説明

チルト可能な構造のグリース受けを備えた射出成形機

【課題】グリース受け皿部材をチルト可能な構造とし、グリース受け皿部材を引き出すスペースが十分でない場合でも、廃グリースを容易かつ確実に回収することができる射出成形機を提供する
【解決手段】機台3上の型締装置1は、機台3上に固設された固定盤4と受圧盤6と可動盤5で構成され、受圧盤6には、電動サーボモータ8及び、回転運動を直線運動に変換するナットおよびネジ軸よりなるボールネジ機構9、ボールネジ機構の軸方向駆動力をクロスヘッド11を介して伝達され、これによって可動盤を前後進駆動するトグルリンク機構10などを備えている。グリース受け皿部材12は、機台内の、上枠長手部材13,上枠横手部材14で構成される上枠部の下部であって、型締装置のトグルリンク機構,可動盤5の可動部下方に配置されている。グリース受け皿部材は、板材17に係合された中心軸を中心として水平状態から板材18の位置を限度として回動可能とした

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機などの成形機に関し、特に、サーボモータとトグルリンク機構を用いた型開閉機構における、機構部から落下(滴下)する廃グリースの回収に関する。
【背景技術】
【0002】
型開閉駆動源として電動サーボモータを用いた射出成形機などの成形機が広く用いられている。型開閉に電動サーボモータを採用した場合、モータの回転を直線運動に変換するためにボールネジ機構を用いており、このボールネジ機構は高い負荷で作動させているため、ボールネジ機構に対して所定時間間隔毎または所定ショット回数間隔毎にグリースを補給するようにしている。また、電動サーボモータとボールネジ機構とを用いた場合、型締完了後はモータの駆動を絶つことが可能なトグルリンク機構を、型開閉の機構として採用することが多い。このトグルリンク機構も高い負荷で作動させるため、各連結軸受け部に対して、所定時間間隔毎または所定ショット間隔毎にグリースを補給するようにしている。この場合、ボールネジ機構やトグルリンク機構に対してグリースの補給を定期的に行うと、グリースの補給に伴ってボールネジ機構やトグルリンク機構から廃グリースが落下(滴下)する。
【0003】
図8は、廃グリースを回収するため、射出成形機の型締装置下部にグリース受け皿部材を備えた従来技術を説明する図である。特許文献1には、図8に示されるように、電動サーボモータ8の回転をボールネジ機構9により変換してクロスヘッド11に伝達し、このクロスヘッドの前後進運動によりトグルリンク機構10を介して可動盤5を前後進させる型開閉動作を行う型締装置1を持つ射出成形機において、ボールネジ機構9やトグルリンク機構10から落下(滴下)する廃グリースを受け集めるため、グリース受け皿部材12を、型締装置1を搭載した機台3の中にスライド引き出し可能であるように配置する技術が開示されている。そして、図9は、グリース受け皿部材12を射出成形機の機台3内から引き出した状態を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−113755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
グリース受け皿部材12に回収された廃グリースは、布などを使って拭き取られる。従来技術で説明したスライド式のグリース受け皿部材12を用いた廃グリースの回収技術では、グリース受け皿部材12を機台3から引き出し、作業員が拭き取り作業などの廃グリースの回収作業を容易に行えるように、機械の後方に十分なスペースを設ける必要がある。しかし、図10に示されるように、射出成形機の型締装置1の延長側が壁19に接近して設置され、グリース受け皿部材12を引き出すスペースが十分に確保されていない場合、グリース受け皿部材12を機台3から十分に引き出すことができず、廃グリースの回収作業が容易に行えないという問題がある。
そこで本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、グリース受け皿部材をチルト可能な構造とし、グリース受け皿部材を引き出すスペースが十分でない場合でも、廃グリースを容易かつ確実に回収することができる射出成形機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の請求項1に係る発明は、ボールネジ機構と該ボールネジ機構により駆動される部材からなる可動装置を有する射出成形機において、前記可動装置から落下するグリースを受け集めるためのグリース受け皿部材を前記射出成形機の機台に対してチルト可能な構造とし、前記可動装置下方に配置していることを特徴とする射出成形機である。
請求項2に係る発明は、前記グリース受け皿部材にチルトの回動中心となる柱状部材を取り付けることでチルト可能な構造としたことを特徴とする請求項1に記載の射出成形機である。
請求項3に係る発明は、上枠長手部材もしくは支柱に、切り欠きもしくは穴を設けた板材を固定し、該切り欠きや該穴に前記柱状部材を係合させることを特徴とする請求項2に記載の射出成形機である。
【0007】
請求項4に係る発明は、直接、前記支柱に切り欠きや穴を設け、その切り欠きや穴に前記柱状部材を係合させることを特徴とする請求項2に記載の射出成形機である。
請求項5に係る発明は、前記切り欠きの形状が、切り欠き口から下り階段状であることを特徴とする請求項3または4のいずれか一つに記載の射出成形機である。
請求項6に係る発明は、前記切り欠きの先端が、上下方向を拘束する形状であることを特徴とする請求項3または4のいずれか一つに記載の射出成形機である。
【0008】
請求項7に係る発明は、上枠横部材と前記グリース受け皿部材を蝶番で固定することによりチルト可能な構造としたことを特徴とする請求項1に記載の射出成形機である。
請求項8に係る発明は、前記グリース受け皿部材は、上枠長手部材もしくは上枠横部材に固定されており、廃グリースの回収作業時に固定を解除することでチルト可能な構造とすることを特徴とする射出成形機である。
請求項9に係る発明は、前記グリース受け皿部材のチルト量を調整できるように取り外しにより高さ調整可能な板材ストッパをグリース受け皿部材下方に配置していることを特徴とする射出成形機である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、グリース受け皿部材をチルト可能な構造とし、グリース受け皿部材を引き出すスペースが十分でない場合でも、廃グリースを容易かつ確実に回収することができる射出成形機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態を説明する図である。
【図2】図1で型締装置を取り去った状態の機台のA−A断面の拡大図である。
【図3】図1におけるグリース受け皿部材の上面図である。
【図4】図1における板材17周辺の拡大図である。
【図5】図1における板材18周辺の拡大図である。
【図6】本発明の第2実施形態における長手部材と平行な向きに回転の中心軸を持ちチルト可能な構造とした場合を説明する図である。
【図7】本発明の第3実施形態におけるグリース受け皿部材をチルト可能な構造として射出成形機の射出装置の下部に配置した場合を説明する図である。
【図8】射出成形機の型締装置下部にグリース受け皿部材を備えた従来技術を説明する図である。
【図9】グリース受け皿部材を射出成形機の機台から引き出した状態を説明する図である。
【図10】スライド引き出し可能なグリース受け皿部材がスライド不可な状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。なお、従来技術と同一あるいは類似する構成については同じ符号を用いて説明する。
図1は本発明の第1実施形態を説明する図である。図2は、図1で型締装置を取り去った状態の機台のA−A断面の拡大図である。図3は、図1におけるグリース受け皿部材の上面図である。
【0012】
機台3は図示しない電源系や制御回路系などを内蔵しており、上枠長手部材13、上枠横手部材14、下枠長手部材15、図示しない下枠横部材、支柱16によって構成されている。機台3上には型締装置1と射出装置2が対向して搭載されている。
型締装置1は、機台3上に固設された固定盤4、成形運転時には機台3に固定的に配置される受圧盤6、固定盤4と受圧盤6との間に架設される複数のタイバー7、複数のタイバー7に挿通・ガイドされ固定盤4に対して前進または後退する可動盤5、受圧盤6に取り付けられた電動サーボモータ8、電動サーボモータ8の回転をタイミングベルトを介して伝達されるプーリ付きの回転体、該回転体の回転を受けて回転運動を直線運動に変換するナットおよびネジ軸よりなるボールネジ機構9、ボールネジ機構9の軸方向駆動力をクロスヘッド11を介して伝達され、これによって可動盤5を前後進駆動するトグルリンク機構10などを備えている。
【0013】
グリース受け皿部材12は、機台3内の、上枠長手部材13,上枠横手部材14で構成される上枠部の下部であって、型締装置1のトグルリンク機構10,可動盤5の可動部下方に配置されている。図1では、グリース受け皿部材12は、板材17に係合された中心軸を中心として水平状態から板材18の位置を限度として回動可能である。
グリース受け皿部材12は図2や図3で示されるように、4つの側面を壁面で囲まれた所定深さのある長方形の皿を構成するオイルパンであり、溶接ナット12aとボルト12bが側面の対向する両サイドに取り付けられており、支柱16に固定された板材17の切り欠き部分にボルト12b,12bを係合することで、ボルト12b,12bがチルトの中心軸として働き、グリース受け皿部材12はチルト可能(傾動可能)となる。グリース受け皿部材12は、切り欠き12c,12cに図示しないボルトを係合させ、グリース受け皿部材12の端部を上枠横手部材14に固定する。グリース受け皿部材12は、対向する両サイド面に溶接ナット12a,12aとボルト12b,12bが固定されている。ボルト12b,12bは、板材17の切り欠きと係合することで、グリース受け皿部材12がチルトする際の回転軸として機能する。つまり、ボルト12b,12bは、グリース受け皿部材12に設けられたチルトの回動中心となる柱状部材として機能する。
【0014】
図4は、図1における板材17周辺の拡大図である。図4で示されるように板材17の切り欠き17aの形状は下り階段状に形成されている。このため、グリース受け皿部材12のチルト前でもチルト後でも、グリース受け皿部材12に取り付けられたボルト12bを、階段状に形成された切り欠き17aに沿わせてスライドさせて引き出した後に持ち上げることで、グリース受け皿部材12を機台3から容易に取り外しできる。また、一旦取り外したグリース受け皿部材12を機台3内に取り付ける場合には、取り外しの場合の逆の順序で行えばよい。
【0015】
グリース受け皿部材12の取り付けおよび取り外しの際のスライド範囲は、グリース受け皿部材12の受圧盤6側端面が上枠横手部材14の受圧盤6側端面を越えない範囲で行われる。このため、図10のように機械の後方に十分なスペースがない場合でも、グリース受け皿部材12の機台3内への取り付けおよび取り外しが可能となる。
【0016】
グリース受け皿部材12に回収された廃グリースの除去作業は、グリース受け皿部材12をチルトさせた状態で、作業者によって布などを使って取り除かれる。あるいは、チルトさせてスライドさせて機台3内から取り外して、グリース受け皿部材12からグリースの除去作業を行うこともできる。
【0017】
また、板材17に形成された切り欠き17aの切り欠き先端部17bはくさび形状となっており、グリース受け皿部材12が最も押し込まれた位置で上下方向が拘束(ホールド)され、この位置でグリース受け皿部材12を上枠長手部材13あるいは上枠横手部材14にボルト固定することにより完全にホールドされるようになっている。ボルト固定は、例えば、図示しないボルトで図3の切り欠き12c,12cを外側下方から締め付けることによって行うことができる。
【0018】
廃グリースの回収処理時には、図3の切り欠き12c,12cに係合し、上枠長手部材13あるいは上枠横手部材14に対するボルト固定を解除することでチルト可能となる。また、支柱16には取り外しにより高さ調整可能な板材18が配置されておりチルト量を好みによって調整できるようになっている。図5は、図1における板材18周辺の拡大図である。
【0019】
本実施形態では、支柱16にパイプ材が使用されているが、I型鋼やC型鋼やH型鋼の型鋼もしくは単なる板材を曲げて前記型鋼のような構造にしたものを使用してもよい。また、板材17を用いずに直接支柱16に穴や切り欠きを設け、グリース受け皿部材12に設けられたボルト12b,12bのような柱状部材の軸受とし、グリース受け皿部材12を配置してもよい。
【0020】
また、本実施形態では、グリース受け皿部材12に溶接ナット12aとボルト12bを取り付けることでチルト可能な構造としているが、グリース受け皿部材12に、ピン、フランジャ、丸パイプ、円柱棒などのチルトの回動(揺動)中心となる柱状部材を取り付けることでチルト可能な構造としてもよい。
また、上枠横手部材14とグリース受け皿部材12を蝶番で固定することでチルト可能な構造としてもよいし、引掛蝶番で固定することによりチルト可能でかつ取り外し可能な構造としてもよい。
【0021】
また、第1実施形態では図1のように上枠横手部材14と平行な向きに回転の中心軸を持ちチルト可能な構造となっているが、図6のように上枠長手部材13と平行な向きに回転の中心軸を持ちチルト可能な構造としてもよい。図6は、本発明の第2実施形態における長手部材と平行な向きに回転の中心軸を持ちチルト可能な構造とした場合を説明する図である。
【0022】
また、射出装置2の可動部とボールネジ機構から落下する廃グリースを受け集めるためのグリース受け皿部材12についても型締装置1下と同様にチルト可能な構造として、図7で示されるように射出装置2下に配置してもよい。図7は、本発明の第3実施形態におけるグリース受け皿部材をチルト可能な構造として射出成形機の射出装置の下部に配置した場合を説明する図である。
【0023】
本発明のいずれの実施形態の構造の場合においても、グリース受け皿部材12はチルト可能なだけではなく取り外し可能な構造としてもよい。
【符号の説明】
【0024】
1 型締装置
2 射出装置
3 機台
4 固定盤
5 可動盤
6 受圧盤
7 タイバー
8 電動サーボモータ
9 ボールネジ機構
10 トグルリンク機構
11 クロスヘッド
12 グリース受け皿部材
12a 溶接ナット
12b ボルト
12c 切り欠き
13 上枠長手部材
14 上枠横手部材
15 下枠長手部材
16 支柱
17 板材
17a 切り欠き
17b 切り欠き先端部
18 板材
19 壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールネジ機構と該ボールネジ機構により駆動される部材からなる可動装置を有する射出成形機において、
前記可動装置から落下するグリースを受け集めるためのグリース受け皿部材を前記射出成形機の機台に対してチルト可能な構造とし、前記可動装置下方に配置していることを特徴とする射出成形機。
【請求項2】
前記グリース受け皿部材にチルトの回動中心となる柱状部材を取り付けることでチルト可能な構造としたことを特徴とする請求項1に記載の射出成形機。
【請求項3】
上枠長手部材もしくは支柱に、切り欠きもしくは穴を設けた板材を固定し、該切り欠きや該穴に前記柱状部材を係合させることを特徴とする請求項2に記載の射出成形機。
【請求項4】
直接、前記支柱に切り欠きや穴を設け、その切り欠きや穴に前記柱状部材を係合させることを特徴とする請求項2に記載の射出成形機。
【請求項5】
前記切り欠きの形状が、切り欠き口から下り階段状であることを特徴とする請求項3または4のいずれか一つに記載の射出成形機。
【請求項6】
前記切り欠きの先端が、上下方向を拘束する形状であることを特徴とする請求項3または4のいずれか一つに記載の射出成形機。
【請求項7】
上枠横部材と前記グリース受け皿部材を蝶番で固定することによりチルト可能な構造としたことを特徴とする請求項1に記載の射出成形機。
【請求項8】
前記グリース受け皿部材は、上枠長手部材もしくは上枠横部材に固定されており、廃グリースの回収作業時に固定を解除することでチルト可能な構造とすることを特徴とする射出成形機。
【請求項9】
前記グリース受け皿部材のチルト量を調整できるように取り外しにより高さ調整可能な板材ストッパをグリース受け皿部材下方に配置していることを特徴とする射出成形機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−111197(P2012−111197A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264179(P2010−264179)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】