説明

テトラヒドロピランを溶媒とする1級アミド化合物の製造方法

【課題】より安全性が高く、簡便な、高極性反応原料等にも適用できる1級アミド化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】1級アミン化合物とカルボン酸化合物、カルボン酸塩化物またはカルボン酸無水物をテトラヒドロピラン中で反応させる1級アミド化合物の製造方法。毒性が低いテトラヒドロピランを反応溶媒として使用することにより、反応操作の簡素化、溶媒の再使用及び使用量の低減などに可能にあり、さらに高極性反応原料に対しても広く適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はテトラヒドロピラン中で1級アミン化合物とカルボン酸化合物、カルボン酸塩化物またはカルボン酸無水物を反応させ、1級アミド化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、1級アミド化合物は1級アミン化合物とカルボン酸化合物を反応させることによって製造される(Organic Functional Group Preparation second edition Volume1 p.315;非特許文献1)。アミド化反応の脱水は一般的に困難であり、高温条件下で行われる。
【0003】
より緩和な反応条件で行われる1級アミド化合物の製造方法としては、塩基の存在下、カルボン酸塩化物またはカルボン酸無水物と1級アミン化合物を反応させる方法がある(Chemical Review, 52 P237 (1953);非特許文献2)。この場合、1級アミド化合物を単離精製するには、反応により生成した塩酸塩、カルボン酸塩等の塩類を分離するために反応溶液に水を加え、副成した塩類を水層に移し、生成物の1級アミド化合物を有機層に抽出して分離する。
【0004】
しかし、一般的に1級アミド化合物は極性が高く、しばし抽出工程において水層に溶解するため、適当な抽出溶媒を加え、1級アミド化合物を水層から回収する抽出工程が必要である。ここで使用される抽出溶媒としては、反応工程と抽出工程に異なる溶媒を用いると溶媒の汚染が起こり、回収再利用することが困難となるため、1級アミド化反応条件で不活性であり、続く抽出工程において1級アミド化合物の有機層への抽出力が高いハロゲン系の溶媒が主に用いられる。しかし、ハロゲン系溶媒は、麻酔性、装置腐食性、燃焼時に塩酸が発生するなどの問題があり、環境や人体へ影響を及ぼし、近年使用の制限、使用自粛が行われている。
【0005】
【非特許文献1】Organic Functional Group Preparation second edition Volume1 p.315
【非特許文献2】Chemical Review, 52 P237 (1953)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、従来公知1級アミン化合物とカルボン酸化合物、カルボン酸塩化物またはカルボン酸無水物による1級アミド化合物の製造方法において、より安全性が高く簡便な1級アミド化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意努力した結果、1級アミン化合物とカルボン酸化合物、カルボン酸塩化物またはカルボン酸無水物の反応溶媒及び抽出溶媒にテトラヒドロピランを用いることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下の1級アミド化合物の製造方法に関するものである。
1.1級アミン化合物とカルボン酸化合物をテトラヒドロピラン中で反応させることを特徴とする1級アミド化合物の製造方法。
2.1級アミン化合物とカルボン酸塩化物をテトラヒドロピラン中で反応させることを特徴とする1級アミド化合物の製造方法。
3.1級アミン化合物とカルボン酸無水物をテトラヒドロピラン中で反応させることを特徴とする1級アミド化合物の製造方法。
4.1級アミド化反応の後、水を加え、反応により生成した1級アミド化合物をテトラヒドロピラン層へ抽出する前記1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
毒性が低いテトラヒドロピランを反応及び抽出溶媒として使用する本発明の1級アミド化合物の製造方法により、反応操作の簡素化、溶媒の再使用及び使用量の低減などが可能になり、さらに高極性反応原料の適用の拡大などが実現できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明の具体的内容について詳細に説明する。
本発明の1級アミド化合物の製造方法は、1級アミン化合物とカルボン酸化合物、カルボン酸塩化物またはカルボン酸無水物をテトラヒドロピラン溶媒中で反応させることを特徴とする。
【0011】
本発明において反応溶媒として使用するテトラヒドロピランは、市販のものが使用でき、精製されているものが好ましいが、特に制限はない。
【0012】
本発明で使用される1級アミン化合物については特に制限はない。具体例としては、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、ベンジルアミン、オクチルアミン、イソプロピルアミン、イソブチルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミンなどの脂肪族1級アミン化合物、アニリン、アニシジン、p−アミノフェノール、トルイジン、p−クロロアニリン、2−ナフチルアミンなどの芳香族1級アミン、2−アミノピリジン、3−アミノピリジン、4−アミノキノリン、5−アミノピリミジン、5−アミノインドールなどの複素環含有アミンなどが挙げられる。
【0013】
本発明で使用されるカルボン酸化合物については特に制限はない。具体例としては、酢酸、プロピオン酸などの脂肪族カルボン酸、安息香酸、テレフタル酸のような芳香族カルボン酸、ピリジンカルボン酸などの複素環式カルボン酸などが挙げられる。
【0014】
本発明で使用されるカルボン酸塩化物については特に制限はない。具体例としては、酢酸クロライド、プロピオン酸クロライドなどの脂肪族カルボン酸塩化物、安息香酸クロライド、テレフタル酸のような芳香族カルボン酸塩化物などが挙げられる。
【0015】
本発明で使用されるカルボン酸無水物については特に制限はない。具体例としては、酢酸無水物、プロピオン酸無水物などの脂肪族カルボン酸、安息香酸無水物、無水フタル酸などの芳香族カルボン酸無水物などが挙げられる。
【0016】
カルボン酸塩化物及びカルボン酸無水物を用いる場合には、少なくとも化学量論量以上の塩基化合物が必要である。炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどの無機塩基、トリエチルアミン、ピリジンなどの3級アミン化合物などが用いられる。
【0017】
本発明のアミド化反応工程における反応時間、温度等の反応条件は、原料や目的1級アミド化合物に適する条件を適宜選択することができる。
本発明では、アミド化反応終了後、反応液に水を加えて、反応により生成する1級アミド化合物と塩類を直接抽出して分離することができる。加える水は、反応に用いたテトラヒドロピランの0.1から5倍重量用いることができる。0.5から2倍重量が好適である。加える水が少ないと塩がテトラヒドロピランに残存することがあり、加える水が多すぎると極性の高い1級アミド化合物の取得量が少なくなる。
【0018】
本発明では反応溶媒と抽出溶媒を同一にすることで、反応操作の簡素化、溶媒の汚染の回避による溶媒の再使用及び使用量の低減などの効果が期待できる。
【実施例】
【0019】
以下に本発明について代表的な例を示し具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
なお、実施例及び比較例における各成分の分析はガスクロマトグラフ装置(アジレント製,6890N)を用い、分析カラムとしてJ&W製DB−1カラム(長さ30m,直径0.32mm,膜厚1μm)を用いた。
【0020】
実施例1:
300mlナスフラスコにテトラヒドロピラン100ml、酢酸クロライド7.8g(100mmol)、トリエチルアミン10.6g(105mmol)、ジメチルアミノピリジン0.1gを入れ、シクロヘキシルアミン10.3g(105mmol)を滴下し、室温で2時間反応させた。水100ml、硫酸水素カリウム1.36g(10mmol)を加え、抽出分離した。反応結果を表1に示した。
【0021】
比較例1:
実施例1で反応抽出溶媒として、テトラヒドピランの代わりにトルエンを用いた。反応結果を表1に示した。
【0022】
比較例2:
実施例1で反応抽出溶媒として、テトラヒドピランの代わりにジクロロメタンを用いた。反応結果を表1に示した。
【0023】
【表1】

【0024】
実施例2:
300mlナスフラスコにテトラヒドロピラン100ml、無水酢酸9.0g(100mmol)、ピリジン9.6g(105mmol)、ジメチルアミノピリジン0.05gを入れ、シクロヘキシルアミン10.4g(105mmol)を室温で滴下した。室温で3時間反応させた。室温に冷却後、水100ml抽出分離した。反応結果を表2に示した。
【0025】
比較例3:
実施例2で反応抽出溶媒として、テトラヒドピランの代わりにトルエンを用いた。反応結果を表2に示した。
【0026】
比較例4:
実施例2で反応抽出溶媒として、テトラヒドピランの代わりにジクロロメタンを用いた。反応結果を表2に示した。
【0027】
【表2】

【0028】
実施例3:
300mlナスフラスコにテトラヒドロピラン100ml、無水酢酸9.0g(100mmol)、トリエチルアミン10.6g(105mmol)、ジメチルアミノピリジン0.05gを入れ、ベンジルアミン11.3g(105mmol)を室温で滴下した。室温で3時間反応させた。室温に冷却後、水100ml抽出分離した。反応結果を表3に示した。
【0029】
比較例5:
実施例3で反応抽出溶媒として、テトラヒドピランの代わりにトルエンを用いた。反応結果を表2に示した。
【0030】
比較例6:
実施例3で反応抽出溶媒として、テトラヒドピランの代わりにジクロロメタンを用いた。反応結果を表2に示した。
【0031】
【表3】

【0032】
実施例4:
300mlナスフラスコにテトラヒドロピラン100ml、無水酢酸9.0g(100mmol)、トリエチルアミン10.6g(105mmol)、ジメチルアミノピリジン0.05gを入れ、アニリン9.8g(105mmol)を室温で滴下した。室温で3時間反応させた。室温に冷却後、水100ml抽出分離した。反応結果を表2に示した。
【0033】
比較例7:
実施例4で反応抽出溶媒として、テトラヒドピランの代わりにトルエンを用いた。反応結果を表2に示した。
【0034】
比較例8:
実施例4で反応抽出溶媒として、テトラヒドピランの代わりにジクロロメタンを用いた。反応結果を表4に示した。
【0035】
【表4】

【0036】
以上の例に示すように、本発明の方法によれば低毒性の条件で、従来のハロゲン系有機溶媒と同程度以上の分配率を示す良好な結果を得ることができる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
1級アミン化合物とカルボン酸化合物をテトラヒドロピラン中で反応させることを特徴とする1級アミド化合物の製造方法。
【請求項2】
1級アミン化合物とカルボン酸塩化物をテトラヒドロピラン中で反応させることを特徴とする1級アミド化合物の製造方法。
【請求項3】
1級アミン化合物とカルボン酸無水物をテトラヒドロピラン中で反応させることを特徴とする1級アミド化合物の製造方法。
【請求項4】
1級アミド化反応の後、水を加え、反応により生成した1級アミド化合物をテトラヒドロピラン層へ抽出する請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−320883(P2007−320883A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−151292(P2006−151292)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】