説明

チューナブル素子及びチューナブルアンテナ

【課題】本発明は、誘電率が高い六方晶系チタン酸バリウムバルク結晶誘電性材料を用いて、小型、低電圧チューナブルデバイスを提供することを目的とする。
【解決手段】電圧を印加することによって、静電容量が変化するチューナブル素子であって、上面電極と、下面電極と、上面電極と下面電極との間に配置される誘電体と、を備え、誘電体は、六方晶系チタン酸バリウムであることを特徴とするチューナブル素子を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧を印加することによって、静電容量が変化するチューナブル素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、チューナブルアンテナ等のチューナブルデバイスが、携帯電話、パソコンの無線LAN、PDAなどの電子機器に搭載される。特に、携帯デバイス等では、小型化、軽量化が要求される一方で、地上波アナログ放送、地上波デジタル放送など幅広い周波数を受信することが可能であるチューナブルアンテナが必要になる。そのため、チューナブルアンテナに含まれるチューナブル素子は、電池の電圧から、昇圧回路等を介することなく直接得られる小さい電圧(例えば、3V)で大きく静電容量が変化する高チューナビリティであることが好ましい。
【0003】
チューナビリティは、電解強度が大きいほど高くなる。例えば、特許文献1に記載されるようなCaCu3Ti412、Sr1-xBaxTiO3などの物質を組み込んだ従来のチューナブル素子の場合には、携帯電話などにおいて必要とされる高チューナビリティを実現するために、kV/cmの電場を印加しなければならない。しかし、バルクセラミックス又は単結晶のチューナブル素子に、kV/cmの電場を印加するためには、数kVのDC電源が必要であるので、バルクチューナブルデバイスの小型化、軽量化、さらに、省エネルギー化の実現が困難になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2003−533019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、誘電率が高い六方晶系チタン酸バリウムバルク結晶を用いて、小型、低電圧チューナブルデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、電圧を印加することによって、静電容量が変化するチューナブル素子であって、上面電極と、下面電極と、上面電極と下面電極との間に配置される誘電体と、を備え、誘電体は、六方晶系チタン酸バリウムであることを特徴とするチューナブル素子を提供する。
【0007】
また、本発明は、連続した周波数帯域の信号を受信するチューナブルアンテナにおいて、金属からなる送受信部と、受信素子の第1の端部に電気的に接続された上記のチューナブル素子と、受信素子の第2の端部に電気的に接続された給電部と、を備えることを特徴とするチューナブルアンテナを提供する。
【0008】
また、本発明は、単結晶の六方晶系チタン酸バリウムを用意する段階と、単結晶の六方晶系チタン酸バリウムを板状に切り出す段階と、切り出された単結晶の両表面に金属薄膜を蒸着させる段階と、導線を蒸着させた金属薄膜に接着する段階と、を備えることを特徴とするチューナブル素子の製造方法を提供する。
【0009】
また、本発明は、単結晶の六方晶系チタン酸バリウムを用意する段階は、バリウムチタン酸化物の化学量の理論量の前駆体を混合する段階と、水中において、静水圧力で、前駆体を固めて形成する段階と、前駆体を焼結する段階と、焼結された前駆体を加熱炉に入れて、単結晶の育成を行う段階と、単結晶に対してアニール処理を行う段階と、を含むことを特徴とするチューナブル素子の製造方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、前記単結晶の育成を行う段階は、FZ法によることを特徴とするチューナブル素子の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、高誘電率、低誘電損失、低温度係数を有する幅広い周波数範囲に高いチューナビリティを持つチューナブル素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】直径6mm、長さ35mmの六方晶系チタン酸バリウムの単結晶を示す。
【図2】図1の単結晶のX線解析結果とICSDの標準カードとを比較したグラフである。
【図3】h−BaTiO3単結晶の誘電率の温度依存性を示すグラフである。
【図4】各印加電場における、h−BaTiO3単結晶の周波数と誘電率の関係を示すグラフである。
【図5】各印加電場における、h−BaTiO3単結晶の周波数とチューナビリティの関係を示すグラフである。
【図6】チューナブルアンテナの一実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に用いる六方晶系チタン酸バリウム(以下、h−BaTiO3と記載する)の生産方法について、説明する。以下の方法は、一実施形態であり、他の方法によって生産された六方晶系チタン酸バリウムを用いてもよい。
【0014】
化学量の理論量の前駆体を、各物質が均等に分布するように十分に混合する。前駆体炭酸バリウム(BaCO3)及び酸化チタン(TiO2)を使用することが好ましい。混合された前駆体粉末を、所望の形状に固めて、焼結する。例えば、静水圧力で直径5mm、長さ60mmの棒状に形成し、1600Kで12時間、焼結する。その焼結された前駆体を用いて、単結晶の育成を行う。例えば、赤外線集中加熱炉によって、成長速度15mm/h、回転速度30rpmの条件で、FZ法(Floating Zone法)による単結晶の育成を行う。育成雰囲気は、単結晶を安定成長させるために、重要な条件である。Ar雰囲気が、最も単結晶を得やすい条件である。特に、酸素分圧は、Arガス中の残存酸素分圧である10-5気圧程度が好ましい。Ar雰囲気中で育成した直径6mm、長さ35mmの単結晶を図1に示す。図2に、この単結晶のX線解析の結果と、無機結晶構造データベース(ICSD)の#75240、h−BaTiO3の標準カードを比較したグラフを示す。図2において、標準カードのピークと、作成した単結晶のピークが一致しており、作成した単結晶が、h−BaTiO3であることがわかる。また、上記の方法は、素子に用いるために(量産するために)十分な大きさの単結晶を作成することを可能にする。
【0015】
育成されたh−BaTiO3単結晶の誘電特性を制御するために、アニール処理を行う。アニール処理による酸素吸収によって、単結晶内の酸素欠損量を減らすことができ、誘電率等の温度依存性、誘電損失を変化させることができる。上記の方法で育成された単結晶を300度から800度の温度範囲で、空気雰囲気中において、1時間から10時間でアニール処理を行って、誘電率、誘電損失、誘電率の温度依存性を変化させる。例えば、680kで2時間空気雰囲気中において、アニール処理をした単結晶は、室温の比誘電率が10万から2万まで低下するが、誘電損失は、0.1以下になる。さらに、常温付近における巨大誘電率の温度依存性は、大幅に低下する。図3は、h−BaTiO3単結晶の誘電率の温度依存性を示す。240kから300kの温度範囲における、比誘電率の比変化量Δε/εは、約0.1%である。また、比誘電率と、静電容量は、比例するため、静電容量の比変化量ΔC/Cは、約0.1%であることが言える。なお、従来技術である、チューナブル(可変)素子(キャパシタ)の材料(Ba、Ca)TiO3及び(Ba、Sr)TiO3では、室温付近の比誘電率が約4000であり、静電容量の比変化量ΔC/Cは、約10%である。(Ba、Ca)TiO3及び(Ba、Sr)TiO3に比べて、h−BaTiO3単結晶の方が、室温付近の誘電率が高い一方で、静電容量の比変化量が小さく、チューナブル素子の材料として、優れていることが理解できる。
【0016】
アニールした単結晶を素子に適した形状(板状、シート状等)に切り出す。例えば、直径3mm、厚さ0.5mmの板状に切り出す。切り出された単結晶に、金属を蒸着させて、二つの電極を構成し、さらに、導線を電極に接着する。例えば、該単結晶の両表面に厚さ1μmの同薄膜を蒸着して、電極として利用する。また、直径0.05mmの銀線を銀ペーストで銅薄膜電極と接着する。
【0017】
インピーダンス・アナライザを用いて、0−50V/cmまでの電場を、上記のようにして作成したチューナブル素子の断面に印加して、室温で印加電圧の関数として、比誘電率を測定した。図4に、10kHzから10MHzまでの周波数範囲における、印加電場0−50V/cmまでの比誘電率を示す。1MHzまで、比誘電率が30000以上であることが確認された。
【0018】
図5は、図4の測定データから計算されるチューナビリティを示す。ここで、チューナビリティは、印加する電圧に対する、静電容量の変化量であり、電圧の印加前の静電容量をC0とし、電圧の印加後の静電容量をCvとすると、
〔数1〕
T(チューナビリティ)=((C0−Cv)/C0)×100(%)
などで表される。高チューナビリティの特性が得られる物質は、一般的に高誘電率の物質が望ましい。また、チューナブル素子は、低い誘電損失、低い温度係数及び低い周波数依存性が要求される。50V/cmの電場を印加した場合には、周波数は、10kHzに対して、チューナビリティは、35まで増加して、周波数10MHzに対しても10まで増加していることがわかる。
【0019】
以上の結果から、h−BaTiO3は、高い誘電率、低い誘電損失、安定な温度依存性、さらに、高いチューナビリティを有することがわかる。
【0020】
図6を用いて、上記の方法で得られたチューナブル素子を用いたチューナブルアンテナの一実施形態について説明する。
【0021】
チューナブルアンテナ600は、主に、送受信素子604と、送受信素子604の一端に電気的に接続されたチューナブル素子608と、送受信素子604の他端に電気的に接続された信号給電部612とから構成される。これらの部品は、通常プリント配線基板に設けられる。
【0022】
チューナブル素子608は、送受信素子604に接続された一端と逆側の端に、抵抗616と、コンデンサ620が電気的に接続されている。抵抗616のチューナブル素子608に接続された一端と逆側の端には、周波数制御回路624が接続されている。周波数制御回路624は、制御電圧をチューナブル素子608に印加して、チューナブル素子608の静電容量を制御する。静電容量を制御することによって、インピーダンスを制御し、送受信する周波数を設定することが可能になる。また、抵抗616は、送受信素子604において送受信される信号が、周波数制御回路624に流入することを防ぐ役割を果たす。コンデンサ620のチューナブル素子608に接続された一端と逆側の端には、グラウンド628に接続される。コンデンサ620は、制御電圧がグラウンドに直接印加されないように、DC成分をカットするために用いられる。
【0023】
信号給電部612の送受信素子604に接続された端と逆側の端は、グラウンド636及びチューナ回路632に接続される。チューナ回路632では、所望の信号を出力し、送受信素子604において受信された信号を受け取り、所望の信号のみが信号処理される。また、基板の裏側にグラウンド面を配置し、グラウンド628とグラウンド636は、そのグラウンド面を介して、電気的に接続されていてもよい。
【0024】
チューナブル素子608は、高いチューナビリティを有するため、制御電圧の最大値が、リチウムイオン電池のような3Vであっても、大きく静電容量を変化させることが可能である。その結果、昇圧回路などの追加的な回路を使用することなく、アンテナ600が、送受信する信号の周波数を大きく変化させることができる。携帯電話などにおいて、チューナブル素子を含むアンテナ用いると、部品点数が少なくなり、小型化や、軽量化をすることが可能となる。また、例えば、従来のチューナブル素子を含むアンテナを用いる場合には、最大3Vの印加電圧で470MHz〜770MHzの信号を受信するために、送受信素子を小さくして、インピーダンスを低下させる必要がある。そのため、アンテナ利得が低下し、十分な利得が得られない。しかしながら、上記のチューナブル素子を含むアンテナ用いる場合には、チューナブル素子の静電容量を大きく変化させることができるため、十分なアンテナ利得を得ることが可能である。
【符号の説明】
【0025】
600 チューナブルアンテナ
604 送受信素子
608 チューナブル素子
612 信号給電部
616 抵抗
620 コンデンサ
624 周波数制御回路
628 グラウンド
632 チューナ回路
636 グラウンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧を印加することによって、静電容量が変化するチューナブル素子であって、
上面電極と、
下面電極と、
前記上面電極と前記下面電極との間に配置される誘電体と、
を備え、
前記誘電体は、六方晶系チタン酸バリウムであることを特徴とするチューナブル素子。
【請求項2】
連続した周波数帯域の信号を受信するチューナブルアンテナにおいて、
金属からなる送受信部と、
前記受信素子の第1の端部に電気的に接続された請求項1に記載のチューナブル素子と、
前記受信素子の第2の端部に電気的に接続された給電部と、
を備えることを特徴とするチューナブルアンテナ。
【請求項3】
単結晶の六方晶系チタン酸バリウムを用意する段階と、
前記単結晶の六方晶系チタン酸バリウムを板状に切り出す段階と、
切り出された前記単結晶の両表面に金属薄膜を蒸着させる段階と、
導線を蒸着させた前記金属薄膜に接着する段階と、
を備えることを特徴とするチューナブル素子の製造方法。
【請求項4】
前記単結晶の六方晶系チタン酸バリウムを用意する段階は、
バリウムチタン酸化物の化学量の理論量の前駆体を混合する段階と、
水中において、静水圧力で、前記前駆体を固めて形成する段階と、
前記前駆体を焼結する段階と、
焼結された前駆体を加熱炉に入れて、単結晶の育成を行う段階と、
前記単結晶に対してアニール処理を行う段階と、
を含むことを特徴とする請求項3に記載のチューナブル素子の製造方法。
【請求項5】
前記単結晶の育成を行う段階は、FZ法によることを特徴とする請求項4に記載のチューナブル素子の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−243841(P2012−243841A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110216(P2011−110216)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【Fターム(参考)】