説明

テトラアダマンタン誘導体及びその製造法

【課題】 電気特性、熱特性、機械特性、光学特性、物理特性などに優れた機能性材料の原料として有用な新規なアダマンタン誘導体を提供する。
【解決手段】 テトラアダマンタン誘導体は、下記式(1)
【化1】


(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子を有していてもよいアルキル基、ハロゲン原子を有していてもよいアルコキシ基、ハロゲン原子又はヒドロキシル基を示す。但し、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10のうち少なくとも1つはハロゲン原子又はヒドロキシル基である)
で表される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高機能性ポリマー等の機能性材料の原料などとして有用なテトラアダマンタン誘導体及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
アダマンタン誘導体は安定な炭素骨格構造を有していることから、耐熱性、耐水性、光学特性、光透過性、低誘電率性、吸水性、密着性などの電気特性、熱特性、機械特性及び物理特性などに優れた各種高機能性ポリマー等の機能性材料の原料として用いられており、今後ますますその工業的利用が高まるものと期待されている。
【0003】
アダマンタンが2分子結合したビアダマンタン誘導体に関する研究は盛んに行われている。例えば、米国特許第3342880号明細書には、種々の1,1′−ビアダマンタン誘導体及びその製造法が開示されている。また、特開2001−253853号公報には、耐熱性、耐水性及び光学特性に優れる3,3′−ジアルコキシカルボニル−1,1′ビアダマンタン及びその製造法が開示されている。しかしながら、これらのアダマンタン誘導体から得られるポリマーは用途等によっては必ずしも十分高い機能性を有しているとは言えず、より高い機能性を発揮するポリマー等の原料として有用な新規なアダマンタン誘導体が求められている。
【0004】
【特許文献1】米国特許第8342880号明細書
【特許文献2】特開2001−253853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、電気特性、熱特性、機械特性、光学特性、物理特性などに優れた機能性材料の原料等として有用な新規なアダマンタン誘導体及びその製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、4つのアダマンタン環のうち少なくとも1つの環にハロゲン原子又はヒドロキシル基が結合した新規なテトラアダマンタン誘導体を見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、下記式(1)
【化1】

(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子を有していてもよいアルキル基、ハロゲン原子を有していてもよいアルコキシ基、ハロゲン原子又はヒドロキシル基を示す。但し、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10のうち少なくとも1つはハロゲン原子又はヒドロキシル基である)
で表されるテトラアダマンタン誘導体を提供する。
【0008】
本発明は、また、下記式(2a)
【化2】

(式中、X1、X2、X3、X4、X5、X6、X7、X8、X9、X10は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子を有していてもよいアルキル基、ハロゲン原子を有していてもよいアルコキシ基、ハロゲン原子又はヒドロキシル基を示す。但し、X1、X2、X3、X4、X5、X6、X7、X8、X9、X10のうち少なくとも1つは水素原子である)
で表されるテトラアダマンタン誘導体にハロゲン化剤を反応させて、下記式(1a)
【化3】

(式中、R1a、R2a、R3a、R4a、R5a、R6a、R7a、R8a、R9a、R10aは、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子を有していてもよいアルキル基、ハロゲン原子を有していてもよいアルコキシ基、ハロゲン原子又はヒドロキシル基を示す。但し、R1a、R2a、R3a、R4a、R5a、R6a、R7a、R8a、R9a、R10aのうち少なくとも1つはハロゲン原子である)
で表されるテトラアダマンタンハライド誘導体を得ることを特徴とするテトラアダマンタン誘導体の製造法を提供する。
【0009】
本発明は、さらに、下記式(1a)
【化4】

(式中、R1a、R2a、R3a、R4a、R5a、R6a、R7a、R8a、R9a、R10aは、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子を有していてもよいアルキル基、ハロゲン原子を有していてもよいアルコキシ基、ハロゲン原子又はヒドロキシル基を示す。但し、R1a、R2a、R3a、R4a、R5a、R6a、R7a、R8a、R9a、R10aのうち少なくとも1つはハロゲン原子である)
で表されるテトラアダマンタンハライド誘導体を加水分解して、下記式(1b)
【化5】

(式中、R1b、R2b、R3b、R4b、R5b、R6b、R7b、R8b、R9b、R10bは、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子を有していてもよいアルキル基、ハロゲン原子を有していてもよいアルコキシ基、ハロゲン原子又はヒドロキシル基を示す。但し、R1b、R2b、R3b、R4b、R5b、R6b、R7b、R8b、R9b、R10bのうち少なくとも1つはヒドロキシル基である)
で表されるヒドロキシテトラアダマンタン誘導体を得ることを特徴とするテトラアダマンタン誘導体の製造法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電気特性、熱特性、機械特性、光学特性、物理特性などに優れた機能性材料の原料等として有用な新規なアダマンタン誘導体とその効率の良い製造法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のテトラアダマンタン誘導体は、前記式(1)で表される。式(1)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子を有していてもよいアルキル基、ハロゲン原子を有していてもよいアルコキシ基、ハロゲン原子又はヒドロキシル基を示す。但し、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10のうち少なくとも1つはハロゲン原子又はヒドロキシル基である。
【0012】
前記R1〜R10におけるハロゲン原子を有していてもよいアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシルなどの炭素数1〜15程度のアルキル基(好ましくはC1-10アルキル基、さらに好ましくはC1-6アルキル基);トリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル基などの炭素数1〜15程度のハロアルキル基(好ましくはC1-10ハロアルキル基、さらに好ましくはC1-6ハロアルキル基)などが挙げられる。ハロゲン原子を有していてもよいアルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブチルオキシ、s−ブチルオキシ、t−ブチルオキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ基などの炭素数1〜15程度のアルコキシ基(好ましくはC1-10アルコキシ基、さらに好ましくはC1-6アルコキシ基);トリフルオロメトキシ基などの炭素数1〜15程度のハロアルコキシ基(好ましくはC1-10ハロアルコキシ基、さらに好ましくはC1-6ハロアルコキシ基)などが挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0013】
本発明のテトラアダマンタン誘導体には、R1〜R10のうち少なくとも1つがハロゲン原子であり且つ少なくとも1つがヒドロキシル基である化合物も含まれる。また、本発明のテトラアダマンタン誘導体には、分子内に存在するハロゲン原子、ヒドロキシル基の個数及び/又は位置が異なる複数の化合物の混合物も含まれる。
【0014】
本発明のテトラアダマンタン誘導体において、R1〜R10のうち少なくとも1つがハロゲン原子であるテトラアダマンタン誘導体(テトラアダマンタンハライド誘導体;ハロテトラアダマンタン誘導体)の代表的な例として、例えば、3−ブロモ−1,1′:3′,1″:3″,1′′′−テトラアダマンタン、3−ブロモ−5,5′,5″,3′′′−テトラメチル−1,1′:3′,1″:3″,1′′′−テトラアダマンタン、3−ブロモ−5,7,5′,7′,5″,7″,3′′′,5′′′−オクタメチル−1,1′:3′,1″:3″,1′′′−テトラアダマンタン、及びこれらに対応する3−クロロ誘導体などの、R1〜R10のうちの1つがハロゲン原子であるテトラアダマンタンハライド誘導体;3,3′′′−ジブロモ−1,1′:3′,1″:3″,1′′′−テトラアダマンタン、3,3′′′−ジブロモ−5,5′,5″,5′′′−テトラメチル−1,1′:3′,1″:3″,1′′′−テトラアダマンタン、3,3′′′−ジブロモ−5,7,5′,7′,5″,7″,5′′′,7′′′−オクタメチル−1,1′:3′,1″:3″,1′′′−テトラアダマンタン、3,3′′′−ジブロモ−5,7,5′,7′,5″,7″,5′′′,7′′′−オクタエチル−1,1′:3′,1″:3″,1′′′−テトラアダマンタン、3,3′′′−ジブロモ−5,7,5′,7′,5″,7″,5′′′,7′′′−オクタブチル−1,1′:3′,1″:3″,1′′′−テトラアダマンタン及びこれらに対応する3,3′′′−ジクロロ誘導体などの、R1〜R10のうちの2つがハロゲン原子であるテトラアダマンタンハライド誘導体;3,5′,3′′′−トリブロモ−1,1′:3′,1″:3″,1′′′−テトラアダマンタン、3,5′,3′′′−トリブロモ−5,7′,5″,5′′′−テトラメチル−1,1′:3′,1″:3″,1′′′−テトラアダマンタン、及びこれらに対応する3,5′,3′′′−トリクロロ誘導体などの、R1〜R10のうちの3つがハロゲン原子であるテトラアダマンタンハライド誘導体;3,5′,5″,3′′′−テトラブロモ−1,1′:3′,1″:3″,1′′′−テトラアダマンタン、3,5′,5″,3′′′−テトラブロモ−5,7′,7″,5′′′−テトラメチル−1,1′:3′,1″:3″,1′′′−テトラアダマンタン、及びこれらに対応する3,5′,5″,3′′′−テトラクロロ誘導体などの、R1〜R10のうちの4つがハロゲン原子であるテトラアダマンタンハライド誘導体が挙げられる。
【0015】
また、本発明のテトラアダマンタン誘導体において、R1〜R10のうち少なくとも1つがヒドロキシル基であるテトラアダマンタン誘導体(ヒドロキシテトラアダマンタン誘導体)の代表的な例として、3−ヒドロキシ−5,5′,5″,3′′′−テトラメチル−1,1′:3′,1″:3″,1′′′−テトラアダマンタン、3−ヒドロキシ−5,7,5′,7′,5″,7″,3′′′,5′′′−オクタメチル−1,1′:3′,1″:3″,1′′′−テトラアダマンタンなどの、R1〜R10のうちの1つがヒドロキシル基であるヒドロキシテトラアダマンタン誘導体;3,3′′′−ジヒドロキシ−1,1′:3′,1″:3″,1′′′−テトラアダマンタン、3,3′′′−ジヒドロキシ−5,5′,5″,5′′′−テトラメチル−1,1′:3′,1″:3″,1′′′−テトラアダマンタン、3,3′′′−ジヒドロキシ−5,7,5′,7′,5″,7″,5′′′,7′′′−オクタメチル−1,1′:3′,1″:3″,1′′′−テトラアダマンタン、3,3′′′−ジヒドロキシ−5,7,5′,7′,5″,7″,5′′′,7′′′−オクタエチル−1,1′:3′,1″:3″,1′′′−テトラアダマンタン、3,3′′′−ジヒドロキシ−5,7,5′,7′,5″,7″,5′′′,7′′′−オクタブチル−1,1′:3′,1″:3″,1′′′−テトラアダマンタンなどの、R1〜R10のうちの2つがヒドロキシル基であるヒドロキシテトラアダマンタン誘導体;3,5′,3′′′−トリヒドロキシ−1,1′:3′,1″:3″,1′′′−テトラアダマンタン、3,5′,3′′′−トリヒドロキシ−5,7′,5″,5′′′−テトラメチル−1,1′:3′,1″:3″,1′′′−テトラアダマンタンなどの、R1〜R10のうちの3つがヒドロキシル基であるテトラアダマンタンハライド誘導体;3,5′,5″,3′′′−テトラヒドロキシ−1,1′:3′,1″:3″,1′′′−テトラアダマンタン、3,5′,5″,3′′′−テトラヒドロキシ−5,7′,7″,5′′′−テトラメチル−1,1′:3′,1″:3″,1′′′−テトラアダマンタンなどの、R1〜R10のうちの4つがヒドロキシル基であるヒドロキシテトラアダマンタン誘導体が挙げられる。
【0016】
本発明のテトラアダマンタン誘導体において、R1〜R10のうち少なくとも1つがハロゲン原子であるテトラアダマンタン誘導体は、例えば、前記式(2a)で表されるテトラアダマンタン誘導体にハロゲン化剤を反応させることにより製造することができる。式(2a)中、X1、X2、X3、X4、X5、X6、X7、X8、X9、X10は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子を有していてもよいアルキル基、ハロゲン原子を有していてもよいアルコキシ基、ハロゲン原子又はヒドロキシル基を示す。但し、X1、X2、X3、X4、X5、X6、X7、X8、X9、X10のうち少なくとも1つは水素原子である。上記のハロゲン原子を有していてもよいアルキル基、ハロゲン原子を有していてもよいアルコキシ基、ハロゲン原子は、R1〜R10におけるハロゲン原子を有していてもよいアルキル基等と同様である。
【0017】
式(2a)で表されるテトラアダマンタン誘導体の代表的な例としては、例えば、1,1′:3′,1″:3″,1′′′−テトラアダマンタン(=テトラアダマンタン)、3,7′,7″、5′′′−テトラメチル−1,1′:3′,1″:3″,1′′′−テトラアダマンタン、3,5,5′,7′,5″,7″,3′′′,5′′′−オクタメチル−1,1′:3′,1″:3″,1′′′−テトラアダマンタン、3,5,5′,7′,5″,7″,3′′′,5′′′−オクタエチル−1,1′:3′,1″:3″,1′′′−テトラアダマンタン、3,5,5′,7′,5″,7″,3′′′,5′′′−オクタブチル−1,1′:3′,1″:3″,1′′′−テトラアダマンタンなどが挙げられる。
【0018】
前記ハロゲン化剤としては、例えば、フッ素(F2)、塩素(Cl2)、臭素(Br2)、ヨウ素(I2)のハロゲン;第3級アルキルハライド(例えば、t−ブチルブロミド、t−ブチルクロリド、t−アミルブロミド、t−アミルクロリドなど)、N−ブロモスクシンイミド、三臭化ホウ素、四臭化炭素、スルホランなどの系中でハロゲンを発生するハロゲン化剤などが挙げられる。式(2a)で表されるテトラアダマンタン誘導体とハロゲン化剤との反応は、反応に不活性な溶媒の存在下又は溶媒非存在下で行われる。溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、臭化メチレン、ジブロモプロパン、ジブロモブタン、ブロモクロロメタン、ブロモクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素などが好ましく用いられる。反応速度や選択率を向上させるために、上記ハロゲン化剤ととともに触媒を用いることもできる。触媒としては、例えば、無水塩化第二鉄、無水臭化第二鉄、無水塩化アルミニウム、無水臭化アルミニウム、無水塩化亜鉛、無水臭化亜鉛、無水四塩化チタン等のルイス酸、五酸化リン(P25)、五塩化リン(PCl5)等のリン化合物、三臭化ホウ素(BBr3)等のホウ素化合物などが挙げられる。
【0019】
ハロゲン化剤の使用量は、ハロゲン化剤の種類やテトラアダマンタン誘導体に導入するハロゲン原子の数などによって異なる。ハロゲン化剤としてハロゲンを用いる場合、その量は、一般に、式(2a)で表されるテトラアダマンタン誘導体1モルに対して、0.8〜100モル程度であり、ハロゲンを大過剰量用いてもよい。特に、4つのアダマンタン環に各1個ずつハロゲン原子を導入する場合には、ハロゲンの使用量は、式(2a)で表されるテトラアダマンタン誘導体のうちX1、X2、X3、X4がすべて水素原子である化合物1モルに対して、好ましくは4〜100モル、さらに好ましくは8〜60モル程度である。ハロゲンと共にルイス酸等の触媒を用いる場合の触媒の量は、例えば、式(2a)で表されるテトラアダマンタン誘導体に対して0.01〜50重量%程度の範囲から適宜選択できる。式(2a)で表されるテトラアダマンタン誘導体とハロゲンとを反応させる際の反応温度は、例えば−20℃〜150℃、好ましくは0〜80℃程度である。
【0020】
式(2a)で表されるテトラアダマンタン誘導体とハロゲン化剤との反応は、回分式、半回分式、連続式等の何れの方式で行ってもよい。
【0021】
上記の反応により、式(2a)で表される化合物のアダマンタン環の橋頭位(X1〜X10)の水素原子の少なくとも1つがハロゲン原子に置き換わった式(1a)で表されるテトラアダマンタンハライド誘導体が生成する。式(1a)中のR1a〜R10aにおけるハロゲン原子(導入されたハロゲン原子)は、用いたハロゲン化剤に対応するハロゲン原子であり、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子である。式(1a)中のR1a〜R10aにおけるハロゲン原子を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基はR1〜R10におけるハロゲン原子を有していてもよいアルキル基等と同様である。反応終了後、反応生成物は、必要に応じて残存するハロゲン化剤を還元して分解した後、液性調整、抽出、晶析、洗浄、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の一般的な分離精製手段に付すことにより分離精製できる。
【0022】
なお、テトラアダマンタン誘導体のアダマンタン環に導入されるハロゲン原子の数は、ハロゲン化剤の量のほか、ハロゲン化剤の種類、触媒の種類や量、溶媒の有無、基質濃度、反応温度及び反応時間等により調整できる。アダマンタン環の橋頭位の水素原子のハロゲン原子への置換は、通常、4つのアダマンタン環のうち両端のアダマンタン環から有利に起きると推測される。
【0023】
なお、前記式(2a)で表されるテトラアダマンタン誘導体は、ハロビアダマンタン誘導体のカップリング反応(クロスカップリング反応を含む)により得ることができ、また、前記ハロビアダマンタン誘導体は、ハロモノアダマンタン誘導体のカップリング反応(クロスカップリング反応を含む)反応により得たビアダマンタン誘導体をハロゲン化することにより製造することができる。カップリング反応及びハロゲン化反応は公知の方法により行うことができる。
【0024】
本発明のテトラアダマンタン誘導体において、R1〜R10のうち少なくとも1つがヒドロキシル基であるテトラアダマンタン誘導体は、例えば、前記式(1a)で表されるテトラアダマンタンハライド誘導体を加水分解することにより製造できる。
【0025】
加水分解は、酸加水分解、アルカリ加水分解等の通常行われる加水分解法を採用できる。酸加水分解で用いる酸としては、例えば、塩酸、硫酸等の無機酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等のスルホン酸類、強酸性陽イオン交換樹脂などが挙げられる。アルカリ加水分解で用いるアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物などのアルカリ金属含有化合物などが挙げられる。アルカリの使用量及び水の使用量は、ヒドロキシル基の導入数等により適宜選択できる。酸は触媒量用いてもよい。反応は水の存在下で行われるが、反応成分の溶解性を高めるため、反応系に有機溶媒を添加してもよい。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類などの水溶性有機溶媒が用いられる。反応温度は、例えば30〜110℃程度である。
【0026】
加水分解は、回分式、半回分式、連続式等の何れの方式で行ってもよい。このような加水分解反応により、式(1a)で表されるテトラアダマンタンハライド誘導体のアダマンタン環の橋頭位(R1a〜R10a)のハロゲン原子の少なくとも1つがヒドロキシル基に置き換わった式(1b)で表されるヒドロキシテトラアダマンタン誘導体が生成する。反応生成物は、液性調整、抽出、晶析、洗浄、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の一般的な分離精製手段により分離精製できる。
【0027】
前記式(1b)で表されるヒドロキシテトラアダマンタン誘導体は、また、前記式(2a)で表されるアダマンタン環の橋頭位に少なくとも1つの水素原子を有するテトラアダマンタン誘導体を酸化することによって製造することもできる。
【0028】
酸化剤としては、例えば、酸素、クロム酸などを使用できる。酸化剤として酸素を用いる場合、酸素としては純粋な酸素(分子状酸素)を用いてもよく、窒素等の不活性ガスで希釈した酸素や空気を用いてもよい。酸素の使用量は、ヒドロキシル基の導入量等によって異なるが、通常、式(2a)で表されるテトラアダマンタン誘導体1モルに対して0.25モル以上である。酸化剤として酸素を用いる場合、酸化反応は通常、触媒の存在下で行われる。触媒としては、アダマンタン環の橋頭位の酸化反応に触媒作用を示すものであれば特に限定されず、例えば、ナフテン酸コバルト等のコバルト触媒、ナフテン酸マンガン等のマンガン触媒、これらの組み合わせなどが挙げられる。触媒の使用量は広い範囲で選択でき、例えば、式(2a)で表されるテトラアダマンタン誘導体1モルに対して、0.0000001〜1モル、好ましくは0.000001〜0.5モル程度である。
【0029】
酸化反応は溶媒の存在下又は溶媒非存在下で行われる。溶媒としては、例えば、ベンゼンなどの芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;t−ブタノール、t−アミルアルコールなどのアルコール;アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;酢酸、プロピオン酸などのカルボン酸;N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド類;これらの混合溶媒などが挙げられる。
【0030】
反応温度は、例えば30〜250℃、好ましくは60〜200℃程度である。反応速度を高めるため、反応を加圧下で行ってもよい。酸化反応は、回分式、半回分式、連続式等の何れの方式で行ってもよい。
【0031】
上記の反応により、式(2a)で表される化合物のアダマンタン環の橋頭位(X1〜X10)の水素原子の少なくとも1つがヒドロキシル基に置き換わった式(1b)で表されるヒドロキシテトラアダマンタン誘導体が生成する。反応終了後、反応生成物は、液性調整、抽出、晶析、洗浄、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の一般的な分離精製手段により分離精製できる。
【0032】
なお、本発明のテトラアダマンタン誘導体のうちアダマンタン環にハロゲン原子又はヒドロキシル基と共に、ハロゲン原子を有していてもよいアルキル基又はハロゲン原子を有していてもよいアルコキシ基を有する化合物において、これらの置換基の導入は本発明のテトラアダマンタン誘導体を製造するどの段階で行ってもよい。すなわち、例えば、モノアダマンタン誘導体をハロゲン化してハロモノアダマンタン誘導体とし、このハロモノアダマンタン誘導体をカップリング反応に付してビアダマンタン誘導体を得、このビアダマンタン誘導体をハロゲン化してハロビアダマンタン誘導体とし、さらにこのハロビアダマンタン誘導体をカップリング反応に付してアダマンタン環の橋頭位に水素原子を有するテトラアダマンタン誘導体とし、このテトラアダマンタン誘導体を上記のようにハロゲン化してハロテトラアダマンタン誘導体を製造するか、このハロテトラアダマンタン誘導体を加水分解するか若しくは前記アダマンタン環の橋頭位に水素原子を有するテトラアダマンタン誘導体を酸化してヒドロキシテトラアダマンタン誘導体を製造する場合、前記モノアダマンタン誘導体、ビアダマンタン誘導体、テトラアダマンタン誘導体、ハロ又はヒドロキシテトラアダマンタン誘導体等のどの段階で前記置換基を導入してもよい。これらの置換基の導入は、公知の方法又は公知の反応を利用することにより行うことができる。
【0033】
式(1)で表されるテトラアダマンタン誘導体は、非常に安定で対称性に優れた炭素骨格であるアダマンタン骨格が4つ直接結合しているとともに、反応性官能基であるハロゲン原子又はヒドロキシル基を有しており、その反応性を利用して例えば重合性基等を容易に導入できることから、耐熱性、耐水性、光学特性、光透過性、低誘電率性、吸水性、密着性などの電気特性、熱特性、機械特性、光学特性及び物理特性などに優れた各種高機能性ポリマー等の機能性材料の原料(例えばモノマーの前駆体)等として用いることができる。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0035】
製造例1
窒素雰囲気下、3−ブロモ−1,1′−ビアダマンタン11.2g(31.9mmol)、n−オクタン44.6g、ナトリウム0.22g(9.6mmol)の混合溶液を120℃に加熱撹拌した。2時間後、ナトリウム0.66g(28.7mmol)を8時間かけて少しずつ加え、その後、2時間加熱撹拌した。反応混合液を60℃まで冷却し、エタノールを22g加えて30分撹拌した後、熱濾過した。得られた結晶とトルエン60gを80℃で1時間加熱撹拌した後、熱濾過し、得られた結晶を乾燥した。その結果、テトラアダマンタン(=1,1′:3′,1″:3″,1′′′−テトラアダマンタン)が6.0g、収率70%で得られた。同定はIR、融点及びDI−MS(ダイレクトマス、直接試料導入法)により行った(参考文献:テトラヘドロンレター、第42巻、2001年、第8645〜8647頁)。
DI-MS-spectrometry:537, 403, 269, 135 m/z [M-] [CI法]
【0036】
製造例2
窒素雰囲気下、3−ブロモ−5,5′,7,7′−テトラメチル−1,1′−ビアダマンタン55g(0.14mol)、n−オクタン440g、ナトリウム1.2g(0.05mol)の混合溶液を110℃に加熱撹拌した。2時間後、ナトリウム3.5g(0.15mol)を8時間かけて少しずつ加え、その後、2時間加熱撹拌した。反応混合液を60℃まで冷却し、エタノールを55g加えて30分撹拌して、熱濾過し、エタノール洗浄した。得られた結晶と水200gを60℃で1時間加熱撹拌した後、熱濾過し、エタノールで洗浄した。その結晶とトルエン525gを60℃で加熱撹拌した後、熱濾過し、結晶を乾燥した。その結果、テトラ(ジメチルアダマンタン)(=3,5,5′,7′,5″,7″,3′′′,5′′′−オクタメチル−1,1′:3′,1″:3″,1′′′−テトラアダマンタン)が収率64%で得られた。
IR(KBr):1336, 1359, 1454, 2846, 2894, 2940(cm-1
DI-MS-spectrometry:649, 487, 325, 163 m/z [M-] [EI法]
【0037】
実施例1
窒素雰囲気下、テトラアダマンタン2.0g(3.7mmol)と臭素16.6g(103.9mmol)の混合溶液を50℃で8時間加熱撹拌した。反応混合液を5℃に冷却し、水を加えた後、亜硫酸水素ナトリウムをゆっくり加え、過剰の臭素を還元した。その後、析出物を濾過し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水、アセトンで順次洗浄し、乾燥した。その結果、下記式で表されるテトラブロモテトラアダマンタン(=3,5′,5″,3′′′−テトラブロモ−1,1′:3′,1″:3″,1′′′−テトラアダマンタン)が2.3g(2.7mmol)、収率73%で得られた。
IR(KBr):684, 821(C-Br), 1022, 1330, 1344, 1448, 2857, 2908, 2935(cm-1
DI-MS-spectrometry:856, 776, 696, 616, 538, 404, 269, 135 m/z [CI法]
【化6】

【0038】
実施例2
窒素雰囲気下、テトラアダマンタン2.0g(3.7mmol)と臭素16.6g(103.9mmol)の混合溶液を50℃で3時間加熱撹拌した。反応混合液を5℃に冷却し、水を加えた後、亜硫酸水素ナトリウムをゆっくり加え、過剰の臭素を還元した。その後、析出物を濾過し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水、アセトンで順次洗浄し、乾燥した。その結果、主成分としてジブロモテトラアダマンタン、その他トリブロモテトラアダマンタン、テトラブロモテトラアダマンタンの混合物2.1gが得られた。
IR(KBr):684, 821(C-Br), 1022, 1330, 1344, 1448, 2857, 2908, 2935(cm-1
[ジブロモテトラアダマンタン]
DI-MS-spectrometry:696, 617, 536, 404, 269, 135 m/z [CI法]
[トリブロモテトラアダマンタン]
DI-MS-spectrometry:776, 696, 617, 536, 404, 269, 135 m/z [CI法]
【0039】
実施例3
窒素雰囲気下、テトラ(ジメチルアダマンタン)2.0g(3.0mmol)と臭素13.7g(86.0mmol)の混合溶液を50℃で8時間加熱撹拌した。反応混合液を5℃に冷却し、水を加えた後、亜硫酸水素ナトリウムをゆっくり加え、過剰の臭素を還元した。その後、析出物を濾過し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水、アセトンで順次洗浄し、乾燥した。その結果、下記式で表されるジブロモテトラ(ジメチルアダマンタン)(=3,3′′′−ジブロモ−5,7,5′,7′,5″,7″,5′′′,7′′′−オクタメチル−1,1′:3′,1″:3″,1′′′−テトラアダマンタン)が2.0g(2.4mmol)、収率79%で得られた。
IR(KBr):736, 838(C-Br), 931, 1338, 1359, 1455, 2850, 2894, 2942(cm-1
DI-MS-spectrometry:808, 728, 649, 487, 325, 161 m/z [CI法]
【化7】

【0040】
実施例4
窒素雰気下、テトラ(ジメチルアダマンタン)2.0g(3.0mmol)と臭素13.7g(86.0mmol)の混合溶液を50℃で2時間加熱撹拌した。反応混合液を5℃に冷却し、水を加えた後、亜硫酸水素ナトリウムをゆっくり加え、過剰の臭素を還元した。その後、析出物を濾過し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水、アセトンで順次洗浄し、乾燥した。その結果、主成分としてモノブロモテトラ(ジメチルアダマンタン)、その他ジブロモテトラ(ジメチルアダマンタン)の混合物1.9gが得られた。
IR(KBr):736, 838, 931, 1338, 1359, 1455, 2850, 2894, 2942(cm-1
DI-MS-spectrometry:728, 649, 487, 325, 161 m/z [CI法]

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子を有していてもよいアルキル基、ハロゲン原子を有していてもよいアルコキシ基、ハロゲン原子又はヒドロキシル基を示す。但し、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10のうち少なくとも1つはハロゲン原子又はヒドロキシル基である)
で表されるテトラアダマンタン誘導体。
【請求項2】
下記式(2a)
【化2】

(式中、X1、X2、X3、X4、X5、X6、X7、X8、X9、X10は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子を有していてもよいアルキル基、ハロゲン原子を有していてもよいアルコキシ基、ハロゲン原子又はヒドロキシル基を示す。但し、X1、X2、X3、X4、X5、X6、X7、X8、X9、X10のうち少なくとも1つは水素原子である)
で表されるテトラアダマンタン誘導体にハロゲン化剤を反応させて、下記式(1a)
【化3】

(式中、R1a、R2a、R3a、R4a、R5a、R6a、R7a、R8a、R9a、R10aは、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子を有していてもよいアルキル基、ハロゲン原子を有していてもよいアルコキシ基、ハロゲン原子又はヒドロキシル基を示す。但し、R1a、R2a、R3a、R4a、R5a、R6a、R7a、R8a、R9a、R10aのうち少なくとも1つはハロゲン原子である)
で表されるテトラアダマンタンハライド誘導体を得ることを特徴とするテトラアダマンタン誘導体の製造法。
【請求項3】
下記式(1a)
【化4】

(式中、R1a、R2a、R3a、R4a、R5a、R6a、R7a、R8a、R9a、R10aは、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子を有していてもよいアルキル基、ハロゲン原子を有していてもよいアルコキシ基、ハロゲン原子又はヒドロキシル基を示す。但し、R1a、R2a、R3a、R4a、R5a、R6a、R7a、R8a、R9a、R10aのうち少なくとも1つはハロゲン原子である)
で表されるテトラアダマンタンハライド誘導体を加水分解して、下記式(1b)
【化5】

(式中、R1b、R2b、R3b、R4b、R5b、R6b、R7b、R8b、R9b、R10bは、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子を有していてもよいアルキル基、ハロゲン原子を有していてもよいアルコキシ基、ハロゲン原子又はヒドロキシル基を示す。但し、R1b、R2b、R3b、R4b、R5b、R6b、R7b、R8b、R9b、R10bのうち少なくとも1つはヒドロキシル基である)
で表されるヒドロキシテトラアダマンタン誘導体を得ることを特徴とするテトラアダマンタン誘導体の製造法。

【公開番号】特開2006−169177(P2006−169177A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−365465(P2004−365465)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】