説明

ダム湖、湖沼などにおける貧酸素水域の解消方法

【課題】ダム湖、湖沼、閉鎖性海域などの底層水は、夏場を中心に溶存酸素濃度がゼロあるいはそれに近い嫌気状態になり水質が悪化している。このような水域に限定して高濃度もしくは飽和酸素水を供給して溶存酸素濃度を高め、好気環境に改善して水質保全を図る。
【解決手段】ダム湖、湖沼、閉鎖性海域などの中層以下では、特定の季節以外、温度差や塩分や溶解金属類などによる密度差で躍層が発達して水の上下混合が起き難い。この現象を利用して、対象水域に吸入口、吐出口、水中ポンプ、気液溶解部が一体となっている気液溶解装置(水中型)を設置して、その水域の一定水層の溶存酸素を高め、順次装置や酸素噴出口や酸素噴出口を上下移動させることにより、全貧酸素水域の水質を改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
一般的に、ダム湖、湖沼、閉鎖性海域などの中層以下の水域、特に底層水は、夏場を中心に溶存酸素濃度がゼロあるいはそれに近い嫌気状態になり、多様な生物の死滅や硫化水素の発生、底泥からの金属類の溶出などで、水質を悪化させている。このようなダム湖、湖沼などの水環境問題を解決するためには、中層以下の貧酸素水域の溶存酸素濃度を高め好気環境に改善することが必要である。
【0002】
一度貧酸素状態を改善しても、引き続き水中に存在する有機物の分解で酸素が消費され、貧酸素水域が再現する。この現象を防止するためには、温度躍層から底層にかけて連続的に溶存酸素濃度を測定して、溶存酸素濃度の低下が認められた水層については予め貧酸素状態になる前に飽和溶存酸素濃度まで高めて、全水域の水質保全を図ることが必要である。
【背景技術】
【0003】
各地のダム湖、湖沼、閉鎖性海域などは、生活廃水や農業排水の流入によって水質が富栄養化し、それに伴ってプランクトンなどが表層で大増殖する。そのプランクトンなどは死骸となって湖底に沈降し分解される。その際、多量の酸素が消費されるため湖底近辺には貧酸素水が存在するようになる、そして生物も生息できない嫌気環境が形成され、底泥から硫化水素の発生や金属類の溶出などを招く。この貧酸素化現象は、湖底近辺に止まらず、温度躍層以下の中層水域にまで広がることが知られている。
【0004】
このような水環境の改善には、中層以下、特に湖底近辺の水層の溶存酸素濃度を高め、好気的環境に改善することが必要である。好気環境になると、水中に溶け出している重金属類、塩類が酸化、凝集沈殿し、さらに湖底からの重金属類、塩類の溶出が防止され、また湖底においても多様な生物の生息も可能になり、水質が改善される。
【0005】
このような好気環境を創り出す方法としては、ダム湖、湖沼の水中に空気や酸素ガス及び高濃度酸素水を供給する方法、溶存酸素濃度の高い表面水を底層に送り込む方法なとが考えられ、一部実用されている。
【0006】
しかし、陸上に設置された酸素発生装置やコンプレッサ−からホ−スを通して送られる空気や酸素ガスを散気管やノズルで噴射させて底層水の溶存酸素濃度を高める方法は、放出される空気や酸素ガスが如何に径の小さいバブルでも、水深の深い地点では水平拡散する力は弱く上昇しやすいため、効率的に溶存酸素濃度を高めることは出来ない。また、散気板やノズルを底層に設置すると、底泥の巻き上げ現象が発生して底層水を一層悪化させる恐れがある。酸素発生装置と酸素溶解装置を陸上に置き、底層水を陸上に揚水して溶存酸素濃度を高め、底層に送り返す方式は、揚水のため大きなエネルギ−が必要であり、また、溶解装置から吐出装置の間で圧力変動による発泡が生じ、効率的に問題がある。
【0007】
通常の曝気方式では、底層水の溶存酸素濃度を高めること、特に広範囲な貧酸素水域の改善は不可能である。一方、表面水を底層に送り込む方法は、ダム湖、湖沼などの表層で増殖した植物プランクトや流入水中に含まれる有機物を一緒に底層に送り込むため、それらが分解する際多くの酸素を消費するため水質をより悪化させる恐れがある、また表面水は水温が高いため底層水の比重・密度差が異なるため水平拡散せず上昇流となるので効果は薄い。
【0008】
本発明と関わりがある発明(特許)としては、水上の船から牽引された水底に沿って移動する移動体に噴射ノズルを設ける方法。水上に浮かべた台船に酸素発生装置と酸素溶解装置を載せ、台船から昇降可能な揚水手段および空気噴出手段を用いて、水中の異なる水深に酸素水を供給する方法。ダム湖、湖沼の水位変動があっても自動的に散気管の水深が維持できるように散気管の水深を遠隔装置により調整できる装置。フロ−ト上に設置されたワイヤ−ウインチ装置でワイヤ−の先端に取り付けられた水質計、及び水質デ−タ記憶メモリ−を有する水中センサにより、水中を往復移動させて、定時に深度毎の水質を測定記憶する方法などがある。
【0009】
【非特許文献1】特開平7−136691 湖沼等の浄化装置
【非特許文献2】特開2004−290863底水域における水質改善方法及び装置
【特許文献1】特開平7−100494 水中の散気管遠隔昇降装置
【非特許文献3】特開平6−18518 水質デ−タ測定装置
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
各地のダム湖、湖沼、閉鎖性海域の中層から底層までの貧酸素状態を解消し、
その水域の水中に溶解している鉄、マンガン、リンなどを酸化、凝集沈殿させて
水質の改善を図ること、底層水の好気化、および底泥の表面酸化により底泥から
の鉄、マンガン、リンなどの金属類の溶出を防止し、さらにアンモニアや硫化水
素の発生を防止して水環境の保全を図ること。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ダム湖、湖沼などの底層や温度躍層以下の貧酸素状態の水域に、吸入口、吐出口、水中ポンプ、気液溶解部が一体となっている気液溶解装置(水中型)を設置し、底泥を巻き上げることなく、装置を設置した場所と同じ水温または密度の水層(通常2m〜6mの厚さ)へ高濃度酸素水を水平拡散させる。その水層(ブロック)の貧酸素状態が解消後、装置を上層、又は下層の貧酸素水層(ブロック)に移動して稼動することにより、その水層(ブロック)の溶存酸素濃度を高める。このように装置を垂直方向に昇降を繰り返すことによって、貧酸素状態にある中層以下全水域の溶解酸素濃度を高める。
【0012】
前記のように貧酸素状態が解消された水域において、フロ−ト、又は陸上からワイヤ−の先端に連結された溶存酸素メ−タなどの水質計を定時的に中層から下層、まで昇降させることにより、中層以下の水質を監視する。仮に、新たに流入してきた有機物やプランクトン死骸などの分解により溶存酸素濃度の低下や水中溶解している金属類の増加が確認された場合には、その水層に装置を移動し、稼動することにより、その水層に限定して水質改善を図る。これにより、全てのダム湖水の溶存酸素濃度を効率的にかつエネルギ−の消費も少なくて、年間通して好気状態に維持する。
【発明の効果】
【0013】
以上詳述したように本発明によって、ダム湖、湖沼、閉鎖性海域などの低層の貧酸素状態や底質の嫌気状態を年間通して解消できる。
その結果、次のような水環境の改善が可能となる。
イ 貧酸素水中に溶解している鉄、マンガン、リンなどを酸化させ、凝集沈殿させることことができる。
ロ 底泥から鉄、マンガン、リンなどの金属類の溶出が防止できる。
ハ 底泥からのアンモニアや硫化水素などのガス発生が防止できる。
ニ 底泥が好気環境に改善され、生物の生息が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
第一段階として、ダム湖、湖沼、閉鎖性海域などで、フロ−ト上に設けたウインチのロ−プ先端に取り付けた吸入口、吐出口、水中ポンプ、気液溶解部が一体となっている気液溶解装置(水中型)を貧酸素状態にある水層に設置する、その場合、装置と湖底との距離を一定に保つために湖底感知装置を取り付ける、また装置から湖底まで先端に錘を取り付けた長さ一定のワイヤ−を下ろす(装置は浮力が働くため錘を湖底に沈設させると、装置と湖底の間は一定の距離が維持できる)。これにより、水面の水位変動があっても装置の設置水深は変化しない。
【0015】
このようにして、一定の水深に設置された水中型気液溶解装置の吐出口から高濃度、もしくは飽和酸素水を装置の設置された水深と同水温で同密度の水層(通常2m〜6mの厚さ)に水平方向に拡散させ、その水層の溶存酸素濃度を高める。その水層の溶存酸素濃度が目標値となったことが確認されたら、装置を上部の貧酸素水層に引き上げて稼動することにより、その上部水層の溶存酸素濃度を改善する。このように装置を下層から順次中層に移動して、稼動することによって、中層以下の貧酸素水域全体の水質を改善する。
【0016】
何かの理由で、ある水深の水層の溶存酸素濃度が低下した場合は、装置をその水深に移動させ、その水層に限定して溶存酸素濃度を高める。
【実施例】
【0017】
実際のダム湖で行った実験結果を下記に記す。
目的
ダム湖の中層以下に発生している貧酸素水域における溶存酸素濃度の向上と好気状態(5mg/L以上)の維持。
実験を行ったダム湖の規模
堤高:54.5m、有効貯水容量:6,400,000立方メートル
実験時の最大水深 : 約 30m
実験前のダム湖の水質
水深11m(温度躍層)以深での溶存酸素濃度:2mg/L前後(4月、夏場はほとんど0)
水深11m以下の水温:約5度〜10度
水質:鉄、マンガン等の金属類の濃度が高い
実験時期
4月下旬から5月上旬
実験に用いた装置
気液溶解装置(水中型)(能力120立方メートル/h)、PSA酸素発生装置、コンプレッサ−
実験方法
最初に気液溶解装置(水中型)を湖底より上部0.5mの位置(水深約27m)に設置し、装置の吸入口から吸入した湖水(装置周辺の水)に陸上から送った酸素ガス(濃度90%)を溶解、吐出口から高濃度酸素水を水平方向に拡散させ、設置水深と同じ水層の溶存酸素濃度を高める。その水層の溶存酸素濃度が目標値となった時点で、装置を上方約6m地点に引き上げ、その水深に相応する水層(厚さほぼ4m)の溶存酸素濃度を高めた。同様な作業を4回繰り返し、水深11m以下(湖底から約20m高さ)のダム湖水の溶存酸素濃度を高める(好気状態に修復する)ことを試みた。
実験結果
下記のように中層以下の水域の貧酸素の解消できた。

【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明はダム湖、湖沼、閉鎖性海域などの底層水の貧酸素状態が解消でき、ダム湖などの水質保全、及び水資源の有効利用、又漁業の振興に役立つものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ダム湖の中層から底質までの貧酸素状態を解消させるシステムを示す図である。
【図2】湖底の一地点を基準として、気液溶解装置(水中型)を設置する方法を示す図である。
【符号の説明】
【0020】
1 湖底
2 貧酸素水域1
3 貧酸素水域2
4 貧酸素水域3
5 通常の溶存酸素濃度水域
6 ダム水位
7 ダム堤
8 気液溶解装置(水中型)または水質計
9 フロ−ト
10 ウインチ
11 ワイヤ−
12 湖底感知装置
13 固定錘
14 湖底

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水深の深いダム湖、湖沼などにおいて、吸入口、吐出口、水中ポンプ、気液溶解部が一体となっている気液溶解装置(水中型)を水中で移動させ、稼動することによって、ダム湖などの貧酸素水域の溶存酸素濃度を高め、水質を改善する方法。
【請求項2】
ダム湖などの貧酸素水域の断面図を作成し、湖底を基準として垂直方向に厚さほぼ2mから6mの水層(ブロック)に区切る。その図面をもとに、各水層(ブロック)毎に水中型気液溶解装置を設置させ、稼動することにより、その水層(ブロック)の貧酸素を解消した後、装置を上部もしくは下部の水層に移動させ、稼動することにより、その水層(ブロック)の貧酸素を解消する。この方法を繰り返すことによって、ダム湖、湖沼などに発生している貧酸素水域の溶存酸素濃度を高める方法。
【請求項3】
水中型気液溶解装置の底面に取り付けた湖底感知装置、又は装置から先端に錘の付いた長さ一定のワイヤ−を湖底まで下ろす方法によって、水中型気液溶解装置の設置水深を湖底基準点とすることによる、表面水の水位変動の影響を受けない装置の設置方法。
【請求項4】
水中型気液溶解装置に取り付けたワイヤ−やケ−ブルをフロ−トまたは陸上からのウインチ操作によって装置を所定の水深に設置したり、または水中を昇降させる方法。
【請求項5】
ある水深の溶存酸素濃度が所定の濃度以下になった場合、その水深に装置を移動させ、稼動することにより、ダム湖、湖沼などの底層水が局部的に貧酸素状況になることを防止する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−100176(P2008−100176A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−285250(P2006−285250)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(500500446)松江土建株式会社 (11)
【Fターム(参考)】