説明

チルド保存用非加熱生地封入体

【課題】煩雑な温度管理を必要とせずに長期保存可能な非加熱生地の提供。
【解決手段】穀粉と水分とを含む混合物に、該混合物の全質量に対して3.0質量%以下のアルコールを添加して調製された水分活性0.90〜0.98の生地が、O2濃度1容量%以下、CO2濃度45容量%以上を含むガスを用いて容器にガス置換包装されていることを特徴とする、チルド保存用の非加熱生地封入体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チルド状態で長期保存可能な非加熱生地封入体、及び非加熱生地の保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小麦粉等の穀粉に加水、混捏して得られる生地は、パン、うどん、麺、ケーキ、クッキー、ピザ等のさまざまな食品として用いられている。しかしながら、これを非加熱(いわゆる生の状態)で保存した場合には、雰囲気中から生地に付着した微生物や、生地に含まれる微生物が極めて短時間に増殖し、短時間に生地に変敗や腐敗などの変質が起こるため、長時間の保存ができないという問題がある。
【0003】
食品における微生物の増殖やそれによる腐敗は食品中の水分量に影響される。微生物が生存や増殖するために利用できるのは食品中の自由水と呼ばれる水分であり、食品に含まれる自由水の量は水分活性(Aw)という値で示される。すなわち、水分活性値が低ければ微生物は増殖しにくく、食品の保存性は向上する。したがって、食品の水分活性値を下げることによってその保存性を向上させることができることができる。
【0004】
水分活性を制御して食品の保存性を高めるための種々の提案がなされている。特許文献1には、生地に食塩を添加して水分活性(Aw)を0.90や0.91に低減させた生パスタドウが低酸素、冷蔵下で保存可能であることが記載されている。特許文献2には、所与の粉体原料、油脂及び液糖を主原料とし、水分活性値を0.86以下に調整した生地を容器に密封して得られた容器入りチルド用ペースト状焼成菓子生地が記載されている。また特許文献3には、水分活性0.80の半乾麺に徐放性アルコール製剤を同封し、長期保存可能な半生麺を得たことが記載されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術は、水分活性を低減させる必要があるため、生地が有する品質が低下するおそれがあり、また食塩を添加するため食味が変化してしまうという問題がある。しかも、特許文献1では生地を4℃や6℃の低温下で保存する必要があり、いわゆるチルド(約10℃)の状態では長期保存することができないため、流通の間の温度管理に手間やコストがかかる。また、引用文献2や3の技術は、生地の水分活性を比較的低く(0.86以下に)調整する必要があるが、水分活性値の低下は、特に上記パン生地や麺生地のような水分量が比較的多く柔らかな食感を有する食品においては、その風味や食感の低下をもたらすおそれがあるという問題をもたらす。
【0006】
食品の水分活性値を低下させることなく、しかも煩雑な温度管理を必要とせずに、その保存性を向上させることができれば望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2003-514559号公報
【特許文献2】特開平3-147735号公報
【特許文献3】特開平11-137195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題と実状に鑑みて成されたものであり、生地として通常の水分活性値を維持しながら、チルド状態で長期保存可能な非加熱生地を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、穀粉と水分とを含む混合物に、その全質量に対して3.0質量%以下のアルコールを添加して得られた水分活性0.90〜0.98の生地、又はさらに必要に応じてpHを調整した当該生地を、特定の組成のガスを用いて容器にガス置換包装すれば、10℃前後のチルド状態で長期間保存しても生地中の微生物数の増殖を抑えることができるので、生地を非加熱のまま長期保存することが可能になることを見出した。
【0010】
すなわち本発明は、穀粉と水分とを含む混合物に、該混合物の全質量に対して3.0質量%以下のアルコールを添加して調製された水分活性0.90〜0.98の生地が、O2濃度1容量%以下、CO2濃度45容量%以上を含むガスを用いて容器にガス置換包装されていることを特徴とする、チルド保存用の非加熱生地封入体を提供することにより、上記課題を解決したものである。
また本発明は、穀粉と水分とを含む混合物に、該混合物の全質量に対して3.0質量%以下の量のアルコールを添加して、水分活性0.90〜0.98の生地を調製する工程と;得られた生地を、O2濃度1容量%以下、CO2濃度45容量%以上を含むガスを用いたガス置換包装により容器に封入して非加熱生地封入体を得る工程と;得られた非加熱生地封入体をチルド状態で保存する工程とを有することを特徴とする、非加熱生地の保存方法を提供することにより、上記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微生物が好適に増殖し得る水分活性を有する生地を、非加熱状態のまま、0℃付近から10℃前後までのチルド温度帯において長期間にわたり微生物の増殖を制御することができるので、冷凍保存や冷凍状態での流通などの煩雑でコストのかかる温度管理を行わなくとも、安全で衛生的な非加熱の小麦粉生地等の生地を提供することができる。また、高い水分活性を有した非加熱生地を製造直後の瑞々しい品質を高度に維持したまま、冷凍状態にすることによる品質の低下及び解凍の手間を排除した状態で、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】30日間のチルド保存後における封入体中の非加熱生地(Aw0.900〜0.940)の微生物数測定結果。
【図2】45日間のチルド保存後における封入体中の非加熱生地(Aw0.900〜0.940)の微生物数測定結果。
【図3】30日間のチルド保存後における封入体中の非加熱生地(Aw0.960)の微生物数測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を適用できる非加熱生地としては、通常の手順で製造される穀粉を主原料とする生地であれば特に限定されない。当該生地の例としては、パン類;ピザ、パスタ類;うどん、そば、中華麺等の麺類;ケーキ、ビスケット、クッキー、スコーン、マフィン、パンケーキ、ワッフル、ドーナツ等の焼き菓子類;蒸しパン、カステラ等のその他の菓子類、等の生地を挙げることができる。
【0014】
上記生地の主原料となる穀粉としては、薄力粉、中力粉、準強力粉、強力粉、デュラム粉等の小麦粉、小麦全粒粉、ライ麦粉、米粉、そば粉、澱粉若しくは化工澱粉等が挙げられるが、特にこれらに限定されない。
上記穀粉と混合される水分としては、水、乳、豆乳、卵、果汁、野菜汁等の上記に挙げた生地に通常使用される材料が挙げられる。さらにこの穀粉と水分を含む混合物に、必要に応じて、大豆蛋白質、小麦グルテン、卵粉末、脱脂粉乳等の蛋白素材;動植物油脂、粉末油脂等の油脂類;食物繊維、膨張剤、増粘剤、乳化剤、糖類、甘味料、食塩、香辛料、調味料、ビタミン類、等の、上記に挙げた生地に通常使用される材料を混合してもよい。
【0015】
本発明の生地には、上記穀粉と水分に加えて、さらにアルコールが含まれている。アルコールとしてはエタノールが好ましい。アルコールの添加により、生地の調製中における殺菌効果及び生地のチルド保管中の殺菌・静菌効果が得られる。前者の効果を得るには、アルコールの生地添加量は、上記穀粉と水分を含む混合物の全質量に対して3.0質量%以下、好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下である。また後者の効果を得るには、製造された非加熱生地封入体中の非加熱生地におけるアルコールの含有量は、該非加熱生地の全質量に対して1.5〜0.1質量%、好ましくは1.0〜0.1質量%である。
アルコールは製造工程中で揮発するので、生地の調製の際に添加し、完全に揮発する前に非加熱生地封入体を製造し終えるようにすることが好ましい。例えば、非加熱生地を調製する際には、穀粉と水分を含む混合物に、その全質量に対して3.0質量%以下、好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下のアルコールを添加し、次いで、該非加熱生地を容器封入するときに生地のアルコール含量が1.5〜0.1質量%、好ましくは1.0〜0.1質量%になるように、非加熱生地封入体の製造工程を調整すればよい。
【0016】
斯くして得られた穀粉、水分(及び必要に応じてその他の材料)、ならびにアルコールを含む生地の水分活性(Aw)は、0.90〜0.98の範囲である。適切な水分活性は該生地の種類(パン生地、パスタ生地、麺生地、ケーキ生地、等)によって各々異なり得、各生地に適切な水分活性値は、最終的に求められる食味や食感に照らして当業者が適宜決定することができる。生地の水分活性は、一般的には、例えばパン生地で0.98〜0.94、菓子生地で0.98〜0.92、麺生地で0.99〜0.86、ピザ生地で0.99〜0.95であるが、混合される水分や糖分の割合を変えることによって、上記範囲に適宜調整可能である。水分活性が0.98を超えると、微生物の増殖が優位になるため長期間の保存が不可能になり、逆に水分活性が0.90未満であると、生地の有する瑞々しさや風味等が損なわれる。
【0017】
さらに必要に応じて上記生地のpHを調整してもよい。生地のpHが微生物の増殖に好ましいpHから低く又は高くなればその保存性は向上するが、生地の有する味等の品質に対する影響があるため、生地のpHは、通常pH4.0〜8.0の範囲に調整すればよいが、生地の味を考慮するとpH6.5〜7.5の弱酸性〜弱アルカリ性に調整されるのが好ましい。
上記生地のpHは、所望する保存性能や生地の味などを考慮して、適切な範囲に調整すればよい。例えば、上記非加熱生地を30日間保存するためには、該生地の水分活性が0.90以上0.96未満である場合、そのpHは、pH4.0〜8.0であればよく、pH6.5〜7.5が好ましい。また、該生地の水分活性が0.96〜0.98である場合、そのpHは、pH5.5以下であればよいが、pH4.0〜5.5が好ましい。
【0018】
上記生地を、加熱処理を行うことなく、非加熱のままガス置換包装に供する。ここで使用される置換ガスとしては、酸素を実質的に含まないガスであって、且つ食品包装のために使用可能なガスが好ましい。当該ガスは、実質的に一種類のガスのみで構成されていてもよいが、好ましくは混合ガスである。用いうるガスとしては、CO2、N2、He、Ne、Arガスが挙げられる。好ましい例として、O2濃度1容量%以下、CO2濃度45容量%以上を含むガスが挙げられる。さらに好ましくは、当該ガスのCO2濃度は65容量%以上であり、より好ましくは85容量%以下である。また好適には、上記O2濃度1容量%以下、CO2濃度45容量%以上を含むガスの残りはN2である。CO2濃度が45容量%未満であると、生地の保存性が低下し、85容量%を超えると、保存中に生地の品質が低下したり、生地に酸味・酸臭が付与するおそれがある。
ガス置換包装においては、製造された非加熱生地封入体中の雰囲気が上記所定のガス組成になりさえすれば、ガス置換の手段は特に限定されない。例えば、非加熱生地を含む包装容器に予め調製された所与の組成のガスをフラッシュして容器内のガスを置換する方法や、非加熱生地を含む包装容器を真空脱気した後に、所与の組成のガスを充填する方法が挙げられる。あるいはさらに、通常使用される脱酸素剤を包装容器に同封することで、容器内の酸素が除去されて、上記所定の雰囲気を実現してもよい。
【0019】
上記ガス置換包装のための包装容器としては、食品のガス置換包装に通常使用される材料、例えばガスバリア性又は酸素バリア性のプラスチック類や金属等から製造された包装容器であればよい。このような包装容器材料の例としては、アルミニウムなどの金属類、ポリビニルアルコール(PVA)、ナイロン(NY)類、エチレン/ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、アルミラミネート(AL)、アルミ蒸着フィルム(VM)シリカ蒸着フィルム、PET/NY/ポリプロピレン(PP)又はポリエチレン(PE)、PET/NY/AL/PP又はPE、PP/EVOH/PE、PP/PVA/PE等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
容器包装の手順も通常行われる方法に従えばよい。例えば、上述のような包装容器に上記生地とガス、必要に応じて脱酸素剤等を充填し、ヒートシール等の通常の方法で該容器を密封すればよい。
【0021】
上記の手順により、本発明の非加熱生地封入体を製造することができる。当該封入体中の生地は、比較的高い水分活性値を有しており且つ非加熱であるにもかかわらず、チルド状態で長期保存が可能である。
本明細書において、「チルド状態」とは、保存中の平均温度が0℃〜10℃の範囲内にある条件をいい、「チルド保存」とは、上記チルド状態での保存をいう。なお、チルド状態には、冷蔵装置の稼働状況や、本発明の非加熱生地封入体の移送時、搬入・搬出時などの作業中における、一時的な上記温度からの逸脱(一般的には、品温として±2℃程度)も含まれるものとする。したがって、本明細書において「チルド保存」とはまた、品温が−2℃〜+12℃に維持される温度条件下での保存であり得る。本発明の非加熱生地封入体は、上記チルド状態の中でも高温域である、8℃〜10℃といった温度帯においても、長期保存が可能であり、より低温域で取り扱うための手間やコストを軽減することができ、きわめて有用性が高い。
また本明細書において、「長期保存」とは、30日間以上、好ましくは45日間以上の期間の保存をいう。
【0022】
本発明の非加熱生地封入体に封入された生地においては、該生地中の微生物の増殖が抑えられており、チルド状態で45日間保存した後でも、該生地1gあたりの微生物数は、該包装の直後の同数に比べて100倍未満、且つ106cfu/g未満に保たれている。ここで、測定されるべき微生物の種類としては、Corynebacterium属、Staphylococcus属、Lactobacillus属、Leuconostoc属、Bacillus属等のグラム陽性菌、Pseudomonas属等のグラム陰性菌、Candida属、Cryptococcus属、Rhodotorul等の真菌などが挙げられる。
微生物数の測定法は、常法に従って行えばよく、例えば、平板塗沫法などを採用することができる。
【0023】
生地の水分活性値、生地へのアルコール添加量、及び置換ガスのCO2濃度は、何れも本発明の非加熱生地封入体に封入された生地の保存性に影響を与え得る。生地の水分活性値がより高い場合、添加するアルコール量をより多くするか、及び/又は置換ガスのCO2濃度を高くするほうが、生地の保存にとって好ましい。言い換えれば、所与の水分活性値の生地において、アルコール添加量をより多くした場合、CO2濃度はより低くてもよく、又はCO2濃度をより高くした場合、アルコール添加量はより少なくてもよい。当然、何れの濃度も高ければ保存にとって好適である。
また、生地のpH値も、本発明の非加熱生地封入体に封入された生地の保存性に影響を与える場合がある。例えば、生地の水分活性が0.96〜0.98である場合、生地のpHが5.5以下、好ましくはpH4.0〜5.5であると、保存にとって好適である。
【0024】
よって、本発明の非加熱生地封入体の製造工程においては、生地の水分活性値に応じて、アルコールの添加量及びガスのCO2濃度、ならびに必要に応じて生地のpH値を調整することができる。
例えば、得られた生地の水分活性が0.94以上0.96未満である場合、充填ガスのCO2濃度が45容量%以上であれば、上記で添加されるべきアルコールの量は、(穀粉と水分との混合物の全質量に対して、以下同)3.0質量%以下、例えば2.0〜3.0質量%である。あるいは、充填ガスのCO2濃度が65容量%以上であれば、上記で添加されるべきアルコールの量は、3.0質量%以下、例えば1.5〜3.0質量%、好ましくは1.5〜2.0質量%である。あるいは、充填ガスのCO2濃度が65容量%超〜85容量%以下、例えば85容量%であれば、上記で添加されるべきアルコールの量は、2.0質量%以下、例えば1.0〜2.0質量%、好ましくは1.0〜1.5質量%である。
【0025】
また例えば、得られた生地の水分活性が0.92以上0.96未満である場合、充填ガスのCO2濃度が45容量%以上であれば、上記で添加されるべきアルコールの量は、3.0質量%以下、例えば1.5〜3.0質量%である。あるいは、充填ガスのCO2濃度が65容量%以上であれば、上記で添加されるべきアルコールの量は、3.0質量%以下、例えば1.0〜3.0質量%、好ましくは1.0〜2.0質量%である。あるいは、充填ガスのCO2濃度が65容量%超〜85容量%以下、例えば85容量%であれば、上記で添加されるべきアルコールの量は、2.0質量%以下、例えば0.1〜2.0質量%、好ましくは0.1〜1.5質量%である。
【0026】
また例えば、得られた生地の水分活性が0.92〜0.94である場合、充填ガスのCO2濃度が45容量%以上であれば、上記で添加されるべきアルコールの量は、3.0質量%以下、例えば1.5〜3.0質量%、好ましくは1.5〜2.0質量%である。あるいは、充填ガスのCO2濃度が65容量%以上であれば、上記で添加されるべきアルコールの量は、2.0質量%以下、例えば1.0〜2.0質量%、好ましくは1.0〜1.5質量%である。あるいは、充填ガスのCO2濃度が65容量%超〜85容量%以下、例えば85容量%であれば、上記で添加されるべきアルコールの量は、1.5質量%以下、例えば0.1〜1.5質量%、好ましくは0.1〜1.0質量%である。
【0027】
また例えば、得られた生地の水分活性が0.90〜0.92である場合、充填ガスのCO2濃度が45容量%以上であれば、上記で添加されるべきアルコールの量は、2.0質量%以下、例えば1.0〜2.0質量%、好ましくは1.0〜1.5質量%である。あるいは、充填ガスのCO2濃度が65容量%以上であれば、上記で添加されるべきアルコールの量は、1.5質量%以下、例えば0.1〜1.5質量%、好ましくは0.1〜1.0質量%である。あるいは、充填ガスのCO2濃度が65容量%超〜85容量%以下、例えば85容量%であれば、上記で添加されるべきアルコールの量は、1.0質量%以下、例えば0.1〜1.0質量%である。
【0028】
また例えば、得られた生地の水分活性が0.96〜0.98である場合、充填ガスのCO2濃度は45容量%以上で、アルコール量は3.0質量%以下、例えば1.0〜3.0質量%、好ましくは1.0〜2.0質量%、より好ましくは1.0〜1.5質量%でよい。またその生地のpHは、pH5.5以下が好ましく、pH4.0〜5.5がより好ましい。
【0029】
上記に列挙した水分活性値、アルコール量、及びCO2濃度の範囲は全て例示であり、実際の調整のための目安である。現実にはこれら3つの値は何れも互いに関連性を持って連続的に変化し得る。
例えば、所定の水分活性値に対してCO2濃度が55容量%であれば、アルコール量は上述したCO2濃度45容量%での場合の添加量と65容量%での場合の添加量の間の値を取り得る。またCO2濃度が75容量%であれば、アルコール量は上述したCO2濃度65容量%での場合の添加量と75容量%での場合の添加量の間の値を取り得る。
また例えば、生地の水分活性値が低くなれば、必要とされるアルコール濃度及び/又はCO2濃度は低くなり得る。反対に、生地の水分活性値が高くなれば、必要とされるアルコール濃度及び/又はCO2濃度は高くなり得る。より具体的には、例えば、生地の水分活性が0.2変化した場合、CO2濃度が同じであれば、必要とされるアルコール濃度は0.5質量%程度変化し得る。他方、アルコール濃度が同じであれば、必要とされるCO2濃度は20容量%程度変化し得る。
さらに、生地の水分活性が0.96〜0.98である場合、生地のpH値は5.5以下であることが好ましい。
【0030】
本発明の非加熱生地封入体においては、チルド状態で保存される間に、生地のアルコール濃度や封入体中のガス組成が変わることがある。例えば、主に生地中の乳酸菌や酵母の作用や、包装容器のガスバリア性に依存して、CO2濃度が増加したり、O2濃度が増加したりすることがあり得る。例えば、45日間の保存後にCO2濃度は5%程度まで上昇し得る。
【0031】
本発明の非加熱生地封入体に封入された生地におけるアルコールの含有量は、該生地の調製中に一部揮発することによって、最初の添加量とは異なり得る。例えば、アルコール添加後2分間混合され容器に封入された生地中のアルコ−ル含有量は、添加量の30〜70%程度に減少し得る。生地がガス置換包装で容器に封入されたあとは、そのアルコールの含有量は通常ほとんど変化しない。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0033】
実施例1
1.スコーン生地の作製
表1の配合で材料を混合した。生地のpHは6.5とし、得られた混合物の水分活性(Aw)は砂糖と牛乳を用いて0.90、0.92、又は0.94(各±0.003の範囲内)に調整した。なお、Awはアイネクス社製AQUA LAB Series 4TEを用いて測定した。この生地にアルコールを添加して混合し、スコーン生地を得た。手順を表2に示す。
作製した生地を9.5〜10.0gずつ包装容器(材質:シリカ蒸着ペット/ONY/CPP、形状:180mm×250mmの袋状)に分注した。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
2.微生物の接種
表3記載の微生物を液体培地にて前培養し、各菌数が103cfu/gとなるように調整した微生物のミックス溶液を各分注した生地に0.1ml加え、揉みこんで生地全体へ染み込ませた。
【0037】
【表3】

【0038】
3.ガス置換包装
2とCO2をMAP Mix9001ME(PBI Dansensor社)およびバッファータンクによって調整、混合し、卓上型真空包装器V−380G(東静電気株式会社)を用いて生地を分注した容器のガス置換包装を行い、密封して非加熱生地封入体を製造した。また、その際、サンプリング検査により、CheckMate(PBI Dansensor社)を用いて、ガス置換包装後の封入体内の雰囲気がCO2濃度は目標値±2.5容量%以内、O2濃度は0〜1容量%の範囲であることを確認した。
製造された非加熱生地封入体の条件は、下記表4のとおりである。これらの非加熱生地封入体を10℃でチルド保存した。
【0039】
実施例2
実施例1と同様に、ただし生地のpH=5.0、Aw=0.96にしてスコーン生地を作製した。これに実施例1と同様に微生物を接種し、ガス置換包装して非加熱生地封入体を得た。製造された非加熱生地封入体の条件は、下記表4のとおりである。これらの非加熱生地封入体を10℃でチルド保存した。
【0040】
【表4】

【0041】
試験例1
実施例1及び2において表4の条件で製造した封入体中の非加熱生地の微生物数を、包装直後、30日保存後、及び45日保存後にそれぞれ表3に記載の微生物数を測定した(各々n=2)。
微生物数は表面塗抹平板法で測定した。具体的には次の通りで行った。試料液は生地10gに90mLの0.1%ペプトン水を加え、ストマッカーにてホモジナイズすることで調製した。その後、各種寒天培地をあらかじめ平板として固めた培地表面に、試料液0.1mLあるいは100倍、10000倍に希釈した試料液0.1mLを接種し、コンラージ棒で均等に塗抹し、培養した。培地及び培養条件としては、標準寒天培地(栄研化学)を用いた35℃、48時間の好気培養、乳酸菌数測定用にMRS寒天培地(MERCK)を用いた35℃、72時間の嫌気培養、コリネバクテリウム培養用培地(組成は表5のとおり)を用いた35℃、48時間の好気培養、及びクロラムフェニコール(100ppm)含有ポテトデキストロース培地(Becton Dickinson)を用いた25℃、5日間の好気培養を採用した。微生物数の記載は、培地で生育したコロニー数に希釈倍数を乗じて生地1gあたりの菌数とした(cfu/g)。例えば、試料液を希釈せずに0.1mLの試料液を接種した培地において、培養後に3個のコロニーが観察された場合、3.0×102cfu/gとした。上記の各培地の微生物数から、最大の微生物数となった培地の値を微生物数測定結果とした。
【0042】
【表5】

【0043】
実施例1の各生地の30日及び45日保存後における微生物数測定結果を図1及び図2に、実施例2の各生地の30日保存後における微生物数測定結果を図3に、それぞれ示す。
なお、実施例1及び2のCO2濃度85%の場合において、封入体内の雰囲気をCO2のみで置換した場合(O2濃度1%以下、残りはCO2)の、30日及び45日保存後における微生物数は、実施例1及び2のCO2濃度85%と同程度であったが、保存後の生地の新鮮味が低下し、また調理後の生地において、酸味・酸臭を有するものがあった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉と水分とを含む混合物に、該混合物の全質量に対して3.0質量%以下のアルコールを添加して調製された水分活性0.90〜0.98の生地が、O2濃度1容量%以下、CO2濃度45容量%以上を含むガスを用いて容器にガス置換包装されていることを特徴とする、チルド保存用の非加熱生地封入体。
【請求項2】
前記水分活性が0.92以上0.96未満である請求項1記載の封入体。
【請求項3】
前記CO2濃度が65容量%以上である、請求項2記載の封入体。
【請求項4】
前記アルコールの量が2.0質量%以下である、請求項3記載の封入体。
【請求項5】
前記アルコールの量が1.5質量%以下である、請求項4記載の封入体。
【請求項6】
前記CO2濃度が85容量%以下である請求項3記載の封入体。
【請求項7】
前記アルコールの量が1.5質量%以下である、請求項6記載の封入体。
【請求項8】
前記アルコールの量が1.0質量%以下である、請求項7記載の封入体。
【請求項9】
前記水分活性が0.92〜0.94である、請求項2〜8のいずれか1項記載の封入体。
【請求項10】
前記生地の水分活性が0.96〜0.98であり、且つ該生地のpHが5.5以下である請求項1記載の封入体。
【請求項11】
穀粉と水分とを含む混合物に、該混合物の全質量に対して3.0質量%以下の量のアルコールを添加して、水分活性0.90〜0.98の生地を調製する工程と;
得られた生地を、O2濃度1容量%以下、CO2濃度45容量%以上を含むガスを用いたガス置換包装により容器に封入して非加熱生地封入体を得る工程と;
得られた非加熱生地封入体をチルド状態で保存する工程と
を有することを特徴とする、非加熱生地の保存方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−235745(P2012−235745A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107346(P2011−107346)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000226998)株式会社日清製粉グループ本社 (125)
【Fターム(参考)】