説明

チェアサイド歯科用クラウンを製造する方法

本発明は、歯科用修復物、特に歯科用クラウンを製造する方法を提供する。当該方法は、前処理された歯表面に可撓性のセメント組成物を塗布する工程を伴う。当該組成物を重合させることにより、組成物は実質的に硬化する。クラウン形成複合材料を、実質的に透明なプラスチックマトリクス中に分配する。マトリクスを患者の口内に配置させることにより、複合材料は歯表面を覆うように成形される。その後、マトリクスを介して材料に硬化光を照射させることにより、材料は硬化して、歯科用クラウンを形成する。クラウンは、良好な機械強度を有し、且つ破砕及び破損に対する耐性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[発明の背景]
[発明の分野]
本発明は包括的に、人工歯科用クラウン、ブリッジ及び他の修復物を製造する方法に関する。本発明はまた、当該方法に使用される組成物を包含する。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本出願は、出願日が2005年8月10日である米国特許仮出願第60/706,882号(この内容は全て、参照により本明細書に援用される)の利益を主張する。
【背景技術】
【0003】
[関連技術の簡単な記載]
歯科専門家は、多くの様々な理由により歯を被覆するような人工クラウンを作製する。一般に、クラウンを用いて、天然歯の歯冠部位の一部又は全ての解剖学的構造、機能及び美観を修復する。例えば、クラウンは、1)弱った歯を破損から保護するか(歯は虫歯又は他の疾患の結果として弱まることがある)、2)ひび割れた歯の一部分を結合させるか、3)既に破損しているか又は著しく磨滅している歯を修復するか、4)多量の充填材と共に歯を被覆及び支持するか、5)所定位置に歯科用ブリッジを保持させるか、6)変形したか又は著しく変色した歯を被覆するか、又は7)歯科用インプラントを被覆するのに必要とされ得る。
【0004】
歯科用クラウンを製造する従来の手順では、患者が何度も歯科医を訪れなければならない。初診において、歯科医は、クラウンが与えられる予定の歯を検査すると共に前処理する。最初に、歯科医は、最終的にクラウンが与えられる予定の歯を含む患者の歯の解剖学的構造の印象を取り得る。印象を作製するために、歯科医は通常、分注シリンジを使用して、ペースト状材料を印象トレイに注入する。その後、歯科医は、充填されたトレイを患者の口内に挿入し、患者がトレイ内のペーストを噛み、印象を形成する。歯科医が印象を取った後、患者に麻酔をかけて、クラウンが与えられる予定の歯を前処理する。まず、歯科医は、歯科用バー又は他の器具を用いて任意の齲蝕を歯から除去し得る。その後、歯科医は、歯を「コア」又は「スタンプ」へと充填及び研削することによって歯上で「クラウンプレップ」作業を行なう。ダイアモンドバーを備える高速ハンドピース又は低速ハンドピースを用いて、一般に、歯を研削してコアを作製する。次に、歯科医、前処理された歯の最終的な印象を取る。
【0005】
より正確な印象を作製するために、歯科医はまず、歯肉後退器具を用いて、クラウンが与えられる予定の歯の周辺の歯肉組織を後退させることができる。歯科医は通例、前処理された歯周辺の歯肉構に、手持ち器具を用いて押し込まれる歯肉後退コードを使用する。歯肉組織を後退させると、前処理された歯の縁が露出する。このため、歯科医はより正確で精密な印象を取ることができる。前処理された歯の印象は、上記と同様にペースト状材料を使用して作製される。前処理された歯の印象を取った後、歯科医は、印象を歯科技工所に送り、そこで永久クラウンが作製される。
【0006】
最初の外来診療の際、歯科医は前処理された歯の上にテンポラリークラウンを設けて、永久クラウンを作製している間、歯を被覆及び保護するようにする。テンポラリークラウンは、アクリル等の高分子ペースト状材料から作製される。より詳細には、基剤ペースト及び触媒ペーストから調製される重合性材料を使用して、テンポラリークラウンを形成することができる。基剤ペースト及び触媒ペーストは、静止混合機を用いて、分配チップを有するダブルバレルシリンジから分配され得る。基剤ペースト及び触媒ペーストは、静止混合機を介して、また直接、事前に作製された印象又はプラスチックマトリクス上に押し出される。その後、重合性(混合された基剤及び触媒)材料を含有する印象又はマトリクスは、患者の口内に挿入される。歯科医が印象又はマトリクスを歯の表面に押し付けて、重合性材料が前処理された歯を覆うように成形される。その後、成形された部分的に硬化した材料を含有する印象又はマトリクスを患者の口から取り出す。化学硬化、光硬化、熱硬化、又は他の好適なプロセスによって重合性材料を完全に硬化し、テンポラリークラウンを形成する。その後、テンポラリークラウンを、テンポラリー歯科用セメントを使用して歯に接合させる。
【0007】
様々なテンポラリークラウン材料及びテンポラリーブリッジ材料は、歯科用製品を供給する会社から入手可能である。例えば、Integrity(商標)A2(Dentsply International)は、10:1(基剤/触媒)の体積比で互いに混合される基剤ペースト及び触媒ペーストから成るテンポラリークラウン材料及びテンポラリーブリッジ材料である。Protemp(商標)3 Garant(商標)A2(3M ESPE)は、基剤ペースト及び触媒ペーストを10:1の体積比で混合する別のテンポラリークラウン材料及びテンポラリーブリッジ材料である。Structur(商標)2 SC A3(Voco)及びTemphase(商標)(Kerr)は、基剤ペースト及び触媒ペーストを1:1の体積比で混合する市販のカートリッジである。
【0008】
テンポラリークラウン及びテンポラリーブリッジを作製するのに使用することができる組成物は一般に、特許文献に記載されている。例えば、 May et al.、米国特許第5,376,691号は、テンポラリークラウン及びテンポラリーブリッジを製造するための歯科用セメントを開示している。歯科用セメントは、ウレタンジアクリレート等の二官能性アクリレートと、第三級アミン等の活性化剤と、バリウムガラス及び/又はストロンチウムガラス等のレントゲンパック(radiopaque)充填材とを含む第1のペーストから調製される。第2のペーストは、活性な二重結合を含む物質を含まず、過酸化ジベンゾイル等の触媒と、二酸化ケイ素材料と、他の構成成分と重合することはないが口内で十分不溶性である可塑剤(softener)とを含む。可塑剤は、液状パラフィン、長鎖グリコール及び不活性アルキルフタレートのような化合物から選択され得る。
【0009】
Tateosian et al.、米国特許第5,554,665号は、2つの相補的なペーストの静止混合によって形成される歯科用組成物を開示している。触媒ペーストは、重合性メタクリレートと、過酸化物と、ブチル化ヒドロキシトルエン等の安定化剤とを含む。安定化剤は、少なくとも180日間、23℃での重合を防止するのに有効である。相補的な促進剤兼放射線硬化開始剤のペーストは、重合性メタクリレートと、過酸化物用の還元剤、例えばジヒドロキシエチル−p−トルイジンとを含む。’665号特許によれば、ペースト組成物は好ましくは、実質的に同じ粘度を有し、1:1〜1:5の体積比で混合される。
【0010】
Xie、米国特許第5,977,199号は、テンポラリークラウン及びテンポラリーブリッジを作製するための歯科用セメント材料を搬送する搬送システムを開示している。触媒ペースト及び基剤ペーストは、デュアルカートリッジから分配され、静止混合機内で混合されて、重合材料を形成する。触媒ペーストは、少なくとも1つの重合性モノマーと、重合開始剤と、重合阻害剤と、充填剤とを含む。基剤ペーストは、少なくとも1つの重合性モノマーと、少なくとも1つの重合促進剤と、重合阻害剤と、充填剤とを含む。’199号特許によれば、混合物が効果的に硬化するために、触媒ペーストの粘度は、基剤ペーストの粘度よりも本質的に大きくなければならない。
【0011】
2回目の外来診療で歯科医はテンポラリークラウンを取り外す。歯科医は、歯を掃除して、あらゆる残留テンポラリーセメントを除去する。さらに、歯科医は、永久クラウンの色及び咬合性を確認する。満足のいくものであれば、歯科医は歯に麻酔をかけた後、永久セメントを使用して永久クラウンを歯に固定する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のように、従来のクラウンの製造、嵌合及び装着の手順では、患者が何度も歯科医を訪れなければならない。さらに、この手順は、テンポラリークラウン又は仮のクラウンの製造を伴うため、時間及びコストがかかる。この従来のプロセスに伴う何回もの麻酔工程及び嵌合工程により、患者及び歯科医は、いっそうのストレス及び不安を感じるおそれがある。このため、歯科医が、1回の外来診療で永久歯科用クラウンを患者に作製することができる方法を開発することが望ましいであろう。理想的には、歯科医は、1回の外来診療で、クラウン「チェアーサイド」を設計及び作製すると共に、患者の歯の上にクラウンを装着することができるのがよい。クラウンは、良好な美観を有する材料から作製されるものであるため、クラウンは天然歯の色合いと調和するものとなる。さらに、クラウンは、良好な機械強度及び整合性を有するものであるため、クラウンは容易に破損したり、破砕したりしない。
【0013】
本発明は、歯科用クラウンを製造する方法、及びこのようなクラウンを製造するのに使用することができる組成物を提供する。当該方法は効率的であり、この方法により、歯科医が、審美的に好ましく且つ良好な機械強度、並びに他の有益な特徴及び利点を有するクラウンを提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
[発明の概要]
本発明は、歯科用クラウン、ブリッジ又は他の修復物を製造する新規な方法に関する。本発明はまた、このようなクラウン、ブリッジ及び他の修復物を製造するのに使用することができる組成物を含む。
【0015】
本発明の一実施の形態では、重合性且つ可撓性のセメント組成物が提供される。セメント組成物は、クラウンが与えられる予定の前処理された歯表面に塗布され、組成物を重合させることにより、組成物は実質的に硬化する。次に、クラウン形成複合材料を実質的に透明なプラスチックマトリクス中に分配する。複合材料は、光によって活性化され得る重合系を含む。複合材料を含有するプラスチックマトリクスが、患者の口内に配置されることにより、材料は前処理された歯表面を覆うように成形される。複合材料は、硬化しているが可撓性であるセメントの層の上に広がるように塗布される。複合材料に光を照射することにより、材料を硬化してクラウンを形成する。その後、硬化されたクラウンを歯の表面から取り外す。クラウンは、必要であれば研削及び研磨されてもよい。封止剤をクラウンに塗布して、光沢仕上げ表面をもたらすことができる。その後、クラウンは、歯科用セメントを用いて歯に永久的に固定され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、歯科用修復物、特に歯科用クラウンを製造する方法に関する。本発明によれば、歯科医は、光硬化歯科用組成物を使用して、1回の外来診療の間に歯科用クラウンを作製及び装着することができる。本発明の方法は概ね、本明細書では歯科用クラウンを製造するのに適するように説明されているが、本発明の方法は、歯科用ブリッジ等の他の修復物を製造するのに用いることができることを認識されたい。
【0017】
本発明の方法によれば、歯科医はまず、クラウンが与えられる予定の歯を含む患者の歯の術前印象又はマトリクスを取る。歯科医は好ましくは、歯の印象を取るために、シリコーンから成る透明なプラスチックマトリクスを使用する。重要なことは、マトリクスが透明であることである。これは、さらに詳細に以下で説明されるようなプロセスの次の工程で、硬化光がマトリクスを透過するからである。歯科医は、シリコーンマトリクスを歯の表面に押し付け、印象を形成する。印象がシリコーンマトリクスにおいて形成されたら、歯科医はマトリクスを歯から取り外す。得られる印象は、歯の解剖学的構造、特に、歯の咬合表面の正確なネガ型類似物である。
【0018】
次に、クラウンが与えられる予定の歯を、従来の技術を用いて前処理する。。この「クラウンプレップ」作業は一般的に、歯を「コア」又は「スタンプ」へと充填及び研削することを伴う。歯科医は、ダイアモンドバーを備える高速ハンドピース又は低速ハンドピースを用いて、歯を研削してコアを作製する。
【0019】
次に、歯科医は、前処理された歯に「スペーサー材料」の薄層を適用させる。スペーサー材料は、前処理された歯の表面を覆うように塗布されるが、歯の縁には塗布しない。スペーサー材料は好ましくは、可撓性のセメント組成物である。本発明の一実施形態では、スペーサー材料は、以下でさらに説明されるような触媒ペースト及び基剤ペーストから成る。以下の組成物は、例示目的でのみ提示されており、本発明に従って使用され得る組成物の一実施形態を示しているに過ぎないことを理解されたい。
【0020】
スペーサー材料(可撓性のセメント)用の触媒ペースト
スペーサー材料(可撓性のセメント)は、触媒ペースト及び基剤ペーストから調製され得る。ダブルバレルシリンジ等の従来の自動混合システムを使用して、触媒成分と基剤成分とを混合し、得られるスペーサー材料を分配することができる。触媒ペースト及び基剤ペーストは、別々のカートリッジに保存され、所定の体積比でカートリッジから分配されて、混合組成物を形成する。
【0021】
好ましくは、基剤ペーストと混合されてスペーサー材料組成物を形成する触媒ペーストは、重合性モノマーと、重合開始剤と、重合阻害剤と、充填剤とを含む。
【0022】
触媒ペーストに使用される好適な重合性モノマーとしては、例えば、アクリレート樹脂、メタクリレート樹脂、又はそれらの混合物が挙げられる。例えば、重合性モノマー、例えば、エチレングリコールジ(メト)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メト)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メト)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メト)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メト)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メト)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メト)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メト)アクリレート、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−アクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン(Bis−GMA)、2,2−ビス[4−(アクリロイルオキシ−エトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(メタクリロイルオキシ−エトキシ)フェニル]プロパン、ウレタンジ(メト)アクリレート(UDMA)、アルコキシル化ペンタクリスリトル(pentacrythritol)テトラアクリレート、エトキシル化ビスフェノールAジメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタクリレートリン酸エステル(PENTA)、及びビス[2−(メタクリロキシオキシ(methacryloxyloxy))−エチル]リン酸塩等を使用することができる。
【0023】
触媒ペーストにおいて使用される重合開始剤は、既知の重合開始剤、例えば、有機過酸化物(例えば、過酸化ジベンゾイル(BPO)、ジ−p−クロロベンゾイルペルオキシド、ジ−2,4−ジクロロベンゾイルペルオキシド、ターシャリーブチルペルオキシベンゾエート、メチルエチルケトンペルオキシド、ジターシャリーブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、及びクメンヒドロペルオキシド等)から選択され得る。重合促進剤は、過酸化物と組み合わせて使用することができ、モノマーを室温で急激に重合させる。第三級アミンは、重合促進剤として使用され、これらとしては、例えば、トリエタノールアミン、N,N,3,5−テトラメチルアニリン、4−(ジメチルアミノ)−フェネチルアルコール、ジメチルアミノ安息香酸エステル、ジメチル−p−トルイジン、ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、及びヒドロキシエチル−p−トルイジン等が挙げられる。また、触媒ペーストは、ブチル化ヒドロキシトルエン等の従来の重合阻害剤を含有し得る。
【0024】
二酸化ケイ素、ガラス、二酸化チタン、酸化鉄顔料、及び他の好適な充填材料を、触媒ペーストに添加することができる。充填剤は、増粘剤として作用し、粘性及び/又はチキソトロピーの所望のレベルを組成物にもたらす。好ましくは、二酸化ケイ素粒子は、シラン化されたヒュームドシリカの形態である。また、ガラス充填剤、フッ素化されたバリウムホウ素アルミナシリケートをペーストに添加することができる。有意なことは、フッ素化されたバリウムホウ素アルミナシリケートガラス充填剤が非シラン化物であることである。このガラス充填剤は非シラン化物であるため、シラン化されたガラス充填剤と同じように効果的に、ペーストのポリマーマトリクスと結合することはないであろう。ガラス充填剤とポリマーマトリクスとの間の結合量は減少する。これは、最終的なスペーサー材料に比較的小さい圧縮強度を付与するのに役立つ。スペーサー材料はより可撓性となるであろう。その結果、スペーサー材料は、「予備の」クラウンと歯組織との間の「一時的な結合」を形成するであろう。以下でさらに詳細に説明するように、歯科医は、プローブ、エクスプローラ又は他の従来の器具によってこの一時的な結合を容易に破壊して予備のクラウンを取り除き、その後、最終的なクラウンを製造して歯に装着することができる。必要に応じて、少量のシラン化されたガラスを触媒ペーストに添加することもできることを認識されたい。
【0025】
また、触媒ペーストは、歯科用セメント組成物に所望の特性を付与する添加剤を含むことができる。例えば、抗菌剤を触媒ペーストに添加することができる。
【0026】
スペーサー材料(可撓性のセメント)用の基剤ペースト
好ましくは、スペーサー材料組成物を形成するのに使用される基剤ペーストは、重合性モノマーと、重合促進剤と、重合阻害剤と、非重合性可塑剤と、充填剤とを含む。
【0027】
基剤ペーストは好ましくは、重合性モノマーと、ウレタンジメタクリレート(UDMA)と、ポリエーテルジウレタンメタクリレート(PDM)とを含有する。UDMA樹脂は、比較的大きい圧縮強度を有する。PDM樹脂は、歯科用セメントにゴム状弾性を付与する。PDM樹脂は、硬化状態で低粘度(7000〜12000cps)及び低弾性率を有する。UDMA樹脂とPDM樹脂との配合物は、比較的低い圧縮強度及び弾性率を有する可撓性のセメントをもたらす。得られるセメントは、歯と予備のクラウンとの間の永久的な結合を形成するものではない。
【0028】
基剤ペーストは、第三級アミン、例えばジヒドロキシエチル−p−トルイジン等の従来の重合促進剤を含有していてもよい。重合促進剤を重合性開始剤と共に使用して、モノマーの重合速度を上げる。基剤ペーストはまた、上記のような、触媒ペーストに使用される同様の重合阻害剤を含有し得る。
【0029】
基剤ペーストは、非重合性可塑剤、例えばベンジル3−イソブトリロキシ−1−イソプロピル−2,2−ジメチルプロピルフタレートをさらに含んでいてもよい。可塑剤は重合中に起こる架橋に対して不活性であるため、基剤ペースト中の可塑剤の使用はセメントの圧縮強度を低下させるのに役立つ。可塑剤はまた、触媒ペースト中に存在するBPOのための担体として作用する。
【0030】
また、基剤ペーストは、上記のような、触媒ペーストに使用される同様の充填剤及び添加剤を含有していてもよい。代替的には、種々の充填剤及び添加剤を、触媒ペーストではなく基剤ペーストに使用することができる。従来の光開始剤を触媒ペースト又は基剤ペーストのいずれかに添加して、可撓性のセメントを光硬化性とする。カンファーキノンは一般に光開始剤として使用される。
【0031】
触媒ペースト及び基剤ペーストは、上記のようなダブルバレルシリンジ又は他の好適な自動混合システムを用いて互いに混合され得る。その後、歯科医は、可撓性のセメントを、補修される歯の表面に注意深く正確に塗布することにより、セメント材料を縁に塗布しないようにする。次に、歯科医は、標準的な光硬化灯を用いてセメント材料を光硬化させる。
【0032】
歯科医が光硬化工程を完了させた後、歯科医は、複合材料を上述の事前に作製された歯科印象(透明なシリコーンマトリクス)へ分配し、クラウンを作製する。本発明では、クラウンを形成するのに使用される組成物も、好ましくは基剤ペースト及び触媒ペーストから作製される。
【0033】
クラウン形成複合材料用の基剤ペースト
触媒ペーストと混合されて、本発明のクラウン複合材料を形成する基剤ペーストは、重合性化合物と、重合促進剤と、充填材料との配合物を含み得る。
【0034】
基剤ペースト及び触媒ペーストに使用される重合性化合物は、ポリマーネットワークを形成するように硬化することができる。重合性化合物は、低い毒性と共に、十分な強度及び加水分解安定性を有するため、口腔内で使用することができる。
【0035】
好適な重合性化合物の1つの種類は、フリーラジカル活性官能基を有する材料を含有し、好適な重合性化合物の1つの種類としては、1つ又は複数のエチレン性不飽和基を有するモノマー、オリゴマー及びポリマーが挙げられる。このようなフリーラジカル重合性化合物としては、モノ−、ジ−又はポリ−アクリレート及びメタクリレート、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレート、アリルアクリレート、グリセロールジアクリレート、グリセロールトリアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジ(メト)アクリレート、1,3−プロパンジオールジアクリレート、1,3−プロパンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリ(メト)アクリレート、1,2,4−ブタントリオールトリメタクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メト)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ソルビトールヘキサアクリレート(hexacrylate)、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−アクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン;2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン(Bis−GMA);2,2−ビス[4−(アクリロイルオキシ−エトキシ)フェニル]プロパン;2,2−ビス[4−(メタクリロイルオキシ−エトキシ)フェニル]プロパン(すなわち、エトキシル化されたビスフェノールA−ジメタクリレート)(EBPADMA);ウレタンジ(メト)アクリレート(UDMA)、ジウレタンジメタクリレート(DUDMA);ポリウレタンジメタクリレート(PUDMA);アルコキシル化ペンタクリスリトルテトラアクリレート(tetraacrylatel);ポリカーボネートジメタクリレート(PCDMA);ポリエチレングリコールのビス−アクリレート及びビス−メタクリレート;アクリレート化モノマーの共重合性混合物;アクリレート化オリゴマー;酸性モノマー、例えばジペンタエリスリトールペンタクリレートリン酸エステル(PENTA);ビス[2−(メタクリロキシオキシ)−エチル]リン酸塩;及びビニル化合物、例えば、スチレン、ジアリルフタレート、ジビニルスクシネート、ジビニルジアジペート及びジビニルフタレートが挙げられるが、これらに限定されない。重合性化合物を単独で基剤ペースト及び触媒ペーストに使用してもよく、又は重合性化合物の混合物を基剤ペースト及び触媒ペーストに使用してもよい。
【0036】
基剤ペースト及び触媒ペーストに使用することができる重合性化合物の別の種類は、カチオン活性官能基を有する材料を含有する。この種類としては、カチオン重合性エポキシ樹脂、シロラン(siloranes:シロキサン)(環内にSi原子及びO原子を含有する)、及びビニルエーテル等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
上述の重合性化合物に加えて、基剤ペースト及び触媒ペーストは、希釈剤、例えば、重合性モノマー(例えば、ヒドロキシアルキルメタクリレート、エチレングリコールメタクリレート、及びジオールメタクリレート(例えば、トリ(エチレングリコール)ジメタクリレート(TEGDMA)))を含有して、組成物の粘度を下げ、組成物を塗布に関してより好適とすることができる。
【0038】
基剤ペーストは、好ましくは第三級アミンである重合促進剤をさらに含む。基剤ペーストに使用することができる第三級アミンとしては、N−メチル−ジエタノールアミン、エチル4−(ジメチルアミノ)ベンゾエート(EDMAB)、2−[4−(ジメチルアミノ)フェニル]エタノール、N,N−ジメチル−p−トルイジン(DMPT)、ジヒドロキシエチル−p−トルイジン(DHEPT)、ビス(ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、及びトリエタノールアミン等が挙げられる。好ましい重合促進剤は、ジヒドロキシエチル−p−トルイジン(DHEPT)である。重合促進剤は一般に、組成物の総重量に基づき約0.01〜約10重量%の範囲で、好ましくは約0.1〜約5重量%の範囲で組成物中に存在する。また、金属イオンを使用して、触媒系の効率を改良することができる。このような化合物としては、銅、鉄、マンガン及びホウ酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
また、基剤ペーストとしては、重合阻害剤、例えば、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、ベンゾキノン、クロラニル、フェノール、ブチルヒドロキシアナリン(butyl hydroxyanaline)(BHT)、ターシャリーブチルヒドロキノン(TBHQ)、及びトコフェロール(ビタミンE)等が挙げられ得る。好ましくは、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)は、重合阻害剤として使用される。重合阻害剤はスカベンジャーとして働き、得られる組成物中でフリーラジカルを捕捉して、組成物の作用時間及び硬化時間を延ばす。重合阻害剤は一般に、組成物の総重量に基づき約0.01〜約2重量%の範囲で組成物中に存在する。基剤ペーストは、1つ又は複数の重合阻害剤を含み得る。
【0040】
反応性充填剤及び非反応性充填剤を含む従来の充填材料を、基剤ペースト及び触媒ペーストに添加することができる。反応性充填剤としては、金属酸化物及び金属水酸化物、金属塩、並びに酸反応性であるガラスが挙げられる。このような充填剤は通常、歯科用アイオノマーセメントに使用される。金属酸化物の例としては、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム及び酸化亜鉛が挙げられるが、これらに限定されない。金属塩の例としては、酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、硝酸アルミニウム、硝酸バリウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、及び硝酸ストロンチウムが挙げられるが、これらに限定されない。好適なガラスとしては、ホウ酸塩ガラス、リン酸塩ガラス、及びフルオロアルミン酸塩ガラスが挙げられるが、これらに限定されない。ガラスは、フッ化物放出特性を有していても、又は有していなくてもよい。フッ化物放出ガラスを使用する利点はよく知られている。このような材料は、長時間にわたって口腔内にフッ化物を放出することができる。フッ化物は一般に、齲歯を引き起こす可能性のある酸による攻撃に対してさらなる保護を付与する。とはいえ、一時的な歯科用修復物は短期間の使用に意図されるに過ぎないことから、このようなフッ化物放出ガラスは一般に、一時的な歯科用修復物において使用されることはない。また、上記の充填材料の混合物は、必要に応じて基剤ペースト及び触媒ペースト中に使用することができる。
【0041】
広範な非酸反応性充填材料を、基剤ペースト及び触媒ペーストに添加することができることをさらに認識されたい。天然又は合成のものであり得る無機充填剤を添加してもよい。このような材料としては、シリカ、二酸化チタン、酸化鉄、窒化ケイ素、ガラス(例えば、カルシウム系ガラス、鉛系ガラス、リチウム系ガラス、セリウム系ガラス、スズ系ガラス、ジルコニウム系ガラス、ストロンチウム系ガラス、バリウム系ガラス及びアルミニウム系ガラス、ホウケイ酸ガラス)、ホウケイ酸ストロンチウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸リチウム、リチウムアルミナシリケート、カオリン、石英、及びタルクが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、シリカは、シラン化されたヒュームドシリカの形態である。好ましいガラス充填剤は、シラン化されたバリウムホウ素アルミノシリケートである。ポリカーボネート及びポリエポキシド等の有機粒子も、必要に応じて充填剤として使用することができる。さらに、液晶ポリマー(LCP)、部分的に重合したポリマー(ナノゲル)、及び繊維(例えば、ガラス、炭素、又は強化合成繊維)が挙げられるが、これらに限定されない非従来型の充填材料を、本発明の組成物に使用することができる。
【0042】
充填材料を含む粒子の平均粒径は通常、約0.1〜約10ミクロンの範囲、より好ましくは約0.1〜約5ミクロンの範囲である。ヒュームドシリカ充填材料を使用する場合、シリカ粒子は好ましくはナノメーターのサイズである。シリカ粒子は好ましくは、200nm未満の平均直径を有する。充填剤粒子は、シラン化合物又は他のカップリング剤で表面処理されて、粒子と樹脂マトリクスとの間の結合を改良することができる。好適なシラン化合物としては、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、及びそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
基剤ペーストは、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、低分子量ポリグリコール、ポリエステル、及びポリプロピレンオキシドモノメタクリレート等が挙げられるが、これらに限定されない非重合性可塑剤をさらに含んでいてもよい。可塑剤は一般に、約1〜約20重量%の範囲の量で存在する。
【0044】
また、基剤ペーストは、組成物に特定の所望特性を付与する添加剤を含み得る。例えば、2,4,4−トリクロロ−2−ヒドロキシ−ジフェニルエーテル(TRICLOSAN)、クロルヘキシジン化合物、ヘキセチジン、アレキシジン、第四級アンモニウム抗菌化合物、及び金属イオン含有抗菌化合物等が挙げられるが、これらに限定されない抗菌剤;フッ化物放出剤;風味料(flavorants);顔料;蛍光剤;乳白剤;紫外線安定化剤;酸化防止剤;並びに粘度調整剤等を、基剤ペーストに添加することができる。
【0045】
クラウン複合材料用の触媒ペースト
好ましくは、クラウン形成複合材料を形成するのに使用される触媒ペーストは、重合性化合物と、重合開始剤と、充填材料との配合物を含む。
【0046】
基剤ペーストに添加するのに有用な重合性化合物も、触媒ペーストで使用してもよいが、但し、基剤ペースト及び触媒ペーストは、少なくとも1つの種々の重合性化合物を含有する。触媒ペーストに使用され得る好適な重合性化合物は、上記の通りである。このような化合物としては、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン(Bis−GMA)、2,2−ビス[4−(アクリロイルオキシ−エトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(メタクリロイルオキシ−エトキシ)フェニル]プロパン(すなわち、エトキシル化ビスフェノールA−ジメタクリレート)(EBPADMA)、ウレタンジ(メト)アクリレート(UDMA)、ジウレタンジメタクリレート(DUDMA)、及びポリウレタンジメタクリレート(PUDMA)等が挙げられるが、これらに限定されない。重合性化合物を単独で触媒ペーストに使用してもよく、又は重合性化合物の混合物を触媒ペーストに使用してもよい。
【0047】
また、触媒ペーストは、基剤ペーストに使用される上記のような希釈剤モノマーを含有していてもよい。好適な希釈剤モノマーとしては、ヒドロキシアルキルメタクリレート、エチレングリコールメタクリレート、及びジオールメタクリレートが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、触媒ペーストは、トリ(エチレングリコール)ジメタクリレート(TEGDMA)を含有する。
【0048】
一実施形態において、触媒ペーストは、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン(Bis−GMA)と、エトキシル化ビスフェノールA−ジメタクリレート)(EBPADMA)と、トリ(エチレングリコール)ジメタクリレート(TEGDMA)との配合物を含む。重合性化合物は一般に、触媒ペーストの総重量に基づき約10%〜約90%の範囲の量で、好ましくは約20%〜約70%の範囲の量で触媒ペースト中に存在する。
【0049】
好ましくは、過酸化物等の重合開始剤を触媒ペーストに添加して、自己硬化性の組成物を生成する。触媒ペースト中の過酸化物は、フリーラジカルを発生させ、室温における組成物の重合及び硬化を開始させる。過酸化物、例えば、ジベンゾイルペルオキシド(BPO)、ジ−p−クロロベンゾイルペルオキシド、ジ−2,4−ジクロロベンゾイルペルオキシド、ターシャリーブチルペルオキシベンゾエート、メチルエチルケトンペルオキシド、ジターシャリーブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、及びクメンヒドロペルオキシド等を、触媒ペーストに添加することができる。
【0050】
また、触媒ペーストは、基剤ペーストにも使用される上記のような重合阻害剤を含み得る。好適な重合阻害剤としては、例えば、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、ベンゾキノン、クロラニル、フェノール、ブチルヒドロキシアナリン(BHT)、ターシャリーブチルヒドロキノン(TBHQ)、及びトコフェロール(ビタミンE)等が挙げられる。好ましくは、基剤ペーストに使用される同様の阻害剤、例えばブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)は、触媒ペーストにも使用される。触媒ペーストは、1つ又は複数の重合阻害剤を含み得る。
【0051】
触媒ペーストは、基剤ペーストに使用される上記のような充填剤及び添加剤の同一の群から選択される充填剤と添加剤とを含有し得る。触媒ペースト及び基剤ペーストは、同一の充填剤を含み得る。例えば、基剤ペーストは、シラン化されたバリウムホウ素アルミノシリケートガラス充填剤と、ヒュームドシリカとの混合物を含み得る。代替的には、触媒ペーストは、種々の充填剤を含んでいてもよい。
【0052】
例えば、抗菌剤、フッ化物放出剤、風味料、顔料、蛍光剤、乳白剤、紫外線安定化剤、酸化防止剤、及び粘度調整剤等の添加剤を触媒ペーストに添加して、所望の特性を組成物に付与することができる。
【0053】
例えば、ベンゾフェノン、ベンゾイン及びそれらの誘導体、又はα−ジケトン及びそれらの誘導体等の光活性剤を、複合材料を光硬化性にするために、基剤ペースト又は触媒ペーストに添加する。好ましい光重合開始剤は、カンファーキノン(CQ)である。光重合は、好ましくは約400〜約500nmの範囲の波長を有する青色可視光を組成物に照射することによって開始させることができる。標準的な歯科用青色光硬化装置が、組成物を照射するのに使用され得る。カンファーキノン(CQ)化合物は、約400〜約500nmの最大吸光度を有し、この範囲の光が照射されると、重合のためのフリーラジカルを発生させる。代替的には、光開始剤は、アシルホスフィンオキシド、例えば、モノアシルホスフィンオキシド誘導体、ビスアシルホスフィンオキシド誘導体、及びトリアシルホスフィンオキシド誘導体の種類から選択され得る。例えば(For, example)、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル-ホスフィンオキシド(TPO)は、光重合開始剤として使用され得る。
【0054】
基剤ペースト及び触媒ペーストは好ましくは互いに混合されて、上記のような自動混合システムを用いて分配される。アミン含有基剤ペースト及び過酸化物含有触媒ペーストは、自動混合システム内の静止混合機を介して押し出される際に、互いに組み合わされて混合される。光重合は、好ましくは約400〜約500nmの範囲の波長を有する青色可視光を組成物に照射することによって開始させることができる。
【0055】
本発明の方法では、歯科医は、クラウンが与えられる予定の歯の印象に、エナメル層から始まるクラウン形成複合材料の層を入れる。歯科医がエナメル層を塗布する際に、縁の周辺の領域をブラシで入念に薄く延ばす。次に、歯科医は、より多くの複合材料を塗布して、確実に正確な量の複合材料を印象に入れて象牙質層を形成する。十分な量の複合材料が導入されなければ、間隙が、得られるクラウンに形成され、咬合の問題が生じるであろう。一方、複合材料が導入され過ぎても、得られるクラウンに咬合の問題が生じるおそれがある。このような場合には、クラウンの咬合位が高くなり過ぎることがある。歯科医は、複合材料の色合いを入念に調整して、その色合いを患者の天然歯の色と一致させることができる。
【0056】
歯科医はその後、クラウン形成複合材料を含有するシリコーンマトリクスを患者の口内に挿入する。複合材料は、前処理された歯を覆うように成形され、歯用クラウンを形成する。次に、成形された複合材料を光硬化させる。標準的な歯科用光硬化灯を使用して、複合体を硬化することができる。複合材料を含有するマトリクスは透明であるため、硬化光がマトリクスを通過して複合体を硬化させることができる。組成物の光重合が開始すると、組成物は、堅くなり(harden)、また硬化して歯科用クラウンとなる。
【0057】
次に、歯科医は、歯からクラウンを取り外す。歯科医は、エクスプローラ、プローブ、クラウンリムーバー、又はクラウンを分離させるための他の好適な器具を使用することができる。通常の場合、歯科医は、歯からクラウンを取り外すことに困難を感じるであろう。しかしながら、本発明では可撓性のスペーサー材料を使用するため、歯科医は、歯からクラウンを容易に取り外すことができる。可撓性のスペーサー材料を配合することにより、クラウンが歯の表面に強力に接着されることはない。したがって、歯の表面は、クラウンが取り外された後でも比較的きれいな状態のままである。しかしながら、可撓性のセメントは、クラウンの内部表面に強力に接着する。
【0058】
クラウンを取り外した後、歯科医は、可撓性のセメントの強力な接着のために、クラウンの内部表面上にあるいくらかの残留セメントを認める可能性がある。歯科医は、きれいな内部表面を作り出すようなキュレット又は類似の器具を用いて、このセメントを容易に除去することができる。現在、クラウンは歯に永久的に固定されるようになっている。仕上げ加工及び研磨の工程が必要であると歯科医が考える場合、クラウンを、バーを用いて仕上げ加工し、且つ通常のクラウンの仕上げ加工方法を用いて研磨することができる。耐汚染性の光沢表面仕上げ加工をもたらす封止剤をクラウンに塗布してもよい。その後、仕上げ加工されたクラウンは、永久セメントを用いて歯に永久的に固定される。歯科業界において既知である従来の永久セメントをこの工程で使用することができる。本発明の方法に従って製造される歯科用クラウンは良好な機械強度を有し、破砕及び破損に対する耐性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用クラウンを製造する方法であって、
重合性且つ可撓性のセメント組成物を準備する工程と、
前処理された歯の表面に前記セメント組成物を塗布しそして重合して該セメント組成物が実質的に硬化する工程と、
光によって活性化され得る重合系を有するクラウン形成複合材料を、実質的に透明なプラスチックマトリクス中に分配する工程と、
前記プラスチックマトリクスを患者の口内に配置させて前記複合材料が前記歯の表面を覆うように成形される工程と、
前記プラスチックマトリクス中の前記複合材料に光を照射して該複合材料が硬化しクラウンを形成する工程と、
前記硬化されたクラウンを前記歯の表面から取り外す工程と、
歯科用セメントを用いて、前記クラウンを前記歯に永久的に固定する工程と
を含む、歯科用クラウンを製造する方法。
【請求項2】
前記可撓性のセメント組成物が、基剤及び触媒ペーストから調製される、請求項1に記載の歯科用クラウンを製造する方法。
【請求項3】
前記可撓性のセメント組成物が、ウレタンジメタクリレートと、ポリエーテルジウレタンメタクリレートとの配合物を含む、請求項1に記載の歯科用クラウンを製造する方法。
【請求項4】
前記セメント組成物が光硬化性である、請求項1に記載の歯科用クラウンを製造する方法。
【請求項5】
前記クラウン形成複合材料が、基剤及び触媒ペーストから調製される、請求項1に記載の歯科用クラウンを製造する方法。
【請求項6】
前記クラウン形成複合材料が光重合開始剤を含む、請求項1に記載の歯科用クラウンを製造する方法。
【請求項7】
前記光重合開始剤がカンファーキノン(CQ)である、請求項1に記載の歯科用クラウンを製造する方法。
【請求項8】
前記複合材料が、約400〜約500nmの範囲の波長を有する青色可視光で照射される、請求項1に記載の歯科用クラウンを製造する方法。
【請求項9】
前記硬化されたクラウンが、前記歯の表面から前記クラウンを取り外した後且つ該クラウンを前記歯に永久的に固定する前に、研削及び成形される、請求項1に記載の歯科用クラウンを製造する方法。
【請求項10】
前記クラウンが研削及び成形された後で、封止剤が前記硬化されたクラウンに塗布される、請求項9に記載の歯科用クラウンを製造する方法。

【公表番号】特表2009−504264(P2009−504264A)
【公表日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−526194(P2008−526194)
【出願日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際出願番号】PCT/US2006/031200
【国際公開番号】WO2007/021840
【国際公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(590004464)デンツプライ インターナショナル インコーポレーテッド (85)
【Fターム(参考)】