説明

チオスルフェート化合物の製造方法

【課題】ジハロゲン化合物とチオ硫酸アルカリ金属塩とを、水性媒体中で反応させてチオスルフェート化合物を製造するにあたり、目的物であるチオスルフェート化合物を、容易に、高収率で分離取得することができる、チオスルフェート化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】
ジハロゲン化合物とチオ硫酸アルカリ金属塩とを反応させて得られる、チオスルフェート化合物(ビス(チオスルホン酸)アルカリ金属塩)とハロゲン化アルカリ金属塩を含む水性媒体相に、アミンと鉱酸を添加して、ビス(チオスルホン酸)アミン塩を生成し、相分離した水性媒体相を除去して得られるアミン塩を含有する有機相に、水及びアルカリ金属塩を添加し、アミンを含有する有機相を除去して得られたチオスルフェート化合物を含む水相から、水を含む揮発成分を除去し、目的物である粉末状のチオスルフェート化合物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下記式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物の製造方法に関するものである。より詳細には、本発明は、水あるいは水と水溶性有機溶剤の混合媒体(以下、水性媒体と称す)中で所定のハロゲン化合物とチオ硫酸アルカリ金属塩との反応を行って、チオスルフェート化合物を製造する際に不可避的に発生する水溶性無機塩不純物の含有量が極めて少ない式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物を製造する方法に関する。
【化1】

[式〔I〕中、MはNaまたはKを示し、nは2〜12の整数を示す。]
【背景技術】
【0002】
上記式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物は、ジエン系ゴムの耐熱架橋剤として用いられている(特許文献1)。
【0003】
従来、そのようなチオスルフェート化合物の製造法としては、
【化2】

[式〔II〕中、Xはハロゲン原子を示し、nは2〜12の整数を示す。]
で表わされるハロゲン化合物とチオ硫酸アルカリ金属塩とを、メタノール等の水溶性有機媒体と水との混合物を反応媒体として反応させる方法(特許文献1、特許文献2)や、N,N−ジメチルホルムアミドなどの極性有機媒体を反応媒体に用いて反応させる方法(特許文献3)が知られている。
【0004】
また、前記のハロゲン化合物と、チオ硫酸アルカリ金属塩とを水中で反応させる方法も知られているが(特許文献4)、収率は高いとは言えなかった。
【0005】
式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物を製造する際に、式〔II〕で表わされるハロゲン化合物とチオ硫酸アルカリ金属塩とを反応させると、式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物とハロゲン化アルカリ金属塩が生成する。目的物であるチオスルフェート化合物と副生物であるハロゲン化アルカリ金属塩とは共に媒体に対する溶解性が似ていることから、目的物の分離には多大なエネルギーが必要となり、かつ収率低下も避けられなかった。
【0006】
特許文献2には、式〔II〕で表わされるハロゲン化合物とチオ硫酸アルカリ金属塩を水性アルコール媒体中で反応させる上記式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物の製造方法が記載されており、そしてそのチオスルフェート化合物を分離する方法も示されている。すなわち、特許文献2では、ハロゲン化合物とチオ硫酸アルカリ金属塩とを水性アルコール媒体中で反応する際に副生したハロゲン化アルカリ金属塩が反応混合物中で析出することを利用して、これを熱時ろ過によって除き、次いでろ液を冷却することで目的物であるチオスルフェート化合物を析出させ、ろ取によりこれを得ている。この方法は、チオスルフェート化合物を80%程度の収率で得ることができるので、従来法に比べれば有利であるものの、更なる生産性の向上が求められている。
【特許文献1】特開昭58−17132号公報
【特許文献2】特開2005−272330号公報
【特許文献3】特開2006−219390号公報
【特許文献4】特開平6−234734号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、目的物である式〔I〕で表されるチオスルフェート化合物を、容易にかつ高収率、高純度で分離取得することができる、上記チオスルフェート化合物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による、式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物の製造方法は、下記の工程(a)〜工程(e)からなること、を特徴とするものである。
工程(a):水性媒体中で式〔II〕で表わされるハロゲン化合物とチオ硫酸アルカリ金属塩とを反応させて生成した式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物と水溶性無機塩とを含む水性媒体に、式〔III〕で表わされるアミン化合物と鉱酸を添加して、あるいはあらかじめこのアミン化合物と鉱酸とから調製したアミン鉱酸塩を添加して、式〔IV〕で表わされるチオスルフェート化合物を生成させる工程。
工程(b):工程(a)の後、前記の水溶性無機塩を含む水性媒体相(液層イ)を除去して、式〔IV〕で表わされるチオスルフェート化合物を得る工程。
工程(c):工程(b)から得られた式〔IV〕で表わされるチオスルフェート化合物に水およびアルカリ金属塩を添加して、式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物および式〔III〕で表わされるアミン化合物を生成させる工程。
工程(d):工程(c)の後、相分離により生じた、式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物を含む水相(液層ロ)と式〔III〕で表わされるアミン化合物を含む有機相(液層ハ)のうち、この有機相(液層ハ)を除去する工程。
工程(e):上記の水相(液層ロ)を乾燥処理に付し、固体状の式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物を取得する工程。
〔上記において、水性媒体は、水あるいは水と水溶性有機溶剤との混合液を意味する。〕
【化3】

[式〔I〕中、MはNaまたはKを示し、nは2〜12の整数を示す。]
【化4】

[式〔II〕中、Xはハロゲン原子を示し、nは2〜12の整数を示す。]
【化5】

[式〔III〕中、Rは、それぞれ独立して、分岐してもよい炭素数4〜12のアルキル基、シクロアルキル基またはアラルキル基を示し、Rは、水素、分岐してもよい炭素数1〜12のアルキル基、シクロアルキル基またはアラルキル基を示す。]
【化6】

[式〔IV〕中、Rは、それぞれ独立して、分岐してもよい炭素数4〜12のアルキル基、シクロアルキル基またはアラルキル基を示し、Rは、水素、分岐してもよい炭素数1〜12のアルキル基、シクロアルキル基またはアラルキル基を示し、nは2〜12の整数を示す。]
【0009】
このような本発明によるチオスルフェート化合物の製造方法は、好ましい態様として、前記の水性媒体が、水とメタノールとの混合溶液であるもの、を包含する。
【0010】
このような本発明によるチオスルフェート化合物の製造方法は、好ましい態様として、式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物が、MがNaでありかつnが6のものであるもの、を包含する。
【0011】
このような本発明によるチオスルフェート化合物の製造方法は、好ましい態様として、式〔III〕で表わされるアミン化合物が、そのRが分岐していてもよい炭素数8〜12のアルキル基、シクロヘキシル基またはベンジル基のもの、を包含する。
【0012】
なお、本発明によれば、所定のチオスルフェート化合物と水溶性無機塩との混合物から高純度の式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物を得ることができるので、本発明はチオスルフェート化合物の精製方法として捉えることも可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、前記課題を解決し、目的の式〔I〕で表されるチオスルフェート化合物を高収率でかつ高純度で得ることが出来る。
【0014】
本発明と同程度の純度で目的とする式〔I〕で表されるチオスルフェート化合物を得る場合には、主として水溶性無機塩からなる不純物を除去するために従来は複数の精製工程を行ったり、多大なエネルギーが必要となる場合があって、そして、目的とするチオスルフェート化合物の収量も低下しがちであった。しかし、本発明では、水溶性無機塩等の不純物の除去が効率的に行われるので、純度、製造効率およびコストの点で特に好ましいものである。そして、工程(d)において有機相(液層ハ)から回収された式〔III〕で表わされるアミン化合物が、工程(a)で添加されるアミン化合物として利用可能であることも、製造コストの低減に大きく寄与している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明による式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物の製造方法は、特定の工程(a)〜工程(e)からなること、を特徴とするものである。
【0016】
工程(a)
本発明における工程(a)は、水性媒体中で式〔II〕で表わされるハロゲン化合物とチオ硫酸アルカリ金属塩とを反応させて生成した式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物と水溶性無機塩とを含む水性媒体に、式〔III〕で表わされるアミン化合物と鉱酸を添加して、あるいはあらかじめこのアミン化合物と鉱酸とから調製したアミン鉱酸塩を添加して、式〔IV〕で表わされるチオスルフェート化合物を生成させる工程である。
【化7】

[式〔I〕中、MはNaまたはKを示し、nは2〜12の整数を示す。]
【化8】

[式〔II〕中、Xはハロゲン原子を示し、nは2〜12の整数を示す。]
【化9】

[式〔III〕中、Rは、それぞれ独立して、分岐してもよい炭素数4〜12のアルキル基、シクロアルキル基またはアラルキル基を示し、Rは、水素、分岐してもよい炭素数1〜12のアルキル基、シクロアルキル基またはアラルキル基を示す。]
【化10】

[式〔IV〕中、Rは、それぞれ独立して、分岐してもよい炭素数4〜12のアルキル基、シクロアルキル基またはアラルキル基を示し、Rは、水素、分岐してもよい炭素数1〜12のアルキル基、シクロアルキル基またはアラルキル基を示し、nは2〜12の整数を示す。]
【0017】
ここで、「水性媒体」とは、水もしくは、水と水溶性有機媒体からなる両者が実質的に均一に混和された混合媒体をいう。そのような「水性媒体」としては、所定のハロゲン化合物とチオ硫酸アルカリ金属塩との反応によって、式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物を生成させるのに適したものを、任意に選択することができる。具体的には、水もしくは、水と水溶性有機媒体、好ましくは、低級アルコールやアセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド等とからなる混合媒体を挙げることができる。水溶性有機媒体は2種以上用いることができる。水と水溶性有機媒体との量比は、水:水溶性有機媒体=20〜100:80〜0(重量比)、特に35〜75:65〜25(重量比)、が好ましい。本発明において特に好ましい水性媒体は、水とメタノールとの混合液であって、水:水溶性有機媒体が50〜75:50〜25(重量比)のものである。
【0018】
式〔II〕で表わされるハロゲン化合物のnは、2〜12の整数である。式〔II〕におけるこのnは、主として、目的とする式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物のnの値に応じて定められる。式〔II〕で表わされるハロゲン化合物の好ましい具体例としては、1,ω−ジクロロアルカン類、特に好ましくは1,4−ジクロロブタン、1,6−ジクロロへキサンなど、1,ω−ジブロモアルカン類、特に好ましくは、1,4−ジブロモブタン、1,6−ジブロモへキサンなど、1,ω−ジヨードアルカン類、特に好ましくは、1,4−ジヨードブタン、1,6−ジヨードへキサンなどを挙げることがである。この中でも1,ω−ジクロロアルカン類が特に好ましい。
【0019】
また、チオ硫酸アルカリ金属塩としては、具体的には、チオ硫酸ナトリウムやその水和物、ならびにチオ硫酸カリウムおよびその水和物等を挙げることができる。チオ硫酸アルカリ金属塩の使用量は、式〔II〕で表わされるハロゲン化合物に対して、好ましくは1.60〜2.40倍モル、特に好ましく2.00〜2.20倍モル、である。
【0020】
式〔II〕で表わされるハロゲン化合物とチオ硫酸アルカリ金属塩とを反応させる際に、水性媒体中に適当な界面活性剤が存在している場合、この反応が速やかに進行することがある。よって、本発明では、必要に応じて、そのような界面活性剤を用いることができる。
【0021】
上記式〔II〕で表わされるハロゲン化合物とチオ硫酸アルカリ金属塩とを水性媒体中で反応させると、当該水性媒体中で、式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物と水溶性無機塩とが生成する。なお、この水溶性無機塩は、主として、式〔II〕で表わされるハロゲン化合物由来のハロゲン(X)とチオ硫酸アルカリ金属塩由来のアルカリ金属(M)とからなるものであって、目的とするチオスルフェート化合物を生成させる際の副生成物である。
【0022】
また、式〔III〕で表わされるアミン化合物と酸は、前記の水性媒体中で生成した式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物から、式〔IV〕で表わされるチオスルフェート化合物を生成させるものである。この式〔III〕で表わされるアミン化合物および酸の使用目的は、前記の水性媒体中で生成した、当該水性媒体に対して溶解性を有する式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物を、当該水性媒体に対して実質的に溶解性を有しない式〔IV〕で表わされるチオスルフェート化合物にすることにある。よって、式〔III〕で表わされるアミン化合物は、式〔IV〕で表わされるチオスルフェート化合物が、水性媒体に不溶もしくは難溶となる様に選択することが望ましい。このようなアミン化合物としては、Rが分岐していてもよい炭素数8〜12のアルキル基、シクロヘキシル基またはベンジル基のものであるものが好ましい。特に、ビス(2−エチルヘキシル)アミン、ジベンジルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の第二級アミンや、トリオクチルアミン等の第三級アミンが好ましい。本発明においては第二級アミンの使用が好ましく、ジベンジルアミンおよびビス(2−エチルヘキシル)アミンの使用がより好ましい。式〔III〕で表わされるアミン化合物の使用量は、式〔II〕で表わされるハロゲン化合物に対して、好ましくは2.00〜2.40倍モル、特に好ましくは2.00〜2.20倍モル、である。
【0023】
前記工程(a)の式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物とアミン化合物と酸を反応させ、式〔IV〕で表わされるチオスルフェート化合物を生成させる反応において使用する酸としては、塩酸や希硫酸などの鉱酸が好ましい。酸の使用量は、式〔II〕で表わされるハロゲン化合物に対して、好ましくは1.94〜2.04倍モル、特に好ましくは1.98〜2.02倍モル、である。
【0024】
式〔III〕で表わされるアミン化合物および酸は、水性媒体にそれぞれ別々に添加することができるし、また、水性媒体に添加する前にこのアミン化合物と鉱酸とを反応させて調製したアミン鉱酸塩(好ましくはアミンの硫酸塩)を水性媒体に添加することもできる。
【0025】
なお、式〔I〕で示されるチオスルフェート化合物とアミン化合物および鉱酸とから式〔IV〕で表わされるチオスルフェート化合物を生成させる反応は、式〔II〕で表わされるハロゲン化合物とチオ硫酸アルカリ金属塩の反応で得られた反応液から有機溶剤の一部分あるいは全部を減圧留去等によって除いた後に行うこともできる。
【0026】
工程(a)において、式〔I〕で表されるチオスルフェート化合物とアミン化合物と鉱酸とから式〔IV〕で表されるチオスルフェート化合物を生成させる際の反応温度は、50〜80℃が好ましく、60〜70℃が特に好ましい。
【0027】
工程(b)
本発明における工程(b)は、工程(a)の後、上記の水溶性無機塩を含む水性媒体相(液層イ)を除去して、式〔IV〕で表わされるチオスルフェート化合物を得る工程である。
【0028】
上記の水溶性無機塩を含む水性媒体相(液層イ)を除去する方法は、任意であって、例えば、工程(a)において生成した式〔IV〕で表わされるチオスルフェート化合物の性状等に応じて、適宜定めることができる。例えば、工程(a)において生成したチオスルフェート化合物が、工程(b)において固体状をしている場合、適当な任意の固液分離手段、例えば、好ましくは濾過等、によって、式〔IV〕で表わされるチオスルフェート化合物から水溶性無機塩を含む水性媒体相(液層イ)を除去することができる。
【0029】
一方、工程(a)において生成したチオスルフェート化合物が、粘稠状ないし液体状である場合は、その粘稠状物ないし液体から分離した水性媒体相(液層イ)を例えば抜き出し等により除去することが可能である。また、適当な有機溶媒等、好ましくはトルエン、キシレン等によって、式〔IV〕で表わされるチオスルフェート化合物を溶解させて液状とし、その後、相分離した水性媒体相を除くことによって、式〔IV〕で表わされるチオスルフェート化合物から水溶性無機塩を含む水性媒体相(液層イ)を除去することができる。
【0030】
この工程(b)で得られた式〔IV〕で表わされるチオスルフェート化合物は、工程(c)に付す前に、必要に応じて洗浄することができ、かつ好ましい。洗浄は、水溶性無機塩および水性媒体の両者を洗浄除去可能なもの、好ましくは水、を用いて行うことができる。
【0031】
工程(c)
工程(c)は、工程(b)から得られた式〔IV〕で表わされるチオスルフェート化合物に水およびアルカリ金属塩を添加して、式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物および式〔III〕で表わされるアミン化合物を生成させる工程である。
【0032】
アルカリ金属塩としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウムを挙げることができる。なお、このアルカリ金属塩におけるアルカリ金属は、生成するチオスルフェート化合物のアルカリ金属(M)となることから、従ってこの工程(c)で添加されるアルカリ金属塩は、目的とする式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物の内容に応じて定める必要があることは言うまでもない。アルカリ金属塩の使用量は、式〔II〕で表わされるハロゲン化合物に対して、好ましくは1.80〜2.00倍モル、特に好ましくは1.80〜1.95倍モル、である。アルカリ金属塩の量が2.00倍モル超過の場合は生成する式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物に過剰のアルカリ金属塩が残留し、一方、1.80モル倍未満の場合は式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物の収率が低下することから、好ましくない。
【0033】
水およびアルカリ金属塩の添加順序は特に限定はない。また、アルカリ金属塩を溶液として添加することができる。
【0034】
工程(c)に用いられる水は、(i)第一に、工程(b)から得られた式〔IV〕で表わされるチオスルフェート化合物とアルカリ金属塩から、式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物と式〔III〕で表わされるアミン化合物とを生成させる際の反応媒体として、(ii)第二に、生成した式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物の溶媒として、そして、(iii)第三に、生成した式〔III〕で表わされるアミン化合物を含む有機相を分離させるための水相として、作用するものである。よって、その量は、上記作用が十分発揮されるように選定することが好ましい。水の使用量(ここで、アルカリ金属塩が溶液として添加される場合には、そのアルカリ金属塩溶液中の水の量も算入する)は、式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物が反応において100%の収率で生成した、と仮定した量に対して、好ましくは3〜9倍重量、特に好ましくは3〜4倍重量、である。水の量が9倍重量超過の場合は式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物の生産性が低下し、一方、3倍重量未満の場合は式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物が析出し、作業性が低下することから、好ましくない。
【0035】
式〔IV〕で表わされるチオスルフェート化合物とアルカリ金属塩から、式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物および式〔III〕で表わされるアミン化合物を生成させる際の反応温度は、好ましくは20〜50℃、特に好ましくは30〜40℃、である。
【0036】
この反応によって、工程(b)から得られた式〔IV〕で表わされるチオスルフェート化合物とアルカリ金属塩から、式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物が生成すると同時に、式〔III〕で表わされるアミン化合物が生成する。式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物が溶解した水相のpHは、8〜11であるのが好ましく、より好ましくは9〜11である。
【0037】
工程(d)
工程(d)は、工程(c)の後、相分離により生じた、式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物を含む水相(液層ロ)と式〔III〕で表わされるアミン化合物を含む有機相(液層ハ)のうち、この有機相(液層ハ)を除去する工程である。
【0038】
前記の工程(c)において生成した式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物は、主として水中に溶解し、一方、生成した式〔III〕で表わされるアミン化合物は、主として、前記式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物が溶解した水相とは分離した、有機相中に存在する。なお、この水相(液層ロ)と有機相(液層ハ)との相分離を促すために、工程(c)の後に、適当な有機溶媒等、好ましくはトルエン、キシレン等を添加することができる。
【0039】
この水相(液層ロ)は工程(e)に付す前に、必要に応じて洗浄することができ、かつ好ましい。洗浄は、適当な有機溶媒、好ましくはトルエン、キシレンを用いて行うことができる。
【0040】
一方、除去された式〔III〕で表わされるアミン化合物を含む有機相(液層ハ)は、そのまま、あるいは必要に応じて他の処理に付したのちに、工程(a)で添加されるアミン化合物として利用することができる。
【0041】
工程(e)
工程(e)は、上記の水相(液層ロ)を乾燥処理に付し、固体状の式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物を取得する工程である。
【0042】
乾燥処理の方法は任意である。例えば、水相(液層ロ)を減圧雰囲気中で、常温あるいは若干の加熱条件に付し、水や有機溶媒等の揮発成分を除去することによって、固体状の式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物を取得することができる。
【0043】
そして、本発明によれば、目的とする式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物を高い収率で得ることができる。例えば、式〔II〕で表わされるハロゲン化合物に対する式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物の収率は95%以上、特に97%以上、である。
【0044】
従って、本発明によれば、低コストでチオスルフェート化合物を製造することができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の効果を実施例により具体的に示す。これら本発明の特許請求の範囲は実施例の態様に限定されるものではない。
【0046】
<実施例1>
コンデンサー、撹拌器、温度計を取り付けたフラスコに、1,6−ジクロロヘキサン5.0g(32.4mmol)、チオ硫酸ナトリウム五水和物17.0g(68.7mmol)、水12.5g、メタノール9.9g、陽イオン性界面活性剤(コータミン24P(登録商標))0.1gをそれぞれ加え、還流条件下(70〜80℃)で10時間加熱した。ジベンジルアミン13.4g(67.9mmol)を加え、そこに、希硫酸を13.3g(硫酸換算で32.4mmol)滴下で加えた。希硫酸滴下時の温度は60〜70℃であった。70℃で2時間加熱した。反応により、白色固体のアンモニウム塩が析出した。アンモニウム塩をろ取し、水100gで洗浄した。
【0047】
水100.0gを加え、撹拌しながら、30%水酸化ナトリウム水溶液8.0g(59.8mmol)加えた。反応温度は40℃であった。
【0048】
反応液は目的物の水溶液が下層に、生成するジベンジルアミンが上層になり分離した。下層のpHは9.5であった。上層と下層を分液し、下層をトルエン87gで洗浄し、目的物の水溶液を得た。
【0049】
水溶液を減圧下、蒸発乾固させ、目的物であるヘキサメチレン−1,6−ビス(チオスルフェート),二ナトリウム塩,二水和物を12.3g、97.8%の収率で得た。塩化ナトリウムの含量は0.1%であった。
【0050】
<実施例2>
コンデンサー、撹拌器、温度計を取り付けたフラスコに、1,6−ジクロロヘキサン5.0g(32.4mmol)、チオ硫酸ナトリウム五水和物17.0g(68.7mmol)、水50.0g、メタノール35.5g、陽イオン性界面活性剤(コータミン24P(登録商標))0.1gをそれぞれ加え、還流条件下(70〜80℃)で10時間加熱した。ビス(2−エチルヘキシル)アミン18.7g(77.4mmol)を加え、そこに、希硫酸を13.3g(硫酸換算で32.4mmol)滴下で加えた。希硫酸滴下時の温度は20から30℃であった。60℃で1時間加熱した。反応により、無色粘稠オイル状のアンモニウム塩が生成した。
【0051】
トルエン87gを加え、次いで分液により下層の水性媒体層を除いた。上層の有機層は水100gで2回洗浄した。水100.0gを加え、撹拌しながら、30%水酸化ナトリウム水溶液8.0g(59.8mmol)加えた。反応温度は20から30℃であった。
【0052】
反応液は目的物の水溶液が下層に、生成するビス(2−エチルヘキシル)アミンのトルエン溶液が上層になり分離した。下層のpHは9.5であった。
【0053】
上層と下層を分液し、下層をトルエン86.5gで洗浄し、目的物の水溶液を得た。
【0054】
水溶液を減圧下、蒸発乾固させ、目的物であるヘキサメチレン−1,6−ビス(チオスルフェート),二ナトリウム塩,二水和物を12.2g、97.1%の収率で得た。塩化ナトリウムの含量は0.1%であった。
【0055】
<比較例1>
コンデンサー、撹拌器、温度計を取り付けたフラスコに、1,6−ジクロロヘキサン5.0g(32.4mmol)、チオ硫酸ナトリウム五水和物17.0g(68.7mmol)、水50.0g、メタノール35.5gを加え、陽イオン性界面活性剤(コータミン24P(登録商標))0.1gをそれぞれ加え、還流条件下(70〜80℃)で10時間加熱した。反応液を蒸発乾固させ、目的物であるヘキサメチレン−1,6−ビス(チオスルフェート),二ナトリウム塩,二水和物とチオ硫酸ナトリウム五水和物と塩化ナトリウムの混合物を17.5g得た。塩化ナトリウムの含量は21%であった。
【0056】
<比較例2>
コンデンサー、撹拌器、温度計を取り付けたフラスコに、1,6−ジクロロヘキサン10.0g(64.5mmol)、チオ硫酸ナトリウム無水物21.1g(133.5mmol)、亜硫酸ナトリウム0.83g(6.22mmol)、水31.7g、メタノール54.7gを加え、68〜70℃で20.5時間加熱した。加熱後、反応液を65℃まで冷却し、同温度で3時間撹拌した。反応液中に析出した無機塩を熱時ろ過により除いた。ろ液を0℃まで冷却した。ろ液から析出した固体をろ取し、0℃に冷却した混合溶剤(メタノール:水=65:35(重量比))で洗浄した。固体を乾燥し、目的物であるヘキサメチレン−1,6−ビス(チオスルフェート),二ナトリウム塩,二水和物を16.6g、66.0%の収率で得た。塩化ナトリウムの含量は0.1%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程(a)〜工程(e)からなることを特徴とする、式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物の製造方法。
工程(a):水性媒体中で式〔II〕で表わされるハロゲン化合物とチオ硫酸アルカリ金属塩とを反応させて生成した式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物と水溶性無機塩とを含む水性媒体に、式〔III〕で表わされるアミン化合物と鉱酸を添加して、あるいはあらかじめこのアミン化合物と鉱酸から調製したアミン鉱酸塩を添加して、式〔IV〕で表わされるチオスルフェート化合物を生成させる工程。
工程(b):工程(a)の後、前記の水溶性無機塩を含む水性媒体相(液層イ)を除去して、式〔IV〕で表わされるチオスルフェート化合物を得る工程。
工程(c):工程(b)から得られた式〔IV〕で表わされるチオスルフェート化合物に水およびアルカリ金属塩を添加して、式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物および式〔III〕で表わされるアミン化合物を生成させる工程。
工程(d):工程(c)の後、相分離により生じた、式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物を含む水相(液層ロ)と式〔III〕で表わされるアミン化合物を含む有機相(液層ハ)のうち、この有機相(液層ハ)を除去する工程。
工程(e):上記の水相(液層ロ)を乾燥処理に付し、固体状の式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物を取得する工程。
〔上記において、水性媒体は、水あるいは水と水溶性有機溶剤との混合液を意味する。〕
【化1】

[式〔I〕中、MはNaまたはKを示し、nは2〜12の整数を示す。]
【化2】

[式〔II〕中、Xはハロゲン原子を示し、nは2〜12の整数を示す。]
【化3】

[式〔III〕中、Rは、それぞれ独立して、分岐してもよい炭素数4〜12のアルキル基、シクロアルキル基またはアラルキル基を示し、Rは、水素、分岐してもよい炭素数1〜12のアルキル基、シクロアルキル基またはアラルキル基を示す。]
【化4】

[式〔IV〕中、Rは、それぞれ独立して、分岐してもよい炭素数4〜12のアルキル基、シクロアルキル基またはアラルキル基を示し、Rは、水素、分岐してもよい炭素数1〜12のアルキル基、シクロアルキル基またはアラルキル基を示し、nは2〜12の整数を示す。]
【請求項2】
前記の水性媒体が、水とメタノールとの混合液である、請求項1に記載のチオスルフェート化合物の製造方法。
【請求項3】
式〔I〕で表わされるチオスルフェート化合物が、MがNaでありかつnが6のものである、請求項1または2に記載のチオスルフェート化合物の製造方法。
【請求項4】
式〔III〕で表わされるアミン化合物が、そのRが分岐していてもよい炭素数8〜12のアルキル基、シクロヘキシル基またはベンジル基のものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のチオスルフェート化合物の製造方法。

【公開番号】特開2009−107940(P2009−107940A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−279081(P2007−279081)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(000207517)大内新興化学工業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】