説明

テトラヒドロキシ化合物

【課題】新規なテトラヒドロキシ化合物を提供し、低級アルコールへの十分な溶解性を有し、電荷輸送特性に優れ、成膜した際に結晶化したり他の組成物との相溶性不足による相分離を起こしたりすることのない成膜性に優れるアルコール可溶性電荷輸送材料の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるテトラヒドロキシ化合物。


{Ar、Arは、アリレン基を表し、Xは、下記一般式(2)で代表される2価基を表す。


(Arは、アリレン基を、Ar、Arは、アリール基を表す。)}代表化合物はN−{4−[2,2−ビス(4−(2,3−ジヒドロキシプロピルオキシ)フェニル)ビニル]フェニル}−N,N−ビス(4−トリル)アミンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なテトラヒドロキシ化合物及び該化合物からなる有機電子写真感光体、有機発光素子、有機TFT、有機太陽電池等の有機電荷輸送材料を用いた有機半導体デバイスに使用される電荷輸送材料に関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体デバイスは、その成膜に各種溶液塗工法を適用することができ、無機半導体デバイスの真空成膜法に比べて、大面積化、低コスト化、オンデマンド化等において大きな利点を有し、広く検討される様になった。
一方、デバイスの高機能化・高性能化に伴い、デバイス構成は複雑化し、複数の層からなるデバイスが一般的である。例えば、有機電子写真感光体では、アルミドラム上に下引き層、電荷発生層、電荷輸送層の3層構成が一般的であるが、特許文献1では、さらに電荷輸送層の上に表面層を加えて高機能化を図る提案がされている。
有機発光素子においてもホール注入層、ホール移動層、発光層、電子輸送層等の積層構成が一般的であり、このような積層素子をインクジェット方式等による溶液塗工法で形成しようとすると下地を溶解しない溶媒を用いて上層を形成する必要がある。
この様に有機層の上に有機層を積層する際には、溶解性の大きく異なる塗工液を交互に使用することで界面の明瞭な積層素子を形成することができる。
【0003】
一方、電荷輸送性材料としてはこれまで多くの材料が提案されてきたが、その機能性発現の基本構造としてベンゼン環を有する芳香族化合物であり、基本的に似た溶媒溶解性を示し、トルエン、酢酸エチル、THF等の有機溶媒に可溶な物が多い。これらの多くは、メタノール、エタノールのような低級アルコール溶媒にはほとんど溶解しない為、この様な溶媒による塗工液であれば、通常の電荷輸送材料の上に界面を保持しつつさらに積層化することが可能である。しかしながら、これまで低級アルコール溶媒に実質的に可溶な電荷輸送材料はほとんど知られていない。
先の特許文献1では、アルコール可溶性電荷輸送材料を表面層の一構成物として使用する提案がされ、アルコール可溶性電荷輸送材料としては、ベンジジン構造又はトリフェニルアミン構造にカルボン酸または水酸基を導入した構造体が提案されている。
実施化合物としてN,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−ヒドロキシフェニル)−[1,1′−ビフェニル]−4,4′−ジアミンを含む二種の化合物が記載されているが、メタノールの溶解性にはいずれも不足している。これは、極性基としてのヒドロキシ基1個当りの分子量がまだ大きく、極性が不足している為である。
【0004】
そこで、提案の範囲でヒドロキシ基の数を3個、4個と増やすことが考えられるが、3置換体、4置換体の合成は容易ではなく、安価に提供することができないことや、電荷輸送性を低下させる問題もあり、良好な電荷輸送性と良好なアルコール可溶性とを両立する実用的電荷輸送性材料の提案にまで至っていない。
特許文献2でも、有機電子写真感光体において表面保護層にアルコール可溶性電荷輸送材料を一構成物とする提案がされている。この中でもアルコール可溶性電荷輸送材料としてヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルコキシ基により修飾した電荷輸送材料が提案されている。
実施化合物としてN,N−ビス(4−ヒドロキシエチルフェニル)−4−エチル−3−メチルアニリンを含む4種の化合物が記載されているが、2−ヒドロキシエチル基をいずれも置換基とした化合物であり、その合成にはエチレンオキシドの使用が一般的であるが、その物の危険性から使用困難な試薬であり、合成は容易では無い。
【0005】
特許文献3には、有機電子写真感光体において最表層を形成する構成物の一つとしてアルコール可溶性電荷輸送物質を使用した提案がされている。この中でアルコール可溶性電荷輸送物質としては末端ヒドロキシ基のポリアルキレンオキシド鎖を1ないし2個有する構造体が提案されている。
実施化合物として1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−[4−(パラジトリルアミノ)フェニル]エタンを含む6種の化合物が記載されているが、いずれもヒドロキシ基1個当りの分子量が大きく、メタノール単独への溶解性は不足している。
以上のようにアルコール可溶性電荷輸送材料については、相互溶解を十分に防止できる低級アルコールへの十分な溶解性(固形分20重量%以上溶解可能であること)を有し、且つ、電荷輸送特性に優れ、且つ、製造が容易で安価に提供できるところまで至っていない。
【0006】
【特許文献1】特開2001−235889号公報
【特許文献2】特開2002−6517号公報
【特許文献3】特開2003−76043号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、新規なテトラヒドロキシ化合物を提供し、低級アルコールへの十分な溶解性を有し、電荷輸送特性に優れ、安価に供給でき、成膜した際に結晶化したり他の組成物との相溶性不足による相分離を起こしたりすることのない成膜性に優れるアルコール可溶性電荷輸送材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1は、下記一般式(1)で表されるテトラヒドロキシ化合物に関する。
【化6】

[式中、Ar、Arは、置換基を有しても良いアリレン基を表し、Xは、下記一般式(2)、下記一般式(3)または下記一般式(4)で表される2価基を表す。
【化7】

(式中、Arは、置換基を有しても良いアリレン基を表し、Ar、Arは、置換基を有しても良いアリール基を表す。)
【化8】

(式中、Arは、置換基を有しても良いアリレン基またはアリール基を表し、Ar、Arは、置換基を有しても良いアリール基を表し、nは0〜2の整数を表す。)
【化9】

(式中、Rは、水素原子、置換基を有しても良いアルキル基を表し、Arは、置換基を有しても良いアリレン基を表し、Ar10、Ar11は、置換基を有しても良いアリール基を表す。)]
本発明の第2は、下記一般式(5)で表される請求項1記載のテトラヒドロキシ化合物に関する。
【化10】

(式中、Ar12、Ar13は、置換基を有しても良いアリール基を表す。)
本発明の第3は、請求項1又は2記載のテトラヒドロキシ化合物からなることを特徴とする電荷輸送材料に関する。
【0009】
前記一般式(1)〜(5)において、Ar、Ar、Ar、Ar及び一般式(3)においてn=1〜2の場合のArは、置換基を有しても良いアリレン基を表す。
置換基を有しても良いアリレン基としては、下記芳香族炭化水素の2価基を挙げることができる。
アリレン基を誘導する芳香族炭化水素としては、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、スチルベン、ジスチリルベンゼンが挙げられる。
これらの置換基としては、ハロゲン原子、置換基を有しても良い炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有しても良いアルコキシ基が挙げられる。ハロゲン原子の具体例として、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができる。
また、炭素数1〜6のアルキル基としては具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、t−ブチル基、s−ブチル基、n−ブチル基、i−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基等であり、その置換基としては、ハロゲン原子、フェニル基が挙げられる。
また、置換基を有しても良いアルコキシ基は、上記置換基を有しても良い炭素数1〜6のアルキル基を有するアルコキシ基を表し、その具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、t−ブトキシ基、n−ブトキシ基、ベンジルオキシ基等が挙げられる。
これらのアリレン基の内、Ar、Arに対して好ましいものはベンゼンから誘導されるフェニレン基であり、その中でもパラフェニレン基、メタフェニレン基が特に好ましい。
また、有しても良い置換基としては、炭素数1〜6のアルキル基、アルコキシ基が好ましく、メチル基、メトキシ基が特に好ましい。
【0010】
前記一般式(1)〜(5)において、Ar、Ar、Ar、Ar、Ar10、Ar11、Ar12、Ar13及び一般式(3)においてn=0の場合のArは、置換基を有しても良いアリール基を表す。
置換基を有しても良いアリール基としては、下記芳香族炭化水素の1価基を挙げることができる。
アリール基を誘導する芳香族炭化水素としては、ベンゼン、ナフタレン、フルオレン、トリフェニレン、フェナントレン、アントラセン、ピレン、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン、ビフェニル、ターフェニル、スチルベン等が挙げられる。
これらの置換基としては、ハロゲン原子、置換基を有しても良い炭素数1〜6のアルキル基、置換基を有しても良いアルコキシ基が挙げられる。
ハロゲン原子の具体例として、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができる。
また、炭素数1〜6のアルキル基としては具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、t−ブチル基、s−ブチル基、n−ブチル基、i−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基等であり、その置換基としては、ハロゲン原子、フェニル基が挙げられる。
また、置換基を有しても良いアルコキシ基は、上記置換基を有しても良い炭素数1〜6のアルキル基を有するアルコキシ基を表し、その具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、t−ブトキシ基、n−ブトキシ基、ベンジルオキシ基等が挙げられる。
【0011】
本発明に係る化合物として実施例1および2に示す化合物の他、下記の化合物を例示することができる。
【化11】

【0012】
【化12】

【0013】
【化13】

【0014】
次に本発明に係る化合物の製造方法について説明する。
下記反応スキーム1に記載の様にジオール化合物にメタクリル酸グリシジルの様なカルボン酸グリシジルエステル化合物を開環付加反応させて生成されるヒドロキシ基含有ジカルボン酸ジエステル中間体を加水分解することで容易に高収率で目的のテトラヒドロキシ化合物を合成することができる。
メタクリル酸グリシジルは、工業用試薬として入手可能な試薬であり、好ましいカルボン酸グリシジルエステル化合物の一つである。
開環付加反応は、ジオール化合物とメタクリル酸グリシジルを適当な溶媒に溶解させ、加熱攪拌することで行うことができる。その際、触媒として3級アミン化合物または4級アンモニウム塩化合物を少量添加することが効果的である。
溶媒としては、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒、酢酸エチル等のエステル系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒が使用できる。
加熱は、室温〜150℃であり、好ましくは60℃〜120℃である。
温度が低過ぎると反応時間が遅くなり、高過ぎると副反応が多くなる。
触媒として使用される3級アミンの具体例としては、トリエチルアミン、ベンジルジエチルアミン等を挙げることができ、4級アンモニウム塩の具体例としては、ベンジルエチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド等を挙げることができる。
触媒の添加量としては、ジオール化合物の0.01〜5wt%程度であり、通常1〜2wt%程度で十分である。
反応時間は、数時間から数十時間であり、好ましい温度範囲、触媒添加量であれば5〜10時間で終了する。
このとき得られるヒドロキシ基含有ジカルボン酸ジエステル中間体を速やかに加水分解するためには、水酸化ナトリウムの様な無機塩基の水溶液を添加し、さらに加熱攪拌すればよい。
この時の反応温度は室温〜100℃で良く、好ましくは60℃〜95℃である。加水分解は通常数時間で終了する。
【0015】
反応スキーム1
【化14】

【0016】
また、下記反応スキーム2に記載の様にジオール化合物にエピクロロヒドリンを反応させ、得られるエポキシ化合物に水を開環付加させて目的物を得ることもできる。
反応スキーム2
【化15】

【発明の効果】
【0017】
1.前記一般式(1)で表されるアルコール可溶性電荷輸送材料は、良好な電荷輸送性を発現する構造を有し且つ、電荷輸送性を損なわないようにドナー骨格から最小限の結合で電子吸引性基のヒドロキシ基を非共役な連結基を介しながら4個有することで、メタノール等の低級アルコールに高濃度に溶解され、且つ、優れた電荷輸送性を有するアルコール可溶性電荷輸送材料の提供が可能になった。
また、2,3−ジヒドロキシプロピルオキシ基は、ジオール誘導体から工業用試薬を使用して容易に高収率で製造することが出来る為、安価に提供できる。
また、2,3−ジヒドロキシプロピルオキシ基を2個含有させることで分子の対称性を大きく崩し、非晶性を高めたため、結晶化による膜欠陥や混合材料との相分離が起こりにくく、安定な有機アモルファス膜形成電荷輸送性材料として広い用途で使用できる。
2.前記一般式(5)で表されるアルコール系電荷輸送材料は、ホール移動度で優れた特性を示すジアリールアミノスチルベン構造を有し、アルコール可溶性を付与する構造の2,3−ジヒドロキシプロピルオキシ基をホールのホッピングサイトとなるトリアリールアミン構造部から最も離れた部位に配することでエネルギーレベルや電荷移動能を変化させることなくアルコール可溶性を実現している。従って、請求項1の効果と共に特に電荷輸送能に優れたアルコール可溶性電荷輸送材料の提供が可能になった。
【実施例】
【0018】
以下、実施例及び比較例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0019】
実施例1
N−{4−[2,2−ビス(4−(2,3−ジヒドロキシプロピルオキシ)フェニル)ビニル]フェニル}−N,N−ビス(4−トリル)アミン
N−{4−[2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ビニル]フェニル}−N,N−ビス(4−トリル)アミン14.51g、メタクリル酸グリシジルエステル9.45g、トルエン20mlを反応容器に入れ、攪拌しながら90℃まで昇温させた後、トリエチルアミン0.24gを加え、その後95℃で7.5時間反応させた。
その後一旦冷却し、10%の水酸化ナトリウム水溶液30mlとトルエン15mlを加え、再度昇温させて90℃で3時間反応させた。
放冷した後、水60ml、0.5N塩酸水溶液100mlを加え、酢酸エチルで生成物を抽出した。得られた有機層を希塩酸水溶液で洗浄した後、飽和食塩水で洗浄し、さらに無水硫酸マグネシウムを加えて脱水した。
その後、濾過、濃縮し、酢酸エチルとテトラヒドロフランの混合溶媒にてシリカゲルを用いてカラム精製した。その結果、黄色の非晶質固体として13.29gの目的物が得られた(収率70%)。
大気圧化学イオン化法によりイオン化し、ポジティブモードで測定したm/z値は632であり、分子式から計算される分子量631.77に1を加えた値と一致した。赤外吸収スペクトルを図1に示す。
以上のようにビスフェノール誘導体にメタクリル酸グリシジルエステルを開環付加させた後に加水分解することで容易に2,3−ジヒドロキシプロピルオキシ基の2置換体を合成することができる。
これによりヒドロキシ基を4個有する電荷輸送性材料を容易に提供することができる。
【0020】
評価
アルコール溶解性
実施例1で得られたN−{4−[2,2−ビス(4−(2,3−ジヒドロキシプロピルオキシ)フェニル)ビニル]フェニル}−N,N−ビス(4−トリル)アミンと比較材料として下記構造のヒドロキシ基含有化合物を用い、固形分を5wt%、10wt%、20wt%、30wt%、40wt%、50wt%、60wt%と変えたメタノール溶液を作製し、室温で1時間放置後の溶解性を観察した。固形物が完全に無くなり透明溶液となった場合を○、固形物が残ったり透明溶液とならなかった場合を×とした。その結果を、下表に示す。
また、アルコール可溶性樹脂(ポリアミド樹脂 CM8000:東レ社製)と1:1の重量比で固形分20wt%のメタノール溶液を作製し、膜厚20μmになるようにアルミ板上にブレード塗工し、23℃で風乾したときの膜の状態を観察した。透明な膜が得られた場合を○、結晶化や相溶性が悪い等で濁った膜が得られた場合を×とした。その結果を下表に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

以上のように実施例1の化合物が優れたメタノール溶解性及び他のアルコール可溶性部材との優れた成膜性を示すことがわかる。
【0024】
応用例1
電荷輸送性ゾルゲル架橋膜の作製
信越化学工業社製LS−530(メチルトリメトキシシラン)1.5g、実施例1で得られたN−{4−[2,2−ビス(4−(2,3−ジヒドロキシプロピルオキシ)フェニル)ビニル]フェニル}−N,N−ビス(4−トリル)アミン1.5g、1%酢酸水溶液0.05g、メタノール12gを室温で一時間攪拌反応させた。さらに、トリス(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム(III)化合物53.4mgを加え、アルコール塗工液を作製した。
リコー社製ImagioNeo752用感光体の上に上記塗工液をスプレーコートし、膜厚2μmの表面層を形成した。その後、130℃で1時間加熱し、表面層を硬化させた。得られた感光体をImagioNeo752本体に戻し、コピーしたところ良好な画像が得られた。
以上から、良好な電荷輸送性を示すことがわかる。
【0025】
比較例
前記化合物(6)〜化合物(9)を使用する他は応用例1と同様にして感光体上への電化輸送性ゾルゲル架橋膜の作製を試みた。その結果、化合物(6)、化合物(7)及び化合物(9)についてはメタノールへの溶解性が不足し、塗工液の作製が出来なかった。
また、化合物(8)については、スプレー塗工後に相分離が発生し、白濁した膜となってしまった。その為に硬化が十分進まず、感光体として使用できなかった。
以上のように本願化合物は優れた溶解性、成膜性、非結晶性を有し、アルコールを溶媒とする処方系において高濃度でも使用することが出来、広い範囲の用途に使用することが出来る。
【0026】
実施例2
N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス[4−(2,3−ジヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]ベンジジンの合成
N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス−4−メトキシフェニルベンジジン中間体の合成
攪拌装置、温度計、冷却管をつけた反応容器に、N,N′−ジフェニルベンジジン4.98g、4−ブロモアニソール6.22g、カリウム−t−ブトキシド4.54g、酢酸パラジウム0.03g、キシレン80mlを入れ、室温、窒素気流下、トリ−t−ブチルフォスフィン0.2mlを加えた。フォスフィン投入後、120℃で4時間反応を行った。その後、反応液を室温まで冷却し、少量のシリカゲルカラムクロマトグラフィーを通して不要物を取り除いた。得た濾液を減圧濃縮し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(溶媒:n−ヘキサン/トルエン=2/3)で精製した(白色結晶、収量4.35g、収率53.6%、融点134.5〜135.5℃)。
N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス−4−ヒドロキシフェニルベンジジン中間体の合成
攪拌装置、温度計、冷却管をつけた反応容器に、N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス−4−メトキシフェニルベンジジン3.26g、塩化メチレン30mlを入れ、氷冷下で1Mの三臭化ホウ素の塩化メチレン溶液13mlを滴下し、更に同温度で1時間20分反応を行なった。その後、反応液を氷水に注ぎ込み、塩化メチレンで抽出した。有機層を水洗した後、分離し、硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(溶媒:トルエン/酢酸エチル=9/1)で精製した(淡黄色結晶、収量2.87g、収率92.8%、融点229.0〜230.0℃)。
N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス[4−(2,3−ジヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]ベンジジンの合成
攪拌装置、温度計、冷却管をつけた反応容器に、N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス−4−ヒドロキシフェニルベンジジン20.8g、メタクリル酸グリシジルエステル12.3ml、トルエン50mlを入れ、90℃まで昇温させた後、トリエチルアミン0.36gを加え、さらに95℃で7時間反応を行った。
その後、10%の水酸化ナトリウム水溶液40mlとトルエン40mlを加えて94℃で2時間反応させた。
反応終了後、酢酸エチルで抽出し、有機層を中和、水洗した後、分離し、減圧濃縮した。残渣をヘキサンで洗浄した後、シリカゲルクロマトグラフィー(溶媒:酢酸エチル/テトラヒドロフラン=1/1)で精製した。
その結果、非晶質の無色固体として17.8gの目的物が得られた(収率67%)。
大気圧化学イオン化法によりイオン化し、ポジティブモードで測定したm/z値は、669であり、分子式から計算される分子量668.79に1を加えた値(プロトン付加)と一致した。赤外吸収スペクトルを図2に示す。
この化合物は、実施例1の化合物と同等のメタノール溶解性、成膜性を示した。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例1で得られた化合物の赤外吸収スペクトルを示す図。
【図2】実施例2で得られた化合物の赤外吸収スペクトルを示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるテトラヒドロキシ化合物。
【化1】

[式中、Ar、Arは、置換基を有しても良いアリレン基を表し、Xは、下記一般式(2)、下記一般式(3)または下記一般式(4)で表される2価基を表す。
【化2】

(式中、Arは、置換基を有しても良いアリレン基を表し、Ar、Arは、置換基を有しても良いアリール基を表す。)
【化3】

(式中、Arは、置換基を有しても良いアリレン基またはアリール基を表し、Ar、Arは、置換基を有しても良いアリール基を表し、nは0〜2の整数を表す。)
【化4】

(式中、Rは、水素原子、置換基を有しても良いアルキル基を表し、Arは、置換基を有しても良いアリレン基を表し、Ar10、Ar11は、置換基を有しても良いアリール基を表す。)]
【請求項2】
下記一般式(5)で表される請求項1記載のテトラヒドロキシ化合物。
【化5】

(式中、Ar12、Ar13は、置換基を有しても良いアリール基を表す。)
【請求項3】
請求項1又は2記載のテトラヒドロキシ化合物からなることを特徴とする電荷輸送材料


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−153765(P2007−153765A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−348181(P2005−348181)
【出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】