説明

チオレドキシンの発現を誘導する食品

【課題】チオレドキシンの発現を誘導し、例えば、酸化ストレスによる影響を緩和することができる、安全な飲食品を提供することを主な目的とする。
【解決手段】アブラナ科植物の抽出物であるスルフォラファンを含む飲食品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アブラナ科植物からの抽出物又はエキスを含むチオレドキシンの発現を誘導する食品に関する。
【背景技術】
【0002】
チオレドキシンは、その活性部位にある2つのシステイン残基によって、NADPH依存性酵素であるチオレドキシンリダクターゼを触媒として可逆的な酸化還元反応(レドックス制御)を行う分子である(例えば非特許文献1)。また、チオレドキシンは、細胞内還元環境を維持し、酸化ストレス(フリーラジカル)や腫瘍壊死因子α(TNF−α)が引き起こす障害から細胞を保護する役割を持つことが知られている(例えば非特許文献2及び3)。
【0003】
さらに、チオレドキシントランスジェニックマウスは、寿命の延長や虚血障害、急性肺不全、糖尿病等に対して抵抗性を示す(例えば、非特許文献4〜8)。これらの病態は酸化ストレスに密接な関係があることから、チオレドキシンは酸化ストレスに対して重要な保護作用を示すと考えられている。
【0004】
この様なチオレドキシンの特徴を利用し、チオレドキシンの発現を誘導することで、酸化ストレスの影響を緩和できると考えられる。
【非特許文献1】Holmgren A. et al., Methods Enzymol 1995; 252:199−208.
【非特許文献2】Nakamura H. et al., Immunol Lett 1994; 42:75−80.
【非特許文献3】Matsuda M. et al., J Immunol 1991; 147:3837−3841.
【非特許文献4】Mitsui A. et al., Antioxid Redox Signal 2002; 4:693−696.
【非特許文献5】Takagi Y. et al., Proc Natl Acad Sci U S A 1999; 96:4131−4136.
【非特許文献6】Hoshino T. et al., Am J Respir Crit Care Med 2003; 168:1075−1083.
【非特許文献7】Hotta M. et al., J Exp Med 1998; 188:1445−1451.
【非特許文献8】Yoon BI. et al., Arch Environ Contam Toxicol 2001; 41:232−236.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、チオレドキシンの発現を誘導し、例えば、酸化ストレス(フリーラジカル)による影響を緩和することができる、安全な飲食品を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、スルフォラファンがチオレドキシン発現を誘導することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、以下のスルフォラファンを含む飲食品を提供する。
項1.スルフォラファン含有エキスを含むことを特徴とする飲食品。
項2.該エキスが0.01〜50mg/gのスルフォラファンを含む項1に記載の飲食品

項3.スルフォラファンを内容組成物の10〜2000μg/100g添加することを特
徴とする、項1に記載の飲食品。
項4. 該スルフォラファンがアブラナ科植物由来である項1に記載の飲食品。
項5.該アブラナ科の植物が、ブロッコリースプラウト、カイワレダイコン及びムラサキ
キャベツの新芽からなる群より選ばれる少なくとも1種である項1に記載の飲食品。
項6.チオレドキシン発現誘導用である項1〜5に記載の飲食品。
項7.酸化ストレス緩和用である項1〜5に記載の飲食品。
項8.飲食品中にスルフォラファンを内容組成物の10〜2000μg/100g添加することを特徴とする、スルフォラファン含有エキスを含む飲食品の製造方法。
【0008】
スルフォラファンは、例えば、アブラナ科(Brassicaceae)植物のアブラナ属(Brassica)、キバナスズシロ属(Eruca)イベリス属(Iberis)、大根属(Raphanus)等の植物に含まれ、抗癌作用、抗酸化作用等の多様な生理活性を有する物質であることが知られているが、チオレドキシン発現誘導作用は知られていなかった。スルフォラファンのチオレドキシン発現誘導作用に基づき、肝機能障害の改善、酸化ストレス障害の改善、抗炎症作用等の種々の有用な作用が期待できる。
【0009】
本発明においてスルフォラファンを抽出するために使用される植物種としては、特に限定されず、例えば、キャベツ、ムラサキキャベツ、ブロッコリー、ケール、ロケット菜、カリフラワー、ダイコン、ハクサイ、カブ、コマツナ、チンゲンサイ等があげられ、これらの植物の新芽であることが好ましい。なかでも、ブロッコリーの新芽(ブロッコリースプラウト)、ダイコンの新芽(カイワレダイコン)、ムラサキキャベツの新芽であることが特に好ましい。
【0010】
これらの植物においてスルフォラファンを抽出する部位としては、スルフォラファンとしての効果が得られれば特に限定されず、例えば、前記植物の種子、ダイコン、カブ等の根、キャベツ、ケール、ハクサイ等の葉、ブロッコリー、カリフラワー等の花蕾等があげられる。
【0011】
上記した植物の新芽からスルフォラファンを得る場合、新芽のスルフォラファン含有量は、発芽後の日数によって大幅に変化するため、例えば、ブロッコリースプラウトであれば発芽後1〜5日程度、好ましくは発芽後1〜3日程度の新芽から抽出することが望ましい。
【0012】
本発明で使用するスルフォラファンは、上記の植物から当業者によって通常用いられる方法によって得ることができる。抽出方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ブロッコリー等のスルフォラファンを含む原料を粉砕し、必要であれば凍結乾燥を行い、水又は含水溶媒で含浸又は抽出した後、ろ過し、濃縮する等の方法があげられる。
【0013】
抽出に使用する溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水、エタノール、メタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、iso−ブタノール、tert−ブタノール等の1級アルコール、酢酸エチル等の低級アルキルエステル、ベンゼン、ヘキサン等の炭化水素、アセトン、塩化メチレン等の従来公知の溶媒、またはそれらの混合溶液が例示される。中でも好ましい溶媒としては、水、エタノール又はエタノール及び水の混合溶液があげられる。また、超臨界CO2等の超臨界溶媒で抽出してもよ
い。
【0014】
これらの方法を用いて抽出を行う場合、抽出回数は単回でもよく、収率を上げるために
複数回行ってもよい。
【0015】
抽出を行う際、植物内に含まれる酵素によってグルコシノレートを加水分解してスルフォラファンを効率的に得るため、原料を粉砕した後に自己消化を行ってもよい。自己消化は、当業者によって通常用いられる条件にて行えばよいが、例えば、約10〜50℃にて15〜60分程度行うことが望ましい。
【0016】
この様にして得られた抽出物は、スルフォラファンエキスとしてそのまま用いることもでき、また、本発明の効果を失わない範囲内で脱臭、脱色等の精製操作を加えることもできる。
【0017】
他の方法として、例えば、合成吸着剤を用いた分離・精製操作を行ってもよい。合成吸着材を用いた場合の分離・精製操作方法は特に限定されず、従来公知の方法でよいが、例えば、スルフォラファンを含有する原料を粉砕して残渣を除去した後、合成吸着剤を充填したカラム等に通し、水、エタノール(又はその混合溶液)等で溶出する方法があげられる。合成吸着剤としては、例えば、芳香族系(架橋スチレン系)合成吸着剤、置換芳香族系合成吸着剤、アクリル系合成吸着剤等があげられる。
【0018】
また、粉砕した植物をエタノール等の好適な溶媒で抽出した後、ろ過し、濃縮する方法を用いても良い。さらに簡易な方法としては、原料の植物をジュース状にした後、植物の残渣を除去し、濃縮する方法があげられる。
【0019】
濃縮工程にかえて、必要に応じて、ろ液にペクチン、デキストリン等の水溶性食物繊維を賦形剤として加え、スプレードライ法等の公知の方法により乾燥させ、粉末状にして用いてもよい。また、この粉末状にした抽出物を水、エタノール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリン等の溶媒に再溶解して用いることもできる。
【0020】
本発明においては、エキス又はエキスを乾燥させて用いることで、スルフォラファンの安定性を高めることが期待される。
【0021】
以上の方法によって得られたスルフォラファン含有エキスは、スルフォラファンを0.001〜200mg/g程度、好ましくは0.005〜80mg/g程度、より好ましくは0.01〜50mg/g程度含むことが望ましい。
【0022】
スルフォラファンによって発現が誘導されるチオレドキシンの量は、例えば、スルフォラファン10〜500μg/100gであれば、細胞内に含まれるチオレドキシンタンパクとして、恒常時の1.3〜2倍量程度、好ましくは1.5〜3倍量程度、より好ましくは2〜6倍量程度である。
【0023】
本発明の飲食品としては、例えば、健康食品、栄養補助食品(バランス栄養食、サプリメント等)、栄養機能食品、特定保健用食品等があげられる。これらの食品の製造方法は、スルフォラファンの所期の効果が得られるものであれば特に限定されず、各用途で当業者によって使用されている方法に従えばよい。
【0024】
飲食品としては、例えば、ガム、キャンディー、グミ、錠菓、クッキー、ケーキ、チョコレート、アイスクリーム、ゼリー、ムース、プリン、ビスケット、コーンフレーク、チュアブルタブレット、ウエハース、煎餅等の菓子類;炭酸飲料、清涼飲料、乳飲料、コーヒー飲料、紅茶飲料、果汁飲料、栄養飲料、アルコール飲料、ミネラルウォーター等の飲料類;粉末ジュース,粉末スープ等の粉末飲料;バランス栄養食;粉末、カプセル、錠剤等の形態を有するサプリメント;ドレッシング、ソース等の調味料;パン類;麺類;かま
ぼこ等の練り製品;ふりかけ等があげられる。
【0025】
本発明の飲食品に含まれるスルフォラファンの量は、チオレドキシン発現が誘導されるのに必要な量であれば特に限定されないが、通常は、1〜5000μg/100g程度、好ましくは5〜3000μg/100g程度、より好ましくは10〜2000μg/100g程度であり、配合する飲食品の風味を損なわない程度が望ましい。
【0026】
本発明の食品がクッキー、ビスケット等のクッキー状食品である場合、スルフォラファンを10〜2000μg/100g程度含むことが好ましい。
【0027】
例えば、飲料類である場合は、スルフォラファンを10〜2000μg/100g程度含むことが好ましい。
【0028】
スルフォラファンを含む植物から抽出されたエキスを造粒した後、打錠したタブレットである場合は、スルフォラファンを2〜140μg/g程度含むことが好ましい。
【0029】
ゼリー、ムース、プリン等のムース状食品の場合は、スルフォラファンを10〜500μg/100g程度含むことが好ましい。
【0030】
ドレッシングである場合は、スルフォラファンを10〜2000μg/100g程度含むことが好ましい。
【0031】
これらの食品を製造する過程において、スルフォラファン含有エキスの他に、さらにブロッコリー(ブロッコリースプラウト)、ダイコン(カイワレダイコン)、ムラサキキャベツ(ムラサキキャベツの新芽)等のスルフォラファンを含有する原料を加えて食品とすることもできる。
【0032】
本発明における飲食品は、原料又は添加剤等を含む担体に本発明の有効成分を混合し、当該飲食品形態における常法に従って調製することができる。添加剤としては、例えば、甘味剤、着色剤、抗酸化剤、ビタミン類、香料等があげられる。
【0033】
上記飲食品の摂取量は、その用法、摂取する人の年齢、性別、体重、健康状態、その他の条件、症状の程度等により適宜選択されるが、通常、有効成分であるスルフォラファンの量が成人1人当り1日当り0.001〜1000μg/kg程度、好ましくは0.005〜200μg/kg程度、より好ましくは0.01〜60μg/kg程度となるようにすることが好ましい。他の成分は、上記スルフォラファンの量を基準にして適宜選択することができる。また、所期の効果が得られるのであれば、スルフォラファンを含む原料のペーストを用いても良い。
【0034】
本発明の飲食品を、動物用の飼料として製造することもできる。すなわち、ペットフード又は家畜の飼料として使用することも可能である。
【0035】
これらは、上記食品と同様に、ペットフード又は飼料に用いられている形態であればいずれの形態であってもよく、通常ペットフード又は飼料に含有される添加剤又は食品素材と組み合わせて、常法に従って種々の形態に調製することができる。投与量は、上記食品を参考にして適宜選択することができる。
【0036】
本発明の飲食品に含まれるスルフォラファンがチオレドキシンの発現を誘導することから、酸化ストレス緩和(フリーラジカルの消去)を目的として用いることができる。
【0037】
チオレドキシンの発現によって、例えば、二日酔い等を含む肝障害の改善、更年期障害の改善、血中コレステロールの低下、血中中性脂質の低下、血糖値の低下、血圧の低下、動脈硬化の予防、老化の予防等が期待される。
【0038】
例えば、動脈硬化は、フリーラジカルの一種である過酸化脂質の蓄積が原因とされている。本発明の飲食品を摂取することにより、TRXの発現が誘導され、TRX自体あるいはTRX依存性のペルオキシダーゼのフリーラジカル消去作用によって動脈硬化が改善されることが期待される。
【0039】
また、血糖値の過度の上昇は、膵臓ラ氏島のインシュリン産生細胞の酸化ストレスによる傷害の関与がその発症の一因として考えられている。本発明の飲食品を摂取することにより、TRXの発現が誘導され、TRX自体、あるいはTRX依存性のペルオキシダーゼのフリーラジカル消去作用によってインシュリン産生細胞の傷害が抑制されることで血糖値の低下が期待される。
【0040】
また、本発明の飲食品を滋養強壮、疲労回復等を目的として用いることもできる。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、チオレドキシンの発現を誘導することによって、例えば、二日酔い等を含む肝障害の改善、更年期障害の改善、滋養強壮等に有効な、スルフォラファンを含有する飲食品を提供することが可能である。また、本発明に使用されるスルフォラファンは、食用植物由来であるため、安全性の高い飲食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、実施例及び試験例をあげて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、これらの実施例及び試験例によって限定されないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0043】
エキス
(1)洗浄したブロッコリーの新芽をコミトロール(アーシェルジャパン株式会社製)により粉砕、等量の水を加え20℃で1時間自己消化させた後、珪藻土によりろ過し残渣を除去、減圧下にて蒸発濃縮した。この様にして得られたエキスに含まれるスルフォラファン量は、0.1〜1mgであった。
(2)洗浄したブロッコリーの新芽をコミトロールにより粉砕、珪藻土によりろ過し残渣を除去、架橋スチレン系合成吸着剤(DIAION HP−20:三菱化学株式会社製)を使用してエタノール・水の混合物(エタノール:水=70:30)で分離した。この様にして得られたエキスに含まれるスルフォラファン量は、1.0〜12mg/gであった。
(3)洗浄したブロッコリーの新芽をコミトロールにより粉砕、珪藻土によりろ過し残渣を除去、架橋スチレン系合成吸着剤(DIAION HP−20:三菱化学株式会社製)を使用してエタノール・水の混合物(エタノール:水=50:50)で分離した後、さらに真空乾燥した。この様にして得られたエキスに含まれるスルフォラファン量は、0.5〜10mg/gであった。
【実施例2】
【0044】
清涼飲料水
(1)(i)ブロッコリー、人参をコミトロールで破砕した。
【0045】
(ii)りんごをハンマークラッシャーで破砕し後、搾汁機で搾汁した。
【0046】
(iii)(i)(ii)をストレーナーに通し皮等の残渣を除去した。
【0047】
(iv)ブロッコリー汁100kg、人参汁50kg、リンゴ100kg、水300k
g、レモン果汁10kg及び果糖ブドウ糖液20kgを混合後、実施例1の(2
)で調製したエキスを10kg加え均一混合した。
【0048】
(v)プレート式殺菌殺菌で95℃、60秒殺菌、冷却後、180mlを容器に充填
した。
(2)実施例1の(1)で調製したエキス100kg、水500kg、クエン酸5kg、オリゴ糖50kg、ビタミンC、B1,B2、香料各適量を混合、ストレーナーを通した後、プレート式殺菌で98℃、30秒殺菌、冷却後、100mlを容器に充填した。
【実施例3】
【0049】
ドレッシング
(i)セロリ20kg、タマネギ50kg、ニンニク5kgを粗砕後、酢100kg、レ
モン果汁10kg、食塩10kg、ハーブ及び香辛料適量に、実施例1の(1)で調製したエキスを20kg加えて混合した。
(ii)(i)55mlを植物油50mlと共に容器に充填した。
【実施例4】
【0050】
タブレット
実施例1の(1)で調製したエキスを、スプレー式造粒乾燥装置にて造粒後、粒状エキス35kgにマルトデキストリン15kg加えロータリー式打錠機にて成型した。
【実施例5】
【0051】
ムース
(i)牛乳50kg、生クリーム25kgを攪拌機で泡立てた。
(ii)予備混合した砂糖10kg、寒天2.5kgに水25kgを加え加熱溶解した後、ブロッコリーペースト25kg、香料適量を加え混合した。
(iii)(i)(ii)を混合した後、80gを容器に充填した。
【試験例1】
【0052】
ヒト赤芽球様白血病細胞株であるK562細胞において、チオレドキシン遺伝子発現の活性化が、様々な野菜からの抽出物によって変化するかどうかについて検討するため、チオレドキシン遺伝子の発現調節領域全体を含むベクターを用いてルシフェラーゼレポーターアッセイを行った。
【0053】
[培養細胞と培養系]
K562細胞を、10%FCSを含み、抗生物質(100IU/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン)を添加したRPMI 1640(Life Technologies,Grand Island,NY)中で、5%CO2を含む湿潤な条
件下において37℃で培養した。ヒト培養肝癌細胞株であるHepG2細胞については、DMEMにて培養し、ヒト網膜色素上皮細胞由来であるRPE細胞については、F−2(Sigma)にて培養した。
【0054】
本試験例を通して使用した細胞を、上記の培養条件下で維持した。
【0055】
[野菜抽出物の調製]
野菜抽出物は文献(Zhang Y. et al., Proc Natl Acad Sci USA 1992; 89: 2399−2403)を参考に調製した。
【0056】
生鮮野菜に2倍量の水を加え、粉砕(7000回転5分間の後、9000回転3分間)した後、37℃で3時間自己消化させ、凍結乾燥した。凍結乾燥物4gを140mlのアセトニトリルで溶解し、4℃で6時間振盪、抽出した。抽出液をメンブレンフィルターでろ過し、エバポレーターを用いて、30℃で乾固させた。乾燥物をエタノール1mlに溶解し、後の分析に用いた。
【0057】
[プラスミド]
pTrxCATプラスミドを、Taniguchi Y. et al., Nucleic Acids Res 1996; 24:2746−2752.に記載の通り作製した。すなわち、pTrxCATベクターのHindIII−BamHIインサートを、pBluescriptIIKS(+)へサブクローニングした(pTRXblue vectors)。
【0058】
pTRX−Lucベクターは、Kim Y−C.et al., J Biol Chem 2001; 276,18399−18406.及びKim YC. et al.,Oncogene 2003;22, 1860−1865.に記載されるように作製した。すなわち、pGL3 basicベクター(Promega,WI)のKpnI/BglIIサイトへpTRXblueベクターのKpnI/BamHIフラグメントを結合することにより、pTRX(−1148)−Lucベクターを作製した。
【0059】
全てのコンストラクトについて、Thermo Sequenase II dye terminator cycle sequencing kit(Amersham
Pharmacia)を用いて直接塩基配列決定法により塩基配列を確認した。
【0060】
[トランスフェクション及びルシフェラーゼアッセイ]
K562細胞に、ルシフェラーゼレポーター発現ベクター(pTRX(−1148)−Luc)又はpGL3 basicベクターをDMRIE−C(GIBCO)試薬を用いて製品説明に従って遺伝子導入した。遺伝子導入効率の標準化のため、pRL−TK(Promega)をコトランスフェクションして、Renilla(ウミシイタケ)ルシフェラーゼ遺伝子発現を測定した。
【0061】
この細胞を4時間培養の後、野菜抽出物(最終濃度1%)又はエタノール(最終濃度1%)を加え、16時間反応させた。遺伝子導入から24時間後、ルシフェラーゼ遺伝子発現をアッセイキット(Promega)を用いて解析した。解析は、それぞれの誘導物質について、2つの別々のウェルを用いて独立した遺伝子導入を行い、それぞれのウェルから別々に細胞を回収し、別々にルシフェラーゼ活性を測定することによって行った。
【0062】
図1Aに示した通り、異なる2つの品種のブロッコリースプラウト抽出液(Broccoli Sprout A又はBroccoli Sprout B)がチオレドキシンレポーター遺伝子をそれぞれ13.5倍、4.1倍活性化した。一方、pGL3−basicベクターについても同様の試験を行ったが、活性化には変化がなかった。対照的に、ケール(Kale)、キャベツ(Cabbage)及びブロッコリー(Broccoli)の花蕾の抽出液は、コントロール(Ethanol)に比べてチオレドキシンレポーター遺伝子を活性化したものの有意差はなかった(図1B)。
【試験例2】
【0063】
ブロッコリーには、スルフォラファンが重要な構成成分として含まれることが知られていることから(Fahey JW. et al.,Proc Natl Acad S
ci U S A 1997; 94:10367−10372.)、チオレドキシン遺
伝子発現の活性化が、スルフォラファンによって変化するかどうかを検討した。
【0064】
[トランスフェクション及びルシフェラーゼアッセイ]
pTRX(−1148)−Luc又はpGL3 basicベクターを、K562細胞にトランスフェクションし、4時間培養した後、DMSO(最終濃度1%)、又はスルフォラファン1μM(SF1)もしくは10μM(SF10)をそれぞれの細胞に加え、16時間反応させた。トランスフェクションから24時間経過後、試験例1と同様の条件でルシフェラーゼアッセイを行った。トランスフェクション効率の標準化のために、pRL−TKベクター(Promega)をコトランスフェクションし、Renillaルシフェラーゼ遺伝子発現を測定した。
【0065】
HepG2細胞についても、pTRX(−1148)−Luc又はpGL3 basicベクターをトランスフェクションし、4時間培養を行った。その後、DMSO最終濃度1%、スルフォラファン10μM(SF)をそれぞれ加え、16時間反応させた。トランスフェクションから24時間経過後、試験例1と同様にルシフェラーゼアッセイを行った。
【0066】
HepG2細胞へのルシフェラーゼレポーター発現ベクター(pTRX(−1148)−Luc)の導入は、FuGENE6トランスフェクション試薬(Roche Applied Science)を用いた。
【0067】
図2A及び2Bに示すとおり、スルフォラファンはチオレドキシンプロモーター領域全体を含むレポーター遺伝子pTRX(−1148)−Lucの活性化をK562細胞(図2A)およびHepG2細胞(図2B)で誘導したが、pGL3−basicベクターの活性化には効果が認められなかった。また、K562細胞において、スルフォラファン10μM(SF10)では、チオレドキシン発現に有意な増強が見られた。
【0068】
[定量的RT−PCR]
チオレドキシンのmRNA発現への影響を解析するために定量的Real Time RT−PCRを行った。
【0069】
K562細胞を0.1%DMSO、スルフォラファン(SF)1μM又は10μMで処理した。その後、24時間もしくは48時間経過した後、細胞を回収し、PBSで洗浄した。TotalRNAはRNeasy Mini Kit(QIAGEN)により、製品説明に従って分離した。ヒトチオレドキシンのフォワードおよびリバースプライマーとタックマンプローブは製品説明に従ってデザインした。
【0070】
定量的RT−PCRは、96穴プレートでTaqMan One−Step RT−PCR Master Mix Reagent(Applied Biosystems)を用いてABI PRISM 7000にて行った。試験した反応液には、最終液量50μl中に50ngのtotal RNAが含まれる。
【0071】
RT−PCRの条件は次の通りである。RTステップを48℃、30分、PCRステップを95℃、15秒及び60℃、1分を45サイクル行った。内部標準として18S rRNAの増幅をTaqMan Ribosomal Control Regent(Applied Biosystems)を用いて行い、チオレドキシン遺伝子の定量を標準化した。
【0072】
K562細胞において、スルフォラファン(SF)10μMの処理により、24時間と48時間でチオレドキシンのmRNAレベルでの有意な誘導が認められた(図3)。
【0073】
[ウェスタンブロット解析]
チオレドキシンタンパク質発現量におけるスルフォラファンの効果を検討した。
【0074】
K562細胞を、1%DMSO、スルフォラファン(Sulforaphan)5μM
又はスルフォラファン10μMで48時間処理し、細胞を回収した。回収した細胞を、冷やしたPBSで2度洗浄し、その後氷上で30分間可溶化液(10mM Tris−HCl(pH7.4),150mM NaCl,1% NP−40,1mM EDTA,0.1mM PMSF,8μg/ml aprotinin,2μg/ml leupeptin)中で溶解した。抽出物は遠心により清澄化した。
【0075】
K562細胞溶解液(13.5μg)を95℃、5分間加熱処理後、15%SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動にて分離した。分離したタンパク質をPVDF膜(ポリビニルデン ジフロライド)(Millipore Co.,Bedfore,MA)に転写した。PVDF膜は、T−PBS(0.05% Tween20を含むPBS)にて溶解した10%スキムミルク中で一晩処理し、抗ヒトチオレドキシンモノクローナル抗体(Redox Bioscience,Inc.)にて1時間インキュベートし、その後ペルオキシダーゼを抱合させた抗マウスIgG(1:5000希釈)(Amershan Pharmacia Biotech)にて1時間反応させた。発色はECL Western Blot detection kit(Amershan Pharmacia
Biotech)を用いた(図4A)。
【0076】
RPE細胞におけるチオレドキシンタンパク質発現量についても、同様の方法を用いて観察した。RPE細胞を、1%DMSO、0.1μMスルフォラファン、1μMスルフォラファン又は10μMスルフォラファンで48時間処理し、細胞を回収し、上記と同様の方法でRPE細胞溶解液を作製した。次に、得られたRPE細胞溶解液5μgを用いて、上記と同様の方法でウェスタンブロット解析を行った(図4B)。
【0077】
K562細胞とRPE細胞において、10μMのスルフォラファンで48時間処理したもので、チオレドキシン発現が顕著に亢進することが確認できた(図4A及び4B)。
【試験例3】
【0078】
実施例1でチオレドキシン遺伝子を強く誘導した品種(Broccoli sprout
A)を用い、ブロッコリー抽出物の濃度が、チオレドキシン遺伝子誘導の活性化に及ぼす影響を検討した。
[ブロッコリースプラウト抽出物の調製]
ブロッコリースプラウト抽出物を試験例1と同様に調製した。
[トランスフェクション及びルシフェラーゼアッセイ]
pTRX(−1148)−Luc又はpGL3 basicベクターを、K562細胞にトランスフェクションし、4時間培養した後、最終濃度が1%、0.75%、0.5%及び0.25%になるようにエタノール(コントロール)、又はブロッコリースプラウト抽出物(Broccoli sprout)、もしくはスルフォラファン(Sulfor
aphan)10μMをそれぞれの細胞に加え、16時間反応させた。本試験例において、ブロッコリースプラウト抽出物を用いた場合、含有スルフォラファン量としては、それぞれ2.8μM、2.1μM、0.14μM及び0.71μMであった。
【0079】
トランスフェクションから24時間経過後、試験例1と同様に条件でルシフェラーゼアッセイを行った。トランスフェクション効率の標準化のために、pRL−TKベクター(Promega)をコトランスフェクションし、Renillaルシフェラーゼ遺伝子発現を測定した。
【0080】
図5に示す通り、pTRX(−1148)−LucをトランスフェクションしたK562細胞において、ブロッコリースプラウト抽出物の濃度が1〜0.25%の範囲で、濃度依存的にチオレドキシン遺伝子の活性化が認められた。一方、pGL3−basicベクターにおける活性化に変化はなかった。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1A】品種の異なる2種のブロッコリースプラウト抽出物(Broccoli Sprout A又はBroccoli Sprout B)によるチオレドキシン遺伝子の活性化を示す。
【図1B】ケール(Kale)、ブロッコリー(Broccoli)、キャベツ(Cabbage)抽出物によるチオレドキシン遺伝子の活性化を示す。
【図2A】K562細胞におけるスルフォラファンによるチオレドキシン遺伝子の活性化を示す。
【図2B】HepG2におけるスルフォラファンによるチオレドキシン遺伝子の活性化を示す。
【図3】スルフォラファンによるチオレドキシンmRNA発現誘導を示す。
【図4A】スルフォラファンによるチオレドキシン蛋白発現の誘導を示す。 lane 1:DMSOで処理したK562細胞のチオレドキシン蛋白の発現を示す。lane 2:5μMのスルフォラファンで48時間処理したK562細胞のチオレドキシン蛋白の発現を示す。 lane 3:10μMのスルフォラファンで48時間処理したK562細胞のチオレドキシン蛋白の発現を示す。
【図4B】スルフォラファンによるチオレドキシン蛋白発現の誘導を示す。 lane 1:DMSOで処理したRPE細胞のチオレドキシン蛋白の発現を示す。lane 2:0.1μMのスルフォラファンで48時間処理したRPE細胞のチオレドキシン蛋白発現を示す。 lane 3:1μMのスルフォラファンで48時間処理したRPE細胞のチオレドキシン蛋白の発現を示す。 lane 4:10μMのスルフォラファンで48時間処理したRPE細胞のチオレドキシン蛋白の発現を示す。
【図5】スルフォラファン10μMもしくはスルフォラファン1%、0.75%、0.5%又は0.25%と共にインキュベートしたK562細胞における、チオレドキシンの発現誘導を示す。図中白いバーは、コントロール(エタノール)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルフォラファン含有エキスを含むことを特徴とする飲食品。
【請求項2】
該エキスが0.01〜50mg/gのスルフォラファンを含む請求項1に記載の飲食品。
【請求項3】
スルフォラファンを内容組成物の10〜2000μg/100g添加することを特徴とする、請求項1に記載の飲食品。
【請求項4】
該スルフォラファンがアブラナ科植物由来である請求項1に記載の飲食品。
【請求項5】
該アブラナ科の植物が、ブロッコリースプラウト、カイワレダイコン及びムラサキキャベツの新芽からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の飲食品。
【請求項6】
チオレドキシン発現誘導用である請求項1〜5に記載の飲食品。
【請求項7】
酸化ストレス緩和用である請求項1〜5に記載の飲食品。
【請求項8】
飲食品中にスルフォラファンを内容組成物の10〜2000μg/100g添加することを特徴とする、スルフォラファン含有エキスを含む飲食品の製造方法。


【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−109754(P2006−109754A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−300282(P2004−300282)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年10月1日 日本過酸化脂質・フリーラジカル学会発行の「過酸化脂質研究 第28巻」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度生物系特定産業技術研究推進機構基礎的試験研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(502208076)レドックス・バイオサイエンス株式会社 (15)
【出願人】(397013137)株式会社ロック・フィールド (3)
【Fターム(参考)】