説明

ティーバッグ用フィルター

【課題】乾燥状態における茶粉末の漏出を低減することが可能なティーバッグ用フィルターを提供すること。
【解決手段】フィルター繊維を含むシート状のフィルター素材と、前記フィルター繊維の相互間に形成される間隙の少なくとも一部を閉塞するように設けられ、かつ水溶性高分子化合物を含有する水溶性膜とを具備することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ティーバッグ用フィルターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ティーバッグには種々のフィルター素材が使用されている。特に、ティーバッグにおいては、搬送の際などに茶葉がこぼれ落ちるのを防ぐため、目の細かいフィルター素材が使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、極めて細かな茶微粉末を充填しても、お茶を淹れる前はフィルターバッグから外部へ茶微粉末が抜け出し難く、お茶を淹れる際には目詰まりを起こさないティーバッグ用紙フィルターを提供することを目的として、ティーバッグ用紙フィルターの坪量、厚さ、密度及びろ水度をそれぞれ所定の範囲内とすることが記載されている。
【特許文献1】特開2004−89543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されているような従来のフィルターでは、製造工程や搬送工程、あるいは保存時など、ティーバッグ及びその内容物が乾燥状態にあるときに、ティーバッグ内で砕けて細かくなった茶葉、粉茶、抹茶などの茶粉末がこぼれ落ちるのを十分に防ぐことができなかった。
【0005】
本発明は、乾燥状態における茶粉末の漏出を低減することが可能なティーバッグ用フィルターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るティーバッグ用フィルターは、フィルター繊維を含むシート状のフィルター素材と、
前記フィルター繊維の相互間に形成される間隙の少なくとも一部を閉塞するように設けられ、かつ水溶性高分子化合物を含有する水溶性膜と、
を具備することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、使用前には茶粉末の漏出を抑え、使用時には成分抽出が速やかになされるティーバッグ用フィルターが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明に係るティーバッグ用フィルターの種々の実施形態を説明する。
【0009】
本発明のティーバッグ用フィルターは、フィルター繊維を含むシート状のフィルター素材と、フィルター繊維の相互間に形成される間隙の少なくとも一部を閉塞するように設けられ、かつ水溶性高分子化合物を含有する水溶性膜とを備えている。
【0010】
フィルター素材としては、織布や不織布、あるいは紙などを挙げることができる。
【0011】
フィルター繊維には、天然繊維、合成繊維などを用いることができる。天然繊維としては、麻、ケナフなどを原料とするものを挙げることができる。合成繊維としては、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレンまたはポリエチレンの単体、またはこれらの組み合わせからなるものなどを挙げることができる。
【0012】
フィルター素材は、前述したようなフィルター繊維が織りあわされ、あるいは、絡み合わされ、全体としてシート状に成形されたものである。本発明においては、フィルター繊維の相互間の間隙の少なくとも一部を水溶性膜で塞ぐことにより、砕けて細かくなった茶葉、粉茶、抹茶などの茶粉末が、乾燥状態において間隙を通って外部へ漏れ出すのを抑えるようにしている。フィルター素材には、ノンヒートシールタイプ(クリンプタイプ)及びヒートシールタイプのいずれも用いることができる。
【0013】
フィルター繊維相互の間隙は、二次元平面視野における繊維と繊維との間隔が平均で20〜200μmの範囲とすることが好ましい。間隙(平均の繊維間隔)が20μm未満であると、小さい茶葉や粉茶、あるいは抹茶を用いても、使用時の茶成分の抽出効率が低下する恐れがある。この間隙が大きければ大きい程、茶成分の抽出は良好になる傾向があるが、200μmを超えると、水溶性膜による間隙の閉塞率が低下して、搬送時に茶粉末の漏出を抑制できなくなる恐れがある。
【0014】
本発明において、「水溶性膜」とは、60℃〜100℃の温度範囲の熱湯に対して速やかに溶解し得る薄膜をいう。水溶性膜には、60℃未満の湯あるいは水にも溶解可能なものを用いることがより好ましい。
【0015】
水溶性膜に含まれる水溶性高分子化合物は、多糖類及びゼラチンのうちの少なくとも一方であることが望ましい。
【0016】
前記多糖類としては、デンプン、プルラン、水溶性食物繊維等を挙げることができる。水溶性食物繊維としては、デキストリン(難消化性デキストリン)、ペクチン等を挙げることができる。
【0017】
中でも、前記多糖類は、デキストリン、デンプン、プルラン及びペクチンからなる群より選択される1種または2種以上からなることが望ましい。デキストリン、デンプン、プルラン及びペクチンは、粘性や安全性に特に優れるだけでなく、経済性をも兼ね備えているためである。
【0018】
また、水溶性高分子化合物として水溶性食物繊維を用いると、茶抽出液(いわゆる、お茶)に茶成分と共に、食物繊維を含有させることができるため、いわゆる健康茶として有用である。水溶性膜にさらに不溶性食物繊維を含ませることもできる。
【0019】
水溶性高分子化合物を含む水溶性膜は、例えば、以下のように作製することができる。
【0020】
まず、水溶性高分子化合物を、例えば60〜100℃の温度範囲にある水に溶解して水溶液を調製する。この水溶液をローラー等でフィルター素材に塗布し、例えば、80〜120℃の温度範囲で、0.1〜10分間熱風乾燥することにより、繊維相互の間隙の少なくとも一部に水溶性膜が形成される。また、フィルター繊維に水溶性高分子化合物を予め付着させておいてもよい。
【0021】
水溶性高分子化合物としてデキストリンを用いる場合には、水溶液中のデキストリン濃度を、9〜42質量%の範囲とすることが好ましい。デキストリン濃度が9質量%未満であると、茶粉末の漏出抑制に十分な効果を有する水溶性膜を形成できない恐れがある。一方、デキストリン濃度が42質量%を超えると、フィルター素材に対する塗工性が劣化する恐れがある。水溶液中のデキストリン濃度のさらに好ましい範囲は、15〜40質量%である。デキストリン濃度をこの範囲内にすると、漏出抑制効果と塗工性の両者を共に良好にすることができる。
【0022】
また、この他にも、前述したように調製した水溶液にフィルター素材を浸漬し、取り出した後、乾燥することにより水溶性膜を形成することもできる。
【0023】
さらには、前述したような水溶液を用いる代わりに、デンプン接着剤またはデキストリン接着剤を直接フィルター素材に塗布して乾燥することにより水溶性膜を形成することもできる。
【0024】
水溶性膜にさらに抹茶を含ませることができる。水溶性膜に抹茶を添加すると、水溶性膜の溶解により茶抽出液中に抹茶が含有され、風味を向上させることができるばかりでなく、より多くの茶成分を含む茶抽出液を飲用に供することができる。
【0025】
抹茶を含む水溶性膜は、前述した水溶液にさらに抹茶を添加して混合したものを、前述したようにフィルター素材に塗布するか、あるいは、この混合液にフィルターを浸漬し、乾燥することにより形成することができる。また、デンプン接着剤あるいはデキストリン接着剤に抹茶を添加して混合したものを前述したようにフィルター素材に適用することにより、抹茶を含む水溶性膜を形成することもできる。
【0026】
また、予め、水溶性高分子化合物を含む水溶性膜を形成し、この水溶性膜をフィルター素材表面の全面または一部に貼着させてティーバッグ用フィルターを作製することもできる。かかる水溶性膜としては、例えば、オブラートが挙げられる。
【0027】
かかるオブラートは、例えば、以下に説明するようにフィルター素材に貼着させることができる。
【0028】
湿らせたフィルター素材にオブラートを重ね、接着面を面状あるいはロール状のもので加圧すると、フィルター素材の水分がオブラートの片側の面を部分的に溶解させ、それが接着効果をもたらすため、フィルター素材とオブラートとの2者は貼着する。フィルター素材を湿らせる方法としては、霧状の水分を噴霧する方法、液中にフィルター素材をくぐらせる方法、あるいは、フィルター素材を湿ったロールに接触させる方法などが考えられる。湿らせる液は、水分単独でも良いが、エタノールを混合することにより、オブラートの形状を保持し、接着面を速やかに乾燥させる効果があるので、好ましい。2者を接着できるエタノールの混合割合は、水に対して0%から95%の範囲で可能である。本方法は従来のティーバッグ装着装置に、余分にロール状オブラートと、フィルター素材の加湿装置、それに続く乾燥装置とを付加することにより、機械化が可能である。
【0029】
次に、本発明のティーバッグ用フィルターを用いて作製されるティーバッグの一実施形態を説明する。
【0030】
かかるティーバッグは、前述したティーバッグ用フィルターを具備することを特徴とする。
【0031】
ティーバッグの作製方法は、クリンプタイプのフィルターからティーバッグを作製する際と同様にすることができる。また、フィルター素材としてヒートシール性を有するものを用いた際には、ヒートシールタイプのフィルターと同様にしてティーバッグを作製することができる。
【0032】
ティーバッグに収容される内容物としては、茶葉、粉茶、抹茶等を挙げることができる。かかる茶葉には、緑茶、ほうじ茶、烏龍茶、紅茶等を挙げることができる。
【0033】
茶葉のサイズは特に限定されない。本発明に係るティーバッグ用フィルターでは、網目から茶粉末が漏出するのを防ぐことができることから、よりサイズの小さい茶葉を使用することができる。また、フィルターの網目を大きくして茶成分の抽出効率を高くすると共に、サイズの大きな茶葉を用いることもできる。ティーバッグの中には抹茶を入れることもある。抹茶を入れても漏出しないことが本発明の特徴である。
【0034】
ティーバッグは、次のように使用することができる。
【0035】
ティーバッグを所定温度の熱湯に浸す。これにより、水溶性膜が熱湯中に溶解し、フィルター繊維間の間隙が開通し、これらの間隙(網目)から茶成分が抽出される。これにより、茶抽出液として、いわゆるお茶が得られ、これが飲用に供される。使用後のティーバッグ及び茶殻は、従来通り簡便に廃棄することができる。湯または水を用いた際にも同様に使用することができる。冷水を用いる場合には、水溶性高分子化合物としてデキストリンを用いたフィルターや、水溶性膜としてオブラートを用いたフィルターで作製したティーバッグを用いることが望ましい。
【0036】
以上説明したティーバッグ用フィルター及びティーバッグは、コーヒー、麦茶などのその他飲料用としても同様に用いることができる。また、かつお節や昆布等のだし用にも同様に用いることができる。
【0037】
以上説明したように、本発明によれば、ティーバッグ製品の製造工程や搬送工程、あるいは保存時など、乾燥状態にある茶粉末が網目から零れ出るのを低減することができる。さらに、網目が大きいフィルター素材を用いることができるため、茶成分の抽出効率を向上させることができる。
【0038】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【0039】
[実施例]
以下、本発明を実施例により説明する。
【0040】
(実施例1)
<フィルターの作製>
フィルター素材として、ヒートシールタイプポリエステルティーバッグ用不織布(製造会社名称;山中産業(株)、商品名;ティーロードアルファー)を用意した。この不織布に、水溶性高分子化合物としてデキストリン(製造会社名称;松谷化学工業(株)、商品名;パインデックス)を33.3質量%含有する水溶液をローラーで塗布し、80℃で10分間熱風乾燥させることによりティーバッグ用フィルターを作製した。
【0041】
得られたティーバッグ用フィルターの走査型電子顕微鏡写真を図1に示す。図1の(A)は、倍率50倍のSEM写真、図1の(B)は、倍率100倍のSEM写真、図1の(C)は、倍率200倍のSEM写真である。
【0042】
図1の(A)〜(C)から、不織布の繊維間にデキストリンの薄膜が形成され、間隙のほとんどが閉塞されているのが確認できた。また、図1の(C)から明らかなように、不織布の繊維上にもデキストリンは付着していた。
【0043】
さらに、得られたティーバッグ用フィルターに付着したデキストリンの量を以下に説明するように測定した。
【0044】
ティーバッグ用フィルターを面積が24cm2となるように切り取り、これを秤量した。次に、200mLの沸騰蒸留水に5分間入れ、デキストリンを溶解除去し、風乾した後、秤量した。この結果得られたデキストリン除去前の秤量値からデキストリン除去後の秤量値を引き、それをフィルター面積(0.0024m2)で割ることにより、面積あたりのデキストリン付着量(g/m2)を算出した。この結果を表1に示す。
【0045】
(実施例2〜5)
デキストリン濃度を表1に示す値とした水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてティーバッグ用フィルターを作製した。
【0046】
得られたティーバッグ用フィルターについて、実施例1と同様にしてデキストリン付着量を測定し、その結果を表1に示す。
【0047】
(比較例1)
実施例1で用いたものと同じ不織布を、比較例1のティーバッグ用フィルターとした。
【0048】
このティーバッグ用フィルターの走査型電子顕微鏡写真を図2に示す。図2の(A)は、倍率50倍のSEM写真、図2の(B)は、倍率100倍のSEM写真、図2の(C)は、倍率200倍のSEM写真である。
【0049】
図2の(A)〜(C)から明らかなように、比較例1のフィルターは、実施例1のフィルターに比較して不織布の繊維間の間隙が多かっただけでなく、一つ一つの間隙のサイズが大きかった。
【0050】
<抹茶漏出率の測定>
実施例1〜5及び比較例1のティーバッグ用フィルターについて、以下に説明するように抹茶漏出率の測定を行った。
【0051】
実施例1〜5及び比較例1のティーバッグ用フィルターを入口幅3cm、深さ8cmのマチの無い袋状に閉じ、その中に抹茶(製造会社名称;株式会社福寿園、商品名;羽衣500)を1g入れた。この袋の入口を指で挟んで抑えながら、4cm径の円柱に10回打ち付けた。10回打ち付けた後で袋の重さを測定し、試験前の初期重量との差分を求め、その差分を抹茶の初期重量(1g)に対する百分率で表し、その結果を抹茶漏出率(%)として表1に示した。
【表1】

【0052】
表1から明らかなように、実施例1〜5のティーバッグ用フィルターは、いずれも抹茶漏出率が15.4%以下と低かった。また、デキストリン濃度が15質量%以上である水溶液を用いた実施例1〜4のティーバッグ用フィルターは、デキストリン濃度がこの範囲から外れる実施例5のティーバッグ用フィルターに比較して抹茶漏出率が低かった。特に、デキストリン付着量が31.0g/m2以上である実施例1〜3のティーバッグ用フィルターは、いずれも抹茶漏出率が4%未満となり、非常に優れた抹茶漏出防止効果を示した。また、デキストリン濃度が23.1質量%以上である水溶液を用いた実施例1〜3のティーバッグ用フィルターは、いずれもデキストリン付着量が31.0〜31.2g/m2程度とほぼ一定していた。なお、デキストリン濃度が20質量%以下である水溶液を用いると、デキストリン濃度が減少するに従ってデキストリン付着量も減少するという傾向が得られた。
【0053】
これに対して、比較例1のティーバッグ用フィルターを用いた袋からは、円柱に打ち付けるごとに抹茶が噴霧状に漏れ出し、その抹茶漏出率は19.7%に至り、実施例1〜5に比較して抹茶漏出率が高かった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係るティーバッグ用フィルターは、緑茶、ほうじ茶、烏龍茶、紅茶、麦茶、コーヒー、かつお節、だし用昆布などに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】(A)は、実施例1のティーバッグ用フィルターの倍率50倍のSEM写真、(B)は、(A)と同じティーバッグ用フィルターの倍率100倍のSEM写真、(C)は、(A)と同じティーバッグ用フィルターの倍率200倍のSEM写真。
【図2】(A)は、比較例1のティーバッグ用フィルターの倍率50倍のSEM写真、(B)は、(A)と同じティーバッグ用フィルターの倍率100倍のSEM写真、(C)は、(A)と同じティーバッグ用フィルターの倍率200倍のSEM写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルター繊維を含むシート状のフィルター素材と、
前記フィルター繊維の相互間に形成される間隙の少なくとも一部を閉塞するように設けられ、かつ水溶性高分子化合物を含有する水溶性膜と、
を具備することを特徴とするティーバッグ用フィルター。
【請求項2】
前記水溶性膜が、さらに抹茶を含むことを特徴とするティーバッグ用フィルター。
【請求項3】
前記水溶性高分子化合物が、多糖類及びゼラチンのうちの少なくとも一方であることを特徴とする請求項1または2記載のティーバッグ用フィルター。
【請求項4】
前記多糖類が、デキストリン、デンプン、プルラン及びペクチンからなる群より選択される1種または2種以上からなることを特徴とする請求項3記載のティーバッグ用フィルター。
【請求項5】
前記水溶性膜が、前記フィルター素材の表面に水溶性高分子化合物を含む水溶液を塗布し、乾燥することにより得られたものであることを特徴とする請求項1ないし4のうちのいずれか1項記載のティーバッグ用フィルター。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−143258(P2006−143258A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−334645(P2004−334645)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(592074175)株式会社福寿園 (11)
【Fターム(参考)】