説明

ツタの葉抽出物の製造方法および該方法により製造される抽出物

本発明は、活性成分としてヘデラコシドCおよびα−ヘデリンを含むツタの葉の抽出物を製造する方法に関し、また該方法によって製造される抽出物に関する。本発明の製造方法によれば、最初にα−ヘデリン富化第1抽出物が、次にヘデラコシドC富化第2抽出物が供給される。最終工程で、これら2つの抽出物が混合されて、調整されたヘデラコシドC含量および調整されたα−ヘデリン含量を有する抽出物が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ツタの葉抽出物の製造方法および該方法によって製造される抽出物に関する。
【背景技術】
【0002】
今日では、ツタの葉抽出物は、特にその抽出物が鎮痙、去たん、抗閉塞性作用を示すので、気道疾患を治療するために成功して用いられている。これらの効果は、特にトリテルペンサポニンに属する、ツタの葉抽出物の治療上、重要な成分に基づいている。
【0003】
これに関して、主要なサポニンはバイデスモシド(Biidesmoside)であるヘデラコシドC(Hederacoside C)、およびヘデラコシドCからエステル加水分解により形成されるα−ヘデリン(α−Hederin)である。検出されている別のサポニンは、ヘドラゲニン(Hederagenin)である。
【0004】
ツタの葉からは様々な方法で抽出物を得ることができるため、これら抽出物は様々な効能の度合いを示すことが多い。これは、抽出物成分の含量が、ツタの葉の天然組成のみならず、該抽出物を製造するために用いる個々の方法に依存することに起因している。
【0005】
本出願人の最近の研究により、α−ヘデリンがツタの葉抽出物中における実際の活性物質であり、気管支鎮痙に寄与していることを証明することができた。それというのもこの活性化合物α−ヘデリンは、β−アドレナリン作動性受容体と結合し、それによって誘因されるカスケードを経て平滑筋を弛緩させているからである。
【0006】
植物原料の抽出物、特に乾燥抽出物やそのような抽出物を製造するための方法が、薬学および医薬製剤の分野で何度も記載されている。
【0007】
植物原料から乾燥抽出物を製造する方法は、例えばドイツ公開特許DE10112168A1に開示されている。この公開特許公報に開示されている方法を用いて、親油性物質および親水性物質の含量を調整することができると言われている。この場合、植物原料を、異なる親油性を有する溶媒で少なくとも2回抽出して、この抽出で得られた抽出物を別々に単離する。その抽出物をそれぞれ別々に乾燥し、それから所望の割合に混合する。このようにして、親油性と親水性物質の含量を調整することができる。この方法は、ツタ(セイヨウキヅタ:Hedera helix)から乾燥抽出物を単離するのに適しているとも言われている。
【0008】
しかしながら、この方法の不利益な点は、α−ヘデリンおよび/またはヘデラコシドCの含量を具体的に調整した抽出物が開示されておらず、またそのような抽出物を供給する方法をも開示していないからである。
【0009】
また、ドイツ公開特許DE3025223A1には、ツタの葉抽出物に基づく医薬製剤およびその製造方法が開示されており、該医薬製剤は活性成分として、90%または60%ヘデラサポニンC含有抽出物またはα−ヘデリンを含んでいる。該抽出物は、アセトンおよびメタノールを用いて製造されている。ヘデラサポニンCまたはヘデラコシドCをα−ヘデリンに変換するために、およびそれによってα−ヘデリンだけを含有する抽出物を得るために、上記ドイツ公開特許出願では、90%抽出物が水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムにより加水分解されている。
【0010】
しかしながら、この公開特許明細書には、所望濃度に調整することのできる含量で存在するα−ヘデリンおよびヘデラコシドCの抽出物を製造する方法については記載されていない。
【0011】
再現性のある治療効果を確実とするためには、活性成分が定められた含量を有するツタの葉抽出物が厳密に要求される。
【0012】
これまでに使用されている抽出物についてのさらに不利益な点は、α−ヘデリンによる即効性、かつ持続性の気管支鎮痙効果を持たせるためには、2回以上投与しなければならないことにある。その理由は、α−ヘデリンの生物学的利用能が不十分であることにある。例えば、抽出物中に存在するα−ヘデリン含量が摂取開始の時点で低すぎるからである。一方、抽出物中にもともと存在するα−ヘデリンは、比較的、迅速にin vivoで吸収されるので、治療効果を達成するためには複数回投与が必要となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、上記した事項を考慮して、本発明の目的は、速やかな生物学的利用能および延長された期間にわたっての該生物学的利用能の維持を確実とする抽出物の製造方法および該抽出物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明が依拠する目的は、ヘデラコシドCおよびα−ヘデリンの調整可能な量を含むツタの葉抽出物を製造することによって達成される。ここに、該製造方法は、以下の工程:
a)α−ヘデリン富化の第1抽出物を供給し、
b)ヘデラコシドC富化の第2抽出物を供給し、そして
c)第1抽出物および第2抽出物を混合して、調整されたヘデラコシドC含量および調整されたα−ヘデリン含量を有する抽出物を得る、
を含むものである。
【0015】
本発明方法により、一方で即効性物質として利用できるα−ヘデリンおよび他方でin vivoでα−ヘデリンに変換されるヘデラコシドCを含む抽出物を得ることができる。さらに、第1抽出物はα−ヘデリンを、そして第2抽出物はヘデラコシドCを含んでおり、どちらも高濃度の形態である。
【0016】
これに関して、第1抽出物は、例えば、出発原料として例えば乾燥薬草を用いて製造す
ることができる。最初に粉砕し、発酵工程に付し、その後に例えばアルコールと水の混合物、例えば30%エタノールで予備膨潤および抽出を行う。最後に、例えば、薄膜蒸発および噴霧乾燥を実施することが可能である。所望のα−ヘデリン含量に依存して、全薬草を発酵させることができる。このようにして、この薬草出発原料に存在する全てのヘデラコシドCは、α−ヘデリンに変換される。一方、原料の薬草の一部だけを発酵させることも可能であり、残りの部分はエタノール中で予備膨潤させるためにだけ混合される。すなわち、これによりα−ヘデリンだけが非常に富化されて存在する。
【0017】
この場合、「発酵」とは、発酵媒体、例えば水を、必要に応じて発酵工程に適合した特定のパラメーター、例えば時間および温度で、元の物質に加えるとき、元の物質に存在した成分を他の物質へと分解または変換することを意味する。この新規な発酵工程は、α−ヘデリン富化抽出物を具体的に製造する可能性を広げている。
【0018】
これに関して、ツタの葉は、例えば、乾燥薬草の形態で使用することができる。医薬を製造する際に、乾燥した薬草は、乾燥していない製造されたばかりの薬草よりも、とりわけ安定性に関して取り扱いやすいという利点をしばしば有する。しかし、採れたばかりのツタの葉の使用が、本発明の抽出から除かれるものではない。
【0019】
乾燥された薬用植物類およびそれらの部分は、製薬技術分野の定義によれば、「薬草」を指す。「薬草」の形態のそのような薬用植物類の使用は、そのまま、あるいは粉砕された形態で実施される。
【0020】
第2抽出物は、乾燥薬草を例えば、裁断後、直ちに抽出剤、例えば30%エタノールと混合し、定法により抽出して製造することができる。別法として、粉砕された薬草は、エタノール抽出する前に、過熱蒸気で蒸熱することができる。本発明者等の実験によれば、このような蒸熱処理を経て抽出物中のヘデラコシドC含量を増大させることができ、あるいは初期含量に関して安定化させることができ、そしてα−ヘデリン含量を減少させることができる。このようにして、本発明方法の工程b)におけるヘデラコシドC富化第2抽出物として使用することができる抽出物が得られる。この新規な蒸熱工程は、具体的にヘデラコシドC富化抽出物を製造する可能性を示している。
【0021】
工程a)におけるα−ヘデリン富化抽出物が、少なくとも3%のα−ヘデリン含量、特に5%含量である場合は、当該方法はさらに好ましく実施される。
【0022】
さらに好ましくは、工程b)におけるヘデラコシドC富化抽出物は、少なくとも5%のヘデラコシドC含量、特に少なくとも10%のヘデラコシドC含量および2%未満のα−ヘデリン含量を有する。
【0023】
さらに好ましいのは、本発明方法において、工程c)で得られる抽出物は、約3%〜約10%のヘデラコシドC含量、特に約6.5%のヘデラコシドC含量および約1%〜約7%のα−ヘデリン含量、特に約4.0%含量のα−ヘデリンを含む。
【0024】
本発明が依拠する目的は、本発明方法によって製造される抽出物によって達成される。特に、本発明が依拠する目的は、本発明方法により、調整されたヘデラコシドCの約3%〜約10%含量、特に約6.5%含量、および約1%〜約7%含量、特に約4%含量の−ヘデリン含量を有する抽出物によってさらに成し遂げられる。
【0025】
その理由は、そのような活性成分が調製された含量を有するので、抽出物を使用すると、活性成分であるα−ヘデリンは、抽出物中に存在するα−ヘデリンにより最初に、すぐに利用可能となるという利点を有する。α−ヘデリンに加えて、抽出物中に存在するヘデラコシドCは、さらにin vivoでタイムラグをもって吸収され、漸次、α−ヘデリンに変換され、最初に存在していたα−ヘデリンが消費された後に、ヘデラコシドCから変換されたα−ヘデリンが利用可能となる。このことは、有利な方法として、抽出物の治療効果あるいは該抽出物を含む医薬が持続することを確実なものとするものである。したがって、この新規抽出物により、単回投与でも気管支鎮痙の使用に望ましいα−ヘデリン濃度を達成することができる。
【0026】
本発明者等は、自分達の実験の中で本発明方法を証明した。これに関して、本発明者等は、本発明の抽出物を用いて、α−ヘデリンおよびヘデラコシドC活性成分含量を調製し、上記した最適範囲内で一定濃度のレベルの急速な上昇および維持をさせることができた。より高含量のヘデラコシドCおよびより低含量のα−ヘデリンを含む比較例の抽出物は、比肩しうる濃度水準を達成するためには、本発明の抽出物よりも、より多く投与しなければならなかった。
【0027】
これに関連して特に好ましいのは、本発明方法により抽出物を製造することであり、該抽出物は、約6.5%のヘデラコシドCおよび約4.0%のα−ヘデリンを含むのが特に好ましい。
【0028】
本発明は、さらに、特に気道疾患の治療用医薬の製造のための本発明抽出物の使用、および本発明の抽出物を含む医薬に関する。
【0029】
ヘデラコシドCおよびα−ヘデリン成分の調製された量を含む本発明の抽出物は、医薬として使用する場合、特に有利である。その理由は、再現性ある治療効果が該抽出物により達成でき、さらに鎮痙作用を有する活性成分α−ヘデリンを迅速に供給することが可能であり、しかも長期間、安定に供給できるからである。
【0030】
したがって、本発明の医薬は、気道疾患、例えば肺炎、気管炎、気管支炎などの感染炎症性気道疾患の治療のみならず、慢性気管支炎、気管支喘息、気管支拡張症などの閉塞性肺疾患および拘束性肺疾患等の治療に、すなわち平滑筋弛緩を必要とする呼吸器系疾患の治療に用いることができる。
【0031】
該医薬は、カプセル、錠剤、被覆錠剤、座薬、顆粒、粉剤、液剤、クリーム、乳剤、エアロゾル、軟膏、オイル剤の形態を取ることができる。これに関して、経口投与の剤型が特に好ましい。該医薬は、通常の医薬製剤の製造に用いられる賦形剤を含有することができる。多くの適した物質が、例えばA.Kibbe,Handbook of Pharmaceutical Excipients(医薬賦形剤ハンドブック),3rd Ed.,2000,American Pharmaceutical Association and Pharmaceutical Press(アメリカ薬学会と医薬誌)に記載されている。
【0032】
さらなる利点は、実施例および申請した図面から明らかである。図1は、ヘデラコシドCのα−ヘデリンへの加水分解を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
上述した、あるいはこれから以下に述べる特徴は、示された特定の組み合わせのみならず、他の組み合わせで、あるいは単独で、本発明の範囲を逸脱することなく用いることができる。
【実施例】
【0034】
1.in vivo(ラット)におけるツタの葉成分の吸収特性
生物学的同等性試験(BCS)における吸収の研究において、α−ヘデリンは適度に吸収(10〜90%)されることが証明された。同様の条件下、ヘデラコシドCは、膜を透化せず、そのため、α−ヘデリンの形態でのヘデラコシドCの吸収の可能性について調べられた。この目的のために、吸収の研究がラットで実施された。
【0035】
次いで、二つの異なる抽出物の投与による、α−ヘデリンの血漿濃度に対する効果が調べられた。単回投与の場合のα−ヘデリンの血漿濃度における変化が、抽出物の複数回投与および投与後の異なる血液採取時間と比較して、α−ヘデリン吸収率として調べられた。
下記表1に示されるサポニン分布を有する二つの抽出物が、この目的の為に選択された。
【表1】

【0036】
静脈内投与のため、必要な量の抽出物を11%(m/m)エタノールに溶かし、濾過し、注射した。抽出溶液の2ml(各ケースの投与量(mg/kg/体重):25)を投与することを試みた。血液サンプルは、投与5分後に、動物から採取した。凝固防止のためEDTAを添加した全血約2mlが各サンプルに必要であった。
【0037】
抽出物のグリセロール懸濁液が、経口投与用に調製された。動物はこれらの懸濁液約2mlで経胃的に栄養補給(各ケースの投与量(mg/kg/体重):1000および166.66)された。それぞれの場合、最終的に投与後1時間および3時間後に、2mlの血液が各動物から採取された。動物は平均体重が約200gであり、血液量は約20mlであった。
【0038】
分析結果を下記表2に示す。
【表2】

【0039】
どのサンプルにおいても、ヘデラコシドCは検出されなかった。上記表2から推測されるように、低α−ヘデリン含量抽出物の複数回投与した際の測定されたα−ヘデリンの血漿濃度は、α−ヘデリン富化抽出物の比較投与におけるよりもより高い濃度である。この結果は、下記表3に示される再計算によって説明できた。
【0040】
【表3】

【0041】
全サポニン含量は、2成分のモル質量を考慮しており、α−ヘデリンに対しての値である。この場合の抽出物Aにおける全サポニン含量は、α−ヘデリンに対して9.8%であった。血液量は20mlと仮定した。
【0042】
抽出物Bに対する計算は、下記表4に示される。
【0043】
【表4】

【0044】
全サポニン含量は、二つの成分のモル質量を考慮しており、α−ヘデリンに対する値である。この場合の抽出物Bおける全サポニン含量は、α−ヘデリンに対して9.8%であった。血液量は20mlと仮定した。
【0045】
要約すると、α−ヘデリン富化抽出物の複数回投与およびα−ヘデリン低含量抽出物の複数回投与により、比肩しうるα−ヘデリン血漿濃度に達すると云うことができる。しかしながら、この二つの抽出物中のヘデラコシドC含量を考慮し、二つのサポニン全量を測定し、α−ヘデリン量として換算すると、この二つの抽出物は若かに、異なる。ヘデラコシドCのC28に位置する糖の脱離がin vivoで起こり、吸収され得るα−ヘデリンを生じることが、これらの結果に基づいて推論される。この方法、すなわちヘデラコシドCのα−ヘデリンへの変換が、図1に示される。
【0046】
ヘデラコシドCと対照的に、α−ヘデリンの鎮痙作用のin vivoでの証明およびヘデラコシドCとは対照的に、血漿中でのα−ヘデリンの回収から、血中のα−ヘデリン濃度は、多くの臨床的研究において証明された治療効果と明確に相関しているものと推論できる。
【0047】
それゆえ、治療効果に関して最適化された抽出物を使用すると、速やかに一定濃度の漿濃度がもたらされるはずであり、これはまた該抽出物の複数回投与によって維持される。抽出物Bは、そのような抽出物を代表するものであり、その投与は抽出物Aとは対照的に、僅か1時間後には、複数回投与後の血漿濃度に匹敵する血漿濃度に達する。6.5%ヘデラコシドCおよび4.0%α−ヘデリンを含む抽出物Bは、迅速な作用の発現、および治療効果の再現性に関して注目された。
【0048】
抽出物中におけるヘデラコシドCとα−ヘデリンの治療効果に最適の含量範囲は、した
がって、以下に、抽出物Bに基いて述べることとする。
ヘデラコシドC: 5〜8%
α−ヘデリン: 3〜5%
【0049】
2.最適化ツタの葉抽出物の製造
最適化ツタの葉抽出物が、ヘデラコシドCおよびα−ヘデリンに対して、適度にバッチ間で差のない含量範囲であることは注目すべきことである。これに関連して、ヘデラコシドCの具体的な含量は、50〜80mg/gであり、α−ヘデリン含量は30〜50mg/gである。これらの仕様と一致させるために、複数の抽出物を混合した。しかしながら、通常の方法で得られた抽出物は、条件付でそのような混合に適している。それというのも、関連活性成分の含量は、しばしば充分に高くないからである。
【0050】
二種のヘデラサポニンのうちの一つは顕著に高含量であるが、それぞれの他のヘデラサポニンが同時に非常に少量だけ含まれているツタの葉抽出物を得る抽出方法を、以下に記載する。
【0051】
a)α−ヘデリン富化抽出物の製造
この抽出工程でα−ヘデリンに対するヘデラコシドCの割合を調整する根拠は、抽出工程においてヘデラコシドCのC28位の糖が特異的に除去されるからである。ヘデラコシドCをα−ヘデリンに変換することは、殆ど定量的に進行するので、実際には如何なるバッチの葉も、α−ヘデリン富化抽出物を製造する出発原料として適している。
【0052】
品質試験および品質管理部門から譲り受けた後、薬草の一部(ツタの葉DAC)ミルで高度に粉砕し、砕片の大きさが最大2×2mmであることを防護篩いによって保証した。また、篩い分けられた物質は、より大きい粒子や不純物がないか視覚的に検査した。
【0053】
6部の抽出剤(30%(質量比)エタノール)の水画分を、粉砕したサンプルに対して加えた。この混合物を30℃で60分間、時々混合/攪拌しながら発酵させた。
【0054】
その後、6部の抽出剤の96%エタノール画分を加え、混合物を攪拌して均一にした。
【0055】
6時間の予備膨潤の後、溶出液を分離除去し、その後残っている薬草を、残りの6部の抽出剤により浸出した。
【0056】
55℃および150ミリバールの条件下で薄膜蒸発法により乾燥する前に、合わせた溶出液を薬草の小粒子を取り除くために、再度一度ろ過して均一化して、濃縮物を得た。これを均一化し、45〜60℃で噴霧乾燥により乾燥し、ツタの葉乾燥抽出物を得た。
【0057】
この製造方法を検討するために、以下の抽出物を製造した:すなわち、ヘデラコシドC3.91%およびα−ヘデリン0.20%を含有するツタの葉から、従来法(乾燥したサンプルを粉砕し、続いて直接30%(質量比)エタノールを加え、抽出する)により抽出物を調製する一方、新規方法により抽出物を調製した。α−ヘデリンおよびヘデラコシドCの含量に関するクロマトグラフィーの結果を、次の表5に記録する:
【0058】
【表5】

【0059】
表から明らかなように、本発明の抽出方法により、ツタの葉中に存在するヘデラコシドCをα−ヘデリンに完全に変換することができた。
【0060】
ヘデラコシドC換算のサポニンの合計量もまた同じオーダーの大きさであるから、薬草中の対応するサポニン濃度を知り、約2〜3の富化要因を考慮に入れて、抽出物中のα−ヘデリンの最終含量を推定することができる。
【0061】
したがって、薬草中に存在するヘデラコシドCの一部だけをα−ヘデリンに変換するためには、他の全てのパラメーターを一定にしたまま、薬草の所定の一部を水で発酵させる工程に付すことによってのみ可能である。60分間の発酵が終わった後、6時間の予備膨潤のために、残りの薬草およびエタノールを加える。抽出物中における最終的なα−ヘデリンの含量は、薬草中の適当なサポニン濃度を知り、約2〜3の富化要因を考慮に入れて、抽出物中のα−ヘデリンの最終含量を推定することができる。
【0062】
したがって、本発明によれば、発酵工程を導入することで、時間と資源を大量に投入することなく、乾燥したツタの葉抽出物の成分の範囲を著しく変更することができる。この効果の中でも少なからず重要なのは、α−ヘデリンの有効性に関して数多く発表されていることから、乾燥抽出物または医薬品中のα−ヘデリン含量に特異的に影響を及ぼすことによりもたらされる抽出物の有効性に対するメリットである。
【0063】
b)高含量ヘデラコシドCを有するツタの葉乾燥抽出物の製造法
α−ヘデリンに対するヘデラコシドCの割合を制御する理由は、抽出工程でヘデラコシドCのC28位に位置する糖の脱離を特異的に抑制することにある。低含量α−ヘデリンを有する薬草のバッチを選択し、使用するように注意を払うべきである。乾燥した薬草に対して、0.5%未満含量のα−ヘデリンの仕様が望ましい。
【0064】
ツタの葉の均一なサンプルについて、以下の二つのサポニン含量が分析された。
ヘデラコシドC: 6.37%
α−ヘデリン: 0.85%
【0065】
以下に示す抽出方法により、薬草を出発原料に用い、3種類の抽出がそれぞれ実施された。
【0066】
約3×3mmに粉砕された乾燥薬草3gを、数秒間、過熱蒸気で蒸熱した。このようにして処理された薬草は、18gの抽出剤(30%(質量比)エタノール)で、6時間、予備膨潤した。ミセルから真空乾燥オーブン中で水を除いた後、残存している薬草を、さらに18gの抽出剤で浸出した。このミセルを真空乾燥オーブン中で乾燥した。別法として、乾燥工程は、例えば、薄膜蒸発により、例えば55℃、150ミリバールの圧力下で行い、ついで45〜60℃で乾燥する。
【0067】
抽出温度は、約20℃〜約40℃で、特に約30℃が好ましい。抽出剤に対する薬草の割合は、ここでは例えば1:12である。
【0068】
得られた抽出物を分析して、下記の表6に詳細な結果を記録することができた。
【表6】

【0069】
この方法により製造されるツタの葉乾燥抽出物は、したがって、使用した葉に存在するα−ヘデリンを最大限含んでいた。したがって、全体的に高含量のヘデラコシドCおよび低含量のα−ヘデリンを有する貯蔵安定性のある抽出物を得た。0.5%未満のα−ヘデリン含量の葉のバッチを使用する際には、得られる抽出物は最大0.5%のα−ヘデリン含量であると推定することができる。
【0070】
c)二種類の富化抽出物の混合
2a)および2b)に記載された抽出工程により、それぞれの抽出物が二種のヘデラサポニンのうちの一種を富化された形態で含むツタの葉抽出物を製造することができる。
【0071】
最終的に、二種類の富化された抽出物は、5〜8%ヘデラコシドCと3〜5%α−ヘデリンを含む最終的な特定抽出物のための混合物を調製するために使用される。
【0072】
例:
約7.5%α−ヘデリンを含む抽出物Aの1部 +
約13.0%ヘデラコシドCおよび0.5%α−ヘデリンを含む抽出物Bの1部
→ 6.5%ヘデラコシドCおよび4.0%α−ヘデリンを含む抽出物
【0073】
当然のことであるが、この計算は二種類の富化された抽出物の含量レベルに対応してその都度、調整されなければならないが、異なる富化された抽出物を混合することにより、二種類の富化された抽出物を実施例中で述べた濃度に調整することも考えられる。
【0074】
単回投与でも、実際の活性成分(α−ヘデリン)が急速に身体に確実に利用される医薬を製剤化することが今や可能である。同時にヘデラコシドCが高含量であるということは、高いα−ヘデリン濃度が長期間維持されることを意味する。その理由はヘデラコシドCは、絶えず体の中でα−ヘデリンに変換するからである。
【0075】
このことは、当該医薬は2回以上、投与する必要がないことを意味しており、これは患者の同意を増すものである。しばしば子供におこる気道疾患は、ツタの葉抽出物の応用の一つの領域である。子供はしばしば薬を飲むことを躊躇うので、少ない投与で成功する治療法が現実に可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】ヘデラコシドCのα−ヘデリンへの加水分解を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
a)α−ヘデリン富化第1抽出物を供給し、
b)ヘデラコシドC富化第2抽出物を供給し、そして
c)第1抽出物および第2抽出物を混合して、調整されたヘデラコシドC含量および調整されたα−ヘデリン含量を有する抽出物を得る、
を含むことを特徴とする、活性成分としてヘデラコシドCおよびα−ヘデリンを含むツタの葉の抽出物の製造方法。
【請求項2】
α−ヘデリン富化抽出物が、少なくとも3%のα−ヘデリンを含むことを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
α−ヘデリン富化抽出物が、少なくとも5%のα−ヘデリンを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
ヘデラコシドC富化抽出物が、少なくとも5%のヘデラコシドCを含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
ヘデラコシドC富化抽出物が、少なくとも10%のヘデラコシドCおよび2%未満のα−ヘデリンを含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
工程c)で得られた抽出物が、調整された約3%〜約10%のヘデラコシドCおよび調整された約1.0%〜約7%のα−ヘデリンを含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
工程c)で得られた抽出物が、調整された約6.5%のヘデラコシドCおよび調整された約4.0%のα−ヘデリンを含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法により製造される抽出物。
【請求項9】
抽出物が、少なくとも約4%のヘデラコシドCおよび少なくとも約2.0%のα−ヘデリンを含むことを特徴とする、請求項8に記載の抽出物。
【請求項10】
抽出物が、少なくとも約6.5%のヘデラコシドCおよび少なくとも約4.0%のα−ヘデリンを含むことを特徴とする、請求項8または9に記載の抽出物。
【請求項11】
医薬を製造するための、請求項8〜10のいずれかに記載の抽出物の使用。
【請求項12】
医薬が気道疾患の治療のために用いられることを特徴とする、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
請求項8〜10のいずれかに記載の抽出物を含むことを特徴とする医薬。

【図1】
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【公表番号】特表2007−505847(P2007−505847A)
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526563(P2006−526563)
【出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【国際出願番号】PCT/EP2004/010092
【国際公開番号】WO2005/037298
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(505364500)エンゲルハルト アルツナイミッテル ゲーエムベーハー アンド コー ケイジー (3)
【Fターム(参考)】