎生期から成体までの任意の時期であってよく、特に限定されるものではない。
【0057】
2.1.2.LDLR遺伝子ノックアウト非ヒト動物と、IL27及び/又はIL27R遺伝子ノックアウト非ヒト動物との交配による方法
上記(1)LDLR遺伝子ノックアウト非ヒト動物と、IL27及び/又はIL27R遺伝子ノックアウト非ヒト動物との交配による方法は、具体的には、次のように行うことができる。
【0058】
LDLR遺伝子ホモノックアウト非ヒト動物(LDLR−/−)とIL27及び/又はIL27R遺伝子ホモノックアウト非ヒト動物(IL27(R)−/−)とを交配させて、F1ヘテロノックアウト非ヒト動物(LDLR+/−/IL27(R)+/−)を作出することができる。ホモノックアウト非ヒト動物を作出する場合には、このF1ヘテロノックアウト非ヒト動物同士をかけ合わせることで、F2ホモノックアウト非ヒト動物(LDL−/−/IL27(R)−/−)を得ることができる。
【0059】
ノックアウト非ヒト動物が得られたことの確認は、前記と同様に行うことができる。
【0060】
本発明のノックアウト非ヒト動物を作製するために使用するLDLR遺伝子ノックアウト非ヒト動物や、IL27及び/又はIL27R遺伝子ノックアウト非ヒト動物は、市販のものを入手しても良いし、或いは、標準的な方法で作製して入手しても良い。
【0061】
マウスの場合、市販のものについては、例えば、LDLR遺伝子ホモノックアウトマウスはジャクソンラボラトリー社(カタログ番号007068)より入手することができる。
【0062】
標準的な作製方法については、例えば、
(a)遺伝子のターゲティングによりLDLR遺伝子、IL27遺伝子、又はIL27R遺伝子の全部又は一部の機能を欠損させたES細胞を作製すること、
(b)ES細胞を用いて、キメラ非ヒト動物を作製すること、
(c)キメラ非ヒト動物を野生型マウスと交配してヘテロノックアウト非ヒト動物を作製すること、
(d)ヘテロノックアウト非ヒト動物同士を交配して、ホモノックアウト非ヒト動物を作製すること、などを含む方法により、ノックアウト非ヒト動物を作製することができる。
【0063】
上記(a)〜(d)の各工程の詳細は、目的遺伝子がLDLR遺伝子、IL27遺伝子、又はIL27R遺伝子であることを除き、前述した方法と同様である。
【0064】
尚、EBI3遺伝子ノックアウトマウスの作製方法は、例えば、Igawa, T., Nakashima, H., Sadanaga, A., Masutani, K., Miyake, K., Shimizu, S., Takeda, A., Hamano, S., Yoshida, H. (2009) Deficiency in EBV−induced gene 3 (EBI3) in MRL/lpr mice results in pathological alteration of autoimmune glomerulonephritis and sialadenitis. Mod Rheumatol 19, 33−41.などにも記載されている。また、WSX−1遺伝子ノックアウトマウスの作製方法は、例えば、Yoshida, H., Hamano, S., Senaldi, G., Covey, T., Faggioni, R., Mu, S., Xia, M., Wakeham, A.C., Nishina, H., Potter, J., Saris, C.J., Mak, T.W. (2001) WSX−1 Is Required for the Initiation of Th1 Responses and Resistance to L. major Infection. Immunity 15, 569−78.などにも記載されている。
【0065】
2.2.ノックダウン非ヒト動物の作製
本発明のノックダウン非ヒト動物は、公知の方法に従って、非ヒト動物のLDLR遺伝子、並びにIL27遺伝子及び/又はIL27R遺伝子(以下、「LDLR遺伝子等」とする。)の発現を抑制することにより、作製することができる。
【0066】
LDLR遺伝子等の発現抑制には、例えばRNA干渉(RNAi)を利用することができるが、特にこれに限定されるものではない。例えば、LDLR遺伝子等に対するsiRNA(small interfering RNA)を設計及び合成し、これを、レトロウイルスベクターやアデノウイルスベクターに組み込んで非ヒト動物に導入することによりRNAiを引き起こすことができる。
【0067】
RNAiとは、dsRNA(double−strand RNA)が標的遺伝子に特異的かつ選択的に結合し、当該標的遺伝子を切断することによりその発現を効率よく阻害する現象である。例えば、dsRNAを非ヒト動物に導入すると、そのRNAと相同配列の遺伝子の発現が抑制(ノックダウン)される。
【0068】
(1)siRNA
siRNAの設計は、以下の通り行なうことができる。
(a) LDLR、IL27、又はIL27Rをコードする遺伝子であれば特に限定されるものではなく、任意の領域を全て候補にすることが可能である。
(b) 選択した領域から、AAで始まる配列であって長さが18〜30塩基のもの、あるいは、AAを5’側に加えたときの長さが18〜30塩基、好ましくは19〜23塩基の配列を選択する。その配列のGC含量は、例えば30〜70%となるものを選択すればよく、50%前後が好ましい。また、そのGC分布に偏りがないものを選択するとよい。
(c) 選択した配列の3’側にdT又はUの2残基のオーバーハングを加えるとよい。
(d) BLASTサーチをおこない、選択した配列に類似した配列を有するタンパク質が存在しないことを確認することが好ましい。
【0069】
さらに、数種類のsiRNAを同時に非ヒト動物に導入することにより、遺伝子の発現をより効果的に抑制できることがある。
【0070】
siRNA合成の別法としてDicer法がある。Dicer法の概要とは以下の通りである。まず、LDLR、IL27、又はIL27Rをコードする遺伝子の配列のスタートコドンから500 bp〜1 kbpの遺伝子配列をベクター等に組み込み、その遺伝子配列のセンスRNAとアンチセンスRNAを転写させた後、アニーリングしてdsRNAを作製する。次に、RNase IIIファミリーに属するDicer Enzymeにより、このds−RNAを3’末端側に2塩基の突出末端をもつ21−23塩基のsiRNAにプロセッシングさせる。
【0071】
(2)shRNA
また、本発明は、RNAi効果をもたらすためにshRNAを使用することもできる。shRNA とは、ショートヘアピンRNA(short hairpin RNA)と呼ばれ、一本鎖の一部の領域が他の領域と相補鎖を形成するためにステムループ構造を有するRNA分子である。このステムループ構造を有するRNA分子は生体内のDicer等によりプロセッシングを受け、siRNAが産生される。
shRNAは、その一部がステムループ構造を形成するように設計することができる。例えば、ある領域の配列を「配列A」とし、配列Aに対する相補鎖を「配列B」とすると、配列A、スペーサー、配列Bの順になるようにこれらの配列が一本のRNA鎖に存在するようにし、全体で42〜120塩基の長さとなるように設計する。配列Aは、標的となるLDLR、IL27、又はIL27Rをコードする遺伝子の一部の領域の配列であり、標的領域は特に限定されるものではなく、任意の領域を候補にすることが可能である。そして配列Aの長さは18〜50塩基、好ましくは21〜30塩基である。
【0072】
また、LDLR遺伝子等の発現抑制には、マイクロRNA(miRNA)を利用することもできる。miRNAは小分子RNAであり、自身と相補的な配列をもつmRNAからのタンパク質への翻訳を阻害することなどにより、特定の遺伝子の発現を抑制することができる。
【0073】
miRNAは、特定の遺伝子のmRNAを認識するように設計することができる。そのように設計するmiRNAの塩基配列の長さは、例えば、18〜25塩基(例、約22塩基)である。
【0074】
3.ノックアウト細胞又はノックダウン細胞
本発明のノックアウト細胞とは、該細胞のLDLR遺伝子の全部又は一部、並びにIL27及び/又はIL27R遺伝子の全部又は一部がその本来の機能を発揮しないように、破壊されているか、又は組み換えがなされている細胞を意味する。LDLR遺伝子は、ゲノム上の一方のアリルが機能しないように破壊又は変異されたヘテロノックアウト(ヘテロ接合体)でもよく、両方のアリルが破壊又は変異されたホモノックアウト(ホモ接合体)でもよい。
【0075】
「遺伝子の全部」とは、遺伝子が完全に失われることを意味し、「遺伝子の一部」とは、遺伝子の一部が欠如することにより遺伝子の機能が野生型と比較して低下している状態にあることを意味する。従って、「その本来の機能を発揮しない」とは、LDLR、並びにIL27及び/又はIL27Rの発現自体が行なわれないようにするか、或いは発現してもタンパク質の活性が低下又は喪失していることを意味する。
【0076】
また、本発明のノックダウン細胞とは、該細胞のLDLR遺伝子、並びにIL27及び/又はIL27R遺伝子の発現量が、野生型と比較して低下している細胞をいう。
【0077】
本発明においてノックアウト又はノックダウンの対象となるLDLR遺伝子、EBI3遺伝子、IL27−p28遺伝子及びWSX−1遺伝子は公知であり、その塩基配列情報及びアミノ酸配列情報は、GenBank等のアクセッション番号から知ることができる。以下に、ヒトのLDLR遺伝子、EBI3遺伝子、IL27−p28遺伝子及びWSX−1遺伝子の塩基配列情報及びアミノ酸配列情報を示すアクセッション番号を例示する。ヒト以外の遺伝子についての塩基配列情報及びアミノ酸配列情報を示すアクセッション番号は、前記例示した通りである。
【0078】
・ヒトLDLR遺伝子のDNA配列:NM_000527(配列番号:9)、
・ヒトLDLRのアミノ酸配列:NP_000518(配列番号:10)、
【0079】
・ヒトEBI3遺伝子のDNA配列:NM_005755(配列番号:11)、
・ヒトEBI3のアミノ酸配列:NP_005746(配列番号:12)、
【0080】
・ヒトIL27−p28遺伝子のDNA配列:NM_145659(配列番号:13)、
・ヒトIL27−p28のアミノ酸配列:NP_663634(配列番号:14)、
【0081】
・ヒトWSX−1遺伝子のDNA配列:NM_004843(配列番号:15)、
・ヒトWSX−1のアミノ酸配列:NP_004834(配列番号:16)。
【0082】
本発明のノックアウト又はノックダウン細胞は、単離された培養細胞であり、LDLR遺伝子、IL27遺伝子及び/又はIL27R遺伝子を発現する細胞由来であるならば、特に限定されない。ノックアウト又はノックダウン細胞としては、動物由来細胞がより好ましい。動物由来細胞としては、ヒト由来細胞であっても非ヒト動物由来細胞であってもよい。LDLR遺伝子、IL27遺伝子及び/又はIL27R遺伝子を発現する細胞は、例えば、単球、マクロファージ、樹状細胞、ヒト線維芽細胞、CHO細胞、サル細胞COS−7、Vero、マウスL細胞、ラットGH3、ヒトFL細胞、中枢神経系細胞、末梢神経系細胞、神経芽細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞等の各種の細胞が挙げられる。本発明のいくつかの態様では、ノックアウト又はノックダウン細胞は、LDLR遺伝子、IL27遺伝子及びIL27R遺伝子を発現する動物細胞由来の単離細胞である。LDLR遺伝子、IL27遺伝子及びIL27R遺伝子を発現する細胞としては、例えば、単球、マクロファージ、樹状細胞、Tリンパ球、ヒト線維芽細胞、筋細胞、心筋細胞、血管内皮細胞、膵臓ランゲルハンス島細胞等が挙げられる。培養細胞としては、初代培養細胞及びその株化細胞の両者を含む。
【0083】
本発明のノックアウト細胞は、本発明のノックアウト非ヒト動物と同様、LDLR遺伝子の全部又は一部、並びにEBI3遺伝子、IL27−p28遺伝子及びWSX−1遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の全部又は一部の機能が失われている。また、本発明のノックダウン細胞は、LDLR遺伝子、並びにIL27及び/又はIL27R遺伝子の発現量が、野生型と比較して低下している。したがって、本発明のノックアウト又はノックダウン細胞は、動脈硬化若しくは動脈硬化性疾患モデル細胞として使用することもできる。
動脈硬化性疾患としては、脳動脈疾患(例、脳梗塞、脳出血など)、冠動脈疾患(例、心筋梗塞、狭心症などの虚血性心疾患など)、大動脈疾患(例、大動脈瘤、大動脈解離など)、腎動脈疾患(例、腎硬化症、腎硬化症などに起因する腎不全など)、末梢動脈疾患(例、閉塞性動脈硬化症など)等を挙げることができる。
【0084】
4.ノックアウト又はノックダウン細胞の作製
4.1.ノックアウト細胞の作製
本発明のノックアウト細胞は、遺伝子のターゲティングによりLDLR遺伝子、並びにIL27遺伝子及び/又はIL27R遺伝子の全部又は一部の機能を欠損させることにより得ることができる。
【0085】
遺伝子ターゲティングは、前記「LDLR遺伝子と、IL27及び/又はIL27R遺伝子とを不活性化させたES細胞を作製することによる方法」の項で説明した、遺伝子ターゲティングの方法に準じて行うことができる。
【0086】
4.2.ノックダウン細胞の作製
本発明のノックダウン細胞は、公知の方法に従って、LDLR遺伝子、並びにIL27遺伝子及び/又はIL27R遺伝子(以下、「LDLR遺伝子等」とする。)の発現を抑制させることにより、作製することができる。
【0087】
LDLR遺伝子等の発現抑制には、例えばRNA干渉(RNAi)を利用することができるが、特にこれに限定されるものではない。LDLR遺伝子等に対するsiRNA又はshRNAを設計及び合成し、これを細胞内に導入させることによって、RNAiを引き起こすことができる。
【0088】
RNAiとは、dsRNA(double−strand RNA)が標的遺伝子に特異的かつ選択的に結合し、当該標的遺伝子を切断することによりその発現を効率よく阻害する現象である。例えば、dsRNAを細胞内に導入すると、そのRNAと相同配列の遺伝子の発現が抑制(ノックダウン)される。
【0089】
siRNA及びshRNAの設計法は、前記と同様である。
【0090】
siRNA又はshRNAを細胞に導入するには、in vitroで合成したsiRNA又はshRNAをプラスミドDNAに連結してこれを細胞に導入する方法などを採用することができる。
【0091】
また、LDLR遺伝子等の発現抑制には、マイクロRNA(miRNA)を利用することもできる。miRNAは小分子RNAであり、自身と相補的な配列をもつmRNAからのタンパク質への翻訳を阻害することなどにより、特定の遺伝子の発現を抑制することができる。
【0092】
miRNAの設計方法は、前記と同様である。
【0093】
5.動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬のスクリーニング方法
本発明は、動脈硬化又は動脈硬化性疾患を発症した本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物若しくはその一部又は本発明のノックアウト若しくはノックダウン細胞(以下、「本発明のノックアウト非ヒト動物等」という場合がある。)に、動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療のための薬物の候補物質(被験物質)を接触させることにより、動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬をスクリーニングすることができる。例えば、動脈硬化又は動脈硬化性疾患を発症した本発明のノックアウト非ヒト動物等に薬物候補物質を接触させ、前記候補物質を接触させた本発明のノックアウト非ヒト動物等において標的とする疾患と相関関係を有する指標(例えば、動脈硬化の形成量、動脈硬化病変の組織像、動脈硬化を生じている臓器・組織の機能障害の程度、血液中の代用マーカー、内皮細胞における接着分子(VCAM1等)の発現、培養心筋細胞においてアンジオテンシンIIやβアドレナリン作動薬で誘導されるアミノ酸取り込み(例、Hロイシンの取り込み)や細胞肥大(例、位相差顕微鏡で観察される細胞面積)、マクロファージのサイトカイン産生・蛋白分解酵素産生・変性脂質取り込み、Tリンパ球のサイトカイン(例、IL6、IL12等の炎症性サイトカイン)の産生や遊走、筋細胞の生理活性物質産生(例、VEGF、FGF等の成長因子・ペプチド産生)等)を測定し、対照と比較し、この比較結果に基づいて、動脈硬化又は動脈硬化性疾患の症状を軽減又は消滅させるか否かを確認することで、候補物質をスクリーニングすることができる。
【0094】
本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物を候補物質で接触させる方法としては、例えば、経口投与、静脈注射、塗布、皮下投与、皮内投与、腹腔投与などが用いられ、試験動物の症状、候補物質の性質などにあわせて適宜選択することができる。また、候補物質の投与量は、投与方法、候補物質の性質などにあわせて適宜選択することができる。
【0095】
本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物の一部又は本発明のノックアウト若しくはノックダウン細胞(以下、「本発明のノックアウト非ヒト動物の一部等」とする。)を候補物質で接触させる方法としては、例えば、本発明のノックアウト非ヒト動物の一部等と候補物質とを同一の反応系又は培養系に存在させる方法を用いることができる。より具体的には、本発明のノックアウト非ヒト動物の一部等の培養容器に候補物質を添加すること、本発明のノックアウト非ヒト動物の一部等と候補物質とを混合すること、本発明のノックアウト非ヒト動物の一部等を候補物質の存在下で培養すること等が挙げられる。また、接触させる候補物質量は、投与方法、候補物質の性質などにあわせて適宜選択することができる。
【0096】
動脈硬化は、例えば、高脂肪食を摂取させることにより本発明のノックアウト非ヒト動物等に誘発させることができる。また、動脈硬化性疾患の一つである大動脈瘤は、例えば、アンジオテンシンIIを投与することにより本発明のノックアウト非ヒト動物等に誘発させることができる。
【0097】
比較のための対照は、例えば、被験物質を接触させない野生型非ヒト動物若しくはその一部又は野生型細胞(以下、「野生型非ヒト動物等」とする。)、被験物質を接触させた野生型非ヒト動物等、動脈硬化改善作用を有することが分かっている物質(既知の動脈硬化治療薬等)を接触させた野生型非ヒト動物等、被験物質を接触させないLDLR遺伝子ノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物若しくはその一部又はLDLR遺伝子ノックアウト若しくはノックダウン細胞(以下、「LDLR遺伝子ノックアウト非ヒト動物等」とする。)、被験物質を接触させたLDLR遺伝子ノックアウト非ヒト動物等、既知の動脈硬化治療薬等を接触させたLDLR遺伝子ノックアウト非ヒト動物等、被験物質を接触させない本発明のノックアウト非ヒト動物等、既知の動脈硬化治療薬等を接触させた本発明のノックアウト非ヒト動物等のいずれをも意味し、目的に応じて少なくとも1つの対照を適宜選択することができる。
【0098】
ここで、「野生型非ヒト動物若しくはその一部」とは、LDLR遺伝子、IL27遺伝子及びIL27R遺伝子のいずれもが正常に発現し、機能している非ヒト動物又はその一部を意味する。「野生型細胞」とは、LDLR遺伝子、IL27遺伝子及びIL27R遺伝子のいずれもが正常に発現し、機能している細胞を意味する。「LDLR遺伝子ノックアウト非ヒト動物」とは、LDLR遺伝子の全部又は一部の機能が失われているが、EBI3遺伝子、IL27−p28遺伝子及びWSX−1遺伝子の機能が失われていない非ヒト動物を意味する。「LDLR遺伝子ノックアウト細胞」とは、LDLR受容体遺伝子の全部又は一部の機能が失われているが、EBI3遺伝子、IL27−p28遺伝子及びWSX−1遺伝子の機能が失われていない細胞を意味する。LDLR遺伝子ノックアウト細胞は、前記「ノックアウト細胞の作製」に記載の方法と同様にして作製したものを使用することができる。「LDLR遺伝子ノックダウン細胞」とは、該細胞のLDLR遺伝子の発現量が野生型と比較して低下しているが、IL27及びIL27R遺伝子は正常に発現し、機能している細胞をいう。LDLR遺伝子ノックダウン細胞は、前記「ノックダウン細胞の作製」の項に記載の方法と同様にして作製したものを使用することができる。
【0099】
上記に「対照」として例示したLDLR遺伝子ノックアウト非ヒト動物は、本発明のノックアウト非ヒト動物と比較して、動脈硬化又は動脈硬化性疾患(以下、「動脈硬化等」とする。)が軽度である。これは、LDLR遺伝子ノックアウト非ヒト動物では、IL27シグナルが不活性な本発明のノックアウト非ヒト動物と異なり、IL27シグナルが正常であるためと考えられる。このIL27シグナルが正常なLDLR遺伝子ノックアウト非ヒト動物と同程度又はそれよりも軽度になるように、本発明のノックアウト非ヒト動物の動脈硬化等を治療することができる物質は、IL27シグナルに選択的に働く動脈硬化等治療薬となり得る。したがって、例えば、対照が候補物質を接触させないLDLR遺伝子ノックアウト非ヒト動物の場合には、候補物質を接触させた本発明のノックアウト非ヒト動物の動脈硬化の形成量を測定し、当該測定された動脈硬化の形成量が、対照における動脈硬化の形成量と同等になったとき又はそれよりも低下したときは、前記候補物質を、動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬として選択することができる。また、対照が候補物質を接触させないLDLR遺伝子ノックアウト非ヒト動物の場合に、候補物質を接触させた本発明のノックアウト非ヒト動物の大動脈瘤の発生頻度を測定し、当該測定された大動脈瘤の発生頻度が、対照における大動脈瘤の発生頻度と同等になったとき又はそれよりも低下したときは、前記候補物質を、動脈硬化性疾患治療薬(特には、大動脈瘤治療薬)として選択することもできる。そして、本発明のノックアウト非ヒト動物の動脈硬化の形成量又は動脈瘤の発生頻度が、対照における動脈硬化の形成量又は動脈瘤の発生頻度と同等となるような候補物質は、IL27シグナルに選択的に作用する動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬となり得る。
【0100】
候補物質としては、例えば、ペプチド、タンパク、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、細胞培養上清、植物抽出液、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒトなど)の組織抽出液、血漿などが挙げられ、これら化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。これら候補物質は塩を形成していてもよく、候補物質の塩としては、生理学的に許容される酸(例えば、有機酸又は無機酸など)や塩基(例えば、金属酸など)などとの塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸など)との塩、或いは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸など)との塩などが用いられる。
【0101】
例えば、ある候補物質を投与した場合に、動脈硬化又は動脈硬化性疾患の症状が緩和若しくは消失したことが確認できる結果が得られれば、用いた候補物質を、動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬として選択することが可能である。
【0102】
より具体的には、動脈硬化の形成量を指標とする場合には、次のようにスクリーニングを行う。動脈硬化の形成量は、例えば、後述の実施例に示したように、大動脈を摘出し、摘出した大動脈の内膜側総面積と動脈硬化巣の総面積を測定し、動脈硬化巣の総面積を大動脈の内膜側総面積で除し、動脈硬化巣の大動脈の内膜に占める割合を算出することにより求めることができる。そして、対照との比較結果に基づいて、本発明のノックアウト非ヒト動物等の動脈硬化の形成量を減少又は消滅させる候補物質を、動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬として選択する。例えば、対照が上記「被験物質を接触させたLDLR遺伝子ノックアウト非ヒト動物等」である場合には、本発明のノックアウト非ヒト動物等の動脈硬化の形成量を、対照における動脈硬化の形成量と同等とする又はそれよりも低下(例えば、5%以上、10%以上、15%以上又は20%以上低下)させる候補物質を、動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬として選択する。また、対照が上記「被験物質を接触させない本発明のノックアウト非ヒト動物等」である場合には、本発明のノックアウト非ヒト動物等の動脈硬化の形成量を、対照における動脈硬化の形成量よりも低下(例えば、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、70%以上、90%以上又は100%以上低下)させる候補物質を、動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬として選択する。
【0103】
動脈硬化病変の組織像を指標とする場合には、次のようにスクリーニングを行う。動脈硬化病変の組織像は、マウスから摘出した大動脈組織標本において内皮細胞接着分子、マクロファージ・血管平滑筋マーカーによる染色を行う。そして、対照との比較結果に基づいて、各染色を減弱させる候補物質を、動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬として選択する。例えば、対照が上記「被験物質を接触させたLDLR遺伝子ノックアウト非ヒト動物等」である場合には、本発明のノックアウト非ヒト動物等の上記染色の程度を対照における染色の程度と同等とする又はそれよりも減衰(例えば、5%以上、10%以上、15%以上又は20%以上減衰)させる候補物質を、動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬として選択する。また、対照が上記「被験物質を接触させない本発明のノックアウト非ヒト動物等」である場合には、本発明のノックアウト非ヒト動物等の染色の程度を、対照における染色の程度よりも減衰(例えば、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、70%以上、90%以上又は100%以上減衰)させる候補物質を、動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬として選択する。上記「染色の程度」は、CCDカメラで病理組織像を撮像後、画像解析ソフトで数値化し定量評価することにより数値化することができる。
【0104】
動脈硬化を生じている臓器・組織の機能障害の程度を指標とする場合には、次のようにスクリーニングを行う。臓器・組織の機能障害としては、心臓ポンプ機能低下、腎機能低下、摘出血管弛緩能の低下、下肢血流低下と壊疽、大動脈瘤形成、脳障害による神経機能障害等が挙げられる。機能障害の程度は、例えば、心臓超音波と心臓圧・容積関係の測定;血液検査・尿検査・腎組織像による腎障害の評価;摘出血管の等尺収縮・弛緩;レーザードップラーによる下肢血流測定;生体におけるCTや摘出大動脈観察による大動脈携帯の評価;又は神経機能スコアによる神経機能評価やCTによる脳画像により求めることができる。そして、対照との比較結果に基づいて、心臓ポンプ機能低下を抑制、腎機能低下を抑制、摘出血管弛緩能の低下を抑制、下肢血流低下と壊疽を抑制、大動脈瘤形成を抑制又は脳障害による神経機能障害を抑制する候補物質を、動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬として選択する。例えば、対照が上記「被験物質を接触させたLDLR遺伝子ノックアウト非ヒト動物等」である場合には、本発明のノックアウト非ヒト動物等における、心臓ポンプ機能低下の程度、腎機能低下の程度、摘出血管弛緩能低下の程度、下肢血流低下と壊疽の程度、大動脈瘤形成の程度又は脳障害による神経機能障害の程度を、対照におけるものと同等とする又はそれよりも抑制(例えば、5%以上、10%以上、15%以上又は20%以上抑制)させる候補物質を、動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬として選択する。また、対照が上記「被験物質を接触させない本発明のノックアウト非ヒト動物等」である場合には、本発明のノックアウト非ヒト動物等における、心臓ポンプ機能低下の程度、腎機能低下の程度、摘出血管弛緩能低下の程度、下肢血流低下と壊疽の程度、大動脈瘤形成の程度又は脳障害による神経機能障害の程度を、対照におけるものよりも抑制(例えば、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、70%以上、90%以上又は100%以上抑制)させる候補物質を、動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬として選択する。上記「心臓ポンプ機能低下の程度」、「腎機能低下の程度」、「摘出血管弛緩能低下の程度」、「下肢血流低下と壊疽の程度」、「大動脈瘤形成の程度」及び「脳障害による神経機能障害の程度」は、それぞれ、次のようにして数値化することができる。すなわち、心臓ポンプ機能低下の程度としては心臓超音波法で計測される%FS又はLVEF;腎機能低下の程度としては尿蛋白量、血中尿素窒素値又は血中クレアチニン値;摘出血管弛緩能低下の程度としては一酸化窒素供給体による血管弛緩;下肢血流低下と壊疽の程度としてはレーザードップラー血流計による血流測定又は壊疽発生頻度;大動脈瘤形成の程度としては摘出大動脈の肉眼的観察・測定による大動脈瘤の発生頻度又は大動脈径;及び脳障害による神経機能障害の程度については歩容(歩き方)を含むスコアの点数で、それぞれ定量評価できる。
【0105】
血液中の代用マーカーを指標とする場合には、次のようにスクリーニングを行う。血液中の代用マーカーとしては、高感度CRP、PTXなどの炎症マーカー、IL6などの炎症性サイトカイン等が挙げられる。血液中の代用マーカーの量は、ELISAやLuminex microbeads法により求めることができる。そして、対照との比較結果に基づいて、炎症マーカー量又は炎症性サイトカイン量を減少させる候補物質を、動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬として選択する。例えば、対照が上記「被験物質を接触させたLDLR遺伝子ノックアウト非ヒト動物等」である場合には、本発明のノックアウト非ヒト動物等の炎症マーカー量又は炎症性サイトカイン量を対照におけるものと同等とする又はそれよりも低下(例えば、5%以上、10%以上、15%以上又は20%以上低下)させる候補物質を、動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬として選択する。また、対照が上記「被験物質を接触させない本発明のノックアウト非ヒト動物等」である場合には、本発明のノックアウト非ヒト動物等の炎症マーカー量又は炎症性サイトカイン量を、対照におけるものよりも低下(例えば、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、70%以上、90%以上又は100%以上低下)させる候補物質を、動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬として選択する。
【0106】
内皮細胞における接着分子の発現を指標とする場合には、次のようにスクリーニングを行う。内皮細胞における接着分子としては、VCAM1、ICAM1等が挙げられる。内皮細胞における接着分子の発現は、培養内皮細胞をTNFαの存在下で培養後、細胞表面に発現するVCAM1をフローサイトメータ等で測定する。培養の際、培養液に対照あるいは候補物質を同時添加する。そして、対照との比較結果に基づいて、接着分子の発現を減少させる候補物質を、動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬として選択する。例えば、対照が上記「被験物質を接触させたLDLR遺伝子ノックアウト非ヒト動物等」である場合には、本発明のノックアウト非ヒト動物等の内皮細胞における接着分子の発現量を対照におけるものと同等とする又はそれよりも低下(例えば、5%以上、10%以上、15%以上又は20%以上低下)させる候補物質を、動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬として選択する。また、対照が上記「被験物質を接触させない本発明のノックアウト非ヒト動物等」である場合には、本発明のノックアウト非ヒト動物等の接着分子の発現量を、対照におけるものよりも低下(例えば、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、70%以上、90%以上又は100%以上低下)させる候補物質を、動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬として選択する。
【0107】
培養心筋細胞においてアンジオテンシンIIやβアドレナリン作動薬で誘導されるアミノ酸取り込み(例、Hロイシンの取り込み)や細胞肥大(例、位相差顕微鏡で観察される細胞面積)を指標とする場合には、次のようにスクリーニングを行う。培養心筋細胞においてアンジオテンシンIIやβアドレナリン作動薬で誘導されて取り込まれるアミノ酸としては、ロイシン等が挙げられる。培養心筋細胞においてアンジオテンシンIIやβアドレナリン作動薬で誘導されるアミノ酸取り込みや細胞肥大は、それぞれ、Hロイシンを添加した培養液で心筋細胞を培養し、一定時間後に心筋細胞中のHロイシンを液体シンチレーションカウンターで計測することで、細胞肥大にともなうアミノ酸取り込みを評価する。心筋細胞サイズは、培養心筋細胞を位相差顕微鏡で観察・撮像後、画像解析ソフトで細胞面積を測定する。心筋細胞肥大により、アミノ酸取り込みと心筋細胞面積は増加することにより求めることができる。そして、対照との比較結果に基づいて、アミノ酸取り込みと心筋細胞面積を減少させる候補物質を、動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬として選択する。例えば、対照が上記「被験物質を接触させたLDLR遺伝子ノックアウト非ヒト動物等」である場合には、本発明のノックアウト非ヒト動物等の上記アミノ酸取り込み量又は上記細胞肥大の程度を対照におけるものと同等とする又はそれよりも低下(例えば、5%以上、10%以上、15%以上又は20%以上低下)させる候補物質を、動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬として選択する。また、対照が上記「被験物質を接触させない本発明のノックアウト非ヒト動物等」である場合には、本発明のノックアウト非ヒト動物等の上記アミノ酸取り込み量又は上記細胞肥大の程度を、対照におけるものよりも低下(例えば、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、70%以上、90%以上又は100%以上低下)させる候補物質を、動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬として選択する。
【0108】
マクロファージのサイトカイン産生・蛋白分解酵素産生・変性脂質取り込みを指標とする場合には、次のようにスクリーニングを行う。マクロファージのサイトカインとしては、インターフェロンガンマ、IL6、IL12、IL1β、TNFα等が挙げられる。マクロファージの蛋白分解酵素としては、マトリックスメタロプロテアーゼ等が挙げられる。マクロファージに取り込まれる変性脂質としては、酸化LDL、アセチルLDL等が挙げられる。マクロファージのサイトカイン産生量・蛋白分解酵素産生量・変性脂質取り込み量は、それぞれ、次のようにして求めることができる。すなわち、サイトカイン産生量は、培養マクロファージで、一定時間培養した後の培地中のサイトカイン濃度をELISAやルミネックスマイクロビーズ法で測定することにより求めることができる。蛋白分解酵素産生量は、培養マクロファージからRNAを抽出し、マトリックスメタロプロテアーゼの遺伝子発現をRT−PCR法で定量化することにより求めることができる。アセチルLDLの取り込み量は、後述の実施例に記載の方法により求めることができる。そして、対照との比較結果に基づいて、サイトカイン産生、マトリックスメタロプロテアーゼ発現又はアセチルLDL取り込みを減少させる候補物質を、動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬として選択する。例えば、対照が上記「被験物質を接触させたLDLR遺伝子ノックアウト非ヒト動物等」である場合には、本発明のノックアウト非ヒト動物等の上記サイトカイン産生量、上記蛋白分解酵素産生量又は変性脂質取り込み量を対照におけるものと同等とする又はそれよりも低下(例えば、5%以上、10%以上、15%以上又は20%以上低下)させる候補物質を、動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬として選択する。また、対照が上記「被験物質を接触させない本発明のノックアウト非ヒト動物等」である場合には、本発明のノックアウト非ヒト動物等の上記サイトカイン産生量、上記蛋白分解酵素産生量又は変性脂質取り込み量を、対照におけるものよりも低下(例えば、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、70%以上、90%以上又は100%以上低下)させる候補物質を、動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬として選択する。
【0109】
Tリンパ球のサイトカイン(例、IL6、IL12等の炎症性サイトカイン)の産生や遊走を指標とする場合には、次のようにスクリーニングを行う。Tリンパ球のサイトカインとしては、IL6、IL12、インターフェロンガンマ、TNFα等の炎症性サイトカイン等が挙げられる。Tリンパ球のサイトカインの産生や遊走の程度は、それぞれ、次のようにして求めることができる。すなわち、サイトカインの産生量は、Tリンパ球を培養し一定時間後の培養上清中のサイトカイン濃度をELISAやルミネックスマイクロビーズ法で測定することにより求めることができる。遊走の程度は、トランスウエルを用い、ケモカインで誘導されるチャンバー間の移動細胞数を計測することにより求めることができる。そして、対照との比較結果に基づいて、サイトカイン産生量と遊走の程度を抑制する候補物質を、動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬として選択する。例えば、対照が上記「被験物質を接触させたLDLR遺伝子ノックアウト非ヒト動物等」である場合には、本発明のノックアウト非ヒト動物等の上記サイトカイン産生量又は上記遊走の程度を、対照におけるものと同等とする又はそれよりも低下(例えば、5%以上、10%以上、15%以上又は20%以上低下)させる候補物質を、動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬として選択する。また、対照が上記「被験物質を接触させない本発明のノックアウト非ヒト動物等」である場合には、本発明のノックアウト非ヒト動物等の上記サイトカイン産生量又は上記遊走の程度を、対照におけるものよりも低下(例えば、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、70%以上、90%以上又は100%以上低下)させる候補物質を、動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬として選択する。
【0110】
筋細胞の生理活性物質産生(例、VEGF、FGF等の成長因子・ペプチド産生)を指標とする場合には、次のようにスクリーニングを行う。筋細胞の生理活性物質としては、VEGF、FGF等の成長因子・ペプチド等が挙げられる。筋細胞の生理活性物質産生の程度は、それぞれ、一定時間培養した後、培養上清中の生理活性物質をELISAで測定すること、細胞から抽出したRNAを用いてRT−PCR法で遺伝子発現を検討することにより求めることができる。そして、対照との比較結果に基づいて、生理活性物質の遺伝子発現や産生を減少させる候補物質を、動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬として選択する。例えば、対照が上記「被験物質を接触させたLDLR遺伝子ノックアウト非ヒト動物等」である場合には、本発明のノックアウト非ヒト動物等の上記生理活性物質産生量を、対照におけるものと同等とする又はそれよりも低下(例えば、5%以上、10%以上、15%以上又は20%以上低下)させる候補物質を、動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬として選択する。また、対照が上記「被験物質を接触させない本発明のノックアウト非ヒト動物等」である場合には、本発明のノックアウト非ヒト動物等の上記生理活性物質産生量を、対照におけるものよりも低下(例えば、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、70%以上、90%以上又は100%以上低下)させる候補物質を、動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬として選択する。
【0111】
6.IL27シグナル活性化剤のスクリーニング方法
本発明は、本発明のノックアウト若しくはノックダウン非ヒト動物の一部、又は本発明のノックアウト若しくはノックダウン細胞(以下、「本発明のノックアウト非ヒト動物の一部等」という場合がある。)に、IL27シグナル活性化剤の候補物質(被験物質)を接触することにより、IL27シグナル活性化剤をスクリーニングすることができる。
【0112】
本スクリーニング方法においては、より具体的には、本発明のノックアウト非ヒト動物の一部等に薬物候補物質を接触させ、前記候補物質を接触させた本発明のノックアウト非ヒト動物の一部等において標的とするIL27シグナル活性化状態と相関関係を有する指標を測定し、対照と比較し、この比較結果に基づいて、IL27シグナル活性化を亢進させるか否かを確認することで、候補物質をスクリーニングすることができる。
【0113】
本発明のノックアウト非ヒト動物の一部等を候補物質で接触させる方法として、例えば、本発明のノックアウト非ヒト動物の一部等と候補物質とを同一の反応系又は培養系に存在させる方法を用いることができる。より具体的には、本発明のノックアウト非ヒト動物の一部等の培養容器に候補物質を添加すること、本発明のノックアウト非ヒト動物の一部等と候補物質とを混合すること、本発明のノックアウト非ヒト動物の一部等を候補物質の存在下で培養すること等が挙げられる。また、接触させる候補物質量は、投与方法、候補物質の性質などにあわせて適宜選択することができる。
【0114】
IL27シグナル活性化状態と相関関係を有する指標としては、本発明のノックアウト非ヒト動物の一部等がマクロファージ又はマクロファージ由来細胞である場合には、変性脂質の取り込み量、サイトカイン(例、IL6、IL12等の炎症性サイトカイン)の産生量、マトリックスプロテアーゼ(MMP)(例、MMP9等)遺伝子発現量、接着分子の発現量等を挙げることができる。本発明のノックアウト非ヒト動物の一部等が血管内細胞又は血管内細胞由来細胞である場合には、生存細胞数、細胞の増殖量、遊走の程度、白血球との接着量等を挙げることができる。本発明のノックアウト非ヒト動物の一部等が骨髄由来細胞である場合にはサイトカイン・ケモカインの産生量等を、脂肪組織由来細胞である場合には細胞形態、分化マーカー(アディポネクチン、PPARγ、C/EBPαおよびaP2等)の発現量等を、リンパ球の場合はサイトカイン産生量を挙げることができる。
【0115】
ここで、上記各指標は、公知の方法又はそれに準ずる方法で行うことができる。以下に、各指標の測定方法を具体的に示すが、これらに限定されない。
変性脂質の取り込み量の測定は、Requirement of JNK2 for scavenger receptor A−mediated foam cell formation in atherogenesis. Ricci R, Sumara G, Sumara I, Rozenberg I, Kurrer M, Akhmedov A, Hersberger M, Eriksson U, Eberli FR, Becher B, Boren J, Chen M, Cybulsky MI, Moore KJ, Freeman MW, Wagner EF, Matter CM, Luscher TF. Science. 2004;306:1558−15561.に記載の方法又はそれに準ずる方法で行うことができる。サイトカイン・ケモカインの産生量の測定は、An in vitro tumor model: analysis of angiogenic factor expression after chemotherapy. Keyes K, Cox K, Treadway P, Mann L, Shih C, Faul MM, Teicher BA. Cancer Res. 2002;62:5597−5602.に記載の方法又はそれに準ずる方法で行うことができる。MMP遺伝子発現量の測定は、Targeting prostaglandin E2 receptors as an alternative strategy to block cyclooxygenase−2−dependent extracellular matrix−induced matrix metalloproteinase−9 expression by macrophages. Pavlovic S, Du B, Sakamoto K, Khan KM, Natarajan C, Breyer RM, Dannenberg AJ, Falcone DJ. J Biol Chem. 2006 Feb 10;281(6):3321−3328.に記載の方法又はそれに準ずる方法で行うことができる。接着分子の発現量の測定は、Escherichia coli hemolysin and Staphylococcus aureas alpha−toxin potently induce neutrophil adhesion to cultured human endothelial cells. Krull M, Dold C, Hippenstiel S, Rosseau S, Lohmeyer J, Suttorp N. J Immunol. 1996 ;157:4133−4140.に記載の方法又はそれに準ずる方法で行うことができる。生存細胞数及び細胞の増殖量の測定は、Leishmania pifanoi amastigotes avoid macrophage production of superoxide by inducing heme degradation. Pham NK, Mouriz J, Kima PE. Infect Immun. 2005;73:8322−8333.に記載の方法又はそれに準ずる方法で行うことができる。細胞の遊走の程度の測定は、In vitro model of bromodeoxyuridine or iron oxide nanoparticle uptake by activated macrophages from labeled stem cells: implications for cellular therapy. Pawelczyk E, Arbab AS, Chaudhry A, Balakumaran A, Robey PG, Frank JA. Stem Cells. 2008;26:1366−1375.に記載の方法又はそれに準ずる方法で行うことができる。白血球との接着量の測定は、Histone deacetylase inhibitor reduces monocyte adhesion to endothelium through the suppression of vascular cell adhesion molecule−1 expression. Inoue K, Kobayashi M, Yano K, Miura M, Izumi A, Mataki C, Doi T, Hamakubo T, Reid PC, Hume DA, Yoshida M, Aird WC, Kodama T, Minami T. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2006;26:2652−2659.に記載の方法又はそれに準ずる方法で行うことができる。細胞形態の測定は、Overexpression of monocyte chemoattractant protein−1 in adipose tissues causes macrophage recruitment and insulin resistance. Kamei N, Tobe K, Suzuki R, Ohsugi M, Watanabe T, Kubota N, Ohtsuka−Kowatari N, Kumagai K, Sakamoto K, Kobayashi M, Yamauchi T, Ueki K, Oishi Y, Nishimura S, Manabe I, Hashimoto H, Ohnishi Y, Ogata H, Tokuyama K, Tsunoda M, Ide T, Murakami K, Nagai R, Kadowaki T. J Biol Chem. 2006;281:26602−26614.に記載の方法又はそれに準ずる方法で行うことができる。分化マーカーの発現量は、White fat progenitor cells reside in the adipose vasculature. Tang W, Zeve D, Suh JM, Bosnakovski D, Kyba M, Hammer RE, Tallquist MD, Graff JM. Science. 2008;322:583−586.に記載の方法又はそれに準ずる方法で行うことができる。
【0116】
比較のための対照は、被験物質を接触させない野生型非ヒト動物の一部又は野生型細胞(以下、「野生型非ヒト動物の一部等」とする。)、被験物質を接触させた野生型非ヒト動物の一部等、IL27シグナル活性化作用を有することが分かっている物質(既知のIL27シグナル活性化剤等)を接触させた野生型非ヒト動物の一部等、被験物質を接触させないLDLR遺伝子ノックアウト非ヒト動物の一部又はLDLR遺伝子ノックアウト細胞(以下、「LDLR遺伝子ノックアウト非ヒト動物の一部等」とする。)、被験物質を接触させたLDLR遺伝子ノックアウト非ヒト動物の一部等、既知のIL27シグナル活性化剤等を接触させたLDLR遺伝子ノックアウト非ヒト動物の一部等、被験物質を接触させない本発明のノックアウト非ヒト動物の一部等、既知のIL27シグナル活性化剤等を接触させた本発明のノックアウト非ヒト動物の一部等のいずれをも意味し、目的に応じて少なくとも1つの対照を適宜選択することができる。
【0117】
上記に「対照」として例示したLDLR遺伝子ノックアウト非ヒト動物の一部等は、本発明のノックアウト非ヒト動物の一部等と異なり、IL27シグナルが正常である。このIL27シグナルが正常なLDLR遺伝子ノックアウト非ヒト動物の一部等と同程度又はそれよりも亢進するように、IL27シグナルが不活性な本発明のノックアウト非ヒト動物の一部等のIL27シグナルを活性化することができる物質は、IL27シグナルに選択的に働くIL27シグナル活性化剤となり得る。したがって、例えば、対照がLDLR遺伝子ノックアウト非ヒト動物の一部等の場合には、候補物質を接触させた本発明のノックアウト非ヒト動物の一部等における変性脂質の取り込み量、サイトカインの産生量及びマトリックスプロテアーゼ(MMP)遺伝子発現量(以下、「変性脂質の取り込み量等」という。)を測定し、当該測定された変性脂質の取り込み量等が、対照における変性脂質の取り込み量等と同等になったとき、又はそれよりも改善したときは、前記候補物質を、IL27シグナル活性化剤として選択することができる。ここで「改善」とは、対照と比較して、例えば、本発明のノックアウト非ヒト動物の一部等における変性脂質の取り込み量が低下すること、サイトカインの産生量が低下すること、又はMMP遺伝子発現量が低下することを意味する。そして、このように選択したIL27シグナル活性化剤は、IL27シグナルに選択的に作用するIL27シグナル活性化剤であり得る。
【0118】
候補物質としては、前記「動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬のスクリーニング方法」の項で説明したものと同様のものを挙げることができる。
【0119】
例えば、ある候補物質を投与した場合に、IL27シグナル活性化の状態が亢進されたことが確認できる結果が得られれば、用いた候補物質を、IL27シグナル活性化剤として選択することが可能である。より、具体的には、対照が上記「被験物質を接触させたLDLR遺伝子ノックアウト非ヒト動物の一部等」である場合には、本発明のノックアウト非ヒト動物の一部等における、マクロファージ又はマクロファージ由来細胞(以下、「マクロファージ等」とする)の変性脂質の取り込み量、マクロファージ等のサイトカイン産生量、マクロファージ等のMMP遺伝子発現量、マクロファージ等の接着分子の発現量、血管内細胞又は血管内細胞由来細胞(以下、「血管内細胞等」とする。)の生存細胞数、血管内細胞等の細胞の増殖量、血管内細胞等の遊走の程度、血管内細胞等の白血球との接着量、骨髄由来細胞のサイトカイン・ケモカインの産生量、脂肪組織由来細胞の細胞形態の程度、脂肪組織由来細胞の分化マーカーの発現量、又はリンパ球のサイトカイン産生量を、対照におけるものと同等とする又はそれよりも低下(例えば、5%以上、10%以上、15%以上又は20%以上低下)させる候補物質を、IL27シグナル活性化剤として選択する。また、対照が上記「被験物質を接触させない本発明のノックアウト非ヒト動物の一部等」である場合には、本発明のノックアウト非ヒト動物の一部等における、上記マクロファージ又はマクロファージ由来細胞(以下、「マクロファージ等」とする)の変性脂質の取り込み量、マクロファージ等のサイトカイン産生量、マクロファージ等のMMP遺伝子発現量、マクロファージ等の接着分子の発現量、血管内細胞又は血管内細胞由来細胞(以下、「血管内細胞等」とする。)の生存細胞数、血管内細胞等の細胞の増殖量、血管内細胞等の遊走の程度、血管内細胞等の白血球との接着量、骨髄由来細胞のサイトカイン・ケモカインの産生量、脂肪組織由来細胞の細胞形態の程度、脂肪組織由来細胞の分化マーカーの発現量、又はリンパ球のサイトカイン産生量を、対照におけるものよりも低下(例えば、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、70%以上、90%以上又は100%以上低下)させる候補物質を、IL27シグナル活性化剤として選択する。
【0120】
発明を実施するための最良の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【実施例】
【0121】
実施例1:IL27−p28遺伝子ノックアウトマウスの作製
(1)IL27−p28遺伝子ノックアウトES細胞の作製
Yoshida, H., Hamano, S., Senaldi, G., Covey, T., Faggioni, R., Mu, S., Xia, M., Wakeham, A.C., Nishina, H., Potter, J., Saris, C.J., Mak, T.W. (2001) WSX−1 Is Required for the Initiation of Th1 Responses and Resistance to L. major Infection. Immunity 15, 569−78.に記載の方法に準じて、IL27−p28遺伝子ノックアウトES細胞を作製した。
すなわち、マウスIL27−p28遺伝子の第1〜第4エクソンをpgkプロモーター配列に接続されたネオマイシン耐性遺伝子で置換できる構造を持つターゲティングベクターを作成し、このターゲティングベクターをエレクトロポレーション法により、ES細胞であるE14細胞に導入した。遺伝子導入細胞の選別のため、ネオマイシン存在下で培養することにより耐性を獲得した細胞クローンを得た後、PCR法により、正しく相同組み換えが生じIL27−p28遺伝子第1〜第4エクソンがネオマイシン耐性遺伝子で置換された細胞クローンを選別し、さらに、サザンブロット法により相同組み換えの確認を行った。
【0122】
(2)IL27−p28遺伝子欠損キメラマウスの作製
IL27−p28遺伝子欠損キメラマウスを次のように作製した。すなわち、実施例1(1)により得られたIL27−p28遺伝子の片側アリール(片側遺伝子)が破壊されたES細胞をC57BL6マウス由来の杯盤胞に注入、これを偽妊娠マウスに移植することにより、ES細胞及びC57BL6マウス由来の細胞からなるキメラマウスを得た。毛色及びサザンブロット法によりIL27−p28遺伝子に変異を持つES細胞の寄与が多いと推測される雄個体を選別した。
【0123】
(3)IL27−p28遺伝子ヘテロノックアウトマウスの作製
IL27−p28遺伝子ヘテロノックアウトマウスを次のように作製した。すなわち、実施例1(2)により得られたキメラマウスをC57BL6雌マウスと交配することにより仔を得て、毛色によりIL27−p28遺伝子に変異を持つES細胞由来の仔を選別した。さらにこれらの仔の体組織からゲノムDNAを抽出しPCR法及びサザンブロット法によりIL27−p28遺伝子の片側アリルに変異を持つマウスを選別しヘテロノックアウトマウスを得た。
【0124】
(4)IL27−p28遺伝子ホモノックアウトマウスの作製
IL27−p28遺伝子ホモノックアウトマウスを次のように作製した。すなわち、実施例1(3)により得られたヘテロノックアウトマウスを野生型C57BL/6マウスと交配し、その仔からヘテロノックアウトマウスを選別、この過程を6回繰り返し、C57BL/6の遺伝子背景を持つIL27−p28遺伝子ヘテロノックアウトマウスを作成した。この雄雌を交配することにより仔を得て、これらの仔の体組織からゲノムDNAを抽出しPCR法及びサザンブロット法によりIL27−p28遺伝子の両側アリルに変異を持つマウスを選別しホモノックアウトマウスを得た。
【0125】
実施例2:LDLR/EBI−3遺伝子ダブルノックアウトマウスの作出
本ダブルノックアウトマウスの作出にあたり、LDL受容体(LDLR)遺伝子欠損雄ホモ接合体マウスは、ジャクソンラボラトリー社より入手した(カタログ番号007068などに記載)。また、EBI−3遺伝子欠損雌ホモ接合体マウスは、本発明者らの研究室で以前作製したものを用いた(Igawa, T., Nakashima, H., Sadanaga, A., Masutani, K., Miyake, K., Shimizu, S., Takeda, A., Hamano, S., Yoshida, H. (2009) Deficiency in EBV−induced gene 3 (EBI3) in MRL/lpr mice results in pathological alteration of autoimmune glomerulonephritis and sialadenitis. Mod Rheumatol 19, 33−41.)。
【0126】
これらLDLR遺伝子欠損雄ホモ接合体マウス(LDLR−/−)とEBI−3遺伝子欠損雌ホモ接合体マウス(EBI−3−/−)のかけ合わせで、F1ヘテロ接合体欠損マウス(LDLR+/−/EBI−3+/−)を作出した。次にこのF1ヘテロ欠損マウスどうしのかけ合わせを行い、得られたF2マウスのPCR判定において、LDLR/EBI−3遺伝子ダブルノックアウトマウス(LDLR−/−/EBI−3−/−)を選抜した。以後は、このダブルノックアウトマウスの各個体どうしのかけ合わせで、LDLR/EBI−3遺伝子ダブルノックアウトマウスの生産を行った。
【0127】
実施例3:LDLR/IL27−p28遺伝子ダブルノックアウトマウスの作出
本ダブルノックアウトマウスの作出にあたり、LDL受容体(LDLR)遺伝子欠損雄ホモ接合体マウスは、ジャクソンラボラトリー社より入手した(カタログ番号007068などに記載)。また、IL27−p28遺伝子欠損雌ホモ接合体マウスは、実施例1に記載の方法により作製したものを利用した。
【0128】
LDLR遺伝子欠損雄ホモ接合体マウス(LDLR−/−)とIL27−p28遺伝子欠損雌ホモ接合体マウス(IL27−p28−/−)のかけ合わせで、F1ヘテロ接合体欠損マウス(LDLR+/−/IL27−p28+/−)を作出した。次にこのF1ヘテロ欠損マウスどうしのかけ合わせを行い、得られたF2マウスのPCR判定において、LDLR/IL27−p28遺伝子ダブルノックアウトマウス(LDLR−/−/IL27−p28−/−)を選抜した。以後は、このダブルノックアウトマウスの各個体どうしのかけ合わせで、LDLR/IL27−p28遺伝子ダブルノックアウトマウスの生産を行った。
【0129】
実施例4:LDLR/WSX−1遺伝子ダブルノックアウトマウスの作出
本ダブルノックアウトマウスの作出にあたり、LDL受容体(LDLR)遺伝子欠損雄ホモ接合体マウスは、ジャクソンラボラトリー社より入手した(カタログ番号007068などに記載)。また、WSX−1遺伝子欠損雌ホモ接合体マウスは、アムジェン社より分与された(Yoshida, H., Hamano, S., Senaldi, G., Covey, T., Faggioni, R., Mu, S., Xia, M., Wakeham, A.C., Nishina, H., Potter, J., Saris, C.J., Mak, T.W. (2001) WSX−1 Is Required for the Initiation of Th1 Responses and Resistance to L. major Infection. Immunity 15, 569−78.)。
【0130】
LDLR遺伝子欠損雄ホモ接合体マウス(LDLR−/−)とWSX−1遺伝子欠損雌ホモ接合体マウス(WSX−1−/−)のかけ合わせで、F1ヘテロ接合体欠損マウス(LDLR+/−/WSX−1+/−)を作出した。次にこのF1ヘテロ欠損マウスどうしのかけ合わせを行い、得られたF2マウスのPCR判定において、LDLR/WSX−1遺伝子ダブルノックアウトマウス(LDLR−/−/WSX−1−/−)を選抜した。以後は、このダブルノックアウトマウスの各個体どうしのかけ合わせで、LDLR/WSX−1遺伝子ダブルノックアウトマウスの生産を行った。
【0131】
実施例5:動脈硬化病変の形成の定量・比較
実施例2及び4に記載の方法で作出した各ダブルノックアウトマウスに高脂肪食を負荷した後、動脈硬化性病変の形成を、病理組織学的かつ定量的に比較検討した。具体的には、LDLRノックアウトマウス(ジャクソンラボラトリー社)及び各ダブルノックアウトマウス(各10匹)について、8週齢から16週間高コレステロール食を投与した後に大動脈を摘出した。ここで、高コレステロール食として、15.8% 脂肪・1.25% コレステロール含有高コレステロール食(ハーラン社)を用い、8週齢から24週齢まで投与した。また、大動脈の摘出は、常法に従い、起始部から腸骨動脈分岐部まで大動脈を、約5cmの長さで切り出すことにより行った。そして、摘出した大動脈の内膜側を上に展開し、オイルレッドOで染色した。CCDカメラ(Zeiss社)で撮像後、オイルレッドOで染色される動脈硬化巣の面積の総和と、大動脈の内膜側総面積を定量した。動脈硬化巣の面積の総和を大動脈の内膜側面積で除し、動脈硬化巣の大動脈の内膜に占める割合を算出した。
【0132】
その結果を、図1及び図2に示す。
図1は、高コレステロール食を12週間(a)16週間(b)投与した各群マウスの大動脈内膜側の代表例を示す写真である。図1では、LDLR−/−に比して、LDLR−/−EBI3−/−及びLDLR−/−WSX−1−/−の大動脈内側はオレンジ色に染色された範囲が広い。このことは、LDLR−/−に比してLDLR−/−EBI3−/−及びLDLR−/−WSX−1−/−において動脈硬化病変の形成量が増加する傾向にあることを示す。
【0133】
図2は、動脈硬化巣の大動脈に占める割合を定量評価したものである。図2に示されているように、LDLR/EBI−3遺伝子ダブルノックアウトマウス及びLDLR/WSX−1遺伝子ダブルノックアウトマウスにおいて、LDLR遺伝子ノックアウトマウスと比較して動脈硬化病変の形成が有意に増加していることが分かった。
【0134】
実施例6:大動脈瘤の発生頻度の比較
LDLRノックアウトマウス及び、実施例2〜4に記載の方法で作出した各ダブルノックアウトマウスに高脂肪食投与下、浸透圧ポンプによるアンジオテンシンII投与で誘発される大動脈瘤の発生頻度を、測定した。具体的には、実施例5と同様に8週齢から16週間高コレステロール食を投与した後に、高コレステロール食投与下に浸透圧ポンプでアンジオテンシンIIあるいは対照溶媒を4週間投与した。ここで、15.8% 脂肪・1.25% コレステロール含有高コレステロール食(ハーラン社)を用い、8週齢から24週齢まで投与した。また、アンジオテンシンII(シグマ社)は、浸透圧ポンプ(Alzet社)を用い、20週齢から24週齢まで投与した。そして、大動脈を摘出し、肉眼的に大動脈の瘤状拡張を腎動脈分岐部に認めるものを大動脈瘤と認定した。そして、各群マウス10頭中大動脈瘤を形成した頭数を算出して、各群マウスの大動脈瘤の発生頻度とした。
【0135】
その結果を以下の表1に示す。
【0136】
【表1】

【0137】
表1に示されているように、LDLR/EBI−3遺伝子ダブルノックアウトマウス、及びLDLR/WSX−1遺伝子ダブルノックアウトマウスにおいて、LDLR遺伝子ノックアウトマウスと比較して大動脈瘤の発生頻度が高い傾向になることが分かった。
【0138】
実施例7:培養マクロファージ活性化評価
(1)腹腔内マクロファージの培養
実施例2及び4に記載の方法で作出した各ダブルノックアウトマウスから、腹腔内マクロファージを得て、培養した。具体的には、LDLRノックアウトマウス(ジャクソンラボラトリー社)及び各ダブルノックアウトマウス(各10匹)について、100mgのペプトン(インビトロゲン社製)を腹腔内に投与した。へプトン投与から2日後に各マウスについて脱血し、腹腔内をPBS(シグマ社製)で洗浄し、注射器で吸引することにより腹腔内マクロファージを採取した。腹腔内からの採取物を遠心分離器にかけ、採取物からマクロファージを回収した後、その細胞を培養皿内で37℃、5%CO存在下にて培養した。この時の培地の組成は、次の通りである。DMEM培地に最終濃度10%となるよう牛胎児血清を加えた。
【0139】
(2)アセチルLDLの取り込みの評価
上記実施例7(1)にて得たLDLRノックアウトマウス及び各ダブルノックアウトマウス由来のマクロファージについて、蛍光ラベルした変性脂質(アセチルLDL)の取り込みを、コンフォーカル顕微鏡画像を用いて定量化した。具体的には、各マウスの腹腔内マクロファージを前記培養条件にて培養皿で16時間培養した。その後、DiIでラベルしたアセチルLDL(バイオメデイカルテクノロジー社製)を培養皿に添加し、4時間後にTOPRO3(Invitrogen社製)にて核染色を行った。その後、ホルマリンにより細胞を固定し、固定した細胞をコンフォーカル顕微鏡(Zeiss社製)で観察・撮像した。一定視野内の細胞に取り込まれたDiI蛍光強度を、NIHイメージ(米国NIHが配布している無料ソフト)により定量した。
【0140】
その結果を図3及び図4に示す。
図3は、各群マウスの腹腔内マクロファージによるDiIラベルアセチルLDLの取り込みの様子を示すコンフォーカル顕微鏡像(代表例)である。図3では、LDLR−/−に比して、LDLR−/−EBI3−/−及びLDLR−/−WSX−1−/−の腹腔内マクロファージはDiI(赤色)で強く染色されている。このことは、LDLR−/−に比してLDLR−/−EBI3−/−及びLDLR−/−WSX−1−/−の腹腔内マクロファージに取り込まれたアセチルLDLの量が多い傾向にあることを示す。
【0141】
図4は、腹腔内マクロファージに取り込まれたアセチルLDLの量を定量評価したものである。図4に示されているように、ダブルノックアウトマウス由来マクロファージによるアセチルLDLの取り込みは、LDLRノックアウトマウス由来の腹腔内マクロファージと比較して、有意に増加した。
【0142】
次に、LDLR/EBI−3遺伝子ダブルノックアウトマウス由来マクロファージ及びLDL/IL27−p28遺伝子ダブルノックアウトマウス由来マクロファージについて、リコンビナントIL27を投与した場合のアセチルLDLの取り込み量を評価する。具体的には、各マウスの腹腔マクロファージを前記培養条件にて培養皿中で16時間培養する。その後、培地中にDiIラベルしたアセチルLDLを添加し4時間培養し、培地を除去した後にホルマリンで細胞を固定し、コンフォーカル顕微鏡で細胞像を取得し、細胞内に取り込まれたDiI色素量をNIHイメージ(米国NIHが配布している無料ソフト)により定量する。
ここで、リコンビナントIL27は、Pflanz, S., J. C. Timans, J. Cheung, R. Rosales, H. Kanzler, J. Gilbert, L. Hibbert, T. Churakova, M. Travis, E. Vaisberg, W. M. Blumenschein, J. D. Mattson, J. L. Wagner, W. To, S. Zurawski, T. K. McClanahan, D. M. Gorman, J. F. Bazan, R. de Waal Malefyt, D. Rennick, and R. A. Kastelein. 2002. IL−27, a heterodimeric cytokine composed of EBI3 and p28 protein, induces proliferation of naive CD4(+) T cells. Immunity 16:779−790.に記載の方法に従って作製する。具体的には、CHO細胞においてFLAGタグ付マウスIL27発現ベクターを発現させ、培養上清中に分泌されたリコンビナントマウスIL27を、抗FLAGタグ抗体付ビーズ(シグマ社製)を用いてカラム法で精製する。そして、このリコンビナントIL27を、次のようにして投与する。すなわち、前記のように培地中にDiIラベルしたアセチルLDLを添加し4時間培養する際に、培地に同時にリコンビナントIL27を50 ng/mlの濃度で、またはリコンビナントIL27の対照溶媒である純水をリコンビナントIL27と同容量で同時添加する。
【0143】
その結果、LDLR/EBI−3遺伝子ダブルノックアウトマウス由来マクロファージ及びLDLR/IL27−p28遺伝子ダブルノックアウトマウス由来マクロファージによるアセチルLDLの取り込みは、リコンビナントIL27を投与することにより抑制される。
【0144】
(3) 炎症性サイトカイン産生量の評価
上記実施例7(1)にて得たLDLRノックアウトマウス及び各ダブルノックアウトマウス由来のマクロファージについて、炎症性サイトカイン(IL6、IL12等)の産生量を、ルミネックスマイクロビーズ法により評価した。具体的には、各マウスの腹腔マクロファージを前記培養条件にて培養皿中で2時間培養した。その後、リポポリッサカライドあるいは対照溶媒存在下、通常培地においてマクロファージを培養し、16時間後に培養上清を回収した。ここで、リポポリサッカライド(シグマ社)は、10 ng/mlの濃度で培地中に添加した。また、対照溶媒は純水である。その後、回収した培養上清中のIL1β、IL6、IL12及びIL10の量をバイオソース社製マウス10プレックスキットで測定した。
【0145】
その結果を図5に示す。図5に示したように、ダブルノックアウトマウス由来マクロファージによる炎症性サイトカイン(IL1β、IL6及びIL12)の産生量は、LDLRノックアウトマウス由来の腹腔内マクロファージと比較して、増加した。一方、ダブルノックアウトマウス由来マクロファージによる抗炎症性サイトカイン(IL10)の産生量は、LDLRノックアウトマウス由来の腹腔内マクロファージと比較して、減少した。
【0146】
次に、LDLR/EBI−3遺伝子ダブルノックアウトマウス由来マクロファージ及びLDL/IL27−p28遺伝子ダブルノックアウトマウス由来マクロファージについて、リコンビナントIL27を投与した場合の炎症性サイトカイン(IL6、IL12等)の産生量を評価する。具体的には、各マウスの腹腔マクロファージを前記培養条件にて培養皿中で2時間培養する。その後、リポポリッサカライドあるいは対照溶媒存在下、通常培地においてマクロファージを培養し、16時間後に培養上清を回収する。ここで、リポポリサッカライド(シグマ社)は、10 ng/mlの濃度で培地中に添加する。一方、対照溶媒として純水をリポポリサッカライドと同容量添加する。また同時にリコンビナントIL27を50 ng/mlの濃度で、またはリコンビナントIL27の対照溶媒である純水リコンビナントIL27と同容量を同時添加する。その後、回収した培養上清中のIL1β、IL6、IL12及びIL10の量をバイオソース社製マウス10プレックスキットで測定する。
【0147】
その結果、LDLR/EBI−3遺伝子ダブルノックアウトマウス由来マクロファージ及びLDLR/IL27−p28遺伝子ダブルノックアウトマウス由来マクロファージによる炎症性サイトカインの産生量は、リコンビナントIL27を投与することにより抑制される。
【0148】
(4)マトリックスメタロプロテアーゼの遺伝子発現量の評価
上記実施例7(1)にて得たLDLRノックアウトマウス及び各ダブルノックアウトマウス由来のマクロファージについて、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP9等)の遺伝子発現量を評価する。具体的には、各マウスの腹腔内マクロファージを前記培養条件にて培養皿中で2時間培養した。その後、リポポリッサカライド存在下又は非存在下、通常培地で培養する。16時間後に細胞からRNAを抽出しreal time PCR法にてMMP9等の遺伝子発現を定量する。
【0149】
その結果、ダブルノックアウトマウス由来マクロファージにおけるマトリックスメタロプロテアーゼ遺伝子発現量は、LDLRノックアウトマウス由来の腹腔内マクロファージと比較して、増加すると考えられる。また、LDLR/EBI−3遺伝子ダブルノックアウトマウス由来マクロファージ及びLDLR/IL27−p28遺伝子ダブルノックアウトマウス由来マクロファージにおけるマトリックスメタロプロテアーゼ遺伝子発現量は、リコンビナントIL27を投与することにより抑制されると考えられる。
【0150】
実施例5および6に示したように、LDLR−/−EBI3−/−及びLDLR−/−WSX−1−/−等の本発明のノックアウト非ヒト動物では、LDLR−/−に比して、動脈硬化病変の形成量及び大動脈瘤の発生頻度等を含む動脈硬化又は動脈硬化性疾患の状態がさらに悪化している。このため、本発明のノックアウト非ヒト動物等の動脈硬化又は動脈硬化性疾患の状態を指標として、候補物質の中から、動脈硬化又は動脈硬化性疾患の治療薬をスクリーニングすることができることが分かる。
また、実施例7に示したように、LDLR−/−EBI3−/−及びLDLR−/−WSX−1−/−等の本発明のノックアウト非ヒト動物では、LDLR−/−に比して、アセチルLDLの取り込みの増加及び炎症性サイトカイン産生量の増加等が見られた。これは、本発明のノックアウト非ヒト動物ではIL27の活性が抑制されていることを意味する。このため、これらのIL27の活性状態を指標として、候補物質の中から、IL27シグナルの活性化剤をスクリーニングすることができることがわかる。また、IL27シグナルの活性化剤は、動脈硬化又は動脈硬化性疾患の治療薬と成り得るので、IL27の活性状態を指標として、候補物質の中から、動脈硬化又は動脈硬化性疾患の治療薬もスクリーニングすることもできることが分かる。
【配列表フリーテキスト】
【0151】
[配列番号:1]マウスEBI3遺伝子のDNA配列(Accession No. NM_015766)。
[配列番号:2]マウスEBI3のアミノ酸配列(Accession No. NP_056581)。
[配列番号:3]ラットEBI3遺伝子のDNA配列(Accession No. NM_001109421)。
[配列番号:4]ラットEBI3のアミノ酸配列(Accession No. NP_001102891)。
[配列番号:5]マウスIL27−p28遺伝子のDNA配列(Accession No. NM_145636)。
[配列番号:6]マウスIL27−p28のアミノ酸配列(Accession No. NP_663611)。[配列番号:7]マウスWSX−1遺伝子のDNA配列(Accession No. NM_016671)。
[配列番号:8]マウスWSX−1のアミノ酸配列(Accession No. NP_057880)。[配列番号:9]ヒトLDLR遺伝子のDNA配列(Accession No. NM_000527)。
[配列番号:10]ヒトLDLRのアミノ酸配列(Accession No. NP_000518)。
[配列番号:11]ヒトEBI3遺伝子のDNA配列(Accession No. NM_005755)。
[配列番号:12]ヒトEBI3のアミノ酸配列(Accession No. NP_005746)。
[配列番号:13]ヒトIL27−p28遺伝子のDNA配列(Accession No. NM_145659)。
[配列番号:14]ヒトIL27−p28のアミノ酸配列(Accession No. NP_663634)。
[配列番号:15]ヒトWSX−1遺伝子のDNA配列(Accession No. NM_004843)。
[配列番号:16]ヒトWSX−1のアミノ酸配列(Accession No. NP_004834)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LDLR遺伝子の全部又は一部、並びにEBI3遺伝子、IL27−p28遺伝子及びWSX−1遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の全部又は一部の機能が失われた、ノックアウト非ヒト動物又はその一部。
【請求項2】
LDLR遺伝子、並びにIL27及び/又はIL27R遺伝子の発現量が、野生型と比較して低下している、ノックダウン非ヒト動物又はその一部。
【請求項3】
請求項1若しくは2記載の動物又はその一部からなる、動脈硬化若しくは動脈硬化性疾患モデル動物又はその一部。
【請求項4】
LDLR遺伝子の全部又は一部、並びにEBI3遺伝子、IL27−p28遺伝子及びWSX−1遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の全部又は一部の機能が失われた、ノックアウト細胞。
【請求項5】
LDLR遺伝子、並びにIL27及び/又はIL27R遺伝子の発現量が、野生型と比較して低下している、ノックダウン細胞。
【請求項6】
動脈硬化又は動脈硬化性疾患治療薬のスクリーニング方法であって、
(a)請求項1〜3のいずれか1項記載の動物若しくはその一部又は請求項4若しくは5記載の細胞に被検物質を接触させ、
(b)被検物質を接触させた動物若しくはその一部又は細胞における動脈硬化又は動脈硬化性疾患の状態と、対照の動脈硬化又は動脈硬化性疾患の状態とを比較し、
(c)(b)の比較結果に基づき、被検物質の動脈硬化改善効果又は動脈硬化性疾患改善効果を評価し、
(d)動脈硬化改善効果又は動脈硬化性疾患改善効果を有すると評価された被検物質を選択する
ことを含む、前記方法。
【請求項7】
対照が、被検物質を接触させない、LDLR遺伝子の全部又は一部の機能が失われているが、EBI3遺伝子、IL27−p28遺伝子及びWSX−1遺伝子の機能が失われていないノックアウト非ヒト動物若しくはその一部又はノックアウト細胞である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
IL27シグナル活性化剤のスクリーニング方法であって、
(a)請求項1〜3のいずれか1項記載の動物の一部又は請求項4若しくは5記載の細胞に被検物質を接触させ、
(b)被検物質を接触させた動物の一部又は細胞におけるIL27シグナルの活性化の状態と、対照のIL27シグナルの活性化の状態とを比較し、
(c)(b)の比較結果に基づき、被検物質のIL27シグナル活性化亢進作用を評価し、
(d)IL27シグナル活性化亢進作用を有すると評価された被検物質を選択する
ことを含む、前記方法。
【請求項9】
対照が、被検物質を接触させない、LDLR遺伝子の全部又は一部の機能が失われているが、EBI3遺伝子、IL27−p28遺伝子及びWSX−1遺伝子の機能が失われていないノックアウト非ヒト動物の一部又はノックアウト細胞である、請求項8記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−92025(P2011−92025A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246542(P2009−246542)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(504209655)国立大学法人佐賀大学 (176)
【Fターム(参考)】