説明

チタン合金部品の応力緩和熱処理

【課題】チタン合金部品の応力緩和熱処理の提供。
【解決手段】本発明は、チタン合金部品の製造方法であって、上記部品の内部応力を緩和する熱処理を行い、当該熱処理では、「Tbt」で表されるβ変態(β転移)温度よりも高い温度「T1」で上記部品を保持し、上記部品がクリープ現象によって自由に変形することを特徴とする製造方法に関する。また、本発明は、上記製造方法を行うための工具にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、応力緩和熱処理、および、該応力緩和熱処理用の成形工具(shaping tool)に関する。
【0002】
本発明は特に、細長チタン合金部品、あるいは、互いに大きく異なる複数の断面を有するよりマッシブなチタン合金部品の熱処理方法に関する。上記チタン合金は特にα−β型のチタン合金、つまり、その微細構造が室温においてα相とβ相の両方を呈するものである。広く流通しているα−β合金としては、特に、TA6V、または、TA6V4もしくはTi−6Al−4Vの商品名で知られるものを挙げることができる。
【背景技術】
【0003】
α−β型チタン合金、特にTA6V型の合金は、低比重および良好な耐腐食性に加えて、機械的強度と靭性のバランスに優れる部品の製造が可能である。TA6V型合金は、その示し得る機械的特性から様々な分野の用途に使用されているが、なかでも航空分野において、航空機用のエンジンパイロンの翼桁、機体ドアフレーム部材、構造フレーム部材などの大型部品の製造に使用されている。
【0004】
これらの部品は、一般的に鍛造、プレス加工、熱処理、切削加工の一連の工程を経て製造される。
【0005】
上記大型部品は、典型的には下記2種類のいずれかに該当する。
・細長部品:すなわち、非常に細長く、特に長さ/平均厚さの比、または、長さ/平均径の比が10を超えるもの。目標とする細長部品は、平均厚さ100mm未満に対して長さ5mのものにもわたり、その断面は一定であってもなくてもよい。
・互いに大きく異なる複数の断面を有するよりマッシブな部品:すなわち、断面積比が2/1を超える断面の差異を有するもの。「よりマッシブな(more massive)」部品とは、部品の体積内で内接可能な最大球(内接球)の直径が150mmを超える寸法(直径、厚さ、長さ等)を有するものを意味すると理解される。また、「相当直径」が150mmを超えるものともいう。具体的には、最大相当直径が250mmにも達する構造フレーム部材が上記部品として挙げられる。
【0006】
これらの大型部品は特殊な形状を有するため、熱機械的処理、切削加工作業、および/または、通常の熱処理が施されると、熱的または結晶学的要因による内部応力の発生、さらには部品の歪みや変形が助長されてしまう。
【0007】
これらは、熱機械的変態工程や切削加工工程によって、優れた機械的特性および精密な寸法公差が求められる大型部品をチタン合金ビレットから製造する製造者らが実際に直面する問題である。
【0008】
というのも、より細長い部品であればあるほど、および/または、互いにより大きく異なる複数の断面を有する部品であればあるほど、冷却工程時に部品が変形しやすくなったり、熱機械的応力がかかるとすぐに早期亀裂や早期破壊が起こりやすくなったりするからである。例えば、互いにより大きく異なる複数の断面を有する部品であればあるほど、各断面間の冷却速度の差がより大きくなり(小さな断面の中心部では、より大きな断面の中心部に比べて冷却速度が速くなる)、異なった断面により応力が集中する。
【0009】
上記問題により、このような部品が、精密な寸法公差を満たし、かつ、優れた機械的特性を達成するのは現時点では困難である。
【0010】
これらの欠点を克服するために、熱機械的変態工程(鍛造および/またはプレス加工)中またはその工程後に、下記2つのいずれかの方法で徐冷作業を行うことが知られている。
・部品を炉内に置いたまま、制御冷却を行う方法
・部品を熱的に遮断された室内に置いて冷ます方法
これらの徐冷作業は、5℃/分未満の速度で行われるが、消費エネルギーが大きく、材料や工具を固定しなければならないことから高額な費用がかかる。部品を徐冷しなければならないことによって、工場の生産性がかなり低下する。
【0011】
また、これらの欠点を克服するために、荒加工および仕上げ切削の作業を行う前に、「応力緩和」α−β熱処理(730℃未満)または応力緩和処理と呼ばれる処理を行って、熱的または結晶学的要因による部品内部の応力を減少させ、切削作業中に部品が変形しないようにすることも知られている。
【0012】
しかし、この種の緩和処理では、すべての熱応力を除去することができないことに加え、冷却速度が速すぎた場合や、断面の差異の量(マッシブな度合いの差)、および/または、部品内部の冷却速度の差に応じて、新たな応力を発生させてしまうこともあり得る。
【0013】
これらの大きな部品には優れた機械的特性(とりわけ損傷に対する耐性(言い換えると、亀裂成長に対する耐性))が求められるため、機械的特性を向上させるために別途熱処理を施すことが知られている。当該熱処理は合金の機械的特性の向上を目的として行われるものであり、当該処理では一般的に、部品を所定の位置に保持する(多くは締め付け工具を使用)。この処理は、「β処理」と呼ばれるものであり、すなわち、β変態温度よりも高い温度での処理である。この処理により、粗大結晶粒構造とすることができ、特に亀裂成長に対する耐性を向上させることができる。しかしながら、同様に切削作業前に行われるこの処理には、β変態温度よりも高い温度での熱処理中、または、その温度からの冷却処理中にクリープ現象によって部品が変形するという欠点があることが知られている。
【0014】
そこで、β処理中に無制限な変形が起こるという上記問題を防ぐため、クランプなどの工具を用いて部品に圧力をかけることによって部品寸法の相対的変化を防ぐことができる。しかし、その代償に、部品内部に新たな応力が発生してしまい、上述したようなα−β緩和熱処理を後で施したとしてもこの応力を除去するのは難しい。その結果、その後の切削作業中に、先の熱機械的処理により生じた内部応力に加えてさらに蓄積された内部応力が解放され、より大きな変形が部品に生じたり、切削工具によって加圧された影響で、部品の最大応力領域に微細な亀裂や裂け目が生じたりする可能性がある。
【0015】
その上、β熱処理後にクランプを開放するとすぐに、クランプから外された部品は、蓄積された内部応力の影響で再び変形しやすくなる。このように、切削作業を行う前には、通常、部品が変形し、それぞれ異なったものとなってしまうので、必要とされる仕上げ寸法公差を満たさない部品とならないように部品ごとに切削パラメータおよび座標系を調整しなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上述した欠点を克服し、所定の機械的特性を達成しつつ、必要とされる仕上げ寸法公差を満たし、かつ、残留内部応力を有さない部品を製造できる応力緩和熱処理方法を提供することを目的とする。
【0017】
本発明の第二の目的は、補正された(calibrated)キャビティ型にチタン合金部品を処理温度下で適合させることができ、かつ、内部熱応力や変形を生じさせないか、これらが生じたとしても最低限度(つまり、従来の応力緩和処理で生じる応力よりも大幅に少ない応力)に留めて、部品を冷却することができる成形工具を提供するという新たな技術的課題を解決することである。
【0018】
本発明の別の目的は、熱機械的変態工程と切削工程を行うものの、予め緩和処理工程を行う必要がない、チタン合金部品の製造方法を提供するという新たな技術的課題を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するため、本発明の第一の主題は、チタン合金部品の製造方法であって、チタン合金部品、例えば予め熱機械的変態工程を1回以上施して特に内部応力を生じさせたチタン合金部品の内部応力を緩和するための熱処理を行い、当該熱処理では、「Tbt」で表されるβ変態(β転移)温度よりも高い温度「T1」で保持し、上記部品がクリープ現象によって自由に変形することを特徴とする製造方法である。
【0020】
一つの代替形態では、上記チタン合金は、α−β型、特にTA6V型である。
【0021】
上記合金の微細構造の最密六方構造から体心立方構造への変態を完了させるのに十分な時間、上記温度T1で保持するのが有利である。
【0022】
上記温度T1は、Tbtよりも少なくとも5℃高い温度であることが好ましく、好ましくはTbtよりも少なくとも10℃高い温度であり、また上記工程では、5〜120分間、好ましくは15〜60分間、上記温度T1、好ましくは1010〜1060℃の温度で保持することが好ましく、特にTA6V型の合金を使用する場合に顕著である。
【0023】
上記温度T1での保持の後、冷却処理を5℃/分を超える冷却速度、好ましくは10℃/分以上、好ましくは10〜20℃/分の冷却速度で、例えば大気中、好ましくは処理炉外の大気中等で行ってもよい。
【0024】
一つの代替形態では、上記チタン合金部品は、応力緩和処理のために、緩和対象の部品を収容できるように補正されたキャビティ型を1台以上備えた成形工具に配置され、上記成形工具は、好ましくは単一材料または複合材料の少なくとも1種類で形成されており、当該材料は、チタンまたは使用したチタン合金よりも大きい熱慣性を有し、かつ、上記温度T1でクリープ現象によって大きさが実質的に変化しない(2mm未満の増加)、あるいは全く変化しない。
【0025】
本発明の特定の実施形態によれば、上記成形工具は、コンクリートまたは複合コンクリートで形成されており、好ましくはその材料中に等方的に分布した、湾曲したステンレス鋼繊維を含んでいる。
【0026】
本発明はまた、温度「Tbt」よりも高い温度「T1」で保持する応力緩和熱処理工程の前に、1回以上の荒加工工程を行うことを特徴とする、チタン合金部品の製造方法に関する。
本願明細書中、「1回以上の荒加工工程」とは、部品の1面以上の所定表面において材料超過分を70%以上除去できる切削加工を意味すると理解される。
見方を変えると、後述するように、仕上げ切削工程とは、それ自体は、部品の仕上げ寸法および必要な仕上げ表面状態とするために、残りの超過分、すなわち、第一切削工程を行う前の最初の超過分に対して30%未満の超過分を除去することによって行われるものである。
【0027】
上記1回以上の荒加工工程では、上記部品の表面のほぼ全体あるいは全体に処理が行われることが有利である。
【0028】
荒加工は、応力緩和処理が施されていない部品に対して、特にTbtよりも低い温度、典型的には730℃未満に保持して行われることが有利である。
上記荒加工工程では、上記部品を少なくとも一台の基準支持台に押しつけて成形することが有利である。
【0029】
特定の実施形態では、先に行われたプレス加工工程によって上記部品の周囲に形成された1以上のバリを基準支持台に押しつけることによって、上記部品を上記基準支持台に押しつけて成形する。
【0030】
上記製造方法では、本発明における応力緩和熱処理後に、上記チタン合金部品の仕上げ切削工程を1回以上行ってもよい。この仕上げ切削工程によって、部品表面の1面以上を処理して表面の汚染領域を除去し、所定の表面粗さとし、部品の仕上げ寸法を達成することができる。
【0031】
上記部品は、典型的には、細長部品、例えば、航空機用のエンジンパイロンの翼桁、ドアフレーム部材または構造フレーム部材などである。
【0032】
本発明はまた、1以上の細長チタン合金部品、および/または、互いに大きく異なった複数の断面を有するチタン合金部品をクリープ現象によって成形できるように補正されたキャビティ型を1台以上備えた成形領域を有する成形工具であって、少なくとも1種類の単一材料または複合材料で形成されており、当該材料は、チタンまたは上記チタン合金よりも大きい熱慣性を有し、かつ、1060℃の温度でクリープ現象によって大きさが実質的に変化しない、あるいは変化しないことを特徴とする成形工具に関する。
【0033】
一つの実施形態では、上記工具はコンクリートで形成されており、必要に応じて、そのコンクリート内に等方的に分布した、湾曲したステンレス鋼繊維をさらに含んでいてもよい。
【0034】
上記工具は、部品と工具を合わせた断面についてどの断面でも冷却速度がほぼ一定となるような寸法を有することが有利である。
【0035】
好ましい実施形態によれば、縦横比が10を超え、および/または、互いに異なった複数の断面を有し、それら断面の差異が2/1を超える細長部品をクリープ現象によって成形できるように、並びに、好ましくは航空機用のエンジンパイロンの翼桁、ドアフレーム部材または構造フレーム部材を収容できるように、上記キャビティ型の領域が補正されている。
【0036】
上記チタン合金は、α−β型であることが有利であり、TA6V合金であることが好ましい。
【0037】
特定の実施形態によれば、上記キャビティ型は、緩和対象の部品の少なくとも一部を支持できる支持面を2面以上有し、好ましくは、当該支持面の配置は、チタン合金部品をその温度Tbtよりも高い温度T1で保持する際に、成形される上記部品の製造の前工程に伴うねじれや湾曲の欠陥などの変形、特に熱機械的変態工程、冷却工程または切削工程での変形が矯正されるように、上記部品をクリープ現象によって上記支持面により密接に、ほぼ完全に、あるいは完全に接触させることができるような配置である。
【0038】
上記キャビティ型は、それぞれの補正されたキャビティ型に位置決め用留め具を備え、当該型のもう一方の端部は、上記部品がクリープ現象によって自由に変形できるように何も備えていない、すなわち、留め具がないか、または、緩和対象の上記部品のクリープ現象、および、緩和熱処理前後の熱膨張係数を考慮に入れて、特にクリープ現象によって自由に変形させることができるように、配置された留め具を備えることが有利である。
【0039】
代替形態では、補正されたキャビティ型内に部品を配置できるように、キャビティ型には目印が付いている。
【0040】
このように、本発明は、本発明に係る工具、特に請求項17〜24のいずれか一項に記載の工具を使用する、チタン合金部品の製造方法にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0041】
<発明の詳細な説明>
本発明は、熱機械的変態工程を1回以上施したチタン合金部品の熱応力を緩和するための熱処理方法に関する。当該熱処理方法は、部品がクリープ現象によって自由に変形すること、および、応力緩和のための熱処理が、合金のβ変態(β転移)温度よりも高い温度、つまり、α相が完全に消えてβ相が優位となり、微細構造が体心立方構造へと変化する点より高い温度で行われることを特徴とする。
【0042】
本願発明中、「クリープ現象」とは、β変態温度よりも高い温度で保持する間に、材料の自重によって、あるいは、荷重をかけることで部品に生じる一定応力によってもたらされる部品の変形を意味すると理解される。
【0043】
本発明における熱処理を行うことにより、亀裂成長に対する耐性を向上させる粗大結晶粒構造を得ることができると共に、外圧をかけて部品を強制的に所定の形状に成形することが可能なクランプなどの特別な工具を使用せずに部品を放置して自由に変形させることにより、熱的および結晶学的要因による内部応力の緩和も実現することができる。「粗大結晶粒構造」とは、一般的に、−5ASTM未満の結晶粒の領域では、およそ−3ASTM未満の粒径の結晶粒のほぼ等方的な結晶粒構造を有するものを意味すると理解される。
【0044】
このように、本発明における熱処理(THT)によって残留内部応力は全て除去される。結果として、本発明における熱処理中に熱応力は除去されることから、熱処理前に応力をわざわざ管理する必要がなくなる。例えば、(荒加工)切削作業前に徐冷処理や特定の緩和処理を行う場合、内部応力を発生させないように、あるいはその発生を抑えるように注意を払う必要がなくなる。
【0045】
β変態温度よりも高い温度まで合金を加熱することにより、合金に同素変態が起き、最密六方晶構造を持つα相がβ相と呼ばれる体心立方相に変化する。この変態が起こっている間に、特に先の熱機械的変態工程において部品に生じた、熱的および結晶学的要因による残留応力が解放される。さらに、体心立方構造においては転位運動がより活発であるため、これによっても内部応力の解放が促進される。
【0046】
このように応力が完全に緩和されているため、部品を本発明における処理温度から冷却する際や、その後、機械的および/または熱的作用により部品に応力が生じた際に、部品の変形や、部品中の応力亀裂または早期亀裂の出現を防ぐことができる。
【0047】
本発明における熱処理を実施するためには、成形工具上に形成されており、かつ、少なくとも1つの部品を支持できる補正されたキャビティ型の中に部品を載置する。熱処理中、クリープ現象によって部品は、補正されたキャビティ型に適合する。
【0048】
体心立方構造は、上述した利点に加え、部品がクリープ現象を起こすのに適した構造でもある。こうして、本発明における熱処理は、従来の方法とは異なり、部品を放置してクリープ現象により自由に変形させることにより行われる。その結果、部品の自重の影響によって、または、適宜荷重をさらにかけることによって、部品が変形し、その部品を支持している、成形工具の補正されたキャビティ型の形状に完全に一致し、部品の必要とされる最終形状となる。
【0049】
理解されるであろうが、本発明における熱処理中に、クランプなどで部品を拘束することにより、部品が変形するのを阻止したりはしない。逆に、部品を放置してクリープ現象により自由に変形させる。その結果、部品は自然に(拘束されることなく)、補正されたキャビティ型に適合することになる。したがって、クリープ現象により変形する部品を、内部応力の除去を可能にしつつ、かつ、新たな応力の発生を回避しつつ、補正されたキャビティ型の形状に合わせて容易に成形して、目標とする最終部品の形状とすることができる。
【0050】
本発明によれば、補正されたキャビティ型によって、クリープ現象による部品の変形を制御できる。補正されたキャビティ型の寸法は、成形後の部品の形状および寸法が仕上げ切削しろを残した最終部品の形状および寸法になるような寸法である。
補正されたキャビティ型の寸法は、コンクリートと使用するチタン合金との1000℃付近での膨張差を考慮に入れた上で、得られる最終部品の形状や、チタンもしくは上記チタン合金のクリープ速度に応じたデジタルシミュレーションを行って決定する。
【0051】
上記熱処理の温度は、β変態温度+5℃以上の温度で5〜120分間維持されることが有利であり、1010℃〜1060℃で15〜60分間維持されることが好ましい。例えば、後で説明するTA6V型のα−β合金では、その正確な組成によれば、そのβ変態温度は980℃〜1000℃である。処理温度および処理時間は、合金の正確な組成によって決まる。
【0052】
一般に普及しているα+β合金としては、特に、上記したようにTA6V、または、TA6V4もしくはTi−6Al−4Vの商品名で知られるものが挙げられ、それらの組成を合金の総重量に対して重量%で表すと、一般的には下記のようになる。
・5.50≦Al≦6.75
・3.50≦V≦4.50
・痕跡量≦Fe≦0.30
・痕跡量≦O≦0.20
・痕跡量≦C≦0.08
・痕跡量≦N≦0.05
・痕跡量≦H≦0.0125
・痕跡量<Y<0.005
その他の成分は、チタン、および、作製過程で混入した不純物で構成される。
なお、上記α+β合金は、AMS 4928 GR5(Aero Material Specification)に準じたチタン合金であることが好ましい。
【0053】
なお、最低処理温度は、最密六方微細構造から体心立方微細構造への同素変態を完了でき、かつ、β結晶粒メソ構造を得られる温度に設定する。一方、最高処理温度は、微細構造のいくつかの領域において、引張強度や疲労強度などの好ましい機械的特性の達成を妨げる恐れのある粒径の急増を伴う粗大結晶粒成長速度とならない温度に設定する。
【0054】
処理時間は、部品のマッシブな度合い(massiveness)によって決まる。つまり、部品の相当直径が大きければ大きいほど処理時間は長くなる。典型的には、相当直径15〜30mmのTA6Vの部品では、部品のβ相が完全に溶解し、部品中の残留熱応力が除去され、クリープ現象によって、工具の補正されたキャビティ型に部品が完全に適合するように、処理時間は20〜40分である。別の例を挙げると、相当直径80mmの部品の場合、処理時間は約1時間である。
処理時間は、部品の中心部の温度が熱的定常状態の温度に達するまでの時間に相当する。
【0055】
部品は、本発明における処理温度から室温まで、5℃/分を超える速度、好ましくは10℃/分を超える速度で冷却されることが好ましい。通常は、部品を処理炉外の大気に当てて冷却する。
【0056】
処理部品をβ変態温度よりも高い温度から冷却する際、合金はα−β変態領域を通過するが、その間にα相が再び現れる。本発明者らは、TA6Vなどのα−β型の合金において冷却速度が遅すぎた場合、β粒界を起点とした板状(粒間ウィドマンステッテン組織の名で知られる)で、粒間厚板のようなα相の析出が本質的にβ粒界で起こる(粒間析出)ことを確認することができた。5℃/分を超える冷却速度では、粒内で絡み合った微細針状組織のα相が析出する。微細針は不規則に絡み合っているため、α相は新たな転位運動を全て阻止する網状組織を形成しており、それによって、部品の冷却時、または、その後、部品に機械的圧力がかかる際の部品の変形が防止される。さらに、この組織によって、部品にはより優れた機械的特性、特に引張強度(Rm>900MPa)が付与される他、亀裂成長の経路がより複雑になるため亀裂成長挙動も良好となり、また良好な靭性も付与される。
【0057】
本発明の第二の主題は、その上に成形する部品を載置できる成形工具である。当該工具は、チタンまたは使用したチタン合金よりも大きな熱慣性を有し、かつ、約1060℃の温度まではクリープ現象が起こらない材料で形成されていることを特徴とする。
【0058】
というのも、本発明者らは、上記材料を使用することによって、内部の均一な部品を迅速に(10℃/分を超える速度、例:外気中)冷却でき、それにより、微細針が絡み合ったような均一な微細構造の合金とし、かつ、冷却中の内部熱応力の発生、および、冷却中または冷却後の部品の無制限な変形を防止することができることを見出したからである。
【0059】
本発明の好ましい形態では、当該工具はコンクリートで形成されており、必要に応じて、コンクリートよりも高い膨張係数を有する湾曲したステンレス鋼繊維を含んでいてもよい。このような繊維によって、(繊維の収縮により)工具の構造の剛性を高めることができ、高温下で工具が部品の重みによって変形するのを防止できる。耐火コンクリートを使用することが好ましい。当該コンクリートとしては、熱伝導率が約3.5W.m−1.K−1(ワット/(メートル×ケルビン度))、500℃での比熱が約1000J.kg−1.K−1(ジュール/(キログラム×ケルビン度))、密度が約3000kg/mのMFRRC(金属繊維補強耐火コンクリート)型のコンクリートが挙げられる。
【0060】
上記工具には補正されたキャビティ型が備えられている。成形する部品をそれぞれのキャビティ型内に載置して、本発明の第一の主題における熱処理を施した後に、仕上げ切削しろを残した所定の形状の部品を得る。この部品には、(熱的または結晶学的要因による)残留内部応力がない。
【0061】
本発明の第三の主題は、一方で、熱機械的変態後に、残留応力を緩和して部品を所定の形状に成形するために行われる本発明の第一の主題における熱処理工程を行い、もう一方で、当該熱処理工程の前に、上記部品を基準支持台に押しつけて成形することを特徴とする荒加工工程を行う方法である。
【0062】
本発明者らは、本発明の第一の主題における熱処理を行う場合、従来の技術とは異なり、応力緩和熱処理前に部品に荒加工を施すことが可能であることを見出した。というのも、従来の経験からすれば、緩和熱処理後に、β変態温度を下回る温度、例えば730℃未満で荒加工および仕上げ切削加工を行って、部品の残留内部応力が最小となっている状態から切削を始めることで、部品の亀裂の発生や切削作業時の変形を防止していた。さらに、最終熱処理後に切削加工を行うことで、熱処理により生じた表面の汚染領域(例:表面酸化物)を除去していた。また、従来の経験からすれば、切削座標系およびパラメータをどの部品でも繰り返し利用できるように、かつ、最終部品に求められる寸法公差を満たせるように、荒加工前に、部品をなるべく変形させず所定の形状に保つようにしていた。荒加工の前工程で徐冷処理を行って部品の変形を防ぐ試みや、β変態温度よりも高い温度で行う、合金の機械的特性を得るための熱処理工程において、締め付け工具などで部品を拘束して所定の形状に保持する試みが知られている。
【0063】
しかし、これまで行われてきた上記徐冷処理および緩和処理は、部品の全ての内部応力を除去し、部品を所定の形状に成形するのに十分ではなかった。さらに、β変態温度よりも高い温度で行われる熱処理中に部品を所定の形状に拘束したとしても、クランプから外した後の部品の弛緩や再変形を防ぐことはできなかった。このように、切削前の被切削部品にはまだ内部応力が残っていたり、前工程で予防措置を行ったにもかかわらず、部品がさらに変形したりするということがしばしば起こる。そうすると、目標とする仕上げ寸法公差を満たすのが非常に困難になる。
【0064】
その上、切削作業中、切削工具の強い圧力が部品にかかり、新たに内部応力が発生する。これは、特に、「仕上げ」切削時よりも部品により大きな応力をかける切削パラメータとなる荒加工作業の場合に顕著である。というのも、上記したような部品においては、荒加工作業時の切削の深さは、仕上げ切削作業時に行われる切削の深さに比べて一般的に大きくなるためである。荒加工においては、送り速度もまた仕上げ切削時よりも速い。これらの付加的な応力が、部品の変形を増大させたり、部品に早期亀裂および/または早期破壊をもたらしたりし得る。これは特に、その後、部品において熱機械的加工作業の応力が生じる場合に顕著である。
【0065】
よって、荒加工および仕上げ切削加工の後に、さらに応力緩和熱処理を行うことがしばしば必要となる。
【0066】
本発明者らは、熱処理によって、部品を所定の形状に効率よく成形でき、かつ、部品の熱処理後の再変形や部品使用中の早期亀裂の発生を防げるほど十分に内部応力を減少させることができる場合には、熱処理前に応力管理を特に行う必要がないことを確認することができた。その結果、本発明者らは、各部品において(もしくは少なくとも各部品の主面において)、荒加工作業時に各部品の寸法が所定の一定値を満たし、それにより、切削パラメータおよび座標系をどの部品でも繰り返し利用でき、最終部品に必要とされる寸法公差が満たされさえすれば、本発明における緩和熱処理前に荒加工を行うことが可能であるという結論に至った。
【0067】
この処理は、本発明に従って、基準支持台に部品を押しつけて成形することにより行われる。より具体的には、図7(プレスバリ(75)をわかりやすく誇張して描いた図)に示すように、最終プレス加工によって部品の周りに形成された1以上のバリを利用して行う。部品全体を成形できるように、上記1以上のバリを1台以上の基準支持台に押しつけた状態で把持する。これは、バリに一連の点として圧力がかかって、部品が基準支持台に押しつけられ変形することで、部品全体がどの部品でも所定の一定の形状に間接的に成形されることとなるからである。その結果、
・部品は常に一定の位置で一定の形状から切削され、
・切削基準をどの部品でも繰り返し利用でき、それにより、
・切削後の各部品は、必要とされる仕上げ寸法公差を満たすことができる。
プレスバリを基準支持台上に設けられた点状のベアリングに押しつけた状態で把持できるように、一連の点として圧力をかけることができる(機械的もしくは油圧)クランプなどの工具を使って、部品の1以上のバリを1台以上の基準支持台に押しつける。したがって、部品の形状は、点状のベアリングの位置によって決まる。
【0068】
従来の技術とは異なり、本発明によれば、バリは最終プレス加工作業後も除去されない。これは、クランプと基準支持台の間にバリを挟むための把持領域を提供でき、かつ、切削作業を妨げることなく上記の通りに部品を成形できるからである。切削加工は、一度の作業で部品の両面およびバリに対して施すことができる。つまり、二度の切削工程の間に部品を取り除いたり移動させたりする必要がない。その上、部品のバリを把持するので、部品の加工面や作業面に傷や跡がつくこともない。
【0069】
切削する部品の固定や掴持にクランプや工具を使うことが先行技術で開示されているが、1台以上の基準支持台に部品を押しつけて成形すること、さらに、プレスバリを把持領域として利用して行うことはこれまで知られていなかったことをここで明記しておく。
【0070】
バリは荒加工工程後、好ましくは応力緩和熱処理前に、除去される。バリは、例えば切削加工等の方法で除去される。
切削加工後、部品には下記に由来する多大な内部応力がかかっている。
・先の熱機械的処理工程および熱加工工程により発生した残留熱応力や残留結晶応力
・切削加工時に、部品を基準支持台に押しつけて(室温にて)成形した際に発生した応力
・いわゆる切削作業中に、切削工具によって発生した応力
【0071】
切削加工後、部品が開放されると、部品はこれらの応力によって弛緩し、再び変形する。しかしながら、本発明における熱処理の効果により、この欠点は本発明における熱処理中に解消される。この欠点の解消によって、部品の内部応力が大幅に減少し、部品は補正された形状に戻る。よって、部品は、冷却時や、その後、熱機械的加工作業の応力がかかった場合にも再変形することはなく、早期亀裂が生じることもない。
【0072】
部品は、緩和熱処理中に、成形工具に設けられた補正済キャビティ型に合わせて成形される。
【0073】
熱処理に続いて仕上げ切削加工工程が行われる。ここでは、部品の変形や早期亀裂を引き起こす恐れのある内部応力が部品に発生しないように、切削パラメータ(切削の深さ、切削速度、送り速度など)が決定される。
【0074】
仕上げ切削作業は、部品内に応力をほとんど引き起こさない。切削の深さや送り速度は荒加工時よりも小さい。よってこのような仕上げ切削加工の後に、応力緩和処理を行う必要はない。なお、良好な表面状態(粗さ、硬さ)を得るために、および、最終熱処理時に発生した表面汚染領域を除去するために、仕上げ切削加工を本発明における熱処理後に行うことが好ましい。
【0075】
本発明の他の目的、特徴および利点は、実施例および図面に基づいて本発明を説明する下記の記載を読むことによって、当業者にとってより明瞭になると思われる。なお、実施例および図面は、本発明を例示するためだけに記載されたものであり、いかなる点においても本発明の範囲を限定するものではない。
【0076】
実施例および図面は本発明の一部をなすものであり、また、実施例および図面を含む本明細書全体の記載から、従来技術に照らして新規であると認められる特徴は全て、その作用および一般的性質に関して本発明の一部をなす。
【0077】
このように、実施例および図面は全て、概略的な範囲を有するものである。
【0078】
なお、本明細書においては、特に断りのない限り、温度は摂氏で表され、圧力は大気圧である。
【0079】
次に、添付した以下の図面に基づいて、本発明の範囲を限定するものではない実施例により本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明に係る方法によって、必要とされる機械的特性および寸法を有するチタン合金部品を得るための一連の工程を示すフローチャートである。
【図2】本発明に係る成形工具を表した3次元等角図である。
【図3】処理するドアフレーム部材を載置した図2の工具の簡略図である。
【図4】いくつかのドアフレーム部材を載置する図2の工具の横断面図である。
【図5】本発明の工具2台を台車に乗せて処理炉から取り出すところを表す。
【図6A】図2の工具を補正(calibration)キャビティ型の長手方向の断面に沿って表した図である。
【図6B】図2の工具を補正キャビティ型の長手方向の断面に沿って表した図である。
【図6C】図2の工具を補正キャビティ型の長手方向の断面に沿って表した図である。
【図7】プレスバリ(75)を把持することで1台以上の基準支持台(715)に押しつけられて成形される部品(71)を表す。締め付け工具またはクランプ(710a:開放位置(A)、710b:閉鎖位置(B))によって、部品(71)を把持して基準支持台(715)に押し付けて掴持することができる。プレスクランプ(710b)を閉鎖位置(B)にすると一連の点として圧力がかかる。なお、1台以上の基準支持台(715)にはそれぞれ点状のベアリングが2か所設けられている。一般的に、部品の大きさによって、1台以上の基準支持台(715)の使用を決定する。
【実施例】
【0081】
本発明の製造方法および成形工具を、航空機用のドアフレームの一部を形成する部材の製造に利用した。これらの部材は、図3に概略的に示すように細長い曲線状の形状を有しており、典型的には、平均厚さ25mm、相当直径50mm、長さ4mであり、単一曲線形状を有する。なお、本発明の製造方法は、より複雑な形状の部品の製造、例えば複数の曲線を有しており、場合によっては表面がらせん形状になっているような部品の製造にも適しているということをここに示しておく。
【0082】
上記部材は、通常の方法によって作製されたチタン合金TA6Vの鋳塊から得られた(図1、フローチャートの工程“a”)。
【0083】
上記TA6Vの正確な組成は以下のとおりである。
・Al:6.15
・V:3.82
・Fe:0.17
・O:0.15
・C:0.05
・N:0.02
・H:0.005
その他の成分は、チタン、および、作製過程で混入した不純物で構成される。
【0084】
続いて、上記鋳塊を以下の公知の熱機械的処理によって変態させた(図1の工程“b”を参照)。
・1100℃〜1160℃にて据え込み加工/引き抜き加工の一連作業;その後、
・約1050℃にて据え込み加工/引き抜き加工の一連作業;その後、
・900℃〜980℃にて、4(断面積を減少させつつ、高さHをその4倍の4Hにまで増加させる)のα−β熱間鍛造。
【0085】
鍛造後、得られたビレットを、切削加工前のドアフレーム部材の予備成形品の体積に合わせて所定体積を有するより小さなビレットへと切り分けた。
【0086】
続いて、円形の断面を有するビレットを鍛造して、角棒状の製品に加工した。当該角棒状の製品にプレス加工工程を1回以上施して、もはや最終部品の形状に近い形状を有する半製品を得た。以後、この半製品をドアフレーム部材の「予備成形品」と呼ぶ。
【0087】
公知の技術とは異なり、プレス加工後に生じたバリは、最終プレス加工工程後に除去するのではなく、切削加工時に基準支持台に接する把持/クランプ領域として利用するために残しておく。
【0088】
この工程で、種々の熱機械的変態工程を経たために、予備成形品は変形し、内部応力が発生している。
【0089】
本発明では、予備成形品を準備して荒加工処理を施す。通常の技術とは異なり、予備成形品の荒加工処理は、本発明において、応力緩和熱処理および成形処理の前に行われる(図1、工程“c”に続いて“d”)。なぜなら、本発明者らは、予備成形品には先の熱機械的変態工程によって内部応力が生じているものの、この種の部品を製造する上で標準的な一連の変態工程では、その工程により生じる内部応力は強いものではなく、荒加工作業中に予備成形品に損傷を与えたり、早期破壊の危険性をもたらしたりするほどではないということを確認できたためである。
【0090】
切削作業時、クランプ(710a、710b)を用い、予備成形品(71)をプレスバリ(75)を介していくつかの基準支持台(715)に押しつける(図7参照)。各バリ(75)は、クランプ(710b、閉鎖位置B)と基準支持台(715)の間に、予備成形品(71)を所定の形状に成形できるように十分な力をかけて把持される。バリ(75)を把持して、各予備成形品(71)を直接的には把持しないことで、予備成形品(71)の機能表面に跡をつけることなく、さらには、いわゆる切削加工を行う際に切削工具の動きを妨げることなく、部品を成形することができる。この構成によって、どの予備成形品でも形状を一定に保つことができるので、切削パラメータおよび座標系をどの予備成形品でも、また予備成形品のどのまとまりでも繰り返し利用することができ、最終部品に必要な寸法公差を満たすことができる。
【0091】
荒加工処理が完了すると、予備成形品(71)はクランプ(710a、開放位置A)から開放され、再び変形しようとして弛緩する(図6Aおよび6Bの空隙“J”を参照)。
【0092】
続いて、荒加工済予備成形品(20、320、420、620)を準備して、本発明の第一の主題における応力緩和熱処理および成形処理を施す(図1、工程“d”)。荒加工済予備成形品(20、320、420、620)を、成形工具(10、310、410、610)に設けられた補正済キャビティ型(15、315、415、615)内に載置する(図2、3および4を参照)。補正済キャビティ型(15、315、415、615)には、最終的に得られるドアフレーム部材の形状に合わせた所定の面(317、318、417、418、617)が設けられている。本実施例においては、図4に見られるように、各荒加工済予備成形品(420)の少なくとも一部(この工程では部品が変形しているため。図6Aおよび6Bを参照)を支持できる2つの主要支持面(417、418)が補正済キャビティ型(415)それぞれに設けられている。主要支持面は、成形される部品の形状の複雑さに応じて、1面またはそれ以上設けてもよい。
【0093】
本発明の第二の主題に従い、上記工具は、湾曲した鋼繊維が埋め込まれたコンクリート複合材料で形成されている。当該繊維は高温下での工具の強度を高める作用がある。この工具を用いることにより、上述のように、荒加工および上記処理が施された予備成形品を迅速かつ均一に冷却することができる。それにより、微細針が絡み合ったような均一な微細構造を持つ合金を得ることができ、機械的特性を向上させ、冷却時の部品の内部熱応力の発生や、冷却時や冷却後の部品の無制限な変形を防止できる。
【0094】
荒加工済予備成形品を長手方向に置きやすくするため、当該工具のそれぞれの補正されたキャビティ型に位置決め用留め具を設ける。キャビティ型のもう一方の端部は、部品がクリープ現象によって自由に変形できるように何も備えていない、つまり、留め具がない。また、当該工具に目印をつけておけば、予備成形品を熱処理用工具に配置するのに十分である。
【0095】
上記工具は、部品と工具を合わせた断面(切断面)について、考慮されるすべての断面で冷却速度がほぼ一定となるような寸法を有する。したがって、上記コンクリート製工具の厚さは、部品の厚さの差異、および、工具に対する部品の熱拡散係数比を考慮した所定の大きさである。
【0096】
部品の考慮される領域が厚い場合、この領域下の対応する工具の厚さは工具の平均厚さに比して大幅に薄く、また、部品の考慮される領域が薄い場合には、この領域下の対応する工具の厚さは工具の平均厚さに比して大幅に厚いことが容易に理解できる。
【0097】
荒加工済予備成形品を載置できる成形工具は、例えば、キャビティ型を約10台備えている。成形工具(510)は、処理対象の予備成形品を載置した状態で熱処理炉(550)に入れる。成形工具(510)は、もう1つまたはそれ以上の成形工具(510)とともに台車(530)に乗せることができる(成形工具2台の場合を示す図5を参照)。
【0098】
緩和熱処理と成形熱処理(図1、工程“d”)は下記の手順で行われた。
約5℃/分の速度で温度を1020℃〜1030℃の熱的定常状態まで上昇させる(温度の上昇が速ければ速いほど、冷却速度のより遅い領域で結晶粒が粗大化しないように、β変態温度で長時間保持して部品を弛緩させる必要性が減少する)。上記温度は、β変態温度よりも高い。本例でのTA6Vのβ変態温度は、正確な組成によれば約1000℃である。荒加工済予備成形品は上記熱的定常状態の温度で25分間保持された。
【0099】
図6Aおよび6Bに示すように、本発明における熱処理前には、荒加工済予備成形品(620)は著しく変形しており、特にねじれや湾曲の欠陥が生じていた。これに伴って、主要支持面(617a、b)のいくつかの領域では、補正された型(615)に対して数ミリメートル(予備成形品に応じて5〜30mm)の空隙“J”が存在していた。
【0100】
β変態温度よりも高い熱処理を行っている間、予備成形品(620)が補正されたキャビティ型(615)の形状となり、それにより主要支持面(617c)上に支持されるように、予備成形品を自重によって自由にクリープさせた(図6参照)。
【0101】
また、合金には、β変態温度よりも高い温度において、最密六方晶構造を有するα相がβ相と呼ばれる体心立方相の構造へと変化する同素変態が起こる。この変態が起こっている間に残留応力が解放される。この残留応力は、特に先の熱機械的変態工程において部品に発生したものであり、熱的および結晶的要因による応力である。その上、体心立方構造では転位運動がより活発であり、この転位運動もまた内部応力の解放を促進する。これらの応力緩和作用によって、冷却中の低い作業温度における部品の新たな変形や、部品中の応力亀裂などの亀裂を阻止できる。
【0102】
続いて、予備成形品を処理炉外の大気中で冷却した。すなわち、冷却速度は10〜30℃/分であった。
【0103】
予備成形品内部の冷却速度は一定であったが、これは特に、複合コンクリートで形成された工具を使用したためである。
【0104】
このようにして、荒加工済予備成形品をβ変態温度よりも高い温度から急速に冷却することにより、α−β領域において、粒間で微細針が絡み合ったような組織を有するα相を出現させることできた。この針は不規則に絡み合っており、新たな転位運動を全て阻止し、また亀裂の成長も阻止する。こうして、部品の冷却時または室温下での変形を防ぎ、さらに、部品に良好な機械的特性も付与できる。機械的特性とは特に、機械的強度、良好な亀裂成長挙動(亀裂成長の経路がより複雑になるということから)、および、良好な靭性である。
【0105】
工具に特に上記材料を使用したことで達成された荒加工済予備成形品の均一な冷却処理によって、予備成形品の内部熱応力の発生を防ぎ、かつ、冷却時や、その後、ドアフレーム部材に通常の熱機械的応力がかかった際の変形を防ぐことができる。
【0106】
コンクリートには、その熱膨張係数がチタンに近いという利点もある。これにより、チタン部品または本発明におけるチタン合金部品の熱膨張に近い1060℃などでの熱膨張によって、補正されたキャビティ型の寸法が変化する。したがって、処理後に得られた予備成形品の寸法はより適切に制御される。
【0107】
本発明の成形工具を製造するのに使用されるコンクリートの熱膨張係数は、T°の範囲が100℃〜1100℃の場合、約3.5〜7×10−6°K−1であることが好ましいが、この場合のチタンの熱膨張係数は約8〜11×10−6°K−1である。
【0108】
上記熱処理を行う際に使用される補正されたキャビティ型(15、315、415、615)は、本例では、交差する2つの主要支持面(317、318、417、418、617)を備えており、この型の形状も利用して上記熱処理を行うことにより、ねじれや湾曲という欠陥を矯正することが可能となった(ねじれの欠陥を矯正するため、互いの面で角度を形成する少なくとも2面の支持面を設けることが好ましい)。本発明における熱処理後、室温まで冷却すると、目標とする部品の寸法との誤差は4mm未満であり、実際、2mm未満となることもあった。このように、本発明における処理の後に得られた予備成形品は、実質的に変形しておらず、必要とされる仕上げ寸法公差を満たすことができた。
【0109】
得られた部品はコンクリート製成形工具から取り外され、仕上げ切削工具上に載置される。
【0110】
こうして、熱処理後、予備成形品には、ドアフレーム部材の最終形状に加工するための仕上げ切削が施される。仕上げ加工時の切削パラメータ(切削深さ、切削速度、送り速度)では部品にあまり応力がかからないので、さらに応力緩和処理を行う必要はない。
【符号の説明】
【0111】
10 成形工具
15 補正されたキャビティ型
20 荒加工済予備成形品
71 部品または予備成形品
75 プレスバリ
310 成形工具
315 補正されたキャビティ型
317 主要支持面
318 主要支持面
320 荒加工済予備成形品
410 成形工具
415 補正されたキャビティ型
417 主要支持面
418 主要支持面
420 荒加工済予備成形品
510 成形工具
530 台車
550 熱処理炉
610 成形工具
615 補正されたキャビティ型
620 荒加工済予備成形品
617a 主要支持面
617b 主要支持面
617c 主要支持面
710a 締め付け工具またはクランプ(開放位置)
710b 締め付け工具またはクランプ(閉鎖位置)
715 基準支持台
A 開放位置
B 閉鎖位置
J 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン合金部品の製造方法であって、
予め熱機械的変態工程を1回以上施したチタン合金部品の内部応力を緩和するための熱処理を行い、
当該熱処理では、「Tbt」で表されるβ変態(β転移)温度よりも高い温度「T1」で保持し、
前記部品がクリープ現象によって自由に変形することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記チタン合金はα−β型であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記合金の最密六方微細構造から体心立方微細構造への変態を完了させるのに十分な時間、前記温度T1で保持することを特徴とする、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記温度T1は、Tbtよりも少なくとも5℃高い温度であり、好ましくはTbtよりも少なくとも10℃高い温度であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
5〜120分間、好ましくは15〜60分間、前記温度T1、好ましくは1010℃〜1060℃の温度で保持することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記温度T1での保持の後、冷却処理を5℃/分を超える冷却速度、好ましくは10℃/分以上、好ましくは10〜30℃/分の冷却速度で、例えば大気中、好ましくは処理炉外の大気中等で行うことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記チタン合金部品は、応力緩和処理のために、緩和対象の部品を収容できるように補正されたキャビティ型を1台以上備えた成形工具に配置されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記成形工具は、好ましくは単一材料または複合材料の少なくとも1種類で形成されており、当該材料は、チタンまたは前記チタン合金よりも大きい熱慣性を有し、かつ、前記温度T1でクリープ現象によって大きさが実質的に変化しない、あるいは全く変化しないことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記成形工具は、コンクリートまたは複合コンクリートで形成されており、好ましくは等方的に分布した、湾曲したステンレス鋼繊維を含んでいることを特徴とする、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記応力緩和熱処理工程の前に、少なくとも1回の荒加工工程を行うことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記荒加工工程では、前記部品の表面のほぼ全体あるいは全体に処理が行われることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記荒加工工程では、前記部品を少なくとも一台の基準支持台に押しつけて成形することを特徴とする、請求項10または11に記載の製造方法。
【請求項13】
先に行われたプレス加工工程によって前記部品の周囲に形成された1以上のバリを基準支持台に押しつけることによって、前記部品を前記基準支持台に押しつけて成形することを特徴とする、請求項10〜12のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記応力緩和熱処理後に、前記チタン合金部品の仕上げ切削工程を1回以上行うことを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
前記チタン合金はTA6Vチタン合金であることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項16】
前記部品は、細長部品、例えば、航空機用のエンジンパイロンの翼桁、ドアフレーム部材または構造フレーム部材などであることを特徴とする、請求項1〜15のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項17】
1以上の細長チタン合金部品、および/または、互いに大きく異なった複数の断面を有するチタン合金部品をクリープ現象によって成形できるように補正されたキャビティ型を1台以上備えた成形領域を有する成形工具であって、
少なくとも1種類の単一材料または複合材料で形成されており、当該材料は、チタンまたは前記チタン合金よりも大きい熱慣性を有し、かつ、1060℃の温度でクリープ現象によって大きさが実質的に変化しないことを特徴とする成形工具。
【請求項18】
コンクリートで形成されており、そのコンクリート内に等方的に分布した、湾曲したステンレス鋼繊維をさらに含んでいてもよいことを特徴とする、請求項17に記載の成形工具。
【請求項19】
部品と工具を合わせた断面についてどの断面でも冷却速度がほぼ一定となるような寸法を有することを特徴とする、請求項17または18に記載の成形工具。
【請求項20】
縦横比が10を超え、および/または、互いに異なった複数の断面を有し、それら断面の差異が2/1を超える細長部品をクリープ現象によって成形できるように、並びに、好ましくは航空機用のエンジンパイロンの翼桁またはドアフレーム部材を収容できるように、前記キャビティ型の領域が補正されていることを特徴とする、請求項17〜19のいずれか一項に記載の成形工具。
【請求項21】
前記チタン合金は、α−β相を有するタイプであることを特徴とする、請求項17〜20のいずれか一項に記載の成形工具。
【請求項22】
前記チタン合金はTA6V合金であることを特徴とする、請求項17〜21のいずれか一項に記載の成形工具。
【請求項23】
前記キャビティ型は、緩和対象の部品の少なくとも一部を支持できる支持面を2面以上有し、
好ましくは、当該支持面の配置は、チタン合金部品をそのTbtよりも高い温度T1で保持する際に、好ましくは成形される前記部品の製造の前工程に伴うねじれや湾曲の欠陥などの変形、特に熱機械的変態工程、冷却工程または切削工程での変形が矯正されるように、前記部品をクリープ現象によって前記支持面により密接に、ほぼ完全に、あるいは完全に接触させることができるような配置であることを特徴とする、請求項17〜22のいずれか一項に記載の成形工具。
【請求項24】
前記キャビティ型は、
それぞれの補正されたキャビティ型に位置決め用留め具を備え、当該型のもう一方の端部は、前記部品がクリープ現象によって自由に変形できるように何も備えていないか、または、
緩和対象の前記部品の緩和熱処理前後の熱膨張係数を考慮に入れて、特にクリープ現象によって自由に変形させることができるように、配置された留め具を備えることを特徴とする、請求項17〜23のいずれか一項に記載の成形工具。
【請求項25】
請求項17〜24のいずれか一項に記載の成形工具を使用する、請求項1〜16のいずれか一項に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−508550(P2013−508550A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534750(P2012−534750)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【国際出願番号】PCT/FR2010/052239
【国際公開番号】WO2011/048334
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(512103240)
【Fターム(参考)】