説明

テストベンチ設備

【課題】 テストベンチ設備を提供する。
【解決手段】 テストベンチ設備は、試験品1に連結された、試験品1を駆動および/または負荷するための少なくとも1個の電気機械4に連結され、電気機械4または各々の電気機械4用の制御装置6を備えている。パワートレインシミュレーションと車両シミュレーションを、実際の車両特有のエンジンの燃焼特性および非定置特性と結びつけることができるように、マルチマスフライホイールのための少なくとも1個のモデル7が制御装置6内に実装され、かつこのモデル7から、電気機械4または各々の電気機械4に対する制御要求の少なくとも一部が求められ、かつこのモデル7が少なくともマルチマスフライホイールの一次側と二次側のデュアルマスと、弓形ばねまたは各々の弓形ばねのための代替モデルとを含み、マルチマスフライホイールのためのモデルを統合的な時間ステップ方法によって評価するアルゴリズムが制御装置6に実装されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験品を備え、この試験品がそれを駆動および/または負荷するための少なくとも1個の電気機械に連結され、さらに試験品を駆動および/または負荷するための電気機械または各々の電気機械用の制御装置を備えるテストベンチ設備に関する。
【背景技術】
【0002】
上昇する燃料価格と、エミッションとCOとに関する法律的な規定とは、快適性に関する顧客の強い期待と組合わさって、きわめて革新的なパワートレインを備えた低コストの車両に対する需要を絶えず増やしている。この理由から、車両メーカーはきわめて複雑なパワートレイン解決策を迅速かつ的確に開発することに挑戦している。この挑戦に対処するために、多様な戦略が開発されている。この場合、「Road−to−Lab−Math」戦略方法に基づく開発プロセスの「Front Loading」が中心の戦略として浮かび上がってきた。この場合、以前は高価なプロトタイプ環境でのみ処理が可能だった開発業務は、例えば非特許文献1、非特許文献2または非特許文献3に記載されているように、プロセスの初期段階に移行される。プロトタイプ環境はシミュレーション環境によって置き換えられる。しかし、この戦略は、開発者に、車両の全体システム特性と、環境と車両の相互作用を考慮することができる全般的な開発環境が供されることを前提とする。
【0003】
多くの開発において、重要な点は、テストベンチ、特にエンジンテストベンチにおけるマルチマスフライホイール(そのほとんどはデュアルマスフライホイール(ZMS)である)の特性の表示である。ハイブリッド駆動システムの開発の途中でも、マルチマスフライホイール、特にデュアルマスフライホイールが、すべてのパワートレインの中心要素となる。なぜなら、このフライホイールが適切な機能性と共に、内燃機関およびパワートレインの良好な切り離しを可能にするからである。現状では、マルチマスフライホイールの実際の特性はテストベンチ上の実際的なプロトタイプによってのみ示すことが可能である。そのため、デュアルマスフライホイールの調達性に頼らざるを得なかった。その例は例えば、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6または非特許文献7に記載されている。
【0004】
しかしながら、電化された将来のパワートレインの場合には、次のような、モジュールに対する切り離しのための要求が高まる。一方ではトルク変動が高まり、他方では内燃機関の起動時の励起周波数(Anregungsfrequenz)が低下する。さらに、ハイブリッドシステムは停車中および走行運転中に、内燃機関の迅速な起動および停止を可能にし、かつ必要とする。その際当然、運転者にとってパワートレインや車両のあからさまなリアクションが生じないようにすべきである。さらに、特に運転者の要求によってスタートが開始されるときに、スタート時間をできるだけ短くすべきである。さらに、スタート過程の数が大幅に増えた場合や構造体と排ガス系のウォーミングアップ特性が変更された場合に、すべてのエミッション規定を守るべきである。そして、「考え直し(Chang of Mind)」の筋書きの対処、例えば停車過程中の内燃機関の再スタートが要求される。デュアルマスフライホイールを備えた現状の解決策の場合、この再スタートは破壊につながる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Gschweitl K.,Ellinger.R.,Loibner E.:「ハイブリッド開発プロセスにおける工具と方法(Werkzeuge und Methoden im Hybrid Entwicklungsprozess)」,19.「エンジンと環境(Motor und Umwelt)」−会議,Graz 2007
【非特許文献2】Schyr C.,Gschweitl K.:「ハイブリッドパワートレインの方法的な重要性確認(Methodische Validierung von hybriden Antriebstraengen)」,2.開発方法論のための国際シンポジウム,Darmstadt,2007
【非特許文献3】Beidl C.,Rainer G.,Schoeggl P.,Martini E.,Dener D.:「革新的なシミュレーションおよび試験工具連鎖による未来の可能化パワートレイン解決策(Enabling Future Powertrain Solutions by Innovative Simulation & Testing Toolchains)」.32nd FISITA World Automaotive Congress,Munich,2008
【非特許文献4】Walter A.,Kiencke U.,Jones S.,Winkler T.:「仮想センサとしてのマルチマスフライホイール(Das Mehrmassenschwungrad als virtueller Sensor).MTZ06/2007 Jahrgang 68
【非特許文献5】Cavina N.,Serra G.:「エンジン制御導入のためのデュアルマスフライホイールの分析(Analysis of a Dual Mass Flywheel System for Engine Control Applications)」.SAE 2004−01−3016
【非特許文献6】A.Walter,U.Kiencke,S.Jones and T.Winkler,:「デュアルマスフライホイールを備えた車両のための、低調波振動補正を統合したジャーク防止およびアイドリング速度制御(Anti−jerk & idle speed control with integrated sub−harmonic vibration compensation for vehicles with dual mass flywheels)」,SAE,2008
【非特許文献7】A.Walter,M.Murt,U.Kiencke,S.Jones and T.Winkler:「可変燃料噴射制御によるエンジンアイドリング中の低調波振動の補正(Compensation of sub−harmonic vibrations during engine idle by variable fuel injection control)」,accepted for 17th IFAC World Congress,Seoul,South Korea,2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の課題は、明確になった上記の欠点を回避しつつ、パワートレインシミュレーションと車両シミュレーションを、エンジンの実際の車両特有の燃焼特性および非定置特性と結びつけることができるテストベンチ設備、特に内燃機関および/または車両パワートレインのためのテストベンチを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決するために、冒頭に述べた本発明のテストベンチ設備は、試験品に接続可能な構成要素のための少なくとも1個のモデルが制御装置内に実装され、このモデルから、電気機械または各々の電気機械に対する制御要求の少なくとも一部が求められることを特徴とする。
【0008】
本発明の第1の有利な実施形態では、マルチマスフライホイールのための少なくとも1個のモデルが制御装置内に実装され、このモデルが少なくともマルチマスフライホイールの一次側と二次側のデュアルマスと、弓形ばねまたは各々の弓形ばねのための代替モデルとを含み、マルチマスフライホイールのためのモデルを統合的な時間ステップ方法によって評価するアルゴリズムが制御装置に実装されることが提供される。この特徴によって、マルチマスフライホイールの特性をテストベンチでリアルタイムにシミュレートすることができる。さらに、大きな利点は、プロトタイプの提供を必要とせずに、マルチマスフライホイールのいろいろな特性を迅速かつ簡単に考慮することができることにある。
【0009】
有利なことに、アルゴリズムが一定のステップ幅を有する統合的な時間ステップ方法(Zeitschrittverfahren)によって、マルチマスフライホイールのためのモデルを評価する。
【0010】
本発明の有利な実施形態では、制御装置にアルゴリズムが実装され、このアルゴリズムが各々の演算ステップにおいて、個々のばね要素および弓形ばね全体のばね力およびばね摩擦を評価し、加えて、個々のばね要素の慣性力から合力および合成モーメントが評価され、かつ合計の合力または合計の合成モーメントとして一次側と二次側で求められることが提供される。
【0011】
有利なことに、マルチマスフライホイールのためのモデルが弓形ばねの半径方向強度のパラメータ表示を含み得る。
【0012】
本発明のさらなる変形では、マルチマスフライホイールのためのモデルが接触摩擦特性のパラメータ表示を含む。接触摩擦力のパラメータ表示の一例は、垂直力と摩擦係数による(F_reib=F_normal × μ_reib)。類似の問題を例えばヘルツの接触を介して非パラメータ的に解決することができる。
【0013】
本発明のさらなる他の実施形態では、マルチマスフライホイールのためのモデルが可変のフリーホイールのパラメータ表示を含むことを提供し得る。
【0014】
さらに有利なことに、本発明の他の変形では、マルチマスフライホイールのためのモデルが付着と滑りの間の状態切換えを含む。例えば付着と滑りの間のこの状態切換えは好ましくは、システム内の自由度の損失または獲得によって行われる。
【0015】
シミュレーションをさらに改善するために、マルチマスフライホイールのためのモデルが一次マスと二次マスにおける弓形ばねのリミットストップ(Endanschlaegen)の接触機構のためのモデルを含むことが提供され得る。統合的な時間ステップ方法と、リアルタイム導入に起因する、方程式解の一定の時間ステップ幅とによって、弓形ばねの最大許容強度が生じる。弓形ばねの「普通の」強度(約3〜20Nm/deg)は、この限界を大幅に下回る。弓形ばねが最大変形時に塊状(Block)になると、強度がはるかに高い値(>1500Nm/deg)に達する。リミットストップでのこの強度は、一次側または二次側の小さなマスによってはもはやリアルタイムにシミュレーション表示することができない。従って、この強度は考察ステップ幅にとって終わりのないものとして見なされるので、上記のシステムはもはや力を励起する加速システムではない。リミットストップの場合、衝突の法則も当てはまる。すなわち、リミットストップにおける速いシステムと遅いシステムの間でエネルギー平衡が生じる。従って、衝突の作用を最適かつ正確にシミュレートすることができる。
【0016】
本発明の他の選択的な実施では、試験品のスタート装置のための少なくとも1個のモデルが制御装置に実装されている。それによって、複雑な交換作業なしにおよびテストベンチ設備の構成要素または検査すべき構成要素の損傷の危険なしに、いろいろなスタータ特性を試験することができる。
【0017】
次の説明において、添付図面に関連して実施形態を参照して本発明を詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】テストベンチ設備を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図はテストベンチ設備を概略的に示す。このテストベンチ設備は例えば、クランク軸によって象徴的に示した、試験品1としてのオットーエンジンまたはディーゼルエンジンのような内燃機関のためのテストベンチである。この試験品1は、トルク測定フランジ3を備えることができる軸2を介して、試験品1を駆動および/または負荷するための電気機械4に連結されている。本発明は複数の電気機械4を備えたテストベンチ設備、例えば車両パワートレインのためのテストベンチにも適用可能である。上位のテストベンチ自動化システムの一部であってもよい制御および評価ユニット5は、電気機械4または各々の電気機械4のための少なくとも1個の制御装置6を含む。
【0020】
試験品1が実際的に構成されているのに対し、それに接続可能な構成要素、例えば車両のパワートレインはシミュレーションによって置き換え可能である。そのために、試験品1に接続可能であるこのような構成要素のための少なくとも1個のモデル7が、制御装置6に実装され、このモデル7から、電気機械4に対する制御要求が求められる。電気機械4はしばしば、さらなるシミュレーションされた構成要素なしに、回転数またはトルクを定常的または過度的に制御する。すなわち、試験品1のための車両シミュレーションは働いていない。
【0021】
本発明では、試験品1に接続可能なさらなる構成要素のための少なくとも1個のモデル7が制御装置6に実装されている。この構成要素はこれまでは試験品1の構成部品として実際に設けられていた。これは例えばマルチマスフライホイールまたは試験品1のためのスタート装置であり得る。本発明では、これらの構成要素はシミュレーションの仮想現実によって置き換えられる。
【0022】
モデル7はマルチマスフライホイールのためにパラメータとして少なくとも、シミュレーションすべきマルチマスフライホイールの一次側と二次側のデュアルマスと、弓形ばねまたは各々の弓形ばねのための代替モデルとを含んでいる。質量のない代替モデルは多くの場合有利である。好ましくは一定のステップ幅を有する統合的な時間ステップ方法によってモデル7を評価する制御装置6に実装されたアルゴリズムに従って、モデル化されたマルチマスフライホイールが試験品1に対して有するリアクションが求められ、かつこのリアクションは電気機械4のための制御要求に変換される。このアルゴリズムにより、すべての演算ステップにおいて、個々のばね要素と弓形ばね全体のばね力とばね摩擦が評価される。この場合、個々のばね要素の慣性から、合力および合成モーメントが付加的に評価され、かつ合力の合計および合成モーメントの合計として一次側と二次側で求められる。
【0023】
それによって、貴重なまたはアクセスしにくいプロトタイプの破壊の危険を生じることなく、試験品1に対するマルチマスフライホイールの作用を、系統的におよび高効率的に試験することができる。この作用は特に、エンジン側の回転運動の一様性が上昇することによってと、固定されたフライホイールを有するバリエーションに対してパワートレインの回転運動の一様性が低いということによって特徴付けられる。
【0024】
本発明によるマルチマスフライホイールのリアルタイムシミュレーションはさらに、実際の多数の構成要素を用いて検査を行う必要なしに、スタートおよび停止時にスタート/ストップ機能性のための最適な制御戦略に従って試験品である内燃機関に対するマルチマスフライホイール特性の作用に関する問い合わせの、時間と材料を節約する検査を可能にする。その際、高価な試験車両が不要であり、かつハードウェアの変更または変形の表示がきわめて短い時間で可能であり、かつ他の構成部品を実際の車両よりも迅速に交換することができ、かつ開発環境が常に一定であるので試験をきわめて良好に相互比較可能であり、かつ必要に応じて包括的な測定機器を使用することができる。
【0025】
特に電化した将来的なパワートレイン乃至全体系の開発のための、すなわちマルチマスフライホイールの設計、および最適な目標システムを得るためのECUとハイブリッド制御の相互作用における関連するすべての機能の項目のための、内燃機関の開発において、上記の利点はきわめて重要である。さらに、補器類開発およびチェーン装置開発、スタート/停止による内燃機関に対する作用を含めた複雑なハイブリッドシステムの評価および確認も、他の若干の重要なテーマである。
【0026】
スタート装置のいろいろなモデル7によって、例えばバリエーションをキャリブレーションする際に、異なるスタート特性、例えば慣用のスタータ、ベルトドライブスタータ、フライホイールマススタータ、DKGを介してのスタート等を表すことができる。一方、一般のテストベンチの場合には常に、プロトタイプとして構成されたスタータシステムだけしか検査することができない。さらに、モデル7がスタート装置のための部分モデルとマルチマスフライホイールのための部分モデルとを含み、かつ電気機械4に対する制御要求が両部分モデルを考慮するときには、スタータシステムとマルチマスフライホイールの協働が簡単かつ危険なしに可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 試験品
2 軸
3 トルク測定フランジ
4 電気機械
6 制御装置
7 モデル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験品(1)を備え、ならびに前記試験品(1)を駆動および/または負荷するための前記電気機械または各々の前記電気機械(4)用の制御装置(6)を備えたテストベンチ設備であって、前記試験品が前記試験品(1)を駆動および/または負荷するための少なくとも1個の電気機械(4)に連結されるテストベンチ設備において、
前記試験品(1)に接続可能な構成要素のための少なくとも1個のモデル(7)が前記制御装置(6)内に実装され、前記モデル(7)から、前記電気機械または各々の前記電気機械(4)に対する制御要求の少なくとも一部が求められることを特徴とするテストベンチ設備。
【請求項2】
マルチマスフライホイールのための少なくとも1個のモデル(7)が前記制御装置(6)内に実装され、該モデル(7)が少なくとも前記マルチマスフライホイールの一次側と二次側のデュアルマスと、弓形ばねまたは各々の弓形ばねのための代替モデルとを含み、マルチマスフライホイールのためのモデルを統合的な時間ステップ方法によって評価するアルゴリズムが前記制御装置(6)に実装されていることを特徴とする請求項1に記載のテストベンチ設備。
【請求項3】
アルゴリズムが、一定のステップ幅を有する統合的な時間ステップ方法によって、マルチマスフライホイールのためのモデルを評価することを特徴とする請求項2に記載のテストベンチ設備。
【請求項4】
前記制御装置(6)にアルゴリズムが実装され、該アルゴリズムが各々の演算ステップにおいて、個々のばね要素および弓形ばね全体のばね力およびばね摩擦を評価し、加えて、個々のばね要素の慣性力から合力および合成モーメントが評価され、合計の合力または合計の合成モーメントとして一次側と二次側で求められることを特徴とする請求項2または3に記載のテストベンチ設備。
【請求項5】
前記マルチマスフライホイールのための前記モデル(7)が弓形ばねの半径方向強度のパラメータ表示を含んでいることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載のテストベンチ設備。
【請求項6】
前記マルチマスフライホイールのための前記モデル(7)が接触摩擦状態のパラメータ表示を含んでいることを特徴とする請求項2〜5のいずれか一項に記載のテストベンチ設備。
【請求項7】
前記マルチマスフライホイールのための前記モデル(7)が可変のフリーホイールのパラメータ表示を含んでいることを特徴とする請求項2〜6のいずれか一項に記載のテストベンチ設備。
【請求項8】
前記マルチマスフライホイールのための前記モデル(7)が付着と滑りの間の状態切換えを含んでいることを特徴とする請求項2〜7のいずれか一項に記載のテストベンチ設備。
【請求項9】
前記マルチマスフライホイールのための前記モデル(7)が一次マスと二次マスにおける弓形ばねのリミットストップの接触機構のためのモデルを含んでいることを特徴とする請求項2〜8のいずれか一項に記載のテストベンチ設備。
【請求項10】
前記試験品(1)のスタート装置のための少なくとも1個の前記モデル(7)が前記制御装置(6)に実装されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のテストベンチ設備。

【図1】
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