説明

テトラカルボン酸二無水物、液晶配向剤および液晶表示素子

【課題】従来のテトラカルボン酸二無水物を原料とする配向膜を用いた液晶表示素子は、電圧保持率が低下しやすい、残像が発生し易い、ラビング時の押込み強度や加熱時の温度の影響によりプレチルト角が変化し易いなどの問題点があり、また従来のテトラカルボン酸二無水物には製造時に特別な装置が必要であるものもあった。本発明はこれらの問題点を考慮して、電圧保持率および残留DCの問題が改善された液晶表示素子用の液晶配向剤を得ることができ、しかも容易に合成できる新規なテトラカルボン酸二無水物の提供を目的とする。
【解決手段】式(I)で表されるテトラカルボン酸二無水物。式(I)において、pおよびqは独立して0または1であり、これらの合計は1または2である。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なテトラカルボン酸二無水物、これを原料の一部として反応させて得られるポリアミック酸を含有する液晶配向剤、およびこの液晶配向剤から形成される液晶配向膜を有する液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、ノートパソコンやデスクトップパソコンのモニターをはじめ、ビデオカメラのビューファインダー、投写型のディスプレイなどの様々な液晶表示装置に使われており、最近ではテレビとしても用いられるようになってきた。さらに、光プリンターヘッド、光フーリエ変換素子、ライトバルブなどのオプトエレクトロニクス関連素子としても利用されている。従来の液晶表示素子としては、ネマチック液晶を用いた表示素子が主流であり、1)90度ツイストしたTN(Twisted Nematic)型液晶表示素子、2)通常180度以上ツイストしたSTN(Super Twisted Nematic)型液晶表示素子、3)薄膜トランジスタを使用したいわゆるTFT(Thin Film Transistor)型液晶表示素子が実用化されている。
【0003】
これらの液晶表示素子は画像が適正に視認できる視野角が狭く、斜め方向から見たときに、輝度やコントラストの低下および中間調での輝度反転を生じるという欠点を有している。近年、この視野角の問題については、1)光学補償フィルムを用いたTN-TFT型液晶表示素子、2)垂直配向と光学補償フィルムを用いたVA(Vertical Alignment)型液晶表示素子、3)垂直配向と突起構造物の技術を併用したMVA(Multi Domain Vertical Alignment)型液晶表示素子、または4)横電界方式のIPS(In−Plane Switching)型液晶表示素子、5)ECB(Electrically Controlled Birefringence)型液晶表示素子、6)光学補償ベンド(Optically Compensated Bend、またはOptically self−Compensated Birefringence:OCB)型液晶表示素子などの技術により改良されて、実用化されまたは検討されている。
【0004】
液晶表示素子の技術の発展は、単にこれらの駆動方式や素子構造の改良のみならず、表示素子に使用される構成部材の改良によっても達成されている。表示素子に使用される構成部材のなかでも、特に液晶配向膜は、液晶表示素子の表示品位に係わる重要な要素の一つであり、表示素子の高品質化に伴って液晶配向膜の役割が年々重要になってきている。
【0005】
液晶配向膜は、液晶配向剤から調製される。現在、主として用いられている液晶配向剤は、ポリアミック酸または可溶性のポリイミドを有機溶剤に溶解させた溶液である。このような溶液を基板に塗布した後、加熱などの手段により成膜してポリイミド系配向膜を形成する。ポリアミック酸以外の種々の液晶配向剤も検討されているが、耐熱性、耐薬品性(耐液晶性)、塗布性、液晶配向性、電気特性、光学特性、表示特性等の点から、ほとんど実用化されていない。
【0006】
液晶表示素子の表示品位を向上させるために液晶配向膜に要求される重要な特性として、電圧保持率および残留DCが挙げられる。電圧保持率が低いと、フレーム期間中に液晶にかかる電圧が低下し、結果として輝度が低下して正常な諧調表示に支障をきたす。一方、残留DCが大きいと、電圧印加後に電圧をOFFにしたにもかかわらず消去されるべき像が残ってしまう、いわゆる「残像」が発生する。
【0007】
前記の問題を解決する試みとして、最近ではいくつかの方法が提案されている。
1)液晶配向膜を形成させるための、物性の異なる2以上のポリアミド酸を組み合わせて含むポリアミド酸組成物が知られている(特許文献1および2)。
2)ポリアミド酸およびポリアミドを含むポリマー成分と溶剤とを含有するワニス組成物が知られている(特許文献3)。
3)物性の異なる2以上のポリアミド酸およびポリアミド、ならびに溶剤を含有するワニス組成物が知られている。(特許文献4)。
4)特定の構造を有するジアミン化合物を用いて合成されるポリアミド酸などを含むワニス組成物が知られている(特許文献5)。
しかしながら、これらの先行技術によっては、電圧保持率および残留DCの問題が十分には解決されていない。
【0008】
さらに、液晶配向膜を形成させるための、ポリアミック酸もしくは可溶性のポリイミドの原料として使用されているテトラカルボン酸二無水物として、下記の式(A)および(B)が一般的に知られている。式(C)に示すような化合物も検討されている(特許文献6)。


【0009】
しかしながら、上記式(A)のテトラカルボン酸二無水物を出発原料として得られた配向膜を用いた液晶表示素子では、電圧保持率が低下しやすく、そして残像が発生し易い。式(B)のテトラカルボン酸二無水物を出発原料として得られた配向膜を用いた液晶表示素子では、電圧保持率が高く、残像が発生し難いが、ラビング時の押込み強度や加熱時の温度の影響によりプレチルト角が変化し易い。式(C)のテトラカルボン酸二無水物の場合は、合成反応にオゾンを使用するため、製造時に特別な装置が必要であるなど製造方法に問題があった。
【0010】
【特許文献1】特開平11−193345号公報
【特許文献2】特開平11−193347号公報
【特許文献3】WO 00/61684パンフレット
【特許文献4】WO 01/000733パンフレット
【特許文献5】特開2002−162630公報
【特許文献6】特開昭58−109479号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記状況を考慮して、電圧保持率および残留DCの問題が改善された液晶表示素子用の液晶配向剤を得ることができ、しかも容易に合成できる新規なテトラカルボン酸二無水物、この酸二無水物を出発原料の1つとして使用し、ジアミンと反応させて得られる液晶配向剤、およびそれを用いて形成される液晶配向膜を備えた液晶表示素子の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するべく鋭意研究を行い、ポリアミック酸の原料として有用な特定のテトラカルボン酸二無水物を見いだした。このテトラカルボン酸二無水物またはこれを含むテトラカルボン酸二無水物の混合物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸またはその誘導体を用いて液晶配向剤とするとき、この液晶配向剤から作成された液晶配向膜は、これを有する液晶表示素子に、例えば良好な電圧保持率、顕著な残留DC低減効果などを付与することができる。この液晶配向膜の他の特徴の例は、ラビングによる配向処理を行っても膜が削られにくいこと、ラビングの押し込み強度に依らずに、安定したプレチルト角を液晶分子に与えることなどである。本発明のテトラカルボン酸二無水物は、特別な反応装置を用いなくても、容易に合成することができる。さらに、本発明の液晶配向剤を使用して作製された液晶配向膜は、その原料であるポリアミック酸を適宜選択することにより、種々の表示駆動方式の液晶表示素子に適切に適用されることができる。
【0013】
本発明のテトラカルボン酸二無水物は次の[1]項で示される。
[1] 式(I)で表されるテトラカルボン酸二無水物:


式(I)において、pおよびqは独立して0または1であり、これらの合計は1または2である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果は、例えば、電圧保持率が高く、かつ残留DCが抑制されている、種々の駆動方式の液晶表示素子を提供することができること、本発明の液晶配向剤が、ラビングによる配向処理を行っても膜が削れにくく、ラビングの押し込み強度に依らず安定したプレチルト角を液晶分子に与えることができる液晶配向膜を形成すること、本発明のテトラカルボン酸二無水物は特別な反応装置を必要とせず容易に合成できることなどである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
まず最初に、本発明で用いる用語について説明する。基の修飾語として用いる「任意の」は、位置だけでなく個数についても任意であることを示す。そして、任意のAがB、CまたはDで置き換えられてもよいという表現は、1つのAがB、CまたはDで置き換えられてもよいという意味と、複数のAのどれもがB、CおよびDのいずれか1つで置き換えられてもよいという意味とに加えて、Bで置き換えられるA、Cで置き換えられるA、およびDで置き換えられるAの少なくとも2つが混在してもよいという意味を有する。例えば、任意の−CH−が−O−または−CH=CH−で置き換えられてもよいアルキルには、アルキル、アルケニル、アルキルオキシアルキル、アルキルオキシアルケニル、アルケニルオキシアルキルなどが含まれる。なお、本発明においては、連続する2つの−CH−が−O−で置き換えられて−O−O−になることは好ましくない。特に断らずにアルキルと記述するときは、直鎖アルキルと分岐アルキルの両方を含むアルキルを意味する。アルケニル、アルキレンおよびアルケニレンについても同様である。例えば、ブチルはn−ブチル、2−メチルプロピルおよび1,1−ジメチルエチルのいずれであってもよい。以下の説明では、式(I)で表されるテトラカルボン酸二無水物を化合物(I)で示し、式(II)で表されるジアミンを化合物(II)で示すことがある。他の式で表される化合物についても同様の簡略化法を適用することがある。
【0016】
本発明は前記の[1]項と次の[2]〜[13]項とで構成される。
[2] pとqの合計が1である、[1]項に記載のテトラカルボン酸二無水物。
【0017】
[3] 式(I)で表されるテトラカルボン酸二無水物またはこのテトラカルボン酸二無水物とその他のテトラカルボン酸二無水物との混合物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸およびその誘導体から選択される少なくとも1つのポリマーを含有する液晶配向剤:


ここに、pおよびqは独立して0または1であり、これらの合計は1または2である。
【0018】
[4] ジアミンが、式(II)〜式(VIII)のそれぞれで表される化合物の群から選択される少なくとも1つのジアミンまたはこの(これらの)ジアミンとその他のジアミンとの混合物である、[3]項に記載の液晶配向剤:


ここに、nは1〜12の整数であり;Gは独立して単結合、−O−、−S−、−S−S−、−SO−、−C−O−−CO−NH−、−−NH−CO−、−C(CH−、−C(CF−、−(CH−、−O−(CH−O−、または−S−(CH−S−であって、mは1〜12の整数であり;Gは独立して単結合、−O−、−S−、−CO−、−C(CH−、−C(CF−または炭素数1〜3のアルキレンであり;シクロヘキサン環およびベンゼン環の任意の水素は、フッ素または−CH3で置き換えられていてもよく;そして、シクロヘキサン環またはベンゼン環に対するアミノ基の結合位置は、GまたはGの結合位置を除く任意の位置である。
【0019】
[5] ジアミンが、側鎖構造を有するジアミンの少なくとも1つまたはこの(これらの)ジアミンとその他のジアミンとの混合物である、[3]項または[4]項に記載の液晶配向剤。
【0020】
[6] 側鎖構造を有するジアミンが、式(X)〜式(XIV)のそれぞれで表される化合物の群から選択されるジアミンである、[5]項に記載の液晶配向剤:


ここに、Gは単結合、−O−、−COO−、−−O−CO−、−C−O−−CO−NH−または−(CH−であって、mは1〜12の整数であり;Rは炭素数3〜20のアルキル、フェニル、ステロイド骨格を有する基または式(X−a)で表される基であり;このアルキルにおいて、任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして任意の−CH2−は−O−、−CH=CH−または−C≡C−で置き換えられてもよく;このフェニルの水素は、−F、−CH、−OCH、−OCHF、−OCHFまたは−OCFで置き換えられてもよく;そして、ベンゼン環へのアミノ基の結合位置は任意である:


ここに、Rは水素、フッ素、炭素数1〜20のアルキル、炭素数1〜20のフッ素置換アルキル、炭素数1〜20のアルコキシ、−CN、−OCHF、−OCHFまたは−OCFであり;G、GおよびGは結合基であって、これらは独立して単結合、−O−、−COO−、−−O−CO−、−−CO−NH−、−CH=CH−または炭素数1〜12のアルキレンであり;A、AおよびAは環であって、これらは独立して1,4−フェニレン、1,4−シクロへキシレン、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、ピリミジン−2,5−ジイル、ピリジン−2,5−ジイル、ナフタレン−1,5−ジイル、ナフタレン−2,7−ジイルまたはアントラセン−9,10−ジイルであり;すべての環において、任意の水素はフッ素または−CHで置き換えられてもよく;a、bおよびcは独立して0〜2の整数であって、これらの合計は1〜5であり;a、bまたはcが2であるとき、2つの結合基は同じであっても異なってもよく、そして2つの環は同じであっても異なってもよい:



式(XI)および式(XII)において、Rは独立して水素または−CHであり、Rは独立して水素、炭素数1〜20のアルキル、または炭素数2〜20のアルケニルであり;Gは独立して単結合、−CO−または−CH2−であり;式(XII)におけるベンゼン環の1つの水素は、炭素数1〜20のアルキルまたはフェニルで置き換えられてもよく;そして、環を構成するいずれかの炭素原子に結合位置が固定されていない基は、その結合位置が任意であることを示す:


式(XIII)および式(XIV)において、Rは水素または炭素数1〜20のアルキルであって、このアルキルにおける任意の−CH2−は、−O−、−CH=CH−または−C≡C−で置き換えられてもよく;Rは炭素数6〜22のアルキルであり、そしてRは水素または炭素数1〜22のアルキルであり;Gは−O−または炭素数1〜6のアルキレンであり;Aは1,4−フェニレンまたは1,4−シクロヘキシレンであり、Gは単結合または炭素数1〜3のアルキレンであり、そしてdは0または1であり;そして、ベンゼン環へのアミノ基の結合位置は任意である。
【0021】
[7] 式(II)〜式(VIII)のそれぞれで表される化合物の群から選択される少なくとも1つのジアミンまたはこの(これらの)ジアミンとその他のジアミンとの混合物とテトラカルボン酸二無水物(T1)とを反応させて得られるポリアミック酸およびその誘導体から選択される少なくとも1つのポリマー、並びに側鎖構造を有するジアミンの少なくとも1つまたはこの(これらの)ジアミンとその他のジアミンとの混合物とテトラカルボン酸二無水物(T2)とを反応させて得られるポリアミック酸およびその誘導体から選択される少なくとも1つのポリマーを含有する液晶配向剤であって、テトラカルボン酸二無水物(T1)とテトラカルボン酸二無水物(T2)の少なくとも一方が、式(I)で表されるテトラカルボン酸二無水物またはこのテトラカルボン酸二無水物とその他のテトラカルボン酸二無水物との混合物であることを特徴とする液晶配向剤:


ここに、pおよびqは独立して0または1であり、これらの合計は1または2である:


ここに、nは1〜12の整数であり;Gは独立して単結合、−O−、−S−、−S−S−、−SO−、−CO−、−CO−NH−、−NH−CO−、−C(CH−、−C(CF−、−(CH−、−O−(CH−O−、または−S−(CH−S−であって、mは1〜12の整数であり;Gは独立して単結合、−O−、−S−、−CO−、−C(CH−、−C(CF−または炭素数1〜3のアルキレンであり;シクロヘキサン環およびベンゼン環の任意の水素は、フッ素または−CH3で置き換えられていてもよく;そして、シクロヘキサン環またはベンゼン環に対するアミノ基の結合位置は、GまたはGの結合位置を除く任意の位置である。
【0022】
[8] 側鎖構造を有するジアミンが、式(X)〜式(XIV)のそれぞれで表される化合物の群から選択されるジアミンである、[7]項に記載の液晶配向剤:


ここに、Gは単結合、−O−、−COO−、−O−CO−、−CO−、−CO−NH−または−(CH−であって、mは1〜12の整数であり;Rは炭素数3〜20のアルキル、フェニル、ステロイド骨格を有する基または式(X−a)で表される基であり;このアルキルにおいて、任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、任意の−CH2−は−O−、−CH=CH−または−C≡C−で置き換えられていてもよく;このフェニルの水素は、−F、−CH、−OCH、−OCHF、−OCHFまたは−OCFで置き換えられてもよく;そして、ベンゼン環へのアミノ基の結合位置は任意である:


ここに、Rは水素、フッ素、炭素数1〜20のアルキル、炭素数1〜20のフッ素置換アルキル、炭素数1〜20のアルコキシ、−CN、−OCHF、−OCHFまたは−OCFであり;G、GおよびGは結合基であって、これらは独立して単結合、−O−、−COO−、−O−CO−、−CO−NH−、−CH=CH−または炭素数1〜12のアルキレンであり;A、AおよびAは環であって、これらは独立して1,4−フェニレン、1,4−シクロへキシレン、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、ピリミジン−2,5−ジイル、ピリジン−2,5−ジイル、ナフタレン−1,5−ジイル、ナフタレン−2,7−ジイルまたはアントラセン−9,10−ジイルであり;すべての環において、任意の水素はフッ素または−CHで置き換えられてもよく;a、bおよびcは独立して0〜2の整数であって、これらの合計は1〜5であり;a、bまたはcが2であるとき、2つの結合基は同じであっても異なってもよく、そして2つの環は同じであっても異なってもよい:


式(XI)および式(XII)において、Rは独立して水素または−CHであり、Rは独立して水素、炭素数1〜20のアルキル、または炭素数2〜20のアルケニルであり;Gは独立して単結合、−CO−または−CH2−であり;式(XII)におけるベンゼン環の1つの水素は、炭素数1〜20のアルキルまたはフェニルで置き換えられてもよく;そして、環を構成するいずれかの炭素原子に結合位置が固定されていない基は、その結合位置が任意であることを示す:


式(XIII)および式(XIV)において、Rは水素または炭素数1〜20のアルキルであって、このアルキルにおける任意の−CH2−は、−O−、−CH=CH−または−C≡C−で置き換えられてもよく;Rは炭素数6〜22のアルキルであり、そしてRは水素または炭素数1〜22のアルキルであり;Gは−O−または炭素数1〜6のアルキレンであり;Aは1,4−フェニレンまたは1,4−シクロヘキシレンであり、Gは単結合または炭素数1〜3のアルキレンであり、そしてdは0または1であり;そして、ベンゼン環へのアミノ基の結合位置は任意である。
【0023】
[9] [3]〜[8]のいずれか1項に記載の液晶配向剤を塗布し、加熱することによって形成される液晶配向膜。
【0024】
[10] [9]項に記載の液晶配向膜を有する液晶表示素子。
【0025】
[11] 対向配置された一対の基板であってその一方または双方に電極が配置されている基板、これらの基板のそれぞれの対向している面に形成された液晶配向膜およびこれらの基板に挟持された液晶層を有する液晶表示素子であって、この液晶配向膜が[9]項に記載の液晶配向膜である液晶表示素子。
【0026】
[12] [1]項に記載の式(I)で表されるテトラカルボン酸二無水物またはこのテトラカルボン酸二無水物とその他のテトラカルボン酸二無水物との混合物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸。
【0027】
[13] [1]項に記載の式(I)で表されるテトラカルボン酸二無水物またはこのテトラカルボン酸二無水物とその他のテトラカルボン酸二無水物との混合物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸の誘導体。
【0028】
本発明のテトラカルボン酸二無水物は式(I)で表される。


式(I)において、pおよびqは独立して0または1であり、これらの合計は1または2である。
【0029】
式(I)においてpとqの合計が1である化合物は、スキーム1に示す方法で合成することができる。
<スキーム1>


【0030】
市販の5−ヒドロキシ−イソフタル酸ジメチルエステル(S−1)を核水添し、式(S−2)で表されるシクロヘキサノールを得る。化合物(S−2)を新実験化学講座、21、198に記載の方法に従い酸化することにより式(S−3)で表されるシクロヘキサノンが得られる。化合物(S−3)をJ.Org.Chem.,47,2840(1982)、もしくはSynthesis,611(1988)、等に記載の方法に準じ(S−4)で表される化合物に変換する。この化合物を常法に従って塩酸等で加水分解し、生成したテトラカルボン酸を無水酢酸で脱水環化させることにより、化合物(I−1)が得られる(合成の詳細は以下の実施例に記載する)。
【0031】
式(I)においてp+qが2である化合物は、スキーム2に示す方法で合成することができる。
<スキーム2>


【0032】
上記スキーム1に示した方法で得られる化合物(S−4)を特開平8−259949号公報に記載の方法に従い、メルドラム酸ナトリウム塩、次いで塩酸で処理することにより、式(S−7)で表されるテトラカルボン酸体を得る。得られたテトラカルボン酸を無水酢酸で脱水環化させることにより、化合物(I−2)が得られる。なお、本発明のテトラカルボン酸二無水物は液晶配向剤用途以外にも、各種ポリイミドコーティング剤、ポリイミド樹脂成型品、フィルム、繊維などに利用することができる。
【0033】
本発明の液晶配向剤は、ポリアミック酸およびその誘導体から選択される少なくとも1つのポリマーを含有する組成物である。実施例においては、ポリアミック酸合成の反応液とこれに溶剤を加えてポリアミック酸濃度を調整した溶液とを区別するために、便宜的に前者をPA溶液、後者を液晶配向剤としているが、どちらも本発明の液晶配向剤である。本発明の液晶配向剤は、化合物(I)を用いないで製造されるポリアミック酸またはその誘導体をさらに含有することができる。ポリアミック酸の誘導体の例は、ポリアミック酸の全てのアミノ基とカルボン酸とが脱水閉環反応したポリイミド、部分的に脱水閉環反応した部分ポリイミド、テトラカルボン酸二無水物化合物に含まれる酸二無水物の一部を有機ジカルボン酸に置き換えて反応させて得られたポリアミック酸−ポリアミド共重合体、およびこのポリアミック酸−ポリアミド共重合体の一部もしくは全部を脱水閉環反応させたポリアミドイミドである。
【0034】
本発明の液晶配向剤に用いるポリアミック酸またはその誘導体を得るときには、テトラカルボン酸二無水物の一部をジカルボン酸に置き換えて使用してもよい。このとき、テトラカルボン酸二無水物の全量に対するジカルボン酸の比率は、10モル%以下にすることが好ましい。また、ジアミンの一部をモノアミンに置き換えて用いてもよい。このとき、ジアミンの全量に対するモノアミンの比率は、10モル%以下にすることが好ましい。
【0035】
化合物(I)の例は、下記の化合物(I−1)および化合物(I−2)であり、これらを併用してもよく、それぞれ単独で用いてもよい。そして、これらの化合物のうち化合物(I−1)が好ましい。


【0036】
その他のテトラカルボン酸二無水物を併用するとき、すべてのテトラカルボン酸二無水物の合計量を基準とする化合物(I)の好ましい割合は10〜100モル%であり、より好ましい割合は25〜100モル%である。
【0037】
その他のテトラカルボン酸二無水物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物、脂肪族テトラカルボン酸二無水物および脂環式テトラカルボン酸二無水物のいずれであってもよく、任意に選択される。本発明のポリアミック酸が液晶配向剤の成分として使用されるためには、溶剤に可溶なポリマーであることが好ましく、そのためには用いるテトラカルボン酸二無水物を適宜に選択することが好ましい。
【0038】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の好ましい例を次に示す。下記の芳香族テトラカルボン酸二無水物のうち、より好ましい例は化合物(1)、化合物(2)、化合物(5)、化合物(6)および化合物(7)であり、最も好ましい例は化合物(1)(ピロメリット酸二無水物)である。






【0039】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物および脂環式テトラカルボン酸二無水物の好ましい例を次に示す。下記のテトラカルボン酸二無水物のうち、より好ましい例は化合物(14)〜化合物(29)、および化合物(60)であり、最も好ましい例は化合物(14)(1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物)である。本発明のポリアミック酸を溶剤に可溶性のポリイミドとするには、化合物(19)、化合物(20)、化合物(27)〜化合物(29)、または化合物(60)を用いることが好ましい。
【0040】





















【0041】
化合物(I)と併用することができるその他のテトラカルボン酸二無水物の上記以外の例として、側鎖構造を有するテトラカルボン酸二無水物を挙げることもできる。側鎖構造を有するテトラカルボン酸二無水物を併用してポリアミック酸を合成するときには、このポリアミック酸を用いて形成される液晶配向膜に、液晶表示素子のプレチルト角を大きくする効果を期待することができる。側鎖構造を有するテトラカルボン酸二無水物の好ましい例として、下記の式(63)または式(64)で表されるステロイド骨格を有する化合物を挙げることができる。
【0042】




【0043】
なお、本発明で用いるその他のテトラカルボン酸二無水物は、上記の化合物(1)〜化合物(64)に限定されない。
【0044】
化合物(I)を用いてポリアミック酸またはその誘導体を製造するときにもう1つの原料として用いるジアミンは、一般的に用いられるジアミンから任意に選択することができる。化合物(I)を用いる効果を更に高めるために好ましいジアミンの例は、式(II)〜式(VIII)のそれぞれで表される化合物の群から選択される化合物である。そして、これらのジアミンの中から少なくとも1つを選択して用いてもよいし、またはこの(これらの)ジアミンとその他のジアミン(化合物(II)〜化合物(VIII)以外のジアミン)とを混合して用いてもよい。


【0045】
式(II)〜式(VIII)において、nは1〜12の整数であり;Gは独立して、単結合、−O−、−S−、−S−S−、−SO−、−CO−、−CO−NH−、−NH−CO−、−C(CH−、−C(CF−、−(CH−、−O−(CH−O−、または−S−(CH−S−であって、mは1〜12の整数であり;Gは独立して、単結合、−O−、−S−、−CO−、−C(CH−、−C(CF−または炭素数1〜3のアルキレンであり;シクロヘキサン環およびベンゼン環の任意の水素は、フッ素または−CH3で置き換えられていてもよく;そして、シクロヘキサン環またはベンゼン環に対するアミノ基の結合位置は、GまたはGの結合位置を除く任意の位置である。
【0046】
化合物(II)〜化合物(IV)の例を次に示す。


【0047】
化合物(V)の例を次に示す。


【0048】
化合物(VI)の例を次に示す。


【0049】


【0050】
化合物(VII)の例を次に示す。


【0051】
化合物(VIII)の例を次に示す。


【0052】
化合物(II)〜化合物(VIII)に関する上記の具体例のうち、より好ましい例は化合物(V−1)〜化合物(V−5)、化合物(VI−1)〜化合物(VI−12)、化合物(VI−26)、化合物(VI−27)、化合物(VII−1)、化合物(VII−2)、化合物(VII−6)、および化合物(VIII−1)〜化合物(VIII−5)であり、特に好ましい例は化合物(V−1)、化合物(V−2)、および化合物(VI−1)〜化合物(VI−12)である。
【0053】
本発明で化合物(II)〜化合物(VIII)を用いるとき、使用するジアミンの全量に対する化合物(II)〜化合物(VIII)の割合は、選択されたジアミンの構造と、所望する電圧保持率および残留DC低減効果に応じて調整される。その好ましい割合は20〜100モル%であり、より好ましい割合は50〜100モル%であり、更に好ましい割合は70〜100モル%である。
【0054】
好ましいジアミンのもう1つの例は側鎖構造を有するジアミンである。これらのジアミンは、特にVA型液晶表示素子、OCB型液晶表示素子、STN型液晶表示素子等の大きなプレチルト角が要求されるような用途で用いられる。なお、本明細書において、側鎖構造を有するジアミンは、2つのアミノ基を結ぶ鎖を主鎖としたときに、この主鎖に対して側方に位置する置換基を有するジアミンを意味する。すなわち、側鎖構造を有するジアミンは、テトラカルボン酸二無水物と反応することで、重合体の主鎖に対して側方位に置換基を有するポリアミック酸またはポリイミド(分岐ポリアミック酸または分岐ポリイミド)を提供することができる。このようなポリアミック酸またはポリイミドを含有する液晶配向剤から形成される液晶配向膜は、液晶表示素子におけるプレチルト角を大きくすることができる。
【0055】
従って、側鎖構造を有するジアミンにおける側方置換基は、要求されるプレチルト角に応じて適宜選択すればよい。例えば、このこの側方置換基は炭素数3以上の基が好ましく挙げられる。具体的には、
1)置換基を有していてもよいフェニル、置換基を有していてもよいシクロヘキシル、置換基を有していてもよいシクロヘキシルフェニル、置換基を有していてもよいビス(シクロヘキシル)フェニル、または炭素数3以上のアルキル、アルケニルもしくはアルキニル、
2)置換基を有していてもよいフェニルオキシ、置換基を有していてもよいシクロヘキシルオキシ、置換基を有していてもよいビス(シクロヘキシル)オキシ、置換基を有していてもよいフェニルシクロヘキシルオキシ、置換基を有していてもよいシクロヘキシルフェニルオキシ、または炭素数3以上のアルキルオキシ、アルケニルオキシもしくはアルキニルオキシ、
3)フェニルカルボニル、または炭素数3以上のアルキルカルボニル、アルケニルカルボニルもしくはアルキニルカルボニル、
4)フェニルカルボニルオキシ、または炭素数3以上のアルキルカルボニルオキシ、アルケニルカルボニルオキシもしくはアルキニルカルボニルオキシ、
5)置換基を有していてもよいフェニルオキシカルボニル、置換基を有していてもよいシクロヘキシルオキシカルボニル、置換基を有していてもよいビス(シクロヘキシル)オキシカルボニル、置換基を有していてもよいビス(シクロヘキシル)フェニルオキシカルボニル、置換基を有していてもよいシクロヘキシルビス(フェニル)オキシカルボニル、または炭素数3以上のアルキルオキシカルボニル、アルケニルオキシカルボニルもしくはアルキニルオキシカルボニル、
6)フェニルアミノカルボニル、または炭素数3以上のアルキルアミノカルボニル、アルケニルアミノカルボニルもしくはアルキニルアミノカルボニル、
7)炭素数3以上の環状アルキレン、
8)置換基を有していてもよいシクロヘキシルアルキレン、置換基を有していてもよいフェニルアルキレン、置換基を有していてもよいビス(シクロヘキシル)アルキレン、置換基を有していてもよいシクロヘキシルフェニルアルキレン、置換基を有していてもよいビス(シクロヘキシル)フェニルアルキレン、置換基を有していてもよいフェニルアルキルオキシ、アルキルフェニルオキシカルボニル、またはアルキルビフェニリルオキシカルボニル、
9)置換基を有してもよいベンゼン環および/または置換基を有してもよいシクロヘキサン環が、単結合、−O−、−COO−、−O−CO−、−CO−NH−若しくは炭素数1〜3のアルキレンを介して結合した、2個以上の環を有する基、あるいはステロイド骨格を有する基などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
上記の置換基の例として、アルキル、フッ素置換アルキル、アルコキシ、およびアルコキシアルキルを挙げることができる。なお、本明細書において、特に説明せずに用いられた「アルキル」は、直鎖アルキルおよび分岐鎖アルキルのどちらでもよいことを示す。「アルケニル」および「アルキニル」についても同様である。
【0057】
側鎖構造を有するジアミンの好ましい例は、式(X)〜式(XIV)のそれぞれで表される化合物の群から選択される化合物である。


【0058】
式(X)における記号の意味は次の通りである。Gは単結合、−O−、−COO−、−O−CO−、−CO−、−CO−NH−または−(CH−であって、mは1〜12の整数である。Rは炭素数3〜20のアルキル、フェニル、ステロイド骨格を有する基、または下記の式(X−a)で表される基である。このアルキルにおいて、任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして任意の−CH2−は−O−、−CH=CH−または−C≡C−で置き換えられていてもよい。このフェニルの水素は、−F、−CH、−OCH、−OCHF、−OCHFまたは−OCFで置き換えられてもよい。ベンゼン環へのアミノ基の結合位置は任意であるが、2つのアミノ基の結合位置関係はメタまたはパラであることが好ましい。即ち、基「R−G−」の結合位置を1位としたとき、2つのアミノ基はそれぞれ、3位と5位、または2位と5位に結合していることが好ましい。
【0059】


ここに、Rは水素、フッ素、炭素数1〜20のアルキル、炭素数1〜20のフッ素置換アルキル、炭素数1〜20のアルコキシ、−CN、−OCHF、−OCHFまたは−OCFであり;G、GおよびGは結合基であって、これらは独立して単結合、−O−、−COO−、−O−CO−、−CO−NH−、−CH=CH−または炭素数1〜12のアルキレンであり;A、AおよびAは環であって、これらは独立して1,4−フェニレン、1,4−シクロへキシレン、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、ピリミジン−2,5−ジイル、ピリジン−2,5−ジイル、ナフタレン−1,5−ジイル、ナフタレン−2,7−ジイルまたはアントラセン−9,10−ジイルであり;すべての環において、任意の水素はフッ素または−CHで置き換えられてもよく;a、bおよびcは独立して0〜2の整数であって、これらの合計は1〜5であり;a、bまたはcが2であるとき、2つの結合基は同じであっても異なってもよく、そして2つの環は同じであっても異なってもよい。
【0060】


【0061】
式(XI)および式(XII)における記号の意味は次の通りである。Rは独立して水素または−CHである。Rは独立して水素、炭素数1〜20のアルキル、または炭素数2〜20のアルケニルである。Gは独立して単結合、−CO−または−CH2−である。式(XII)におけるベンゼン環の1つの水素は、炭素数1〜20のアルキルまたはフェニルで置き換えられてもよい。そして、環を構成するいずれかの炭素原子に結合位置が固定されていない基は、その環における結合位置が任意であることを示す。
【0062】
式(XI)における2つの基「NH−フェニレン−G−O−」の一方はステロイド核の3位に結合し、もう一方はステロイド核の6位に結合していることが好ましい。式(XII)における2つの基「NH−フェニレン−G−O−」のベンゼン環への結合位置は、ステロイド核の結合位置に対して、それぞれメタ位またはパラ位であることが好ましい。式(XI)および式(XII)において、ベンゼン環に対するアミノ基の結合位置は、Gの結合位置に対してメタ位またはパラ位であることが好ましい。
【0063】


【0064】
式(XIII)および式(XIV)における記号の意味は次の通りである。Rは水素または炭素数1〜20のアルキルであって、このアルキルのうち炭素数2〜20のアルキルにおける任意の−CH2−は、−O−、−CH=CH−または−C≡C−で置き換えられてもよい。Rは炭素数6〜22のアルキルであり、そしてRは水素または炭素数1〜22のアルキルである。Gは−O−または炭素数1〜6のアルキレンである。Aは1,4−フェニレンまたは1,4−シクロヘキシレンであり、Gは単結合または炭素数1〜3のアルキレンであり、そしてdは0または1である。ベンゼン環へのアミノ基の結合位置は任意であるが、Gの結合位置に対してメタ位またはパラ位であることが好ましい。
【0065】
本発明において化合物(X)〜化合物(XIV)をジアミン原料として用いるとき、これらのジアミンの中から少なくとも1つを選択して用いてもよいし、またはこの(これらの)ジアミンとその他のジアミン(化合物(X)〜化合物(XIV)以外のジアミン)とを混合して用いてもよい。このとき、その他のジアミンの選択範囲には前記の化合物(II)〜化合物(VIII)も含まれる。
【0066】
化合物(X)の例を次に示す。


これらの式において、Rは炭素数3〜20のアルキルまたは炭素数3〜20のアルコキシであり、好ましくは炭素数5〜20のアルキルまたは炭素数5〜20のアルコキシである。Rは炭素数1〜18のアルキルまたは炭素数1〜18のアルコキシであり、好ましくは炭素数3〜18のアルキルまたは炭素数3〜18のアルコキシである。
【0067】


これらの式において、R10は炭素数4〜16のアルキルであり、好ましくは炭素数6〜16のアルキルである。R11は炭素数6〜20のアルキルであり、好ましくは炭素数8〜20のアルキルである。
【0068】


これらの式において、R12は炭素数1〜20のアルキル、または炭素数1〜20のアルコキシであり、好ましくは炭素数3〜20のアルキル、または炭素数3〜20のアルコキシである。R13は水素、フッ素、炭素数1〜20のアルキル、炭素数1〜20のアルコキシ、−CN、−OCHF、−OCHFまたは−OCFであり、好ましくは炭素数3〜20のアルキルまたは炭素数3〜20のアルコキシである。そして、G10は炭素数1〜20のアルキレンである。
【0069】


【0070】
化合物(X)に関する上記の具体例のうち、化合物(X−1)〜化合物(X−11)が好ましく、化合物(X−2)、化合物(X−4)、化合物(X−5)、および化合物(X−6)がより好ましい。
【0071】
化合物(XI)の例を次に示す。


【0072】
化合物(XII)の例を次に示す。


【0073】
化合物(XIII)の例を次に示す。


これらの式において、R14は水素または炭素数1〜20のアルキル、好ましくは水素または炭素数1〜10のアルキルであり、そしてR15は水素または炭素数1〜10のアルキルである。
【0074】
化合物(XIV)の例を次に示す。


これらの式において、R16は炭素数6〜20のアルキル基であり、R17は水素または炭素数1〜10のアルキル基である。
【0075】
本発明で化合物(X)〜化合物(XIV)を用いるとき、使用するジアミンの全量に対する化合物(X)〜化合物(XIV)の割合は、選択された側鎖構造を有するジアミンの構造と、所望するプレチルト角に応じて調整される。その割合は1〜100モル%であり、好ましい割合は5〜80モル%である。
【0076】
本発明では、化合物(II)〜化合物(VIII)でもなく、化合物(X)〜化合物(XIV)でもないジアミンを用いることができる。このようなジアミンの例は、ナフタレン系ジアミン、フルオレン環を有するジアミン、シロキサン結合を有するジアミンなどであり、化合物(X)〜化合物(XIV)以外の側鎖構造を有するジアミンを挙げることもできる。
【0077】
シロキサン結合を有するジアミンの例は、下記の式(XV)で表されるジアミンである。


ここに、R18およびR19は独立して炭素数1〜3のアルキルまたはフェニルであり、G10はメチレン、フェニレンまたはアルキル置換されたフェニレンである。jは1〜6の整数を表し、kは1〜10の整数を表す。)
【0078】
化合物(X)〜化合物(XIV)以外の側鎖構造を有するジアミンの例を次に示す。


ここに、R20およびR21は独立して炭素数3〜20のアルキル基である。
【0079】
本発明では、ジアミンの種類およびその組み合わせを適宜選択することにより、本発明の液晶配向剤を用いて形成される液晶配向膜に、好適なプレチルト角を付与することができる。VA型液晶表示素子の場合には80〜90°程度の大きなプレチルト角が、OCB型液晶表示素子の場合には7〜20°程度のプレチルト角が、TN型液晶表示素子やSTN型液晶表示素子の場合には3〜10°程度のプレチルト角が、そしてIPS型液晶表示素子の場合には0〜3°程度の小さなプレチルト角が、それぞれ要求される場合が多い。従って、プレチルト角を適宜調整することができる本発明の液晶配向剤は、任意の種類の液晶表示素子に適用することができる。
【0080】
以下、本発明で用いるジアミンについて、液晶表示素子の駆動方式、およびプレチルト角と関係付けて説明する。
1)VA型液晶表示素子の場合
VA型液晶表示素子に好適な大きなプレチルト角を付与するためには、側鎖構造を有するジアミンとして、フェニレンジアミン構造と側鎖構造を共に有するジアミン、例えば前記の化合物(X−1)〜化合物(X−48)を特に好ましく用いることができる。フェニレンジアミン構造を有するジアミンは、2つのアミノ基を結ぶ骨格を主骨格としたときに、例えば前記の化合物(XI)〜化合物(XIV)と比べて主骨格部分の分子長が短くなる。その結果、このジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られるポリアミック酸またはその誘導体においては、側鎖構造の空間的な密度(側鎖密度)を高くすることができるため、VA型液晶表示素子の液晶配向剤としてより好適に用いることができる。さらに、フェニレンジアミン構造と側鎖構造を共に有するジアミンは、その他の側鎖構造を有するジアミン、前記の化合物(II)〜化合物(VIII)、フルオレン環を有するジアミン、またはシロキサン結合を有するジアミンと組み合わせて用いることができる。
【0081】
2)OCB型液晶表示素子、TN型液晶表示素子、STN型液晶表示素子の場合
OCB型液晶表示素子、TN型液晶表示素子、STN型液晶表示素子等の液晶表示素子に好適なプレチルト角を付与するためには、前記の化合物(X)〜化合物(XIV)を好ましく用いることができる。さらには、これらの側鎖構造を有するジアミンを、化合物(II)〜化合物(VIII)、フルオレン環を有するジアミン、またはシロキサン結合を有するジアミンと組み合わせて用いることができる。
【0082】
3)IPS型液晶表示素子の場合
IPS型液晶表示素子に好適な小さなプレチルト角を付与するためには、化合物(II)〜化合物(VIII)を用いることは好ましい。これらのジアミンをフルオレン環を有するジアミンやシロキサン結合を有するジアミンと組み合わせて用いることもできる。さらに、IPS型液晶表示素子に好適な小さなプレチルト角が得られる限り、側鎖構造を有するジアミンを組み合わせて用いてもよい。
【0083】
前記の通り、本発明で用いるジアミンの一部は、モノアミンに置き換えてもよい。ジアミンの一部をモノアミンに置き換えることにより、重合反応のターミネーションを起こして、それ以上の反応の進行を抑えることができることので、得られる重合体(ポリアミック酸)の分子量を容易に制御することができる。ジアミンに対するモノアミンの比率は、本発明の効果を損なわない範囲にすればよいが、目安として全アミン量の10モル%以下にすることが好ましい。
【0084】
本発明のポリアミック酸またはその誘導体は、任意の重量平均分子量を有することができる。液晶配向剤の成分として用いられる場合は5×10以上であることが好ましく、1×10以上であることがより好ましい。5×10以上の重量平均分子量を有するポリアミック酸またはその誘導体は、配向膜を焼成するステップにおいて蒸発することがなく、液晶配向剤の成分として好ましい物性を有する。この重量平均分子量の上限については、液晶配向剤として用いたときに好ましい粘度となるような、また液晶配向剤のゲル化が抑制されるような重量平均分子量であればよく、目安として5×10以下であることが好ましい。
【0085】
ポリアミック酸またはその誘導体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により測定される。例えば、得られたポリアミック酸またはその誘導体をジメチルホルムアミド(DMF)でポリアミック酸濃度が約1重量%になるように希釈し、クロマトパックC−R7A(島津製作所製)を用いて、DMFを展開剤としてゲル浸透クロマトグラフ分析(GPC)法により測定し、ポリスチレン換算することにより求める。さらに、ポリアミック酸やポリアクリル酸等のGPC測定を精度良く行うために、リン酸、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸で展開剤および希釈液のpH値を2〜6に調整することがある。(特開昭60−73456号参照)
また、本発明のポリアミック酸またはその誘導体の分子量分布は多分散度で表すことができる。多分散度とは重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)の値である。本発明において、その値は1.5〜5であることが好ましい。ここで分子量分布は分子量測定と同様のGPC法により測定される。
【0086】
本発明のポリアミック酸は、公知の方法を用いて製造することができる。例えば、原料投入口、窒素導入口、温度計、攪拌機およびコンデンサーを備えた反応容器に、化合物(II)〜化合物(VIII)および化合物(X)〜化合物(XIV)の群から選択される少なくとも1種のジアミンと、場合によってはこれらの他のジアミンから選択される少なくとも1種、さらに必要に応じてモノアミンの所望量を仕込む。
次に、溶剤(例えばアミド系極性溶剤であるN−メチル−2−ピロリドンやジメチルホルムアミドなど)および化合物(I)の少なくとも1種と、場合によってはその他のテトラカルボン酸二無水物の少なくとも1種、さらに必要に応じてジカルボン酸を投入する。このときテトラカルボン酸二無水物の総仕込み量は、ジアミンの総モル数とほぼ等モル(モル比0.9〜1.1程度)とすることが好ましい。
攪拌下に温度0〜70℃で1〜48時間反応させることによりポリアミック酸の溶液を得ることができる。また、加熱して反応温度を、例えば50〜80℃に上げることにより、分子量の小さいポリアミック酸を得ることもできる。
【0087】
本発明のポリアミック酸は、多量の貧溶剤で沈殿させ、固形分と溶剤とを濾過などにより完全に分離し、IR、NMRで分析することにより同定され得る。さらには、KOHやNaOH等の強アルカリの水溶液で固形のポリアミック酸を分解後、有機溶剤で抽出し、GC、HPLCもしくはGC−MSで分析することにより、使用されているモノマーを同定することができる。
【0088】
得られたポリアミック酸溶液は、所望の粘度に調整するために溶剤で希釈して使用することができる。
【0089】
また、本発明のポリアミック酸を、ポリアミック酸誘導体である可溶性ポリイミドとする場合には、得られたポリアミック酸溶液を、脱水剤である無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などの酸無水物、および脱水閉環触媒であるトリエチルアミン、ピリジン、コリジンなどの三級アミンとともに、温度20〜150℃でイミド化反応させて得ることができる。得られたポリアミック酸溶液から多量の貧溶剤(メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶剤やグリコール系溶剤)を用いてポリアミック酸を析出させ、析出させたポリアミック酸を、トルエン、キシレン等の溶剤中で、前記と同様の脱水剤および脱水閉環触媒とともに、温度20〜150℃でイミド化反応させることもできる。
【0090】
前記イミド化反応において、脱水剤と脱水閉環触媒の割合は0.1〜10(モル比)であることが好ましい。両者の合計使用量は、使用するテトラカルボン酸二無水物の合計量に対するモル比で1.5〜10倍であることが好ましい。この化学的イミド化の脱水剤、触媒量、反応温度および反応時間を調整することによって、イミド化の程度を制御し、部分ポリイミドを得ることができる。得られたポリイミドは、溶剤と分離して後述する溶剤に再溶解させて液晶配向剤として使用することもできるし、あるいは溶剤と分離することなく液晶配向剤として使用することもできる。
【0091】
前記のように、本発明では、テトラカルボン酸二無水物の一部をジカルボン酸に置き換えてもよい。ジカルボン酸とテトラカルボン酸二無水物を併用すると、ポリアミック酸−ポリアミド共重合体を得ることができる。このとき、テトラカルボン酸二無水物に対するジカルボン酸の比率は、本発明の効果を損なわない範囲にすればよいが、目安としては10モル%以下にすることが好ましい。さらに、このポリアミック酸−ポリアミド共重合体を化学的にイミド化することによってポリアミドイミドを製造することができる。
【0092】
以下の説明における用語「ポリアミック酸」は、実施例における使用例を除き、ポリアミック酸および上記のようなポリアミック酸の誘導体の総称として用いられる。後述のポリアミック酸Aおよびポリアミック酸Bについても同様である。本発明の液晶配向剤の別の好ましい形態は、少なくとも2種のポリアミック酸を含む組成物である。これらのうちの1種のポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物(T1)と化合物(II)〜化合物(VIII)の群から選択される少なくとも1つのジアミンまたはこの(これらの)ジアミンとその他のジアミンとの混合物とを反応させて得られるポリアミック酸である。このポリマーを「ポリアミック酸A」と称することがある。もう1種のポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物(T2)と側鎖構造を有するジアミンの少なくとも1つまたはこれ(これら)のジアミンとその他のジアミンとの混合物とを反応させて得られるポリアミック酸である。このポリマーを「ポリアミック酸B」と称することがある。そして、テトラカルボン酸二無水物(T1)とテトラカルボン酸二無水物(T2)の少なくとも一方が、化合物(I)であるかまたは化合物(I)とその他のテトラカルボン酸二無水物との混合物である。なお、この組成物には、本発明の効果が阻害されない限り、ポリアミック酸Aとポリアミック酸B以外のポリアミック酸が含まれてもよい。本発明においては、ポリアミック酸Aから選択される1つのポリマーを単独で用いてもよく、2つ以上のポリマーを混合して用いてもよい。ポリアミック酸Bについても同様である。以下の説明において、ポリマーAはポリアミック酸Aから選択される少なくとも1つのポリマーを意味する。ポリマーBはポリアミック酸Bから選択される少なくとも1つのポリマーを意味する。
【0093】
ポリアミック酸Aおよびポリアミック酸Bのどちらを製造するに際しても、前述のようにテトラカルボン酸二無水物の一部をジカルボン酸に置き換えてもよく、またジアミンの一部をモノアミンに置き換えてもよい。ジカルボン酸またはモノアミンを用いる効果やその好ましい使用割合については、前記の通りである。そして、化合物(I)以外のテトラカルボン酸二無水物を併用することができることおよび化合物(II)〜化合物(VIII)または化合物(X)〜化合物(XIV)以外のジアミンを併用できることについても、前記の通りである。
【0094】
ポリアミック酸Aとポリアミック酸Bとを組み合わせて使用することにより、本発明の液晶配向剤に好ましい特性を付与することができる。具体的には、ジアミンの種類およびその組み合わせを適宜選択することにより、本発明の液晶配向剤を用いて形成される液晶配向膜に、さらに良好な電圧保持率および顕著な残留DC低減効果、および好適なプレチルト角を付与することができる。
【0095】
テトラカルボン酸二無水物(T1)とテトラカルボン酸二無水物(T2)の少なくとも一方において、化合物(I)の含有量は、テトラカルボン酸二無水物全量の10〜100モル%であることが好ましく、25〜100モル%であることがさらに好ましい。化合物(I)を用いて合成されるポリアミック酸を液晶配向剤に利用することにより、この液晶配向剤から形成される液晶配向膜は、それを含む液晶表示素子に良好な電圧保持率および顕著な残留DC低減効果を付与することができる。
【0096】
ポリアミック酸Aとポリアミック酸Bとを含む組成物においては、(ポリマーA/ポリマーB)の重量比が99/1〜50/50であることが好ましく、95/5〜80/20であることがより好ましい。この重量比は、必要とされるプレチルト角に応じて適宜調整されればよく、ポリマーBの比率を上げればプレチルト角を大きくすることができる。
【0097】
本発明の液晶配向剤におけるポリアミック酸の含有率は、液晶配向剤の基板への塗布方法によって適宜選択されることができる。例えば、通常の液晶表示素子の製造工程で用いられる印刷機(オフセット印刷機やインクジェット印刷機を含む。以下、「印刷機」と略すことがある。)で使用される液晶配向剤におけるポリアミック酸の含有率は、液晶配向剤の粘度(後述)との関係で適宜調整され、0.5〜30重量%であり、好ましくは1〜15重量%である。本発明の液晶配向剤における溶剤の含有率は、70〜99.5重量%であり、好ましくは85〜99重量%である。このポリマー含有率は、ポリアミック酸Aとポリアミック酸Bとを混合して用いる場合においても同様であり、ポリマーAとポリマーBの合計の含有率が0.5〜30重量%であることが好ましい。そして、本発明の液晶配向剤は、後述のようにその他の添加剤を含有することができる。
【0098】
本発明に用いられる溶剤は、ポリアミック酸などの製造工程や用途で通常使用されている溶剤から、使用目的に応じて適宜選択される。この溶剤は、1)ポリアミック酸に対して親溶性である非プロトン性極性有機溶剤と、2)表面張力を変えることによる塗布性改善などを目的とする溶剤とを含む混合溶剤であることが好ましい。
【0099】
これらの溶剤の例は以下のとおりである。
1)ポリアミック酸に対し親溶剤である非プロトン性極性有機溶剤(以下、非プロトン性極性有機溶剤)の例は、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、N−メチルプロピオンアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ンである。これらのうち、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、γ−ブチロラクトン、およびγ−バレロラクトンが好ましい。
【0100】
2)表面張力を変えることによる塗布性改善などを目的とした溶剤(以下、その他の溶剤)の例は、乳酸アルキル、3−メチル−3−メトキシブタノール、テトラリン、イソホロン、エチレングリコールモノアルキルエーテル(例:エチレングリコールモノブチルエーテル)、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル(例:ジエチレングリコールモノエチルエーテル)、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル(例:プロピレングリコールモノブチルエーテル)、マロン酸ジアルキル(例:マロン酸ジエチル)、ジプロピレングリコールモノアルキルエーテル(例:ジプロピレングリコールモノメチルエーテル)、およびこれらのエステル化合物(例:アセテート類など)である。これらのうち、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどが好ましい。
【0101】
非プロトン性極性溶剤とその他の溶剤の種類および割合は、液晶配向剤の印刷性、塗布性、溶解性および保存安定性などを考慮して、適宜に設定することができる。非プロトン性極性溶剤は、その他の溶剤よりも相対的に溶解性および保存安定性に優れ、その他の溶剤は印刷性および塗布性に優れる傾向がある。
【0102】
本発明の液晶配向剤は、通常の液晶配向剤に含有される添加剤をさらに含んでいてもよい。添加剤としては、ポリアミック酸以外のポリマー、または低分子化合物をそれぞれの目的に応じて選択して使用することができる。例えば、有機溶剤に可溶性のポリマーを添加剤としてもよく、それらを添加することにより、形成される配向膜の電気特性や配向性を制御することができる。このポリマーの例としては、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア、ポリエステル、ポリエポキサイド、ポリエステルポリオール、シリコン変性ポリウレタン、シリコン変性ポリエステルなどを挙げることができる。
【0103】
低分子化合物の添加剤の例としては、1)塗布性の向上を望むときにはかかる目的に沿った界面活性剤を、2)帯電防止の向上を必要とするときは帯電防止剤を、また3)基板との密着性や対ラビング性の向上を望むときにはシランカップリング剤やチタン系のカップリング剤を用いることができる。シランカップリング剤の例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、パラアミノフェニルトリメトキシシラン、パラアミノフェニルトリエトキシシラン、メタアミノフェニルトリメトキシシラン、メタアミノフェニルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロピルアミン、N,N'−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミンなどを挙げることができる。
【0104】
これらの添加剤の添加量は、ポリアミック酸の総重量に対して0〜10重量%、好ましくは0.1〜3重量%である。
【0105】
本発明の液晶配向剤の粘度は、塗布する方法、ポリアミック酸の濃度、使用するポリアミック酸の種類、溶剤の種類と割合によって好ましい範囲が異なる。例えば、印刷機による塗布の場合は5〜100mPa・s(より好ましくは10〜80mPa・s)である。5mPa・sより小さいと十分な膜厚を得ることが難しくなり、100mPa・sを超えると印刷ムラが大きくなることがある。スピンコートによる塗布の場合は5〜200mPa・s(より好ましくは10〜100mPa・s)が適している。液晶配向剤の粘度は回転粘度測定法により測定され、例えば回転粘度計(東機産業製TVE−20L型)を用いて測定(測定温度:25℃)される。
【0106】
次に、本発明の液晶表示素子について説明する。本発明の液晶表示素子は、1)対向配置された一対の基板、2)前記一対の基板それぞれの対向している面に形成された液晶配向膜、および3)前記一対の基板間に挟持された液晶層を含む。ここで、前記一対の基板の双方に電極が配置されていてもよいが、IPS型液晶表示素子である場合は、前記一対の基板の一方に、電極(櫛型またはジグザグ構造の電極でありうる)が配置されている。
【0107】
前記液晶配向膜は、本発明の液晶配向剤を前記基板に塗布し、加熱することによって形成される液晶配向膜である。ここで液晶配向膜の膜厚は、10〜300nmであることが好ましく、30〜100nmであることがより好ましい。また、液晶配向膜はラビング処理されていることが好ましい。
【0108】
前記対向配置された一対の電極付き基板は、透明基板(例えばガラス基板)であることが好ましい。
【0109】
前記一対の基板間に挟持された液晶層は液晶組成物を含む。ここで液晶組成物は特に制限はされず、駆動モードに応じて、誘電率異方性が正の液晶組成物および誘電率異方性が負の液晶組成物のいずれの組成物も用いることができる。誘電率異方性が正である好ましい液晶組成物の例は、特許第3086228号公報、特許第2635435号公報、特表平5−501735号公報、特開平8−157826号公報、特開平8−231960号公報、特開平9−241644号公報(EP885272A1)、特開平9−302346号公報(EP806466A1)、特開平8−199168号公報(EP722998A1)、特開平9−235552号公報、特開平9−255956号公報、特開平9−241643号公報(EP885271A1)、特開平10−204016号公報(EP844229A1)、特開平10−204436号公報、特開平10−231482号公報、特開2000−087040公報、特開2001−48822公報などに開示されている。
【0110】
VA型液晶表示素子において用いられる液晶組成物は、誘電率異方性が負の各種の液晶組成物とすることができる。好ましい液晶組成物の例は、特開昭57−114532号公報、特開平2−4725号公報、特開平4−224885号公報、特開平8−40953号公報、特開平8−104869号公報、特開平10−168076号公報、特開平10−168453号公報、特開平10−236989号公報、特開平10−236990号公報、特開平10−236992号公報、特開平10−236993号公報、特開平10−236994号公報、特開平10−237000号公報、特開平10−237004号公報、特開平10−237024号公報、特開平10−237035号公報、特開平10−237075号公報、特開平10−237076号公報、特開平10−237448号公報(EP967261A1)、特開平10−287874号公報、特開平10−287875号公報、特開平10−291945号公報、特開平11−029581号公報、特開平11−080049号公報、特開2000−256307公報、特開2001−019965公報、特開2001−072626公報、特開2001−192657公報などに開示されている。
【0111】
前記誘電率異方性が正または負の液晶組成物に、一つ以上の光学活性化合物を添加して使用することも何ら差し支えない。
【0112】
本発明の液晶表示素子は、もちろんその他の部材を有していてもよい。
例えば、薄膜トランジスタを使用したカラー表示のTFT型液晶素子においては、第1の透明基板上に薄膜トランジスタ、絶縁膜、保護膜、信号電極および画素電極などが形成されており、第2の透明基板上に画素領域以外の光を遮断するブラックマトリクス、カラーフィルター、平坦化膜および画素電極などを有しうる。
また、VA型液晶表示素子、特にMVA型液晶表示素子においては、第1の透明基板上にドメインと称される微小な突起物が形成されている。また、基板間のセルギャップの調整用にスペーサーが形成されていてもよい。
【0113】
本発明の液晶表示素子は任意の方法で製作され得るが、例えば、1)前記2枚の透明基板上に液晶配向剤を塗布する工程、2)塗布された液晶配向剤を乾燥する工程、3)乾燥された液晶配向剤を脱水・閉環反応させるために必要な加熱処理をする工程、4)得られた配向膜を配向処理する工程、5)2枚の基板を張り合わせた後に、基板の間に液晶を封入する工程、または一方の基板に液晶を滴下させた後に、もう一方の基板と張り合わせる工程を含む方法で製作される。
【0114】
前記液晶配向剤を塗布する工程における塗布方法としては、スピンナー法、印刷法、ディッピング法、滴下法、インクジェット法などが一般に知られている。これらの方法が本発明においても適用可能である。
【0115】
また、前記乾燥工程および脱水・閉環反応に必要な加熱処理を施す工程の方法として、オーブンまたは赤外炉の中で加熱処理する方法、ホットプレート上で加熱処理する方法などが一般に知られている。これらの方法が本発明においても適用可能である。乾燥工程は、溶剤の蒸発が可能な範囲内の比較的低温(50〜100℃)で実施することが好ましい。加熱処理の工程は一般に150〜300℃程度の温度で行うことが好ましい。
【0116】
配向処理は、OCB型液晶表示素子、TN型液晶表示素子、STN型液晶表示素子、IPS型液晶表示素子では通常ラビング処理を行う。VA型液晶表示素子ではラビング処理を行わないことが多いが行っても良い。
【0117】
次いで、一方の基板上に接着剤を塗布し貼りあわせ真空中で液晶を注入する。滴下注入法の場合には、貼りあわせる前に液晶を基板上に滴下し、その後もう一方の基板で貼りあわせる。貼りあわせに使用した接着剤を熱または紫外線で硬化させて本発明の液晶表示素子が作製される。
【0118】
本発明の液晶表示素子には、偏光板(偏光フィルム)、波長板、光散乱フィルム、駆動回路などが実装されてもよい。
【0119】
VA型液晶表示素子に用いられる液晶配向膜は80〜90°程度のプレチルト角を与えることが好ましく、OCB型液晶表示素子に用いられる液晶配向膜は5〜45°程度、好ましくは7〜20°程度のプレチルト角を与えることが好ましく、TN型液晶表示素子やSTN型液晶表示素子に用いられる液晶配向膜は3〜10°程度のプレチルト角を与えることが好ましく、IPS型液晶表示素子に用いられる液晶配向膜は0〜3°程度のプレチルト角を与えることが好ましい。前述したように、プレチルト角の調整は、主に、1)本発明の側鎖構造を有するジアミンの種類、および本発明のジアミン化合物における側鎖構造を有するジアミンのモル比、2)本発明の組成物におけるポリマーAとポリマーBの重量比などを調整することにより達成される。
【0120】
本発明の液晶表示素子は、電圧保持率が高く、かつ残留DCが低いという特徴を有する。これは本発明の液晶表示素子の液晶配向膜が本発明の液晶配向剤を用いて形成されることによるものであり、化合物(I)をポリアミック酸合成の原料の一部として用いることの効果である。このことは、後述する実施例においても説明されている。
【実施例】
【0121】
以下実施例により、本発明のテトラカルボン酸二無水物およびこのテトラカルボン酸二無水物を用いることによって得られる液晶配向剤および液晶表示素子を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例中、NMRはすべて重ジメチルスルホキシド中で測定した。分子量の測定はGPCを用い、ポリスチレンを標準溶液とし、溶出液はDMFを用いた。なお、以下の実施例においては、容積の単位リットルをLで表示する。従って、mLはミリリットルを意味する。
【0122】
液晶表示素子の評価法
以下に実施例で用いた液晶表示素子の評価法を記載する。
(1)プレチルト角
クリスタルローテーション法により行った。
(2)残留DC
「三宅他、信学技報、EID91−111,p19」に記載の方法により、残留DCを測定した。測定は液晶セルに測定は50mV、1kHzの交流に周波数0.0036Hzの三角波を重畳させて行った。測定温度は25℃であった。この残留DCを「残像」の指標にした。つまり、残留DCが多いほど「残像」が発生し易いことを意味する。
(3)電圧保持率
「水嶋他、第14回液晶討論会予稿集 p78」に記載の方法により行った。測定は、ゲート幅69μs、周波数60Hz、波高±4.5Vの矩形波をセルに印可して行った。測定温度は60℃であった。
【0123】
[実施例1]
<化合物(I−1)の合成>
オートクレーブ容器に市販の5−ヒドロキシフタル酸ジメチルエステル100g(476mmol)、パラジウム/カーボン粉末10gを入れ、酢酸エチル890gを加え、水素圧0.5MPa、80℃で3日間加熱攪拌した。放冷後パラジウム/カーボン粉末を除去し、溶剤を減圧留去して5−ヒドロキシ−1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルエステルを得た。収量93g、収率90%。
【0124】
攪拌羽、温度計を取り付けた1L−3つ口フラスコに、得られた5−ヒドロキシ−1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルエステル93g(430mmol)を入れ、アセトン450mLに溶解させた。溶液を5℃以下に保ちながら、そこに新実験化学講座、21、198に記載の方法に従い調整したジョーンズ試薬270mL(730mmol)をゆっくり滴下した。滴下終了後、反応液を室温まで昇温し、3時間攪拌した。反応液を水にあけ、酢酸エチルで抽出した。有機層を水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶剤を留去し、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルエステル−5−オンを得た。収量88g、収率95%。
【0125】
ディーンスターク還流管を取り付けた1L−ナスフラスコに、得られた1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルエステル−5−オン88g(411mmol)、シアノ酢酸エチル51g(452mmol)、酢酸アンモニウム5.3g(69mmol)、酢酸83g(1381mmol)を入れ、トルエン500mLを加え、8時間加熱還流した。放冷後、反応液を水にあけ、酢酸エチルで抽出した。有機層を水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶剤を留去し、5−(シアノ−カルボキシエチルエステルメチレン)−1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルエステルを得た。収量105g、収率83%。
【0126】
2L−ナスフラスコに、得られた5−(シアノ−カルボキシエチルエステルメチレン)−1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルエステル105g(339mmol)、シアン化ナトリウム22g(441mmol)、および塩化アンモニウム210gを入れ、酢酸メチル1050gと水210gの混合溶剤に溶解させた。溶液を5℃以下に保ちながら4時間攪拌した。反応液を水に投入し、酢酸エチルで抽出した。有機層を水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶剤を留去し、得られた液体をカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=5:1)で分離精製し、5−シアノ−5−(シアノ−カルボキシエチルエステルメチル)−1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルエステルを得た。収量89g、収率78%。
【0127】
2L−ナスフラスコに、得られた5−シアノ−5−(シアノ−カルボキシエチルエステルメチル)−1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルエステル89g(265mmol)を入れ、6N塩酸1Lを加えた。還流させながら加熱しカルボン酸に変換した後、溶剤を減圧留去した。残さに無水酢酸1Lを加え、還流させながら加熱することにより、目的とする1−カルボキシメチルシクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸二無水物(化合物(I−1))を得た。収量35g、収率56%。
H−NMR(ppm):1.84(m、Ch−H、1H)、2.14(d.d、Ch−H、2H、J=18.40)、2.43(m、Ch−H、1H)、2.54(m、Ch−H、2H)、2.70(s、>CH2、2H)、3.17(m、Ch−H、2H).
融点(℃):249.0−250.9
【0128】
[実施例2]
<ポリアミック酸の合成>
攪拌羽、温度計を取り付けた3つ口フラスコに実施例1に準じて合成した化合物(I−1)2.7287gおよび4,4’−ジアミノジフェニルメタン(化合物(VI−1))2.2713gを秤取り、そこにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)65gを加えた。室温で12時間攪拌し、そこにエチレングリコールモノブチルエーテル(BC)30gを加え、さらに2時間攪拌した。溶液の粘度が35m・Paになるまで溶液を60℃に加熱し減粘操作を行い、ポリアミック酸濃度5重量%の溶液を得た。この溶液をPA溶液Aとする。このPA溶液中のポリアミック酸の重量平均分子量は72,000であった。
【0129】
[実施例3、4および比較例1〜4]
テトラカルボン酸二無水物およびジアミンを表1に示すものに代えた以外は、実施例2に記載の方法に準じて、実施例3、4のPA溶液D、Fおよび比較例1〜4のPA溶液B、C、E、Gを得た。実施例2についても再掲する。
<表1>

この表中の全てのPA溶液において、テトラカルボン酸二無水物とジアミンのモル比は1である。
【0130】
[実施例5]
PA溶液Aを6g秤取り、そこにNMP2g、BC2gを加え、ポリアミック酸濃度3重量%の液晶配向剤を調製した。片面にITO電極を設けたガラス基板上にこの溶液を滴下し、スピンナー法により塗布した(2,500rpm、15秒)。塗布後、基板を80℃に加熱し、5分間溶剤を蒸発させた後、オーブン中で230℃、20分間加熱処理を行って、厚さ約100nmの膜を形成させた。
【0131】
このガラス基板上に形成させた膜の表面をラビング処理(処理条件:ラビングローラー回転数=400rpm、ステージ移動速度=30mm/sec、ローラー毛足押し込み量=0.2mm)し、ラビング方向が逆平行になるように対向して2枚を貼り合わせ、セルギャップ20μmの液晶セルを組み立てた。このセルに液晶組成物(a)を真空注入し、110℃、30分間アイソトロピック処理を行い、室温まで冷却して液晶表示素子を得た。この液晶表示素子の残留DCは25℃で0.082Vであり、30Hzおよび0.3Hzでの電圧保持率は99.1%および94.5%であった。この液晶表示素子のプレチルト角は1.2度であった。暗状態での光漏れを目視により観察したが、光漏れは全く確認できなかった。
【0132】
<液晶組成物(a)>


【0133】
[比較例5および6]
PA溶液AをPA溶液BあるいはPA溶液Cに代えた以外は実施例5に記載の方法に準じて液晶配向剤を調製し、液晶表示素子を組み立て、その素子の残留DC、電圧保持率、プレチルト角および暗状態での光漏れを観察した。結果を表2に示す。実施例5についても再掲する。
<表2>

【0134】
[実施例6]
PA溶液Aを5.4g、PA溶液Dを0.6g秤取り、そこにNMP2g、BC2gを加え、ポリアミック酸濃度3重量%の液晶配向剤を調製した。片面にITO電極を設けたガラス基板上にこの溶液を滴下し、スピンナー法により塗布した(2,500rpm、15秒)。塗布後、基板を80℃に加熱し、5分間溶剤を蒸発させた後、オーブン中で230℃、20分間加熱処理を行って、厚さ約100nmの膜を形成させた。
【0135】
このガラス基板上に形成させた膜の表面をラビング処理(処理条件:ラビングローラー回転数=400rpm、ステージ移動速度=30mm/sec、ローラー毛足押し込み量=0.2mm)し、ラビング方向が逆平行になるように対向して2枚を貼り合わせ、セルギャップ20μmの液晶セルを組み立てた。このセルに液晶組成物(a)を真空注入し、110℃、30分間アイソトロピック処理を行い、室温まで冷却して液晶表示素子を得た。この液晶表示素子の残留DCは25℃で0.079Vであり、30Hzおよび0.3Hzでの電圧保持率は99.4%および95.3%であった。この液晶表示素子のプレチルト角は4.7度であった。暗状態での光漏れを目視により観察したが、光漏れは全く確認できなかった。
【0136】
[比較例7]
PA溶液AをPA溶液Bに、PA溶液DをPA溶液Eに代えた以外は実施例6に記載の方法に準じて液晶配向剤を調製し、液晶表示素子を組み立て、その素子の残留DC、電圧保持率、プレチルト角および暗状態での光漏れを観察した。結果を表3に示す。実施例6についても再掲する。
【0137】
<表3>

【0138】
[実施例7]
PA溶液Aを5.4g、PA溶液Fを0.6g秤取り、そこにNMP2g、およびBC2gを加え、ポリアミック酸濃度3重量%の液晶配向剤を調製した。片面にITO電極を設けたガラス基板上にこの溶液を滴下し、スピンナー法により塗布した(2,500rpm、15秒)。塗布後、基板を80℃に加熱し、5分間溶剤を蒸発させた後、オーブン中で230℃、20分間加熱処理を行って、厚さ約100nmの膜を形成させた。
【0139】
このガラス基板上に形成させた膜の面を対向させて2枚を貼り合わせ、セルギャップ20μmの液晶セルを組み立てた。このセルに液晶組成物Bを真空注入し、110℃、30分間アイソトロピック処理を行い、室温まで冷却して液晶表示素子を得た。この液晶表示素子の残留DCは25℃で0.082Vであり、30Hzおよび0.3Hzでの電圧保持率は99.5%および96.1%であった。この液晶表示素子のプレチルト角は90度であった。暗状態での光漏れを目視により観察したが、光漏れは全く確認できなかった。
【0140】
<液晶組成物(b)>


【0141】
[比較例8]
PA溶液AをPA溶液Cに、PA溶液FをPA溶液Gに代えた以外は実施例7に記載の方法に準じて液晶配向剤を調製し、液晶表示素子を組み立て、その素子の残留DC、電圧保持率、プレチルト角および暗状態での光漏れを観察した。結果を表4に示す。実施例7についても再掲する。
【0142】
<表4>

【0143】
[実施例8]
ローラー毛足押し込み量を0.4mmに代えた以外は実施例5に記載の方法に準じて液晶配向剤を調製し、液晶表示素子を組み立て、その素子のプレチルト角および暗状態での光漏れを観察した。この液晶表示素子のプレチルト角は1.2度であり、暗状態での光漏れを目視により観察したが、光漏れは全く確認できなかった。
【0144】
[比較例9]
ローラー毛足押し込み量を0.4mmに代えた以外は比較例5に記載の方法に準じて液晶配向剤を調製し、液晶表示素子を組み立て、その素子のプレチルト角および暗状態での光漏れを観察した。この液晶表示素子のプレチルト角は1.2度であり、暗状態での光漏れを目視により観察したが、筋状の光漏れが一部に観測された。
【0145】
[実施例9]
ローラー毛足押し込み量を0.4mmに代えた以外は実施例6に記載の方法に準じて液晶配向剤を調製し、液晶表示素子を組み立て、その素子のプレチルト角および暗状態での光漏れを観察した。この液晶表示素子のプレチルト角は4.7度であり、暗状態での光漏れを目視により観察したが、光漏れは全く確認できなかった。
【0146】
[比較例10]
ローラー毛足押し込み量を0.4mmに代えた以外は比較例7に記載の方法に準じて液晶配向剤を調製し、液晶表示素子を組み立て、その素子のプレチルト角および暗状態での光漏れを観察した。この液晶表示素子のプレチルト角は4.2度であり、暗状態での光漏れを目視により観察したが、筋状の光漏れが一部に観測された。
【0147】
本発明の液晶配向剤を用いた表示素子は、上記のように、従来のものと比べて、残留DCが低い、電圧保持率が高いなどの良好な電気特性を有する。本発明の液晶配向剤から形成される液晶配向膜は、ラビングでの配向処理の条件に依らず安定した所望する一定のプレチルト角を液晶分子に付与することが可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表されるテトラカルボン酸二無水物:


式(I)において、pおよびqは独立して0または1であり、これらの合計は1または2である。
【請求項2】
pとqの合計が1である、請求項1に記載のテトラカルボン酸二無水物。
【請求項3】
式(I)で表されるテトラカルボン酸二無水物またはこのテトラカルボン酸二無水物とその他のテトラカルボン酸二無水物との混合物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸およびその誘導体から選択される少なくとも1つのポリマーを含有する液晶配向剤:


ここに、pおよびqは独立して0または1であり、これらの合計は1または2である。
【請求項4】
ジアミンが、式(II)〜式(VIII)のそれぞれで表される化合物の群から選択される少なくとも1つのジアミンまたはこの(これらの)ジアミンとその他のジアミンとの混合物である、請求項3に記載の液晶配向剤:


ここに、nは1〜12の整数であり;Gは独立して単結合、−O−、−S−、−S−S−、−SO−、−CO−、−CO−NH−、−NH−CO−、−C(CH−、−C(CF−、−(CH−、−O−(CH−O−、または−S−(CH−S−であって、mは1〜12の整数であり;Gは独立して単結合、−O−、−S−、−CO−、−C(CH−、−C(CF−または炭素数1〜3のアルキレンであり;シクロヘキサン環およびベンゼン環の任意の水素は、フッ素または−CH3で置き換えられていてもよく;そして、シクロヘキサン環またはベンゼン環に対するアミノ基の結合位置は、GまたはGの結合位置を除く任意の位置である。
【請求項5】
ジアミンが、側鎖構造を有するジアミンの少なくとも1つまたはこの(これらの)ジアミンとその他のジアミンとの混合物である、請求項3または4に記載の液晶配向剤。
【請求項6】
側鎖構造を有するジアミンが、式(X)〜式(XIV)のそれぞれで表される化合物の群から選択されるジアミンである、請求項5に記載の液晶配向剤:


ここに、Gは単結合、−O−、−COO−、−O−CO−、−CO−、−CO−NH−または−(CH−であって、mは1〜12の整数であり;Rは炭素数3〜20のアルキル、フェニル、ステロイド骨格を有する基または式(X−a)で表される基であり;このアルキルにおいて、任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして任意の−CH2−は−O−、−CH=CH−または−C≡C−で置き換えられてもよく;このフェニルの水素は、−F、−CH、−OCH、−OCHF、−OCHFまたは−OCFで置き換えられてもよく;そして、ベンゼン環へのアミノ基の結合位置は任意である:


ここに、Rは水素、フッ素、炭素数1〜20のアルキル、炭素数1〜20のフッ素置換アルキル、炭素数1〜20のアルコキシ、−CN、−OCHF、−OCHFまたは−OCFであり;G、GおよびGは結合基であって、これらは独立して単結合、−O−、−COO−、−O−CO−、−CO−NH−、−CH=CH−または炭素数1〜12のアルキレンであり;A、AおよびAは環であって、これらは独立して1,4−フェニレン、1,4−シクロへキシレン、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、ピリミジン−2,5−ジイル、ピリジン−2,5−ジイル、ナフタレン−1,5−ジイル、ナフタレン−2,7−ジイルまたはアントラセン−9,10−ジイルであり;すべての環において、任意の水素はフッ素または−CHで置き換えられてもよく;a、bおよびcは独立して0〜2の整数であって、これらの合計は1〜5であり;a、bまたはcが2であるとき、2つの結合基は同じであっても異なってもよく、そして2つの環は同じであっても異なってもよい:



式(XI)および式(XII)において、Rは独立して水素または−CHであり、Rは独立して水素、炭素数1〜20のアルキル、または炭素数2〜20のアルケニルであり;Gは独立して単結合、−CO−または−CH2−であり;式(XII)におけるベンゼン環の1つの水素は、炭素数1〜20のアルキルまたはフェニルで置き換えられてもよく;そして、環を構成するいずれかの炭素原子に結合位置が固定されていない基は、その結合位置が任意であることを示す:


式(XIII)および式(XIV)において、Rは水素または炭素数1〜20のアルキルであって、このアルキルにおける任意の−CH2−は、−O−、−CH=CH−または−C≡C−で置き換えられてもよく;Rは炭素数6〜22のアルキルであり、そしてRは水素または炭素数1〜22のアルキルであり;Gは−O−または炭素数1〜6のアルキレンであり;Aは1,4−フェニレンまたは1,4−シクロヘキシレンであり、Gは単結合または炭素数1〜3のアルキレンであり、そしてdは0または1であり;そして、ベンゼン環へのアミノ基の結合位置は任意である。
【請求項7】
式(II)〜式(VIII)のそれぞれで表される化合物の群から選択される少なくとも1つのジアミンまたはこの(これらの)ジアミンとその他のジアミンとの混合物とテトラカルボン酸二無水物(T1)とを反応させて得られるポリアミック酸およびその誘導体から選択される少なくとも1つのポリマー、並びに側鎖構造を有するジアミンの少なくとも1つまたはこの(これらの)ジアミンとその他のジアミンとの混合物とテトラカルボン酸二無水物(T2)とを反応させて得られるポリアミック酸およびその誘導体から選択される少なくとも1つのポリマーを含有する液晶配向剤であって、テトラカルボン酸二無水物(T1)とテトラカルボン酸二無水物(T2)の少なくとも一方が、式(I)で表されるテトラカルボン酸二無水物またはこのテトラカルボン酸二無水物とその他のテトラカルボン酸二無水物との混合物であることを特徴とする液晶配向剤:


ここに、pおよびqは独立して0または1であり、これらの合計は1または2である:


ここに、nは1〜12の整数であり;Gは独立して単結合、−O−、−S−、−S−S−、−SO−、−CO−、−CO−NH−、−NH−CO−、−C(CH−、−C(CF−、−(CH−、−O−(CH−O−、または−S−(CH−S−であって、mは1〜12の整数であり;Gは独立して単結合、−O−、−S−、−CO−、−C(CH−、−C(CF−または炭素数1〜3のアルキレンであり;シクロヘキサン環およびベンゼン環の任意の水素は、フッ素または−CH3で置き換えられていてもよく;そして、シクロヘキサン環またはベンゼン環に対するアミノ基の結合位置は、GまたはGの結合位置を除く任意の位置である。
【請求項8】
側鎖構造を有するジアミンが、式(X)〜式(XIV)のそれぞれで表される化合物の群から選択されるジアミンである、請求項7に記載の液晶配向剤:


ここに、Gは単結合、−O−、−COO−、−O−CO−、−CO−、−CO−NH−または−(CH−であって、mは1〜12の整数であり;Rは炭素数3〜20のアルキル、フェニル、ステロイド骨格を有する基または式(X−a)で表される基であり;このアルキルにおいて、任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして任意の−CH2−は−O−、−CH=CH−または−C≡C−で置き換えられてもよく;このフェニルの水素は、−F、−CH、−OCH、−OCHF、−OCHFまたは−OCFで置き換えられてもよく;そして、ベンゼン環へのアミノ基の結合位置は任意である:


ここに、Rは水素、フッ素、炭素数1〜20のアルキル、炭素数1〜20のフッ素置換アルキル、炭素数1〜20のアルコキシ、−CN、−OCHF、−OCHFまたは−OCFであり;G、GおよびGは結合基であって、これらは独立して単結合、−O−、−COO−、−O−CO−、−CO−NH−、−CH=CH−または炭素数1〜12のアルキレンであり;A、AおよびAは環であって、これらは独立して1,4−フェニレン、1,4−シクロへキシレン、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、ピリミジン−2,5−ジイル、ピリジン−2,5−ジイル、ナフタレン−1,5−ジイル、ナフタレン−2,7−ジイルまたはアントラセン−9,10−ジイルであり;すべての環において、任意の水素はフッ素または−CHで置き換えられてもよく;a、bおよびcは独立して0〜2の整数であって、これらの合計は1〜5であり;a、bまたはcが2であるとき、2つの結合基は同じであっても異なってもよく、そして2つの環は同じであっても異なってもよい:


式(XI)および式(XII)において、Rは独立して水素または−CHであり、Rは独立して水素、炭素数1〜20のアルキル、または炭素数2〜20のアルケニルであり;Gは独立して単結合、−CO−または−CH2−であり;式(XII)におけるベンゼン環の1つの水素は、炭素数1〜20のアルキルまたはフェニルで置き換えられてもよく;そして、環を構成するいずれかの炭素原子に結合位置が固定されていない基は、その結合位置が任意であることを示す:


式(XIII)および式(XIV)において、Rは水素または炭素数1〜20のアルキルであって、このアルキルにおける任意の−CH2−は、−O−、−CH=CH−または−C≡C−で置き換えられてもよく;Rは炭素数6〜22のアルキルであり、そしてRは水素または炭素数1〜22のアルキルであり;Gは−O−または炭素数1〜6のアルキレンであり;Aは1,4−フェニレンまたは1,4−シクロヘキシレンであり、Gは単結合または炭素数1〜3のアルキレンであり、そしてdは0または1であり;そして、ベンゼン環へのアミノ基の結合位置は任意である。
【請求項9】
請求項3〜8のいずれか1項に記載の液晶配向剤を塗布し、加熱することによって形成される液晶配向膜。
【請求項10】
請求項9に記載の液晶配向膜を有する液晶表示素子。
【請求項11】
対向配置された一対の基板であってその一方または双方に電極が配置されている基板、これらの基板のそれぞれの対向している面に形成された液晶配向膜およびこれらの基板に挟持された液晶層を有する液晶表示素子であって、この液晶配向膜が請求項9に記載の液晶配向膜である液晶表示素子。
【請求項12】
請求項1に記載の式(I)で表されるテトラカルボン酸二無水物またはこのテトラカルボン酸二無水物とその他のテトラカルボン酸二無水物との混合物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸。
【請求項13】
請求項1に記載の式(I)で表されるテトラカルボン酸二無水物またはこのテトラカルボン酸二無水物とその他のテトラカルボン酸二無水物との混合物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸の誘導体。

【公開番号】特開2007−145805(P2007−145805A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−259991(P2006−259991)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【出願人】(596032100)チッソ石油化学株式会社 (309)
【Fターム(参考)】