説明

チタン酸ナノシート分散液の製造方法

【課題】アミン類等の含有量が少なく、透明性の優れたチタン酸ナノシート分散液の製造方法、その分散液及びその固体を提供する。
【解決手段】(1)アミン類等を含有するチタン酸ナノシート分散液を、カチオン交換樹脂と接触させる工程を含むチタン酸ナノシート分散液の製造方法、(2)チタン源を、アミン類等の存在下で、加水分解することにより、アミン類等を含有するチタン酸ナノシート分散液を得る工程I、その分散液と分散向上剤とを混合する工程II、更にカチオン交換樹脂と接触させる工程IIIを有する、チタン酸ナノシート分散液の製造方法、(3)分散液中のN/Tiモル比及びP/Tiモル比がいずれも0.1未満であるチタン酸ナノシート分散液、及び(4)該分散液から分散媒を除去して得られるチタン酸ナノシート固体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸ナノシート分散液の製造方法、チタン酸ナノシート分散液、及びチタン酸ナノシート固体に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸化物は、セラミックスや複合酸化物等の原料や光触媒材料等として、工業的に広く用いられている。このチタン酸化物には各種の形態があるが、チタン酸化物の中には、従来のアナターゼ型やルチル型のチタニアではなく、チタン酸又はその塩を含有する厚さがナノスケールのシート、すなわちチタン酸ナノシートを形成するものがある。このチタン酸ナノシートは、層状チタン酸をソフト化学的な処理により結晶構造の基本単位である層にまで剥離することにより得られ、分子レベルの厚み(nmレベル)に対して横方向にはその数百倍以上のサイズ(μmレベル)をもち、緻密で平滑性の高い膜を形成することができる。このため、例えば、紫外線遮蔽等のバリア膜、耐食膜、誘電体薄膜、触媒等各種用途への応用が期待される。
【0003】
チタン酸ナノシート分散液の製造方法として、チタン含有原料を高温で焼成し、塩酸水溶液と更に第4級アンモニウムイオンを反応させる、レピドクロサイト型と呼ばれるチタン酸ナノシート分散液の製造方法(非特許文献1参照)が報告されている。
この方法は、具体的には、まずCs2CO3:TiO2(モル比)=1:5.2の混合粉末を800℃で20時間焼成して、レピドクロサイト型層状チタン酸であるCs0.7Ti1.8250.1754(□は空孔)を合成し、この粉末を1モル/L程度の塩酸水溶液中で撹拌することで、層状構造を維持したまま、層間のCsイオンを全て水素イオンに入れ換えて、H0.7Ti1.8250.1754・H2Oの組成をもつ水素型物質に誘導する。次いで、これに塩基物質であるテトラブチルアンモニウムヒドロキシドを含む溶液を作用させ、層間に上記塩基物質をインターカレート、更に層剥離させることにより、チタン酸ナノシート分散液を得る方法である。
しかしながら、この方法では、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等のアミン類を水素イオン濃度と等量以上(N/Tiモル比0.37以上)添加する必要があり、得られるチタン酸ナノシート分散液中には大量のアミン類が共存しており、アミン類の混入が許容できない用途には利用できない。
【0004】
また、アミン類とチタンアルコキシドとの混合液に水を反応させることによりチタン酸ナノシート水分散液を得る方法(非特許文献2参照)が知られている。しかしながら、この方法で得られるチタン酸ナノシート水分散液においても、大量のアミン類(N/Tiモル比0.4以上)が共存する。
また、水酸化チタンとアミン類とを接触させて、チタン源/アミン類のモル比が0.1〜2である層状チタン酸ノシートの製造方法(特許文献1参照)、及びチタンアルコキシドとテトラブチルホスホニウムヒドロキシド等の第4級ホスホニウム水酸化物とを反応させて得られた、層状チタン酸ナノシートの有機溶媒分散液(特許文献2参照)が知られている。
これらのアミン類やホスホニウム類が共存するチタン酸ナノシート分散液は、経時により着色したり、また例えば、ポリエステル系樹脂に配合した場合、樹脂の分解や着色を引き起こす等の問題がある。
【0005】
【非特許文献1】佐々木高義,「新しいナノ素材:酸化物ナノシートコロイド」,色材協会誌,2003年,第76巻,第10号,p.391−396
【非特許文献2】T. Ohya, A. Nakayama, Y. Shibata, T. Ban, Y. Ohya, Y. Takahashi, Journal of Sol-Gel Science and Technology, Vol. 26, p 799-802 (2003)
【特許文献1】特開2006−182588
【特許文献2】特開2006−206426
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、アミン類及び/又はホスホニウム類の含有量が少なく、透明性の優れたチタン酸ナノシート分散液の製造方法、チタン酸ナノシートの分散液、及びチタン酸ナノシート固体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、アミン類及び/又はホスホニウム類を含有するチタン酸ナノシート分散液をカチオン交換樹脂と接触させることにより、チタン酸ナノシートからアミン類等を効率的に取り外し、アミン類及び/又はホスホニウム類の含有量の少ないチタン酸ナノシート分散液を得ることができることを見出した。
すなわち、本発明は次の(1)〜(5)を提供する。
(1)アミン類及び/又はホスホニウム類を含有するチタン酸ナノシート分散液を、カチオン交換樹脂と接触させる工程を含む、チタン酸ナノシート分散液の製造方法。
(2)下記工程I〜IIIを有する、チタン酸ナノシート分散液の製造方法。
工程I:チタンアルコキシド及び/又はチタン塩を、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン及び第4級アンモニウム水酸化物から選ばれる1種以上のアミン類、及び/又は第4級ホスホニウム水酸化物の存在下で、加水分解することにより、アミン類及び/又は第4級ホスホニウム水酸化物を含有するチタン酸ナノシート分散液を得る工程
工程II:工程Iで得られた分散液と分散向上剤とを混合する工程
工程III:工程IIで得られた分散液とカチオン交換樹脂と接触させる工程
(3)前記(2)の製造方法により得られる、分散液中のN/Tiモル比及びP/Tiモル比がいずれも0.1未満である、チタン酸ナノシート分散液。
(4)アミン類及び/又はホスホニウム類を含有するチタン酸ナノシート分散液であって、分散液中のN/Tiモル比及びP/Tiモル比がいずれも0.1未満である、チタン酸ナノシート分散液。
(5)前記(3)又は(4)のチタン酸ナノシート分散液から分散媒を除去して得られる、チタン酸ナノシート固体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アミン類及び/又はホスホニウム類の含有量が少なく、透明性の優れたチタン酸ナノシート分散液の効率的な製造方法、チタン酸ナノシートの分散液、特に、アミン類やホスホニウム類の含有量が少なく、かつ中性ないし酸性のチタン酸ナノシートの分散液、及びチタン酸ナノシート固体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
チタン酸ナノシートは、従来、例えば、酸化チタンとセシウム塩から焼成によりレピクロサイト型層状チタン酸を得て、これに塩酸と多量の第4級アンモニウム水酸化物で処理し層剥離させることで分散液として得る方法や、チタンアルコキシド及び/又はチタン塩(以下、「チタン源」ということがある。)を、アミン類及び/又はホスホニウム類(以下、総称して「アミン類等」ということがある。)の存在下で、加水分解することにより得られている。この場合、安定なチタン酸ナノシート分散液を製造するために多量のアミン類等が使用されるが、アミン類等は変色の原因になるため、透明分散液を調製するためには除去することが好ましい。しかしながら、アミン類等の除去には手間がかかる上、除去効果は十分でなかった。本発明者らは、カチオン交換樹脂を用いることで、アミン類等を効率的かつ効果的に除去できることを見出した。
すなわち、本発明のチタン酸ナノシート分散液の製造方法は、アミン類及び/又はホスホニウム類を含有するチタン酸ナノシート分散液を、カチオン交換樹脂と接触させる工程を含むことを特徴とする。本発明に使用する成分、工程について以下に説明する。
【0010】
(チタン酸ナノシート分散原液)
本明細書においては、多量のアミン類やホスホニウム類を含む、調製直後のチタン酸ナノシート分散液を、「チタン酸ナノシート分散原液」という。
(チタン源)
溶液中でチタン酸ナノシートを調整する場合、チタン源として加水分解により水酸化チタンを生成するものが好ましく、チタンアルコキシド及び/又はチタン塩を挙げることができる。ここで、水酸化チタンは、Ti(OH)2、Ti(OH)3、Ti(OH)4又はH4TiO4で表される組成式を有するものを包含する。
チタンアルコキシドとしては、炭素数1〜6、好ましくは炭素数2〜4のアルコキシドを有するチタンアルコキシドが好ましく、具体的には、チタンテトラエトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
これらの中では、特にチタンテトラアルコキシドが好ましく、一般的な入手のし易さ、取り扱い性の観点から、チタンテトライソプロポキシドが好ましい。
【0011】
チタン塩としては、例えば、四塩化チタン、三塩化チタン、二塩化チタン等の塩化チタン、硫酸チタン、硫酸チタニル、硝酸チタニル等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。これらの中では、一般的な入手のし易さ、取り扱い性の観点から、四塩化チタン、硫酸チタン及び硫酸チタニルがより好ましい。
チタン塩は、水と混合することにより、又は水との混合後、加熱することにより水酸化チタンを生成するが、その際、更にアルカリを共存させてもよい。水酸化チタンを生成させる際に共存させるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類水酸化物が挙げられる。更にはアンモニアや上記アミン類もアルカリとして使用することができる。これらの中では、入手のし易さ、取り扱い性の観点から、アルカリ金属水酸化物、アンモニア及びアミン類がより好ましい。アルカリの添加量は、チタン塩水溶液のpHが2以上となる量、より好ましくはpHが4以上となる量が好ましい。
【0012】
チタン源は、水及び/又はそれらと相溶性の高い溶媒に溶解しておいてもよい。かかる溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソペンチルアルコール等のアルコールが挙げられる。
なお、チタンとともに、他の元素、例えば、バナジウム、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、アルミニウム、鉄、ニッケル、コバルト、マンガン等を共存させ、複合化することもできる。
【0013】
(アミン類)
アミン類としては、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、及び第4級アンモニウム水酸化物からなる群から選ばれる1種以上が用いられるが、好ましくは炭素数1〜10のアルキル基又はアルケニル基を有するアミン類が好ましい。
具体的には、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、ペンチルアミン、ジペンチルアミン、トリペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、トリヘキシルアミン、ジメチルヘキシルアミン、ジメチルベンジルアミン、ジメチルオクチルアミン等が好ましく挙げられる。また、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の置換アミン類も用いることができる。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
これらの中では、アミン類の留去しやすさの観点から、常圧における沸点が200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、100℃以下であるものが更に好ましい。また、第2級アルキルアミン及び第3級アルキルアミンが好ましく、炭素数1〜6、特に炭素数2〜4のアルキル基を有する第2級アルキルアミン及び第3級アルキルアミンがより好ましく、ジエチルアミン、トリエチルアミン及びジ−n−プロピルアミンが特に好ましい。
また、チタン酸ナノシート生成の観点から、アミン類濃度9mmol/Lの水溶液におけるpHが9以上であるアミン類が好ましい。
【0014】
(ホスホニウム類)
ホスホニウム類とは、無機ホスホニウム化合物のリン原子と結合する水素をアルキル基、フェニル基等で置換した化合物をいい、第4級ホスホニウム水酸化物が好ましい。
第4級ホスホニウム水酸化物としては、テトラエチルホスホニウムヒドロキシド、テトラプロピルホスホニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド、テトラペンチルホスホニウムヒドロキシド、及びテトラヘキシルホスホニウムヒドロキシド等の炭素数2〜8のアルキル基を有するテトラアルキルホスホニウムヒドロキシド;テトラフェニルホスホニウムヒドロキシド、エチルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、ペンチルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、2−ジメチルアミノエチルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド、メトキシメチルトリフェニルホスホニウムヒドロキシド等のトリフェニルホスホニウムヒドロキシドが挙げられる。
これらの中では、テトラエチルホスホニウムヒドロキシド、テトラプロピルホスホニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド、及びテトラペンチルホスホニウムヒドロキシドから選ばれる1種以上が好ましい。
第4級ホスホニウム水酸化物は、チタン酸ナノシート生成の観点から、第4級ホスホニウム水酸化物濃度9mmol/Lの水溶液におけるpHが9以上である第4級ホスホニウム水酸化物が好ましい。
【0015】
(チタン酸ナノシート分散原液の調製)
チタン酸ナノシート分散原液を調整する場合、アミン類等の含水溶液とチタン源を混合してもよく、アミン類等とチタン源の混合液と水とを混合してもよい。また、例えば、チタン源の加水分解により得られた水酸化チタンをアミン類等と混合することによっても得ることができる。
チタン源とアミン類及び/又はホスホニウム類の混合比率は、本分散液の保存安定性及びコストの観点から、アミン類、ホスホニウム及びチタン源を構成している元素N、P及びTiとして、N/Tiモル比及びP/Tiモル比の少なくとも何れかが0.3〜10が好ましく、0.3〜5がより好ましく、0.4〜2が更に好ましい。
また、チタン酸ナノシート分散原液のチタン濃度は、保存安定性及び使いやすさの観点から、酸化チタン(TiO2)換算で0.01〜15質量%が好ましく、0.05〜10質量%がより好ましく、0.05〜5質量%が更に好ましい。
【0016】
アミン類等の存在下でチタン源を加水分解することにより、チタン化合物の白濁を生じることがあるが、継続的に撹拌を行うことで無色透明な液を得ることができる。アミン類等の存在下でチタン源を加水分解する場合、水の量はチタンが分解するのに必要な量であればよい。添加する水の量は、アミン類やホスホニウム類及びチタン源の混合物の質量に対して5〜50倍の質量が好ましく、10〜15倍の質量がより好ましい。
チタン源の加水分解温度は、アミン類等の安定性の観点から、2〜200℃が好ましく、10〜150℃がより好ましく、20〜100℃が更に好ましい。
また、チタン源とアミン類等の反応時間は0.1〜20時間が好ましく、1〜10時間がより好ましい。混合時間は、0.01〜5時間が好ましく、0.02〜2時間がより好ましい。
【0017】
(チタン酸ナノシート)
本発明のチタン酸ナノシートは、チタンを中心として6個の酸素が配位した8面体構造を基本ユニットとし、このユニットが二次元平面状に広がった分子レベルの厚み(例えば、0.3〜0.8nm)を持ったシート構造(例えば、長さ2〜10nm)を有する。このチタン酸ナノシートは、二チタン酸、三チタン酸、四チタン酸、五チタン酸、六チタン酸、レピドクロサイト型等の構造を有するチタン酸ナノシートを包含し、例えば、チタン酸との塩の形態で、後記のアミン類等がアミン類等/Tiモル比で0.1以下の割合で含まれていると考えられる。
チタン酸ナノシートは、分散液中において、チタン酸ナノシートが1枚ずつばらばらに分散した状態であると推察され、チタン酸ナノシート分散液は、系によっては、チタン酸ナノシートが積層し層を成した状態や、一部凝集したものを含むと考えられる。
【0018】
このようなチタン酸ナノシートは、ラマンスペクトルで波数が260〜305cm-1、440〜490cm-1及び650〜1000cm-1の領域にそれぞれピークを有する。なお、従来の代表的な酸化チタンであるアナターゼ型チタニアは、ラマンスペクトルで波数が140〜160cm-1、390〜410cm-1、510〜520cm-1及び630〜650cm-1の領域にピークを有し、ルチル型チタニアは、ラマンスペクトルで波数が230〜250cm-1、440〜460cm-1及び600〜620cm-1の領域にピークを有する。
【0019】
(分散媒)
チタン酸ナノシート分散液(分散原液及び本発明の分散液)の分散媒の主成分は、分散液の汎用性、保存安定性及びコストの観点から、水や水溶性の有機溶媒が好ましい。水溶性の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、第3級ブタノール等の炭素数1〜8のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の炭素数3〜10のケトン等の極性有機溶媒が挙げられる。これらの中では、炭素数1〜6のアルコールがより好ましく、メタノールが特に好ましい。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0020】
(アミン類等を含有するチタン酸ナノシート分散液とカチオン交換樹脂との接触処理)
カチオン交換樹脂としては特に制限はなく、市販品を用いることができる。アミン類等の除去効率の観点からは、強酸性カチオン交換樹脂が好ましく、例えばオルガノ株式会社製、アンバーライト120B(H+型)等を用いることができる。
カチオン交換樹脂との接触処理は、バッチ法、カラム法等常法により行うことができる。カチオン交換樹脂処理の温度や時間は、所望のアミン量等となるように適宜決定することができるが、本分散液の製造容易性の観点から、処理温度は10〜80℃が好ましく、20℃〜40℃がより好ましい。処理時間は、24時間以内が好ましく、0.5〜5時間がより好ましい。
バッチ法におけるカチオン交換樹脂の使用量は、所望のアミン類等の量となるように適宜決定することができるが、本分散液の製造容易性の観点から、中間分散液中のアミン類等の量に対して1〜10当量が好ましく、1〜5当量がより好ましい。
チタン酸ナノシート分散原液をカチオン交換樹脂に直接接触させて処理してもよい。しかしながら、アミン類等は、チタン酸ナノシート分散液の凝集、沈殿、ゲル化等を抑制し、チタン酸ナノシートを安定に分散させる化合物であるため、アミン類等を強制的に除去し過ぎると、凝集、沈殿、ゲル化等の問題が発生するおそれがある。そのため、カチオン交換樹脂との接触前に、チタン酸ナノシートの分散性を改善する分散向上剤を添加して、アミン類等の除去による悪影響を抑制することが好ましい。
【0021】
本発明は、また、下記工程I〜IIIを有するチタン酸ナノシート分散液の製造方法をも開示する。
工程I:チタンアルコキシド及び/又はチタン塩を、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン及び第4級アンモニウム水酸化物からなる群から選ばれる1種以上のアミン類、及び/又は第4級ホスホニウム水酸化物の存在下で、加水分解することにより、アミン類及び/又は第4級ホスホニウム水酸化物を含有するチタン酸ナノシート分散液(チタン酸ナノシート分散原液)を得る工程
工程II:工程Iで得られた分散液と分散向上剤とを混合する工程
工程III:工程IIで得られた分散液とカチオン交換樹脂と接触させる工程
【0022】
工程Iにおけるチタン酸ナノシート分散液(チタン酸ナノシート分散原液)の調製方法及び工程IIIにおけるカチオン交換樹脂との接触処理は、前記のとおりである。
本発明は、工程IIにおいて、カチオン交換樹脂を接触させる前に分散向上剤を添加し、混合する工程を有することで更に特徴付けられる。
なお工程Iと工程IIとの間で、凝集、沈殿ないしゲル化が起こらない程度にアミン類を除去する工程I'を加えてもよい。具体的には、分散液中の溶媒を除去して濃縮し、得られた濃縮液を新たな溶媒で希釈するという「濃縮−希釈」の組合せを1回以上行う工程I'を加えてもよい。また、工程IIと工程IIIとの間でも同様に、分散液の濃縮−希釈の組合せを1回以上行う工程II'加えてもよく、また、分散液の溶媒を除去してチタン酸固体にした後、該固体を溶媒に再分散ないし溶解させる工程II’’を加えてもよい。本発明では、工程II’及び工程II’’の少なくともいずれかの工程を追加することにより、工程IIIにおけるカチオン交換樹脂によるアミン類等の除去効率を最大限に高めることができる。
【0023】
(分散向上剤)
本発明において、分散向上剤とは、チタン酸ナノシートの分散性を向上させる化合物であり、チタン酸ナノシートの凝集、沈殿、ゲル化等を抑制する作用を示す。分散向上剤は、チタン酸ナノシート分散原液からカチオン交換樹脂で処理することによりアミン類等を徹底的に除去する上で重要な化合物である。
例えば、アミン類等としてジエチルアミンを含有するチタン酸ナノシート水分散液(例えば、TiO2換算濃度:質量1%、アミン類等/Tiモル比0.5)をカチオン交換樹脂で処理しても、分散向上剤共存下では沈殿が生じることはない。その結果、アミン類等の含有量の少ない(アミン類等/Tiモル比0.1以下)チタン酸ナノシートの透明で均一な分散液を得ることができる。
一方、分散向上剤の非存在下では、同じチタン酸ナノシート分散液を、同様にカチオン交換樹脂で処理すると、約1質量%のTiO2換算濃度でも沈殿が生じ、これを更に乾燥させて粉末状態にしてもアミン類等を完全に除去することはできない。
【0024】
分散向上剤の作用機構については定かではないが、分散向上剤のシラノール基、ヒドロキシル基、カルボキシル基の等の官能基がチタン酸ナノシートの表面Ti原子に相互作用(結合)することにより、チタン酸ナノシートの構造を安定化(凝集抑制)させることにより、カチオン交換樹脂で処理してアミン類等の含有量を少なくしても安定なチタン酸ナノシート分散液が得られたと推察される。
チタン酸ナノシート分散原液と分散向上剤の混合温度は、本分散液の製造容易性および分散性の観点から、通常0〜100℃が好ましく、10〜70℃がより好ましく、20〜40℃が更に好ましい。また、その混合時間は、0〜24時間が好ましく、1〜12時間がより好ましい。
本分散液の生産性および分散安定性の観点から、工程II終了後、工程IIIにおける分散液(中間分散液)の濃度はTiO2重量換算濃度で0.1〜40%が好ましく、1〜20%がより好ましい。
【0025】
分散向上剤は、有機化合物でも無機化合物でもよいが、得られるチタン酸ナノシート分散液の分散性向上の観点から、分散溶媒に可溶な化合物が好ましく、チタン酸ナノシート表面に相互作用(結合、配位、静電的相互作用等)する化合物が好ましい。具体的には、(a)ヒドロキシカルボン酸、(b)アルコキシシラン、(c)ポリオール、クロロシラン、ポリカルボン酸、ジケトンからなる群から選ばれる1種以上が好ましく、(a)ヒドロキシカルボン酸、(b)アルコキシシラン、(c)ポリオールからなる群から選ばれる1種以上がより好ましい。
【0026】
(a)ヒドロキシカルボン酸とは、水酸基を有するカルボン酸である。水酸基を1個有するヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸(一塩基酸)、乳酸(一塩基酸)、マンデル酸(一塩基酸)、リンゴ酸(二塩基酸)、及びクエン酸(三塩基酸)等が挙げられる。水酸基を2個有するヒドロキシカルボン酸としては、グリセリン酸(一塩基酸)、酒石酸(二塩基酸)等が挙げられる。本分散液の分散性の観点から、水溶性のヒドロキシカルボン酸が好ましく、グリコール酸、乳酸、マンデル酸、リンゴ酸、クエン酸、グリセリン酸及び酒石酸からなる群から選ばれる1種以上が好ましく、クエン酸が特に好ましい。
チタン酸ナノシート分散原液とヒドロキシカルボン酸の混合は、チタン酸ナノシート分散原液中のチタン源由来のTi原子に対する、ヒドロキシカルボン酸の割合、すなわちヒドロキシカルボン酸/Tiがモル比で、0.01〜10、好ましくは0.05〜1、より好ましくは0.1〜0.5の割合になるように行うことが好ましく、これが最終的な本分散液中のヒドロキシカルボン酸/Tiの比率に反映される。
【0027】
(b)アルコキシシランのSi原子1個当たりのアルコキシ基の数は2〜3が好ましく、アルコキシ基としては、炭素数1〜6、特に炭素数1〜4のものが好ましく、特にメトキシ基、エトキシ基が好ましい。
アルコキシシランの置換基は、本分散液の保存安定性の観点から、アルキル基、エポキシ基、フェニル基、メルカプト基、ビニル基、及びメタクリル基からなる群から選ばれる1種以上が好ましく、本分散液の保存安定性、コスト等の観点から、アルキル基、エポキシ基、及びフェニル基からなる群から選ばれる1種以上がより好ましい。
【0028】
アルコキシシランの具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ベンジルアミノプロピルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシシラン、ジメトキシメチル−3−(3−フェノキシプロピルチオプロピル)シラン等のシランカップリング剤が挙げられる。
その好適例としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、及びジフェニルジメトキシシシランからなる群から選ばれる1種以上が挙げられる。
これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0029】
アルコキシシランの分子量は特に限定されないが、本分散液の保存安定性及びコストの観点から、100〜10,000が好ましく、120〜1000がより好ましく、150〜500が更に好ましい。
チタン酸ナノシート分散原液とアルコキシシランの混合は、チタン酸ナノシート分散原液と中のチタン源由来のTi原子に対する、アルコキシシラン中のSi原子の割合、すなわちSi/Tiがモル比で、0.001〜50、好ましくは0.005〜10、より好ましくは0.01〜1、最も好ましくは0.05〜0.5の割合になるように行うことが好ましく、これが最終的な本分散液中のSi/Tiの比率に反映される。
なおアルコキシシランは、加水分解により生成するSi−O基がチタン酸ナノシートの表面Ti原子に結合することが推察される一方で、その一部は、重合してポリシロキサン等のケイ素化合物を形成する可能性が考えられる。従って、本分散液には、アルコキシシランは、ポリシロキサンやシラノール化合物として含有する可能性もある。このため、本分散液のSi量はこれら全ての化合物を合計したSi量である。
【0030】
(c)ポリオールは、本分散液の保存安定性の観点から、1分子当たりのアルコール官能基数が2〜20であるものが好ましく、アルコール官能基数に対する炭素数の比が1〜20であるものが好ましく、1,2−ポリオール、1,3−ポリオールが好ましい。
ポリオールの分子量は特に限定されないが、本分散液の保存安定性及びコストの観点から、60〜10,000が好ましく、60〜1,500がより好ましく、炭素数は2〜50が好ましい。
ポリオールの具体例としては、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,3−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、カテコール、3−ブテン−1,2−ジオール、グリセリン、グリセリルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の水溶性ポリオールが挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0031】
これらの中では、本分散液の保存安定性等の観点から、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオールの他、分子量300〜1,200のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の水溶性ジオールがより好ましい。また、特に、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、分子量300〜1,000のポリエチレングリコールが更に好ましい。
ポリオールの配合量は特に限定されないが、本分散液の保存安定性及び製造容易性等の観点から、ポリオール/Tiモル比で0.1〜10が好ましく、0.3〜3がより好ましく、0.4〜2.5が更に好ましい。
【0032】
以上のように、本発明によると、アミン類等を含有するチタン酸ナノシート分散原液に、必要に応じて分散向上剤添加してチタン酸ナノシートの分散性を高めた上で、カチオン交換樹脂を接触させることによって、透明性に優れ、アミン類等を従来にない非常に低いレベルまで下げることができる。かかる分散液は、前記いずれかの製造方法により得られ、分散液中のN/Tiモル比及びP/Tiモル比がいずれも0.1未満であるチタン酸ナノシート分散液である。製造工程でアミン類またはホスホニウム類の何れかを配合しない場合は、配合しない化合物由来のモル比率は当然ながら0になる。本発明では実際に、N/Tiモル比及びP/Tiモル比がいずれも0.04程度でかつ安定な分散液を得ることができている。その下限は特に制限はないが、生産性の観点から、製造工程で該化合物を配合した場合は、0.005以上である。
【0033】
本発明のチタン酸ナノシート分散液は、25℃で中性ないし酸性であり、特にTiO2重量換算濃度1%の分散液の25℃におけるpHは、好ましくは1〜7.5、より好ましくは2〜7、更に好ましくは2.5〜6.5である。中性〜酸性のチタン酸ナノシート分散液は、耐アルカリ性に劣る基材との複合化が可能となり、汎用性の点で優れている。
また、チタン酸ナノシート分散液を、ポリエステル系樹脂等に添加して無機−有機ナノ複合材料を製造する場合、アルカリ性のチタン酸ナノシート分散液を配合すると、配合組成物の保存安定性や得られる複合材料成形体の物性が低下するおそれがあるが、中性ないし酸性のチタン酸ナノシート分散液を添加すればそのような不都合が生じる可能性が低い。
本発明のカチオン交換樹脂を用いる方法は、分散液を酸性にすることに適しており、アミン量を低減でき、また、従来の酸剤(塩酸、硫酸等)添加による酸性化においては分散液の透明度が下がる傾向にあるのに対して、本発明方法は透明性を維持する上で有利である。従って、本発明のチタン酸ナノシート分散液は、分散向上剤(ヒドロキシカルボン酸等)以外の酸を実質的に添加しなくても、中性ないし酸性で、かつ透明度が高く安定な分散剤とすることができる。
ここで「透明性に優れる」とは、TiO2重量換算濃度1%の分散液の濁度が30%以下のことをいう。濁度はJIS K−0101規定の方法により求めることができる。
また、pHの測定は実施例記載の方法により行う。本分散液中のTi量は、高周波誘導プラズマ発光分析法(ICP)や蛍光X線分析法等の常法により、アミン量は、滴定法、NMR法、ガスクロマトグラフ法、液体クロマトグラフ法等の常法により求めることができる。
【0034】
その他本発明の製造方法では、アミン類などを含有するチタン酸ナノシート分散液(チタン酸ナノシート分散原液)に分散向上剤を添加し分散性を高めた後で、加熱などにより分散媒を除去して濃縮する操作と、濃縮された分散媒に再び分散媒を追加する希釈する操作を繰り返すことによって、アミン類を除去する工程を加えてもよい。分散向上剤を添加した後、溶媒を完全に除去させて固体にしたものを、改めて溶媒に分散させてもよい。これら操作を行うことで、アミン類を低減させることができる。カチオン交換樹脂はその前後で用いることができる。溶媒は前記の分散媒に挙げられたものを用いることができ、使用用途によって、メタノールなどの有機溶剤に置換してもよく、水溶液であってもよい。
【0035】
(チタン酸ナノシート固体)
本発明のチタン酸ナノシート固体は、前記で得られた本分散液から分散媒を除去することにより得ることができる。
ところで、カチオン交換樹脂による接触処理を行わない分散液、すなわちチタン酸ナノシート分散原液から分散媒を除去することにより得られるチタン酸ナノシート分散液は、チタン酸ナノシートと静電的相互作用していると推察されるアミン類等が、チタン酸ナノシート間にインターカレートされた層状構造を形成すると考えられる。従って、チタン酸ナノシート分散原液とから単に分散媒を除去するだけでは、得られたチタン酸ナノシート固体は、層状構造を有するが、該固体中に大量のアミン類等を残した状態になる。しかしながら、本発明におけるカチオン交換樹脂による接触処理を行うと、チタン酸ナノシート固体のアミン類等を低減することができ、とりわけ分散向上剤を用いた工程I〜IIIを経て得られる分散剤の場合は、アミン類等が非常に低減されたチタン酸ナノシート固体を得ることができる。
分散媒の除去方法としては、加熱又は減圧により蒸発する方法等の常法が採用される。加熱乾燥温度は200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。
乾燥時間は、所望の乾燥度により適宜設定すればよいが、通常1〜72時間が好ましく、5〜24時間がより好ましい。
【0036】
本発明のチタン酸ナノシート固体は、粉末状、顆粒状、ガラス状、ゲル状等各種の形態とすることができるが、使いやすさ、製造容易性の観点から、粉末状が好ましい。
前記ナノシート固体中のチタン酸ナノシートの含有量は、チタン酸ナノシートの性能発現の観点から、TiO2換算濃度で30〜99質量%が好ましく、50〜95質量%がより好ましく、60〜90質量%が更に好ましい。
前記固体に含まれるアミン類等の含有量は、汎用性の観点から、N/Tiモル比及びP/Tiモル比はいずれも0.1以下が好ましく、0.08以下がより好ましく、0.05以下が特に好ましく、その下限は特に制限はないが、生産性の観点から、いずれかが0.005以上である。特には、アミン類のみを用いることが好ましい。また前記ナノシート固体には、性能を損なわない範囲内で、チタン酸ナノシート以外の元素、化合物を共存させることができる。分散向上剤を用いた場合は、チタン酸ナノシート固体は、分散向上剤を含有する。
なお、前記ナノシート固体中の各成分の定性分析、定量分析は、粉末X線回折法(XRD)、ラマンスペクトル法、IRスペクトル法、NMRスペクトル法、紫外−可視吸収スペクトル法、蛍光X線分析法(XRF)、燃焼法等の組成分析、滴定法等の常法により行うことができる。
【実施例】
【0037】
以下の実施例及び比較例において、ラマン分光法によるチタン酸ナノシート構造の確認、粉末X線回折法(XRD)によるチタン化合物の層状構造の確認、チタン等の定量分析、及びpH測定は、以下の方法によって行った。なお、「%」は質量基準である。
<ラマン分光法によるチタン酸シート構造の確認>
ラマン分光測定装置(東京インスツルメント株式会社製、Nanofinder30)を用いて、アルゴンイオンレーザー(波長633nm)を光源とし、グレーティング600grp/mm、積算時間400秒の条件で室温にて測定した。
<粉末X線回折法(XRD)によるチタン化合物の層状構造の確認>
粉末X線回折装置(理学電機株式会社製、RINT2500VPC、光源:Cu−Kα、管電圧:40kV、管電流:120mA)を用い、2θ=4〜60°の範囲を走査間隔0.01°、走査速度10°/min、発散縦制限スリット10mm、発散スリット1°、受光スリット0.3mm、散乱スリット自動の条件で室温にて測定した。また、2θ=2〜10°の範囲を走査間隔0.01°、走査速度1°/min、発散縦制限スリット10mm、発散スリット1/2°、受光スリット0.15mm、散乱スリット自動の条件で室温にて測定した。
<定量分析>
チタン酸ナノシート固体のTi、Si定量分析は、蛍光X線分析(XRF)装置(理学電機株式会社製、ZSX100E)を用いて行い、C、H、N、P定量分析は、全自動元素分析計(パーキンエルマー社製、2400II、カラム分離方式、TCD検出)を用いて行った。また、チタン酸ナノシート分散液中のTi定量分析は、分散液の乾燥固体を前記の蛍光X線装置を用いて分析することにより、行った。チタン酸ナノシート分散液中のアミン類等の定量分析は、過塩素酸滴定法により、行った。
<pH測定>
pHメータ(株式会社堀場製作所製、「D−13」、pH電極「6367」)を用いて、pH電極内部液として飽和塩化カリウム水溶液(3.33mol/L)、温度25℃の条件下でpHを測定した。なお、本分散液の分散溶媒が有機溶媒である場合、水で2倍希釈した分散液のpHを測定した。
【0038】
調製例1<チタン酸ナノシート分散原液の調製>
ジエチルアミン(和光純薬工業株式会社製)0.2モル(15g)を蒸留水640gに溶解したアミン水溶液を撹拌し、これに、室温下、チタンテトライソプロポキサイド〔Ti(OiPr)4〕(和光純薬工業株式会社製)0.4モル(114g)を滴下した。滴下に伴い溶液は白濁するが、撹拌を続行することでTiO2換算濃度4%、N/Tiモル比0.5、pH11の透明な、ジエチルアミンを含有するチタン酸ナノシート水分散液を得た。
【0039】
実施例1
<クエン酸混合中間分散液の調製>
調製例1で得られたジエチルアミン含有チタン酸ナノシート水分散液(チタン酸ナノシート分散原液)768g(Ti=0.4モル)に、撹拌、室温下、蒸留水200gに無水クエン酸(和光純薬工業株式会社製)0.067モル(13g)を溶解させた水溶液を2時間かけて滴下、更に2時間室温で撹拌した。得られた無色透明水分散液をテフロン(登録商標)製バットに入れ、電気乾燥機を用いて100℃、8時間乾燥を行うことにより、淡黄色粉末を得た。
得られた乾燥粉末の定量分析の結果、TiO2換算濃度50%、ジエチルアミン17%、クエン酸21%、水分12%、N/Tiモル比は0.37、クエン酸/Tiモル比は0.17であった。また、XRDパターンにおいて、アナターゼ型やルチル型等の結晶性化合物のピークは見られず、面間隔1.9nmの層状構造に由来するピークのみが認められたことから、チタン酸ナノシート固体が層状構造であることが確認できた。またラマンスペクトルによりチタン酸骨格構造であることが確認された。
得られた乾燥粉末を室温下、水に再分散させることにより、TiO2換算濃度5%の淡黄色透明な中間分散液を調製した。
<カチオン交換樹脂処理>
上記で得られたTiO2換算濃度5%の中間分散液80g(Ti=0.05モル)に撹拌、室温下、強酸性カチオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、アンバーライト120B(H+型)、総交換容量4.4mg当量/g乾燥樹脂)8.4g(中間分散液中のアミン量に対して2当量)を添加、1時間撹拌後、デカンテーションによりカチオン交換樹脂を除去することにより、チタン酸ナノシートの水分散液を得た。
得られたチタン酸ナノシートの水分散液は透明均一であり、ラマンスペクトルによりチタン酸骨格構造であることが確認された。また定量分析の結果、TiO2換算濃度5.4%、ジエチルアミン濃度0.2%、N/Tiモル比は0.04であった。またTiO2換算濃度1%の水分散液の25℃におけるpHは3.0であった。
このチタン酸ナノシートの水分散液をテフロン(登録商標)製バットに入れ、電気乾燥機を用いて110℃、8時間乾燥を行うことにより、白色粉末を得た。得られた乾燥粉末の定量分析の結果、TiO2換算濃度62%、アミン類等/Tiモル比は0.04、クエン酸/Tiモル比は0.17であった。また、XRDパターンにおいて、アナターゼ型やルチル型等の結晶性化合物のピークは見られず、面間隔1.9nmの層状構造に由来するピークのみが認められたことから、チタン酸ナノシート固体が層状構造であることが確認できた。またラマンスペクトルによりチタン酸骨格構造であることが確認された。結果を表1に示す。
【0040】
比較例1
実施例1において、カチオン交換樹脂処理を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、チタン酸ナノシート水分散液及びその粉末固体を製造した。チタン酸ナノシート分散液及び粉末固体は、いずれもラマンスペクトルによりチタン酸骨格構造であることが確認された。結果を表1に示す。
【0041】
実施例2
実施例1において、中間分散液の調整過程で、粉末化した後、再分散の際に分散させる溶媒として水の代わりにメタノールを用いた以外は、実施例1と同様にして、チタン酸ナノシートメタノール分散液及びその粉末固体を製造した。得られたチタン酸ナノシートのメタノール分散液は透明均一であり、ラマンスペクトルによりチタン酸骨格構造であることが確認された。結果を表1に示す。
【0042】
実施例3
<フェニルトリメトキシシラン混合中間分散液の合成>
ジエチルアミン含有チタン酸ナノシート水分散液(チタン酸ナノシート分散原液)30g(Ti=0.015モル)に、室温下、メタノール100gとフェニルトリメトキシシラン(信越化学株式会社製)0.30g(0.0015モル)を均一混合後、すぐにエバポレーター(50℃)を用いて、濃縮を行った。得られた透明濃縮液にメタノール100gを添加、均一混合後、すぐにエバポレーター(50℃)を用いて再度濃縮を行った。このメタノール希釈−濃縮工程を17回繰り返すことにより、ジエチルアミン及びフェニルシラン化合物を含有するチタン酸ナノシートのメタノール分散液を製造した。なお、各濃縮工程において、メタノールで希釈した分散液の量が20〜25gとなるまで濃縮を行った。
得られたチタン酸ナノシートのメタノール分散液は透明均一であり、その定量分析の結果、TiO2換算濃度4.2%、水分0.16%、N/Tiモル比は0.16、H2O/Tiモル比は0.19であった。TiO2換算濃度1%のメタノール−水混合分散液の25℃におけるpHは8.0であった。
得られたメタノール分散液を、メタノールで希釈し、TiO2換算濃度2.3%の中間分散液を調整した。
<カチオン交換樹脂処理>
上記で得られたTiO2換算濃度2.3%の中間分散液80g(Ti=0.023モル)に撹拌、室温下、強酸性カチオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、アンバーライト120B(H+型)、総交換容量4.4mg当量/g乾燥樹脂)3.6g(中間分散液中のアミン量に対して4当量)を添加、1時間撹拌後、デカンテーションによりカチオン交換樹脂を除去することにより、チタン酸ナノシートのメタノール分散液を得た。ラマンスペクトルによりチタン酸骨格構造であることが確認された。また、得られたチタン酸ナノシートメタノール分散液を実施例1と同様に乾燥を行うことにより、チタン酸ナノシート粉末を得た。結果を表1に示す。
【0043】
実施例4
<1,2−ブタンジオール混合中間分散液の合成>
ジエチルアミン含有チタン酸ナノシート水分散液(チタン酸ナノシート分散原液)30g(Ti=0.015モル)に、室温下、メタノール100gと1,2−ブタンジオール(和光純薬工業株式会社製)2.70g(0.03モル)を均一混合後、すぐにエバポレーター(50℃)を用いて、濃縮を行った。得られた透明濃縮液にメタノール100gを添加、均一混合後、すぐにエバポレーター(50℃)を用いて再度濃縮を行った。このメタノール希釈−濃縮工程を11回繰り返すことにより、ジエチルアミン及び1,2−ブタンジオールを含有するチタン酸ナノシートのメタノール分散液を製造した。なお、各濃縮工程において、メタノールで希釈した分散液の量が20〜25gとなるまで濃縮を行った。
得られたチタン酸ナノシートのメタノール分散液は透明均一であり、その定量分析の結果、TiO2換算濃度4.0%、水分0.4%、N/Tiモル比は0.15、H2O/Tiモル比は0.44であった。TiO2換算濃度1%のメタノール−水混合分散液の25℃におけるpHは8.0であった。
得られた、得られたメタノール分散液を、メタノールで希釈し、TiO2換算濃度2.0%の中間分散液を調整した。
<カチオン交換樹脂処理>
上記で得られたTiO2換算濃度2.0%の中間分散液80g(Ti=0.02モル)に撹拌、室温下、強酸性カチオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、アンバーライト120B(H+型)、総交換容量4.4mg当量/g乾燥樹脂)3.4g(中間分散液中のアミン量に対して4当量)を添加、1時間撹拌後、デカンテーションによりカチオン交換樹脂を除去することにより、チタン酸ナノシートのメタノール分散液を得た。また、得られたチタン酸ナノシートメタノール分散液を実施例1と同様に乾燥を行うことにより、チタン酸ナノシート粉末を得た。結果を表1に示す。
【0044】
実施例5
ジエチルアミン含有チタン酸ナノシート水分散液(チタン酸ナノシート分散原液)40gに蒸留水120gを添加してTiO2換算濃度1%の透明均一なジエチルアミン含有チタン酸ナノシート水分散液を調製した。この水分散液160g(Ti=0.02モル)に撹拌、室温下、強酸性カチオン交換樹脂(アンバーライト120B(H+型)、総交換容量4.4mg当量/g乾燥樹脂、オルガノ株式会社製)2.3g(チタン酸ナノシート分散原液中のアミン量に対して1当量)を添加、1時間撹拌後、デカンテーションによりカチオン交換樹脂を除去することにより、チタン酸ナノシートの水分散液を得た。得られたチタン酸ナノシート水分散液をテフロン(登録商標)製バットに入れ、電気乾燥機を用いて100℃、8時間乾燥を行うことにより、チタン酸ナノシート粉末を得た。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1から、本発明の方法によれば、カチオン交換樹脂により、アミン類等が除去されていることがわかる。更にチタン酸ナノシート分散原液を分散向上剤で処理の後に、カチオン交換樹脂を接触させることにより、N/Tiモル比が0.1未満の透明性の優れたチタン酸ナノシートの分散液が得ることができ、アミン類が低減されたチタン酸ナノシート固体を効率的に得ることができる。しかし、カチオン交換樹脂処理を行わないと(比較例1)、分散向上剤を混合しても、N/Tiモル比及びP/Tiモル比が共に0.1未満にならないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のチタン酸ナノシート分散液及びその固体は、アミン類等の含有量が少ないことから、機能性膜(紫外線遮蔽等のバリア膜、耐食膜等)のコート剤、誘電体薄膜材料、触媒等のみならず、アミン類等の混入が許容できない樹脂(例えば、ポリエステル系樹脂)等の添加剤としても利用することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミン類及び/又はホスホニウム類を含有するチタン酸ナノシート分散液を、カチオン交換樹脂と接触させる工程を含む、チタン酸ナノシート分散液の製造方法。
【請求項2】
カチオン交換樹脂に接触させる工程前に、分散液に分散向上剤を添加する工程を含む、請求項1に記載のチタン酸ナノシート分散液の製造方法。
【請求項3】
下記工程I〜IIIを有する、チタン酸ナノシート分散液の製造方法。
工程I:チタンアルコキシド及び/又はチタン塩を、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン及び第4級アンモニウム水酸化物から選ばれる1種以上のアミン類、及び/又は第4級ホスホニウム水酸化物の存在下で、加水分解することにより、アミン類及び/又は第4級ホスホニウム水酸化物を含有するチタン酸ナノシート分散液を得る工程
工程II:工程Iで得られた分散液と分散向上剤とを混合する工程
工程III:工程IIで得られた分散液とカチオン交換樹脂と接触させる工程
【請求項4】
分散向上剤が、ヒドロキシカルボン酸、アルコキシシラン、及びポリオールからなる群から選ばれる1種以上である、請求項2又は3に記載のチタン酸ナノシート分散液の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法により得られる、分散液中のN/Tiモル比及びP/Tiモル比がいずれも0.1未満である、チタン酸ナノシート分散液。
【請求項6】
アミン類及び/又はホスホニウム類を含有するチタン酸ナノシート分散液であって、分散液中のN/Tiモル比及びP/Tiモル比がいずれも0.1未満である、チタン酸ナノシート分散液。
【請求項7】
チタン酸ナノシート分散液が中性ないし酸性である、請求項5又は6のいずれかに記載のチタン酸ナノシート分散液。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれかに記載のチタン酸ナノシート分散液から分散媒を除去して得られる、チタン酸ナノシート固体。

【公開番号】特開2008−247712(P2008−247712A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−94194(P2007−94194)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】