説明

チオエステル結合を含むポリマーおよび医療デバイス

【課題】医療用途に適したブロックコポリマーまたは架橋ネットワークなどのポリマーの製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも1つの分解性ブロックを含むブロックコポリマーであって、下記式で表されるチオエステル結合(−COS−)によって、前記個々のブロックが互いに結合されたブロックコポリマー。


(式中、W、WおよびWは、C、H、O、N、S、P、アルキル、アリール、エステルおよびエーテルからなる群から選択される。)

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明はポリマー化学の分野である。より詳しくは、医療用途に適したブロックコポリマーまたは架橋ネットワークなどのポリマーの製造方法を提供する。また本発明は、ヒトまたは動物の体内で使用されたときに完全に分解して、毒性あるいは望ましくないかもしれない残留成分を最小限にし得る分解性材料も提供する。体にとって異物である全ての材料は、人体と接触した時点で(遅延性)異物応答を誘発する潜在的なリスクを有する。分解性材料の限りのある暴露時間は、遅延性異物応答のリスクを著しく減少させる。外科用インプラントに関連する感染症はインプラントの除去を必要とすることが多いので、分解性材料の使用の利点は重要である。
【0002】
生体適合性ポリマーは、治療用薬物送達および医療用インプラントデバイスの用途において広く使用されている。このようなポリマーは生体適合性であるだけでなく、その治療価値がなくなった時点でポリマーを除去することの必要性を回避するために分解性またはさらに生分解性であることが望ましいこともある。例えば、再吸収性ステントは、再狭窄が発生した場合に再ステント挿入を可能にする。
【0003】
頻繁で周期的な投薬のような従来の薬物送達方法は、多くの場合理想的ではない。例えば、最大所望レベルと毒性レベルとの差が小さい薬物では、頻繁で周期的な投薬の結果、投薬の時点の初期薬物レベルが高くなり、多くの場合には毒性に近いレベルであり、その後、投薬の合間には薬物レベルは低くなり、その治療価値のレベルよりも低いこともある。しかしながら、制御された薬物送達では、より長い期間にわたって予測可能であるような制御放出によって、薬物レベルを治療レベルであるが無毒性レベルにより容易に保持することができる。
【0004】
分解性の医療デバイスが薬物送達または他の制御放出システムとしての使用を目的とする場合、高分子キャリアの使用は、局所的にそして制御された形で治療薬を送達するための1つの有効な手段であり、ランゲル(Langer)ら、「生物活性剤の制御放出のためのャリアとしてのポリマーの化学的および物理的な構造(Chemical and Physical Structures of Polymers as Carriers for Controlled Release of Bioactive Agents)」、J.Macro.Science,Rev.Macro.Chem.Phys.,C23:1,61−126頁(1983年)が参照される。結果として、より少ない総薬物量が必要とされ、毒性の副作用を最小限にすることができる。さらに、この分解性ポリマーから製造されるデバイスは、薬物送達デポー(drug delivery depot)の除去が懸念される場合に、はるかにより侵襲的な医療処置において使用され得る。
【0005】
ポリマーは、局在および持続放出を可能にするための治療薬キャリアとして使用されている。レオン(Leong)ら、「高分子の制御された薬物送達(Polymeric Controlled Drug Delivery)」、Advanced Drug Delivery Reviews,1:199−233頁(1987年)と、ランゲル(Langer)、「薬物送達の新しい方法(New Methods of Drug Delivery)」、Science,249:1527−33頁(1990年)と、チェン(Chien)ら、Novel Drug Delivery Systems(1982年)とが参照される。このような送達系は、治療効力の増強および全体の毒性の低下の可能性を提供する。
【0006】
非分解性マトリックスについては、治療薬の放出に至る工程はマトリックスのチャネルを通るか、あるいはその表面からの治療薬の分散および拡散である。
【0007】
多くの医薬品は短い半減期を有するので、治療薬は放出される前に非分解性マトリックス内で腐敗または不活性になり得る。この問題は多くの生体高分子およびそれより小さいポリペプチドにとって特に重要である。何故なら、これらの分子は通常加水分解的に不安定であり、ポリマーマトリックスを通る浸透性が低いからである。実際に、非分解性マトリックス内で多くの生体高分子は凝集および沈殿し、それによって不活性にされる。
【0008】
いくらかの拡散放出に加えてポリマーマトリックスの分解による治療薬の制御放出も可能にする分解性または生分解性マトリックスを用いると、これらの問題が緩和される。可能性のある分解性材料として研究されている合成ポリマーの種類の例としては、ポリエステル(ピット(Pitt)ら、「脂肪族ポリエステルに基づく生分解性薬物送達系:避妊薬および麻薬拮抗薬への応用(Biodegradable Drug Delivery Systems Based on Aliphatic Polyesters:Application to contraceptives and Narcotic Antagonists)」、Controlled Release of Bioactive Materials,1944年(リチャード・ベーカー(Richard Baker)編、1980年)と、ポリ(アミノ酸)および偽ポリ(アミノ酸)(プラプラ(Pulapura)ら、「医療用途のための生体再吸収性ポリマーの開発における動向(Trends in the Development of Bioresorbable Polymers for Medical Applications)」、J.of Biomaterials Appl.,6:1,216−50頁(1992年)と、ポリウレタン(ブルイン(Bruin)ら、「人工皮膚における生分解性リシンジイソシアナートに基づくポリ(グリコリド−co−Eカプロラクトン)−ウレタンネットワーク(Biodegradable Lysine Diisocyanate−based Poly(Glycolide−co−ECaprolactone)−Urethane Network in Artificial Skin)」、Biomaterials,11:4,291−95頁(1990年)と、ポリオルトエステル(ヘラー(Heller)ら、「ポリ(オルトエステル)からのノルエチンドロンの放出(Release of Norethindrone from Poly(OrthoEsters))」、Polymer Engineering Sci.,21:11,727−31頁(1981年)と、ポリ酸無水物(レオン(Leong)ら、「生物活性剤の制御放出のためのポリ酸無水物(Polyanhydrides for Controlled Release of Bioactive Agents)」、Biomaterials 7:5,364−71頁(1986年)とが挙げられる。
【0009】
医療用インプラント材料として使用される分解性または生分解性材料の特定の例は、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリジオキサノン、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(グリコリド−co−ポリジオキサノン)、ポリ酸無水物、ポリ(グリコリド−co−トリメチレンカーボネート)、およびポリ(グリコリド−co−カプロラクトン)である。医療用インプラントまたはデバイスにおいて分解性または生分解性または生体吸収性ポリマーとして使用され得るその他の例は、ポリホスファゼン、ポリ(プロピレン)フマラート、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリエステルアミド、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(ヒドロキシ酸)、ポリウレタン、ポリ(酸無水物)、ポリカーボネート、ポリアミノカーボネート、ポリペプチド、ポリオキサエステル、ポリ(マレイン酸)、ポリオルトエステル、ポリ((ポリエチレンオキシド)−co−ポリ(ブチレンテレフタラート))、ならびに生物学的に誘導されたポリマー、例えば、ポリヒドロキシアルカノアート、ヒアルロン酸、ポリスクロース、デキストランおよびその誘導体などの炭水化物または多糖類、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コラーゲン、ゼラチン、フィブリン、キチン、キトサン、アルブミン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシアルキル化セルロース、デンプンである。さらに、多くのブレンドおよびコポリマーを使用することができる。
【0010】
また分解性材料は、例えば、整形、皮膚、外科、歯科、頭蓋−顎顔面、神経、粘膜または血管の用途において有利に使用され得る。このような分解性材料を含む製品は、スクリュー、ピン、プレート、ステント、接着剤、抗接着剤、シーラント、パッチ、メッシュ、スポンジ、ゲル、ワックス、血管移植片、フィルム、コーティング、組織工学用スカフォールド(scaffold)、薬物の制御送達のためのマトリックス、または縫合糸用材料であり得る。
【0011】
米国特許第6060582号明細書は、薬物の制御放出において、あるいは外科的処置の後または最中に組織シーラントとして使用できる高分子材料について記載している。本特許は、分解性モノマーまたはオリゴマー延長部(extension)を有する親水性オリゴマーから調製された重合および架橋マクロマーのヒドロゲルを提供し、分解性の延長部は、重合および架橋することができるエンドキャップモノマーまたはオリゴマーによりその自由端で終結する。オリゴマーは、長波長紫外線、可視光励起または熱エネルギーの影響下で、フリーラジカル開始剤を用いて重合される。分解は延長オリゴマー内の結合で起こり断片がもたらされる。この断片は無毒性であると断言され、体から容易に除去される。
【0012】
しかしながら、米国特許第6060582号明細書に記載されている高分子材料の分解生成物は生得的にポリ(エチレングリコール)および/またはポリ(アクリル酸)を含む。本質的に非分解性である後者のポリマーは、アクリレート架橋技術に固有である。その構造およびその分子量に応じてポリマーは体内に蓄積し、そして移植の部位に応じて特定の臓器または組織に蓄積するか、あるいは副作用を生じ得る。非分解性および非排出性の分子は、動物またはヒトの体内における用途のために好ましくない。
【0013】
米国特許第6060582号明細書に記載される技術のさらなる欠点は、比較的低濃度で細胞毒性であり得る別個の光開始剤の使用が化学的に必要とされることである。さらに、開始剤または重合組成物による光減衰のために材料の厚いサンプルは重合することが困難なので、本技術は薄膜に最も適する。さらなる不都合は、空気中に存在する酸素によるラジカル重合の阻害と、高い機械強度を保持しながら高い含水量を有するゲルを形成する能力の欠如とである。
【0014】
国際公開第03/031483号パンフレットは、分解性チオール−エンポリマーを開示している。アクリレート化学の欠点の多くは、チオール−エン化学を用いることによって克服されている。光開始剤は必要とされず、従って光開始剤による光減衰は生じ得ず、酸素阻害もない。さらに、チオール−エン重合は、アクリレート重合よりも速い(国際公開第04/101649号パンフレット)。さらに、アクリレート重合の場合よりも広い範囲のエチレン性不飽和基をチオール−エン重合のために使用することができ、刺激性および/または感作性であることが多いアクリレートの必要性が回避される。またチオール−エン化学は、分解されたときにポリ(アクリル酸)をもたらさない。しかしながら、チオール−エン化学の不都合は、架橋されたときにチオエーテルが形成されることである。このようなチオエーテルの不都合は体内で容易に分解されず、酸化酵素の使用を必要とすることである。体内に天然のチオエーテルはほとんど存在せず、これらはメチオニンまたは置換システインのいずれかに基づく。
【0015】
これらの不都合のほとんどは、再度、チオールと活性化エステルとの縮合反応において得られる分解性チオエステル架橋系を開示する米国特許出願公開第2002/0165337A1号明細書に開示される技術によって緩和される。しかしながら、その技術の不都合は、毒性であり得るスクシンイミドまたはスクシンイミド様の縮合生成物などの低分子量の脱離生成物の放出である。特に、米国特許出願公開第2002/0165337A1号明細書において例示される反応のほとんどは、生物組織と接触して架橋が行われる原位置用途(in situ application)において脱離生成物としてN−ヒドロキシスクシンイミドを生じる。脱離生成物は、薬物送達を要求する用途の場合に、薬物放出挙動を妨害し得る。
【0016】
さらに、米国特許出願公開第2002/0165337A1号明細書に例示されるような活性化エステルは、おそらくリシン残基のアミン基と反応し、それによりトロンビンの活性を妨害することによって、トロンビンを不活性化することが知られている。さらに、米国特許出願公開第2002/0165337A1号明細書に記載されるような技術では、反応成分が一緒に混ぜ合わされた後、ユーザーは限られた処理時間しか許されない。
【0017】
1988年4月23日の株式会社クラレ(Kuraray Co Ltd.)の特開昭63−092648号明細書は、メルカプト基をその末端部に有するポリエーテルの合成を開示する。
【0018】
ウーリッヒ(Uhrich)の米国特許出願公開第2002/071822A1号明細書は、生物学的に活性な化合物に加水分解的に分解するポリチオエステルなどのポリマーおよびその製造方法を開示する。
【0019】
国際公開第2004/083266号パンフレットは、既にチオエステル基を含有しているモノマーが使用されるポリチオエステルの合成のための別の方法を開示する。得られるポリマーは、チオエステル結合で加水分解可能であることが示されている。
【0020】
シュタインビューヒェル(Steinbuchel)らの米国特許出願公開第2002/106764A1号明細書は、発酵法によるポリチオエステルの製造方法を開示する。
【0021】
驚くことに、チオエステル結合を含む加水分解性ポリマーを製造するための新規の方法が今発見された。この方法は望ましくない脱離生成物の発生を回避し、加水分解されたときに毒性または非代謝性の分解生成物を残さない。
【0022】
一態様では、本発明はチオエステル結合を含むポリマーの製造方法に関し、前記方法は、少なくとも1つのエチレン性不飽和基を含む成分Xと、少なくとも2つのチオ酸を含む成分Y(Xおよび/またはYはオリゴマーまたはポリマーである)とを混合することによって組成物を形成するステップと、成分が少なくとも2つのチオエステル結合を形成できるようにするステップとを含む。
【0023】
さらなる態様では、本発明はチオエステル結合を含むポリマーの製造方法に関し、前記方法は、少なくとも1つのエチレン性不飽和基を含む成分Xと、少なくとも2つのチオ酸を含む成分Y(Xおよび/またはYはモノマー、オリゴマーまたはポリマーであり、成分XまたはYの少なくとも1つはオリゴマーまたはポリマーである)とを混合することによって組成物を形成するステップと、成分が少なくとも2つのチオエステル結合を形成できるようにするステップとを含む。
【0024】
チオエステル結合が加水分解可能であるという事実によって、本発明による方法によって得られるポリマーは加水分解性である。特に有利な用途では、成分Xおよび/またはY自体も分解性であり、好ましくは生分解性であり、さらにより好ましくは代謝性である。
【0025】
本発明の好ましい実施形態では、成分XおよびYはいずれもオリゴマーまたはポリマーである。そのようにして、得られるポリマーに特に有用な特性が与えられ、成分の重合挙動は注意深く導かれ得る。
【0026】
別の実施形態では、成分Yはジチオアジピン酸である。この分子は、成分Xがオリゴマーまたはポリマーである場合に、分解性ポリマーを構成するために特に有用であることが分かった。
【0027】
本発明による方法は、成分XおよびYの反応を必要とする。重合であり得るこのような反応は、光、特にUV光によって誘起することができるが、体熱などの熱によって誘起することもできし、あるいは自然発生的に生じることもある。反応のために光、特にUV光が使用される場合、これは光開始剤の存在を必要とし得る。
【0028】
ポリマーの特性は架橋度に影響され得る。これは、成分XおよびYの適切な鎖長を選択することによって達成することができる。あるいは、架橋度は、成分Xのエチレン性不飽和基および/または成分Yのチオ酸基の適切な数を選択することによって影響され得る。もう1つの代替例では、架橋度は、重合が完了するのを妨げることによって、すなわち最高の反応度が生じるのを妨げることによって影響され得る。しかしながら、好ましくは、反応は最高の反応度まで進行する。部分反応は、例えば、官能基の結合もしくは組織または他の生物材料への共有結合などの架橋後の修飾のために架橋マトリックス中にいくつかの残留反応基を有することが必要とされる場合に、特に望ましいであろう。
【0029】
特に有用な線状ポリマーの製造のために、成分Xが最大2つのエチレン性不飽和基を含み、そして成分Yが最大2つのチオ酸基を含むことが有利であろう。成分ごとのエチレン性不飽和基およびチオ酸基の最低平均は1.2よりも大きいのが有利である。
【0030】
特に有用な架橋ポリマーまたはネットワークの製造のために、成分Xは少なくとも2つのエチレン性不飽和基を含み、そして成分Yは少なくとも2つのチオ酸基を含み、そしてエチレン性不飽和基とチオ酸基をプラスした数は4よりも大きいことが必要とされる。
【0031】
特に強い架橋ポリマーまたはネットワークの製造のために、成分Xは少なくとも3つのエチレン性不飽和基を含み、そして/あるいは成分Yは少なくとも3つのチオ酸基を含み、そしてエチレン性不飽和基とチオ酸基をプラスした数は5よりも大きいことが必要とされる。
【0032】
特に有用な分枝状の非ゲル化ポリマーの製造のために、成分XおよびYを含む組成物は、デュランド(Durand)およびブリュノー(Bruneau)によって報告されるような分枝状の非ゲル化ポリマーのための組成物の境界条件を満たすことが必要とされる(D.デュランド,C.−M.ブリュノー、Makromol.Chem.1982年,183,1007−1020頁、ならびにD.デュランド,C.−M.ブリュノー,The British Polymer Journal,1979年,11,194−198頁、D.デュランド,C.−M.ブリュノー,The British Polymer Journal 1981年,13,33−40頁、D.デュランド,C.−M.ブリュノー,Polymer,1982年,23,69−72頁、D.デュランド,C.−M.ブリュノー,Makromol.Chem.,1982年,183,1021−1035頁、D.デュランド,C.−M.ブリュノー,Polymer,1983年,24、587−591頁)。
【0033】
特に有用な架橋ポリマーまたはネットワークの製造のために、成分XおよびYを含む組成物は、デュランドおよびブリュノーによって報告されるような架橋ポリマーまたはネットワークのための組成物の境界条件を満たすことが必要とされる(D.デュランド,C.−M.ブリュノー,Makromol.Chem.1982年,183,1007−1020頁、ならびにD.デュランド,C.−M.ブリュノー,The British Polymer Journal,1979年,11,194−198頁、D.デュランド,C.−M.ブリュノー,The British Polymer Journal 1981年,13,33−40頁、D.デュランド,C.−M.ブリュノー,Polymer,1982年,23,69−72頁、D.デュランド,C.−M.ブリュノー,Makromol.Chem.,1982年,183,1021−1035頁、D.デュランド,C.−M.ブリュノー,Polymer,1983年,24,587−591頁)。
【0034】
成分XおよびYは同一のオリゴマーまたはポリマーに基づくことができるが、異なるオリゴマーまたはポリマーに基づく場合には、得られるチオエステル結合を含むポリマーの特性および薬物などの活性成分の分配をより効果的に制御することができ、より制御可能な方法で反応を導くことができる。
【0035】
本発明による方法によって得られるポリマーは、加水分解的または酵素的に分解可能であるという有利な特性を有する。成分XおよびYも分解性または生分解性である場合には、残渣をまったく残さずにより完全に分解可能であるポリマーを合成することができる。成分XおよびYがさらに完全に分解性または生分解性である場合、残留成分を残すことなく分解可能であるポリマーを合成することができる。このことによって、本発明の方法により得られるポリマーは、ステント、スクリュー、縫合糸、プレート、ピン、接着剤、抗接着剤、シーラント、パッチ、メッシュ、スポンジ、ゲル、ワックス、血管移植片、フィルム、細胞送達媒体、コーティング、ポリマーに基づく医薬品、組織工学用スカフォールド、薬物の制御送達のためのマトリックス、または縫合糸用材料などの医療デバイスの製造のために特に有用となる。また、本発明の方法により得られるポリマーは、組織工学または口腔外科などの外科に特に適するようになる。これらは、薬物溶出ステントまたはカテーテルなどの他の薬物溶出デバイスなどの制御放出系または薬物送達系においても使用することができる。さらに、本発明によるポリマーは、外科用シーラント、接着剤または抗接着剤として使用することもできる。
【0036】
チオエステル結合の形成は脱離生成物を生じないという事実を利用して、本発明による方法は原位置で適用され得るので、本発明による方法およびこの方法によって得られるポリマーは、組織工学的方法に特に適することができる。重合の際の脱離生成物としての移動可能な小さい有機分子の放出は、原位置用途のためには好ましくない。生体内用途における望ましくない脱離生成物の一例は、米国特許出願公開第2002/0165337A1号明細書に記載されるように、脱離生成物としてのN−ヒドロキシスクシンイミドの生成であり、これは毒性であることに加えて結晶化し得る、すなわち薬物送達を要求する用途の場合に薬物の放出を妨害し得る。生体外用途における望ましくない脱離生成物の一例は、従来の重縮合反応中の脱離生成物としての水の生成であり、これによって獲得可能な分子量が制限される。
【0037】
本発明による方法がポリマーを得るために適用される場合、このポリマーはこのように有利に、脱離生成物を含有しないであろう。そのため本発明は、少なくとも2つのチオエステル結合を含む分解性または生分解性ポリマーまたは組成物にも関し、このポリマーまたは組成物は本質的に脱離生成物を含まない。
【0038】
また本発明は、少なくとも2つのチオエステル結合を含むポリマーを含む医療デバイスにも関する。
【0039】
本明細書における使用では、「分解性」という用語は、より小さい分子に腐敗可能な分子構造を有する材料を指す。このような分解または腐敗は、様々な化学メカニズムによるものでよい。例えば、分解性ポリマーは加水分解的に分解可能であり得る。この場合、水がポリマーと反応して分子中の化学結合が加水分解されることによってポリマーから2つ以上の分子が形成され、従ってより小さい分子が生じる。いわゆる分解性ポリマーの多くは完全に分解可能ではなく、排出されなければならず、腎臓および腎臓系に負担をかける。
【0040】
本発明の特に有利な実施形態では、材料または成分は生分解性である。生分解性ポリマーは、細菌および真菌などのその環境中に存在する生物剤の作用によって分解が加速される材料である。しかしながら、特に、生分解性は加水分解かあるいは酵素の作用のいずれかによって加速された分解を指す。これは微生物に起因し、そして/あるいは動物またはヒトの体内で生じ得る。
【0041】
侵食中に関連するメカニズムに関係なく生理学的条件下で水溶性に変化する組織適合性の水に不溶性の材料は、生体侵食性ポリマーと呼ばれることが多い。
【0042】
細胞活性による物質の損失(例えば、ファゴサイトーシス)を経験する材料は、生体再吸収性(bioresorbable)または生体吸収性(bioabsorbable)ポリマーと呼ばれることが多い。
【0043】
本明細書における使用では、「巨大分子」または「ポリマー」または「ポリマー分子」という用語は相対分子質量の高い分子を意味し、その構造は本質的に、相対分子質量の低い分子から実際にまたは概念的に誘導される単位の多数の反復を含む。このようなポリマーは、架橋ネットワーク、分枝状ポリマーおよび線状ポリマーを含むことができる。多くの場合、特に合成ポリマーについては、1つまたは数個の単位の付加または除去が分子特性にほとんど影響を及ぼさなければ、分子は高い相対分子質量を有するとみなすことができることに注意すべきである。この記述は、特性が分子構造の細かい詳細に決定的に依存し得る特定の巨大分子の場合には当てはまらない。また、分子の一部または全体が高い相対分子質量を有し、相対分子質量の低い分子から実際にまたは概念的に誘導される単位の多数の反復を本質的に含む場合には、形容詞的に使用される巨大分子または高分子として、あるいはポリマーによって表されることにも注意すべきである。一般に、ポリマーは、8000Daよりも大きい、例えば10.000Da、12.000Da、15.000Da、25.000Da、40.000Da、100.000Daよりも大きい、または1.000.000Daよりも大きい分子量を有する。
【0044】
本明細書における使用では、「ブロック」という用語は、隣接する部分に存在しない少なくとも1つの特徴を有する多くの構成単位を含む巨大分子の一部を指す。適切な場合には、「巨大分子」に関する定義は「ブロック」にも適用することができる。
【0045】
本明細書における使用では、「ブロック巨大分子」という用語は、線状の配列のブロックで構成される巨大分子を意味する。
【0046】
本明細書における使用では、「ブロックポリマー」という用語は、ブロック巨大分子で構成されるポリマーを意味する。
【0047】
本明細書における使用では、「構成単位」という用語は、巨大分子、オリゴマー分子、ブロックまたは鎖の必須構造の一部を含む原子または原子団(場合により、ペンダント原子または原子団を有する)を意味する。
【0048】
本明細書における使用では、「オリゴマー分子」という用語は中間の相対分子質量の分子を意味し、その構造は本質的に、相対分子質量の低い分子から実際にまたは概念的に誘導される複数の少数の単位を含む。1つまたは数個の単位の除去により著しく変化する特性を有すれば、分子は中間の相対分子質量を有するとみなされることに注意すべきである。また、分子の一部または全体が中間の相対分子質量を有し、相対分子質量の低い分子から実際にまたは概念的に誘導される複数の少数の単位を本質的に含む場合には、形容詞的に使用されるオリゴマーとして、あるいはオリゴマーによって表されることにも注意すべきである。一般に、オリゴマーは、200Daよりも大きい、例えば400Da、800Da、1000Da、1200Da、1500Da、2000Da、3000Da、4000Daよりも大きい、または8000Daよりも大きい分子量を有する。
【0049】
本明細書における使用では、「コポリマー」という用語は、2つ以上のモノマー種から誘導されるポリマーを指す。2つのモノマー種の共重合によって得られるコポリマーはバイポリマーと呼ばれることもあり、3つのモノマーから得られるものはターポリマー、4つのモノマーから得られるものはクォーターポリマーなどと呼ばれることに注意すべきである。
【0050】
本明細書における使用では、「モノマー」または「モノマー分子」という用語は、重合を受けることにより、巨大分子の必須構造へ構成単位を与えることができる物質を指す。
【0051】
本明細書における使用では、「重合」という用語は、モノマーまたはモノマー混合物もしくはオリゴマーまたはオリゴマー混合物をポリマーに転化する方法を指す。
【0052】
本明細書における使用では、「ブロックコポリマー」という用語は、ブロックポリマーであるコポリマーを指す。ブロックコポリマーの構成巨大分子において、隣接するブロックは構造的に異なる。すなわち、隣接するブロックは、異なるモノマー種から、または同じモノマー種(しかし、構成単位の組成または配列分布が異なる)から誘導される構成単位を含む。
【0053】
成分XおよびYは化学的に様々でよく、これらの成分XおよびYはいずれも分解性であり得るが、成分のうちの1つは部分的に分解性または非分解性であってもよい。これは、追加の特性も分解性も必要とされる場合に利用されることが多い。分解性成分の場合、Xおよび/またはYは、ポリ(ラクチド)(PLA)、ポリグリコリド(PGA)、PLAおよびPGA(PLGA)のコオリゴマーまたはコポリマー、ポリ(酸無水物)、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(オルトエステル)、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)、ポリ(ウレタン)、ポリ酸無水物、ポリ(ヒドロキシ酸)、ポリカーボネート、ポリアミノカーボネート、ポリホスファゼン、ポリ(プロピレン)フマラート、ポリエステルアミド、ポリオキサエステル、ポリ(マレイン酸)、ポリアセタール、ポリケタール、デンプン、および天然ポリマー、例えば、ポリペプチド、ポリヒドロキシアルカノアート、フィブリン、キチン、キトサン、多糖類または炭水化物、例えばポリスクロース、ヒアルロン酸、デキストランおよびその同様の誘導体、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、またはアルギナート、およびタンパク質、例えばゼラチン、コラーゲン、アルブミン、またはオボアルブミン、もしくはこれらのコオリゴマーまたはコポリマーまたはブレンドから選択することができる。特に好ましい実施形態では、Xおよび/またはYは、ポリ(ラクチド)(PLA)、ポリ(酸無水物)、ポリ(トリメチレンカーボネート、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)、もしくはこれらのコオリゴマーまたはコポリマーまたはブレンドから選択することができる。
【0054】
親水性、疎水性、機械強度および/または非汚染特性のような追加の特性のために非分解性成分が必要とされる場合には、成分Xおよび/またはYは、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレンオキシド)−co−ポリ(プロピレンオキシド)ブロックコオリゴマーまたはコポリマー(ポロキサマー、メロキサポール)、ポロキサミン、ポリ(ウレタン)、ポリ((ポリエチレンオキシド)−co−ポリ(ブチレンテレフタラート))、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチルオキサゾリン)、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースおよびメチルヒドロキシプロピルセルロースなどのヒドロキシアルキル化セルロースからなる群から選択することができる。
【0055】
特に良好な非汚染特性は、成分Xおよび/またはYとしてポリ(エチレンオキシド)を使用したときに達成された。
【0056】
特に良好な両親媒性挙動は、成分Xおよび/またはYを、ポリ(エチレンオキシド)−co−ポリ(プロピレンオキシド)、ポロキサマー、ポロキサミンおよびメロキサポールからなる群から選択したときに達成された。
【0057】
特に良好な機械強度は、成分Xおよび/またはYとしてポリ(ウレタンを使用したときに達成された。
【0058】
特に良好な親水性は、成分Xおよび/またはYを、ポリ(ビニルピロリドン)およびポリ(エチルオキサゾリン)からなる群から選択したときに達成された。
【0059】
本発明による方法では、多数の成分Xおよび/または成分Yが使用されてもよい。成分Xおよび成分Yは、異なるオリゴマーまたはポリマーで構成されてもよい。例えば、本発明による方法は、例えば上記で詳述したオリゴマーまたはポリマーの群から独立して選択され得る2つ以上の成分Xと共に実施することができる。このような方法の一例は、実施例9fにおいて提供される。また、本発明による方法は、例えば上記で詳述したオリゴマーまたはポリマーの群から独立して選択され得る2つ以上の成分Yと共に実施することもできる。
【0060】
成分XおよびYは、得られる高分子材料のためにどの特性が所望されるかに依存して分子量が変わり得る。より詳しくは、XおよびYの分子量は、約28Daから、約50000Daよりも大きい範囲であり得る。本発明の高分子材料の形成よりも前に、XおよびYは誘導体化されて、チオ酸−エン(thioic−ene)重合に関与できるようにチオ酸基またはエチレン性不飽和基を含む(図1)。原位置用途において用いるために、成分XおよびYは好ましくは高分子量を有する。得られたポリマーから未反応モノマーが移動して望ましくない副作用を引き起こし得る、例えば薬物との共溶出によって薬物放出に影響を与え得るので、好ましくは、低分子量成分はこの用途のためには回避されるべきである。
【0061】
本発明による方法は、チオエステル結合を含むポリマーを生じる。このようなポリマーは当該技術分野において既知であり、その調製のための様々な方法は、例えば、C.S.マーベル(Marvel),JACS 1951年,73,1100−1102頁、C.ベルティ(Berti),Macromolecules 1990年,23,3505−3508頁、M.A.アブダラ(Abd−Alla),High Performance Polymers 1990年,2,235−243頁、W.ポドコシエルニー(Podkoscielny),J.Appl.Polym.Sci.1993年,47,1523−1531頁、T.キム(Kim),J.Am.Chem.Soc.1995年,117,3963−3967頁、W.チェ(Choi),J.Polym.Sci.:パートA:Polymer Chemistry 1998年,36,1189−1195頁、M.アルマスリ(Al−Masri),J.Macromol.Sci.Pure Appl.Chem.2001年,A38,1007−1017頁、R.C.シュメルツァー(Schmeltzer),Biomacromolecules 2005年,6,359−367頁、E.コバヤシ(Kobayashi),Polymer Journal 1994年,26,49−59頁、H.クリシェルドルフ(Kricheldorf),Macromol.Chem.Phys.1998年,199,273−282頁、F.サンダ(Sanda),J.Appl.Polym.Sci.:パートA:Polymer Chemistry 2000年,38,4057−4061頁、H.ブーラー(Buehrer),Advances in Chemistry Series 1973年,129,105−130頁、H.クリケルドルフ(Kricheldorf),Macromolecules 1989年,22,14−20頁、A.カメヤマ(Kameyama),Macromolecules 1997年,30,6494−6497頁,K.コムラ(Komura),Macromol.Chem.Phys.2002年,203,931−936頁、S.イワタ(Iwata),Macromol.Rapid.Commun.2003年,24,467−471頁、K.コバシ(Kobashi),Polymer 2004年,45,7099−7107頁、J.カワダ(Kawada),Biomacromolecules 2003年,4,1698−1702頁、Y.ドイ(Doi),Nature Materials 2002年,1,207−208頁、およびG.A.ニッセン(Nyssen),Chemtech 1978年,546−550頁において記載されている。
【0062】
またこのような方法は、国際公開第2004/007575A1号パンフレット、米国特許第3538043号明細書、米国特許第3755268号明細書、米国特許第4245084号明細書、米国特許第2727018号明細書および国際公開第98/34596号パンフレットなどの多数の特許および特許出願の主題でもあった。
【0063】
これらから、マーベルおよびコッチ(J.Amer.Chem.Soc.73,1100−1102頁(1951年)ならびにコバヤシら,Polymer Journal,26,49−59頁(1994年)およびPolymer Journal,25 507−520頁(1993年)だけが、エチレン性不飽和基を含む成分がチオ酸基を含む成分と反応される技術について記載している。
【0064】
マーベルおよびコッチは、様々な二塩基性塩化物および脂肪族ジチオールから、あるいはUV光を用いた非共役ジオレフィンビアリル(biallyl)(1,5−ヘキサジエン)への二塩基性チオ酸(ジチオアジピン酸、ジチオピメリン酸、ジチオスベリン酸、ジチオアゼル酸(dithioazelic acid)、ジチオセバシン酸、ジチオテレフタル酸、ジチオイソフタル酸)の付加からの[SCORCOS−R’]タイプのポリチオエステルの調製を記載している。
【0065】
コバヤシらは、Polymer Journal,25,507−520頁(1993年)において、UV光またはラジカル開始剤(AIBN)を用いるチオ安息香酸のスチレンまたはエチニルベンゼンへの付加反応の反応メカニズムについて記載しており、そしてPolymer Journal,26、49−59頁(1994年)において1,4−ベンゼンジカルボチオ酸の1,4−ジビニルベンゼンまたは1,4−ジイソプロペニルベンゼンへの重付加について記載している。
【0066】
マーベルおよびコッチにより使用される出発成分ならびにコバヤシらにより使用される出発成分は、オリゴマーまたはポリマーとみなされないことに注意すべきである。
【0067】
反応物がポリチオエステルを形成する限りは比較的小さい分子のみが使用されているという事実のおかげで、結果として生じる従来技術のポリマーは、得られるポリマーの単位分子量あたり比較的多数のチオエステル基を含有するという事実を特徴とする。例えば、マーベルおよびコッチによって記載されるポリマーは2つのチオエステル結合の間に比較的小さい断片を含み、記載されている最も重い断片は、132Daの重量の断片(C1012)である。コバヤシらは、このような最も重い断片(C1216)が160Daの重量を有するポリマーについて記載している。
【0068】
上記の従来技術とは対照的に、本発明は、チオエステル結合が形成されるように少なくとも2つの成分XおよびYを反応させてポリマーにする特定の方法に関し、成分のうちの少なくとも1つはオリゴマーまたはポリマーである。そのようにして、比較的低分子量の出発成分の使用によっては入手することができない生分解性および溶解性ならびに他の機械的および化学的特性などの有利な特性を有する、特に有用なポリマーを得ることができる。
【0069】
本発明によって得ることができるポリマーは、2つのチオエステル基の間に少なくとも1つの比較的大きい断片を含有するという事実を特徴とする。例えば、本発明において、このような断片は少なくとも200Daの重量を有する。2つのチオエステル基の間の断片の重量が204Da(C1020)であるポリマーを生じる反応の一例は、図13に示される。しかしながら、ポリマーは少なくとも、2つのチオエステル結合の間に250、300、350、400、450、500、600、800、1000、1500、2000またはそれ以上の重量の断片を含有するのが有利である。
【0070】
本発明による方法によって得られるポリマーの平均分子量は、組成物中のエチレン性不飽和基に対するチオ酸基の比率および反応度を調整することによって影響され得る。2つの官能性のうちのいずれか1つの過剰性が高いほど、得られるポリマーの平均分子量は低くなり、この官能性がより多く最終ポリマー生成物中に存在し得る。エチレン性不飽和基に対するチオ酸基のモル比の小さい差が、得られるポリマーの分子量の大きな差を生じ得るので、これは非常に敏感なメカニズムである(実施例9dを参照)。
【0071】
本発明の方法において使用される成分は、商業的に、あるいは当該技術分野において基地の方法によって得ることができる。実施例は、合成のための指針と、エチレン性不飽和基を含む特に有用な成分ならびに少なくとも2つのチオ酸基を含む成分の使用とを提供する。特に、例示される成分のジチオアジピン酸(DTAA)、トリエチレングリコールジビニルエーテル(TEGDVE)ポリ(ラクチド−co−グリコリド)1200ジ(4−ペンテノアート)(PLGDP)、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)2600トリ(4−ペンテノアート)(PLGTP)、ポリ(ε−カプロラクトン)2100ジ(4−ペンテノアート)(PCLDP)、トリス[(6−オキソ−6−スルファニルヘキサノイル)オキシ]ポリ(ラクチド−co−グリコリド)2000(PLGTTA)、α,ω−ビス[(6−オキソ−6−スルファニルヘキサノイル)オキシ]ポリ(ラクチド−co−グリコリド)1300(PLGDTA)、6−{2,3−ビス[(6−オキソ−6−スルファニルヘキサノイル)オキシ]プロポキシ}−6−オキソヘキサンチオS酸(GTTA)およびPEG11500テトラ(4−ペンテノアート)(PEG4P)は、有用な分解性ポリマーが得られるという有利な結果を提供した。
【0072】
本発明による方法において使用され得る成分のうちの1つは、エチレン性不飽和基を含むことを特徴とする。エチレン性不飽和基の代わりに、本発明による方法において、歪んだ環構造を使用することもできる。特に、例えばオキシラン、オキセタン、チイラン、ジオキソランなど、有機酸と反応することができるヘテロ原子を有する歪んだ環構造が好ましい。
【0073】
エチレン性不飽和基を含む成分は市販されている。このような成分は、炭素−炭素二重結合を有する適切な分子でよい。例えば、エチレン性不飽和基は、ビニル、アルキン、アルケン、ビニルエーテル、ビニルスルホン、ビニルホスファート、アリル、アクリレート、アクリルアミド、フマラート、マレアート、イタコナート、シトラコナート、メサコナート、メタクリレート、マレイミド、イソプレン、およびノルボルネン、ならびにエステルおよびアミドなどのこれらの誘導体からなる群から選択することができる。環状構造も使用することができる。
【0074】
本発明による方法において使用され得る成分の第2のタイプは、少なくとも2つのチオ酸基を含むことを特徴とする。チオ酸基は脂肪族または芳香族チオ酸でよい。チオ酸基は本明細書において式1による構造を有する化学基と定義される。
【化1】


式1
【0075】
芳香族および脂肪族チオ酸の比は、分解または生分解、機械特性および親水性などのポリマー特性、ならびに薬物の溶解性および放出に影響を与え得る。脂肪族チオ酸に対する芳香族の比が増大すると、得られるポリマーはより疎水性である可能性が高く、より高い機械強度を有する。反対に、脂肪族チオ酸に対する芳香族の比が低下すると、得られるポリマーはより親水性である可能性が高く、より低い機械強度を有する。従って、どの薬物がポリマー中に取り込まれるか、およびその所望される放出時間に依存して、所与の薬物およびその放出のための最適な環境を提供するように疎水性を調整することができる。W.バウアー(Bauer),K.クーレイン(Kuehlein),Carboxylic Acids and Carboxylic Acid Derivatives,J.ファルベ(Falbe)編,Methoden Der Organischen Chemie(Houben−Weyl),Georg Thieme Verlag:Stuttgart,ドイツ,1985年,E5巻,832頁に記載されるように、式1に示されるようなチオ酸は、実際には以下の2つの構造の間の平衡状態であることに注意すべきである。
【化2】

【0076】
本発明による方法は、ブロックポリマーまたはブロックコポリマーを製造するためにも使用することができる。この場合、成分のうちの少なくとも1つは、オリゴマーまたはポリマーからなるのが有利である。このようなオリゴマーまたはポリマーはエチレン性不飽和基を含むことができ、そして/あるいはチオ酸を含むことができる。その後者の場合、本発明による方法は、ブロックポリマーまたはブロックコポリマーの合成のための少なくとも2つのチオ酸を含むオリゴマーまたはポリマーの使用と定義することができる。
【0077】
チオエステル結合は、本発明による方法において様々な種類のメカニズムを用いて形成することができる。光および熱が適切な動因であり得るが、反応は自然発生的に生じることもある。当業者には、反応の速度および程度に影響を及ぼすために様々な種類の触媒、熱開始剤、光開始剤および安定剤を使用できることが知られている。ヒトまたは動物の体内での原位置用途のために使用される場合、青色光源または可視光源が特に有利であり得る。あるいは、自発性の反応も有利であり得る。
【0078】
反応の温度が反応の速度および選択性を導くための強力な手段を提供することは当業者により認識されるであろう。また、反応物の濃度も、反応の速度および得られるポリマーの特性を決定し得る。
【0079】
架橋ポリマーが所望される場合、得られるネットワークの特性は、オリゴマーまたはポリマー成分の長さを変更することによって影響され得る。あるいは、架橋度は、成分X中のエチレン性不飽和基および/または成分Y中のチオ酸基の適切な数を選択することによって影響され得る。またネットワーク特性は、オリゴマーまたはポリマー成分の特徴および性質によって決定される。例えば、チオエステルポリマーは、親水性の成分XおよびYが使用される場合により速く分解するが、チオエステルポリマーが数週間、数ヶ月、あるいはさらに数年のようにより長い期間にわたって分解性でなければならない場合には疎水性の成分が使用される。
【0080】
成分XおよびYの選択は、得られるポリマーのネットワーク密度にも影響を与える。より長い鎖間距離を得るためには、成分XおよびYのためにより長い鎖長が使用されるか、または組成物に単官能性成分が添加され得る。あるいは、成分XおよびYは、それぞれ3、4、5、6、7、8または8より多いように、より多数のエチレン性不飽和基およびチオ酸基を含んでもよい。あるいは、成分XおよびYは、1.5:1、2:1、4:1または8:1以上のように等モルでない量で使用されてもよい。ネットワーク密度およびポリマーの他の物理パラメータに影響を与える方法は当業者には分かるであろう。
【0081】
本発明による方法において、2つのタイプのチオエステル結合を生成することができ、その比率は、分解または生分解などのポリマー特性に影響を与え得る。本発明によるポリマーは、マルコフニコフ(Markownikoff)およびアンチマルコフニコフ付加反応によって得られるチオエステル結合を含有することが観察された。さらに、光化学的に得られたポリマーは大部分がアンチマルコフニコフ付加生成物を示すが、暗所において熱的に得られたポリマーは大部分がマルコフニコフ付加生成物を示すことが観察された。このようにして得られたマルコフニコフおよびアンチマルコフニコフポリマーの例は、図2の式で示される。
【0082】
より一般的には、本発明による方法によって得ることができるポリマーに生じるチオエステル結合は、式2または式3によって表すことができる。
【化3】


式2
【化4】


式3
【0083】
式2および3のW、WおよびWは、C、H、O、N、S、P、アルキル、アリール、エステルおよびエーテルからなる群から選択される。
【0084】
W=Hであれば、結晶化が生じる可能性がより高い。いくつかの用途では、これは生分解性、薬物の分配および放出に悪影響を与え得るので回避されるべきである。そのため、W、WおよびWは、C、O、N、S、P、アルキル、アリール、エステルおよびエーテルからなる群から選択されることが好ましい。
【0085】
本発明によるポリマーは式4による断片を含有してもよく、式中、W、WおよびWは、H、C、O、N、S、P、アルキル、アリール、エステルおよびエーテルからなる群から選択され、Rは低分子量(C、Cなど)を有することもできるし、あるいはオリゴマーまたはポリマーであってもよく、mおよびnは整数であり、その合計はRに結合したチオエステルリンカーの数を示し、mおよびnの合計は少なくとも2である。
【化5】


式4
【0086】
W=Hであれば、結晶化が生じる可能性がより高い。いくつかの用途では、これは生分解性、薬物の分配および放出に悪影響を与えるので回避されるべきである。そのため、W、WおよびWは、C、O、N、S、P、アルキル、アリール、エステルおよびエーテルからなる群から選択されることが好ましく、Rは低分子量(C、Cなど)を有することもできるし、あるいはオリゴマーまたはポリマーであってもよく、mおよびnは整数であり、その合計はRに結合したチオエステルリンカーの数を示し、mおよびnの合計は少なくとも2である。
【0087】
本発明によるポリマーは加水分解性であることが分かった。そのうちのいくつかは生分解性であることも分かった。本発明による方法において成分として使用されるオリゴマーまたはポリマーの特定の種類に依存して、得られるポリマーの分解性は影響され得る。例えば、非分解性トリエチレングリコールジビニルエーテル(TEGDVE)に基づくポリマーは、成分ポリ(ラクチド−co−グリコリド)1200ジ(4−ペンテノアート)(PLGDP)またはポリ(ラクチド−co−グリコリド)2600トリ(4−ペンテノアート)(PLGTP)などのエチレン性不飽和基を含む分解性成分Xに基づくポリマーと比較してより低い分解速度を示した。疎水性成分のポリ(ε−カプロラクトン)2100ジ(4−ペンテノアート)(PCLDP)は数年間にわたって分解するように設計された。
【0088】
原位置用途のようにヒトまたは動物の体内における用途に特に適するのは、残留成分を残すことなく分解生成物に分解することができるポリマーである。次に、このような分解生成物は好ましくは無毒性である。分解生成物は、ヒトまたは動物の代謝において吸収されるか、あるいは排出され得る。
【0089】
[実施例]
[実施例1.材料および方法]
アラバマ州ハンツビルのNektarから、4本の手のヒドロキシル末端PEG(MW10.000)を得た。使用前にジエチエレングリコールを蒸留した。使用前にトリメチロールプロパンを酢酸エチルから再結晶させた。暗褐色のガラス器具中で組成物を調製した。
【0090】
Varian Inova 300およびBruker AM−400スペクトロメーターにおいて核磁気共鳴(NMR)実験を実施し、シングルバウンス(single bounce)ダイヤモンド減衰全反射(ATR)結晶を取り付けたPerkin Elmer Spectrum Oneスペクトロメーターにおいてフーリエ変換赤外(FT−IR)実験を実施した。溶離液としてテトラヒドロフラン(THF)を用いる1ml/分の流速のWaters styragel HR2、3および4カラムを備えた、Waters 515 HPLCポンプ、Waters 410示差屈折計およびSevern Analytical SA6503プログラム可能吸光度検出器を用いてサイズ排除クロマトグラフィ(SEC)を実施した。本明細書において示されるSECデータは、RI検出器を用いたと明確に示されない限りは、UV検出器を用いて得た。狭いポリスチレン標準(ヘールレンのPolymer LaboratoriesからのEasyCal PS2、バッチ#PS2−19)を用いてシステムを較正した。溶離液としてTHFを用い、参照対象としてPEG4000を用いて、液体クロマトグラフィ―ダイオードアレイ検出−エレクトロンスプレー−質量分析(LC−DAD−ES(+)−MS)を実施した。
【0091】
EIT UV Power Puck Model PP2000(米国バージニア州スターリングのEIT Instrumentation Products)を用いて、UV線量を決定した。
【0092】
本明細書においてオリゴマーは、例えばポリ(ラクチド−co−グリコリド)XXXXジオールで示され、XXXXは、対応するH−NMRスペクトルの積分によって結成されたオリゴマーの分子量である。
【0093】
[実施例2.UV重合]
ドクターブレード(200μm)を用いて組成物をガラスプレート上に塗布した。次にUV光(8J/cmの線量を有するFusion F600 D−バルブ)を用いてサンプルを窒素雰囲気下で重合させた。
【0094】
[実施例3.分解研究]
ガラスカバースリップを室温で一晩、真空で乾燥させて秤量した。ポリマーを粘稠液またはTHF溶液のいずれかでカバースリップに塗布することによってサンプルを調製した。次に、サンプルを室温で一晩、真空で乾燥させた。乾燥の前後にサンプルを秤量した。加水分解研究のために、サンプルを10mlのリン酸緩衝食塩水(PBS:pH7.4、0.2g/lのKCl、0.2g/lのKHPO、8g/lのNaCl、1.15g/lのNaPO)中に入れた。酵素分解研究のために、PBS溶液にプロテイナーゼK(0.2mg/ml)を添加した。2〜3日毎に溶液を新しくしてpHを監視した。サンプルの重量損失を監視することによって、ポリマーの分解を決定した。これは、サンプルをPBS溶液から取り出し、蒸留水で3回洗浄し、真空中室温で一晩乾燥させ、続いて秤量することによって行った。
【0095】
[実施例4.生体外細胞毒性試験のための手順]
試験品抽出物に応答する、哺乳類の単層、L929マウス線維芽細胞培養物の生物学的反応性を決定した。5±1%の二酸化炭素を含有する加湿雰囲気中37±1℃で24時間、サンプルを細胞培地中でインキュベートすることによって抽出物を調製した。試験システムの機能性を検証するために、ポジティブコントロール品(天然ゴム)およびネガティブコントロール品(シリコーン)を調製した。試験品またはコントロール品の抽出物によって細胞培養における維持培地を3とおりに交換し、続いて5±1%の二酸化炭素を含有する加湿雰囲気中で、培養物を37±1℃で48時間インキュベートした。
【0096】
以下の尺度:グレード0(非反応性)、グレード1(わずかな反応性)、グレード2(軽度の反応性)、グレード3(適度の反応性)、グレード4(激しい反応性)において、生物学的反応性を格付けした。試験品にさらされた培養物がどれも軽度の反応性(グレード2)よりも高い反応性を示さなければ、試験品は非細胞毒性であると考えられる。この手順は、ISO標準10993−5と一致する。
【0097】
[実施例5a.少なくとも1つのエチレン性不飽和基を含む成分:トリエチレングリコールジビニルエーテル]
トリエチレングリコールジビニルエーテル(TEGDVE)は、アルドリッチ(Aldrich)から購入し、さらに精製することなく使用した。
【0098】
[実施例5b 少なくとも1つのエチレン性不飽和基を含む成分:ポリ(ラクチド−co−グリコリド)1200ジ(4−ペンテノアート)(PLGDP)の合成]
ポリ(ラクチド−co−グリコリド)1100ジオールによって、分解性オリゴマーのポリ(ラクチド−co−グリコリド)1200ジ(4−ペンテノアート)(PLGDP、図3)を合成した。そこに、49.54g(340.34mmol)のdl−ラクチド、39.87g(340.34mmol)のグリコリドおよび10.62g(100mmol)のジエチレングリコールを150℃で溶かした。27.8mgのスズジオクトアートを含有する500μlのヘキサン溶液を添加した。反応を24時間進行させ、反応混合物を室温まで冷却して生成物を得た。淡黄色の油としての収率:98%。ポリ(ラクチド−co−グリコリド)1100ジオールの形成は、以下の分析結果により確認した:H−NMR(300MHz,CDCl,22℃,TMS):δ(ppm)=5.25−5.18(m,5.6H,CH(lac))、4.83−4.74(m,11.5H,CH(gly))、4.30(m,6.7H,−(C=O)OCHCHO−,−O(C=O)CHOH,−O(C=O)CH(CH)OH)、3.70(m,4H,−(C=O)OCHCHO−)、2.79(ブロード,2H,−OH)、1.58(m,19.9H,CH(lac))、SEC(RI検出器):M=1900、PDI:2.02。
【0099】
次に、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)1100ジオール(30g、28mmol)をTHF(300ml)中に溶解し、トリエチルアミン(10.9ml、78mmol)を添加し、反応混合物を0℃に冷却し、塩化ペンテノイル(pentenoylchloride)(7.94ml、72mmol)を添加し、温度を1時間0℃に保持した。混合物を室温で攪拌させた。次に、反応混合物を0℃で20分間攪拌し、反応中に形成されたトリエチルアミン塩酸塩を沈殿させた。混合物をろ過し、真空で濃縮した。残渣をクロロホルム中に再び溶解し、飽和NaCl水溶液および蒸留水で抽出した。有機層をNaSO上で乾燥させ、真空下で溶媒を除去した。黄色の油としての収率81%。
【0100】
ポリ(ラクチド−co−グリコリド)1200ジ(4−ペンテノアート)の形成は、以下の分析結果により確認した:H−NMR(300MHz,CDCl,22℃,TMS):δ(ppm)=5.84(m,2H,−CH=CH)、5.23−5.00(m,10.5H,−CH=CHおよびCH(lac))、4.86−4.65(m,13.5H,CH(gly))、4.31(m,4H,−(C=O)OCHCHO−)、3.69(m,4H,−(C=O)OCHCHO−)、2.57−2.41(m,8H,−(C=O)CHCH−および−(C=O)CHCH−)、1.57(m,21.3H,CH(lac))、13C−NMR(75MHz,CDCl,22℃):δ(ppm)=172.4−166.4、136.5、115.6、69.5−68.6、66.7、64.3、61.1−60.2、33.1、28.6、16.7、IR(neat,cm−1):1743.4(C=O,伸縮)、1641.6(C=C)、SEC(RI検出器):M=1900、PDI:1.42。
【0101】
[実施例5c 少なくとも1つのエチレン性不飽和基を含む成分:ポリ(ε−カプロラクトン)2100ジ(4−ペンテノアート)(PCLDP)の合成]
まずヒドロキシル末端官能性ポリ(ε−カプロラクトン)1900ジオール(PCLジオール、アルドリッチから入手可能)を減圧下で一晩乾燥させることによってポリ(ε−カプロラクトン)2000ジ(4−ペンテノアート)(PCLDP)を調製した。次に、PCLジオールをTHF中に溶解し、トリエチルアミンを添加した。混合物を0℃まで冷却し、PCLジオールに対する塩化ペンテノイルのモル比を2.2:1として、塩化4−ペンテノイルを1滴ずつ添加した。混合物を0℃で1時間攪拌し、続いて30℃で15〜20時間攪拌した。混合物をろ過してトリエチルアミン塩酸塩を除去し、得られたろ液を冷メタノール中に滴下して生成物を得た。
【0102】
ポリ(ε−カプロラクトン)ジ(4−ペンテノアート)の形成は、以下の分析結果により確認した:H−NMR(300MHz,CDCl,22℃,TMS):δ(ppm)=5.82(m,2H,−CH=CH)、5.05(m,4H,−CH=CH)、4.23(m,4H,−(C=O)OCHCHO−)、4.05(m,30.9H,−OCHCHCHCHCH(C=O)−)、3.70(m,4H,−(C=O)OCHCHO−)、2.49−2.27(m,40.1H,−(C=O)CHCHCH=CH−,−(C=O)CHCHCH=CH−および−OCHCHCHCHCH(C=O)−))、1.72−1.57(m,62.5H,−OCHCHCHCHCH(C=O)−)、1.40(m,31.7H,−OCHCHCHCHCH(C=O)−)、SEC(RI検出器):M=3500、PDI:2.52。
【0103】
[実施例5d.少なくとも1つのエチレン性不飽和基を含む成分:ポリ(ラクチド−co−グリコリド)2600トリ(4−ペンテノアート)(PLGTP)の合成]
ポリ(ラクチド−co−グリコリド)2400トリオールによって、分解性オリゴマーのポリ(ラクチド−co−グリコリド)2600トリ(4−ペンテノアート)(PLGTP、図4)を合成した。そこに、15.07g(104.56mmol)のdl−ラクチド、12.26g(105.63mmol)のグリコリドおよび1.84g(13.71mmol)のトリメチロールプロパンを150℃で溶かした。4.2mgのスズジオクトアートを含有する42μlのヘキサン溶液を添加した。反応を24時間進行させ、反応混合物を室温まで冷却して生成物を得た。無色の油としての収率:98%。
【0104】
ポリ(ラクチド−co−グリコリド)2400トリオールの形成は、以下の分析結果により確認した:H−NMR(300MHz,CDCl,22℃,TMS):δ(ppm)=5.23−5.20(m,13.8H,CH(lac))、4.82−4.70(m,28.4H,CH(gly))、4.45−4.20(m,9.8H,−O(C=O)CHOH,−O(C=O)CH(CH)OH)およびCHCHC(CHO−))、2.65(ブロード,3H,−OH)、1.57(m,48.7H,CH(lac)およびCHCHC(CHO−))、0.87(t,3H,CHCHC(CHO−))、SEC:M=3500、PDI:1.40。
【0105】
次に、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)2400トリオール(20.14g、8.40mmol)を加熱によってTHF(200ml)中に溶解し、トリエチルアミン(9.0ml、64mmol)を添加し、反応混合物を0℃まで冷却し、塩化ペンテノイル(6.67ml、60mmol)を添加し、温度を1時間0℃に保持した。混合物を室温で攪拌させた。次に、反応混合物を0℃で20分間攪拌し、反応中に形成されたトリエチルアミン塩酸塩を沈殿させた。混合物をろ過し、真空で濃縮した。残渣をクロロホルム中に再び溶解し、飽和NaCl水溶液、水で抽出した。有機層をNaSO上で乾燥させ、真空下で溶媒を除去した。黄色の油としての収率75%。
【0106】
ポリ(ラクチド−co−グリコリド)2600トリ(4−ペンテノアート)の正確な形成は、以下の分析結果により確認した:H−NMR(300MHz,CDCl,22℃,TMS):δ(ppm)=5.79(m,3H,−CH=CH)、5.23−5.00(m,23.8H,−CH=CHおよびCH(lac))、4.85−4.69(m,31.3H,CH(gly))、4.09(m,6H,CHCHC(CHO−))、2.53−2.41(m,12H,−(C=O)CHCH−および−(C=O)CHCH−)、1.57(m,49.6H,CH(lac)およびCHCHC(CHO−))、0.88(t,3H,CHCHC(CHO−))、13C−NMR(75MHz,CDCl,22℃):δ(ppm)=172.2−166.4、136.5、135.6、115.4、69.4−68.1、64.4、60.9−60.2、41.1、33.1、28.8、25.6、16.7、7.2、IR(neat,cm−1):1749.2(C=O,伸縮)、1641.6(C=C)、SEC:M=4300、PDI:1.25。
【0107】
[実施例5e.少なくとも1つのエチレン性不飽和基を含む成分:PEG11500テトラ(4−ペンテノアート)(PEG4P)の合成]
水溶性PEG11500テトラ(4−ペンテノアート)(PEG4P)の合成は、ここに記載されるとおりに行った。窒素雰囲気下で、4本の手のヒドロキシル末端PEG(20g、2mmol、MW10.000、NEKTAR)を200mlのトルエンおよび50mlのジクロロメタン中に溶解し、氷浴で冷却した。透明な溶液にトリエチルアミン(2.8ml、20mmol)を添加した。次に、この氷冷した溶液に塩化4−ペンテノイル(2.4ml、22mmol)を一滴ずつ添加した。反応を室温で一晩継続させた。次に、トリエチルアミン塩を(真空)ろ過して除去し、透明なろ液を2lの氷冷したジエチルエーテル中に沈殿させた。固体沈殿物を捕集し、クロロホルム(約100ml)中に再び溶解した。この溶液を過剰のヘキサン中に再沈殿させた。沈殿物を捕集し、真空乾燥させた。白色粉末としての収率:72%。PEG4Pの正確な形成は、以下の分析結果により確認した:H−NMR(300MHz,CDCl,22℃,TMS):δ5.8ppm(4H,−CH=CH)、5.0(8H,CH=CH−)、4.2(8H,−CHO(C=O)−)、3.6(1000H,−OCHCHO−)、2.4(16H,−CHCHCH=CH)。
【0108】
[実施例6.少なくとも2つのチオ酸を含む成分]
[実施例6a.ジチオアジピン酸(DTAA)の合成]
以下の手順によってジチオアジピン酸(DTAA)を合成した。アジピン酸のピリジン溶液をカルボニルビスイミダゾールのピリジン溶液に添加した。数分後に気体が発生し(CO)、さらに数分後に沈殿物が観察された。30分後、HSを20分間バブリングし、反応混合物を1時間攪拌した。透明な黄色の溶液が得られ、これを1MのHCl水溶液中に注いだ。水層をジエチルエーテルで抽出した。有機層を乾燥させ、真空で濃縮し、続いて再結晶させて97%の収率で生成物を得た。生成物は以下の分析結果により確認した:H−NMR(300MHz,CDCl,22℃,TMS):δ(ppm)=4.50(s,2H,HS(C=O)−)、2.63(m,4H,−(C=O)CH−)、1.70(m,4H,−(C=O)CH−CH−)、13C−NMR(100.6MHz,CDCl,22℃):δ(ppm)=197.0、45.1、24.2、IR(neat結晶,cm−1)、2535.9(−S−H,伸縮)、1667.9(C=O,伸縮)、1165cm−1(C=S,弱)、722(C(=O)−S,伸縮)。C=O伸縮バンドの位置は、溶融または結晶状態でスペクトルが記録されるかどうか、そしてオキソエステルカルボニルが存在するかどうかに依存することが観察された。
【0109】
[実施例6b.PBADTA、2つのチオ酸基を含むポリマーの合成]
チオ酸基を含むポリマーは、少なくとも2つのカルボン酸基を含むポリマーと、カルボニルビスイミダゾールとをピリジン中で反応させることによって調製することもできる。続いてHSをバブリングして、溶液を酸性にすることによって所望の生成物を得ることができる。さらなる精製が必要なこともあり、そのために当該技術分野において既知の適切な方法を適用することができる。
【0110】
チオ酸基を含むポリマーは、2つのカルボン酸基を含むポリマーを溶解することによって調製され得る。例えば、ブタンジオールと1.4モル過剰のアジピン酸との重縮合反応によってポリエステルを調製した。このポリマーはピリジン中に溶解され、カルボニルビスイミダゾールのピリジン溶液に添加され得る。30分後、HSが20分間バブリングされ、反応混合物は2時間攪拌される。得られる溶液は1MのHCl水溶液中に注がれ、水層はジエチルエーテルで抽出され得る。有機層は乾燥され、真空で濃縮され得る。さらなる精製のために、ポリマーは適切な非溶媒から沈殿され得る。このようにして、平均して2個のチオ酸を含むブタンジオールおよびアジピン酸に基づくポリマーが得られる。このポリマーはPBADTAと呼ばれる。
【0111】
[実施例6c.PLGDPTA、チオ酸基を含むオリゴマーの合成]
少なくとも2つのチオ酸基を含むオリゴマーまたはポリマーは、少なくとも2つのエチレン性不飽和基を含む成分と、少なくとも2つのチオ酸基を含む過剰の成分とを反応させることによって調製することもできる。この過剰は、少なくとも2つのチオ酸基を含む成分が4、6または8倍過剰であるように、2倍よりも多いモル過剰、好ましくは10、20、50倍またはそれ以上の過剰であると理解されるべきである。また、好ましくは、2つの成分のうちの少なくとも1つはオリゴマーまたはポリマーでなければならないことも理解されるべきである。そのようにして、チオ酸残基を含む特に有用なポリマーを得ることができる。
【0112】
チオ酸基を含むオリゴマーは、PLGDPをTHF中に溶解し、PLGDPに対して10対1のモル比で過剰のDTAAを添加することによって合成され得る。UV光への暴露は、1つのPLGDP分子に対して平均して2つのDTAA分子の付加によって2つのチオエステル結合および2つのチオ酸基を含むオリゴマーを生じ得る。オリゴマーは、溶離液としてTHFを用いる予備SECを用いて精製され得る。得られるオリゴマーはPLGDPTAと呼ばれる。
【0113】
[実施例6d.ベンジル6−クロロ−6−オキソヘキサノアート、チオ酸基を含む化合物を調製するために使用される構成要素の合成]
ベンジル6−クロロ−6−オキソヘキサノアートを以下のように合成した。ディーン−スタークセットアップを備えた2lの丸底フラスコに、トルエン(1000ml)、ベンジルアルコール(160g、1.48mol)、アジピン酸(180g、1.23mol)、およびp−トルエンスルホン酸(2.34g、0.12mol)を入れた。反応混合物を一晩還流した結果、32グラムの水が捕集された。ディーン−スタークにモルシーブ(Molsieve)(4Å)を添加し、還流をさらに1時間継続させた。反応混合物を室温まで冷却し、水(750ml)を添加した。6MのNaOH溶液(約135ml)を添加することによって水相のpHをpH=8に調整した。水相を単離し、CHClで洗浄した(2×250ml)。6MのHCl溶液(約130ml)を添加することによってpHをpH=2に調整し、濁った混合物が得られた。これをCHClで抽出し(2×400ml)、有機相をNaSO上で乾燥させ、ろ過し、濃縮して、真空乾燥させて6−(ベンジルオキシ)−6−オキソへキサン酸を無色のろう様固体として得た(126g、43%収率)。
【0114】
次に、塩化オキサリル(52.2g、0.41mol)をCHCl(1000ml)中に溶解し、0℃まで冷却した。これに、CHCl(250ml)中の6−(ベンジルオキシ)−6−オキソへキサン酸(81.0g、0.34mol)の溶液をゆっくり添加し、攪拌を室温で18時間継続させた。反応混合物を濃縮し、CHClと共に蒸発させ(2×250ml)、真空乾燥させて、無色の液体としてベンジル6−クロロ−6−オキソヘキサノアートを得た(87g、100%)。
【0115】
[実施例6e.6−{2,3−ビス[(6−オキソ−6−スルファニルヘキサノイル)オキシ]プロポキシ}−6−オキソヘキサンチオS酸(GTTA)、チオ酸基を含む化合物の合成]
6−{2,3−ビス[(6−オキソ−6−スルファニルヘキサノイル)オキシ]プロポキシ}−6−オキソヘキサンチオS酸(GTTA、図5)を以下の手順によって合成した。グリセロール(7.65g、0.083mol)をCHCl(400ml)およびピリジン(100ml)中に溶解し、0℃まで冷却した。ベンジル6−クロロ−6−オキソヘキサノアート(69.8g、0.27mol)をCHCl(200ml)中に溶解し、0℃において液滴状で添加し、続いて室温で一晩攪拌した。反応混合物を濃縮し、エーテル(1000ml)を添加した。濁った混合物を1MのHCl溶液(2×400ml)および飽和NaHCO溶液(400ml)で洗浄した。有機相をNaSO上で乾燥させ、ろ過し、濃縮し、真空乾燥して、グリセロールトリ1−ベンジル6−[2−{[6−(ベンジルオキシ)−6−オキソヘキサノイル]オキシ}−1−({[6−(ベンジルオキシ)−6−オキソヘキサノイル]オキシ}メチル)エチル]ヘキサンジオアート(GTBE)を無色の油として得た(65.3g、105%)。
【0116】
次に、1lのパール容器(Parr−vessel)にGTBE(29.5g、0.039mol)、ジオキサン(90ml)、および水(10ml)を入れた。反応混合物中でアルゴンをバブリングして、酸素の痕跡を除去した。10%のチャコール上のパラジウム(palladium on charcoal)(0.76g)を添加し、70psiの水素雰囲気中で50時間、混合物を振とうさせた。圧力を注意深く解放し、アルゴンを反応混合物中でバブリングして、水素の痕跡を除去した。反応混合物をセライトでろ過し、濃縮し、真空乾燥させて、6−{2,3−ビス[(5−カルボキシペンタノイル)オキシ]プロポキシ}−6−オキソへキサン酸GTOAを無色の油として得た(16.5g、89%)。
【0117】
カルボニルジイミダゾール(18.5g、0.114mol)をピリジン(120ml)中に溶解し、ピリジン(80ml)に溶解したグリセロール誘導体GTOA(16.5g、0.035mol)をゆっくり添加した。反応混合物を20℃で30分間攪拌した。反応混合物中で硫化水素を30分間バブリングし、次にさらに1時間攪拌を継続した。反応混合物を、硫酸(100ml)およびクラッシュアイス(500ml)の混合物中に注ぎ、これをエーテルで抽出した(2×300ml)。有機層をNaSO上で乾燥させ、ろ過し、濃縮し、そして真空乾燥させて、生成物を無色の油として得た(16.4g、90%)。生成物を−20℃のアルゴン雰囲気下で貯蔵した。生成物は以下の分析結果により確認した:H−NMR(400MHz,CDCl,22℃,TMS):δ(ppm)=5.25(m,1H,ROCHCHORCHOR)、4.75(ブロード、3H、−SH)、4.21(m,4H,ROCHCHORCHOR)、2.64(t,6H,−CH(C=O)SH)、2.33(t,6H,−CH(C=O)O−)、1.66(m,12H,−CHCHCHCH−)、IR(neat,cm−1):2556.2(−S−H,伸縮)、1732.8(C=Oエステル,伸縮)、1698.0(C=Oチオ酸,伸縮)、757.0(C(=O)−S,伸縮)。
【0118】
[実施例6f.α,ω−ビス[(6−オキソ−6−スルファニルヘキサノイル)オキシ]ポリ(ラクチド−co−グリコリド)1300(PLGDTA)、チオ酸基を含むオリゴマーの合成]
ポリ(ラクチド−co−グリコリド)1100ジオールによって、分解性α,ω−ビス[(6−オキソ−6−スルファニルヘキサノイル)オキシ]ポリ(ラクチド−co−グリコリド)1300(PLGDTA、図6)を合成した。そこに、49.54g(340.34mmol)のdl−ラクチド、39.87g(340.34mmol)のグリコリドおよび10.62g(100mmol)のジエチレングリコールを150℃で溶かした。27.8mgのスズジオクトアートを含有する500μlのヘキサン溶液を添加した。反応を24時間進行させ、反応混合物を室温まで冷却して生成物を得た。淡黄色の油としての収率:98%。ポリ(ラクチド−co−グリコリド)1100ジオールの形成は、、以下の分析結果により確認した:H−NMR(300MHz,CDCl,22℃,TMS):δ(ppm)=5.25−5.18(m,5.6H,CH(lac))、4.83−4.74(m,11.5H,CH(gly))、4.30(m,6.7H,−(C=O)OCHCHO−,−O(C=O)CHOH,−O(C=O)CH(CH)OH)、3.70(m,4H,−(C=O)OCHCHO−)、2.79(ブロード,2H,−OH)、1.58(m,19.9H,CH(lac))、SEC(RI検出器):M=1500、PDI:2.10。
【0119】
次に、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)1100ジオール(48.0g、48.0mmol)をCHCl(250ml)およびピリジン(50ml)中に溶解し、0℃まで冷却した。ベンジル6−クロロ−6−オキソヘキサノアート(69.8g、0.27mol)をCHCl(200ml)中に溶解し、0℃において液滴状で添加し、続いて室温で3時間攪拌した。反応混合物を濃縮し、CHCl(1000ml)を添加した。この混合物を1MのHCl溶液(2×500ml)、および飽和NaHCO溶液(2×500ml)で洗浄した。有機相をNaSO上で乾燥し、ろ過し、濃縮し、真空乾燥させて、PLGDBEと呼ばれるポリマーを淡褐色の油として得た(66.0g、96%)。
【0120】
1lのパール容器に、PLGDBE(66.0g)、ジオキサン(90ml)、および水(10ml)を入れた。反応混合物中でアルゴンをバブリングして、酸素の痕跡を除去した。10%のチャコール上のパラジウム(0.89g)を添加し、70psiの水素雰囲気中で24時間、混合物を振とうさせた。圧力を注意深く解放し、アルゴンを反応混合物中でバブリングして、水素の痕跡を除去した。反応混合物をセライトでろ過し、濃縮し、ピリジン(50ml)と共に蒸発させ、真空乾燥させて、PLGDOAと呼ばれるポリマーを淡褐色の油として得た(61g)。
【0121】
カルボニルジイミダゾール(22.85g、0.141mol)をピリジン(200ml)中に溶解し、ピリジン(300ml)中に溶解したPLGDOA(59.0g、0.047mol)をゆっくり添加した。反応混合物を20℃で1時間攪拌した。反応混合物中で硫化水素を45分間バブリングし、次にさらに1時間攪拌を継続した。反応混合物を、硫酸(250ml)およびクラッシュアイス(1400ml)の混合物中に注ぎ、これをCHClで抽出した(2×800ml)。有機層を1MのHSO(2×700ml)で洗浄し、NaSO上で乾燥させ、ろ過し、濃縮し、そして真空乾燥させて、生成物を茶色の油として得た(50.0g、83%)。生成物は以下の分析結果により確認した:H−NMR(400MHz,CDCl,22℃,TMS)、δ(ppm)=5.31−5.18(m,6.5H,CH(lac))、4.87−4.75(m,14.1H,CH(gly))、4.32(m,4H,−(C=O)OCHCHO−)、3.69(m,4H,−(C=O)OCHCHO−)、2.66(m,4H,−CH(C=O)SH)、2.46(m,4H,−CHCH(C=O)O−)、1.71(m,8H,−CHCHCHCH−)、1.57(m,21.5H,CH(lac))、IR(neat,cm−1):2561.7(−S−H,伸縮)、1744.6(C=Oエステル,伸縮)、約1700(1744.6のバンドの肩部,C=Oチオ酸,伸縮)、735.6(C(=O)−S,伸縮)。
【0122】
[実施例6g.トリス[(6−オキソ−6−スルファニルヘキサノイル)オキシ]ポリ(ラクチド−co−グリコリド)2000(PLGTTA)、チオ酸基を含むオリゴマーの合成]
ポリ(ラクチド−co−グリコリド)1600トリオールによって、分解性オリゴマーのトリス[(6−オキソ−6−スルファニルヘキサノイル)オキシ]ポリ(ラクチド−co−グリコリド)2000(PLGTTA、図7)を合成した。そこに、110.96g(769.9mmol)のdl−ラクチド、89.36g(769.9mmol)のグリコリドおよび19.68g(146.7mmol)のトリメチロールプロパンを150℃で溶かした。62.3mgのスズジオクトアートを含有する100μlのヘキサン溶液を添加した。反応を24時間進行させ、反応混合物を室温まで冷却して生成物を得た。無色の油としての収率:98%。
【0123】
ポリ(ラクチド−co−グリコリド)1600トリオールの形成は、以下の分析結果により確認した:H−NMR(300MHz,CDCl,22℃,TMS):δ(ppm)=5.23−5.20(m,9.9H,CH(lac))、4.82−4.70(m,18.8H,CH(gly))、4.45−4.11(m,10.6H,−O(C=O)CHOH,−O(C=O)CH(CH)OH)およびCHCHC(CHO−))、2.65(ブロード,3H,−OH)、1.57(m,33.6H,CH(lac)およびCHCHC(CHO−))、0.87(t,3H,CHCHC(CHO−))、SEC:M=2300、PDI:1.32。
【0124】
ポリ(ラクチド−co−グリコリド)1600トリオール(44.3g、30.0mmol)をCHCl(250ml)およびピリジン(50ml)中に溶解し、0℃まで冷却した。ベンジル6−クロロ−6−オキソヘキサノアート(24.8g、0.097mol)をCHCl(250ml)中に溶解し、0℃において液滴状で添加し、続いて室温で3時間攪拌した。反応混合物を濃縮し、CHCl(1000ml)を添加した。この混合物を1MのHCl溶液(2×500ml)、および飽和NaHCO溶液(2×500ml)で洗浄した。有機相をNaSO上で乾燥させ、ろ過し、濃縮し、真空乾燥させて、PLGTBEと呼ばれるポリマーを淡褐色の油として得た(66.0g、104%)。
【0125】
1lのパール容器に、PLGTBE(66.0g)、ジオキサン(90ml)、および水(10ml)を入れた。反応混合物中でアルゴンをバブリングして、酸素の痕跡を除去した。10%のチャコール上のパラジウム(0.83g)を添加し、70psiの水素雰囲気中で48時間、混合物を振とうさせた。圧力を注意深く解放し、アルゴンを反応混合物中でバブリングして、水素の痕跡を除去した。反応混合物をセライトでろ過し、濃縮し、ピリジン(50ml)と共に蒸発させ、真空乾燥させて、PLGTOAと呼ばれるポリマーを淡褐色の油として得た(62.5g)。
【0126】
カルボニルジイミダゾール(21.8g、0.135mol)をピリジン(200ml)中に溶解し、ピリジン(300ml)に溶解したPLGTOA(59.0g、0.031mol)をゆっくり添加した。反応混合物を20℃で1時間攪拌した。反応混合物中で硫化水素を45分間バブリングし、次にさらに1時間攪拌を継続した。反応混合物を、硫酸(250ml)およびクラッシュアイス(1250ml)の混合物中に注ぎ、これをCHClで抽出した(2×600ml)。有機層を1MのHSO(2×500ml)で洗浄し、NaSO上で乾燥させ、ろ過し、濃縮し、そして真空乾燥させて、生成物を茶色の油として得た(52.5g、87%)。生成物は以下の分析結果により確認した:H−NMR(400MHz,CDCl,22℃,TMS):δ(ppm)=5.29−5.21(m,9.7H,CH(lac))、4.81−4.69(m,20.8H,CH(gly))、4.09(m,6H,CHCHC(CHO−))、2.64(m,6H,−CH(C=O)SH)、2.43(m,6H,−CHCH(C=O)O−)、1.69(m,12H,−CHCHCHCH−)、1.57(m,33.3H,CH(lac))、IR(neat,cm−1):2566.4(−S−H、伸縮)、1746.8(C=Oエステル、伸縮)、1704.3(C=Oチオ酸、伸縮)、734.9(C(=O)−S、伸縮)。
【0127】
[実施例7.少なくとも2つのチオエステル結合を含む線状ポリマーの調製のために使用される組成物]
2重量%のIrgacure184を含有する等モル比のトリエチレングリコールジビニルエーテル(TEGDVE)およびジチオアジピン酸(DTAA)を用いて組成物AおよびBを調製した。組成物Aは、さらに、ラジカル安定剤として0.2重量%の没食子酸プロピルを含有した。組成物CおよびDは、わずかにモル過剰のDTAAを含有した(表1)。組成物Dは光開始剤を含まなかった(表1)。
【0128】
【表1】

【0129】
本明細書において言及されるチオ酸基に対するエチレン性不飽和基のモル比は、表2に示される分子量および官能性を用いて計算した。PLGDTA、PLGTTA、PEG4P、PLGDP、PCLDPおよびPLGTPの分子量は、H−NMRに基づいて計算した。
【0130】
【表2】

【0131】
エチレン性不飽和基を含む成分としてTEGDVEの代わりにポリ(ラクチド−co−グリコリド)1200ジ(4−ペンテノアート)(PLGDP)を用いて、さらにもう1組の組成物(EおよびF)を調製した。組成物Eは光開始剤と共に調製し、組成物Fは光開始剤を用いずに調製した(表3)。
【0132】
【表3】

【0133】
PLGDP、PCLDPおよびDTAAを1:0.97:2.5のモル比で含むさらにもう1つの組成物(組成物G)を調製した(表4)。さらに、オリゴマー成分PLGDPおよびPLGDTAを含む組成物Jを調製した。
【0134】
【表4】

【0135】
[実施例8.チオエステル結合を含む架橋ポリマーの調製のために使用される組成物]
1.7重量%の光開始剤を含有するPLGTPおよびDTAAを用いて組成物HおよびIを調製した。組成物Hは光開始剤として疎水性Irgacure184を含み、組成物Iは光開始剤として水溶性Irgacure2959を含んだ。PLGDPを用い、GTTAおよびPLGTTAをそれぞれ用いて組成物KおよびLを調製した。組成物はいずれも光開始剤としてDarocure1173を用いて調製した。さらに、組成物Mを調製した。エチレン性不飽和基に対するチオ酸基のモル比は配合物間で異なった。組成物Hは、PLGTPおよびDTAAを1:1.94のモル比で含み、組成物IはPLGTPおよびDTAAを1:1のモル比で含んだ(表5)。さらに、様々な成分XおよびYを含む組成物K〜Mを調製した。
【0136】
【表5】

【0137】
[実施例9.少なくとも2つのチオエステル結合を含む線状ポリマーの合成]
[実施例9a.DTAAおよびTEGDVEに基づく線状ポリマーはUV重合によって得ることができる]
実施例2に記載されるように組成物AおよびBをUV光に暴露した。DTAAとTEGDVEの間の反応(図1)をFT−IRによって監視した。90%よりも多いエチレン性不飽和基が消費され、チオ酸のS−H結合がほぼ等モルで消費されることが観察された。得られたデータに基づいて、エチレン性不飽和基は、ラジカル安定剤が不在である場合(組成物B)には約40%/s、そしてラジカル安定剤の存在下(組成物A)では約25%/sの速度で転化されると結論付けることができる。これは、ラジカル安定剤の添加によって反応速度を制御できることを示す。
【0138】
照射の前後のスペクトルを比較すると、エチレン性不飽和基が消失したことは明らかであった。明らかに、2558cm−1における−S−Hも、1165cm−1における−(C=S)に関連するバンドと同様に消失した。さらに、−(C=O)−バンドおよび−C−S−伸縮バンドの722cm−1から680cm−1へのシフトはチオエステル結合の形成を示す。さらに、重合を示す粘度の増大が観察された。
【0139】
DTAAのFT−IR分析は、チオ酸官能性が−(C=O)SH異性体ならびに−(C=S)OH異性体として生じることを実証した。DTAAおよびTEGDVEの反応において形成されたポリマーのFT−IR分析は、−(C=S)−関連のバンドがもはや観察されないので、チオ酸が−(C=O)SH形態によって反応したことを示した。
【0140】
[実施例9b マルコフニコフ付加およびアンチマルコフニコフ付加によって得られるチオエステル結合を含有するDTAAおよびTEGDVEに基づく線状ポリマー]
組成物Cをガラスプレート上に塗布し、実施例2に記載されるようにUVランプの下を通過させた。高粘度の液体が得られた。H−NMRは、全てのエチレン性不飽和基の消費を示した。以下の分析結果を得た:H−NMR(300MHz,CDCl,22℃,TMS):δ(ppm)=5.47(q,0.5H,−SCH(CH)−)、3.66−3.57(m,13.7H,−OCHCHO−および−SCHCHO−)、3.09(t,2.5H,−SCHCHO−)、2.57(m,4H,−(C=O)CHCHCHCH(C=O)−)、1.69−1.60(m,6.5H,−(C=O)CHCHCHCH(C=O)−および−SCH(CH)−)、13C−NMR(75MHz,CDCl,22℃):δ(ppm)=199.0、198.5、81.3、71.3−69.8、68.4、43.5、43.4、28.5、24.5、23.0、IR(neat,cm−1):1681.4(C=O、伸縮)。
【0141】
マルコフニコフおよび/またはアンチマルコフニコフタイプの反応生成物による2つのタイプの付加生成物が得られた(図2)。δ=5.47ppmおよびδ=3.09ppmにおける共鳴の積分を比較することによって、マルコフニコフ付加は、アンチマルコフニコフ付加に対して2:5の比率で起こることが立証された。
【0142】
SEC分析は、ポリスチレン標準に関して8900の重量平均分子量(M)を有するポリマーの形成を示した。組成物Cが2J/cmだけしか受けないときにも同様の結果が得られた(2:5比、8700のM)。
【0143】
[実施例9c DTAAおよびTEGDVEに基づく線状ポリマーは暗所における重合によって得ることができる]
組成物AおよびBを室温で6日間暗所に保持した。出発組成物の粘度は増大し、高粘度の液体が得られた。H−NMRは、エチレン性不飽和基のほとんど完全な消費およびチオエステル結合の形成を示した。光誘起重合の場合のように2つのタイプの付加生成物が形成されたが、この場合には、マルコフニコフ付加は、アンチマルコフニコフ生成物に対して3対1の比率で起こった。
【0144】
ラジカルメカニズムによるUV光の影響下でのアンチマルコフニコフ付加の優先性および求電子付加メカニズムによる暗所でのマルコフニコフ付加の優先性は理論と一致する。それにより、これは、チオエステル結合を含むポリマーの特性をさらに調整するためのメカニズムを提供する。
【0145】
得られた高粘度の液体のSEC分析は、高分子材料の形成を示した。没食子酸プロピルを有さないサンプル(組成物B)はポリスチレン標準と比較して37000のMを有したが、没食子酸プロピルを有するサンプル(組成物A)は49000のMを有した。ラジカル安定剤の添加は、暗所における重合に著しい影響を与えない。この反応は求電子付加メカニズムによって生じているので、このことは理論と一致する。
【0146】
この実施例は、本発明による方法が暗所で、すなわちUV光などの光が存在しなくても実施され得ることを示す。これは、光、特にUV光の使用が特定の用途のために好ましくない場合に特に有利であり得る。
【0147】
[実施例9d 少なくとも2つのチオエステル結合を含むポリマーの分子量は、チオ酸基とエチレン性不飽和基のモル比によって影響され得る]
組成物Dを窒素雰囲気下、35℃で6日間暗所に保持した。得られたポリマーは、8800のMを有する10:9の比率のマルコフニコフ対アンチマルコフニコフの付加生成物を示した。
【0148】
組成物AおよびBと比較して、組成物CおよびDは、エチレン性不飽和基に対してわずかに過剰のチオ酸基を含有した。このDTAAとTEGDVEのモル比の違いは、重合反応において得られる分子量に対して大きな影響を与えると思われた(表6)。
【0149】
【表6】

【0150】
[実施例9e.DTAAおよびPLGDPに基づく線状ポリマー]
組成物Eをガラスプレートに塗布し、実施例2に記載されるようにUVランプの下を通過させた。TEGDVEの電子が豊富なエチレン性不飽和基とは反対に、組成物Eは電子不足のエチレン性不飽和基を有するポリマー(図3)を含むという点で、組成物Eは上記の組成物A〜Dとは異なる。
【0151】
重合後の組成物Eについて以下の分析結果を得た。H−NMR(300MHz,CDCl,22℃,TMS):δ(ppm)=5.23−5.00(m,6.6H,CH(lac))、4.86−4.73(m,14.1H,CH(gly))、4.31(m,4H,−(C=O)OCHCHO−)、3.69(m,4H,−(C=O)OCHCHO−)、2.88(t,4H,−(C=O)SCHCHCHCH−)、2.56(m,4H,−(C=O)CHCHCHCH(C=O)−)、2.43(m,4H,−(C=O)SCHCHCHCH−)、1.69−1.52(m,42.1H、CH(lac),−(C=O)CHCHCHCH(C=O)−および−(C=O)SCHCHCHCH−)、13C−NMR(75MHz,CDCl,22℃):δ(ppm)=192.3、172.6−166.4、136.5、115.6、69.4−68.2、61.0−60.2、43.5、33.4、33.1、28.9、28.3、24.8、23.8、16.7、IR(neat,cm−1):1747.1((C=O)O,伸縮)、1684.9((C=O)S,伸縮)、SEC:M=18000、PDI:3.85。
【0152】
上記のNMR分析は、全てのエチレン性不飽和基の消費およびチオエステル結合の形成を示した。また、エチレン性不飽和基へのチオ酸の付加がアンチマルコフニコフ式に起こることも示した。この観察は、アンチマルコフニコフ付加によって得られるチオエステル結合を含むポリマーが、本発明の方法では電子不足のエチレン性不飽和基の使用によって生成され得ることを示す。アンチマルコフニコフ付加に対するマルコフニコフ付加の比率は、ポリマー特性、例えばその(生)分解に影響を与え得る。
【0153】
ポリマーの形成は、SECによって確認した(表7)。
【0154】
組成物Fを窒素雰囲気下35℃で暗所に保持した。37日後に反応は観察されなかった。これは、本発明の方法において電子不足のエチレン性不飽和基が使用される場合には、光化学重合、特にUVまたは可視光重合が好ましいことを示す。これは、それぞれの成分を混合した後に貯蔵可能であり、著しいチオエステル結合の形成を生じることなく適用部位に塗布することができる組成物を調製可能であることを示す。次に、任意の時点で組成物を光に暴露することによって、チオエステル結合を含むポリマーの形成を誘発することができる。
【0155】
【表7】

【0156】
[実施例9f.DTAA、PLGDPおよびPCLDPに基づく線状ポリマー]
チオエステル結合を含むさらにもう1つのポリマーを調製するために、組成物Gをガラスプレート上に塗布し、実施例2に記載されるようにUVランプの下を通過させた。室温で一晩真空乾燥させたサンプルを得た。SECによる分析のためにサンプルをTHF中に溶解し、そしてH−NMRのために重水素化クロロホルム中に溶解した。以下の分析結果が得られ、チオエステル結合を含むポリマーの形成が示された。
【0157】
H−NMR(300MHz,CDCl,22℃,TMS):δ(ppm)=5.28−5.04(m,6.4H,CH(lac))、4.86−4.73(m,13.5H,CH(gly))、4.31(m,4H、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)部分の−(C=O)OCHCHO−)、4.23(m,4H,PCL部分の−(C=O)OCHCHO−)、4.05(m,31.5H,−OCHCHCHCHCH(C=O)−)、3.70(m,8H,ポリ(ラクチド−co−グリコリド)部分およびPCL部分の−(C=O)OCHCHO−)、2.88(t,8H,−(C=O)SCHCHCHCH−)、2.56(m,8H,−(C=O)CHCHCHCH(C=O)−)、2.49−2.27(m,39.7H,−(C=O)SCHCHCHCH−)および−OCHCHCHCHCH(C=O)−))、1.76−1.48(m,109.9H,−OCHCHCHCHCH(C=O)−,CH(lac)、−(C=O)CHCHCHCH(C=O)−および−(C=O)SCHCHCHCH−)、1.40(m,31.2H,−OCHCHCHCHCH(C=O)−)。
【0158】
SECは、ポリマーの形成を実証した(表8)。NMRは、アンチマルコフニコフ式の付加による全てのエチレン性不飽和基の完全な消費およびチオエステル結合の形成を示した。両方の技術とも、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)セグメントおよびポリ(ε−カプロラクトン)セグメントを含有するポリマーの形成を実証する。
【0159】
【表8】

【0160】
[実施例9g.PLGDTAおよびPLGDPに基づいた線状ポリマー]
少なくとも2つのチオエステル結合を含むさらにもう1つのポリマーを調製するために、組成物Jをガラスプレート上に塗布し、実施例2に記載されるようにUVランプの下を通過させた。重合後の組成物Jについて以下の分析結果を得た。H−NMR(300MHz,CDCl3,22℃,TMS):δ(ppm)=5.23−5.00(m,12.6H,CH(lac))、4.86−4.73(m,27.1H,CH(gly))、4.24(m,8H,−(C=O)OCHCHO−)、3.62(m,8H,−(C=O)OCHCHO−)、2.88(t,4H,−(C=O)SCHCHCHCH−)、2.50(m,4H,−(C=O)SCHCHCHCH−)、2.36(m,8H,−(C=O)CHCHCHCH(C=O)−、1.64−1.45(m,57.8H,CH(lac)、−(C=O)CHCHCHCH(C=O)−および−(C=O)SCHCHCHCH−)、IR(neat,cm−1):1744.2((C=O)O,伸縮)、1686.6((C=O)S、伸縮)、SEC:M=34000、PDI:4.24。
【0161】
上記のNMR分析は、全てのエチレン性不飽和基の消費およびチオエステル結合の形成を示した。
【0162】
ポリマーの形成は、SECによって確認した(表9)。
【0163】
【表9】

【0164】
[実施例10a.チオエステル結合を含む架橋ポリマーの合成]
組成物HおよびIをガラスプレートに塗布し、実施例2に記載されるようにUVランプの下を通過させた。
【0165】
THFまたはクロロホルム中に溶解することができないゴム様材料が得られ、本発明による方法を用いて架橋ネットワークを調製できることが示された。さらにこれは、いくつかの光開始剤を使用して架橋ネットワークが得られることを示す。また、架橋ポリマーを生成するためにチオ酸基に対するエチレン性不飽和基の広範囲のモル比が使用され得ることも示される。
【0166】
組成物Hから得られる架橋ポリマーは、組成物Iから得られるポリマーとは機械特性が異なる。これらの違いには、破断時の伸び、降伏点およびモジュラスなどの機械特性が含まれ得る。さらに、組成物Hから得られるポリマーは、ネットワーク密度、膨潤挙動ならびに分解挙動および薬物放出プロファイルに関してさらに異なり得る。
【0167】
[実施例10b 2つよりも多いチオ酸基を含む化合物(GTTA)およびエチレン性不飽和基を含むオリゴマー(PLGDP)からの、チオエステル結合を含む架橋ポリマーの合成]
組成物Kをガラスプレートに塗布し、実施例2に記載されるようにUVランプの下を通過させた。THFまたはクロロホルム中に溶解することができないゴム様材料が得られ、本発明による方法を用いて架橋ネットワークを調製できることが示された。
【0168】
FTIRは、UVにさらすと−S−H結合およびエチレン性不飽和結合が消失することを示した。さらに、1698cm−1から1685cm−1へのC=Oのシフトは、チオエステル結合の形成を示した。これは、架橋ネットワークが2つよりも多いチオ酸基を含む化合物およびエチレン性不飽和基を含む化合物からも調製可能であることを示す。
【0169】
以下の分析結果は、重合後の組成物Kについて得られた。IR(neat,cm−1):1740.2((C=O)O,伸縮)、1685.1((C=O)S,伸縮)。
【0170】
[実施例10c 少なくとも2つのチオ酸基を含むオリゴマー(PLGTTA)およびエチレン性不飽和基を含むオリゴマー(PLGDP)からの、チオエステル結合を含む架橋ポリマーの合成]
組成物Lをガラスプレートに塗布し、実施例2に記載されるようにUVランプの下を通過させた。THFまたはクロロホルム中に溶解することができないゴム様材料が得られ、本発明による方法を用いて架橋ネットワークを調製できることが示された。
【0171】
FTIRは、UVにさらされると−S−H結合およびエチレン性不飽和結合が消失されることを示した。さらに、1700cm−1から1687cm−1へのC=Oのシフトは、チオエステル結合の形成を示した。この実施例は、2つよりも多いチオ酸基を含むオリゴマーと、エチレン性不飽和基を含むオリゴマーとから架橋ネットワークが調製可能であることを示す。さらに、これは、架橋ネットワークを得るためにいくつかの光開始剤が使用され得ることを示す。さらに、実施例10a〜cは、エチレン性不飽和基を含有する化合物と、チオ酸基を含有する広範な化合物とから架橋ネットワークが調製可能であることを示す。得られた架橋ネットワークは、機械特性、ネットワーク密度、膨潤挙動、ならびに薬物放出プロファイルおよび分解挙動に関して異なり得る。重合後の組成物Lに対して以下の分析結果が得られた。IR(neat,cm−1):1744.2((C=O)O,伸縮)、1686.6((C=O)S,伸縮)。
【0172】
[実施例10d.DTAAおよびエチレン性不飽和基を含むオリゴマー(PEG4P)からの、ヒドロゲルを形成するチオエステル結合を含む架橋ポリマーの合成]
組成物Mは、室温におけるゲル化を自然発生的に示さなかった。溶媒のほぼ半分を蒸発させた後、溶液を小さい円形のテフロン(登録商標)型に移した。得られた溶液をUV光に暴露した(1J/cm)結果、堅いゲルが形成され、これは型から容易に取り出すことができた。
【0173】
チオエステル−架橋PEGはPBS緩衝液に入れると膨潤を示し、溶解せず、架橋ネットワークが形成されたことが示される。この実施例は、本発明による方法によって架橋ヒドロゲルネットワークが得られたことを示す。
【0174】
[実施例11.DTAAおよびTEGDVEに基づく少なくとも2つのチオエステル結合を含む線状ポリマーの加水分解]
チオエステル結合加水分解安定性を研究するために、室温で6日間、組成物Aを暗所で重合させた。得られた水に不溶性のポリマーをガラスカバースリップに塗布し、37℃で7.4のpHのリン酸緩衝食塩水溶液(PBS)中に浸漬した。7日ごとに緩衝液を新しくした。
【0175】
チオエステル結合を除いて、このポリマーは非加水分解性の結合しか含有せず、そのため、(加水分解的な)分解条件下で観察される重量平均分子量の低下は、必ず、チオエステル結合の加水分解の結果である(図8)。
【0176】
43日後に、PBS溶液のサンプルをLC−MSによって分析した。理論的な分解生成物アジピン酸(図8)が実際に観察された。
【0177】
77日後に、サンプルをPBS溶液から取り出し、水で洗浄して乾燥した。明らかに、H−NMRは予想通り初期ポリチオエステルの化学組成に変化は生じていないことを示した。実際には、加水分解中、ポリマー組成物は同じままであるが、平均分子量が減少することが予想される。SECは、明らかに、ポリマーの平均分子量が時間内に減少することを示しており(表10)、37℃で生理学的な塩濃度を有する緩衝液中でチオエステル結合が加水分解されたことが示される。
【0178】
【表10】

【0179】
[実施例12.DTAAおよびPLGDPに基づく少なくとも2つのチオエステル結合を含む線状ポリマーの分解]
[実施例12a:加水分解]
組成物Eをガラスプレートに塗布し、実施例2に記載されるようにUVランプの下を通過させた。得られたポリマーをTHF中に溶解し、ガラスカバースリップ上にキャスティングした。溶媒を蒸発させ、次にサンプルを真空中室温で一晩乾燥させた。サンプルを10mlのPBS中に入れた。2〜3日ごとに溶液を新しくし、交換した緩衝溶液のpHを測定した(図9)。サンプルの重量損失およびポリマーの平均分子量を分解の尺度として監視した(図10および表11)。
【0180】
【表11】

【0181】
2〜3日ごとに緩衝溶液を新しくする際、交換した緩衝溶液のpHを測定し、開始時のpH(7.4)と2〜3日後のpHとの間に、pHの著しい低下(ΔpH)が観察できた。実験の過程で、ΔpHはさらに増大した(図9)。これらのデータから、加水分解は増加する速度で生じるという結論を引き出すことができる。このΔpHの増大は、この特定
の実験の少なくとも15日目まで生じた。
【0182】
サンプルは重量を損失することが観察された(図10)。重量の最初の10%は4日後(最初のデータポイント)に既に損失されており、おそらくポリマーの分解に関係するのではなく、低分子量の水溶性材料からなる可能性が最も高い。20日後、ポリマーサンプルはその重量の70%を損失した。
【0183】
基材上のポリマーの平均分子量を監視するために、10個のサンプルを緩衝溶液中に浸漬し、それぞれのデータポイントで、2つのサンプルを取り出し、蒸留水で3時間、3回洗浄し、乾燥して、SEC分析のためにTHF中に、あるいはNMR分析のために重水素化クロロホルム中に溶解した。分析のためにもはや十分な材料がカバースリップから回収されない程度にサンプルが分解するまで、基材上に残存するポリマーの平均分子量をSECによって監視した。SECデータは、平均分子量が6日後に低下したことを示した。11日後、平均分子量はさらに低下した。総合すると、これらのデータはポリマーが加水分解条件下で分解したことを証明する。
【0184】
H−NMRは、11日後にポリマーの組成物が著しく変化していないことを実証し、他の共鳴と比較して、乳酸エステルおよびグリコール酸エステルの構成要素に関するプロトン共鳴のわずかな減少だけが観察された。11日後、5.5ppm、3.9ppmおよび1.4ppmにおいてさらなる共鳴を観察した。これはおそらく分解生成物に起因する。
【0185】
[実施例12b:酵素分解]
酵素分解研究のために、組成物Eをガラスプレートに塗布し、実施例2に記載されるようにUVランプの下を通過させた。得られたポリマーをTHF中に溶解し、ガラスカバースリップ上にキャスティングした。溶媒を蒸発させ、次にサンプルを真空中室温で一晩乾燥させた。エステル結合を分解することが分かっている酵素のプロテイナーゼKを含有する10mlのPBS中にサンプルを入れた(M.S.リーブ(Reeve),S.P.マッカーシ(McCarthy),M.J.ダウニー(Downey),R.A.グロス(Gross),Macromolecules 1994年,27,825−831頁)。
【0186】
2〜3日ごとに溶液を新しくし、交換した緩衝溶液のpHを測定した(図8)。分解のための尺度としてサンプルの重量損失およびポリマーの平均分子量を監視した(図12および表12)。
【0187】
サンプルは、4日後(第1のデータポイント)に重量損失を示した。これもやはり、おそらく低分子量水溶性材料の溶解のためである(図12および表12)。11日後に、加水分解的に分解したポリマーの15%と比較して重量の30%が損失したので、酵素分解は、初めは加水分解よりも速く進行した。最も高いΔpHは20日後に観察された(図11)。
【0188】
SECは、6日後に平均分子量が減少したことを明らかに示した。11日および18日における次の2つのデータポイントは、明らかに、分解時間とともに平均分子量のさらなる減少を示した。さらに、ポリマーの多分散指数(PDI)は、(4から)約2まで低下した。
【0189】
H−NMRは、明らかに、他の共鳴と比較して時間とともに乳酸エステルおよびグリコール酸エステル共鳴の漸進的な低下を示し、分解が主として乳酸エステルおよびグリコール酸エステルにおいて生じることが示された。加水分解に対して観察された5.5ppm、3.9ppmにおける更なる共鳴は酵素分解に対しては観察されなかったが、1.4ppmにおけるさらなる共鳴が観察され、分解時間とともに増大することが分かった。さらに、4.2における共鳴は、分解時間とともに増大することが観察され、これは、グリコール酸および乳酸エステルの加水分解によって得られる−(C=O)CHOHおよび−(C=O)CH(CH)OHのプロトンからのものである可能性が最も高く、加水分解が主としてグリコール酸および乳酸エステル結合において生じることが確認される。30日後、サンプルはその重量の90%を損失した。この実験は、重合された組成物Eが、プロテイナーゼKの存在下37℃で、生理学的な食塩濃度を有する緩衝液中で分解することを示す。
【0190】
【表12】

【0191】
[実施例13.チオエステル結合を含む架橋ネットワークの(生)分解]
チオエステル結合を含む架橋ネットワークの(生)分解特性を調査するために、組成物Iに基づくUV−架橋サンプルは、酵素的および加水分解的の両方で分解され得る。そのために、組成物Iは、予め秤量された顕微鏡スライド上に塗布され、UVランプの下を8回通過させて、架橋サンプルが得られる。溶媒を蒸発させ、次にサンプルを真空で乾燥させる。サンプルを10mlのPBSまたはプロテイナーゼKを含有する10mlのPBSのいずれかに入れる。2〜3日ごとに溶液を新しくして、交換された緩衝液のpHおよびサンプルの重量損失を分解の尺度として監視する。
【0192】
[実施例14.チオエステル結合を含む架橋ネットワークの細胞毒性の試験]
50μmのドクターブレードを用いて組成物Iをガラス顕微鏡スライド上に塗布し、UVランプの下を8回通過させた。サンプルを含有するガラス顕微鏡スライドのいくつかをクロロホルム中に浸漬し、低分子量の有機化合物を抽出し、細胞毒性試験に提出した。サンプルを含有するガラススライドの残りも細胞毒性試験に提出した。全てのサンプルは、非細胞毒性(グレード0)であることを証明した。これらの結果は、水溶性細胞毒性の成分が完全にないことを確認した。またこれは、適用のために(ヒトの)体内において原位置で安全に適用するためにサンプルが優れた候補であることも示す。また、適用の前にサンプルを溶媒で洗浄する必要性は、本発明によって回避可能であることも示される。
【図面の簡単な説明】
【0193】
【図1】UV光で誘起されるチオ酸−エン重合の一例であり、XまたはYのいずれかはポリマーである。表示されるポリマーは、アンチマルコフニコフ付加反応において生じる付加の結果のみを示す。
【図2】TEGDVEとジチオアジピン酸との間の反応によって得られるアンチマルコフニコフ付加生成物(左)およびマルコフニコフ付加生成物(右)である。
【図3】PLGDP:ポリ(ラクチド−co−グリコリド)1200ジ(4−ペンテノアート)である。R=ラクチド−co−グリコリドオリゴマーである。
【図4】PLGTP:ポリ(ラクチド−co−グリコリド)2600トリ(4−ペンテノアート)である。R1はラクチド−co−グリコリドオリゴマーである。
【図5】GTTA:6−{2,3−ビス[(6−オキソ−6−スルファニルヘキサノイル)オキシ]プロポキシ}−6−オキソヘキサンチオS酸である。
【図6】PLGDTA:α,ω−ビス[(6−オキソ−6−スルファニルヘキサノイル)オキシ]ポリ(ラクチド−co−グリコリド)1300である。R2はラクチド−co−グリコリドオリゴマーである。
【図7】PLGTTA:トリス[(6−オキソ−6−スルファニルヘキサノイル)オキシ]ポリ(ラクチド−co−グリコリド)2000である。R3はラクチド−co−グリコリドオリゴマーである。
【図8】アンチマルコフニコフ付加反応によるDTAAとTEGDVEとの重合において得られるポリマーの加水分解生成物である。チオエステル結合の加水分解は、酸素エステルの加水分解よりも熱力学的に都合が良い。何故なら、C−O結合の二重結合特性はC−S結合の二重結合特性にかなり及ばないからである。
【図9】組成物EのUV重合の後に得られるポリマーのサンプルの加水分解中に交換された緩衝溶液のpHである。
【図10】組成物EのUV重合の後に得られるポリマーのサンプルの加水分解中の重量損失である。
【図11】組成物EのUV重合の後に得られるポリマーのサンプルの酵素分解中に交換された緩衝溶液のpHである。
【図12】組成物EのUV重合の後に得られるポリマーのサンプルの酵素分解中の重量損失である。
【図13】チオエステル結合を含むポリマーを得るための、成分DTAAおよびTEGDVE間の反応である。表示されるポリマーは、アンチマルコフニコフ付加反応において生じる付加の結果のみを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの分解性ブロックを含むブロックコポリマーであって、式2または式3
【化1】


式2
【化2】


式3
(式中、W、WおよびWは、C、H、O、N、S、P、アルキル、アリール、エステルおよびエーテルからなる群から選択される)
によるチオエステル結合によって、前記個々のブロックが互いに結合されたブロックコポリマー。
【請求項2】
式4
【化3】


式4
(式中、W、WおよびWは、C、H、O、N、S、P、アルキル、アリール、エステルおよびエーテルからなる群から選択され、Rはモノマー、オリゴマーまたはポリマーでよく、mおよびnは整数であり、その合計はRに結合したチオエステルリンカーの数を示し、mおよびnの合計は少なくとも2である)
による断片を含むポリマー。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリマーを含む医療デバイス。
【請求項4】
前記医療デバイスが、医療品、組織工学用のスカフォールドまたは細胞送達媒体である、請求項3に記載の医療デバイス。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−149261(P2012−149261A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−45620(P2012−45620)
【出願日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【分割の表示】特願2008−529543(P2008−529543)の分割
【原出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】