説明

ダンパプーリ

【課題】プーリ本体またはハブと弾性体との間で滑りが発生したとしても、プーリ本体とハブとの間で回転駆動力を伝達することができると共に、当該滑りが発生していないときには、回転振動を吸収しつつ回転駆動力を伝達することができるダンパプーリを提供する。
【解決手段】弾性体30の外周面から径方向外方に突出するように弾性体30に一体的に形成された外側係止部材41を、プーリ本体10の本体凹所12に周方向に隙間を有する状態で挿入され、かつ、本体凹所12に対して周方向に係止可能に設ける。さらに、弾性体30の内周面から径方向内方に突出するように弾性体30に一体的に形成された内側係止部材42を、ハブ20のハブ凹所23に周方向に隙間を有する状態で挿入され、かつ、ハブ凹所23に対して周方向に係止可能に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダンパプーリに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダンパプーリとして、特許文献1,2に記載されたものがある。これらのダンパプーリは、プーリ本体とハブとの径方向間を弾性体により弾性的に連結している。これにより、ハブの回転方向の振動を吸収することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7-83283号公報
【特許文献2】特開平7-208553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プーリ本体またはハブと弾性体との間にて滑りが発生した場合には、プーリ本体とハブとの間にて回転駆動力を伝達することができない。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、プーリ本体またはハブと弾性体との間で滑りが発生したとしても、プーリ本体とハブとの間で回転駆動力を伝達することができると共に、当該滑りが発生していないときには、回転振動を吸収しつつ回転駆動力を伝達することができるダンパプーリを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(請求項1)本発明に係るダンパプーリは、環状に形成され、内周面に径方向断面において凹状となる本体凹所が形成されたプーリ本体と、前記プーリ本体の径方向内方に配置され、前記プーリ本体の内周面に対して離隔して設けられる外周面を有し、該外周面に径方向断面において凹状となるハブ凹所が形成されたハブと、前記プーリ本体の内周面と前記ハブの外周面とを弾性的に連結し、前記プーリ本体と前記ハブとの位相差を吸収する弾性体と、前記弾性体の外周面から径方向外方に突出するように前記弾性体に一体的に形成され、前記本体凹所に周方向に隙間を有する状態で挿入され、かつ、前記本体凹所に対して周方向に係止可能な外側係止部材と、前記弾性体の内周面から径方向内方に突出するように前記弾性体に一体的に形成され、前記ハブ凹所に周方向に隙間を有する状態で挿入され、かつ、前記ハブ凹所に対して周方向に係止可能な内側係止部材とを備える。
(請求項2)また、前記外側係止部材と前記内側係止部材とは、一体的に連結されるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0007】
(請求項1)本発明によれば、外側係止部材および内側係止部材が弾性体に一体的に形成されている。そして、外側係止部材がプーリ本体の本体凹所に対して周方向に係止可能である。従って、プーリ本体の内周面と弾性体の外周面との間にて滑りが発生した場合には、外側係止部材と本体凹所とが係止し合う。この結果、プーリ本体と弾性体との間において、確実に回転駆動力を伝達できる。さらに、内側係止部材がハブのハブ凹所に対して周方向に係止可能である。従って、ハブの外周面と弾性体の内周面との間にて滑りが発生した場合には、内側係止部材とハブ凹所とが係止し合う。この結果、ハブと弾性体との間において、確実に回転駆動力を伝達できる。つまり、外側係止部材および内側係止部材を弾性体に一体的に設けることで、ハブとプーリ本体との間にて回転駆動力を確実に伝達できる。
【0008】
さらに、外側係止部材がプーリ本体に当接する場合、または、内側係止部材がハブに当接する場合には、ダンパプーリの固有振動数が変化する。その結果、ダンパプーリの回転に伴う音が発生する、もしくは、音の大きさが変化する。従って、当該音によって、ダンパプーリの異常状態を人が検知することができる。
【0009】
また、外側係止部材がプーリ本体の本体凹所に対して周方向に隙間を有する状態で挿入され、かつ、内側係止部材がハブのハブ凹所に対して周方向に隙間を有する状態で挿入されている。従って、プーリ本体およびハブと弾性体との間にて滑りが発生していない状態において、プーリ本体とハブとの間で微小な位相差が発生したとしても、外側係止部材および内側係止部材は、プーリ本体およびハブに当接しない。従って、弾性体によって、プーリ本体とハブとの位相差、すなわち、プーリ本体とハブとの回転方向の振動を確実に吸収することができる。
【0010】
さらに、外側係止部材および内側係止部材は、弾性体に一体的に形成されている。従って、外側係止部材、内側係止部材および弾性体は、一部品として取り扱うことができる。そうすると、ダンパプーリの製造方法は、弾性体の一体部品を、プーリ本体の内周面とハブの外周面との間に挟むように取り付けることにより行われる。このように、ダンパプーリは、容易に製造できる。
【0011】
(請求項2)外側係止部材と内側係止部材とが、一体的に連結されることで、仮に、弾性体が経年劣化などによって分裂したとしても、外側係止部材と内側係止部材とが分離することを防止できる。その結果、確実に、プーリ本体とハブとの間で、回転駆動力を確実に伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第一実施形態のダンパプーリの軸方向から見た図である。
【図2】図1のII−II断面図である。
【図3】図2のIII−III断面図である。
【図4】第二実施形態のダンパプーリの軸方向断面図である。
【図5】第三実施形態のダンパプーリの軸方向から見た図である。
【図6】図5のVI−VI断面図である。
【図7】図6のVII−VII断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第一実施形態>
本実施形態のダンパプーリ1について、図1〜図3を参照して説明する。ダンパプーリ1は、例えば自動車の内燃機関のクランクシャフト(回転軸)に連結され、かつ、外周にVベルトを懸架して使用される。そして、内燃機関によるクランクシャフトの回転駆動力を、Vベルトを介して自動車に搭載されている各種の補機類、例えば、オルタネータ、ウォータポンプ、クーラコンプレッサ等に伝達して、これらの補機類を駆動する。このダンパプーリ1は、内燃機関による回転駆動力をVベルトに伝達する際に、回転方向の振動を吸収し、かつ、減衰させることができる。ダンパプーリ1は、プーリ本体10と、ハブ20と、弾性体30と、係止部材40とを備えている。
【0014】
プーリ本体10は、図1,3に示すように、金属製の円環状に形成されている。プーリ本体10の外周面には、図2に示すように、Vベルト(図示せず)が懸架されるV溝11が軸方向に複数形成されている。さらに、プーリ本体10の内周面は、円筒の内周面形状に形成されており、この内周面に径方向断面において凹状となる本体凹所12が形成されている。本体凹所12は、周方向に等間隔に複数、例えば4箇所に形成されている。本実施形態における本体凹所12は、軸方向に延びる溝であり、プーリ本体10の両端面に開口するように形成されている。
【0015】
ハブ20は、金属製の円盤状に形成され、ダンパプーリ1における中心軸部分に配置される。ハブ20の外周面は、円筒の外周面形状に形成されている。ハブ20は、プーリ本体10の径方向内方に配置されている。つまり、ハブ20の外周面は、プーリ本体10の内周面に対して径方向に離隔して設けられる。
【0016】
ハブ20の中心軸には、筒状のボス部21が形成されている。このボス部21には、両端面に開口するキー溝21aが形成されている。ハブ20のボス部21の中心孔には、内燃機関のクランクシャフト(図示せず)が嵌合により固定されている。つまり、ハブ20は、クランクシャフトと一体的に回転する。ハブ20のボス部21と外周面との間には、軸方向に貫通する貫通孔22が、周方向に等間隔に複数形成されている。
【0017】
さらに、ハブ20の外周面には、径方向断面において凹状となるハブ凹所23が形成されている。ハブ凹所23は、周方向に等間隔に、本体凹所12と同数形成されている。本実施形態におけるハブ凹所23は、軸方向に延びる溝であり、ハブ20の両端面に開口するように形成されている。ここで、ハブ凹所23は、周方向に隣り合う貫通孔22の中間に形成されている。さらに、ハブ凹所23は、本体凹所12に対して周方向にずれた位置に形成されている。例えば、本実施形態においては、ハブ凹所23と本体凹所12は、約45°ずれた位置に形成されている。
【0018】
弾性体30は、ゴムにより円筒形状に形成され、プーリ本体10の内周面とハブ20の外周面とを弾性的に連結する。詳細には、弾性体30の外周面とプーリ本体10の内周面、および、弾性体30の内周面とハブ20の外周面とは、接着剤により接着されているか、もしくは、圧入により固定されている。弾性体30は、プーリ本体10とハブ20との位相差を吸収する。つまり、ハブ20にクランクシャフトから回転変動が伝達された場合に、弾性体30は、伝達された回転変動を吸収する。
【0019】
係止部材40は、弾性体30より粘性の小さな材料、例えば、金属、樹脂またはセラミックなどにより形成されている。係止部材40は、弾性体30に一体的に形成されている。本実施形態においては、4個の係止部材40が弾性体30に一体的に形成されている。つまり、弾性体30と4個の係止部材40とにより、一体的な一部品を構成している。この係止部材40は、クランク型に近似した形状に形成されている。すなわち、係止部材40は、外側係止部41と内側係止部42と連結部43とを備えて構成され、これらを一体部材として形成されている。
【0020】
外側係止部41は、弾性体30の外周面から径方向外方に突出している。さらに、外側係止部41は、弾性体30の軸方向の中央部に位置している。外側係止部41の径方向の突出量は、プーリ本体10における本体凹所12の溝深さより少ない。そして、外側係止部41は、本体凹所12に周方向に隙間を有する状態で、かつ、本体凹所12の底部に対して径方向に隙間を有する状態で挿入されている。
【0021】
内側係止部42は、弾性体30の内周面から径方向内方に突出している。さらに、内側係止部42は、弾性体30の軸方向の中央部に位置している。内側係止部42の径方向の突出量は、ハブ20におけるハブ凹所23の溝深さより少ない。そして、内側係止部42は、ハブ凹所23に周方向に隙間を有する状態で、かつ、ハブ凹所23の底部に対して径方向に隙間を有する状態で挿入されている。
【0022】
連結部43は、外側係止部41と内側係止部42とを一体的に連結する部分である。この連結部43は、弾性体30の内部に埋設されている。従って、外側係止部41および内側係止部42は、弾性体30の表面から露出しているが、連結部43は、弾性体30の表面から露出していない。従って、連結部43は、プーリ本体10およびハブ20に当接することはない。
【0023】
以上説明したダンパプーリ1による作用効果について説明する。何らかの事情によって、弾性体30の外周面とプーリ本体10の内周面との間に滑りが発生するおそれがある。この場合、外側係止部41はプーリ本体10に対して周方向に大きく移動する。そうなると、外側係止部41は、本体凹所12の溝側面に当接して、本体凹所12に対して周方向に係止可能となる。このように、外側係止部41と本体凹所12とが係止し合うことにより、プーリ本体10と弾性体30との間において、確実に回転駆動力を伝達できる。
【0024】
また、何らかの事情によって、弾性体30の内周面とハブ20の外周面との間に滑りが発生するおそれがある。この場合、内側係止部42はハブ20に対して周方向に大きく移動する。そうなると、内側係止部42は、ハブ凹所23の溝側面に当接して、ハブ凹所23に対して周方向に係止可能となる。このように、内側係止部42とハブ凹所23とが係止し合うことにより、ハブ20と弾性体30との間において、確実に回転駆動力を伝達できる。つまり、外側係止部41および内側係止部42を弾性体30に一体的に設けることで、ハブ20とプーリ本体10との間にて回転駆動力を確実に伝達できる。
【0025】
特に、外側係止部41と内側係止部42とが連結部43によって一体的に連結されることで、仮に、弾性体30が経年劣化などによって分裂したとしても、外側係止部41と内側係止部42とが分離することを防止できる。その結果、確実に、プーリ本体10とハブ20との間で、回転駆動力を確実に伝達することができる。
【0026】
さらに、外側係止部41がプーリ本体10に当接する場合、または、内側係止部42がハブ20に当接する場合には、ダンパプーリ1の固有振動数が変化する。その結果、ダンパプーリ1の回転に伴う音が発生する、もしくは、音の大きさが変化する。従って、当該音によって、ダンパプーリ1の異常状態を人が検知することができる。
【0027】
また、外側係止部41がプーリ本体10の本体凹所12に対して周方向に隙間を有する状態で挿入され、かつ、内側係止部42がハブ20のハブ凹所23に対して周方向に隙間を有する状態で挿入されている。従って、プーリ本体10およびハブ20と弾性体30との間にて滑りが発生していない状態において、プーリ本体10とハブ20との間で微小な位相差が発生したとしても、外側係止部41および内側係止部42は、プーリ本体10およびハブ20に当接しない。従って、弾性体30によって、プーリ本体10とハブ20との位相差、すなわち、プーリ本体10とハブ20との回転方向の微小振動を確実に吸収することができる。つまり、弾性体30とプーリ本体10との接合状態が維持されていれば、外側係止部41および内側係止部42は、ダンパプーリ1としての機能に何ら影響を与えない。
【0028】
さらに、係止部材40は、弾性体30に一体的に形成されている。従って、係止部材40および弾性体30は、一部品として取り扱うことができる。そうすると、ダンパプーリ1の製造方法は、弾性体30と係止部材40との一体部品を、プーリ本体10の内周面とハブ20の外周面との間に挟むように取り付けることにより行われる。このように、ダンパプーリ1は、容易に製造できる。
【0029】
<第二実施形態>
本実施形態におけるダンパプーリ1について、図4を参照して説明する。本実施形態のダンパプーリ1においては、第一実施形態のダンパプーリ1に対して、係止部材40の弾性体30に対する軸方向位置が相違する。つまり、係止部材40は、弾性体30の軸方向一端側に一体的に形成されている。さらに、プーリ本体10において、本体凹所12は、両端面に開口するのではなく、一端面のみに開口するように形成されている。そして、当該本体凹所12に外側係止部41が挿入されている。また、ハブ20において、ハブ凹所23は、両端面に開口するのではなく、一端面のみに開口するように形成されている。そして、当該ハブ凹所23に内側係止部42が挿入されている。本実施形態においても、上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0030】
<第三実施形態>
本実施形態におけるダンパプーリ1について、図5〜図7を参照して説明する。本実施形態のダンパプーリ1においては、第一実施形態のダンパプーリ1に対して、係止部材40を棒状に形成した点が相違する。さらに、プーリ本体10の本体凹所12とハブ20のハブ凹所23とが、同位相となるように配置されている。そして、本体凹所12およびハブ凹所23に、係止部材40が挿入されている。本実施形態においても、上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0031】
なお、上記実施形態においては、外側係止部41と内側係止部42とが連結部43によって一体的に形成されているものとした。この他に、外側係止部41と内側係止部42とが別体で、それぞれ弾性体30に一体的に形成されるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0032】
1:ダンパプーリ、 10:プーリ本体、 11:溝、 12:本体凹所、 20:ハブ、 21:ボス部、 21a:キー溝、 22:貫通孔、 23:ハブ凹所、 30:弾性体、 40:係止部材、 41:外側係止部、 42:内側係止部、 43:連結部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状に形成され、内周面に径方向断面において凹状となる本体凹所が形成されたプーリ本体と、
前記プーリ本体の径方向内方に配置され、前記プーリ本体の内周面に対して離隔して設けられる外周面を有し、該外周面に径方向断面において凹状となるハブ凹所が形成されたハブと、
前記プーリ本体の内周面と前記ハブの外周面とを弾性的に連結し、前記プーリ本体と前記ハブとの位相差を吸収する弾性体と、
前記弾性体の外周面から径方向外方に突出するように前記弾性体に一体的に形成され、前記本体凹所に周方向に隙間を有する状態で挿入され、かつ、前記本体凹所に対して周方向に係止可能な外側係止部材と、
前記弾性体の内周面から径方向内方に突出するように前記弾性体に一体的に形成され、前記ハブ凹所に周方向に隙間を有する状態で挿入され、かつ、前記ハブ凹所に対して周方向に係止可能な内側係止部材と、
を備えるダンパプーリ。
【請求項2】
請求項1において、
前記外側係止部材と前記内側係止部材とは、一体的に連結されているダンパプーリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−83280(P2013−83280A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221802(P2011−221802)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】