説明

チオール化キトサンゲル

生体組織および構造は、二成分組成物から構成される保護ゲル層でコーティングされるが、ここで第1成分がチオール化キトサンを含有し、そして第2成分が十分な酸化剤または外部架橋剤を含有し、それにより2つの成分が混合され、そして組織または構造上にコーティングされる場合、混合物が30分未満で保護ゲル層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001] 本発明は、多糖および生体中で使用するための材料に関する。
【背景技術】
【0002】
[0002] 特定の多糖材料が、外科的修復または薬剤送達のために使用されてきた。そのような材料に関する文献には、以下のものが含まれる:U.S.特許Ns. 6,514,522(Domb)およびU.S.特許Ns. 7,053,068 B2(Prinz)、U.S.特許出願公開No. US 2005/0176620 A1(Prestwych et al.)およびU.S.特許出願公開No. US 2005/0238702 A1(Ishihara et al.)、カナダ特許出願No. 2 348 842 A1(Bernkop-Schnurch)、公開PCT出願No. WO 98/31712 A2(B.F. Goodrich Co.)、公開PCT出願No. WO 01/00246 A2(Bentley et al.)、および公開PCT出願No. WO 03/020771 A1(Mucobiomer Biotechnologische Forschungs-und Entwicklungs GmbH)、Mi et al., Synthesis and Characterization of a Novel Chitosan-Based Network Prepared Using Naturally-Occurring Crosslinker, J Polym Sci, Part A: Polym Chem, 38, 2804-2814 (2000)、Mi et al., Synthesis and characterization of biodegradable TPP/genipin co-crosslinked chitosan gel beads, Polymer, 44, 6521-30 (2003)、Roldo et al., Mucoadhesive thiolated chitosans as platforms for oral controlled drug delivery: synthesis and in vitro evaluation, European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics, 57, 115-121 (2004)、Krauland et al., Viscoelastic Properties of a New in situ Gelling Thiolated Chitosan Conjugate, Drug Development And Industrial Pharmacy, 31, 885-893 (2005)、Bernkop-Schnurch, Thiomers: A new generation of mucoadhesive polymers, Advanced Drug Delivery Reviews, 57, 1569-1582 (2005)、Bernkop-Schnurch et al., Thiomers: Preparation and in vitro evaluation of a mucoadhesive nanoparticulate drug delivery system, International journal of Pharmaceutics, 317, 76-81 (2006)、そしてWeng et al., Rheological Characterization of in Situ Crosslinkable Hydrogels Formulated from Oxidized Dextran and N-Carboxyethyl Chitosan, Biomacromolecules, 8, 1109-1115 (2007)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】U.S.特許Ns. 6,514,522(Domb)
【特許文献2】U.S.特許Ns. 7,053,068 B2(Prinz)
【特許文献3】U.S.特許出願公開No. US 2005/0176620 A1(Prestwych et al.)
【特許文献4】U.S.特許出願公開No. US 2005/0238702 A1(Ishihara et al.)
【特許文献5】カナダ特許出願No. 2 348 842 A1(Bernkop-Schnurch)
【特許文献6】公開PCT出願No. WO 98/31712 A2(B.F. Goodrich Co.)
【特許文献7】公開PCT出願No. WO 01/00246 A2(Bentley et al.)
【特許文献8】公開PCT出願No. WO 03/020771 A1(Mucobiomer Biotechnologische Forschungs-und Entwicklungs GmbH)
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Mi et al., Synthesis and Characterization of a Novel Chitosan-Based Network Prepared Using Naturally-Occurring Crosslinker, J Polym Sci, Part A: Polym Chem, 38, 2804-2814 (2000)
【非特許文献2】Mi et al., Synthesis and characterization of biodegradable TPP/genipin co-crosslinked chitosan gel beads, Polymer, 44, 6521-30 (2003)
【非特許文献3】Roldo et al., Mucoadhesive thiolated chitosans as platforms for oral controlled drug delivery: synthesis and in vitro evaluation, European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics, 57, 115-121 (2004)
【非特許文献4】Krauland et al., Viscoelastic Properties of a New in situ Gelling Thiolated Chitosan Conjugate, Drug Development And Industrial Pharmacy, 31, 885-893 (2005)
【非特許文献5】Bernkop-Schnurch, Thiomers: A new generation of mucoadhesive polymers, Advanced Drug Delivery Reviews, 57, 1569-1582 (2005)
【非特許文献6】Bernkop-Schnurch et al., Thiomers: Preparation and in vitro evaluation of a mucoadhesive nanoparticulate drug delivery system, International journal of Pharmaceutics, 317, 76-81 (2006)
【非特許文献7】Weng et al., Rheological Characterization of in Situ Crosslinkable Hydrogels Formulated from Oxidized Dextran and N-Carboxyethyl Chitosan, Biomacromolecules, 8, 1109-1115 (2007)
【発明の概要】
【0005】
[0003 チオール化キトサンは、自己-架橋反応を受けて、ゲルを形成することができる。報告されたゲル化時間は、30分またはそれ以上であり、そしてしばしば時間で表現される。生体のいくつかの部分において使用される場合、ゲル化されていない材料の十分な部分を、部位から排出することができ、または繊毛(ciliation)またはその他の天然の防御によりゲル化が生じる前に取り除かれてもよい。
【0006】
[0004] 外部架橋剤を、いくつかのキトサン材料に対して添加し、薬物送達用のナノ粒子ビーズまたは錠剤を形成する。ビーズおよび錠剤は、いくつかの適用のために有用である一方、粘膜組織上に保護シーリング層をもたらさない。
【0007】
[0005] チオール化キトサンを適切な量の酸化剤および外部架橋剤の一方または両方と組み合わせることにより、ゲル化が生じる速度を、顕著に増加することができる。得られた混合物が組織または構造上の層中に広げられ、そして酸化剤または外部架橋剤の量が過剰でない場合、保護ゲル層が形成しうる。保護ゲル層は、例えば炎症性応答の調節、食作用、粘膜リモデリング、繊毛再生、またはその他の正常な機能の完全なまたは部分的な回復、などの1またはそれ以上の治癒メカニズムを介して、傷害組織表面、炎症組織表面または外科的修復組織表面を、正常な状態に戻すことを補助することができる。本発明は、一側面において、以下の工程:
a) 生体組織または構造に対して、チオール化キトサンと酸化剤または外部架橋剤との混合物を含有する流体層を適用する工程;そして
b) 混合物にin situで保護ゲル層を形成させる工程;
を含む、生体組織または構造を治療するための方法を提供する。
【0008】
[0006] 本発明は、別の側面において、第1の成分はチオール化キトサンを含み、そして第2の成分は十分な酸化剤または外部架橋剤を含み、それにより2つの成分が混合されそして組織または構造上にコーティングされる場合に、混合物が30分未満で保護ゲル層を形成しうる、生体組織または構造を保護するための二成分組成物を提供する。
【0009】
[0007] 本発明は、さらに別の側面において、チオール化キトサンと十分な酸化剤または外部架橋剤とを含み、それにより保護ゲル層を30分未満でin situで形成する、生体組織または構造上の流体層を提供する。
【0010】
[0008] 開示される保護ゲル層は、望ましくは、別個の抗微生物剤を添加することなく、もともと抗微生物性である。開示される二成分組成物は、望ましくは、複数成分のスプレーディスペンサー、複数バレルシリンジまたは第1成分と第2成分との間に破裂可能または取り外し可能な隔壁を有するアンプル、中にパッケージングされる。開示された方法、組成物および層は、耳、鼻、または喉の中の粘膜組織、そして四肢または脊柱中の開口部、陥凹部、通路、または接合部の中の粘膜組織を治療するために特に有用である。
【0011】
[0009] 開示された方法、組成物、および流体層は、埋め込み剤または埋め込み可能な装置ではなく、または埋め込み剤または埋め込み可能な装置を使用しない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】[0010] 図1は、開示された方法を示すスキーム図である。
【図2】[0011] 図2は、開示された方法において使用することができる、機器の透視図である。
【図3】[0012] 図3は、様々なチオール化キトサン溶液の、ゲル化挙動およびレオロジー特性を示すグラフである。
【図4】[0013] 図4は、様々なキトサン溶液の粘度を示すグラフである。
【図5】[0014] 図5は、in situで架橋されたチオール化キトサンゲル層の抗微生物特性を、トリプチケースソイブロス対照と比較した、グラフである。
【図6】[0015] 図6は、様々なチオール化キトサンゲル層の分解を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[0016] 参考文献と同様に、図面の様々な図における符号は、同様のエレメントを示す。図面中のエレメントは、同一縮尺というわけではない。
【0014】
発明の詳細な説明
[0017] 以下の詳細な説明は、特定の態様を記述し、そして限定する意味では利用されない。本明細書中の全ての重量、量、および比は、特に記載しない限り重量である。以下に示される用語は、以下の意味を有する。
【0015】
[0018] 用語“接着”は、身体構造または補綴材料を、組織に対してくっつけること、組織と組織とを長期間の間緊密に接触させるようにくっつけること、または通常の開放空間を介して身体構造、補綴材料または組織を互いに結合させる組織を形成すること、をいう。
【0016】
[0019] 用語“抗菌性”は、Staphylococcus aureus、Pseudomonas aeruginosa、Streptococcus pneumonia、Haemophilus influenzae、またはMoraxella catarrhalisの1またはそれ以上の個体群における、90%より多い数値的減少(すなわち、少なくとも1-logオーダーの減少)を引き起こす能力のことをいう。
【0017】
[0020] 用語“付着した”および“接着した”は、細菌性バイオフィルムおよび表面に関連して使用される場合、バイオフィルムが表面上で確立され、そして少なくとも部分的に表面をコーティングするかまたは被覆し、表面からの除去に対していくらか抵抗性を有することを意味する。この関係性の性質が複雑であまりよく理解されていないため、付着または接着についての具体的なメカニズムは、そのような使用により意図されない。
【0018】
[0021] 用語“細菌性バイオフィルム”は、細菌により生成される細胞外多糖(EPS)マトリクス中に含有される群落中の有機体(生物)を含む、表面に対して付着した細菌の群落を意味する。
【0019】
[0022] 用語“生体適合性”は、物質に関連して使用される場合、物質が、生体に対して顕著な有害作用または望まれない作用を何も示さないことを意味する。
【0020】
[0023] 用語“生物分解性”は、物質に関連して使用される場合、物質がin vivoで分解されまたは破壊されて、より小さな化学的種または物理的種を形成することを意味する。そのような分解プロセスは、酵素的、化学的または物理的であってもよい。
【0021】
[0024]用語“生体吸収性”は、物質に関連して使用される場合、物質が、生体により吸収されることができることを意味する
[0025] 用語“粘着性”は、液体またはゲルに関連して使用される場合、水平面上に静置される場合の液体またはゲルが(全ての場合に必要というわけではないが)、それ自体にくっつき、そして単一の塊を形成する傾向があることを意味する。
【0022】
[0026] 用語“破砕される”は、粒子材料に関連して使用される場合、カッティング、研磨、微粉砕、粉末化、または外部から印加された力を使用したその他の粒子破砕プロセスにより、粒子が破砕されそしてサイズが小さくなったことを意味する。
【0023】
[0027] 用語“共形(conformal)”は、組織またはその他の身体構造に対して適用される組成物に関連して使用される場合、組成物が、組成物が適用される領域上に実質的な連続層を形成することができることを意味する。
【0024】
[0028] 用語“分離”、“除去”および“崩壊”は、表面に対して付着したかまたは接着した細菌性バイオフィルムに関連して使用される場合、最初には表面上に存在していた少なくとも顕著な量のバイオフィルムが、もはや表面に対して付着したりまたは接着したりしないことを意味する。分離、除去または崩壊の具体的なメカニズムは、その様な使用により意図されない。
【0025】
[0029] 用語“流体”は、物質に関連して使用される場合、物質が、その保管係数(G')よりも大きい損失係数(G'')そして1よりも大きい損失タンジェント(tan δ)を有する液体であることを意味する。
【0026】
[0030] 用語“ゲル”は、物質に関連して使用される場合、物質が変形可能なものであり(すなわち、固体ではない)、G''がG'未満でそしてtan δが1未満であることを意味する。
【0027】
[0031] 用語“ゲル化”は、ゲル層の形成に関連して使用される場合、G''がG'と等しくそしてtan δが1に等しい時間を意味する。
【0028】
[0032] 用語“止血”は、血流を止める機器または材料を意味する。
【0029】
[0033] 用語“ハイドロゲル”は、ゲルに関連して使用される場合、ゲルが、親水性でありそして水を含有することを意味する。
【0030】
[0034] 用語“水和”は、機器または物質に関連して使用される場合、機器または物質が、均一に分散された化学的な結合水を含有することを意味する。“完全に水和”された機器または物質は、水和のための追加の水を取り込むことができない。“部分的に水和”された機器または物質は、水和のための追加の水を取り込むことができる。
【0031】
[0035] 用語“埋め込み材”は、一定期間にわたり1またはそれ以上の活性物質の非経口的埋め込みと放出とに適切なサイズおよび形状を有する、無菌の固形調製物を意味する。
【0032】
[0036] 用語“埋め込み可能な装置”は、人体中に全体を導入するかまたは上皮表面または目の表面を外科的手技を通じて置換することを意図し、そして手技の後に所定の場所にとどまることを意図した、固形装置を意味する。外科的手技を通じて人体に部分的に導入されることを意図し、そして手技の後の少なくとも30日間所定の場所にとどまることを意図した、いずれかの固形装置もまた、埋め込み可能装置と考えられる。
【0033】
[0037] 用語“内耳”は、三半規管および蝸牛を意味する。
【0034】
[0038] 用語“中耳”は、鼓膜、耳小骨連鎖などの内部構造、乳様突起などの周囲の裏打ち構造および境界構造により規定される領域を意味する。
【0035】
[0039] 用語“粘膜接着性”は、機器または物質に関連して使用される場合、機器または物質が、粘液被覆上皮に対して接着し得ることを意味する。
【0036】
[0040] 用語“鼻腔または副鼻腔”は、鼻および洞内の通常は空気で満たされた通路および室を規定する様々な組織のことをいい、組織には鼻孔(nostrilsまたはnares)、鼻甲介(nasal conchaまたはturbinates)、前頭骨、篩骨、ちょう形骨洞および上顎洞、副鼻腔口および鼻咽頭が含まれる(しかし、これらには限定されない)。
【0037】
[0041] 用語“多糖”には、多糖の誘導体および修飾された多糖、ならびに個々の多糖種の誘導体および個々の修飾多糖種が含まれる。例えば、用語“カルボキシメチルセルロース”には、カルボキシメチルセルロース誘導体および修飾カルボキシメチルセルロースが含まれ、用語“キトサン”にはキトサン誘導体および修飾キトサンが含まれ、そして用語“でんぷん”には、でんぷん誘導体および修飾でんぷんが含まれる。
【0038】
[0042] 用語“保護”は、組織またはその他の身体構造上の組成物の層に関連して使用される場合、例えば、炎症性応答の調節、食作用、粘膜リモデリング、繊毛再生、または正常機能のその他の完全なまたは部分的な回復などの1またはそれ以上の治癒メカニズムを介して、層が、傷害組織表面、炎症組織表面または外科的修復組織表面を、正常な状態に戻すことを補助することができることを意味する。
【0039】
[0043] 用語“滞留時間”は、組織またはその他の身体構造上の保護ゲル層に関連して使用される場合、ゲル層またはその部分が巨視的観察のもとin vivoで依然としてその場に存在している期間を意味する。
【0040】
[0044] 用語“溶媒”は、溶質がその中で溶解されるかまたは懸濁される溶媒またはその他の担体を含有する、溶液または分散系を形成することを意味する。
【0041】
[0045] 用語“実質的にコラーゲン不含”は、牛海綿状脳症(BSE)または変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)の伝播またはそれへの感染の潜在的リスクをもたらさないように、実質的に低量のコラーゲンを含有することを意味する。
【0042】
[0046] 用語“薄い”は、組織またはその他の身体構造上の保護層に関連して使用される場合、約2ミリメートル未満の平均厚を有することを意味する。
【0043】
[0047] 図1に関して、開示された方法は、例えば、患者の鼻腔または副鼻腔100中で行うことができ、鼻孔114a、114bを介してアクセスすることができる上顎洞110a、110bおよび前頭洞112a、112bが含まれる。鼻孔114a、114bを含めて患者の外的特徴が、点線で示されることに注目すべきである。患者が、例えば、慢性鼻副鼻腔炎を患っている場合、上顎洞110aの表面と関連する治療部位116などの1またはそれ以上の治療部位を、医学的にまたは必要であれば外科的に対処することができる。治療部位116には、上顎洞110aの線毛上皮が含まれ、そして関連するバイオフィルムが存在する細菌の関連する層が含まれていてもよい(図1中には示さず)。治療部位は、天然の組織である必要はなく、そして代わりに、細菌性バイオフィルムの層により少なくとも部分的に被覆されていてもよい、洞充填(sinus packing)またはステントなどの人工的構造であってもよい(図1中には示さず)。存在する場合、バイオフィルムは、病巣洗浄管(irrigation duct)(図1においては隠されている)を含有する関節結合可能な送達チューブ122とともに、イントロデューサー122の遠位端にてノズル124へと流れそして従って治療部位へと流れることができる溶媒システムを介して、イントロデューサー120を使用して、治療部位116に対して適用することができる溶媒システム(例えば、U.S.特許出願公開No. US 2007/0264310 A1に記載される溶媒システム)を使用して除去することができる。溶媒システムおよびバイオフィルムの残留物を、吸引管(図1においては隠されている)を介して、治療部位から除去することができる。開示されたチオール化キトサン組成物を、同様に、イントロデューサー120中で同一のまたは異なる病巣洗浄管(irrigation duct)を使用して、治療部位にて適用することができる。当業者は、開示されたチオール化キトサン組成物(そして必要であれば溶媒システム)を、その他の方法またはその他の装置を使用して、治療部位に対して適用することができることを理解するであろう。例示的なその他の方法には、動力スプレーまたはその他のスプレー塗布、洗浄(lavage)、ミスト、モッピング、ウィッキング、ドリッピング、そして穿孔(trephination)が含まれ、そして例示的なその他の装置には、スプレーノズル(例えば、単一成分または複数成分のスプレーノズル)およびシリンジ(例えば、単一バレルまたは複数バレルのガラスまたはプラスチックシリンジおよびバルブシリンジ)が含まれる。治療方法を、身体のその他の部分において行うこともできる。治療方法は、組織(例えば、粘膜組織)の治療や、耳、喉、四肢または脊柱中またはその近傍の構造の治療を含む、血管外適用において、特に有用性を有する。
【0044】
[0048] 図2は、開示された治療方法において使用することができる例示的な機器200を示す。機器200には、ハンドル202およびイントロデューサー222が含まれ、その遠位端224(全般を参照)には、スプレーノズル、病巣洗浄管(irrigation duct)および吸引管が含まれるが含まれる(図2においては別々に番号を付けていない)。機器200には、場合によりさらに、第1のアクチュエータアッセンブリ226(全般を参照)および第2のアクチュエータアッセンブリ228(全般を参照)が含まれていてもよい。第1のアクチュエータアッセンブリ226中の調節ホイール230は、イントロデューサー222の曲げをもたらすようにユーザにより機能させることができ、そして第2のアクチュエータアッセンブリ228中の調節ホイール232は、イントロデューサー222の遠位端224からスプレーされる液体のイントロデューサー222に対する運動または回転をもたらすようにユーザーにより機能させることができる。ハンドル202は、一般に、様々な機器200のその他の成分のためのハウジングとして、そしてイントロデューサー222のための支持体として、機能する。ハンドル202は、ピストルグリップ様形状を有していてもよく、グリップ部分234およびノーズ236を規定する。グリップ部分234は、ユーザーの手により握られるようなサイズおよび形状を有し、一方でノーズ236は、イントロデューサー222に結合するように適合される。トリガ238および関連するセンサおよびバルブ(図2においては示されていない)を使用して、開示された再水和ゲル(そして使用する場合、開示された溶媒システム)の、洗浄チューブ(irrigation tube)240を通じた流れ、そしてそれ故に遠位端224中そして所望の治療部位上でのスプレーノズルを介した流れを調節することができる。トリガ238を、多方向性の可動域とともに提供することができ、そして1またはそれ以上の追加のセンサおよびバルブ(図2中には示されない)と組み合わせて、遠位端224での吸引管を介した、そしてそれ故吸引チューブ242を通した、溶媒システム、バイオフィルム残留物およびその他のデブリの治療部位からの除去を、調節することができる。トリガ238を使用して、洗浄チューブ(irrigation tube)240中の別個の管腔を通じて、そしてそれ故に遠位端224中そして所望の治療部位上でのスプレーノズルを介して、開示された再水和ゲルの流れを調節することもできる。
【0045】
[0049] 適用されたチオール化キトサン組成物は、治療部位(例えば、鼻腔または副鼻腔、または四肢または脊柱の部分における開口部、陥凹部、通路または接合部)を満たすことができ、その場合、開示された層は、非常に厚くてもよく、そして空気またはその他の付近のガスに曝露されておらず、そして層を通じて様々な厚さを有していてもよい。チオール化キトサン組成物は、フィルムまたはその他の共形コーティングとして適用することもでき、その場合、開示された層は、相対的に薄く、そして空気またはその他の付近のガスに曝露され、そして層を通じて実質的に均質な厚さを有していてもよい。ゲル化の後、保護ゲル層は、粘着性であるか、弾力性であるか、または粘弾性であってもよい。保護ゲル層は、望ましくは、治療部位にて粘膜組織またはその他の天然の組織(例えば、軟骨または骨)に接着し、そしてゲル層の天然の分解または吸収が、例えば、1日〜数日(例えば、2、3または4日)、数週間または数ヶ月間のin vivoでの滞留時間の後に生じるまで、分離またはその他の崩壊に耐性である。その一方で、細菌の再定着または再感染を、顕著に減少または予防することができ、そして治癒の改善そして繊毛再生の改善が生じうる。保護ゲル層は、細菌接着忌避(repellence)、抗-感染性特性、局所免疫修飾、組織保護、疼痛または出血の減少または除去、炎症の軽減、繊毛再生のための環境の最適化、重大な生体構造(critical anatomy)に対する接着の減少、などを含む(しかしこれらには限定されない)、様々な治療上の利点を提供することができる。これらの利点は、a)殺菌、b)細菌定着の阻害、c)細菌の組織への接着性の阻害、d)組織の病的状態(morbidity)または膿瘍形成の減少、e)疾患再発の減少または予防(例えば、具体的には、細菌毒素およびEPSに関連する慢性炎症の減少)、f)例えば、血小板凝集を促進する湿潤創傷の維持により、または過剰なざらつきの形成を伴わない乾燥創傷の閉合による、治癒のあいだの組織のコーティングおよび保護、g)止血、h)粘膜の繊毛再生用の環境の最適化、i)繊毛の成長または再生の高速化、そしてj)(1または複数の)治療剤の治療部位への送達、を含む様々なメカニズムのために生じる可能性がある。望ましくは、保護ゲル層は、接着していない部分における繊毛を天然の律動的繊毛運動(すなわち、繊毛拍動)を自由に受けるようにしたまま粘膜の部分に接着することができ、所望される場合には抗菌剤または追加の治療剤も送達することができ、そして望ましくは細菌が治療部位に接着することを妨害しまたは予防することができる。
【0046】
[0050] 例示的なチオール化キトサンは、ThioMatrix Forschungs Beratungs GmbHおよびMucobiomer Biotechnologische Forschungs-und Entwicklungs GmbHを含む様々な商業的供給源から入手することができ、またはキトサンと適切なチオール化試薬(例えば、上記の公開PCT出願No. WO 03/020771 A1中または上記のRoldo et al.の論文、Krauland et al.の論文、Bernkop-Schnurch.の論文、およびBernkop-Schnurch et al.の論文中に記載されるもの)との反応により、調製することができる。例示的なチオール化反応物質には、チオグリコール酸、システイン、チオブチルアミジン、グルタチオン、およびチオエチルアミジンが含まれる。
【0047】
[0051] チオール化キトサンは、様々な数平均分子量(例えば、約5〜約2000 kDa、約10〜約500 kDa、または約10〜約100 kDa)を有してもよい。チオール化キトサンは、例えば、約50 kDa未満の数平均分子量を有する超低分子量材料、約50〜約200 kDaの数平均分子量を有する低分子量材料、約200〜約500 kDaの数平均分子量を有する中間分子量材料、または約500 kDaを越える数平均分子量を有する高分子量材料であってもよい。チオール化キトサンは、典型的には、1またはそれ以上のカルボニル部位またはアミン部位を含む短鎖構造を介して、キトサン環上のアミン基に対して結合した複数のペンダントチオール基を含有しており、そして例えば、約50〜約1000、または約400〜約1000のチオール化の程度(μmol SH/gで表す)を有する場合がある。
【0048】
[0052] チオール化キトサンは、望ましくは、乾燥粒子形状で得られ、例えば、平均粒子径が約1 mm未満、約100μm未満、約1〜約80μm、または1μm未満である自由流動性の粒子として、得られる。チオール化キトサンは、好ましくは、そのような乾燥粒子形状でパッケージングされそして使用者に向けて出荷され、そのようにすることにより、長期の保存の間のチオール化キトサンの分解を減少させる。チオール化キトサン溶液を、例えば、使用直前に水または別の適切な溶媒中にチオール化キトサンを溶解することにより、形成することができる。推奨されるチオール化キトサン量は、チオール化キトサンの分子量に依存し、そして例えば、得られる溶液の約1〜約20%、 約1〜約10%、または約1〜約5%であってもよい。同時係属中のU.S.仮出願シリアルNo. 61/047,580(2008年4月24日出願)(US公開出願US 2009/0291911 A1)は、自由流動性のチオール化キトサン粒子を生体適合性の水-混和性極性分散剤中に分散し、そして分散物を粒子用の十分な水性溶媒と組み合わせてそれらを粘着性のハイドロゲルに変換することにより、チオール化キトサンを再水和するための好ましい技術を記載する。チオール化キトサンは、粉砕されているものであってもよいが、望ましくは粉砕されていない。
【0049】
[0053] 一方、酸化剤または外部架橋剤(それぞれは溶液の形状であってもよい)は、通常は、使用直前まで、チオール化キトサンとは別個に保存される。使用することができる例示的な酸化剤には、「http://www.organic-chemistry.org/chemicals/oxidations」において列挙されるものが含まれ、例えば、過酸化水素、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、マッシュルームチロシナーゼ、酸素、ペリオデート、そしてこれらの混合物が含まれる。使用することができる例示的な外部架橋剤には、低分子量アルデヒド(例えば、ゲニピンおよびグルタルアルデヒド)、および重合化アルデヒド(例えば、酸化多糖)が含まれる。酸化剤と外部架橋剤とを両方とも含有する混合物は、所望される場合には使用することができる。十分な酸化剤または外部架橋剤を、望ましくは使用して、それにより保護ゲル層は、混合後30分未満、そしてより好ましくは20分未満、10分未満、5分未満、または混合した後本質的にすぐに、形成される。例えば、過酸化水素などの酸化剤を使用する場合、推奨される量には、最終のチオール化キトサン含有混合物の重量に基づいて約0.01〜約1%または約0.1〜約1%が含まれる。ゲニピンなどの外部架橋剤を使用する場合、推奨される量には、混合物の約0.1〜約10%または約0.25〜約1%が含まれる。過剰量の酸化剤または外部架橋剤は、望ましくないことに、混合物の粘度を低下させ、または炎症を生じさせるかまたはそうでなければ感受性の高い組織を刺激する可能性がある。
【0050】
[0054] 開示されたチオール化キトサン組成物は、望ましくは、実質的にコラーゲンを含まない。好ましくは、チオール化キトサン組成物は、十分にコラーゲン不含(例えば、コラーゲンを何も含まない)なものであり、ヒトにおいて制限なしに世界中で販売可能になる。
【0051】
[0055] 開示されたチオール化キトサン組成物には、場合により、その他の有効成分が含まれていてもよい。これらのその他の有効成分を、二成分組成物第1の成分、第2の成分または両方の成分を混合する前に、配置することができる。例示的なその他の有効成分には、水またはその他の溶媒(例えば、アルコール)、酸、塩基、緩衝化剤、抗菌剤、治療剤、およびその他のアジュバントが含まれる。酸、塩基または緩衝化剤は、例えば、ヒト組織と接触するために適切なpH、例えば、5よりも高いpH、ほぼ中性のpH、または8.5未満のpH、で組成物を維持することができる。例示的な緩衝化剤には、バルビタールナトリウム(barbitone sodium)、グリシンアミド、グリシン、塩化カリウム、リン酸カリウム、炭酸水素カリウムフタレート、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、およびそれらの共役酸が含まれる。
【0052】
[0056] 開示されたチオール化キトサン組成物は、望ましくは、別個の抗菌剤を追加する必要なしに、もともと抗菌性である。しかしながら、所望の場合、別個の抗菌剤を使用することができる。そのような抗菌剤の有用なリストは、例えば、上述したU.S.特許出願公開No. US 2007/0264310 A1中に見出すことができる。
【0053】
[0057] 開示されたチオール化キトサン組成物中で使用することができる例示的な治療剤には、鎮痛薬、抗-コリン作動薬、抗-真菌剤、抗ヒスタミン剤、ステロイド性または非ステロイド性抗-炎症剤、抗-寄生虫剤、抗ウイルス剤、生物静力学的組成物、化学療法剤/抗腫瘍剤、サイトカイン、充血除去剤、止血剤(例えば、トロンビン)、免疫抑制剤、粘液溶解剤、核酸、ペプチド、タンパク質、ステロイド、血管収縮剤、ビタミン、これらの組合せ、そして当業者に知られているその他の治療用材料を含む、目的とする治療部位での使用のために適したいずれかの材料が含まれる。そのような治療剤の有用なリストは、例えば、上述のU.S.特許出願公開No. US 2007/0264310 A1中に見出すことができる。
【0054】
[0058] 開示されたチオール化キトサン組成物中に含ませることができるその他のアジュバントには、染料、色素、またはその他の着色剤(例えば、FD & C Red No. 3、FD & C Red No. 20、FD & C Yellow No. 6、FD & C Blue No.2、D & C Green No. 5、D & C Orange No. 4、D & C Red No. 8、キャラメル、二酸化チタン、果物または野菜の着色剤(ビート粉末、またはβ-カロテン、ターメリック、パプリカ)、および当業者に知られているその他の材料);指示薬;アニス油、サクラ、桂皮油、柑橘油(例えば、レモン油、ライム油またはオレンジ油)、ココア、ユーカリ、ハーブ芳香剤(例えば、丁子油、セージ油またはカッシア油)、ラクトース、マルトース、メントール、ペパーミント油、サッカリン、シクラミン酸ナトリウム、スペアミント油、ソルビトール、スクロース、バニリン、冬緑油、キシリトール、およびこれらの混合物を含む(しかしこれらには限定されない)香味剤または甘味剤;抗酸化剤;消泡剤;および増粘剤およびチキソトロープ(thixotropes)を含むレオロジー修正剤;が含まれる。開示されたチオール化キトサン組成物は、望ましくは、粘膜組織または構造(例えば、鼻腔または副鼻腔中の組織)に潜在的に悪影響を与える可能性がある成分を含有しない。
【0055】
[0059] 組織から水を除去すること、例えば、ポリープまたは浮腫性組織から液体を除去すること、が好ましい事例において、高浸透圧剤を、開示されたチオール化キトサン組成物中で使用することができる。例示的な高浸透圧剤には、フロセミド、塩化ナトリウムゲルおよび組織から水を引き出すその他の塩調製物または粘膜層の浸透圧容量を直接的または間接的に変化させるその他の物質が含まれる。治療剤の持続性放出または遅延放出が望ましい場合、離型剤修正剤が含まれていてもよい。
【0056】
[0060] 開示された組成物は、典型的には滅菌に供され、そして最終消費者への出荷前に適切なシール化パッケージング(例えば、複数成分シリンジ、(1または複数の)バイアル、または適切な材料からなるマルチチャンバポーチ)中におかれる。追加的な特性カスタマイズを、γ線照射処理または電子線(E-Beam)処理等の滅菌手順を使用して制御された鎖切断を生じさせることにより、行うことができる。同日に出願された同時係属中PCT出願公開No.WO2009/132229 A2に記載される様に、低温イオン化放射線滅菌(例えば、低温E-Beam滅菌)を使用して、鎖切断の程度を制限することができる。滅菌するかどうかに関わらず、通常は、チオール化キトサンを含有する第1の成分を、使用直前まで、酸化剤または外部架橋剤を含有する第2の成分から分離し続ける。
【0057】
[0061] 望ましくは、開示されたチオール化キトサン組成物を、細菌性バイオフィルムを崩壊しそしてその回復を阻止する複数工程の処置手順の一部として使用することができる。例えば、洗浄/崩壊、殺傷、通気、保護/コーティング、そして回復(Healing)と幅広く分類することができる一連の工程を行うことができる。図1および図2に関連して検討する様に、洗浄/崩壊工程を、溶媒システムを投与することにより行うことができる。殺傷工程を、適切な抗菌剤を治療部位に適用することにより、行うことができる。このことは、例えば、別個に適用される組成物として溶媒システム中において、または溶媒システム中そして別個に適用される組成物中の両方において、抗菌剤を含ませることにより、達成することができる。抗菌剤を、手術後に適用しまたは投与することもできる。通気工程を、開口している閉塞された通路または部分的に閉塞された通路(例えば、鼻適用のための洞または洞小孔)により治療される組織に対して空気通路を提供しまたは空気通路を改良することにより、行うことができる。このことは、例えば、閉塞組織構造を外科的に除去することにより、またはそのような構造を手作業により排除することにより、達成することができる。保護/コーティング工程を、このように処理された組織の少なくとも部分を開示されたチオール化キトサン組成物でコーティングすることにより、行うことができる。回復工程を、洗浄され、保護され、そしてシールされた組織表面を、例えば、炎症性応答の調節、食作用、粘膜リモデリング、繊毛再生、または正常な機能の完全なまたは部分的な回復、などの1またはそれ以上の治癒メカニズムを介して、正常の状態へと回復させることにより、行うことができる。複数工程の治療計画には、洗浄工程が含まれてもよくまたはその後に洗浄工程を行ってもよく、ここでは、開示されたチオール化キトサン組成物が、所望の期間、例えば、1日以上、3日以上、または約4〜7日内に、そして望ましくは大きな固形の塊を取り除くことなく、治療部位から消失する様に十分に生物分解性または生体吸収性である。開示された方法は、有利には、外科手術を必要とすることなく、例えば、随意的な溶媒システムを適用しそして除去することにより、そして通常の吸引/吸着技術を介して開示されたチオール化キトサン組成物を適用することにより、または罹患組織を単純に洗い流すことにより、達成することができる。比較されうる一連の工程は、中耳または内耳の部分における複数工程の治療計画において、行うことができる。そのような計画のさらなる詳細は、U.S.特許出願公開No. US 2007/0264310 A1中に見出すことができる。
【0058】
[0062] 本発明は、以下の限定的ではない実施例においてさらに説明される。
【実施例】
【0059】
実施例1
[0063] チオール化キトサン材料を、ThioMatrix Forschungs Beratungs GmbH(Innsbruck, Austria)から凍結乾燥形状で取得した。チオグリコール酸-修飾(TGA-修飾)キトサン材料を、Kast et al., Thiolated polymers-thiomers: development and in vitro evaluation of chitosan-thioglycolic acid conjugates, Biomaterials, 22, 2345-2352 (2001)に記載される様に調製した。チオブチルアミジン-修飾(TBA-修飾)材料を、上述のRoldo et al.の文献に記載される様に調製した。キトサン材料の特性を、以下の表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
[0064] チオール化キトサンのIn-situゲル化。150 mgのULCS-TBA高を、4 mL脱イオン水中に溶解した。溶液を0.5 M NaOHを使用してpH 6.0に調整し、そして9 mLに希釈し、その後1 mLの1%(m/m)過酸化水素水を添加した。得られた製剤はcontained 1.5%チオール化キトサンを含有し、そしてレオロジー測定を使用して決定するように、30分未満でゲルを形成した(G'≧G''、図3中、G'については曲線Aを参照、そしてG''については曲線Bを参照)。500 mgのULCS-TBA高(5%)および過酸化水素を含有する製剤は、5分でゲル化したが(図3中、G'については曲線Cを参照、そしてG''については曲線Dを参照)、一方で500 mgのULCS-TBA高(5%)を含有するが過酸化水素を含有しない製剤は、ゲル化するまでに60分間を要した(図3中、G'については曲線Eを参照、そしてG''については曲線Fを参照)。500 mgのULCS-TBA高(5%)および過酸化水素を含有する製剤は、混合開始時点で低い初期G'値を(0.1 Pa未満)、そして約10分以内にかなり高いG''値を(8,000 Paよりも高い)を示すことを含め、非常に好ましいレオロジー特性を示した。
【0062】
[0065] 1.5%のHCS-TBA低または1.5%のHCS-TBA高を含有する製剤を使用して、アルデヒド架橋剤ゲニピンの存在下、追加のゲル化実験を行った。それぞれの場合において、約100〜200 PaのG'値を有するゲルを、5〜10分で形成した。
【0063】
実施例2 スプレー性
[0066] チオール化キトサン溶液の粘度。それぞれ高分子量および低分子量キトサン塩を使用して作製した2種の非-チオール化キトサン溶液の粘性(図4中、曲線Aおよび曲線B)、そしてそれぞれ2.5%のHCS-TGA低および10%ULCS-TGA低を使用して作製した2種のチオール化キトサン溶液(図4中、データ点Cおよびデータ点D)を、脱イオン水中25℃で測定した。HCS-TGA低溶液は、約650 cPの相対的に高い粘性を有したが、一方ULCS-TGA低溶液は、約10 cPの非常に低い粘性を有した。これらの結果およびその他のキトサン溶液を使用して行ったスプレー実験から、ULCS-TGA低溶液は、10%の濃度そして10%を優に上回っても容易にスプレー可能であるようであった。
【0064】
実施例3 抗微生物特性
[0067] チオール化キトサンゲルの抗微生物特性。1.5%および5%のULCS-TBA高製剤および0.1%過酸化水素を用いて作製したゲルの抗微生物活性を、S. aureusに対して調べた。チオール化キトサンゲル製剤を、2重にして、無菌条件下にて、24ウェルポリスチレン組織培養プレート中に直接入れた。各ウェルを、1 mL(500,000コロニー形成ユニット)のS. aureus(ATCC 25923)の細菌懸濁物とともにインキュベーションした。陽性対照を、1 mlのトリプチケースソイブロス(TSB)とともにインキュベーションした。37℃で6時間のインキュベーションの後、培養液を新しいチューブに移し、連続10倍希釈を行った。適切な希釈物からの10μL分を、希釈追跡法(Jett B.D. et al., Biotechniques, 23, 648-650 (1997))を使用して、トリプチケースソイ寒天プレート上に3重にして置いた。プレートを37℃にて24時間インキュベーションし、そしてコロニー形成ユニット(CFU)を計測した。図5に示されるように、5%ゲル(バーB)は、トリプチケースソイブロス(TSB)対照(バーA)と比較して、完全なのバクテリアの殺傷能力(6 log減少以上)を示した。同様の結果(6 logの減少)が、1.5%ゲルを使用して得られた。
【0065】
実施例4 分解
[0068] チオール化CSゲルの分解。1.5%(図6中の曲線Aを参照)および5%(図6中の曲線Bを参照)のULCS-TBA高および0.1%過酸化水素を使用して作製したゲルの分解の挙動を、リゾチーム(1 mg/mL)の存在下、pH 7.4でリン酸緩衝塩類溶液(PBS)中にゲルを設置することにより測定した。重量喪失を28日までの様々な時点で測定した。図6に示されるように、顕著な重量喪失が観察された。28日後、サンプルは完全には分解されていなかった。
【0066】
[0069] 実施例1〜4の結果から、チオール化キトサンを使用して、注入可能な製剤またはスプレー可能な製剤を調製することができることが示され、この製剤はin situで迅速にゲル化して、もともと抗微生物性の保護層を形成する。
[0070] 好ましい態様を記載することを目的として、本明細書中に具体的な態様を説明しそして記載したが、当業者には、同一の目的を達成すると予想された幅広い様々な代替的なまたは均等な実施が、本発明の概念から離れることなく示されそして記載された特定の態様と置換しうるものであることを理解するであろう。この用途は、本明細書中で検討された好ましい態様のいずれの適合またはバリエーションもカバーする様に意図される。したがって、本発明は、請求の範囲およびその均等範囲によってのみ限定されることが明確に意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) チオール化キトサンと酸化剤または外部架橋剤との混合物を含有する流体層を、外科手術の間または直後に、耳、鼻、または喉の粘膜組織に対して適用する工程;
b) 混合物に、組織シーリング材としてin situで保護ゲル層を形成させる工程;
を含む、外科手術の間または直後に、耳、鼻、または喉の粘膜組織を治療する方法。
【請求項2】
流体層を鼻腔に対して適用する工程を含む、請求項1に記載される方法。
【請求項3】
流体層を副鼻腔に対して適用する工程を含む、請求項1に記載される方法。
【請求項4】
流体層を中耳または内耳に対して適用する工程を含む、請求項1に記載される方法。
【請求項5】
流体層をスプレー塗布、洗浄(lavage)、ミスト、モッピング、ウィッキング、またはドリッピングにより適用する工程を含む、請求項1に記載される方法。
【請求項6】
流体層が過酸化水素を含有する、請求項1に記載される方法。
【請求項7】
流体層がゲニピンを含有する、請求項1に記載される方法。
【請求項8】
ゲル化が30分未満で生じる、請求項1に記載される方法。
【請求項9】
ゲル化が10分未満で生じる、請求項1に記載される方法。
【請求項10】
耳、鼻、または喉の粘膜組織を保護するための二成分組成物であって、第1の成分はチオール化キトサンを含み、そして第2の成分は十分な酸化剤または外部架橋剤を含み、それにより二成分が混合されそして粘膜組織上にコーティングされる場合に、混合物が30分未満で保護ゲル層を形成する、前記二成分組成物。
【請求項11】
第1の成分および第2の成分はそれぞれ、複数バレルシリンジのバレル中にパッケージングされる、請求項10に記載される組成物。
【請求項12】
第1の成分が自由流動性の乾燥粒子である、請求項10に記載される組成物。
【請求項13】
第1の成分および第2の成分がそれぞれ水溶液である、請求項10に記載される組成物。
【請求項14】
第2の成分が過酸化水素を含有する、請求項10に記載される組成物。
【請求項15】
第2の成分がゲニピンを含有する、請求項10に記載される組成物。
【請求項16】
2つの成分を混合する場合、ゲル層が10分未満で形成される、請求項10に記載される組成物。
【請求項17】
2つの成分を混合する場合、ゲル層が5分未満で形成される、請求項10に記載される組成物。
【請求項18】
チオール化キトサンと十分な酸化剤または外部架橋剤とを含み、それにより保護ゲル層がin situで30分未満で形成される、耳、鼻、または喉の粘膜組織上の流体層。
【請求項19】
過酸化水素を含有する、請求項18に記載される流体層。
【請求項20】
ゲニピンを含有する、請求項18に記載される流体層。
【請求項21】
約1〜約20 wt.%のチオール化キトサンと約0.01〜約1 wt.%の酸化剤を含有する、請求項18に記載される流体層。
【請求項22】
約1〜約20 wt.%のチオール化キトサンと約0.1〜約10 wt.%の外部架橋剤を含有する、請求項18に記載される流体層。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−518619(P2011−518619A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−506464(P2011−506464)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際出願番号】PCT/US2009/041590
【国際公開番号】WO2009/132226
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(591007804)メドトロニック,インコーポレイテッド (243)
【住所又は居所原語表記】710Medtronic Parkway,Minneapolis,Minnesota 55432,U.S.A
【Fターム(参考)】