説明

チャックロール

【課題】使用中に温度変化がある場合でも、チャックロールの各部材の間で破壊や剥離、ひずみなどが生じずに、良好な状態で吸着、搬送ができる。ウェブを面粗度やゆがみの面で極めて良好に維持したまま吸着、搬送ができる。製造費用が低く抑えられる。
【解決手段】チャックロールの軸にあたる部分と、ウェブを吸着案内するロール表面の多孔質セラミックスを、ロールの長さ方向にお互いを拘束しない構造とした。そのために、高温での使用でも、温度変化による熱膨張差を持つ材料同士で各部材を製作した場合でも、熱膨張による剥離や破壊が起こらない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
有機物や金属からなる数μm〜1mm程度の連続した帯状の薄板(以下単に「ウェブ」と表す)を吸着、搬送する円筒状であるチャックロールについての発明であり、特に高温(上限が50℃〜300℃程度)での使用に耐えうるものである。
【背景技術】
【0002】
ウェブを吸着して搬送するための吸着ロールは、従来吸着用スルーホールを金属ロールの表面に多数設けた、ロール内部とつながった外部気体制御装置との働きでウェブを吸着、搬送する「スルーホールタイプ」が主流であった。
このスルーホールタイプには弱点があり、スルーホールの部分だけで吸着し、スルーホールにあたらない部分は吸着しないために、ウェブのスルーホールの輪郭周辺に傷が入ったり、ウェブにゆがみができたりすることがある。この問題は、スルーホールの数を多く、径を小さくすることで多少改善されるが、完全でなく、またその際のロールの価格は非常に高価なものとなる。
【0003】
そのために、セラミックスやプラスチック、金属などからなる多孔質体をロールの表層に設け、筒内部より気体を吸引することにより、多孔体全面にてウェブを吸着することが提案されている。そのために表面精度を高めることにより、前記問題のひとつであるウェブの傷やゆがみはある程度抑えることができる。
高温で使用する場合は、チャックロールを形成する部材ごとの熱膨張により、部材同士の剥離や破壊を起こさないことが求められている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−255423号公報
【特許文献2】特開2004−142936号公報
【特許文献3】特願2008−137804号公報
【0005】
引用文献1に記載の技術は、最表層に多孔性の通気孔(4)を設け、その内部により目が大きなスルーホール(11)を設けることにより均一な吸着を行なうことが書かれているが、その通気孔の大きさは20〜125メッシュのものが挙げられており、ウェブが薄く変形しやすい場合は、やはりこのメッシュ形状の転写が問題となる場合がある。また、熱については、その製造過程において熱膨張を利用してロール部材を一体化することについては述べられているが、使用の際の温度変化に関しては考慮されてなく、常温から温度が上がるような環境で使用するには適当かどうかの示唆はなく、温度を上げて焼きばめを行うことを考えれば、温度の変化により使用できないことが当然あると考えられる。
【0006】
引用文献2に記載の技術は、外周面が多孔質からなるサクションロールで、ウェブと接さない部分を遮蔽したものである。遮蔽することにより、ワークと接していない部分からのリークをなくし、吸着力を増すように設計されている。このサクションロールは吸引力については問題なく、円筒状多孔体20について材質は明記されていないが、表面に多孔質焼結プラスチックシートを貼ることが発明の一部として記載されている。前記プラスチックシートの詳細は不明だが、一定の面粗さや平面度を保つという意味では、十分とは言えない。また、使用中に温度が変わるような条件では、部材ごとの熱膨張が異なるために、部材間で破壊や剥離、変形がおき、常温と同様に使用することは困難である。
【0007】
引用文献3に記載の技術は、円筒状多孔体26の両端面側に外部との通気孔(開口部31)を有する側板40、41を備えており、円筒状多孔体26から支持体22を通り、開口部から外部に気体の出入りができるようなサクションロールの構造である。また、これに付随して円筒状多孔体26に付着した塵埃や薬剤も目詰まり防止のために外部へ放出する機構を備えている。この技術も、やはり使用中の温度変化に関する記載がなく、構造をみてもやはり考慮されていない。このサクションロールを、もし温度変化が大きな用途で使用すると、支持フレームとサクションロール本体、円筒状多孔体と側板や歯車状支持体などの間で熱膨張に起因する破壊や剥離、変形がおき、常温と同様に使用することは困難となる。

以上に示す従来の技術では、温度変化が起こる環境下での使用は、その温度が常温から離れるほどに使用が難しくなり、破壊、剥離、ウェブ品質の低下が起こる。温度が常温から離れる用途としては、ウェブに塗布した薬剤の乾燥、定着、固化、熱処理などが挙げられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題を、以下に示す特徴を持つチャックロールを得ることである。
(い)使用中に温度変化がある場合でも、チャックロールの各部材の間で破壊や剥離、ひずみなどが生じずに、良好な状態で吸着、搬送ができるチャックロール。
(ろ)ウェブを面粗度やゆがみの面で極めて良好に維持したまま吸着、搬送ができるチャックロール。
(は)製造費用が低く抑えられるチャックロール。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の本発明はロールの外周部で薄板状のウェブを吸着・搬送するチャックロールであり、ロールの中心部から表層に向かって、少なくとも下記の(1)から(4)の部材を有し、ロール端面には下記(5)(6)を有し、下記(1)(5)(6)の少なくとも1つの部材には、下記(2)を経由して下記(3)へ円筒内部から連通し、チャックロール内の圧力を外部気体制御装置にて制御するための通気道を有するチャックロールである。

なお以下に説明する、本発明の主要な部材である(1)〜(6)については、明細書中では、一部を除きそのまま(1)〜(6)と表現する。
【0010】
この(1)〜(6)についてそれぞれの説明を加える。

(1)中心軸は、図2にその模式図を示すように、外部動力からチャックロールを回転させる駆動力をチャックロール全体に伝える中心軸1であり、下記(5)との接合のための部分2を有する中心軸である。具体的にはモーターや原動機で駆動する動力により(1)を回転させる。回転の中心となるので、その長さが長くなるほどたわみなどの変形が少ない、工具鋼などのヤング率200GPa以上の材料を使用することが望ましい。さらにたわみを少なくしたい場合には、ヤング率が350GPa以上のセラミックスがよい。また、真円度は5μm以内が望ましい。また、外部気体制御装置と、(2)(3)を経由して(4)に伝達する通気道を、例えば端部Aから内部に設けることも可能である。
【0011】
(2)中間支持体は内径側が前記(1)の外径に合わせて設けた略円筒状の部材であり、外部気体制御装置と連通する通気道を有し、その通気道が下記(3)の通気道と連通する構造を有し、下記(5)に接合固定され、かつ前記(1)とは接合されていない中間支持体である。この部材の概念図を図3に示す。
中間支持体は、円筒形状の(3)(4)と(1)の中間に位置し、(3)(4)を支える一方で、(4)の制御を行なうために外部気体制御装置と連通する構造を有す。材質は金属、セラミックス、超硬合金、硬質な有機物などを用いることができる。選択の際には、チャックロールの最大使用温度でも形状を保ち、化学反応を起こさないことが条件となる。
外部の気体制御装置で制御された気体の加減圧は、この中間支持体の(3)への気体連通部分を通って(4)表層部に伝達される。また、この中間多孔体は中心軸(1)の外径部分とは接合しておらず、移動可能な程度に勘合しており、(5)および(6)にて支持されている。そのために、(1)との位置関係が熱膨張などにより常温から変わる場合でも、ロールの長さ方向には(1)と独立しているために、両者を全体的に接合した場合に予想される剥離や破壊の恐れがない。
【0012】
(3)緻密質円筒は内径が(2)の外径と接合し、外径には(4)を接着する円筒であり、少なくとも(2)を通じて(4)にまで外部気体制御装置と連通可能な通気道を有する緻密質円筒である。
緻密質円筒は内面が前記(2)の中間支持体の外形と一体に接合しており、(2)で設けた気体の流動を可能とする溝や穴などを設けて、円筒の表裏に気体を連通させるための連通部分を持つ緻密質円筒である。
この緻密質円筒の役割としては、1つは(4)の製造時および使用時における形状維持が挙げられる。例えば図1や図8に示す(2)の中間支持体のように、外形の一部で(4)表層部を支えるような構造であれば、(4)表層部の製造時および使用時にたわみが起こるために、真円形状やロール長さ方向に変形しやすい部分とそうでない部分が生じることになる。そのために、面精度を維持するのは難しくなる。このように(4)と接着することにより、(4)の変形を抑えるのが役割のひとつである。この緻密体円筒のもう1つの役割は、(4)表層部側への通気孔としての役割である。気体の流動を制御する装置から(2)表層部の手前までは、通気孔の大きさを十分取ることにより確保できるが、(4)表層部への導入は、できるだけ表層部全体に通気孔を行き渡らせるほうがよい。これは、(4)表層部の一部分のみに通気孔を設けるような場合には、(4)は多孔質で気体の流動が少なくなるために、全面を同程度に吸着することが難しくなるからである。
以上の2つの役割を考慮し、この緻密質円筒には、円筒の外周側に1〜数mm幅の溝を切り、溝部分より(2)と連通した気体の加減圧が(4)へ直接働くようになる。この例を図4に示す。もちろん、一定の気体流動ができ、(4)表層部が変形しない形状であればパターンは径や長さ方向に平行的に接着する部分としない部分を設けたり、格子状としたり、円筒が多数表層部に接している形状としたり、ミアンダ状としたりと、吸着力が確保でき、かつ接着が外れない程度であればよい。
【0013】
(4)表層部はチャックロールの周方向の表層部であり、前記(3)の外径に接着され、この面でウェブを吸着、保持するものであり、連続した最外径を有するセラミックスの多孔体からなる表層部である。(3)との接着は(3)の最外径の部分にだけ塗布した接着剤にて行なう(溝9には塗布しない)。なお、ロール両端部にあたる部分の(3)の端部は必ず接着する部分として、リークを防ぐ。セラミックスは酸化アルミ、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、窒化珪素、炭化珪素、炭化チタン、炭化タングステンなどの比較的入手しやすく、製造技術が確立されている種類を主とするのがよい。また、使用雰囲気中で腐食などの心配のないものを選ぶことができる。例えば大気雰囲気中、100℃以上で用いる場合には、炭化物や窒化物セラミックスは表面酸化の危険性があるため、酸化物セラミックスを用いることが適している。
また、表面の面粗さは小さいほうがよいが、面粗さを小さくするために気孔径を小さくすれば吸着力が下がる。吸着力が十分であれば、ウェブに表層部形状が転写されにくい0.2〜2μmの平均気孔径が望ましい。通常、多孔質体の表面全体に被吸着物がないと他の部分からのリークにより、吸着できないが、平均気孔径が前記範囲であれば、多孔質体の表面全体に被吸着物がなくても吸着が可能な「部分吸着」を行なうことができる。これは、他の部分からのリークが気体制御装置の能力よりもはるかに小さいためである。本発明では、この範囲の材質を(4)として使うことを基本として考えており、そのために、本発明の例には、(4)の外周面のうち、吸着をしていない部分からのリークについては特に考慮していない。
【0014】
(5)端面部材1は内径で前記(1)と接合されており、同時に前記(2)、(3)、(4)の部材の片方の端面に設けたリング形状の緻密質であり、チャックロール片端面を密封する端面部材である。(5)端面部材1は前記(1)と接合されており、同時に前記(2)、(3)および(4)の部材の片方の端面に設けた、緻密質の材質からなるリング形状で、チャックロール片端面を密封する端面部材である。模式図を図6に示す。図6の左図はロールの端部より見た図、右側はロールの中心方向より見た図である。(4)の多孔質体は、円筒の端面方向への気体のリークがあるために、端面にはそれをシールする部材が必要となる。シールできれば材質は特に問わず、金属製、セラミック製または有機物系であっても適当にシールできればかまわない。この部材の作用により、外部の気体制御装置による、(4)表層部の吸着や開放を追従させることができる。また、この端面部材1は(1)と内径にて接合している。同図には、両者をボルト締めするためにあけた止まり穴32を有する場合のものを示した。この接合により、(1)を回転させることにより、チャックロール全体を同時に回転させることができる。
さらに、外部の気体制御装置によって(2)を通して(4)とウェブ間の気体の制御を行なう場合には、この部材に貫通した通気道31を設ける。(図9参照)
【0015】
(6)端面部材2は前記(5)に記載の端面と対向する側の端面部材で、リング形状の緻密体であり、前記(2)、(3)および(4)と接合することによりチャックロール端面を密封し、熱膨張により前記(1)と前記(2)の長さが相対的に変わる場合には、(2)および(3)に追随してチャックロールの長さ方向にのみ(1)から相対的に移動して密封状態を保つ構造を持つ端面部材である。その構造の一例を図7に示す。この図では、(2)と(6)とをボルト締めを行なうための貫通穴41を設けた例である。
チャックロールの常温の用途のみだと、あまり問題になることはないが、常温より高い温度での取り扱いの場合は、温度による熱膨張についても考慮が必要である。温度が上がる用途は代表的にはウェブに塗布された塗布剤の乾燥、定着、固化などが当てはまり、その温度は高いものでは300℃となる場合もある。チャックロール部材をすべて同じ材質で製作すればこの温度変化は問題とならないが、セラミックや鉄材、ステンレス鋼、有機物など複数に及ぶ場合には、ロールの長さ方向に熱膨張による部材間の熱膨張差が問題となる。なお、径方向は長さが限られているために、よほど大きな径にならない限り問題になることは少ない。
例として、表層部が熱膨張係数4×10−6(K−1)の炭化珪素系セラミックスであり、中心軸が同13×10−6(K−1)ステンレス鋼であり、長さが2000mmで、200℃まで温度の上がるチャックロールを考える。両者の熱膨張係数の差は9×10−6(K−1)であり、温度変化は常温(25℃)より175(K)である。この場合熱膨張による伸びの差は3.15mmとなり、これは(1)と(2)両者を強固に接合している場合には剥離や破壊が確実に起こる値である。本発明のチャックロールは、(6)を1端面に用いることにより、特に中心軸(1)と多孔質中間体(2)の相対的な長さが変化した場合でも、お互い拘束していないために剥離や破壊は起こらない。
【0016】
以上に述べた(1)〜(6)に示す部材によりチャックロールを製作することにより、チャック面での吸着が均一で、使用時の温度変化がある場合でも問題なく使用でき、しかも費用が少なく製造できるチャックロールを得ることができる。
【0017】
請求項2に記載の本発明は、前記(6)に記載の、(1)から相対的に移動して密封状態を保つ構造が、(6)よりもロール端部に近い部分に設けられた弾性体の伸縮によって移動可能な構造である、請求項1に記載のチャックロールである。この模式図を図1に示す。前述のように、(1)と(2)は互いに接合されていないために、(1)から(2)を見ると長さ方向への拘束はない。しかしながら、(1)と(6)間の隙間が空くことは避けなければならない。この対策としては、(6)を(5)の方向に一定の圧力で押し付ける構造とすることが望ましい。最も簡単で費用がかからないのが、(6)よりチャックロールの端部側に設けた弾性体(図1中51)を用いて、(6)をチャックロール中心方向に押し付ける方法である。弾性体は温度変化により伸縮するために、(1)と(2)はその伸縮の範囲でロールの長さ方向へ相対的に移動が可能になる。弾性体は特に限定するものではないが、高温でも使用可能なシリコンゴムやPTFEなどの耐熱樹脂が好ましい。また、弾性体は(1)と(6)間の接触部をより確実にシールする働きもある。
【0018】
請求項3〜5に記載の本発明は、それぞれ(2)、(3)、(4)が複数の少なくとも径方向には同形状の部材からなり、それらの端部をロールの長さ方向に接着して一体化している構造である請求項1から2のいずれかに記載のチャックロールである。なお、(4)については接着だけでなく、円筒状多孔質セラミックス同士を隙間無く密着させることも可能である。
複数用いることの利点は、その製造のしやすさおよび製造費の低さである。セラミックスを例に挙げれば、長い円筒状の物体を製作するには、原料粉末を冷間静水圧プレスやラバープレスなどで円筒状のグリーン体を得て、それに中間加工を行ない、脱脂、焼成の後に長さ、内径、外径の加工を行なうことが必要になる。求める焼結体が大きいために、プレス割れ、中間加工時の割れ、取り扱い上の割れや欠け、脱脂割れ、焼結割れなどの起こる率が高くなる。また、脱脂や焼結の際は昇温速度や保持速度を遅くしたり長くしたりする必要が生じるために、焼結に必要な時間も電気も多く費やすことになる。これに対して複数の短い円筒形状の部材であれば、プレスは金型プレスで精度よく行え、中間加工も外形、内径を旋盤にて簡単に行なえる。脱脂や焼結は特に長い時間をかけることも不要であり、焼結体が小さいために割れも極めて少ない。焼結後には平面研削盤や両面研削盤を用いて厚さを決め、接着一体化後に内径、外形を整えればよい。
この両者では、得られるものの使用については全く同様に行なえるが、それにかかる費用や時間や難易度、プレス装置、加工装置などは複数のリングを用いるほうがきわめて有利である。
また、それぞれの円筒体は、同じ厚さのものを複数重ねてもよいし、複数の厚さの種類があってもよい。
【0019】
また、前述の説明では特に記載していないが、(2)、(3)および(4)は接着しているために、三者の熱膨張率の差は小さいほど好ましい。そのために最も適しているのは、三者を同じ材質で製造することである。例えば(2)と(3)に緻密質炭化珪素焼結体を用い、(4)に気孔率が20%の炭化珪素多孔体を用いるような方法である。これが難しい場合は、例えば熱膨張率の差が1×10−6(K−1)以内である二種もしくは三種の材質を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、以下に示す課題を解決することができる。
(い)使用中に温度変化がある場合でも、チャックロールの各部材の間で破壊や剥離、ゆがみなどが生じずに、良好な状態で吸着、搬送ができる。
(ろ)ウェブを面粗度やひずみの面で極めて良好に維持したまま吸着、搬送ができる。
(は)製造費用が低く抑えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明のチャックロールは以下のようにして得ることができる。
最初に使用環境に応じて(4)に使用する材質を選定する。重要な要素となるのは気孔率、平均気孔径、耐熱性、化学反応性、熱膨張係数などである。これらの用途に応じて適当な材質を選定する。多孔質体の材質としてはセラミックスが適当であり、酸化物系の酸化アルミ、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化マグネシウム、窒化物としては窒化珪素、窒化アルミ、サイアロン、窒化チタン、炭化物としては炭化珪素、炭化チタン、炭化タングステン、炭化クロムなどの材料入手が容易なものから選ぶことが好ましい。
【0022】
前記セラミックスは、セラミックス以外の材料と比較して、高い耐摩耗性や低い雰囲気やウェブとの反応性、高いヤング率などの特性がチャックロールに適している。
【0023】
次に、(2)(3)の材質を選定する。(2)(3)の選定基準は熱膨張係数が(4)と近いこと、および、強度とヤング率が十分に高いことである。熱膨張係数が(4)と同じか近くないと、使用中に温度が上がった場合に(2)と(3)、(3)と(4)の長さ方向の寸法が離れ、両者が剥離、破壊しやすくなる。熱膨張係数の差は理想的には0であるが、1×10−6(K−1)以下であれば問題ない。また、チャックロールの大きさにもよるが、強度は3点曲げ強度で300MPa以上、ヤング率は200GPa以上がよい。これ以下であれば、(4)と接合後の仕上げ加工の工程や、実際に使用する際の応力により変形や破壊が起こる可能性がある。(4)はセラミックスであるが、(2)、(3)の材質は、以上に述べた諸特性を有していればセラミックスに限らず、鉄系金属や金属間の合金、超硬合金も熱膨張係数さえ(4)と合っていれば使用できる。
【0024】
(1)の中心軸は、ヤング率が200GPa以上、望ましくは350GPa以上の変形の少ない材質が好ましい。また、形状は基本が(2)と嵌合する円柱形であるが、(5)の部材と接合できる箇所も備えている。例えば(5)とボルト締めできるような部材を溶接などで外周部に設けてもよいし、その部分だけ径の大きい構造とし、ボルト締めや溶接などで固定することもできる(図2の2に示す)。形状は円柱状が基本であるが、図8に示すように、外部の気体制御装置に連通する通気孔61を円柱内に設けて(2)と気体のやり取りをすることもできる。また、強度さえ確保できれば円柱状に限らず、円筒状の構造とすることもできる。
【0025】
(5)の端面部材1は内径が(1)と接合するリング形状であり、一端面で(1)と接合、固定されている。もう片方の端面側では(2)、(3)および(4)と接合され、それらを固定している。この端面部材1は、(1)と(2)の接触面や(4)からの端面方向へのリークを防ぐ役割を持つ。これにはリング形状であって、形状の保持や熱による特性が著しく変化しない緻密な材質を選ぶことが好ましい。また、リングの長さ方向はさしたる距離でないために、熱膨張率も考慮する必要が少ない。この材質に当てはまるのは、例えば各種鉄材、ステンレス鋼、セラミックス材料、超硬合金、PTFEのような耐高温性樹脂などから選択すればよい。
【0026】
(6)は内径側が中心軸とロールの長さ方向に可動な程度に嵌合し、端面の片側は(2)、(3)および(4)と結合しているリング状の部材である。片方の端面側では(2)、(3)および(4)と接合および接着されている。この端面部材2は、(4)からの端面方向へのリークを防ぐ役目を持つ。リング形状であって、形状の保持や熱による特性が著しく変化する緻密な材質として選ぶのが好ましい。また、リングの長さ方向はさしたる距離でないために、熱膨張率も考慮する必要が少ない。前記材質に当てはまるのは、例えば各種鉄材、ステンレス鋼、セラミックス材料、超硬合金、PTFEのような耐高温性樹脂などから選択すればよい。
【0027】
(2)(3)(4)については、別々に作ったパーツを接着し、長さを所望の長さとする。それぞれの径方向の寸法は、あらかじめ接着代を残した程度にあけておく。これに長さを決める端面の研削および内外形を決める円筒研削盤、内面研削盤での加工を行なう。(2)の内径側は(1)の外形と隙間なく可動な程度に嵌合するようにする。
【0028】
一方 で、(1)と(5)を結合し、一体とする。次に(1)を、(2)(3)(4)の接合体へ挿入し、端面が(5)と接する状態とする。この状態で、(2)(3)(4)の接合体をその端面にて固定し(5)と一体化する。この方法は接着でもよいし、あらかじめネジ山をきっておきボルトなどで一体化する方法でもよく、端面のリークが起こらない方法であれば良い。また、外部の気体制御装置が(2)と連通する構造とする場合は、あらかじめ(5)にそのための穴(図6の31)をあけておくか、組み立て後に穴を開けることができる。次に、(2)(3)(4)の接合体のもう片方の端面を(6)と接合する。これも端面のリークが起こらなければ方法は問わない。
【0029】
組み立ての終わった(1)〜(6)を、円筒研削盤にて最終仕上げを行なう。(4)の外周を研削し、所望の寸法や面粗度に仕上げることにより本発明のチャックロールを得ることができる。

以下実施例にて、より詳細に本発明を説明する。
【実施例】
【0030】
(1)〜(6)の各部材の材質を以下のように選定した。
(1)SUS430 ステンレス鋼
(2)緻密質アルミナ(3点曲げ強度500MPa、ヤング率380GPa)
(3)緻密質アルミナ(3点曲げ強度500MPa、ヤング率380GPa)
(4)多孔質アルミナ(気孔率25%、平均気孔径1μm)
(5)SUS430 ステンレス鋼
(6)SUS430 ステンレス鋼
また、前記(1)(5)(6)の熱膨張係数は13×10−6(K−1)であり、
(2)(3)(4)の熱膨張係数7×10−6(K−1)である。
【0031】
(1)には、(5)との接合のために使用する図2中のツバ2を溶接にて形成した。ツバ2の部分には長方向への穴を開け、タップ3を切った。また、軸の中央部には外部気体制御装置と連通した通気道を有している(図8中の61)。
【0032】
(2)は、3つの円筒形の緻密質アルミナを用い、内径は(1)の外径にあわせ、外径側からは円筒の両端面から10mmを残し、残る中央部は通気道となる図8中のザグリ63をいれた形状とした。図3に模式図を示す。外部気体制御装置と連通している(1)から伸びた連通孔6を、(1)と接する内通側に設けている。端面部には、隣の円筒形の緻密質多孔質アルミナと気体が連通するように、図1および図3に示すような連通部62を設けた。
【0033】
(3)には外径と内径寸法が同じである5つのリングを接着にて一体化し、端面および内径側を研削仕上げしたものを用いた。このうちの1つを図4に示す。これに(2)のザグリを入れた部分と連通するように貫通穴8をあけた。さらに、外径表面には、端部は除いて、ロール長さ方向に縞状となるように3mmピッチの溝9を切った。
【0034】
(4)は、外径と内径寸法が同じである2つのリングを接着にて一体化し、端面および内外周を研削したものを用いた。内径は(3)の外径より接着代として10μm程度大きく仕上げしており、外径側には取り代を残した。
【0035】
(5)は内径が(1)の径と同じ寸法で、外径はチャックロールの外径寸法とした。さらに、別に止まり穴を複数設けてそれにタップを切り、(1)のツバ部分2と強固にボルト締めおよび接着を行った。
【0036】
(6)は(5)を設けたもう片方の端面側に、接着剤とボルトにて固定できるようにしている。また、ロール端部方向にはシリコンゴム製の円盤状の板(図1の51)を被せ、(1)に設けたロールの長さ方向に可動である固定補助具52との間に挟みこめるようにした。
【0037】
前記(1)〜(5)を、まず(2)と(3)を接着にて一体化した。次に一体化した(2)(3)と(4)を接着し、一体化した。(3)の外周側は溝9をのぞく最外径の部分にのみ接着剤をつけた。
【0038】
次に(1)と(5)を接合した後、ツバ2と(5)のタップ部分(図6の31)とを強固にボルト締めした。続いて一体化した(2)(3)(4)の内径に、(1)を挿入した。さらに、(1)の残されたもう一方の端部側に(5)をはめ込み、(2)(3)(4)の端面と接着にて一体化した。そして(6)よりも端部側にシリコンゴムの円盤51を密着させ、予め(1)に設けていた固定補助具52により固定した。
【0039】
最後に一体となったチャックロールを円筒研削盤にかけ、(4)を所望の外径寸法に仕上げた。仕上げは#200番の砥石で行い、仕上げ面の面粗さは算術平均粗さRaが0.6μm、最大高さRyが3.3μmであった。
【0040】
得られたチャックロールを図10の概念図に示すように、両端を図示しないベアリングにて支持台の上に固定して、動力71によって回転可能とした。また、(1)に設けた通し穴にはリークテープを使った上でジョイントをつなぎ、外部の気体制御装置72に連結した。
【0041】
このようにして完成したチャックロールを、厚さ20μmの銅箔のウェブ74、75に塗布工具73にて溶媒を加えたゾル状のカーボンを50μm程度塗布したものの搬送に用いた。なお、環境は大気雰囲気で、カーボンの乾燥および定着を短時間で行なうために、ウェブ74、75およびチャックロール70は温度が200℃に保持された乾燥機中で使用する。
【0042】
乾燥機を稼動させる前にチャックロールおよびその他の部品を設置し、チャックロールには異常がないのを確認したあと、前記のように200℃まで温度を上げた。チャックロールによる搬送で、ウェブであるPTFEのシートは塗布剤であるカーボンが乾燥途中の段階でチャックロールにより搬送された。そのまま5時間稼動を行い、冷却後にチャックロールおよびウェブのチェックを行なった。
【0043】
その結果、まずチャックロールについては(4)の外径面を含むすべての箇所に剥離、破壊、傷などは見当たらなく、使用以前と全く変わらない状態であった。200℃までの昇温により(1)が(2)と比較してより膨張していたはずだが、(1)、(2)および(3)は(4)を介して接合されているだけであり、長さ方向にはお互いに拘束しないために、剥離や割れなどの不具合は生じなかったものと思われる。ウェブと接触する(4)についても、ウェブや塗布剤の溶着や、磨耗や変色など一切生じていなかった。
【0044】
処理したウェブについては、銅箔ウェブおよびカーボン塗布部の面を調べたが、チャックによる吸着痕などは生じておらず、塗布剤の乾燥も均一に行なわれており、全く問題ない状態であった。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明のチャックロールの代表的構造を示す図である
【図2】本発明の構成要素である中心軸(1)の模式図である
【図3】本発明の構成要素である中間支持体(2)の模式図である
【図4】本発明の構成要素である緻密質円筒(3)の模式図である
【図5】本発明の構成要素である表層部(4)の模式図である
【図6】本発明の構成要素である端面部材1(5)の模式図である
【図7】本発明の構成要素である端面部材2(6)の模式図である
【図8】本発明のチャックロールの実施の他の一例を示す図である
【図9】本発明のチャックロールの実施の他の一例を示す図である
【図10】本発明のチャックロールをウェブ搬送の工程に用いた1例を示す
【符号の説明】
【0046】
1 中心軸
2 端面部材1との接合をするツバ部分
3 端面部材1との接合用ボルト穴
4 中間支持体
6 中心軸と連通するための通気道
7 緻密質円筒体
8 中間支持体と連通する通気孔
9 溝
13 緻密質円筒との接着部
20 表層部
21 接着前の単体の円筒
23 円筒同士の接合部
30 端面部材1
31 端面部材1から中間支持体に通じる通気道
32 端面部材1と中心軸の2との接合用の止まりボルト穴
40 端面部材2
41 中間多孔体と一体化するためのボルト穴
50 本発明のチャックロールの一模式図
51 弾性体
52 固定補助具
55 外部気体制御装置との連通路
56 中間支持体と緻密質円筒の通気道
61 外部気体制御装置との連通路通気孔
62 中間支持体同士の通気道
63 中間支持体の通気道、ザグリ部
70 本発明のチャックロール
71 外部動力
72 外部気体制御装置
73 塗布工具
74 ウェブ(塗布前)
75 ウェブ(塗布後)
76 ウェブの進行方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロールの外周部で薄板状のウェブを吸着・搬送するチャックロールであり、ロールの中心部から表層に向かって、少なくとも下記の(1)から(4)の部材を有し、ロール端面には下記(5)(6)を有し、下記(1)(5)(6)の少なくとも1つの部材には、下記(2)、(3)を経由して下記(4)へ円筒内部から連通し、チャックロール内の圧力を外部気体制御装置にて制御するための通気道を有するチャックロール。
(1)中心軸 :外部動力からチャックロールを回転させる駆動力をチャックロール全体に伝える円柱状の中心軸であり、下記(5)との接合のための部分を有する中心軸。
(2)中間支持体:内径側が前記(1)の外径に合わせて設けた略円筒状の部材であり、外部気体制御装置と連通する通気道を有し、その通気道が下記(3)の通気道と連通する構造を有し、下記(5)に接合固定され、かつ前記(1)とは接合されていない中間支持体。
(3)緻密質円筒:内径は(2)の外径と接合しており、外径には(4)を接着する円筒であり、少なくとも(2)を通じて(4)にまで外部気体制御装置と連通可能な通気道を有する緻密質円筒。
(4)表層部:チャックロールの周方向の表層部であり、前記(3)の外周に接合され、外周面でウェブを吸着、保持するセラミックスの多孔体からなる表層部。
(5)端面部材1 :前記(1)と接合されており、同時に前記(2)、(3)、(4)の部材の片方の端面に設けた、リング形状の緻密質であり、チャックロール片端面を密封する端面部材。
(6)端面部材2 :前記(5)に記載の端面と対向する側の端面部材で、リング形状の緻密体であり、前記(2)、(3)、(4)と接合することによりチャックロール端面を密封し、熱膨張により前記(1)と前記(2)、(3)、(4)のロールの長方向の長さが相対的に変わる場合には、(2)、(3)および(4)に追随してチャックロールの長さ方向に(1)から相対的に移動して密封状態を保つ構造を持つ端面部材。
【請求項2】
前記(6)に記載の、(1)から相対的に移動して密封状態を保つ構造が、(6)よりもチャックロール端部に近い部分に設けられた弾性体の伸縮によって移動可能な構造である、請求項1に記載のチャックロール。
【請求項3】
前記(2)が複数の少なくとも径方向には同形状の部材からなり、それらの端部をロールの長さ方向に接着して一体化している構造である請求項1または2のいずれかに記載のチャックロール。
【請求項4】
前記(3)が複数の円筒からなり、それらの端部をロールの長さ方向に接着して一体化している構造である請求項1から3のいずれかに記載のチャックロール。
【請求項5】
前記(4)が複数の円筒からなり、それらの端部をロールの長さ方向に接着して一体化した、または隙間無く密着している構造である請求項1から4のいずれかに記載のチャックロール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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