説明

ツールシャンク押出装置

【課題】ツールシャンクの仕様等に制限されることもも無く、ツールポットからツールシャンクを押出すことを可能とする。
【解決手段】工具収納用ツールポット13からツールシャンク15を、ジグ18によって押出す。ツールポット13外周面端面寄りの部分に受入孔22が形成されている。ジグは18、回転軸線C0を有する操作ロッド31を有している。操作ロッド31の先端面に、受入孔22に回転自在に差込まれる差込軸42が操作ロッド31の回転軸線C0と同心状に設けられている。差込軸42の基部に隣接して板カム51が設けられている。ツールシャンク15のフランジ裏面から受入孔22軸線までの距離Lが、カム輪郭面最大回転半径Rmax未満およびカム輪郭面最小回転半径Rmin超過の範囲に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工具収納用ツールポットのテーパ孔から、これにはめ入れられたツールシャンクを押出すためのツールシャンク押出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械に使用されるツールシャンクには各国、各様の規格等が定められている。工作機械製造メーカは、その規格等の仕様に合わせた工具収納用ツールポットを準備し、客先に提供している。
【0003】
図4〜図6に、各種ツールシャンクが示されている。図4には、JISのBT規格ツールシャンク61が示されている。BT規格ツールシャンク61の特徴は、ツールシャンク61をツールポット62に保持させた状態で、ツールシャンク61のフランジ裏面およびツールポット端面間に隙間Gが形成されていることである。図5には、JIS規格化されていないが、「ビッグプラス」(大昭和精機株式会社規格)と称されるツールシャンク63およびそのツールポット64が示されている。このシャンク63は、テーパおよび端面の同時二面拘束を可能としたものである。上記隙間Gは存在しない。図6には、JISのHSK規格ツールシャンク65がそのツールポット66とともに示されている。HSK規格ツールシャンク65は、上記2種類のシャンクと比較して、テーパ長さを短く、テーパ角度を小さくしたものである。HSK規格ツールシャンク65においても、上記隙間Gは存在しない。上記いずれのシャンク61、63、65においても、フランジ外面には環状V溝71、72、73が形成されている。
【0004】
図4〜図6に示すツールポット62、64、66から、これに収納されたツールシャンク61、63、65を抜取るには、各種レバー81、82、83を使用し、図4では、レバー81の一端を、上記隙間Gに係合し、図5および図6では、レバー82、83の一端を、V溝72、73に係合し、梃子の原理を応用することによって行われている(特許文献1、特許文献2、特許文献3参照。)。
【0005】
ツールシャンクは、上記規格等に加えて、大小様々なサイズのものがある。工作機械製造メーカでは、その規格の仕様、サイズ等に適合する多数の種類のレバーを準備する必要がある。そのため、レバーの準備、管理等が煩雑であるという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−56547号公報
【特許文献2】特開2002−28835号公報
【特許文献3】特許第3709404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明の目的は、ツールシャンクの仕様等に制限される必要も無く、これにより、ツールシャンク抜取の段取り標準化ができ、管理等の煩雑さから解放され、ひいては、部品点数および製造コストを削減できるツールシャンク押出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明によるツールシャンク押出装置は、ツールシャンクがはめ入れられるテーパ孔を有するツールポット端面に、ツールシャンクのフランジ裏面が相対させられており、ツールポット外周面の、同端面寄りの部分に受入孔が形成されており、ツールポットのテーパ孔からツールシャンクを押出すためのジグが、回転軸線を有する操作ロッドを有しており、操作ロッドの先端面に、受入孔に回転自在に差込まれる差込軸が操作ロッドの回転軸線と同心状に設けられており、差込軸の基部に隣接して板カムが設けられており、板カムは、操作ロッドの回転軸線をカム軸としかつ外周面をツールシャンク押出用カム輪郭面としており、ツールシャンクのフランジ裏面から受入孔軸線までの距離が、カム輪郭面最大回転半径未満およびカム輪郭面最小回転半径超過の範囲に設定されているものである。
【0009】
この発明によるツールシャンク押出装置では、受入孔に差込軸を差込み、操作ロッドを回転させれば、押出力として、板カムのカム輪郭面がツールシャンクのフランジ裏面に作用し、ツールポットからツールシャンクが押出される。したがって、ツールシャンク抜取の段取り作業において、上記従来技術の項で説明したレバー、隙間GおよびV溝を利用する必要が無い。
【0010】
さらに、カム輪郭面に、ツールシャンク保護層が被覆されていると、ツールシャンクを押出す際に、カム輪郭面との接触によって、ツールシャンクを傷つける心配が無い。
【0011】
また、カム輪郭面が、操作ロッドの回転軸線に対し偏心させられた軸線をもつ円筒面に形成されていると、カム輪郭面の加工を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、ツールシャンクの仕様等に制限される必要も無く、これにより、ツールシャンク抜取の段取り標準化ができ、管理等の煩雑さから解放され、ひいては、部品点数および製造コストを削減できるツールシャンク押出装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明によるツールシャンク押出装置の側面図である。
【図2】同平面図である。
【図3】同ツールシャンク押出装置の幾何学的形状の説明図である。
【図4】従来技術によるツールシャンク押出装置の図1相当側面図である。
【図5】従来技術による他のツールシャンク押出装置の図1相当側面図である。
【図6】従来技術によるさらなる他のツールシャンク押出装置の図1相当側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明の実施の形態を図1〜図3を参照しながらつぎに説明する。
【0015】
工具収納マガジン11内を循環させられる搬送チェーン12に水平円筒状ツールポット13が取付られている。ツールポット13は、テーパ孔14を有している。テーパ孔14には、JISのHSK規格ツールシャンク15のテーパ部がはめ入れられている。ツールシャンク15の大径部に隣接してフランジ16が設けられている。フランジ16外面には環状V溝17が形成されている。テーパ孔14から、ツールシャンク15は、ジグ18によって押出される。
【0016】
ツールポット13の外面には、正対視略半円弧状座面21が平坦状に形成されている。座面21の中央部には円形状受入孔22が半径方向貫通状に形成されている。
【0017】
ジグ18は、回転軸線C0を有する操作ロッド31と、操作ロッド31の基端部に回転軸線C0と直交して一直線貫通状に固定されている一文字状ハンドル32とよりなる。
【0018】
操作ロッド31は、回転軸線C0に対し距離eだけ偏心させられた偏心軸線C1をもつ大径丸棒状ロッド本体41と、ロッド本体41の先端面に回転軸線C0と同心状に設けられかつ受入孔22に回転自在に差込可能である小径丸棒状差込軸42とよりなる。
【0019】
ロッド本体41の先端面から軸方向に所定距離を隔てたところまでの円板状に相当する部分が板カム51を形成し、板カム51相当部分にエンジニアリングプラスチック製保護リング52が被覆されている。板カム51は、操作ロッド31の回転軸線C0をカム軸とするものである。保護リング52の外周面がカム輪郭面を形成している。
【0020】
ここで、図3を参照すると、ツールシャンク15のフランジ16裏面から受入孔22軸線までの距離を、Lとし、カム輪郭面の最大回転半径をRmax、その最小回転半径をRminとすると、Rmax>L>Rminの条件を満たさなければならない。ロッド本体41の保護リング52を含めた半径を、R0とすると、Rmax=R0+eであり、Rmin=R0−eである。
【0021】
ジグ18によって、テーパ孔14からツールシャンク15を押出すに際しては、カム輪郭面の最小回転半径側をツールポット13の端面側に向けた状態で、受入孔22に差込軸42をはめ入れて、ハンドル32を、操作ロッド31の回転軸線C0回りに、時計方向・半時計方向のいずれかに回転させれば良い。そうすると、カム輪郭面の最大回転半径側がツールシャンク15のフランジ16裏面に接近して、やがて、これに当接し、さらなる操作ロッド31の回転によって、フランジ16裏面に押出力が作用し、テーパ孔14からツールシャンク15が押出される。
【0022】
ジグ18を製造する手順は、以下の通りである。ロッド本体41を構成するための長尺大径丸棒および差込軸42を構成するための短尺小径丸棒を用意する。大径丸棒の先端面に、小径丸棒と合致する丸孔を偏心状に形成する。丸孔に小径丸棒を圧入する。このようにすれば、例えば、差込軸42を旋盤等による偏心加工することによりも、容易に加工することができる。
【0023】
上記において、カム輪郭面は、円筒状のものを例示したが、これに、限定されるとこなく、例えば、楕円状のもの、さらには、所望のカムリフトを提供する変形曲面状のものであっても良い。
【0024】
以上、本発明をJISのHSK規格ツールシャンクに適用する場合について、説明したが、冒頭む説明したJISのBT規格ツールシャンク、「ビッグプラス」と称されるツールシャンクにも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
この発明によるツールシャンク押出装置は、工具収納用ツールポットのテーパ孔から、これにはめ入れられたツールシャンクを押出すことを達成するのに適している。
【符号の説明】
【0026】
13 ツールポット
15 ツールシャンク
18 ジグ
22 受入孔
31 操作ロッド
42 差込軸
51 板カム
C0 操作ロッド回転軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ツールシャンクがはめ入れられるテーパ孔を有するツールポット端面に、ツールシャンクのフランジ裏面が相対させられており、ツールポット外周面の、同端面寄りの部分に受入孔が形成されており、ツールポットのテーパ孔からツールシャンクを押出すためのジグが、回転軸線を有する操作ロッドを有しており、操作ロッドの先端面に、受入孔に回転自在に差込まれる差込軸が操作ロッドの回転軸線と同心状に設けられており、差込軸の基部に隣接して板カムが設けられており、板カムは、操作ロッドの回転軸線をカム軸としかつ外周面をツールシャンク押出用カム輪郭面としており、ツールシャンクのフランジ裏面から受入孔軸線までの距離が、カム輪郭面最大回転半径未満およびカム輪郭面最小回転半径超過の範囲に設定されているツールシャンク押出装置。
【請求項2】
カム輪郭面に、ツールシャンク保護層が被覆されている請求項1に記載のツールシャンク押出装置。
【請求項3】
カム輪郭面が、操作ロッドの回転軸線に対し偏心させられた軸線をもつ円筒面に形成されている請求項1または2に記載のツールシャンク押出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−93051(P2011−93051A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250474(P2009−250474)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ツールポット
【出願人】(000149066)オークマ株式会社 (476)
【Fターム(参考)】