説明

チューブの螺旋溝加工装置及びその螺旋溝加工方法

【課題】チューブに傷を生じさせることなく、比較的細いチューブであっても、深さが一定でピッチが均一な螺旋溝を形成する。
【解決手段】チューブの螺旋溝加工装置は、チューブ12が嵌入可能な芯線ワイヤ13と、芯線ワイヤ13を張設するワイヤ張設機構20と、張設された芯線ワイヤ13をチューブ12とともに正逆回転させる芯線回転手段27とを備える。芯線回転手段27により回転し線状材供給・排出機構から繰り出される線状材11を巻回可能なリール29を備えることが好ましい。チューブの螺旋溝加工方法は、チューブが嵌入された芯線ワイヤを張設するワイヤ張設工程と、張設された芯線ワイヤをチューブとともに正転させて線状材をチューブに巻き付ける線状材巻き付け工程と、芯線ワイヤをチューブとともに逆転させてチューブに巻き付けられた線状材を引き戻す線状材引き戻し工程と、チューブを芯線ワイヤから取り外すチューブ取り外し工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チューブに線状材を巻き付けてそのチューブの外周に螺旋状の溝を形成する螺旋溝加工装置及びその螺旋溝加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、処置具又は操作用ワイヤ等が挿通される内視鏡用チャンネルチューブは、内視鏡挿入部の湾曲に伴う湾曲作用を受けるため、その外周に鋼質線を螺旋状に巻き付け、上記湾曲を損なわない柔軟性と折れたり座屈したりしない腰の強さを上記チャンネルチューブに負荷している。そして、上記鋼質線は、上記チャンネルチューブの外周に形成した螺旋溝に沿って巻き付けられており、このようなチューブに螺旋溝を形成する装置として、チューブに線状材を巻き付ける図6に示すような螺旋溝加工装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
図6に示す螺旋溝加工装置は、丸棒心材1を挿入したチューブ2を保持するチャック3を有した回転装置4と、そのチャック3と同軸に配置したセンタ押し台5と、チューブ2の長手方向に移動可能なテーブル9と、テーブル9に設けられチューブ2の外周に巻き付いて溝を形成する線状材6を供給及び排出する機構とを備える。図6における線状材の供給・排出機構はトルクモータ7により一定のトルクで正逆回転が可能で線状材6を供給しかつ巻取るためのリール8及びリール8から繰り出した線状材6をチューブ2に案内するためのガイド9aにより構成されている。そして、チャック3には線状材供給・排出機構から繰り出した線状材6の先端を固定する止めねじ3aが設けられる。
【0004】
上記加工装置によりチューブ2の表面外周に溝付け加工を施す場合、まずチューブ2の内腔にその内径に合う外径の心材1を挿入し、チューブ2をチャック3で保持するとともに、心材1のもう一端をセンタ押し台5により回動自在に保持する。ここで線状材供給・排出機構から線状材6を繰り出しワイヤガイド9aに通したうえ、その先端を止めねじ3aに固定する。次にチューブ2を回転装置4で回転させながら、その回転に比例したピッチ分の速度でワイヤガイド9aをチューブ2のスラスト方向(図中左右方向)に送りながら、線状材6をチューブ2に巻き付けていく。このようにしてチューブ2の所定の範囲に線状材6を巻き付け終わったら、チューブ2の回転装置4を逆転させ、かつテーブル9をチューブ2の回転に比例した速度でチューブ2の長手方向でチャック3側へ移動させる。これと同時にトルクモータ7によりリール8を巻取り方向に回転させ、チューブ2に巻き付けた線状材6をリール8に巻取っていく。このようにしてチューブ2に巻き付けた線状材6をリール8に全て巻取った後、回転装置4と、テーブル9の送り及びリール8の回転を停止させる。
【0005】
このような螺旋溝加工装置では、線状材6を線状材供給・排出機構から引き出しつつチューブ2に巻き付け、所定量の線状材6をそのチューブ2に巻き終えた後、上記線状材供給・排出機構に線状材6を引き戻すので、次のチューブ2への溝付け加工の際に、引き戻された線状材6を再び線状材供給・排出機構から引き出してチューブ2の表面に巻き付けることが可能になり、加工毎に線状材6をセットし直す工程を省くことができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−32475号公報(段落番号[0007]〜[0009]、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述した螺旋溝の形成にあっては、そのチューブ2に挿入される丸棒心材1がセンタ押し台5によりチャック3に押し付けられるため、比較的細いチューブに螺旋溝を形成するために丸棒心材1の外径を小さくすると、線状材6の巻き口においてチューブ2の回転軸と垂直な方向に線状材6の張力が作用した段階でその張力方向に丸棒心材1が大きく撓み、チューブ2が嵌入されてセンタ押し台5により軸方向に圧縮されている丸棒心材1が座屈する不具合があった。この点を解消する為には、センタ押し台5により軸方向に圧縮されても座屈しないような剛性を有する丸棒心材1を用いることが必要な条件となり、その条件により丸棒心材1の外径を細いものとすることができず、そのような丸棒心材1を挿入することができない細いチューブ2には螺旋溝を形成することができないという未だ解決すべき課題が残存していた。
【0008】
また、上記螺旋溝加工では、溝加工を行った線状材6を引き戻すことにより、次のチューブ2への溝付け加工の際に、引き戻されていた線状材6を再びチューブ2の表面に巻き付けるとしているけれども、一度チューブ2に巻き付けられて溝加工を行った線状材6には巻癖が生じる不具合がある。特に細いチューブ2に巻き付けた線状材6には比較的小さな曲率半径でチューブ2に巻き付けられるため、その線状材6に生じる巻癖も比較的小さな曲率半径で湾曲しようとするものとなる。このため、このような巻癖が生じた線状材6をチューブ2に再び巻き付けると、線状材6の巻き付き角度に変化が現れ、形成される螺旋溝のピッチが不均一となるとともに、溝の深さが場所により異なるという問題を生じさせる。
【0009】
更に、上記螺旋溝加工では、丸棒心材1を挿入したチューブ2自体をチャック3が直接保持するので、チューブ2のチャック3により保持された部分に傷が生じる不具合もあった。
【0010】
本発明の目的は、チューブに傷を生じさせることなく、比較的細いチューブであっても、深さが一定でピッチが均一な螺旋溝を形成し得るチューブの螺旋溝加工装置及びその螺旋溝加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のチューブの螺旋溝加工装置は、チューブが嵌入可能な芯線ワイヤと、芯線ワイヤを張設するワイヤ張設機構と、張設された芯線ワイヤをチューブとともに正逆回転させて線状材供給・排出機構から繰り出される線状材をチューブに巻き付け及びチューブに巻き付けられた線状材を線状材供給・排出機構に引き戻す芯線回転手段とを備える。
【0012】
芯線回転手段により回転し線状材供給・排出機構から繰り出される線状材を巻回可能なリールを更に備えることもできる。
【0013】
本発明のチューブの螺旋溝加工方法は、チューブが嵌入された芯線ワイヤを張設するワイヤ張設工程と、張設された芯線ワイヤをチューブとともに正転させて線状材供給・排出機構から繰り出される線状材をチューブに巻き付け線状材が圧接してなる溝をチューブの外周に形成する線状材巻き付け工程と、芯線ワイヤをチューブとともに逆転させてチューブに巻き付けられた線状材を線状材供給・排出機構に引き戻す線状材引き戻し工程と、溝が周囲に残存するチューブを芯線ワイヤから取り外すチューブ取り外し工程とを有する。
【0014】
ワイヤ張設工程と線状材巻き付け工程の間に線状材供給・排出機構から繰り出される線状材をリールに巻回させる捨て絡げ工程が設けられ、線状材巻き付け工程においてリールに巻回された後に線状材供給・排出機構から繰り出される線状材をチューブに巻き付けることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のチューブの螺旋溝加工装置及びその螺旋溝加工方法では、加工の対象であるチューブが嵌入された芯線ワイヤを張設、即ち引っ張って設け、そのように張設された芯線ワイヤをチューブとともに回転させて線状材をそのチューブに巻き付けるので、線状材を巻き付ける際に芯線ワイヤが折り曲がって座屈するようなことはない。従って、従来では座屈するおそれのある細い心材を用いることはできなかったけれども、本発明では比較的細い芯線ワイヤを用いても座屈するようなことはないため、そのチューブが嵌入される芯線ワイヤを細いものとすることにより、比較的細いチューブへの溝加工も可能になる。
【0016】
また、本発明のチューブの螺旋溝加工装置及びその螺旋溝加工方法では、ワイヤ張設機構により芯線ワイヤを張設し、張設された芯線ワイヤをチューブとともに正逆回転させるので、加工の対象であるチューブを直接保持するようなことをしない。このため、チューブを直接保持することに起因する傷を生じさせるようなことはない。
【0017】
更に、本発明のチューブの螺旋溝加工装置及びその螺旋溝加工方法では、一度チューブに巻き付けられて巻癖の生じた線状材をリールに巻き付け、その後新たに繰り出されて巻癖の生じていない線状材をチューブに巻き付けることができるので、均一なピッチを有しかつ深さが均等な螺旋溝を常に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明実施形態の螺旋溝加工装置を示す側面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】テンション装置を除くその装置の正面図である。
【図4】芯線ワイヤの端部が可動チャック装置から取り外された状態を示す図3に対応する正面図である。
【図5】線状材がチューブに巻き付けられた状態を示す図3に対応する正面図である。
【図6】従来の螺旋溝加工装置を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1〜図3に示すように、本発明のチューブの螺旋溝加工装置10は、線状材供給・排出機構から繰り出される線状材11をチューブ12に巻き付けてそのチューブ12の外周に螺旋状の溝を形成するものであって、チューブ12が嵌入可能な芯線ワイヤ13を備える。芯線ワイヤ13としては、例えばピアノ線等の硬鋼線が例示され、そのチューブ12が嵌入可能であることから、チューブ12の内径と同一又はその内径より僅かに細い外径のものが選択される。また、この芯線ワイヤ13は、チューブ12が嵌入可能であれば、チューブ12の内径より僅かに大きな外径を有するものであっても良い。例えば、螺旋溝を形成するチューブ12の内径が約0.76mmであるとしたならば、外径が0.6mm又は0.7mmのピアノ線を芯線ワイヤ13として用いることができ、チューブ12が嵌入可能であれば、外径が0.8mmのピアノ線を芯線ワイヤ13として用いることができる。ここで、互いに直交するX、Y、Zの3軸を設定し、X軸が水平前後方向、Y軸が水平横方向、Z軸が垂直方向に延び、Y軸方向に芯線ワイヤ13が張設されるものとして本発明のチューブの螺旋溝加工装置10について説明する。
【0021】
本発明のチューブの螺旋溝加工装置10は、芯線ワイヤ13を張設するワイヤ張設機構20を備える。ワイヤ張設機構20は芯線ワイヤ13をY軸方向に引っ張って設けるものであって、この実施の形態におけるワイヤ張設機構20は、芯線ワイヤ13の一端を咬持する固定チャック装置21と、その固定チャック装置21とY軸方向に離間して設けられY軸方向に延びる芯線ワイヤ13の他端を咬持する可動チャック装置22とを備える。この固定及び可動チャック装置21,22はそれぞれ同一のものを用いることができ、これらのチャック装置21,22としてはメカニカルチャックであるドリルチャックやコレットチャックが例示される。図ではドリルチャックが用いられる場合を例示する。
【0022】
固定チャック装置21は基台10aに設けられた固定軸受け23に枢支され、可動チャック装置22は可動軸受け24に枢支される。可動軸受け24はチャック移動機構26を介して基台10aに取付けられ、このチャック移動機構26としては流体圧シリンダ等の各種のアクチュエータが例示される。図ではエア圧シリンダからなるチャック移動機構26を示し、その移動機構26の可動台26aに可動軸受け24が取付けられる場合を例示する。このエア圧シリンダからなるチャック移動機構26は圧縮エアの供給の有無により可動台26aを芯線ワイヤ13の延長方向であるY軸方向に移動可能に構成され、可動台26aとともに可動軸受け24を移動させて可動チャック装置22を固定チャック装置21から遠ざけることにより芯線ワイヤ13を引っ張り、その芯線ワイヤ13を固定チャック装置21と可動チャック装置22の間に張設可能に構成される。
【0023】
また、本発明のチューブ12の螺旋溝加工装置10は、張設された芯線ワイヤ13を正逆回転させて線状材供給・排出機構から繰り出される線状材11を芯線ワイヤ13に嵌入されたチューブ12に巻き付け及びチューブ12に巻き付けられた線状材11を線状材供給・排出機構に引き戻す芯線回転手段を備える。図における回転手段は図示しないコントローラからの指令により正逆回転駆動するチャック用サーボモータ27,28であり、図2に示すように、固定軸受け23と可動軸受け24の双方にサーボモータ27,28がそれぞれ設けられる。それぞれのチャック用サーボモータ27,28の回転軸とそれぞれのチャック装置21,22との間にはベルト27a,28aが架設され、コントローラからの指令によりそれぞれのチャック用サーボモータ27,28が駆動してそれらの回転軸が回転すると、ベルト27a,28aを介してそれぞれのチャック装置21,22が同期して同方向に回転し、芯線ワイヤ13を捩ることなく正逆回転可能に構成される。
【0024】
固定チャック装置21には線状材11を巻回可能なリール29が設けられる。このリール29はコ字状の取付部材29bを介して固定チャック装置21にその固定チャック装置21と同軸に設けられる。そして、このリール29には、線状材11が挿通可能な中央孔が中心軸に形成され、その中央孔に挿通された芯線ワイヤ13の一端を固定チャック装置21が咬持するように構成される。また、このリール29の芯線ワイヤ13が挿通する中央孔の周囲には可動チャック装置22側に膨出してチューブ12の端部が当接する突部29cが形成される。なお、この取付部材29bには線状材供給・排出機構から繰り出される線状材11の先端が取付けられる。
【0025】
図1に示すように、リール29の可動チャック装置22側の側壁には、このリール29に巻回された線状材11を可動チャック装置22側に引き出す複数の切り欠き29aが形成される。図1では切り欠き29aが4箇所形成されたリール29を示す。このようにリール29を固定チャック装置21に取付けることにより、芯線回転手段であるサーボモータ27により固定チャック装置21が回転すると、このリール29はその固定チャック装置21とともに回転し、線状材供給・排出機構から繰り出される線状材11を巻回し、その後切り欠き29aからその線状材11を可動チャック装置22側に引き出し可能に構成される。
【0026】
ここで、線状材11は、チューブ12に巻き付け可能なものであり、かつチューブに螺旋状の溝を形成するために所定の張力が加えられても断線しないことが要求され、ステンレス鋼線が例示される。そして、このような線状材11を繰り出す線状材供給・排出機構は、線状材11が挿通可能なノズル30と、このノズル30を3軸方向に移動可能なノズル移動機構31と、線状材11に所定の張力を付与するテンション装置40とを備える。この実施の形態におけるノズル移動機構31は、X軸、Y軸、及びZ軸方向伸縮アクチュエータ32〜34の組み合わせにより構成されたものを示す。これらの伸縮アクチュエータ32〜34は、サーボモータ32a〜34aによって回動駆動されるボールねじ32b〜34bと、このボールねじ32b〜34bに螺合して平行移動する従動子32c,33c等によって構成される。
【0027】
この実施の形態では、ノズル30が先端に取付けられた移動台36をX軸方向に移動可能にX軸方向伸縮アクチュエータ32の従動子32cに取付け、そのX軸方向伸縮アクチュエータ32をZ軸方向に移動可能にZ軸方向伸縮アクチュエータ34の従動子34cに取付け、そのZ軸方向伸縮アクチュエータ34をY軸方向に移動可能にY軸方向伸縮アクチュエータ33の従動子33cに取付け、そのY軸方向伸縮アクチュエータ33が基台10aに取付けられる。そして、各伸縮アクチュエータにおけるX軸サーボモータ32a、Y軸サーボモータ33aびZ軸サーボモータ34aは図示しないコントローラの制御出力に接続される。そして、コントローラからの指令によりノズル移動機構31はノズル30を、ワイヤ張設機構20により張設された芯線ワイヤ13に対して3軸方向に任意に移動可能に構成される。
【0028】
また、線状材供給・排出機構を構成するテンション装置40は、繰り出される線状材11に張力を与えるとともにその線状材11を引き戻し可能なものである。図1に示すように、この実施の形態におけるテンション装置40は、基台10aに立設された支柱41を介して芯線ワイヤ13の上方に設けられたケーシング42と、そのケーシング42のY軸方向における側面に設けられたワイヤガイド43、第1ガイドプーリ44、繰り出し制御プーリ46、第2ガイドプーリ47及びテンションバー48とを備える。線状材11はドラム11aに巻き付けられ、そのドラム11aは基台10a上に設置される。ドラム11aから繰り出された線状材11はワイヤガイド43を通過した後第1ガイドプーリ44を介して繰り出し制御プーリ46に導かれ、この繰り出し制御プーリ46に巻き付けられた後、第2ガイドプーリ47によりその方向を転換されてテンションバー48の先端における線状材ガイド48aに導かれる。線状材ガイド48aに導かれた線状材11はその線状材ガイド48aからノズル30に供給され、ノズル30を貫通してそのノズル30から繰り出された線状材11の先端が前述の取付部材29bに固定される。
【0029】
繰り出し制御プーリ46の回転軸46aは、ケーシング42内に収容された繰り出し制御モータ49に直結される。テンションバー48は、基端の回動軸48bを支点として上下に回動可能となっている。この回動軸48bの回動角度は、ケーシング42内に収容され回動軸48bに取付けられた回動角度検出手段としてのポテンショメータ51により検出される。ポテンショメータ51の検出出力は図示しないコントローラに入力され、コントローラからの制御出力が繰り出し制御モータ49に接続される。
【0030】
また、テンションバー48の回動軸48bと線状材ガイド48aとの間の所定位置には、テンションバー48の回動方向に付勢力を与える付勢手段としての弾性部材であるスプリング52の一端が取付けブラケット48cを介して取付けられる。テンションバー48は、弾性部材であるスプリング52によって傾転状態で吊られ、このスプリング52によってテンションバー48には回動角度に応じた弾性力が及ぼされる。このスプリング52の他端は、移動部材53に固定される。この移動部材53はテンション調節ねじ54の雄ねじ54aに螺合しており、この雄ねじ54aの回転に従って移動可能に構成される。このように、スプリング52の他端の固定位置は変位でき、テンションバー48によって付与される線状材11の張力が調節可能に構成される。
【0031】
図示しないコントローラは、回動角度検出手段であるポテンショメータ51により検出された回動角度が所定の角度となるように繰り出し制御モータ49を制御するように構成される。従って、このテンション装置40では、スプリング52によりテンションバー48を介して線状材11に張力を与えて、そのテンションバー48が所定の角度になるように繰り出し制御プーリ46が回転して所定量の線状材11が繰り出される。よって、線状材11の張力は所定の値に維持され、所定の張力が加えられた線状材11がチューブ12に巻き付けられることにより、その線状材11が圧接してなる溝がチューブ12の外周に形成されるように構成される。一方、線状材11の引き戻し時には、繰り出し制御プーリ46の回転を停止して新たな線状材11が繰り出されることを防止する。すると、テンションバー48がスプリング52の付勢力により図1の一点鎖線で示すように引き上げられ、これによりノズル30を介して線状材11を引き戻すことができるように構成される。
【0032】
次に、このような加工装置を用いた本発明のチューブの螺旋溝加工方法について説明する。
【0033】
本発明のチューブの螺旋溝加工方法は、チューブ12が嵌入された芯線ワイヤ13を張設するワイヤ張設工程と、張設された芯線ワイヤ13を正転させて線状材11をチューブ12に巻き付ける線状材巻き付け工程と、芯線ワイヤ13を逆転させて線状材11を引き戻す線状材引き戻し工程と、チューブ12を芯線ワイヤ13から取り外すチューブ取り外し工程とを有する。ワイヤ張設工程と線状材巻き付け工程の間に線状材供給・排出機構から繰り出される線状材11をリール29に巻回させる捨て絡げ工程を設けることもできる。以下に各工程を説明する。
【0034】
<ワイヤ張設工程>
この工程では、チューブ12が嵌入された芯線ワイヤ13を張設する。芯線ワイヤ13はチューブ12より長いものが準備され、その一端を固定チャック装置21に咬持させる。図4に示すように、チューブ12の嵌入は、芯線ワイヤ13の他端を可動チャック装置22に咬持させる以前に行う。即ち、芯線ワイヤ13の他端からチューブ12を実線矢印で示すように芯線ワイヤ13に嵌入する。この実施の形態では、チューブ12を嵌入させた後に止め具56を芯線ワイヤ13の他端から嵌入する場合を示す。止め具56は、図3の拡大図に示すように、芯線ワイヤ13に嵌入可能な筒状を成し、その軸方向に直交して雌ねじ孔56aが形成される。そして、チューブ12と止め具56が嵌入された芯線ワイヤ13の他端を可動チャック装置22に咬持させる。
【0035】
芯線ワイヤ13の他端を可動チャック装置22に咬持させる際に、チャック移動機構26の可動台26aを固定チャック装置21側に近づけておく。芯線ワイヤ13の他端を可動チャック装置22に咬持させた後、図3の破線矢印で示すように、チャック移動機構26の可動台26aを可動軸受け24とともに移動させ、可動軸受け24に枢支された可動チャック装置22を固定チャック装置21から遠ざけることにより芯線ワイヤ13を引っ張り、その芯線ワイヤ13を固定チャック装置21と可動チャック装置22の間に張設させる。
【0036】
なお、芯線ワイヤ13を張設させた後、その芯線ワイヤ13に嵌入されたチューブ12を実線矢印で示すようにY軸方向に移動させ、チューブ12の一端をリール29における突部29cに当接させて、芯線ワイヤ12に対するチューブ12の位置を決定させる。その後、止め具56もY軸方向に移動させてチューブ12の他端に当接させ、その雌ねじ孔56aに雄ねじ57を螺合してその先端を芯線ワイヤ13に圧接することにより、芯線ワイヤ13に嵌入されたチューブ12が可動チャック装置22側に移動することを防止し、これによりチューブ12を芯線ワイヤ13に固定する。
【0037】
<捨て絡げ工程>
この工程では、図3に示すようにノズル30から繰り出される線状材11をリール29に巻回させる。線状材11の先端は取付部材29bに取付けられているので、ノズル移動機構31によりノズル30を移動させ、線状材11の繰り出し端部を固定チャック装置21と同軸に設けられたリール29に対峙させ、その状態で芯線回転手段によりそのリール29を固定チャック装置21とともに回転させることによりノズル30から繰り出される線状材11をリール29に巻回させる。このリール29に巻回させる線状材11の長さは、先の線状材巻き付け工程においてチューブ12に巻き付けられて巻癖が生じた部分を最低限含む長さとする。そして、そのような巻癖が生じた部分が巻回された後、ノズル移動機構31によりノズル30を移動させ、ノズル30から繰り出される線状材11を側壁に形成された切り欠き29a(図1)から可動チャック装置22側に引き出す。
【0038】
<線状材巻き付け工程>
この工程では、図5の実線矢印で示すように、張設された芯線ワイヤ13をチューブ12とともに正転させてノズル30から繰り出される線状材11をチューブ12に巻き付け、線状材11が圧接してなる溝をチューブ12の外周に形成する。この実施の形態では、ワイヤ張設工程と線状材巻き付け工程の間に捨て絡げ工程を設けているので、この線状材巻き付け工程では、リール29に巻回された後にノズル30から繰り出される線状材11をチューブ12に巻き付ける。具体的には、ノズル移動機構31によりノズル30を移動させ、ノズル30の線状材11の繰り出し端部をリール29の突部29cに当接するチューブ12の一端に対峙させる。その後、芯線回転手段により固定チャック装置21と可動チャック装置22をそれぞれ同期して回転させ、それらに咬持されてそれらの間に張設された芯線ワイヤ13を正転させる。この芯線ワイヤ13の正転とともに、その回転に比例したピッチ分の速度でノズル移動機構31によりノズル30を固定チャック装置21側から可動チャック装置22側に向かってY軸方向に移動させる。これによりノズル30から繰り出された線状材11は芯線ワイヤ13に嵌入されたチューブ12に螺旋状に巻き付けられる。
【0039】
ここで、チューブ12はリール29の突部29cに当接させているので、ノズル30から繰り出された線状材11はチューブ12の一端から確実にそのチューブ12に巻き付けられることになる。そして、チューブ12を別に保持していないので、従来のようにチューブ12を保持することにより生じる傷のようなものがチューブ12に生じるようなことはない。チューブ12を保持していないけれども、線状材11の先端は芯線ワイヤ13とともに回転する取付部材29bに固定されているので、線状材11がチューブ12の周囲に巻き付けられると、チューブ12が芯線ワイヤ13と独立して回転するようなことは禁止される。この結果、芯線ワイヤ13を回転させることによりチューブ12の外周に線状材11を確実に巻き付けることができる。
【0040】
チューブ12の外周に巻き付けられた線状材11には、テンション装置40により所定の張力が付与されている。この張力により線状材11はチューブ12の外周に圧接して埋没し、その外周を塑性変形させることにより、埋没跡からなる溝をチューブ12の外周に形成する。よって、線状材11に付与する張力はその線状材の太さ及び得ようとする溝の深さやチューブ12の材質により適宜決定され、その張力の調整はテンション調節ねじ54を回転させてスプリング52の他端の固定位置を変位させることにより行われる。そして、所望の幅及び深さの溝が所望のピッチで形成された螺旋溝をチューブ12の外周の所望の範囲に形成した段階で芯線ワイヤ13の回転とノズル30の移動を停止させる。
【0041】
<線状材引き戻し工程>
この工程では、図5の破線矢印で示すように、芯線ワイヤ13をチューブ12とともに逆転させてチューブ12に巻き付けられた線状材11を線状材供給・排出機構に引き戻す。具体的には、線状材供給・排出機構における繰り出し制御プーリ46の回転を停止した状態で、芯線回転手段により固定チャック装置21と可動チャック装置22をそれぞれ同期して逆転させ、それらに咬持されてそれらの間に張設された芯線ワイヤ13を逆転させる。この芯線ワイヤ13の逆転とともに、ノズル移動機構31によりノズル30を、その回転に比例したピッチ分の速度で可動チャック装置22側から固定チャック装置21側に向かってY軸方向に移動させる。これによりチューブ12に巻き付けられた線状材11は解き放たれ、テンション装置40におけるテンションバー48がスプリング52の付勢力により図1の一点鎖線で示すように引き上げられ、チューブ12の外周から解き放たれた線状材11がノズル30を介して引き戻される。そして、チューブ12に巻き付けられた線状材11の全てを引き戻した図3に示すような段階で芯線ワイヤ13の回転とノズル30の移動を停止させる。
【0042】
<チューブ取り外し工程>
この工程では、溝が周囲に残存するチューブ12を芯線ワイヤ13から取り外す。この取り外しにあっては、芯線ワイヤ13の張設を解除させた状態で行われる。具体的には、図3の一点鎖線矢印で示すようにチャック移動機構26の可動台26aを可動軸受け24とともに移動させ、可動軸受け24に枢支された可動チャック装置22を固定チャック装置21に近づける。これにより芯線ワイヤ13は弛み、この状態で可動チャック装置22による芯線ワイヤ13の他端の咬持を解除する。そして、図4に示すように芯線ワイヤ13の他端を可動チャック装置22から取り外し、止め具56の雌ねじ孔56aに螺合されていた雄ねじ57(図3)を緩め、その止め具56とともに芯線ワイヤ13に嵌入されていたチューブ12を破線矢印で示すように他端側に移動させてその芯線ワイヤ13から取り外す。このようにして、周囲に螺旋溝が形成されたチューブ12を得る。
【0043】
その後、最初のワイヤ張設工程に戻る。即ち、加工の対象である次のチューブ12を可動チャック装置22から取り外された他端から芯線ワイヤ13に嵌入し、チューブ12が嵌入された芯線ワイヤ13の他端をその後可動チャック装置22に咬持させ、芯線ワイヤ13を張設させる。そして、このワイヤ張設工程からチューブ取り外し工程までを順次繰り返す。これにより螺旋状の溝が周囲に形成されたチューブ12を順次得ることができる。
【0044】
以上述べたように、本発明のチューブの螺旋溝加工装置及びその螺旋溝加工方法では、加工の対象であるチューブ12が嵌入された芯線ワイヤ13を張設させる点で、座屈するおそれのない丸棒心材を用いてその心材を軸方向に圧縮するように取付ける従来の加工装置と異なる。よって、従来では心材を座屈するおそれのある細いものとすることはできなかったけれども、本発明では芯線ワイヤ13を張設させるのでその芯線ワイヤ13が座屈することはなく、その芯線ワイヤ13を比較的細いものとすることができる。このため、例えば、内径が0.4mmのような比較的細いチューブ12であっても、そのチューブ12が嵌入される芯線ワイヤ13として例えば太さが0.38mmの細いピアノ線を用いることにより、このような比較的細いチューブ12への溝加工も可能になる。
【0045】
また、本発明のチューブの螺旋溝加工装置及びその方法では、チャック装置21,22が芯線ワイヤ13を咬持するけれども、加工の対象であるチューブ12を直接保持するようなことをしない。このため、チューブ12を直接保持することに起因する傷をチューブ12に生じさせるようなことはない。チューブ12を保持していないけれども、線状材11がチューブ12の周囲に巻き付けられた後には、チューブ12が芯線ワイヤ13と独立して回転するようなことはなく、芯線ワイヤ13を回転させることによりチューブ12の外周に線状材11を巻き付け、螺旋状の溝を確実に形成することができる。また、芯線ワイヤ13はチャック装置21,22により咬持されて張設されるものであるので、芯線ワイヤ13の交換も比較的容易に行えることができる。よって、加工の対象であるチューブ12を、その内径が異なるようなものに変更することも容易に行うことができる。
【0046】
更に、本発明のチューブの螺旋溝加工装置及びその方法では、一度チューブ12に巻き付けられて溝加工を行った線状材11をリール29に巻き付けることにより、その後ノズル30から新たに繰り出される線状材11をチューブ12に巻き付けることができる。してみると、特に細いチューブ12に巻き付けた線状材11には比較的小さな曲率半径でチューブ12に巻き付けられ、その線状材11に比較的小さな曲率半径で湾曲しようとする巻癖が生じるけれども、このような巻癖が生じた線状材11が再びチューブ12に巻き付けられるようなことを回避することができる。従って、連続してチューブ12に螺旋溝を形成するようにしても、巻癖が生じていない新たな線状材11を常にチューブ12に巻き付けることが可能になり、均一なピッチを有しかつ深さが均等な螺旋溝を得ることができる。即ち、本発明のチューブの螺旋溝加工装置及びその螺旋溝加工方法では、チューブ12に傷を生じさせることなく、比較的細いチューブ12であっても、深さが一定でピッチが均一な螺旋溝を形成することが可能になる。
【0047】
なお、上述した実施の形態では、特にチューブ12を加熱するためのヒータに関する記載を省いたけれども、螺旋状の溝を形成するために必要であるならば、そのチューブを加熱するヒータを設けても良い。
【0048】
また、上述した実施の形態では、リール29に突部29cを形成し、その突部29cにチューブ12の一端を当接させているけれども、ノズル30から繰り出された線状材11をチューブ12の一端から巻き付け可能である限り、この突部29cは必ずしも必要とするものではなく、突部29cを有しないリール29を用いても良い。
【0049】
また、上述した実施の形態では、軸方向に直交して雌ねじ孔56aが形成された筒状の止め具56を用いてチューブ12が芯線ワイヤ13に対して移動することを防止する場合を説明したが、チューブ12が芯線ワイヤ13に対して移動するようなことがない場合には、あえて止め具56は用いることを必要としない。また、止め具56を用いるとしても、チューブ12が可動チャック装置22側に移動することを防止しうる限り、他の構造のものであっても良く、例えば、事務用のクリップ等を止め具56として用いるようにしても良い。
【0050】
また、上述した実施の形態では、テンションバー48が所定の角度になるように繰り出し制御モータ49を制御し、繰り出し制御プーリ46を介して線状材11の繰り出しを制限したけれども、繰り出される線状材11に張力を与えるとともにその線状材11を引き戻し可能なものである限り、線状材供給・排出機構はその他の構成のものであっても良い。例えば、繰り出し制御モータ49に代えて繰り出し制御プーリ46の回転を制御する電磁ブレーキを設け、テンションバー48が所定の角度になるようにその電磁ブレーキを制御し、繰り出し制御プーリ46を介して線状材11の繰り出しを制限するようにしても良い。また、図6に示す従来のものと同様に、線状材供給・排出機構を、トルクモータ7により一定のトルクで正逆回転が可能で線状材を供給しかつ巻取るためのリール8、及びそのリール8から繰り出した線状材をチューブに案内するためのガイド9aにより構成しても良い。
【0051】
更に、上述した実施の形態では、芯線回転手段として固定軸受け23と可動軸受け24の双方にサーボモータ27,28がそれぞれ設けられる場合を例示したけれども、単一のサーボモータによりそれぞれのチャック装置21,22を同期して同方向に回転させるようにしても良く、チャック装置21,22を同期して同方向に回転可能である限り、サーボモータに代えてエア又は油圧シリンダ等の他の機構を用いてチャック装置21,22を回転させても良い。
【符号の説明】
【0052】
10 螺旋溝加工装置
11 線状材
12 チューブ
13 芯線ワイヤ
20 ワイヤ張設機構
27,28 サーボモータ(芯線回転手段)
29 リール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューブ(12)が嵌入可能な芯線ワイヤ(13)と、
前記芯線ワイヤ(13)を張設するワイヤ張設機構(20)と、
張設された前記芯線ワイヤ(13)を前記チューブ(12)とともに正逆回転させて線状材供給・排出機構から繰り出される線状材(11)を前記チューブ(12)に巻き付け及び前記チューブ(12)に巻き付けられた前記線状材(11)を前記線状材供給・排出機構に引き戻す芯線回転手段(27,28)と
を備えたチューブの螺旋溝加工装置。
【請求項2】
芯線回転手段(27,28)により回転し線状材供給・排出機構から繰り出される線状材(11)を巻回可能なリール(29)を更に備えた請求項1記載のチューブの螺旋溝加工装置。
【請求項3】
チューブ(12)が嵌入された芯線ワイヤ(13)を張設するワイヤ張設工程と、
張設された前記芯線ワイヤ(13)を前記チューブ(12)とともに正転させて線状材供給・排出機構から繰り出される線状材(11)を前記チューブ(12)に巻き付け前記線状材(11)が圧接してなる溝を前記チューブ(12)の外周に形成する線状材巻き付け工程と、
前記芯線ワイヤ(13)を前記チューブ(12)とともに逆転させて前記チューブ(12)に巻き付けられた前記線状材(11)を前記線状材供給・排出機構に引き戻す線状材引き戻し工程と、
前記溝が周囲に残存する前記チューブ(12)を前記芯線ワイヤ(13)から取り外すチューブ取り外し工程と
を有するチューブの螺旋溝加工方法。
【請求項4】
ワイヤ張設工程と線状材巻き付け工程の間に線状材供給・排出機構から繰り出される線状材(11)をリール(29)に巻回させる捨て絡げ工程が設けられ、
線状材巻き付け工程において前記リール(29)に巻回された後に前記線状材供給・排出機構から繰り出される線状材(11)をチューブ(12)に巻き付ける請求項3記載のチューブの螺旋溝加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−143072(P2011−143072A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6424(P2010−6424)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(000227537)日特エンジニアリング株式会社 (106)
【Fターム(参考)】