説明

チタニア担体に担持されたコバルト触媒の製造法

チタニア担持コバルトを含む触媒が、固体チタニア担体の粒子と炭酸コバルトアンミンの水溶液とを混合し、炭酸コバルトアンミンの分解と前記担体へのコバルト化学種の沈着を起こさせるに足る高温に加熱することによって製造される。本発明の触媒は、水素化反応やフィッシャー・トロプシュ反応に対して有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(コバルト触媒)
本発明は、固体チタニア担体に担持されたコバルトを含む触媒に関し、さらに詳細には、このような触媒の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカやアルミナ等の担体に担持されたコバルトを含む触媒は、当業界においては、水素化反応用(たとえば、アルデヒドやニトリル等の化学物質の水素化用)、およびフィッシャー・トロプシュ反応による合成ガスからの炭化水素の製造用として知られている。
【0003】
WO-A-96/04072は、3〜40重量%のコバルトを含有していて、コバルト1g当たり30m2より大きなコバルト表面積を有する遷移アルミナ担持コバルト触媒を開示している。
EP-A-0013275は、コバルトカチオン、シリケートアニオン、および固体多孔質キャリヤー粒子を含有する加熱混合物に、攪拌しながらアルカリ性沈殿剤を加え、これによりコバルトイオンとシリケートイオンを固体担体粒子上に沈殿させることによって製造される、共沈させたコバルト-シリカ水素化触媒を開示している。
【0004】
WO-A-02/089978は、ニッケル、コバルト、鉄、ルテニウム、オスミウム、白金、パラジウム、イリジウム、レニウム、モリブデン、クロム、タングステン、バナジウム、ロジウム、銅、亜鉛、およびこれらの組み合わせ物からなる群から選択される少なくとも1種の金属と少なくとも1種の促進剤とを含み、触媒粒子を形成するように前記の金属と促進剤を担体上に分散させる、というフィッシャー・トロプシュ法において使用するための触媒を開示している。好ましい担体はアルミナである。粒子は約100m2/g〜約250m2/gのBET表面積を有し、金属酸化物の微結晶サイズが約40Å〜約200Åになるように金属と促進剤を担体上に分散させる。
【0005】
特定の反応においては、アルミナ担持コバルトよりむしろチタニア担体上に付着させたコバルトを使用するのが有益であることがある。たとえば、Oukaciら(Applied Catalysis A:General 186(1999)129-144)によって報告されているように、フィッシャー・トロプシュ反応の場合、研究者によってはチタニア担持コバルトが好まれる。なぜなら、アルミナ、シリカ、または他の担体に担持されたコバルト触媒よりチタニア担持コバルトのほうが、CO水素化に対して活性が高いからである。さらに、γ-アルミナ担体が幾らか溶解する傾向を示すことがある酸性反応媒体中での使用に対しては、チタニア担持触媒が好ましい場合がある。
【0006】
US-A-5968991は、CO水素化反応を行なうのに有用な触媒(特にフィッシャー・トロプシュ触媒)の製造法を開示している。触媒の製造においては、合計で3〜6個の炭素原子を有する多官能性カルボン酸(特に、グルタミン酸やクエン酸)の溶液を使用して、レニウムの化合物もしくは塩、および触媒金属〔すなわち、銅や鉄族金属(たとえば、鉄、コバルト、もしくはニッケル)等の金属〕の化合物もしくは塩を耐熱性無機酸化物担体(たとえばチタニア)上に含浸・分散させる。この製造法では、所望するコバルト組み込み量を達成するためには含浸を繰り返し行なうことが必要となる。
【0007】
US-A-6130184は、チタニアもしくはチタニア前駆体、液体、およびコバルト化合物(使用する液体の量に対して少なくとも部分的に不溶性である)を混合して混合物を作製すること、このようにして得られる混合物を造形・乾燥すること、次いで焼成することを含む、コバルト含有触媒またはコバルト含有触媒前駆体の製造法を開示している。
【0008】
US-A-5545674は、硝酸コバルト水溶液と過レニウム酸との混合物を高温のチタニア球体に噴霧し、その後に必要に応じて、担体球体を非水性液体中に浸漬して不均一に分散されたコバルト触媒を得る、という手順によるチタニア球体担持コバルト触媒の製造法を開示している。
【0009】
US-A-4595703は、フィッシャー・トロプシュ法において使用されるコバルト-チタニア触媒またはトリアで促進されるコバルト-チタニア触媒を開示している。該特許によれば、コバルトもしくはコバルトとトリアを、チタニア(TiO2)またはチタニア含有キャリヤー(すなわち担体)上に複合形成あるいは分散させ、このとき担体は、少なくとも約2:3(好ましくは少なくとも約3:2)のルチル:アナターゼ比を有する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
水素化反応に対して使用される他の触媒金属(たとえば、銅やニッケル)と比較して、コバルトは比較的高価であり、したがって最適の触媒活性を得るためには、存在するコバルトのできるだけ多くが、反応物にとって利用可能な活性形になっているのが望ましい。したがって、担持されている触媒におけるコバルト表面積をできるだけ大きくするのが望ましい。充分に分散されたコバルト化学種を比較的高い組み込み量にて担体に付着させることによって、フィッシャー・トロプシュ法において有用なチタニア担持コバルト触媒を製造するのが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって我々は、固体チタニア担体の粒子と炭酸コバルトアンミンの水溶液とを混合すること、そして炭酸コバルトアンミンの分解と、前記担体上へのコバルト化合物の沈着を起こさせるに足る高温に加熱することを含む、固体チタニア担体に担持されたコバルト化学種を含んだ触媒の製造法を提供する。
【0012】
本発明の1つの実施態様においては、チタニア粒状物質と可溶性コバルト化合物の水溶液とを混合する工程、粒状物質とコバルト化合物との混合物を加熱して、チタニア上へのコバルト化合物の沈着を起こさせる工程、固体残留物を水性媒体から濾過する工程、そして乾燥する工程を含む、チタニア担体に担持されたコバルト化学種を含んだ触媒の製造法を我々は提供する。
【0013】
本発明のさらなる実施態様においては、チタニア触媒担体を炭酸コバルトアンミンの水溶液で飽和させること、および前記水溶液の過剰分を除去してから、得られた物質を、炭酸コバルトアンミンの分解を起こさせるに足る温度に加熱することを含む触媒の製造法を我々は提供する。
【0014】
触媒を含んだ固体残留物を必要に応じて焼成してもよく、また必要に応じて還元してもよい。
“コバルト化学種(cobalt species)”という用語は、元素コバルトおよび結合形でのコバルト(たとえば、酸化コバルトやヒドロキシ炭酸コバルト等の化合物として)の両方を広く含むように使用されている。可溶性コバルト化合物の水溶液を加熱すると担体上に沈着するコバルト化合物は、塩基性の炭酸コバルト化学種および/または酸化コバルトを含む。
【0015】
本発明の触媒は通常、還元形にて使用される。すなわち、コバルト化学種の大部分が金属コバルトに還元されている。しかしながら本発明の触媒は、コバルトが1種以上の化合物(たとえば、元素コバルトに還元可能な酸化物またはヒドロキシ炭酸塩)として存在する前駆体の形態で供給してもよい。この形態においては、物質は触媒前駆体であり、これを処理して、コバルト化合物を金属コバルトに還元することができる。これとは別に、酸化物物質自体が触媒として有用である場合があり、たとえば酸化反応用として使用することができる。本明細書で使用しているコバルト表面積の数値は、還元後の物質に適用されているが、本発明は、還元された触媒の提供に限定されない。
【0016】
“全コバルト(total cobalt)”とは、コバルトが元素状で存在しようと、結合形で存在しようと、コバルトの総量を意味している。しかしながら一般には、還元された触媒中の全コバルトの少なくとも70重量%が元素状である。
【0017】
本発明の触媒は、0.01〜50(特に0.03〜25、そして特に0.05〜10)の範囲のコバルト対チタン原子比を有するのが好ましい。
チタニアは自然源から作製することができ、あるいは合成チタニア(たとえば沈降チタニア)であってもよい。チタニアは、粉末の形態であっても、あるいは造形された粒状物質(たとえば、押出または錠剤化がなされたチタニア片のような)の形態であってもよい。造形された形態の場合、担体は、滑剤および/または結合剤等の形成助剤をさらに含んでよい。チタニアは、必要に応じて、最大20重量%までの他の耐熱性酸化物材料(一般には、シリカ、アルミナ、またはジルコニア)を含んでもよい。これとは別にチタニアは、担体(シリカまたはアルミナであるのが好ましい)上の被膜として、そして一般には、下側の担体に対して0.5〜5単層(0.5 to 5 monolayers)のチタニア被膜として存在してもよい。したがって、チタニアに言及しているときは、チタニアで被覆された担体も含んでいる。
【0018】
適切な粉末状チタニアは一般に、表面加重平均直径(surface weighted mean diameter)(D[3,2])が1〜100μm(特に3〜100μm)の範囲の粒子を有する。必要であれば、チタニアを水中でスラリー状にし、これを噴霧乾燥することによって、チタニアの粒径を増大させることができる。粒子のBET表面積は10〜500m2/gの範囲であるのが好ましい。フィッシャー・トロプシュ合成用触媒のための従来のチタニア担体はルチル形のチタニアをベースにしており、ルチル形はアナターゼ形と比較して優れた耐摩耗性を有する。これらのチタニアは通常、比較的小さな表面積(たとえば約10〜100m2/g)を有する。>300m2/gの表面積を有する、より大きな表面積のチタニア触媒担体が現在市販されており、これらの担体は本発明における使用に対して極めて適している。
【0019】
粒状チタニアは、それらの製造において使用される金型やダイに応じて、種々の形状および粒径を有してよい。たとえば、粒子は、円形、ローブ形(lobed shape)、もしくは他の形状の断面と約1〜10mmの長さを有してよい。表面積は、一般には10〜500m2/g(好ましくは100〜400m2/g)の範囲である。
【0020】
チタニアの細孔体積は、一般には約0.1〜4ml/g(好ましくは0.2〜2ml/g)であり、平均細孔直径は2〜約30nmの範囲であるのが好ましい。
コバルト化合物は、所望のコバルト含量を有する生成物が得られるよう、炭酸アンモニウムを水酸化アンモニウム水溶液中に混合して得られる溶液中に塩基性炭酸コバルトを溶解することによって、水溶液中にてその場で形成されるコバルトアンミン錯体であるのが最も好ましい。炭酸コバルトアンミン溶液は、追加の水酸化アンモニウムを含有する、炭酸アンモニウムまたはカルバミン酸アンモニウムの水溶液中に塩基性炭酸コバルトを溶解することによって作製することができる。相対的な量は、溶液のpHが7.5〜12(好ましくは9〜12)の範囲となるような量でなければならない。炭酸コバルトアンミン溶液は、1リットル当たり0.1〜2.5モルのコバルト錯体を含有するのが好ましい。コバルトの濃度が増大するにつれて、一般には、塩基性炭酸コバルト供給物中の炭酸イオン対水酸化イオンの比率が大きくなるはずである。担体粒子を混合したときに取扱い可能な粘度のスラリーを得るために、さらなる水酸化アンモニウム溶液を加えることができる。次いで、コバルトアンミン錯体化合物を、たとえば60〜110℃の範囲の温度に加熱してコバルトアンミン錯体を分解させ(このときアンモニアと二酸化炭素が発生する)、チタニアの表面上および細孔中にコバルト化合物を付着させる。この工程は、スラリーがある時間(後述のエージング時間)にわたって高温に保持されるように、チタニア粉末をコバルト化合物と共にスラリー化にするときに行なうのが適切である。次いで、この固体物質を水性媒体から濾過し、洗浄し、そして乾燥する。本発明の方法のこの手順を使用すると、高いコバルト分散性と高いコバルト組み込み量(たとえば、10重量%を超えるコバルト、さらに好ましくは15重量%を超えるコバルト)を有する触媒を単一の付着工程にて製造することができる。
【0021】
触媒中のコバルトの量は、反応混合物におけるコバルトと担体の相対量を変えることによって、およびコバルト化合物の溶液の濃度を調節することによって変えることができる。
【0022】
これとは別に、コバルト化合物は、チタニア粒子にコバルト化合物の溶液を含浸させることによってチタニア粒子の細孔構造中に吸収される。次いでチタニア粒子を残りの溶液から容易に分離することができ、チタニア粒子内に保持されているコバルト化合物を分解させて、コバルト化学種をチタニア粒子の構造中に付着させるよう、チタニア粒子をたとえば100℃を超える温度に少なくとも60分(好ましくは少なくとも100分)のエージング時間にわたって加熱することによって、エージングプロセスを行なうことができる。たとえば、チタニア粒子を含浸溶液から分離し、そして乾燥してから引き続き含浸を行なうことによって、チタニア粒子を連続的な含浸にて処理することができる。
【0023】
次いでこの固体物質を、空気中にて、たとえば250〜450℃の範囲の温度で焼成して、コバルト化合物を酸化コバルトに分解させることができる。こうして得られる触媒前駆体を、たとえば水素を使用して、300〜550℃(さらに好ましくは約500℃未満、たとえば330〜420℃)の温度で還元することができる。還元を行うと、全部ではないとしても、酸化コバルトの大部分が金属コバルトに還元され、その結果、コバルト金属が高度に分散された形態(すなわち、大きなコバルト表面積を有する)で得られる。これとは別に、コバルト化合物を直接(すなわち、焼成工程を必要とせずに)還元することもできる。
【0024】
チタニアと炭酸コバルトアンミンの使用量は、コバルト対チタン原子比が0.03〜5の範囲となるような量であるのが好ましい。触媒のコバルト含量にかかわりなく、触媒の粒径はチタニアの粒径と実質的に同じである。
【0025】
本発明の触媒は、合計で3〜75重量%のコバルトを含有するのが好ましい。表面積が小さいタイプのチタニア(すなわち、100m2/g未満のBET表面積を有する)を使用すると、コバルト含量は、より一般的には、合計で40重量%未満(たとえば、合計で5〜35重量%)となる。望ましいコバルト量は、触媒が使用される反応のタイプに応じて異なる。適切なコバルト量の選定は、当業者によって容易に決定されるか、あるいは当業者に公知である。好ましい触媒は一般に、全コバルト1g当たり15〜100m2(特に20〜40m2)の範囲のコバルト表面積を有する。
【0026】
コバルト表面積はH2の化学吸着によって測定する。サンプル(約0.5g)を脱気して、減圧下にて120℃で乾燥し、次いでサンプルに水素ガスを250ml/分の流量で18時間通しながら、3℃/分の割合で425℃(特に明記しない限り)に加熱することによって還元する。サンプルを減圧下にて10分で450℃に加熱し、この状態で2時間保持する。この予備処理の後で、純粋なH2ガスを使用して150℃で化学吸着分析を行なう。800mmHgのH2圧力までの充分な等温線を測定し、300mmHg〜800mmHgの化学吸着等温泉の直線部分を圧力ゼロに外挿して、サンプルによって化学吸着されるガス(V)の体積を算出する。次いで、金属の表面積を下記の式から算出する:
コバルト表面積=(6.023×1023×V×SF×A)/22414
〔式中、V=ml/g表示におけるH2の吸収量、SF=化学量論因子(CoへのH2化学吸着の場合は2と仮定する)、A=1原子のコバルトによって占有される面積(0.0662nm2と仮定する)〕。
【0027】
コバルト表面積を算出するこの方法は、「the Operators Manual for the Micrometrics ASAP 2000 Chemi System V1.00, Appendix C(Part no 200-42808-01,18th,January 1991)」に記載されている。
【0028】
水素化反応の場合、コバルトの活性形は元素コバルトである。しかしながら活性触媒においては、通常はコバルトの全部ではなく一部だけが元素形に還元されている。したがって有用な基準は、存在する全コバルトの1g当たりの元素コバルトの露出表面積である。本明細書において明記されている場合を除いて、全コバルト含量は、触媒もしくはその前駆体の100重量部当たりのコバルトの重量部〔コバルトが実際に金属として存在していようと、あるいは結合形(たとえば酸化コバルト)になっていようと、コバルト金属として算出する〕として表示する。
【0029】
有用な触媒物質は、その用途に応じて、沈降・乾燥した物質、焼成した(酸化物の)物質、または還元された物質によって形成される。
ある触媒組成物が、所望する反応のための触媒活性形を得るために焼成および/または還元等の工程を必要とする場合、その触媒組成物は触媒前駆体と呼んでよい。
【0030】
非還元形においては、本発明の触媒は、たとえば、有機物質を含有する廃液の処理におけるような酸化反応(たとえば、有機化合物を酸化するための反応)に対して有用である。
本発明の触媒組成物は、必要に応じて、1種以上の促進剤金属を含んでもよい。適切な促進剤金属としては、ホウ素、セリウム、クロム、銅、イリジウム、鉄、ランタン、マンガン、モリブデン、パラジウム、白金、レニウム、ロジウム、ルテニウム、ストロンチウム、タングステン、バナジウム、亜鉛、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、チタン、ジルコニウム、他の希土類金属、およびこれらの組み合わせ物がある。促進剤金属の選択は所望する触媒用途に依存する。好ましい促進剤は、還元された触媒において大きなコバルト表面積の形成を促進すると思われるレニウムである。
【0031】
本発明の触媒は、還元形においては、水素化反応〔たとえば、芳香族化合物やオレフィン系化合物(たとえば、ワックス、ニトロ化合物、ニトリル化合物、またはカルボニル化合物)の水素化、たとえば、ニトロベンゼンのアニリンへの転化、脂肪族ニトリルのアミンへの転化、またはアルデヒドの対応するアルコールへの水素化〕に使用することができる。本発明の触媒はさらに、微量の不飽和をなくすための、パラフィンワックスの水素化にも使用することができる。本発明の触媒はさらに、広範囲の他の反応に対しても、たとえばフィッシャー・トロプシュ法(すなわち、水素と一酸化炭素を触媒の存在下で反応させて高級炭化水素を作製する)に対しても有用である。フィッシャー・トロプシュ法は、天然ガスの石油化合物への転化に対する全プロセスの一部であってよく、このとき水素/一酸化炭素ガス混合物は、天然ガスを水蒸気改質することによって形成される合成ガスである。
【0032】
本発明の触媒は、触媒粒子を適切なキャリヤー媒体(たとえば、硬化大豆油や炭化水素ワックス)中に分散させて得られる混合物の濃縮物の形態で供給することができる。前記濃縮物中の触媒の量は、濃縮物が合計で3〜30重量%(好ましくは5〜15重量%)のコバルト含量を有するような量であるのが好ましい。これとは別に、たとえば、粒状化、錠剤化、押出、または他の公知の方法(必要に応じて滑剤や結合剤等の加工助剤を加える)によって、触媒を、造形された小片を作製するためのプロセスに付すこともできる。
【0033】
触媒が還元形にて使用される場合、触媒を、使用の前にその場で還元する非還元形(すなわち触媒前駆体)で供給することができる。あるいはこれとは別に、還元された金属を、その後の貯蔵・輸送時において保護するために、触媒を還元してから不動態化することもできる。触媒を保護する方法はよく知られている。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、使用した原液は、1707gのアンモニア溶液(SG 0.89,30%アンモニア)、198gの炭酸アンモニウム、218gの塩基性炭酸コバルト(Co 46.5重量%,バルク密度0.640g/ml)、および1877gの脱塩水を使用して作製した。原液の全容積は4リットルであった。
【0035】
使用したキャリヤーはデグッサ社から市販のP25チタニアであり、50.6m2/gの表面積(BET法によって測定)、約0.14ml/gの細孔容積(脱着等温線のP/P0=0.980値から窒素ポロシメトリーによって測定)、および1.7μmの平均直径D[3,2]を有する。平均細孔直径〔4*Vp/SBET(式中、Vpは細孔容積(m3/g)であり、SBETはBET表面積(m2/g)である)として算出される〕は約11nmであった。このチタニアの相比は、アナターゼが約83%で、ルチルが約17%である。
【0036】
(実施例1)
原液とキャリヤー粒子とを混合することによって得られるスラリーの粘度を下げるために、原液の一部を、原液1容量部当たり9重量%アンモニウ溶液7容量部で希釈した。希釈原液のpHは11.1であった。
【0037】
チタニアキャリヤー粒子と、チタニア粒子の重量を基準として公称5重量%のコバルトに相当する量の希釈原液を、蒸留によって液体を除去するための凝縮器を取り付けた攪拌容器に仕込んだ。本混合物を、攪拌しながら沸騰するまで加熱し、約96℃での穏やかな沸騰をある時間にわたって保持した。約90分の総加熱時間後に、溶液が透明になった。130分の総加熱時間後に、混合物の一部を濾過し、固体を回収・洗浄し、そして空気中110℃にて一晩乾燥してサンプルAを得た。
【0038】
混合物の残部に対して穏やかな沸騰をさらに20分行い(150分の総加熱時間となる)、混合物を濾過し、固体を回収・洗浄し、そして空気中110℃にて一晩乾燥してサンプルBを得た。
【0039】
このようにして得られた触媒前駆体AとBを、425℃に加熱しながら触媒層に水素を通すことによって還元した。コバルト表面積を前述のH2化学吸着によって測定した。
(実施例2)
希釈していない原液、および130分と150分の総加熱時間を使用したこと以外は、実施例1の手順を繰り返した。原液の使用量は、チタニア粒子の重量を基準として公称10重量%のコバルトをもたらすような量であった。
【0040】
(実施例3)
原液1容量部当たり1容量部の9重量%アンモニア溶液、およびチタニア粒子の重量を基準として公称15重量%のコバルトをもたらすような量の希釈原液を使用したこと以外は、実施例1の手順を繰り返した。総加熱時間は、120分、140分、および160分であった。
【0041】
(実施例4)
希釈していない原液を、チタニア粒子の重量を基準として公称コバルト含量が20重量%となるような量にて使用して、実施例2の手順を繰り返した。総加熱時間は、70分、95分、120分、および135分であった。
【0042】
(実施例5)
原液1容量部当たり1容量部の9重量%アンモニア溶液、およびチタニア粒子の重量を基準として公称25重量%のコバルトをもたらすような量の希釈原液を使用したこと以外は、実施例1の手順を繰り返した。総加熱時間は、60分、80分、および100分であった。
【0043】
還元された触媒のコバルト含量は、非還元物質の実測コバルト含量、および非還元物質と還元触媒との間の重量差から算出した。化学吸着の結果を表1に示す。
実施例4Dの前駆体サンプル(すなわち還元前)を、窒素ガス流れ中5%水素にて、温度でプログラム化された還元(temperature programmed reduction)に付した。先ずサンプルを120℃に加熱して水分を除去し、次いで水素流れ中にて5℃/分の加熱速度で120℃から1000℃に加熱した。各温度での水素の消費量を明らかにするために、入口ガスと出口ガスとの間の水素濃度の変化をカサロメーターによってモニターした。これらの結果によれば、195℃、275℃、および435℃にてピークを示した。275℃のピークはCo3O4のCoOへの還元によるものと考えられ、また435℃のピークはCoOのコバルト金属への還元に相当している。高温で還元するいかなる化学種に対しても、全てのコバルトが還元可能であるということ、および還元不能なチタン酸コバルトの形成は殆どないということを示唆する証拠はない。
【0044】
【表1】

【0045】
比較として、γ-アルミナ担体〔プラロックス(Puralox)(商標)HP14/150、サソール社(Sasol)から市販〕上に20%のCoを含む触媒(類似の方法によって製造)を、同じ条件下にて温度でプログラム化された還元に付した。それぞれ約225℃、295℃、および600℃において対応するピークが生じる。さらに、小さくてブロードなピークが800〜900℃において存在しており、このことは、還元するのが困難なコバルト化合物(アルミン酸コバルトであると考えられる)が存在することを示している。したがって、チタニア担体上のコバルト触媒のほうが、アルミナ担体上の同等の触媒より還元が容易である。
【0046】
(実施例6〜10)
ルチル相の含有量を増大させるために730℃で4時間焼成しておいたP25チタニア担体を使用して、実施例1に記載の方法によって触媒を製造した。焼成した担体は、約75%のルチル形チタニアと約25%のアナターゼ形チタニアで構成された。スラリーが適切な粘度となるように、必要に応じて原液を30%アンモニア水溶液で希釈し、チタニアとアンモニア水溶液の量を、必要とする最終コバルト含量が得られるように調節した。得られた結果を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
(実施例11)
20重量%のコバルトを含有するチタニア担持コバルト(実施例1にしたがって製造)に45%過レニウム酸水溶液を含浸させた。この操作は、前記触媒を含有する回転ドラム中に前記水溶液を噴霧することによって行なった。水溶液の量は、1重量%のレニウムを含有する触媒が得られるよう算定した。前述の水素化学吸着を使用して表面積を測定した。レニウムで促進される触媒と促進剤を含まない触媒に対する結果を表3に示す。425℃の還元温度に対して、そしてさらに350℃で還元したサンプルに対して表面積を測定した。レニウム含有触媒に対して温度でプログラム化された還元を行うと、レニウムを含有しない触媒の場合の約435℃と比較して、酸化コバルトの還元の主要な最大ピークを約400℃にて示した。
【0049】
【表3】

【0050】
(実施例12)
実施例5Cの触媒の性能をフィッシャー・トロプシュ反応にて試験した。
先ず、700ml/分のH2を使用して、触媒(10g)を固定床反応器中にて400℃で4時間還元した。次いで7.6gの還元触媒を1リットルのCSTRに移し、触媒1g当たり1時間当たり5標準リットル(5 Standard l)の水素を使用して、その場で230℃にて15時間にわたって再度還元してから、温度を3時間で210℃に上昇させながら20バールおよび180℃にてフィッシャー・トロプシュ反応を開始させた。ガス混合物(モル比、H2:CO=2.1:1)の流量を、約50%の転化率に達するように調整した。触媒1g当たり1時間当たり5標準リットルのH2空間速度で48.5時間後にて、以下のような性能が観察された。COの転化率は51.4%であり、種々の生成物に対する選択性は、CH4が4.3%、CO2が0.3%、C2-C4オレフィンが1.67%、C2-C4パラフィンが1.42%、そしてC5+の有機化合物が92.31%であった。比較のため、類似の方法によって製造したアルミナ担持コバルト触媒を同じ条件にて試験した。選択性の結果を表4に示す。
【0051】
(実施例13)
チタニアで被覆したアルミナを単体として使用して、本発明の方法にしたがって触媒を製造した。この担体は、128gのチタン酸テトライソプロピル〔ヴェルテック(VERTEC)(商標)TIPT〕を1000gのイソプロパノール中に希釈し、次いで400gのγ-アルミナ〔プラロックスHP14/150、サソール社から市販〕と、ロータリーエバポレーター中にて45℃で30分混合することによって製造した。イソプロパノールを蒸留によって除去し、温度を90℃に上げ、圧力を減圧にした。得られた粒子を、120℃で少なくとも15時間乾燥してから、400℃で8時間焼成した。この担体は、アルミナの重量を基準として5.4%のTiを含有していた。これらの担体を使用して、実施例1に記載の方法にしたがってサンプル13Aと13Bを作製した。
【0052】
【表4】

【0053】
(実施例14)
400gのプラロックスHP14/150アルミナと、138gの76%乳酸チタン水溶液を2500gの脱イオン水中に希釈して得られる溶液とを30分混合した。得られたスラリーを、192gの14%アンモニア溶液を使用してpH9.5に調節した。減圧濾過によって固体を除去し、水中に混合して再びスラリー状にし、2リットルの脱イオン水中にて2回洗浄した。得られた粒子を、120℃で少なくとも15時間乾燥してから400℃にて8時間焼成した。この担体は、アルミナの重量を基準として5.4%のTiを含有していた。この担体を使用して、実施例1に記載の方法にしたがって触媒14Aと14Bを作製した。コバルト表面積は、前述のH2化学吸着によって測定した。得られた結果を表5に示す。
【0054】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタニア担体と炭酸コバルトアンミンの水溶液とを混合すること、そして炭酸コバルトアンミンの分解と、前記チタニア担体上への不溶性コバルト化合物の沈着を起こさせるに足る高温に加熱することを含む、チタニア担体に担持されたコバルト化学種を含む触媒の製造法。
【請求項2】
チタニア担体を炭酸コバルトアンミンの水溶液で飽和させること、そして前記水溶液の過剰分を除去してから、得られた物質を、炭酸コバルトアンミンの分解を起こさせるに足る温度に加熱することを含む、請求項1記載の製造法。
【請求項3】
チタニア担体と前記コバルト溶液との混合物をその場で炭酸コバルトアンミンの分解を起こさせるに足る温度に加熱してから、固体触媒を混合物から分離し、そして乾燥する、請求項1記載の製造法。
【請求項4】
チタニア担体とコバルト溶液を少なくとも60分にわたって高温に保持する、請求項1〜3のいずれかに記載の製造法。
【請求項5】
前記温度が60〜110℃の範囲である、請求項1〜4のいずれかに記載の製造法。
【請求項6】
得られる触媒物質を200〜600℃の温度で焼成する工程をさらに含む、請求項1〜5のいずれかに記載の製造法。
【請求項7】
得られる触媒物質を300〜550℃の温度にて水素で還元する工程をさらに含む、請求項1〜6のいずれかに記載の製造法。
【請求項8】
還元された触媒を粒状形態物質の状態でキャリヤー・マトリックス中に分散させる工程をさらに含む、請求項7記載の製造法。
【請求項9】
チタニア粒子と炭酸コバルトアンミン錯体水溶液との混合物のpHを加熱工程時に7.5より高く保持する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の製造法によって製造される触媒または触媒前駆体。
【請求項11】
オレフィン基、カルボニル基、ニトリル基、ニトロ基、または芳香族基を含んだ有機化合物を水素化する方法であって、前記化合物と水素とを請求項10記載の触媒の存在下にて反応させることを含む前記方法。
【請求項12】
一酸化炭素と水素とを請求項10記載の触媒の存在下にて反応させることによって炭化水素を作製する方法。
【請求項13】
請求項10に記載の触媒前駆体を水素で還元してから前記水素化反応を行なうことによってその場で活性触媒を作製する工程をさらに含む、請求項11または請求項12に記載の方法。
【請求項14】
有機化合物と酸素含有化合物とを請求項10記載の触媒の存在下にて反応させることによって有機化合物を酸化する方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタニア担体と炭酸コバルトアンミンの水溶液とを混合すること、そして炭酸コバルトアンミンの分解と、前記チタニア担体上への不溶性コバルト化合物の沈着を起こさせるために60〜110℃の範囲の温度に加熱することを含む、チタニア担体に担持されたコバルト化学種を含む触媒の製造法。
【請求項2】
チタニア担体を炭酸コバルトアンミンの水溶液で飽和させること、そして前記水溶液の過剰分を除去してから、得られた物質を、炭酸コバルトアンミンの分解を起こさせるに足る温度に加熱することを含む、請求項1記載の製造法。
【請求項3】
チタニア担体と前記コバルト溶液との混合物をその場で炭酸コバルトアンミンの分解を起こさせるに足る温度に加熱してから、固体触媒を混合物から分離し、そして乾燥する、請求項1記載の製造法。
【請求項4】
チタニア担体とコバルト溶液を少なくとも60分にわたって高温に保持する、請求項1〜3のいずれかに記載の製造法。
【請求項5】
得られる触媒物質を200〜600℃の温度で焼成する工程をさらに含む、請求項1〜4のいずれかに記載の製造法。
【請求項6】
得られる触媒物質を300〜550℃の温度にて水素で還元する工程をさらに含む、請求項1〜5のいずれかに記載の製造法。
【請求項7】
還元された触媒を粒状形態物質の状態でキャリヤー・マトリックス中に分散させる工程をさらに含む、請求項6記載の製造法。
【請求項8】
チタニア粒子と炭酸コバルトアンミン錯体水溶液との混合物のpHを加熱工程時に7.5より高く保持する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の製造法によって製造される触媒または触媒前駆体。
【請求項10】
オレフィン基、カルボニル基、ニトリル基、ニトロ基、または芳香族基を含んだ有機化合物を水素化する方法であって、前記化合物と水素とを請求項9記載の触媒の存在下にて反応させることを含む前記方法。
【請求項11】
一酸化炭素と水素とを請求項9記載の触媒の存在下にて反応させることによって炭化水素を作製する方法。
【請求項12】
請求項9に記載の触媒前駆体を水素で還元してから前記水素化反応を行なうことによってその場で活性触媒を作製する工程をさらに含む、請求項11または請求項12に記載の方法。
【請求項13】
有機化合物と酸素含有化合物とを請求項9記載の触媒の存在下にて反応させることによって有機化合物を酸化する方法。

【公表番号】特表2006−513020(P2006−513020A)
【公表日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−539207(P2004−539207)
【出願日】平成15年9月25日(2003.9.25)
【国際出願番号】PCT/GB2003/004109
【国際公開番号】WO2004/028687
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【出願人】(590004718)ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー (152)
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】