説明

ツルーイング方法及びツルーイング装置

【課題】ツルアから遊離した砥粒の研磨作用を効率よく利用すると共に、砥石の回転軸の指向方向を変化させる必要がない簡単な装置により砥石の外周部を成形することが可能なツルーイング方法を提供する
【解決手段】砥石6を支持する支持部9が、X軸、Y軸及びZ軸の3軸のそれぞれに沿った方向に移動するに際し、回転軸7の軸心71は常にY軸方向を指向している。そして、円錐面に形成されたツルア1の砥面2により、砥石6の外周部8を成形するに際し、砥面2を形成する母線5上の点P1における法線と、外周部8上の点P21における法線とのそれぞれの方向が同一となるように、ツルア1と砥石6との位置関係が保持されている。即ち、点P1と点P21とが接触した接触部が、母線5に沿って移動するようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砥石のツルーイングに関し、特にはレンズ、プリズム或いは凹面反射鏡等の高精度光学素子の研削加工に用いられる砥石の形状を成形するツルーイング方法及びツルーイング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、凹面反射鏡等の高精度光学素子を、研削加工のみにより形成することが行われている。この研削加工に用いられる砥石は円盤状をなし、その外周部の断面形状は円弧状となっている場合が多い。そして、この砥石の外周部の形状を成形するために、種々形状のツルアが用いられている。
【0003】
その一つのツルアに、直交ツルアと称されるものがある。この直交ツルアは、その回転軸が、平面視において砥石の回転軸に対して直交するように配置されているものである。そして、直交ツルアの回転軸を砥石の外周部の断面形状に沿わせて移動させながら、その断面形状を所定形状に成形するものである。また、直交ツルア以外のツルアも種々開示されている。
【0004】
特許文献1には、円錐面を有する算盤球状のツルアが開示されている。そして、この公報の段落番号[0033]及び図6において、プログラムによって砥石とツルアとを所望の曲率半径で相対移動させて、砥石のエッジ部に所望の曲率形状を形成させる方法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、円盤状平面のツルアを用いて砥石の外周部を成形する技術が開示されている。砥石の外周部を成形するために、砥石の回転軸の指向方向を変化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−177946号公報
【特許文献2】特開2006−218554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術の直交ツルアの場合、その回転軸の指向する方向を変化させる必要がないので、装置は比較的簡単なものとなる。ところが、砥石の成形に際して直交ツルアから遊離した砥粒は、直交ツルアの表面に滞留し難く、直交ツルアから脱落し易い。従って、遊離砥粒による砥石の成形面に対する研磨効果は小さく、後工程としての砥石のドレッシングを省略することは難しい。
【0008】
特許文献1の方法によれば、算盤球状ツルアの鋭角な角部で砥石のエッジ部を研削するので、直交ツルアの場合と同様に遊離砥粒は脱落しやすく、その研磨効果は小さい。このため、遊離砥粒による研磨効果を得るために、ツルアの円錐面状の部分で砥石を研削して、遊離砥粒がツルア表面に滞留し易いようにすることが考えられる。ところが、この研削方法においては、砥石のエッジ部に所望の曲率形状を形成させるために、砥石の回転軸の指向方向を変化させる必要がある。従って、特許文献1の装置は、直交ツルアの装置に比べて複雑な構造とならざるを得ない。
【0009】
特許文献2に開示されている方法では、ツルア表面が垂直面であるため、遊離砥粒は、ツルア表面から容易に脱落する。このため、例えば図9に示すように、ツルア21の表面22を水平面とすれば、遊離砥粒は滞留し易くなるので、遊離砥粒の研磨効果は、特許文献1の方法に比べても大きくなると思われる。しかし、特許文献1の場合と同様に、砥石23の回転軸24の指向方向を変化させなければならないので、特許文献2に係る装置においても、構造の複雑化は避けられない。
【0010】
本発明は、このような問題に着目してなされたものであり、その目的とするところは、ツルアから遊離した砥粒の研磨作用を効率よく利用すると共に、砥石の回転軸の指向方向を変化させる必要がない簡単な装置により、砥石の外周部を成形することが可能なツルーイング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題を解決するために請求項1に記載のツルーイング方法の発明は、円錐面に形成された砥面を有し、第1軸を中心に回転可能に設置されたツルアを用いて、前記第1軸に対して直角を成す第2軸方向を指向する回転軸に回転可能に支持された砥石を成形するに際し、回転する前記砥石の外周部と、回転する前記ツルアの砥面とを接触させながら、前記砥面を形成する円錐面の複数ヶ所の母線に沿って、前記外周部と砥面とが接触する接触部を移動させて外周部を研削することを特徴とするものである。
【0012】
上記構成によれば、砥石の回転軸を第2軸方向に固定したまま、砥石を移動させるようにした。また、回転する砥石の外周部と、回転する前記ツルアの円錐面に形成された砥面とを所定の切り込み量において接触させながら、その接触部を、円錐面を形成する母線に沿って移動させるようにした。そして、この母線に沿う移動を複数ヶ所の母線に対して行うようにした。このため、遊離砥粒の研磨作用を効率的に利用すると共に、砥石の外周部を成形することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のツルーイング方法において、前記接触部を、前記円錐面の複数ヶ所の母線に沿って移動させるに際し、一ヶ所の母線に沿って往復移動させた後、その母線に隣接する隣接母線に沿って、前記接触部が移動できる位置に前記砥石を移動させ、前記往復移動と同様に前記接触部を前記隣接母線に沿って往復移動させて、これらの前記砥石の移動と前記接触部の前記円錐面の母線に沿った往復移動とを繰り返して、前記砥石の外周部の断面形状を円弧状に成形することを特徴とするものである。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のツルーイング方法において、前記接触部の前記円錐面の複数ヶ所の母線に沿う方向の前記砥石の移動は、前記ツルアの中心を含み前記第2軸に直交する平面に対して対称位置にある二ヶ所の母線に沿って、前記接触部を往復移動させるものであって、往移動として、前記対称位置の一方の母線に沿って前記接触部を上昇方向に移動させた後、前記対称位置の他方の母線に沿って前記接触部を下降方向に移動させ、次いで、復移動として、前記他方の母線に沿って前記接触部を上昇方向に移動させた後、前記一方の母線に沿って前記接触部を下降方向に移動させて、これらの往復移動を、異なる位置において対称位置にある二ヶ所の母線に対して繰り返すことにより、前記砥石の外周部の断面形状を円弧状に成形することを特徴とするものである。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載のツルーイング方法において、前記接触部の前記円錐面の複数ヶ所の母線に沿う方向の前記砥石の移動は、前記ツルアの中心を含むと共に、前記第1軸及び第2軸に平行な平面に対して対称位置にある二ヶ所の母線に沿って、前記接触部を往復移動させるものであって、往移動として、前記対称位置の一方の母線に沿って前記接触部を上昇方向に移動させた後、前記対称位置の他方の母線に沿って前記接触部を下降方向に移動させ、次いで、前記他方の母線に隣接する他方の隣接母線に沿って、前記接触部が移動できる位置に前記砥石を移動させた後、復移動として、前記他方の隣接母線に沿って前記接触部を上昇方向に移動させた後、前記一方の母線に隣接する一方の隣接母線に沿って前記接触部を下降方向に移動させて、これらの往復移動を、異なる位置において対称位置にある二ヶ所の母線に対して繰り返すことにより、前記砥石の外周部の断面形状を円弧状に成形することを特徴とするものである。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし4のうちいずれか一項に記載のツルーイング方法において、前記ツルアから遊離して前記砥面に滞留する砥粒により、前記砥石の外周部を成形すると共に研磨して、前記砥石に対するドレッシングを省くことを特徴とするものである。
【0017】
請求項6に記載のツルーイング装置の発明は、請求項1ないし5のうちいずれか一項に記載のツルーイング方法に用いられるツルーイング装置であって、頂点が上方を指向する円錐面に形成された砥面を有し、第1軸を中心に回転可能に設置されたツルアと、前記第1軸に対して直角を成す第2軸方向を指向すると共に、砥石を支持可能な回転軸とを備え、前記砥石の成形に際し、前記砥石の外周部と前記円錐面に形成された砥面とが接する接触部を前記円錐面の母線に沿って移動させて、前記外周部の断面形状を円弧状に成形するために、前記回転軸を支持する支持部が前記第1軸、第2軸及び両軸に対して直角を成す第3軸のそれぞれに沿った方向の移動をすることを特徴とするものである。
【0018】
上記構成によれば、砥面が円錐面に形成されたツルアを、その円錐面の頂点が上方を指向するように配置したので、砥石の成形に際して遊離した遊離砥粒が砥面に滞留しやすくなっている。このため、遊離砥粒による研磨効果を高めることができる。また、砥石の回転軸が常に第2軸方向を指向すると共に、回転軸を回転可能に支持する支持部を、第1軸、第2軸及び両軸に対して直角を成す第3軸のそれぞれに沿って移動可能であるようにした。このため、このツルーイングのための装置は、砥石の外周部とツルアの円錐面に形成された砥面とが接する接触部を、円錐面の母線に沿って移動させるだけで、砥石の回転軸の軸方向を変化させることなく、砥石の外周部の断面形状を円弧状に成形可能な簡単な装置とすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ツルアの円錐面に遊離砥粒を滞留させることができるので、ツルアから遊離した砥粒の研磨作用を効率よく利用すると共に、砥石の回転軸の指向方向を固定させた簡単な装置により砥石の外周部を成形することが可能なツルーイング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態のツルーイング装置を示す平面図。
【図2】図1におけるA−A矢視図。
【図3】砥石が母線に沿って移動することにより、外周部の一方の側が成形される態様を示す平面図。
【図4】同じ態様を示す側面図。
【図5】砥石が母線に沿って移動することにより、外周部の他方の側が成形される態様を示す平面図。
【図6】同じ態様を示す側面図。
【図7】第2実施形態のツルーイング方法を示す平面図。
【図8】第3実施形態のツルーイング方法を示す平面図。
【図9】従来技術のツルーイング装置を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した第1実施形態のツルーイング装置及びツルーイング方法を図1〜図6を用いて説明する。なお、図1〜図6において、第1軸、第2軸及び第3軸のそれぞれのは、Z軸、Y軸、X軸として示されている。
【0022】
図1及び図2に示すように、本実施形態のツルーイング装置において、ツルア1は軸体4に支持され、その軸体4は図示しない基盤に回転可能に支持されている。このツルア1は、砥面2が円錐面に形成され、その円錐面を形成する母線5とツルア1の軸心11との交点である頂点3が上方を指向するように配置されている。
【0023】
また、砥石6は、支持部9に回転可能に支持される回転軸7に取り付けられている。支持部9は、X軸、Y軸及びZ軸の3軸のそれぞれに沿った方向に移動自在に図示しない基体に設置されている。この支持部9の移動は、コンピューターの数値制御により制御されている。そして、支持部9が3軸のそれぞれに沿った方向に移動するに際し、回転軸7の軸心71は常にY軸方向を指向している。
【0024】
更に、ツルア1により砥石6の外周部8を成形するに際し、砥面2を形成する母線5上の点P1における法線H1と、外周部8上の点P21における法線H6とのそれぞれの方向が同一となるように、ツルア1と砥石6との位置関係が保持されている。即ち、所定の切り込み量によって、点P1と点P21とが接触した接触部が、支持部9の移動に伴って、母線5に沿って移動するようになっている。この場合、砥石6の軸心71の方向がY軸方向を指向しているので、砥石6は、母線5に沿って斜めの姿勢で移動する。なお、本実施形態の点P21は、図2に示すように、砥石6の下側の外周部8上に位置している。
【0025】
次に、図3〜図7を用いて、本実施形態のツルーイング方法を説明する。
本実施形態においては、母線5に沿った砥石6の移動は、一ヶ所の母線5に対して往復移動するようになっている。そして、その一往復の後に、砥石6は、所定の間隔で隣接する隣接母線51に沿った移動が可能となる位置に移動される。
【0026】
図3及び図4において、砥石61は、ツルア1の砥面2における母線5上の点P1に対応する外周部8上の点P21が、母線5の延長線上の下方に位置する砥石6を示す。砥石6のツルーイングに際して、ツルア1及び砥石6は回転している。本実施形態の砥石6の回転方向は、Y軸方向に見たとき、時計回りとなっている。そして、往移動として、この砥石6が母線5に沿って上昇方向へ移動し、点P1と点P21とが所定の切り込み量で接触することによって接触部P2が生じた砥石6が、砥石62として示されている。この接触部P2が母線5に沿って砥面2上を移動する間に、砥石6の外周部8が砥面2により研削される。この研削において、ツルア1から遊離した砥粒は円錐面の砥面2上に滞留しやすいので、砥石6の外周部8は、砥粒により研削と同時に研磨される。そして、母線5の延長線上の上方に移動した砥石63においては、点P1と点P21との接触状態が解かれている。
【0027】
次に、復移動として、往移動の際の切り込み量と同量の切り込み量とした上で、砥石6を同一母線5に沿って下降方向へ移動させ、接触部P2が母線5に沿って砥面2上を移動する間に、砥石6の外周部8が砥面2により再度研削される。この母線5に沿った往復移動により、点P21が存在する部分の外周部8が所定形状に成形される。この同一母線5に沿った往復移動の後、点P21に所定間隔で内側に隣接する外周部8上の図示しない点が、母線5に所定間隔で隣接する隣接母線51の延長線上に位置するように、砥石6が移動される。そして、母線5に沿った往復移動と同様に、砥石6は隣接母線51に沿って往復移動される。更に、隣接母線51の内側に位置する母線に対して順次同様の砥石6の往復移動が繰り返される。そして、砥石6の厚さ方向の中心と、Y軸に直交する平面上の母線5とが対応する位置における砥石6の往復移動によって、軸心71方向の外周部8の片側の成形工程が終了する。
【0028】
更に、図5及び図6に示すように、軸心71方向において、成形が終了した一方の側の部分とは反対側の他方の片側の外周部8の成形を行う。この場合も、同一母線5に沿った往復移動の後、点P21に所定間隔で内側に隣接する外周部8上の図示しない点が、母線5に所定間隔で隣接する隣接母線52の延長線上に位置するように、砥石6が移動される。そして、母線5に沿った往復移動と同様に、砥石6は隣接母線52に沿って往復移動される。更に、隣接母線52の内側に位置する母線に対して順次同様の砥石6の往復移動が繰り返される。そして、砥石6の厚さ方向の中心と、Y軸に直交する平面上の母線5とが対応する位置に至る直前における砥石6の往復移動によって、軸心71方向の外周部8の他方の片側の成形工程が終了する。
【0029】
このような往復移動を、軸心71に沿った方向において所定間隔で配置された外周部8上の複数の点に対応するように繰り返すことにより、砥石6の外周部8は断面形状が円弧状に成形される。また、ツルア1から遊離した砥粒の研磨作用により、外周部8のドレッシングを省略することができる。図2に示すように、母線5と軸心11との角度Kは、本実施形態では98度となっているので、砥面2は平面に近い円錐面となっている。このため、砥面2上に滞留する遊離砥粒の量は十分である。
【0030】
なお、図3〜図6においては、点P21が外周部8の端縁を除く部分に存在する態様を示した。しかし、通常、外周部8の成形は、両端縁のいずれかにおいて開始される。即ち、図7に示すように、外周部8の端縁82に位置する点P21aと母線53とが対応する位置から砥石6の往復移動が開始されたり、外周部8の端縁81に位置する点P21cと母線55とが対応する位置から砥石6の往復移動が開始されたりする。
【0031】
なお、上記実施形態では、同一母線5に対して砥石6が往復移動するようにし、その砥石6の往復移動を異なる位置の母線5に対して行うようにしたが、一つの母線5に対する砥石6の移動を上昇方向のみとし、この上昇方向の移動を異なる位置の母線5に対して行うようにしてもよい。この場合、砥石6の回転方向が上記のように時計回りであれば、ツルア1から遊離した砥粒は、円錐面の砥面2に滞留し易い。従って、砥粒の研磨作用を、より効果的に利用することができる。
【0032】
従って、上記第1実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、砥石6が、ツルア1の砥面2を円錐面に形成する母線5に沿って移動する間に、母線5上の点P1と、砥石6の外周部8上の点P21とが所定の切り込み量で接触する接触部P2において、外周部8を研削するようにした。この時、ツルア1と砥石6との位置関係が、点P1における法線H1と点P21における法線H6とが同一方向となるようにした。また、砥石6の移動が、軸心71の方向を、変化させることなく、常にY軸方向を指向した状態で行われるようにした。このため、比較的簡単な構造のツルーイング装置を用いるにも関らず、複数の母線5に対応させて砥石6を移動させることで、砥石6の外周部8を所定の形状に容易に成形するツルーイング方法を提供することができる。
【0033】
(2)上記実施形態では、砥石6の母線5に沿った移動を、同一母線5に対して上下方向の往復移動として行うようにした。そして、砥石6の往復移動の後、外周部8上の点P21に所定間隔で隣接する位置の点が、母線5に隣接する隣接母線51或いは隣接母線52の延長線上に位置するように砥石6を移動させるようにした。更に、隣接母線51或いは隣接母線52に沿って砥石6を往復移動させるようにした。そして、同様の往復移動を繰り返すようにした。このため、砥石6の外周部8の断面形状を、効率よく円弧状に形成することが可能なツルーイング方法を提供することができる。
【0034】
(3)上記実施形態では、ツルア1の砥面2を円錐面に形成し、その円錐面の頂点3が上方を指向するようにツルア1を配置した。このため、ツルア1から遊離した砥粒が砥面2に滞留し易いので、その砥粒による研磨作用により、成形後の外周部8のドレッシングを省くことが可能なツルーイング方法を提供することができる。
【0035】
(第2の実施形態)
次に、本発明を具体化した第2実施形態を、第1実施形態と異なる部分を中心に図7を用いて説明する。なお、ツルーイング装置は同一のものを用いるので、その説明を省略する。また、図7において、第2軸及び第3軸の両軸は、Y軸及びX軸として示されている。
【0036】
図7に示すように、本実施形態のツルーイング方法は、ツルア1の中心を通る軸心11(図2参照)を含みY軸に直交する平面HM1に対して対称位置にある二ヶ所の母線53及び母線55のいずれかに対応するように、砥石6の外周部8の成形を開始するものである。そして、対称位置にある二ヶ所の母線に沿った砥石6の往復移動によって、砥石6の外周部8を成形するものである。ここでは、母線53に対応する位置にある砥石6を砥石6aとし、母線55に対応する位置にある砥石6を砥石6cとして示している。平面HM1に対して左方(図7における下方)に位置する砥石6aから成形を開始する場合について説明する。
【0037】
砥石6aの一方の端縁82における点P21aは、ツルア1の砥面2を形成する円錐面の一つの母線53の延長線上に位置している。そして、所定の切り込み量で、砥石6が母線53に沿って上昇方向に移動することによって、図示しない接触部において砥石6の外周部8が研削される。そして、砥石6が母線53の上方の延長線上に移動して、砥石6と砥面2とが非接触状態となった後に、砥石6cの他方の端縁81における点P21cが、母線55の上方の延長線上に位置するように、砥石6が移動される。次に、母線53に沿って移動したときと同様の切り込み量で、砥石6が母線55に沿って下降方向に移動する間に、図示しない接触部において砥石6の外周部8が研削される。これらの上昇方向と下降方向とにおける砥石6の移動が往復移動のうちの往移動である。
【0038】
復移動としては、母線55の下方の延長線上において、砥石6cの位置を切り込み量が増える方向に調節した後、砥石6を母線55に沿って上昇方向に移動させて、砥石6の外周部8が研削される。その後、砥石6aの一方の端縁82における点P21aが母線53の上方の延長線上に位置するように、砥石6が移動される。そして、砥石6を下降方向に移動させることによって、砥石6の外周部8が研削された後、砥石6は再び往復移動の開始位置である砥石6aの状態となる。これらの全行程が、本実施形態の一往復移動である。
【0039】
更に、点P21aに隣接する図示しない点が、母線53に隣接する隣接母線53aの延長線上に位置するように、砥石6を移動させた後、砥石6は、隣接母線53a及び母線55に隣接する隣接母線55aに沿って、母線53及び母線55に沿った往復移動と同様に往復移動される。このようにして、砥石6の往復移動を繰り返した後、砥石6bの厚さ方向において外周部8上の中心に位置する点P21bが、平面HM1上の母線54に沿うように砥石6を往復移動させて、砥石6の外周部8の断面形状を円弧状とする成形が完了する。
【0040】
そして、この第2実施形態においては、第1実施形態における効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
(4)上記実施形態では、ツルア1の軸心11を含みY軸に直交する平面HM1に対して対称位置にある二ヶ所の母線に沿って、続けて砥石6の往復移動を行うことにより、砥石6の外周部8を研削するようにした。この研削は、例えば、砥石6の往移動として、一方の母線53に沿った上方移動の後、続けて他方の母線55に沿った下方移動をさせ、次に砥石6の復移動として、母線55に沿った上方移動の後、続けて母線53に沿った下方移動をさせて行われるようにした。このように、二ヶ所の母線に沿った砥石6の往復移動において、逆方向への移動方向の変更は一回で済むので、砥石6を支持する支持部9の移動制御をスムーズに行うことが可能なツルーイング方法を提供することができる。
【0041】
(第3の実施形態)
次に、本発明を具体化した第3実施形態を、第1及び第2実施形態と異なる部分を中心に図8を用いて説明する。なお、ツルーイング装置は同一のものを用いるので、その説明を省略する。また、図8において、第2軸及び第3軸の両軸は、Y軸及びX軸として示されている。
【0042】
図8に示すように、本実施形態のツルーイング方法は、ツルア1の中心を通る軸心11(図2参照)を含みX軸に直交する平面HM2に対して対称位置にある二ヶ所の母線53及び母線56のうちの母線53に対応するように、砥石6の外周部8の成形を開始するものである。そして、対称位置にある二ヶ所の母線に沿った砥石6の往復移動によって、砥石6の外周部8を成形するものである。ここでは、母線53に対応する位置にある砥石6を砥石6aとし、母線56に対応する位置にある砥石6を砥石6dとして示している。砥石6aは、平面HM2に対して右方(図8における下方)に位置する。
【0043】
砥石6aの一方の端縁82における点P21aは、ツルア1の砥面2を形成する円錐面の一つの母線53の下方の延長線上に位置している。そして、所定の切り込み量で、砥石6が母線53に沿って上昇方向に移動することによって、図示しない接触部において砥石6の外周部8が研削される。そして、砥石6が母線53の上方の延長線上に移動して、砥石6と砥面2とが非接触状態となった後に、砥石6dの端縁82における点P21dが、母線56の上方の延長線上に位置するように、砥石6が移動される。なお、端縁82における点P21cと点P21dとは、軸心71を含みZ軸に平行な面に対して対称位置にある。次に、母線53に沿って移動したときと同様の切り込み量で、砥石6が母線56に沿って下降方向に移動する間に、図示しない接触部において砥石6の外周部8が研削される。これらの上昇方向と下降方向とにおける砥石6の移動が往復移動のうちの往移動である。
【0044】
次に、砥石6dの点P21dに隣接する図示しない隣接点が、母線56に隣接する隣接母線56aの下方の延長線上に位置するように、砥石6を移動させると共に所定の切り込み量とした後、砥石6の復移動が開始される。隣接母線56aに沿って上昇方向に移動された砥石6は、前記隣接点がある端縁82の内側部分において外周部8が研削される。その後、砥石6aの端縁82の点P21aに隣接する図示しない隣接点が、隣接母線53aの上方の延長線上に位置するように、砥石6が移動される。そして、砥石6を隣接母線53aに沿って下降方向に移動させることによって、砥石6の外周部8は、前記隣接点がある端縁82の内側部分において研削される。更に、砥石6は、隣接母線53aに隣接する図示しない隣接母線に対応する位置に移動される。これらの全行程が、本実施形態の一往復移動である。
【0045】
このようにして、ツルア1の異なる母線に対して砥石6の往復移動を繰り返した後、砥石6は、砥石6bの厚さ方向において外周部8上の中心に位置する点P21bが、平面HM1上の母線54及び母線57に沿うように、往復移動される。
【0046】
更に、外周部8上の中心位置と他方の端縁81との間において、所定間隔で複数配置された外周部8上の図示しない点と、それらと対称位置にある図示しない点とが、複数の母線に対応して往復移動されるようにする。ここでいう対称位置とは、2点が軸心71を含みZ軸に平行な面に対して対称位置にあることをいう。そして、砥石6が、母線55に沿って上昇方向に移動した後、母線58に沿って下降方向に移動するか、母線58に沿って上昇方向に移動した後、母線55に沿って下降方向に移動するかして、砥石6の外周部8の研削の1サイクルが終了する。外周部8の研削は、必要に応じて複数サイクル行われる。
【0047】
なお、上記1サイクの研削においては、砥石6が砥石6aの位置から砥石6cの位置へと移動する間に、対称位置にある二ヶ所の母線に沿った往復移動が複数行われることにより、外周部8が研削される態様が示されている。しかし、砥石6bと砥石6eとの間の砥石6の移動の後、砥石6を砥石6c又は砥石6fの位置に移動させ、そこを開始点として、砥石6b又は砥石6eに向かって砥石6を移動させると共に、対称位置にある二ヶ所の母線に沿った往復移動が複数行われるようにすることもできる。
【0048】
本実施形態においては、ツルア1は図8に示すように回転方向RTが反時計方向となっている。このため、砥石6が母線53に沿って上昇する場合と、砥石6が母線56に沿って下降する場合とでは、砥石6の一方の端縁82に対するツルア1の研削方向は大きく異なる。砥石6が他の母線に沿って上昇及び下降移動する場合も同様に研削方向は異なる。特に、点P21bを母線54に沿って移動させる場合と、点P21eを母線57に沿って移動させる場合とでは、砥石6に対するツルア1の研削方向は、正反対となる。このように研削方向が変化することにより、砥石6がマトリックス型砥石である場合、砥粒の陰に結合剤が残るボンドテールと称される現象が生じ難い。従って、本実施形態による方法によれば、より好ましいツルーイングが行われる。
【0049】
そして、この第3実施形態においては、第1及び第2実施形態における効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
(5)上記実施形態では、ツルア1の中心を通る軸心11を含みX軸に直交する平面HM2に対して対称位置にある二ヶ所の母線、例えば、母線53及び母線56のそれぞれに対応するように、砥石6を移動させて砥石6の外周部8を成形するようにした。そして、この二ヶ所の母線に沿った砥石6の移動のそれぞれの間に、砥石6に対するツルア1の研削方向が、大きく異なるようになる。このため、ボンドテール現象が生じ難いので、砥石6のツルーイングをより好ましい状態で行うことができる。
【0050】
(変更例)
なお、上記実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 砥石6の回転方向をY軸方向に見て時計回りとしたが、反時計回りとすること。
・ 砥石6の外周部8の断面形状を円弧状としたが、円弧状以外の曲面とすること。
・ 第3実施形態において、ツルア1の回転方向RTを反時計回りとしたが、時計回りとすること。
【符号の説明】
【0051】
P2…接触部、HM1,HM2…平面、1…ツルア、2…砥面、3…頂点、5,53,54,55,56,57,58…母線、6,6a,6b,6c,6d,6e,6f,61,62,63…砥石、7…回転軸、8…外周部、9…支持部、51,52,53a,55a,56a…隣接母線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円錐面に形成された砥面を有し、第1軸を中心に回転可能に設置されたツルアを用いて、前記第1軸に対して直角を成す第2軸方向を指向する回転軸に回転可能に支持された砥石を成形するに際し、回転する前記砥石の外周部と、回転する前記ツルアの砥面とを接触させながら、前記砥面を形成する円錐面の複数ヶ所の母線に沿って、前記外周部と砥面とが接触する接触部を移動させて外周部を研削することを特徴とするツルーイング方法。
【請求項2】
前記接触部を、前記円錐面の複数ヶ所の母線に沿って移動させるに際し、一ヶ所の母線に沿って往復移動させた後、その母線に隣接する隣接母線に沿って、前記接触部が移動できる位置に前記砥石を移動させ、前記往復移動と同様に前記接触部を前記隣接母線に沿って往復移動させて、これらの前記砥石の移動と前記接触部の前記円錐面の母線に沿った往復移動とを繰り返して、前記砥石の外周部の断面形状を円弧状に成形することを特徴とする請求項1に記載のツルーイング方法。
【請求項3】
前記接触部の前記円錐面の複数ヶ所の母線に沿う方向の前記砥石の移動は、前記ツルアの中心を含み前記第2軸に直交する平面に対して対称位置にある二ヶ所の母線に沿って、前記接触部を往復移動させるものであって、往移動として、前記対称位置の一方の母線に沿って前記接触部を上昇方向に移動させた後、前記対称位置の他方の母線に沿って前記接触部を下降方向に移動させ、次いで、復移動として、前記他方の母線に沿って前記接触部を上昇方向に移動させた後、前記一方の母線に沿って前記接触部を下降方向に移動させて、これらの往復移動を、異なる位置において対称位置にある二ヶ所の母線に対して繰り返すことにより、前記砥石の外周部の断面形状を円弧状に成形することを特徴とする請求項1に記載のツルーイング方法。
【請求項4】
前記接触部の前記円錐面の複数ヶ所の母線に沿う方向の前記砥石の移動は、前記ツルアの中心を含むと共に、前記第1軸及び第2軸に平行な平面に対して対称位置にある二ヶ所の母線に沿って、前記接触部を往復移動させるものであって、往移動として、前記対称位置の一方の母線に沿って前記接触部を上昇方向に移動させた後、前記対称位置の他方の母線に沿って前記接触部を下降方向に移動させ、次いで、前記他方の母線に隣接する他方の隣接母線に沿って、前記接触部が移動できる位置に前記砥石を移動させた後、復移動として、前記他方の隣接母線に沿って前記接触部を上昇方向に移動させた後、前記一方の母線に隣接する一方の隣接母線に沿って前記接触部を下降方向に移動させて、これらの往復移動を、異なる位置において対称位置にある二ヶ所の母線に対して繰り返すことにより、前記砥石の外周部の断面形状を円弧状に成形することを特徴とする請求項1に記載のツルーイング方法。
【請求項5】
前記ツルアから遊離して前記砥面に滞留する砥粒により、前記砥石の外周部を成形すると共に研磨して、前記砥石に対するドレッシングを省くことを特徴とする請求項1ないし4のうちいずれか一項に記載のツルーイング方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のうちいずれか一項に記載のツルーイング方法に用いられるツルーイング装置であって、頂点が上方を指向する円錐面に形成された砥面を有し、第1軸を中心に回転可能に設置されたツルアと、前記第1軸に対して直角を成す第2軸方向を指向すると共に、砥石を支持可能な回転軸とを備え、前記砥石の成形に際し、前記砥石の外周部と前記円錐面に形成された砥面とが接する接触部を前記円錐面の母線に沿って移動させて、前記外周部の断面形状を円弧状に成形するために、前記回転軸を支持する支持部が前記第1軸、第2軸及び両軸に対して直角を成す第3軸のそれぞれに沿った方向の移動をすることを特徴とするツルーイング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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