テストステロン−５α−レダクターゼ阻害剤
【課題】レダクターゼ阻害効果に優れ、前立腺肥大症に有効でかつ安全性に優れたテストステロン−５α−レダクターゼ阻害剤を提供することを目的とする。
【解決手段】アサイヤシの実の抽出物を含有することを特徴とするテストステロン−５α−レダクターゼ阻害剤を提供する。
【解決手段】アサイヤシの実の抽出物を含有することを特徴とするテストステロン−５α−レダクターゼ阻害剤を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
本発明は、男性型脱毛症、アクネ及び前立腺肥大症などの予防又は治療に有効で、かつ副作用のないテストステロン−５α−レダクターゼ阻害剤及びその用途に関する。
【背景技術】
【０００２】
男性型脱毛症、アクネ及び前立腺肥大症などは、男性ホルモン作用の増大がその原因の一つであることが知られている。このような疾患においては毛根、皮脂腺、前立腺等の標的器官でのテストステロン−５α−レダクターゼ活性が昂進しており、そのために、テストステロン−５α−レダクターゼが作用することにより男性ホルモン（アンドロゲン）の１つであるテストステロンから変換される５α−ジヒドロテストステロン（DHT）がアンドロゲンとして働き、このような疾患をもたらすと考えられている。
【０００３】
したがって、男性型脱毛症の防止または低減、アクネの発生または増悪の防止、ならびに前立腺肥大症の予防または改善のためには、テストステロンをジヒドロテストステロンに還元するテストステロン−５α−レダクターゼの酵素作用を阻害することが有効である。
【０００４】
特に、前立腺肥大症は、男性において加齢と共に前立腺の肥大をきたし、後部尿道、膀胱頸部を圧迫して排尿障害をきたす頻度の高い病態であり、前立腺肥大症による排尿障害の予防や改善は生活の質の向上に資するものである。
【０００５】
これまでにこれらの疾患に対する薬剤としていくつかのテストステロン−５α−レダクターゼ阻害剤が提案されている。植物由来のテストステロン−５α−レダクターゼ阻害剤としては、例えば、ノコギリヤシ（Serenoa repens）からの抽出物（特開２００４−９１３６６号公報参照）や、ポプラや紫参などからの抽出物がある（特開２０００−９５６４９号公報参照）。しかしながら、そのテストステロン−５α−レダクターゼ阻害剤としての有効性及び安全性については、必ずしも満足のいくものとはいえない。
【特許文献１】特開２００４−９１３６６号公報
【特許文献２】特開２０００−９５６４９号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００６】
そこで、本発明は、レダクターゼ阻害効果に優れ、男性型脱毛症、アクネ及び前立腺肥大症の予防及び治療に有効でかつ安全性に優れたテストステロン−５α−レダクターゼ阻害剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【０００７】
本発明は、アサイヤシ（Euterpe oleracea Mart.）の実の抽出物、より詳細には、アサイヤシの実から有機溶剤若しくは含水有機溶剤または二酸化炭素超臨界抽出により抽出される抽出物を含有することを特徴とするテストステロン−５α−レダクターゼ阻害剤を提供する。
【０００８】
また、本発明は、アサイヤシの実から有機溶剤若しくは含水有機溶剤または二酸化炭素超臨界抽出により抽出される抽出物を含有することを特徴とする前立腺肥大症の処置剤を提供する。
【０００９】
さらに、本発明は、アサイヤシの実から有機溶剤若しくは含水有機溶剤または二酸化炭素超臨界抽出により抽出される抽出物を含有することにより、テストステロン−５α−レダクターゼ阻害作用が付与されていることを特徴とする飲食物を提供する。
【発明の効果】
【００１０】
本発明によるアサイヤシの実の抽出物を含有するテストステロン−５α−レダクターゼ阻害剤は、抗前立腺肥大作用を有し、特に前立腺肥大症による排尿障害に対し有効で、かつ安全性の高い５α−レダクターゼ阻害効果を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【００１１】
アサイヤシ（Euterpe oleracea Mart.）とは、ブラジルのパラ州の川沿いに自生するヤシ科の植物である。30 m以上にまで成長する植物で、7月〜11月の間に直径1〜1.5 cmの紫〜黒色の実を多数つける。
【００１２】
アサイの実は堅い種の外側に紫色の薄い果皮を有しているが、このアサイの果皮には不飽和脂肪酸、カルシウム・鉄などのミネラル、ビタミン、アントシアニンなどが多く含まれており、果皮を擂ったものは、栄養があり活力の素であるとして、以前から原住民のインディオに好んで食されてきた。また、ブラジル北部ではこの果皮のジュース、アイスクリームが飲食店で販売されており、大変好まれている。
【００１３】
本発明では、このアサイヤシ果皮の抽出物より５α−レダクターゼ阻害活性を見出したものである。
【００１４】
本発明のアサイヤシの実の抽出物は、有機溶剤または含水有機溶剤により抽出することができる。有機溶剤による抽出では、エタノール等のアルコール、アセトンなどを用いることができるが、これらの有機溶剤に限定されるものではない。また、含水有機溶剤としては、例えば含水エタノール（エタノール分は好ましくは60％以上、より好ましくは80％以上）を用いることができるが、これに限定されるものではない。
【００１５】
また、本発明のアサイヤシの実の抽出物は、二酸化炭素超臨界抽出により抽出されるものであってもよい。二酸化炭素超臨界抽出とは、超臨界状態の二酸化炭素を溶剤として用いる分離抽出法である。ここで、超臨界状態とは、二酸化炭素の場合には臨界温度（約31.1℃）および臨界圧力（約7.38MPa）（臨界点）を超える条件において生じる、気体・液体のいずれにも属さない流体の状態である。超臨界状態にあるガスは、液体に近い溶解力と気体に近い拡散性を併せ持っているので、抽出溶媒に適している。二酸化炭素超臨界抽出は、抽出温度が常温に近いため、熱変性を起こしやすい生理活性物質を天然物から抽出するのに適している。
【００１６】
本発明では、アサイヤシの果皮の抽出物、好ましくは上述の有機溶剤または二酸化炭素超臨界抽出などによる抽出物から、５α−レダクターゼ阻害活性を見出すことができる。
【００１７】
本発明のアサイヤシの実の抽出物は、５α−レダクターゼ阻害活性を有することから、前立腺肥大症を予防又は改善するための処置剤として用いることができる。
【００１８】
本発明のアサイヤシの実の抽出物はまた、５α−レダクターゼが関与する男性型脱毛症、アクネ及び前立腺肥大症等の疾患に対し、５α−レダクターゼ阻害活性が付与されていることを特徴とする飲食物として用いることができる。ここで、本明細書における「飲食物」には、一般的な飲食物に加えて、健康食品、栄養補助食品（サプリメントを含む）、栄養機能食品、特定保健用食品などを含む。本発明の飲食物の好ましい実施形態の１つは、前立腺肥大症に関連する排尿障害を予防・改善するための飲食物である。
【００１９】
本発明のアサイヤシの実の抽出物は、経口又は非経口で用いることができ、その用途に応じて、例えば錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、坐剤、注射剤、ローション、クリーム及び石鹸などの通常使用される剤形にすることができる。投与量は、被投与者の症状の程度、年齢や体重、投与方法、投与目的（予防又は治療など）などによって変えることができ、最適な投与量を選択することができる。
【００２０】
また、本発明のアサイヤシの実の抽出物を含有するテストステロン−５α−レダクターゼ阻害剤、前立腺肥大症の処置剤および飲食物は、その用途や剤形に応じて、食品や医薬品などに通常含まれる添加剤を含むことができる。このような添加剤としては、例えば着色剤、香料、保存剤、界面活性剤、保湿剤、溶剤、賦形剤などがあるが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【００２１】
〔試験例１〕テストステロン−５α−レダクターゼ阻害活性
（１）サンプルの調製（有機溶剤による抽出）
アサイヤシの実をエタノールと共に円筒状容器に入れ、容器の中で撹拌することによりアサイ果皮を擂ったエタノール懸濁液を得た。この懸濁液を減圧濃縮してエタノールを除き、更に凍結乾燥してアサイヤシ果皮の粉末を得た。この粉末に20倍量のエタノールまたはアセトンを加えて常温で撹拌して抽出液を作製し、減圧濃縮により有機溶剤を除いて被検試料とした。被検試料は試験を行う際に99.5 %エタノールに溶解させ、テストステロン−５α−レダクターゼ阻害作用を評価するために用いた。
【００２２】
（２）サンプルの調製（水による抽出）
アサイヤシの実をエタノールと共に円筒状容器に入れ、容器の中で撹拌することによりアサイ果皮を擂ったエタノール懸濁液を得た。この懸濁液を減圧濃縮してエタノールを除き、更に凍結乾燥してアサイヤシ果皮の粉末を得た。この粉末に20倍量の水を加えて常温で撹拌して抽出液を作製し、凍結乾燥により水を除いて被検試料とした。被検試料は試験を行う際に99.5 %エタノールに溶解させ、テストステロン−５α−レダクターゼ阻害作用を評価するために用いた。
【００２３】
（３）テストステロン−５α−レダクターゼ阻害作用
テストステロン（東京化成）4.2 mgをプロピレングリコール1 mlに溶解し、その20 μlに、NADPH（オリエンタル酵母社製）を1 mg/mlになるように溶解した5 mMトリス塩酸緩衝液（pH 7.2）825 μlを加えて混合した。さらに、試料のエタノール溶液80 μl（濃度）およびS-9（ラット肝ホモジネート；オリエンタル酵母社製）75 μlを混合し、37℃で60分間インキュベートした。その後、酢酸エチル1 mlを加えて反応を停止させ、内部標準液としてメタノールで1 mg/mlに調整した４−ヒドロキシ安息香酸−ｎ−ヘキシル（東京化成）を25 μl加えて激しく撹拌した。遠心分離により酢酸エチル層を分取して留去させ、メタノール1.5 mlを加え、テストステロンを液体クロマトグラフィーにより定量した。
【００２４】
液体クロマトグラフィーの条件は、4.6×250 mmのODSカラム、カラム温度は40℃、溶離液はメタノール/水=30/70、流量は0.8 ml/minとし、テストステロンは238 nm、４−ヒドロキシ安息香酸−ｎ−ヘキシルは254 nmで検出した。
【００２５】
得られたテストステロン量より、阻害率（%）を次式から求めた。
阻害率（%）= 100×｛（コントロールのテストステロン変換率）−（試験液のテストステロン変換率）｝／（コントロールのテストステロン変換率）
【００２６】
30から3,000mg/mlの各濃度における阻害率より、酵素活性を50 %阻害するIC50を外挿法により求めた。以上の試験によりエタノール抽出物、アセトン抽出物は共に、1 mg/mlのIC50値を示した。エタノール抽出物及びアセトン抽出物は、水による抽出物（IC50値≧3 mg/ml）よりも高い阻害効果を有することが分かった。
【００２７】
〔試験例２〕前立腺肥大症に関連する排尿障害の改善
加齢による前立腺肥大症を自覚する被験者6名（50歳代４名、60歳代１名、80歳代１名）に対し、試験を行った。
【００２８】
飲用するアサイヤシ果皮のエタノール抽出物は、結晶セルロース、ショ糖脂肪酸エステルと混合し、アサイヤシ果皮の抽出物粉末を80 mg含有する250 mgの錠剤として試験に用いた。
【００２９】
錠剤を1日2錠、1ヶ月毎日飲用した場合の排尿障害の変化を調べた。排尿障害の症状の程度は、症状の客観的な定量的な評価法として国際前立腺スコア（IPSS）（表１）を用いたアンケートにより評価し、試験開始前から終了まで1週間毎に調べた。表１の国際前立腺スコアでは、7項目について各5段階に区分し、全項目の数値を足し合わせ35点を満点として判定する。7点以下が軽症（内科的治療、すなわち薬物療法を行う）、8点から19点は中等症（外科的治療を検討する）、20点から35点は重症（外科的治療が必要）とされる。
【表１】
【００３０】
被験者6名の結果を表２及び図１に示す。6名すべてにおいて症状が改善しており、アサイヤシの実の抽出物が前立腺肥大症に関連する排尿障害に有効であることがわかった。
【表２】
【００３１】
以下に、本発明のアサイヤシの実の抽出物を含有する製剤について実施例を示す。本発明のテストステロン−５α−レダクターゼ阻害剤、前立腺肥大症の処置剤および飲食物は、これらの実施例に限定されるものではない。
【００３２】
〔実施例１〕カプセル剤
アサイヤシ果皮のエタノール抽出物粉末50 mgに難消化性デキストリン200 mg、ショ糖脂肪酸エステル10 mgを加えて混合し、ハードカプセルに充填してカプセル剤とした。
【００３３】
〔実施例２〕錠剤
アサイヤシ果皮のエタノール抽出物粉末80 mgに結晶セルロース100 mg、ショ糖脂肪酸エステルを20 mg加えて混合し、打錠して200 mgの錠剤とした。
【図面の簡単な説明】
【００３４】
【図１】図１は、アサイヤシ果皮の抽出物粉末を80 mg含有する250 mgの錠剤を1日2錠、1ヶ月毎日飲用した場合の排尿障害の変化を示したグラフである。前立腺症状スコアとしては、症状の客観的な定量的な評価法である国際前立腺スコア（IPSS）（表１）を用いた。
【技術分野】
【０００１】
本発明は、男性型脱毛症、アクネ及び前立腺肥大症などの予防又は治療に有効で、かつ副作用のないテストステロン−５α−レダクターゼ阻害剤及びその用途に関する。
【背景技術】
【０００２】
男性型脱毛症、アクネ及び前立腺肥大症などは、男性ホルモン作用の増大がその原因の一つであることが知られている。このような疾患においては毛根、皮脂腺、前立腺等の標的器官でのテストステロン−５α−レダクターゼ活性が昂進しており、そのために、テストステロン−５α−レダクターゼが作用することにより男性ホルモン（アンドロゲン）の１つであるテストステロンから変換される５α−ジヒドロテストステロン（DHT）がアンドロゲンとして働き、このような疾患をもたらすと考えられている。
【０００３】
したがって、男性型脱毛症の防止または低減、アクネの発生または増悪の防止、ならびに前立腺肥大症の予防または改善のためには、テストステロンをジヒドロテストステロンに還元するテストステロン−５α−レダクターゼの酵素作用を阻害することが有効である。
【０００４】
特に、前立腺肥大症は、男性において加齢と共に前立腺の肥大をきたし、後部尿道、膀胱頸部を圧迫して排尿障害をきたす頻度の高い病態であり、前立腺肥大症による排尿障害の予防や改善は生活の質の向上に資するものである。
【０００５】
これまでにこれらの疾患に対する薬剤としていくつかのテストステロン−５α−レダクターゼ阻害剤が提案されている。植物由来のテストステロン−５α−レダクターゼ阻害剤としては、例えば、ノコギリヤシ（Serenoa repens）からの抽出物（特開２００４−９１３６６号公報参照）や、ポプラや紫参などからの抽出物がある（特開２０００−９５６４９号公報参照）。しかしながら、そのテストステロン−５α−レダクターゼ阻害剤としての有効性及び安全性については、必ずしも満足のいくものとはいえない。
【特許文献１】特開２００４−９１３６６号公報
【特許文献２】特開２０００−９５６４９号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００６】
そこで、本発明は、レダクターゼ阻害効果に優れ、男性型脱毛症、アクネ及び前立腺肥大症の予防及び治療に有効でかつ安全性に優れたテストステロン−５α−レダクターゼ阻害剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【０００７】
本発明は、アサイヤシ（Euterpe oleracea Mart.）の実の抽出物、より詳細には、アサイヤシの実から有機溶剤若しくは含水有機溶剤または二酸化炭素超臨界抽出により抽出される抽出物を含有することを特徴とするテストステロン−５α−レダクターゼ阻害剤を提供する。
【０００８】
また、本発明は、アサイヤシの実から有機溶剤若しくは含水有機溶剤または二酸化炭素超臨界抽出により抽出される抽出物を含有することを特徴とする前立腺肥大症の処置剤を提供する。
【０００９】
さらに、本発明は、アサイヤシの実から有機溶剤若しくは含水有機溶剤または二酸化炭素超臨界抽出により抽出される抽出物を含有することにより、テストステロン−５α−レダクターゼ阻害作用が付与されていることを特徴とする飲食物を提供する。
【発明の効果】
【００１０】
本発明によるアサイヤシの実の抽出物を含有するテストステロン−５α−レダクターゼ阻害剤は、抗前立腺肥大作用を有し、特に前立腺肥大症による排尿障害に対し有効で、かつ安全性の高い５α−レダクターゼ阻害効果を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【００１１】
アサイヤシ（Euterpe oleracea Mart.）とは、ブラジルのパラ州の川沿いに自生するヤシ科の植物である。30 m以上にまで成長する植物で、7月〜11月の間に直径1〜1.5 cmの紫〜黒色の実を多数つける。
【００１２】
アサイの実は堅い種の外側に紫色の薄い果皮を有しているが、このアサイの果皮には不飽和脂肪酸、カルシウム・鉄などのミネラル、ビタミン、アントシアニンなどが多く含まれており、果皮を擂ったものは、栄養があり活力の素であるとして、以前から原住民のインディオに好んで食されてきた。また、ブラジル北部ではこの果皮のジュース、アイスクリームが飲食店で販売されており、大変好まれている。
【００１３】
本発明では、このアサイヤシ果皮の抽出物より５α−レダクターゼ阻害活性を見出したものである。
【００１４】
本発明のアサイヤシの実の抽出物は、有機溶剤または含水有機溶剤により抽出することができる。有機溶剤による抽出では、エタノール等のアルコール、アセトンなどを用いることができるが、これらの有機溶剤に限定されるものではない。また、含水有機溶剤としては、例えば含水エタノール（エタノール分は好ましくは60％以上、より好ましくは80％以上）を用いることができるが、これに限定されるものではない。
【００１５】
また、本発明のアサイヤシの実の抽出物は、二酸化炭素超臨界抽出により抽出されるものであってもよい。二酸化炭素超臨界抽出とは、超臨界状態の二酸化炭素を溶剤として用いる分離抽出法である。ここで、超臨界状態とは、二酸化炭素の場合には臨界温度（約31.1℃）および臨界圧力（約7.38MPa）（臨界点）を超える条件において生じる、気体・液体のいずれにも属さない流体の状態である。超臨界状態にあるガスは、液体に近い溶解力と気体に近い拡散性を併せ持っているので、抽出溶媒に適している。二酸化炭素超臨界抽出は、抽出温度が常温に近いため、熱変性を起こしやすい生理活性物質を天然物から抽出するのに適している。
【００１６】
本発明では、アサイヤシの果皮の抽出物、好ましくは上述の有機溶剤または二酸化炭素超臨界抽出などによる抽出物から、５α−レダクターゼ阻害活性を見出すことができる。
【００１７】
本発明のアサイヤシの実の抽出物は、５α−レダクターゼ阻害活性を有することから、前立腺肥大症を予防又は改善するための処置剤として用いることができる。
【００１８】
本発明のアサイヤシの実の抽出物はまた、５α−レダクターゼが関与する男性型脱毛症、アクネ及び前立腺肥大症等の疾患に対し、５α−レダクターゼ阻害活性が付与されていることを特徴とする飲食物として用いることができる。ここで、本明細書における「飲食物」には、一般的な飲食物に加えて、健康食品、栄養補助食品（サプリメントを含む）、栄養機能食品、特定保健用食品などを含む。本発明の飲食物の好ましい実施形態の１つは、前立腺肥大症に関連する排尿障害を予防・改善するための飲食物である。
【００１９】
本発明のアサイヤシの実の抽出物は、経口又は非経口で用いることができ、その用途に応じて、例えば錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、坐剤、注射剤、ローション、クリーム及び石鹸などの通常使用される剤形にすることができる。投与量は、被投与者の症状の程度、年齢や体重、投与方法、投与目的（予防又は治療など）などによって変えることができ、最適な投与量を選択することができる。
【００２０】
また、本発明のアサイヤシの実の抽出物を含有するテストステロン−５α−レダクターゼ阻害剤、前立腺肥大症の処置剤および飲食物は、その用途や剤形に応じて、食品や医薬品などに通常含まれる添加剤を含むことができる。このような添加剤としては、例えば着色剤、香料、保存剤、界面活性剤、保湿剤、溶剤、賦形剤などがあるが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【００２１】
〔試験例１〕テストステロン−５α−レダクターゼ阻害活性
（１）サンプルの調製（有機溶剤による抽出）
アサイヤシの実をエタノールと共に円筒状容器に入れ、容器の中で撹拌することによりアサイ果皮を擂ったエタノール懸濁液を得た。この懸濁液を減圧濃縮してエタノールを除き、更に凍結乾燥してアサイヤシ果皮の粉末を得た。この粉末に20倍量のエタノールまたはアセトンを加えて常温で撹拌して抽出液を作製し、減圧濃縮により有機溶剤を除いて被検試料とした。被検試料は試験を行う際に99.5 %エタノールに溶解させ、テストステロン−５α−レダクターゼ阻害作用を評価するために用いた。
【００２２】
（２）サンプルの調製（水による抽出）
アサイヤシの実をエタノールと共に円筒状容器に入れ、容器の中で撹拌することによりアサイ果皮を擂ったエタノール懸濁液を得た。この懸濁液を減圧濃縮してエタノールを除き、更に凍結乾燥してアサイヤシ果皮の粉末を得た。この粉末に20倍量の水を加えて常温で撹拌して抽出液を作製し、凍結乾燥により水を除いて被検試料とした。被検試料は試験を行う際に99.5 %エタノールに溶解させ、テストステロン−５α−レダクターゼ阻害作用を評価するために用いた。
【００２３】
（３）テストステロン−５α−レダクターゼ阻害作用
テストステロン（東京化成）4.2 mgをプロピレングリコール1 mlに溶解し、その20 μlに、NADPH（オリエンタル酵母社製）を1 mg/mlになるように溶解した5 mMトリス塩酸緩衝液（pH 7.2）825 μlを加えて混合した。さらに、試料のエタノール溶液80 μl（濃度）およびS-9（ラット肝ホモジネート；オリエンタル酵母社製）75 μlを混合し、37℃で60分間インキュベートした。その後、酢酸エチル1 mlを加えて反応を停止させ、内部標準液としてメタノールで1 mg/mlに調整した４−ヒドロキシ安息香酸−ｎ−ヘキシル（東京化成）を25 μl加えて激しく撹拌した。遠心分離により酢酸エチル層を分取して留去させ、メタノール1.5 mlを加え、テストステロンを液体クロマトグラフィーにより定量した。
【００２４】
液体クロマトグラフィーの条件は、4.6×250 mmのODSカラム、カラム温度は40℃、溶離液はメタノール/水=30/70、流量は0.8 ml/minとし、テストステロンは238 nm、４−ヒドロキシ安息香酸−ｎ−ヘキシルは254 nmで検出した。
【００２５】
得られたテストステロン量より、阻害率（%）を次式から求めた。
阻害率（%）= 100×｛（コントロールのテストステロン変換率）−（試験液のテストステロン変換率）｝／（コントロールのテストステロン変換率）
【００２６】
30から3,000mg/mlの各濃度における阻害率より、酵素活性を50 %阻害するIC50を外挿法により求めた。以上の試験によりエタノール抽出物、アセトン抽出物は共に、1 mg/mlのIC50値を示した。エタノール抽出物及びアセトン抽出物は、水による抽出物（IC50値≧3 mg/ml）よりも高い阻害効果を有することが分かった。
【００２７】
〔試験例２〕前立腺肥大症に関連する排尿障害の改善
加齢による前立腺肥大症を自覚する被験者6名（50歳代４名、60歳代１名、80歳代１名）に対し、試験を行った。
【００２８】
飲用するアサイヤシ果皮のエタノール抽出物は、結晶セルロース、ショ糖脂肪酸エステルと混合し、アサイヤシ果皮の抽出物粉末を80 mg含有する250 mgの錠剤として試験に用いた。
【００２９】
錠剤を1日2錠、1ヶ月毎日飲用した場合の排尿障害の変化を調べた。排尿障害の症状の程度は、症状の客観的な定量的な評価法として国際前立腺スコア（IPSS）（表１）を用いたアンケートにより評価し、試験開始前から終了まで1週間毎に調べた。表１の国際前立腺スコアでは、7項目について各5段階に区分し、全項目の数値を足し合わせ35点を満点として判定する。7点以下が軽症（内科的治療、すなわち薬物療法を行う）、8点から19点は中等症（外科的治療を検討する）、20点から35点は重症（外科的治療が必要）とされる。
【表１】
【００３０】
被験者6名の結果を表２及び図１に示す。6名すべてにおいて症状が改善しており、アサイヤシの実の抽出物が前立腺肥大症に関連する排尿障害に有効であることがわかった。
【表２】
【００３１】
以下に、本発明のアサイヤシの実の抽出物を含有する製剤について実施例を示す。本発明のテストステロン−５α−レダクターゼ阻害剤、前立腺肥大症の処置剤および飲食物は、これらの実施例に限定されるものではない。
【００３２】
〔実施例１〕カプセル剤
アサイヤシ果皮のエタノール抽出物粉末50 mgに難消化性デキストリン200 mg、ショ糖脂肪酸エステル10 mgを加えて混合し、ハードカプセルに充填してカプセル剤とした。
【００３３】
〔実施例２〕錠剤
アサイヤシ果皮のエタノール抽出物粉末80 mgに結晶セルロース100 mg、ショ糖脂肪酸エステルを20 mg加えて混合し、打錠して200 mgの錠剤とした。
【図面の簡単な説明】
【００３４】
【図１】図１は、アサイヤシ果皮の抽出物粉末を80 mg含有する250 mgの錠剤を1日2錠、1ヶ月毎日飲用した場合の排尿障害の変化を示したグラフである。前立腺症状スコアとしては、症状の客観的な定量的な評価法である国際前立腺スコア（IPSS）（表１）を用いた。
【特許請求の範囲】
【請求項１】
アサイヤシ（Euterpe oleracea Mart.）の実から有機溶剤若しくは含水有機溶剤または二酸化炭素超臨界抽出により抽出される抽出物を含有することを特徴とするテストステロン−５α−レダクターゼ阻害剤。
【請求項２】
請求項（１）記載の抽出物を含有することを特徴とする前立腺肥大症の処置剤。
【請求項３】
請求項（１）記載の抽出物を含有することを特徴とする飲食物。
【請求項１】
アサイヤシ（Euterpe oleracea Mart.）の実から有機溶剤若しくは含水有機溶剤または二酸化炭素超臨界抽出により抽出される抽出物を含有することを特徴とするテストステロン−５α−レダクターゼ阻害剤。
【請求項２】
請求項（１）記載の抽出物を含有することを特徴とする前立腺肥大症の処置剤。
【請求項３】
請求項（１）記載の抽出物を含有することを特徴とする飲食物。
【図１】
【公開番号】特開２００６−１８２７０１（Ｐ２００６−１８２７０１Ａ）
【公開日】平成１８年７月１３日（２００６．７．１３）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２００４−３７７９８５（Ｐ２００４−３７７９８５）
【出願日】平成１６年１２月２７日（２００４．１２．２７）
【出願人】（５９１２４５５４３）東京理化器械株式会社 (36)
【Ｆターム（参考）】
【公開日】平成１８年７月１３日（２００６．７．１３）
【国際特許分類】
【出願日】平成１６年１２月２７日（２００４．１２．２７）
【出願人】（５９１２４５５４３）東京理化器械株式会社 (36)
【Ｆターム（参考）】
[ Back to top ]