説明

チオウレア基含有化合物、並びにウレア基またはチオウレア基を有する化合物を含む有機圧電材料

【課題】ディスコティック液晶に強誘電性を付加することにより、有機圧電材料として圧電性が高く、且つ耐熱性に優れた新規材料を提供することにある。
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする有機圧電材料。
【化1】


(式中、Arはベンゼン、ベンゾキノン、アントラキノン、トリフェニレン、トルクセン、トリシクロキナゾリン、ジベンゾピレンのいずれかを示す。Q及びQは酸素原子または硫黄原子を表す。R、R、R及びRは水素原子または置換基を表す。W及びWは置換基を表す。L及びLは単結合または2価の連結基を表す。n及びmは1以上の整数を表す。但し、n及びmの和は2〜8の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チオウレア基を有する化合物に関し、及びウレア基またはチオウレア基を有する化合物を含む有機圧電材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マイクロホン、スピーカー用の振動板等の音響機器、各種熱センサー、圧力センサー、赤外線検出器等の測定機器、超音波探蝕子、遺伝子やタンパク等の変異を高感度に検出する振動センサー等、熱や機械刺激を電気エネルギーに変換するために用いることができる圧電性や焦電性を持つ有機圧電材料は知られている。
【0003】
圧焦電体としては、水晶、LiNbO、LiTaO、KNbOなどの単結晶、ZnO、AlNなどの薄膜、Pb(Zr,Ti)O系などの焼結体を分極処理した、所謂無機圧電材料が広く利用されている。しかしながら、これら無機材質の圧電材料は弾性スティフネスが高く、機械的損失係数が高い、密度が高く誘電率も高いなどの特徴を持っている。
【0004】
一方で、ポリフッ化ビニリデン(以下「PVDF」と略す。)、ポリシアノビニリデン(以下「PVDCN」と略す。)等の有機圧電材料も開発されている(例えば、特許文献1参照)。この有機圧電材料は薄膜化、大面積化等の加工性に優れ、任意の形状、形態の物が作ることができ、弾性率が低い、誘電率が低い等の特徴を持つため、センサーとしての使用を考えたときに高感度な検出を可能とする特徴を持っている。
【0005】
また、有機圧電材料は耐熱性が低く高い温度ではその圧焦電特性を失うほか、弾性スティフネスなどの物性も大きく減じるため使用できる温度域に限界があった。
【0006】
このような限界に対して、ウレア結合から構成されるポリウレア樹脂組成物はウレア結の双極子モーメントが大きく、樹脂としての温度特性に優れるため、有機圧電材料として種々の検討が行われてきた。
【0007】
例えば、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)のようなジイソシアネート化合物と4,4′−ジアミノジフェニルメタン(MDA)のようなジアミン化合物を同時に蒸発させてポリ尿素膜を形成する、所謂蒸着重合法が開示されている(例えば、特許文献2、3参照)。しかしながら、これらに記載されている蒸着重合法で作製するポリウレア樹脂組成物は、生成するオリゴマーまたは高分子量体の分子量が不均一であるため、分極処理を施しながら高分子量化を行った場合、配向が十分でない状態でポリウレア樹脂組成物が形成される。このため、ウレア結合の双極子モーメントを十分に活用できず、有機圧電材料としては、更なる改善が求められていた。
【0008】
一方、ディスコティック液晶化合物は1977年にS.Chandrasekhar等により発見された〔”Pramana”9、471(1977)〕液晶化合物である。例えば、「ディスコティック液晶分子のデザインと合成」竹中俊介、日本化学会編・季刊化学総説22巻60頁に解説されているように、ディスク状のコアに比較的長い側鎖が複数個結合した化合物である。ディスコティック液晶の構造的な特徴から、これまでに、デバイスへの応用を示唆するいくつかの報告がなされているが(例えば、特許文献4参照)、強誘電性を有するディスコティック液晶に関する報告はなかった。
【特許文献1】特開平6−216422号公報
【特許文献2】特開平2−284485号公報
【特許文献3】特開平5−311399号公報
【特許文献4】特開2002−155010号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題、状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ディスコティック液晶に強誘電性を付加することにより、有機圧電材料として圧電性が高く、且つ耐熱性に優れた新規材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記課題は、下記構成により達成される。
【0011】
1.下記一般式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする有機圧電材料。
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、Arはベンゼン、ベンゾキノン、アントラキノン、トリフェニレン、トルクセン、トリシクロキナゾリン、ジベンゾピレンのいずれかを示す。Q及びQは酸素原子または硫黄原子を表す。R、R、R及びRは水素原子または置換基を表す。W及びWは置換基を表す。L及びLは単結合または2価の連結基を表す。n及びmは1以上の整数を表す。但し、n及びmの和は2〜8の整数である。)
2.前記一般式(1)におけるQ及びQが硫黄原子であることを特徴とする前記1に記載の有機圧電材料。
【0014】
3.前記一般式(1)におけるArがトリフェニレンまたはトルクセンであることを特徴とする前記1または2に記載の有機圧電材料。
【0015】
4.前記一般式(1)で表される化合物と熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂からなる膜を含有することを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載の有機圧電材料。
【0016】
5.前記一般式(1)で表される化合物と強誘電性高分子からなる膜を含有することを特徴とする前記1〜4のいずれか1項に記載の有機圧電材料。
【0017】
6.下記一般式(2)で表される化合物。
【0018】
【化2】

【0019】
(式中、Arはベンゼン、ベンゾキノン、アントラキノン、トリフェニレン、トルクセン、トリシクロキナゾリン、ジベンゾピレンのいずれかを示す。R、R、R及びRは水素原子または置換基を表す。W及びWは置換基を表す。L及びLは単結合または2価の連結基を表す。n及びmは1以上の整数を表す。但し、n及びmの和は2〜8の整数である。)
【発明の効果】
【0020】
本発明により、ディスコティック化合物にウレア基またはチオウレア基を含有させることにより、強誘電性を有するディスコティック化合物を提供することができた。更に該ディスコティック化合物を含有させることにより、圧電性が高く、且つ耐熱性に優れた有機圧電材料を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明を実施するための最良の形態について説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0022】
(一般式(1)で表される化合物)
Arはベンゼン、ベンゾキノン、アントラキノン、トリフェニレン、トルクセン、トリシクロキナゾリン、ジベンゾピレンのいずれかを示す。Arとして、好ましくはベンゼン、トリフェニレン、トルクセンである。具体的な構造を下記に示す。
【0023】
【化3】

【0024】
【化4】

【0025】
及びQは酸素原子または硫黄原子を表し、好ましくは硫黄原子を表す。
【0026】
、R、R及びRは水素原子または置換基を表し、置換基の具体例としては、炭素数1〜25のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等)、ハロゲン化アルキル基(トリフルオロメチル基、パーフルオロオクチル基等)、シクロアルキル基(シクロヘキシル基、シクロペンチル基等)、アルキニル基(プロパルギル基等)、グリシジル基、アクリレート基、メタクリレート基、芳香族基(フェニル基等)、複素環基(ピリジル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、イミダゾリル基、フリル基、ピロリル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、セレナゾリル基、スリホラニル基、ピペリジニル基、ピラゾリル基、テトラゾリル基等)、ハロゲン原子(塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、フッ素原子等)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ペンチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(フェノキシ基等)、アルコキシカルボニル基(メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基等)、アリールオキシカルボニル基(フェニルオキシカルボニル基等)、スルホンアミド基(メタンスルホンアミド基、エタンスルホンアミド基、ブタンスルホンアミド基、ヘキサンスルホンアミド基、シクロヘキサンスルホンアミド基、ベンゼンスルホンアミド基等)、スルファモイル基(アミノスルホニル基、メチルアミノスルホニル基、ジメチルアミノスルホニル基、ブチルアミノスルホニル基、ウレタン基(メチルウレイド基、エチルウレイド基、ペンチルウレイド基、シクロヘキシルウレイド基、フェニルウレイド基、2−ピリジルウレイド基等)、アシル基(アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ヘキサノイル基、シクロヘキサノイル基、ベンゾイル基、ピリジノイル基等)、カルバモイル基(アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、プロピルアミノカルボニル基、ペンチルアミノカルボニル基、アミド基(アセトアミド基、プロピオンアミド基、ブタンアミド基、ヘキサンアミド基、ベンズアミド基等)、スルホニル基(メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ブチルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、フェニルスルホニル基、2−ピリジルスルホニル基等)、アミノ基(アミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、アニリノ基、2−ピリジルアミノ基等)、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、オキザモイル基等を挙げることができる。また、これらの基は更にこれらの基で置換されていてもよい。
【0027】
からRとして、好ましくは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、芳香族基であり、より好ましくは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基である。
【0028】
及びWは置換基を表す。置換基の具体例としては、上記R〜Rで表される置換基の具体例として挙げた例が挙げられる。好ましくはアルキル基、芳香族基または複素環基であり、更に好ましくは炭素数1〜20のアルキル基、芳香族基である。
【0029】
及びLは単結合または2価の連結基を表す。L及びLで表される連結基として、好ましくは芳香族基、複素環基であり、更に好ましくはフェニレン基、ナフチレン基、ピリジレン基であり、より好ましくはフェニレン基である。L及びLとしてとして好ましくは単結合である。具体例を下記に示す。
【0030】
【化5】

【0031】
n及びmは1以上の整数を表す。n+mは2〜8の整数であり、具体的には、Arが1,3,5−ベンゼントリイルの場合は3であり、1,2,2,3,5,6−ベンゾキノンテトライルの場合は4であり、3,4,5,6−ベンゼンヘキサイル、2,3,4,6,7,8−アントラキノンヘキサイル、2,3,6,7,10,11−トリフェニレンヘキサイル、2,3,7,8,12,13−トルクセンヘキサイル及び2,3,6,7,10,11−トリシクロキナゾリンヘキサイルの場合は6であり、1,2,5,6,8,9,12,13−ジベンゾピレンオクタイルの場合は8である。n及びmが2以上のとき、W及びWで表される置換基は、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。
【0032】
以下に一般式(1)で表される化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
【0033】
【化6】

【0034】
一般式(1)で表される化合物は、公知の手法により合成することができる。例えば、Pramana、1997年、9巻、5号、471〜480頁、Molecular Crystals and Liquid Crystals、1981年、71巻、111〜135頁、または特開2002−155010号公報などに記載の方法を参照して合成することができる。
【0035】
(一般式(2)で表される化合物)
一般式(2)において、Arはベンゼン、ベンゾキノン、アントラキノン、トリフェニレン、トルクセン、トリシクロキナゾリン、ジベンゾピレンのいずれかを示す。R、R、R及びRは水素原子または置換基を表す。W及びWは置換基を表す。L及びLは単結合または2価の連結基を表す。n及びmは1以上の整数を表す。但し、n及びmの和は2〜8の整数である。一般式(2)における、Ar、R、R、R及びR、W及びW、L及びL、n及びmは、一般式(1)におけるそれらと同一である。
【0036】
(有機圧電材料)
本発明の有機圧電材料は、一般式(1)で表される化合物を含有する膜を形成することにより、あるいは、該膜に対して、更に分極処理を施すことにより、有機圧電体膜を形成することができる。
【0037】
有機圧電体膜は当該圧電体膜に応力が加わると、それに比例して当該圧電体膜の両端面に反対符号の電荷が現れる、即ち電気分極という現象を生じ、逆に該圧電材料を伝場に入れる(電界を加える)ことで、それに比例した歪みを生じるという性質(圧電性能)を有する。特に本発明の有機圧電材料よりなる有機圧電体膜にあっては、高分子の主鎖や側鎖の双極子モーメントの配向凍結による分極により大きな圧電効果が生じる。
【0038】
一方、当該圧電体膜にエネルギー(熱)が加わると、それに対応して当該圧電体膜内部の自発分極の大きさが変化する。このとき、当該圧電体膜表面に自発分極を中和するように存在する表面電荷は、上記自発分極ほどにすばやくエネルギー変化に対応できないことから、短時間の間ではあるが、圧電体膜表面には自発分極の変化分だけ電荷が存在することになる。このエネルギー変化に伴う電気の発生を焦電性というが、特に本発明の有機圧電材料よりなる有機圧電体膜にあっては、高分子の主鎖や側鎖の双極子モーメントの配向凍結による分極により大きな焦電性能が生じる。
【0039】
(有機圧電体膜の形成方法)
有機圧電体膜の形成は、塗布によって膜を形成する方法が好ましい。塗布方法として、例えば、スピンコート法、ソルベントキャスト法、メルトキャスト法、メルトプレス法、ロールコート法、フローコート法、プリント法、ディップコート法、バーコート法等が挙げられる。
【0040】
本発明において、一般式(1)で表される化合物が液晶相を示す温度範囲で塗布または成膜することが好ましく、また形成された膜に後述する分極処理を更に行ってもよい。
【0041】
一般式(1)で表される化合物を有機圧電膜に成膜する際には、更に任意の高分子化合物を混合して成膜性を向上させてもよい。混合する高分子化合物として、具体的には数平均分子量1500以上の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂が用いられる。
【0042】
熱可塑性樹脂としては、数平均分子量が1500以上、好ましくは1500〜10万のものであれば、特に制限なく用いることができる。熱可塑性樹脂の数平均分子量が1500より小さいとそのガラス転移温度が低過ぎ、有機圧電体膜の機械的安定性を低下させることがある。
【0043】
本発明に好適に用いられる熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリ塩化ビニル、ポリ臭化ビニル、ポリフッ化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−エチレン共重合体、塩化ビニル−プロピレン共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−ブタジエン共重合体、塩化ビニル−アクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−スチレン−アクリロニトリル三元共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロクロルエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル重合体または共重合体;ポリビニルアルコール、ポリアリルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリアリルエーテル等の不飽和アルコール若しくはエーテルの重合体または共重合体;アクリル酸若しくはメタアクリル酸等の不飽和カルボン酸の重合体または共重合体;ポリ酢酸ビニル等のポリビニルエステル、ポリフタル酸等のポリアリルエステル等のアルコール残基中に不飽和結合を持つものの重合体または共重合体;ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、マレイン酸エステル若しくはフマル酸エステルの重合体等の酸残基または酸残基とアルコール残基中に不飽和結合を持つものの重合体あるいは共重合体;アクリロニトリル若しくはメタアクリロニトリルの重合体または共重合体、ポリシアン化ビニリデン、マロノニトリル若しくはフマロニトリルの重合体または共重合体等の不飽和ニトリル重合体あるいは共重合体;ポリスチレン、ポリα−メチルスチレン、ポリp−メチルスチレン、スチレン−α−メチルスチレン共重合体、スチレン−p−メチルスチレン共重合体、ポリビニルベンゼン、ポリハロゲン化スチレン等の芳香族ビニル化合物の重合体または共重合体;ポリビニルピリジン、ポリ−N−ビニルピロリジン、ポリ−N−ビニルピロリドン等の複素環式化合物の重合体または共重合体;ポリカーボネート等のポリエステル縮合物、ナイロン6、ナイロン6,6等のポリアミド縮合物;無水マレイン酸、無水フマル酸及びそのイミド化物を含む重合体または共重合体;ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート等の耐熱性有機高分子等が挙げられる。中でも、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ナイロンなどが好適に用いられる。
【0044】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤など市販されているものを含む各種のものを用いることができる。光硬化性樹脂としては、可視光やUV光、電子線などで硬化する接着剤など市販されているものを含む各種のものを用いることができる。これらの非液晶性高分子物質は、有機圧電体膜の製造法や必要とする耐久性の点から、適宜選択すればよい。
【0045】
本発明に好適に用いられる熱または光硬化性樹脂の具体例としては、例えば、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、不飽和ポリエステル系接着剤、ポリウレタン系接着剤、ホットメルト型接着剤、エラストマー型接着剤を挙げることができる。
【0046】
エポキシ系接着剤の例としては、主剤としてビスフェノールA型のものが好ましい。ビスフェノールAの部分を次に示すようなビスフェノール化合物とした主剤も用いることができる。
【0047】
ポリウレタン系接着剤の例としては、イソシアネート成分として、メチレンビス(p−フェニレンジイソシアネート)、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、1−クロロフェニルジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、チオジプロピルジイソシアネート、エチルベンゼン−α−2−ジ−イソシアネート、4,4,4−トリフェニルメタントリイソシアネート等が挙げられ、それらと反応する成分として、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセロール、ヘキサントリオール、キシリレンジオール、ラウリン酸モノグリセライド、ステアリン酸モノグリセライド、オレイン酸モノグリセライド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエステル、ポリアミド等が挙げられる。
【0048】
上記樹脂化合物の混合量は、一般式(1)で表される化合物に対して10〜80質量%、好ましくは20〜80質量%とする。樹脂化合物の量が10質量%未満では液晶層の成膜性が低下したり、また機械的強度が不足したりすることがある。一方、80質量%を超えると不要な光散乱を生じることがあり、有機圧電体膜の性能を低下させることがある。
【0049】
また、一般式(1)で表される化合物を他の強誘電性高分子と混合させて使用してもよい。具体的には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン/三フッ化エチレン共重合体P(VDF/TrFE)、フッ化ビニリデン/四フッ化エチレン共重合体P(VDF/TeFE)、シアン化ビニリデン/酢酸ビニル共重合体P(VDCN/VA)、フッ化ビニル/三フッ化エチレン共重合体P(VF/TrFE)、フッ化ビニル/三フッ化エチレン共重合体P(VF/TrFE)に第三成分としてフッ化ビニリデン、四フッ化エチレン、ヘキサフルオロアセトン及びヘキサフルオロプロピレンなどを加えた共重合体、ナイロン7あるいはナイロン11、脂肪族系ポリウレア、脂肪族系ポリウレタン等のアミド系高分子等を用いることができる。
【0050】
(分極処理)
本発明に係る分極処理における分極処理方法としては、従来公知の種々の方法が適用され得る。例えば、コロナ放電処理法による場合には、コロナ放電処理は、市販の高電圧電源と電極からなる装置を使用して処理することができる。
【0051】
放電条件は、機器や処理環境により異なるので適宜条件を選択することが好ましいが、高電圧電源の電圧としては−1〜−20kV、電流としては1〜80mA、電極間距離としては1〜10cmが好ましく、印加電圧は0.5〜2.0MV/mであることが好ましい。
【0052】
電極としては、従来から用いられている針状電極、線状電極(ワイヤー電極)、網状電極が好ましいが、本発明ではこれらに限定されるものではない。
【0053】
また、コロナ放電中に加熱を行うので、本発明により作製した基板が接触している電極の下部に絶縁体を介して、ヒーターを設置する必要がある。
【0054】
なお、本発明において塗布溶液の溶媒が残留している状態で、分極処理としてコロナ放電処理をする場合には、引火爆発などの危険性を避けるために溶媒の揮発成分が除去されるように十分換気しながら行うことが安全上必要である。
【0055】
(基板)
基板としては、本発明に係る有機圧電体膜の用途・使用方法等により基板の選択は異なる。ポリイミド、ポリアミド、ポリイミドアミド、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート樹脂、シクロオレフィンポリマーのようなプラスチック板またはフィルムでもよいし、これらの素材の表面をアルミニウム、金、銅、マグネシウム、珪素等で覆ったものでもよい。また、アルミニウム、金、銅、マグネシウム、珪素単体、希土類のハロゲン化物の単結晶の板またはフィルムでも構わない。
【0056】
更に複層圧電素子の上に形成してもよい。圧電素子を積相する複層の使用方法においては、セラミック圧電素子の上に本発明に係る有機圧電体膜を電極を介して重畳層する方法がある。セラミック圧電素子としてはPZTが使用されているが、近年は鉛を含まないものが推奨されている。
【0057】
PZTは、Pb(Zr1−XTi)O(0.47≦X≦1)の式の範囲以内であることが好ましく、脱鉛としては、天然または人工の水晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、ニオブサンタンタル酸カリウム[K(Ta,Nb)O]、チタン酸バリウム(BaTiO)、タンタル酸リチウム(LiTaO)、またはチタン酸ストロンチウム(SrTiO)等である。各種セラミック材料は、その使用性能において組成を適宜選択することができる。
【実施例】
【0058】
以下、合成例及び実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0059】
合成例1:化合物2の合成
3,5−ジニトロアニリン12.0gをメタノール50mlに溶解し、窒素置換した。10%パラジウム炭素、1.0gを添加し、水素を導入した。水素雰囲気下で2時間反応させた。反応容器内を窒素置換した後、パラジウム炭素をろ別し、メタノールを減圧留去した。テトラヒドロフラン(THF)100mlを加え、反応溶液を窒素置換した。ここにヘキシルイソシアネート29mlを1時間かけて滴下した。室温で3時間かき混ぜた後に、反応溶媒に水を加え、有機層をTHFにより抽出した。硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、組成物28gを得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘプタン:酢酸エチル=10:1)により精製を行い、目的の化合物2が23.4g(収率78%)得られた。生成物はH−NMRスペクトル、IRスペクトル及びマススペクトル測定により同定した。
【0060】
H−NMRスペクトル(CDCl、ppm):1.08(m,9H),1.28(m,6H),1.40−1.53(m,6H),2.39(t,9H),7.12(s,6H),7.88(s,3H)
IRスペクトル(ATR法、cm−1):3350,3180,1640,1590,1423,1410,756,700
マススペクトル(API法、m/e(相対強度)):460((82)MH),415(22)。
【0061】
合成例2:化合物4の合成
3,5−ジニトロアニリン12.0gをメタノール50mlに溶解し、窒素置換した。10%パラジウム炭素1.0gを添加し、水素を導入した。水素雰囲気下で2時間反応させた。反応容器内を窒素置換した後、パラジウム炭素をろ別し、メタノールを減圧留去した。ここにTHF100mlを入れて溶解させ、6−エトキシヘキシルアミン30.0gを加えた。1,1′−チオカルボニルジイミダゾール37gを15分間に分別添加し、4時間かき混ぜた。反応溶媒に水を加え、有機層をTHFにより抽出した。硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、組成物46gを得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘプタン:酢酸エチル=10:1)により精製を行い、目的の化合物4が37g(収率83%)得られた。生成物はH−NMRスペクトル、IRスペクトル及びマススペクトル測定により同定した。
【0062】
H−NMRスペクトル(CDCl、ppm):0.88(t,9H),1.28−1.32(m,18H),3.35(t,6H),3.51(q,6H),3.68(t,6H),4.21(s,3H),5.14(s,3H)
IRスペクトル(ATR法、cm−1):3351,3182,1639,1595,1420,1250,759,702
マススペクトル(API法、m/e(相対強度)):685((90)MH),553(25)。
【0063】
合成例3:化合物18の合成
2,3,4,6,7,8−ヘキサアミノアントラキノン5.0gにTHF50mlを加え、窒素置換後、溶解させた。ヘキシルチオイソシアネート7.3gを1時間かけて滴下し、更に室温で4時間かき混ぜた。反応溶液に水を加え、有機層をTHFにより抽出した。硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、組成物を19g得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘプタン:酢酸エチル=8:1)により精製を行い、目的の化合物18を12.8g得た(収率)。生成物の同定はH−NMRスペクトル、IRスペクトル及びマススペクトル測定により行った。
【0064】
H−NMRスペクトル(CDCl、ppm):0.86(m,18H),1.28−1.34(m,36H),1.50(m,12H),3.02(m,12H),6.04(m,12H),7.86(s,2H)
IRスペクトル(ATR法、cm−1):3348,3180,1641,1589,1420,759,698
マススペクトル(API法、m/e(相対強度)):1061((47)MH)。
【0065】
実施例1
(自発分極の測定)
(1)で表される化合物について自発分極の大きさの測定を行った。この測定は、1cm×1cmのITO(Indium−Tin−Oxide)が形成されたガラス基板を5μmの間隔を対向するよう配置し、その間に一般式(1)で表される化合物を注入して液晶セルを作製し、この液晶セルに三角波電圧(振幅±20V/μm、6Hz周期)を印加することで行った。この結果、いずれの液晶化合物も六方柱状相のときに液晶分子の反転ピークが観察され、強誘電性液晶であることを確認できた。この測定の結果を表1に示す(この自発分極を測定したときの温度は120℃であった)。この測定の結果、いずれの液晶化合物も圧電材料として使用するのに十分な自発分極の値を示すことを確認できた。
【0066】
【表1】

【0067】
実施例2
(有機圧電体膜の圧電e特性及び熱安定性の評価)
表2に示す一般式(1)で表される化合物及び樹脂化合物または強誘電性高分子をテトラヒドロフランまたはジメチルホルムアミドに溶解した後、ガラス板上に約100μmの厚みになるようにキャスト製膜を行い、減圧下で100℃で12時間乾燥させた。この膜をガラス板から剥離した後、約40μmの厚みにプレス処理し、ホットプレート上に固定し、膜の上部から1.5cm離してタングステン針を設置し、これに4.0kVの電圧を印加し、コロナ放電処理を行って有機圧電体膜−1〜12を作製した。なお、前記有機圧電体膜の温度は前記コロナ放電処理中、120℃に保持された。
【0068】
同様にして、一般式(1)で表される化合物の代わりに、下記に示す比較−A、比較−B及び、比較−Cを用いて、比較有機圧電体膜−A〜Cを作製した。
【0069】
【化7】

【0070】
上記で作製した有機圧電体膜−1〜12及び比較圧電体膜−A〜Cについて、共振法により室温及び100℃まで加熱した状態で圧電e特性の評価を行った。その結果を表2に示す。なお、圧電e特性は、比較有機圧電体膜−Cについて室温で測定した値を100%とした相対値として示す。
【0071】
【表2】

【0072】
表2に示した結果から明らかなように、本発明に係る化合物により形成された有機圧電体膜の圧電特性は、比較例に比べ優れていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする有機圧電材料。
【化1】

(式中、Arはベンゼン、ベンゾキノン、アントラキノン、トリフェニレン、トルクセン、トリシクロキナゾリン、ジベンゾピレンのいずれかを示す。Q及びQは酸素原子または硫黄原子を表す。R、R、R及びRは水素原子または置換基を表す。W及びWは置換基を表す。L及びLは単結合または2価の連結基を表す。n及びmは1以上の整数を表す。但し、n及びmの和は2〜8の整数である。)
【請求項2】
前記一般式(1)におけるQ及びQが硫黄原子であることを特徴とする請求項1に記載の有機圧電材料。
【請求項3】
前記一般式(1)におけるArがトリフェニレンまたはトルクセンであることを特徴とする請求項1または2に記載の有機圧電材料。
【請求項4】
前記一般式(1)で表される化合物と熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂からなる膜を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機圧電材料。
【請求項5】
前記一般式(1)で表される化合物と強誘電性高分子からなる膜を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機圧電材料。
【請求項6】
下記一般式(2)で表される化合物。
【化2】

(式中、Arはベンゼン、ベンゾキノン、アントラキノン、トリフェニレン、トルクセン、トリシクロキナゾリン、ジベンゾピレンのいずれかを示す。R、R、R及びRは水素原子または置換基を表す。W及びWは置換基を表す。L及びLは単結合または2価の連結基を表す。n及びmは1以上の整数を表す。但し、n及びmの和は2〜8の整数である。)

【公開番号】特開2010−141233(P2010−141233A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318164(P2008−318164)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】