説明

ダム管理装置

【課題】制御装置が誤演算をした場合においても、演算されたゲート開度の妥当性を検証してダムの安全性を確保する。
【解決手段】複数のゲート設備を有するダムの貯水位、前記各ゲートの開度を含む計測データを入力し、入力した計測データをもとに目標ダム放流量を演算し、演算した前記目標ダム放流量に基づき前記ダムに設置した各ゲートの目標開度を演算する操作演算部9と、前記操作演算部が演算した目標開度にしたがって各ゲートを操作する操作処理部10を備えたダム管理装置において、前記操作演算部が演算した各ゲート毎の目標開度をもとに各ゲート毎の目標放流量を逆算し、逆算した放流量を合算して検定目標ダム放流量を逆算する逆算部と、目標ダム放流量と逆算して得た検定目標ダム放流量との偏差が所定値以上であるとき、警報を発する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダム管理装置に係り、特にダムの放流量を検証する機能を備えたダム管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダムの水位を管理するダム管理装置は、ダムの貯水位、ダムゲートの開度等を計測し、この計測データをもとに放流量の目標値(全目標放流量)を算出する。また、前記目標値にしたがってゲートの目標開度を演算し、この目標開度と現在開度を比較してゲート開度を調整することにより、安定した水位を実現している。
【0003】
例えば、特許文献1には、ダムのゲートあるいは取水口のゲートをコンピュータにより自動制御することにより、ダムあるいは水路の水位を一定に維持するゲート自動制御システムが示されている。
【0004】
また、特許文献2には、ダムのゲートを開閉制御して、放流量を調整することによりダム水位を制御するダム水位制御装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−122726号公報
【特許文献2】特開2003−330547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ダムから放流すべき水量である目標値(全目標放流量)の算出、あるいは前記目標値から実際にゲートを動作させる量である目標開度を算出する過程で、例えば設備あるいはプログラム障害により演算に誤りが生じることがある。このように演算に誤りを生じた場合、誤りのある演算結果を除去する保護機能が必要となる。
【0007】
これらの保護機能のうち放流量にかかる保護機能としては、以下の項目が上げられる。
【0008】
(1)下流基準点の水位変動量を制限する放流量増加制限値をオーバーしない。
【0009】
(2)平水操作においては、目標放流量は洪水流量をオーバーしない。
【0010】
(3)故障或いは点検中のゲートに目標放流量を割り当てない。
【0011】
(4)指示する目標開度を操作量範囲外(操作量過大)としない。
【0012】
ところで、利水補給、洪水調節、貯水位維持などの運用目的に従ってゲートを選択して開閉操作する場合、あるいは複数のゲートの動作順が操作ルールで定められている場合においては、ゲート操作は複雑になる。また、ゲートが、点検あるいは故障などにより操作対象から外された場合は、正常なゲートで肩代わり操作を行うことが必要となる。このような場合にはゲート操作が更に複雑となる。
【0013】
ダム管理装置は、このような場合において、さらには例えばプログラム障害などで、ゲートの目標開度の演算に誤りを生じた場合においても、ゲートの誤動作に至らぬようにしなければならない。
【0014】
また、平常時においては、操作員の監視負担も少なく、ゲートの開閉操作は安全に実行できる。しかし、大雨の場合等においては、流況は時々刻々と変化し、これにともなってゲートの目標開度も逐次変化する。このため、流況あるいはゲートの目標開度を逐次監視しつつ制御を行うことは容易でない。特に、洪水調節時には、数日間連続して操作演算およびゲートの開閉操作を行うことが必要となり、操作員による監視負担が多大となる。
【0015】
このような状況であっても、操作員は制御装置が演算した目標開度の妥当性を的確に判断し、制御装置が誤った目標開度にしたがったゲート開閉を行わないようにしなければならない。
【0016】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたもので、制御装置が誤演算をした場合においても、演算されたゲート開度の妥当性を検証してダムの安全性を確保することのできるダム管理装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は上記課題を解決するため、次のような手段を採用した。
【0018】
複数のゲート設備を有するダムの貯水位、前記各ゲートの開度を含む計測データを入力し、入力した計測データをもとに目標ダム放流量Qaを演算し、演算した前記目標ダム放流量に基づき前記ダムに設置した各ゲートの目標開度を演算する目標開度演算部と、
前記目標開度演算手段が演算した目標開度にしたがって各ゲートを操作する操作処理部を備えたダム管理装置において、
前記目標開度演算手段が演算した各ゲートの目標開度をもとに各ゲートの目標放流量を逆算し、逆算した放流量を合算して検定目標ダム放流量Qbを算出する逆算部と、
目標ダム放流量Qaと逆算して得た検定目標ダム放流量Qbとの偏差が所定値以上であるとき、各ゲートの目標開度に妥当性がないとして警報を発するとともに操作演算を停止する。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、以上の構成を備えるため、演算されたゲート目標開度の妥当性を検証してダムの安全性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ダム管理装置の概略構成とデータの流れを示す図である。
【図2】目標開度の操作演算処理を説明する図である。
【図3】目標開度演算処理を説明する図である。
【図4】目標放流量の検証処理を説明する。
【図5】ゲート目標開度をもとに放流量を演算する処理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施形態を添付図面を参照しながら説明する。図1は、ダム管理装置の概略構成とデータの流れを示す図である。図1において、1は貯水位計、2はゲートの開度を測定する開度計、3はゲートを開閉駆動するゲート動力部、4は各ゲート(4−1,・・4−N)を開閉制御するゲート機側盤、5は計測装置、6は入出力装置、7は制御装置である。
【0022】
制御装置7のダム水文量演算部8は、貯水位計1で測定した貯水位、ゲート制御部から出力されるゲートの開閉状態を示すゲート状態信号などの計測データを計測装置5あるいは入出力処理装置6を介して入力し、ダムへの流入水量、放流流量などのダム諸量データ(ダム水文量)を演算する。
【0023】
操作演算部9は、前記ダム諸量データをもとに、操作ルールに従って開閉操作すべきゲートを選定し、選定した各ゲートに放流量を割り当て、割り当てたゲート毎に目標開度を算出する。算出した目標開度は操作処理部10、入出力処理装置6を介してゲート機側盤4に転送する。ゲート機側盤のゲート制御部は、転送された目標開度に従ってゲート動力部を介してゲートを駆動し、放流する流量を調整する。
【0024】
図2は、目標開度の操作演算処理を説明する図である。まず、貯水位データ、各ゲートの現在開度データなどの計測データ入力し(S1)、これらの入力データをもとに、ダム湖の貯水量、空容量、貯水率、流入量および目標ダム放流量などのダム諸量データを演算(ダム水文量演算処理)する(S2)。
【0025】
次の操作演算処理(ステップS3)では、目標ダム放流量計算、配分計算、および目標開度計算を行う。
【0026】
まず、運用目的に合った放流方式を選定し、ダムから放流すべき水量の総量である目標ダム放流量QAを算出する。放流方式は、個々のダム運用形態によって異なる(ステップS4)。
【0027】
次いで、操作対象となるゲートを選定し、選定した各ゲートに前記目標ダム放流量を割り当てる。例えば、個々のダム毎に予め定めた操作ルールに従って各ゲートに配分する(ステップS5)。
【0028】
次いで、貯水位と各ゲート目標放流量をもとに、各ゲートの目標開度を演算する。この演算に際しては、流量算出式あるいは、貯水位−開度−放流量対応表を用いて内挿近似法を用いて算出することができる(ステップS6)。
【0029】
次いで、算出した目標開度の妥当性を検証し、検証結果が妥当であるときは、ゲート機盤を介してゲートを開閉制御を実行する(ステップS7,8)。
【0030】
図3は、目標開度演算処理を説明するフローチャートである。まず、現在貯水位およびゲート目標放流量を取り込み、試算開度を初期化(最小開度に設定)する(S9,10,11)する。次に、試算開度に相当する試算放流量を算出し、試算放流量がゲート目標放流量を超えるまで、試算開度を1cmづつ加算する(S12,13,14)。ここで試算開度が最大開度となれば、最大開度を目標開度とする(S15,16)。
【0031】
ステップ13において、試算放流量がゲート目標放流量を超えた場合、その時点での試算開度が最小開度であれば、最小開度を目標開度とする(S13,17,18)。試算開度が最小開度でなければ、試算開度から1cm減算した開度を目標開度とする(S19)。
【0032】
このように、目標開度計算では、ゲート目標放流量を超えない直前の開度が目標開度となるよう演算する。
【0033】
そうして、算出された各ゲートの目標開度は、操作処理部10を介して、各ゲートのゲート制御部に転送され、各ゲートのゲート制御部は、各ゲートの実開度が目標開度となるようにゲートを制御する。
【0034】
本発明では、図2に示すように操作演算処理(S3)により算出された目標開度演算の結果を検証する検証機能として、目標放流量の再検証処理(S7)を備えている。この処理は、貯水位と各ゲート目標放流量をもとに演算した各ゲートの目標開度の演算誤りを検証するものである。
【0035】
図4は、目標放流量の検証処理を説明するフローチャートである。
【0036】
まず、図2のステップS6において演算された、各ダムの目標開度Pjおよび貯水位Hをもとに目標放流量Qjを求め、求めた目標放流量Qjを加算して検証目標ダム放流量QBを算出する(ステップS20,21)。
【0037】
Q1=F1(H,P1)、Q2=F2(H,P2)・・・、QN=FN(H,PN)
ここで Qj:目標放流量(j=1〜N)
H:貯水位
Pj:目標開度(j=1〜N)
Fj:開度・放流量変換処理(j=1〜N)
QB= ΣQj
ここで QB:検証目標ダム放流量
次に、前記検証目標ダム放流量QBと、ステップS4で算出した前記目標ダム放流量QAの偏差ε算出し、偏差が許容値ΔQ以下であるか否かを検定する(S22,23)。
【0038】
ε=|QA−QB|
ε≦ΔQ :正常値
ε>ΔQ :異常値
ここで ε:目標ダム放流量と検定目標ダム放流量の偏差
QA:目標ダム放流量
QB:検証目標ダム放流量
ΔQ:許容値(設定可変定数)
なお、目標ダム放流量QAと検証目標ダム放流量QBに流量誤差が生じるのは次の理由による。
【0039】
(1)ゲート開度をもとに放流量を演算する処理は、図5に示すとおり、現在貯水位を取り込んだ後(S29)、操作対象ゲート数(1〜N)分のゲートの目標開度を取り込み(S31)、取り込んだ現在貯水位、およびゲートの目標開度をもとに流量算出式を用いて目標放流量を演算する(ステップS32)。
【0040】
この処理で算出する目標放流量は、有効精度(通常、少数点以下2桁または3桁目)へ丸め処理するため誤差を生じる。図2のステップS6において行う、貯水位と各ゲート目標放流量をもとに行う各ゲートの目標開度の演算にも同様の誤差を生じる。
【0041】
(2)目標開度の計算においては、図3で示したように、ゲート目標流量を超えない直前の開度を目標開度として算出する。すなわち貯水位計(単位cm)及び開度計(単位cmもしくは%)の精度で流量誤差を生じる可能性がある。
【0042】
図4のステップS22、23に示す偏差検定の処理は、演算プログラムの障害等で生じる目標ダム放流量の配分計算における誤りを検定できるほかに、目標開度計算で発生する放流量−ゲート開度変換処理における丸め処理による誤差、計測機器の精度に起因する流量誤差に基づく誤差を検証することができる。
【0043】
偏差検証の結果、前記偏差が予め設定した許容値を超過した場合は、警報通報出力を行い操作員の注意を喚起する。また、演算を停止して、ゲート位置を現状を保持する(ステップS27,28)。
【0044】
また、前記偏差が許容値以下であると判定した場合は、目標ダム放流量QAと現在ダム放流量Qoutとを比較し、その偏差の増減方向SAを算出する(S24)
QA>Qoutの場合 SA=1(増加方向)
QA=Qoutの場合 SA=0(増減なし)
QA<Qoutの場合 SA=−1(減少方向)
ここで Qout:現在ダム放流量
SA:目標ダム放流量の増減方向
次に、検証目標ダム放流量QBと現在ダム放流量Qoutとを比較し、その偏差の増減方向SBを算出する。増減方向Aと増減方向Bを増減方向検定する(S26)。
【0045】
QB>Qoutの場合 SB=1(増加方向)
QB=Qoutの場合 SB=0(増減なし)
QB<Qoutの場合 SB=−1(減少方向)
ここで Qout:現在ダム放流量
SB:検証目標ダム放流量の増減方向
増減方向AおよびBが一致する場合は正常であると判定とし、ゲート制御部に目標開度信号を転送する。
【0046】
増減方向が一致しない場合は制御装置に異常が発生したとして、警報通報出力処理を行い、操作員の注意を喚起するとともに演算処理を停止する(S27,28)。
【0047】
以上説明したように、本実施形態によれば、目標ダム放流量を各ゲートに配分し、配分された流量である各ゲート目標放流量を目標開度へ変換した結果(ゲート目標開度)をもとに行うゲート制御の外に、前記各ゲートの目標開度から目標放流量を再変換処理して取得し、取得した目標放流量を合算し、検定目標ダム放流量を算出する。ついで,目標ダム放流量と検定目標ダム放流量を付き合わせ、ゲート目標開度の妥当性を検証するので、ゲート制御の安全性を強化することができる。
【0048】
さらに、目標ダム放流量と現在ダム放流量の増減方向検証結果と、再演算した検証目標ダム放流量と現在ダム放流量の増減方向を検定することで、さらに安全性を強化することができる。
【0049】
なお、目標ダム放流量の検証結果が、正常判定とされれば、各ゲート目標開度をゲート制御部へ出力する。異常判定となった場合は、ゲート制御部へ目標開度を出力することなく、操作員へ可視可聴の警報通報を出力し注意喚起するとともに、操作演算を停止処理する。
【0050】
以上説明したように、本実施形態によれば、設備あるいはプログラム障害によって、誤った演算結果を算出した場合も、実ゲート動作に至る前に抑止することが可能となり、ダム管理用制御装置に実装されている保護機能の更なる強化を実現し、安全かつ安定した放流操作を実現することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 貯水位計
2 開度計
3 ゲート動力部(モーター、油圧ユニット)
4 ゲート機側盤
5 計測装置(PLC)
6 入出力処理装置(PLC)
7 制御装置(FAパソコン、計算機)
8 ダム水文量演算部
9 操作演算部
10 操作処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のゲート設備を有するダムの貯水位、前記各ゲートの開度を含む計測データを入力し、入力した計測データをもとに目標ダム放流量Qaを演算し、演算した前記目標ダム放流量に基づき前記ダムに設置した各ゲートの目標開度を演算する目標開度演算部と、
前記目標開度演算手段が演算した目標開度にしたがって各ゲートを操作する操作処理部を備えたダム管理装置において、
前記目標開度演算手段が演算した各ゲートの目標開度をもとに各ゲート毎の目標放流量を逆算し、逆算した放流量を合算して検定目標ダム放流量Qbを算出する逆算部と、
目標ダム放流量Qaと逆算して得た検定目標ダム放流量Qbとの偏差が所定値以上であるとき、各ゲート毎の目標開度に妥当性がないとして警報を発することを特徴とするダム管理装置。
【請求項2】
複数のゲート設備を有するダムの貯水位、前記各ゲートの開度を含む計測データを入力し、入力した計測データをもとに目標ダム放流量Qaを演算し、演算した前記目標ダム放流量に基づき前記ダムに設置した各ゲートの目標開度を演算する目標開度演算部と、
前記目標開度演算手段が演算した目標開度にしたがって各ゲートを操作する操作処理部を備えたダム管理装置において、
前記目標開度演算手段が演算した各ゲート毎の目標開度をもとに各ゲート毎の目標放流量を逆算し、逆算した放流量を合算して検定目標ダム放流量Qbを逆算する逆算部と、
目標ダム放流量Qaと逆算して得た検定目標ダム放流量Qbとの偏差が所定値以上であるとき、および、現在放流量に対する目標放流量Qaの増減方向と現在放流量に対する検定目標流量Qbの増減方向が一致しない場合、
前記目標開度演算手段が演算した各ゲート毎の目標開度に妥当性がないとして警報を発することを特徴とするダム管理装置。
【請求項3】
複数のゲート設備を有するダムの貯水位、前記各ゲートの開度を含む計測データを入力し、入力した計測データをもとに目標ダム放流量Qaを演算し、演算した前記目標ダム放流量に基づき前記ダムに設置した各ゲートの目標開度を演算する目標開度演算部と、
前記目標開度演算手段が演算した目標開度にしたがって各ゲートを操作する操作処理部を備えたダム管理装置において、
前記目標開度演算手段が演算した各ゲート毎の目標開度をもとに各ゲート毎の目標放流量を逆算し、逆算した放流量を合算して検定目標ダム放流量Qbを逆算する逆算部と、
目標ダム放流量Qaと逆算して得た検定目標ダム放流量Qbとの偏差が所定値以上であるとき、および前記偏差が所定値以下であっも現在放流量に対する目標放流量Qaの増減方向と現在放流量に対する検定目標流量Qbの増減方向が一致しない場合、
前記目標開度演算手段が演算した各ゲート毎の目標開度に妥当性がないとして警報を発することを特徴とするダム管理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−190171(P2012−190171A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51973(P2011−51973)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000153443)株式会社日立情報制御ソリューションズ (359)
【Fターム(参考)】