説明

テトラフルオロエチレンの還元体の製造方法

【課題】本発明は、入手容易なTFEを還元してトリフルオロエチレン、1,1−ジフルオロエチレン等の還元体を簡便に製造する方法を提供する。
【解決手段】トリフルオロエチレン及び/又は1,1−ジフルオロエチレンの製造方法であって、ニッケル又はパラジウムを含む触媒の存在下、テトラフルオロエチレン及びβ水素を有するアルキル金属化合物を反応させることを特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラフルオロエチレンの還元体の製造方法に関する。具体的には、テトラフルオロエチレンをパラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)等の遷移金属錯体を触媒として用い、フッ素原子(F)を還元して、トリフルオロエチレン及び1,1−ジフルオロエチレンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリフルオロエチレン(FC=CHF)及び1,1−ジフルオロエチレン(FC=CH)は、種々のフッ素樹脂の原料モノマーとして重要な含フッ素オレフィンである。これらから得られるポリマーは、大きなダイポールを有することから強誘電性を示し、圧電素子や焦電素子などの機能材料として用いられている。
【0003】
しかし、現在、トリフルオロエチレンは、エチレンを出発原料として下記の多段階の工程を経て製造されている。
【0004】
【化1】

【0005】
また、1,1−ジフルオロエチレンは、アセチレンを原料として下記の多段階の工程を経て製造されている。
【0006】
【化2】

【0007】
これらのフッ素化合物をより簡便に合成することが望まれている。
【0008】
ところで、テトラフルオロエチレン(TFE)は、通常、入手容易なクロロホルムとフッ酸(HF)を反応させて、次いで加熱処理することにより簡便に製造することができる。そのため、TFEは工業製品の基幹モノマーとして大量に製造されている。
【0009】
【化3】

【0010】
TFEのC−F結合はその結合エネルギーが大きいことから、置換反応に対して大きな障壁を持っている。これまでTFEのC−F結合の置換反応により含フッ素オレフィン誘導体の合成例は非常に限られており、特にこれの還元反応はほとんど報告されていない。唯一の例として、非特許文献1には、このTFEに二核イリジウム錯体を反応させて水素還元し、量論的にトリフルオロエチレンが生成することが報告されている。しかし、この方法では、非常に複雑な構造のイリジウム錯体をオレフィンと当量使用しており、工業的な応用には適応できない。
【0011】
さらには、オレフィンのsp2混成炭素上にフッ素と水素の両方を有するアルケン類は、その合成法が極めて限られているため、その化合物例が非常に少ない。これまで、例えば、非特許文献2及び3には、CH−CF=CHFの合成例が、非特許文献4にはt−Bu−CF=CHFの合成例が報告されている。これらのアルケン類は、フッ素樹脂、医薬、農薬等の生理活性化合物としての機能が期待できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】M. Cowieら, Angew. Chem., 2007年, 119巻, 3815頁
【非特許文献2】J. Organomet. Chem., 1989年、364巻、17頁
【非特許文献3】Tetrahedron Lett., 1983年、24巻、5615
【非特許文献4】J. Org. Chem.,1976年、41巻、1980頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、入手容易なTFEを還元してトリフルオロエチレン、1,1−ジフルオロエチレン等の還元体を簡便に製造する方法を提供することを目的とする。さらに、該還元体のフッ素原子を有機基に簡便に置換する方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、ニッケル、パラジウム等の遷移金属触媒の存在下、TFEとβ水素を有するアルキル金属試薬とを反応させることにより、簡便かつ好収率でトリフルオロエチレン及び1,1−ジフルオロエチレンを製造できることを見いだした。この反応は、次の触媒サイクルを経て進行していると考えられる。
【0015】
【化4】

【0016】
(式中、MはPd又はNiを示す。Lは配位子を示す。Rはβ水素を有するアルキル基を示す。)
かかる知見に基づきさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、以下の製造方法に関する。
【0018】
項1.トリフルオロエチレン(5)及び/又は1,1−ジフルオロエチレン(6)の製造方法であって、ニッケル又はパラジウムを含む触媒の存在下、テトラフルオロエチレンとβ水素を有するアルキル金属化合物とを反応させることを特徴とする製造方法。
【0019】
項2.前記β水素を有するアルキル金属化合物が、β水素を有するアルキルマグネシウム化合物又はβ水素を有するアルキル亜鉛化合物である項1に記載の製造方法。
【0020】
項3.前記β水素を有するアルキル金属化合物が、式(7a)及び/又は式(7b):
RMgX (7a)
Mg (7b)
(式中、Rはβ水素を有するアルキル基を示す。XはCl、Br又はIを示す。)
で表される化合物である項1又は2に記載の製造方法。
【0021】
項4.前記β水素を有するアルキル金属化合物が、式(8a)及び/又は式(8b):
Zn (8a)
RZnX (8b)
(式中、Rはβ水素を有するアルキル基を示す。XはCl、Br又はIを示す。)
で表されるβ水素を有するアルキル亜鉛化合物である項1又は2に記載の製造方法。
【0022】
項5.前記触媒がパラジウムを含む触媒である項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【0023】
項6.前記パラジウムを含む触媒が、0価パラジウム錯体;II価パラジウム錯体から発生した0価パラジウム錯体;又はこれらとケトン、ジケトン、ホスフィン、ジアミン及びビピリジルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを混合して得られる錯体である項5に記載の製造方法。
【0024】
項7.前記触媒がニッケルを含む触媒である項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【0025】
項8.前記ニッケルを含む触媒が、0価ニッケル錯体;II価ニッケル錯体から発生した0価ニッケル錯体;又はこれらとケトン、ジケトン、ホスフィン、ジアミン及びビピリジルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを混合して得られる錯体である項7に記載の製造方法。
【0026】
項9.テトラフルオロエチレンの2つのフッ素原子が水素原子及び有機基で置換された化合物の製造方法であって、
(i)ニッケル又はパラジウムを含む触媒の存在下、テトラフルオロエチレンとβ水素を有するアルキル金属化合物とを反応させて、トリフルオロエチレンを製造する工程、及び
(ii)ニッケル又はパラジウムを含む触媒の存在下又は非存在下、該トリフルオロエチレンと有機金属化合物とを反応させてテトラフルオロエチレンの2つのフッ素原子が水素原子及び有機基で置換された化合物を製造する工程、
を含む製造方法。
【0027】
項10.式(9):
【0028】
【化5】

【0029】
(式中、R’は置換基を有しても良いアリール基又は置換基を有しても良いアルキル基を示す。)
で表される化合物の製造方法であって、
(i)ニッケル又はパラジウムを含む触媒の存在下、テトラフルオロエチレンとβ水素を有するアルキル金属化合物とを反応させて、トリフルオロエチレンを製造する工程、及び
(ii)ニッケル又はパラジウムを含む触媒の存在下、該トリフルオロエチレンと有機基としてR’を有する有機マグネシウム化合物又は有機亜鉛化合物とを反応させて、式(9)で表される化合物を製造する工程、を含む項9に記載の製造方法。
【0030】
項11.式(10):
【0031】
【化6】

【0032】
(式中、R’は置換基を有しても良いアリール基又は置換基を有しても良いアルキル基を示す。)
で表される化合物の製造方法であって、
(i)ニッケル又はパラジウムを含む触媒の存在下、テトラフルオロエチレンとβ水素を有するアルキル金属化合物とを反応させて、トリフルオロエチレンを製造する工程、及び
(ii)該トリフルオロエチレンと有機基としてR’を有する有機マグネシウム化合物とを反応させて、式(10)で表される化合物を製造する工程、
を含む項9に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0033】
本発明の製造方法によれば、ニッケル、パラジウム等の遷移金属触媒の存在下、入手容易なTFEにβ水素を有するアルキル金属試薬を反応させることにより、簡便かつ好収率でトリフルオロエチレン、1,1−ジフルオロエチレンを製造できる。
【0034】
更に、得られたトリフルオロエチレンに、ニッケル又はパラジウムを含む触媒の存在下又は非存在下、有機金属化合物を反応させることにより、トリフルオロエチレンのC−F結合を有機基に置換することができる。具体的には、ニッケル又はパラジウムを含む触媒の存在下、トリフルオロエチレンに有機マグネシウム化合物等の有機金属化合物を反応させると、1,1−ジフルオロ−2−置換エチレンが選択的に得られ、ニッケル又はパラジウムを含む触媒の非存在下で有機マグネシウム化合物を反応させると、1,2−ジフルオロ−1−置換エチレンが選択的に得られる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の製造方法は、ニッケル又はパラジウムを含む触媒の存在下、テトラフルオロエチレン及びβ水素を有するアルキル金属化合物を反応させてトリフルオロエチレン及び/又は1,1−ジフルオロエチレンを製造することを特徴とする。
【0036】
ニッケル又はパラジウムを含む触媒としては、それぞれニッケル錯体又はパラジウム錯体が挙げられる。これらの錯体は、試薬として投入するもの又は反応中で生成するもの(触媒活性種)の両方を意味する。
【0037】
パラジウム錯体としては、0価パラジウム錯体;II価パラジウム錯体から反応中に発生した0価パラジウム錯体;又はこれらとケトン、ジケトン、ホスフィン、ジアミン及びビピリジルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(配位子)とを混合して得られる錯体が挙げられる。
【0038】
0価パラジウム錯体としては、特に限定はないが、例えば、Pd(DBA)(DBAはジベンジリデンアセトン)、Pd(COD)(CODはシクロオクタ−1,5−ジエン)、Pd(DPPE)(DPPEは1,2−ビスジフェニルホスフィノエタン)、Pd(PCy(Cyはシクロヘキシル基)、Pd(Pt−Bu(t−Buはtert−ブチル基)、Pd(Pn−Bu(n−Buはノルマルブチル基)及びPd(PPh(Phはフェニル基)等が挙げられる。
【0039】
II価パラジウム錯体としては、例えば、塩化パラジウム、臭化パラジウム、酢酸パラジウム、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)、ジクロロ(η−1,5−シクロオクタジエン)パラジウム(II)、又はこれらにトリフェニルホスフィン等のホスフィン配位子が配位した錯体等が挙げられる。これらのII価パラジウム錯体は、例えば、反応中に共存する還元種(ホスフィン、亜鉛、有機金属試薬等)により還元されて0価パラジウム錯体が生成する。
【0040】
上記の0価パラジウム錯体又はII価パラジウム錯体から還元により生じた0価パラジウム錯体は、反応中で、必要に応じ添加されるジケトン、ホスフィン、ジアミン、ビピリジル等の化合物(配位子)と作用して、反応に関与する0価のパラジウム錯体に変換することもできる。なお、反応中において、0価のパラジウム錯体にこれらの配位子がいくつ配位しているかは必ずしも明らかでは無い。
【0041】
ここで、ケトンとしては、ジベンジリデンアセトン等が挙げられる。
【0042】
ジケトンとしては、アセチルアセトン、1−フェニル−1,3−ブタンジオン、1,3−ジフェニルプロパンジオン等のβジケトン等が挙げられる。
【0043】
ホスフィンとしては、トリアルキルホスフィン又はトリアリールホスフィンが好ましい。トリアルキルホスフィンとしては、具体的には、トリシクロヘキシルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリt−ブチルホスフィン、トリテキシルホスフィン、トリアダマンチルホスフィン、トリシクロペンチルホスフィン、ジt−ブチルメチルホスフィン、トリビシクロ[2,2,2]オクチルホスフィン、トリノルボルニルホスフィン等のトリ(C3−20アルキル)ホスフィンが挙げられる。トリアリールホスフィンとしては、具体的には、トリフェニルホスフィン、トリメシチルホスフィン、トリ(o−トリル)ホスフィン等のトリ(単環アリール)ホスフィンが挙げられる。これらの中でも、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリt−ブチルホスフィンが好ましい。またこれ以外にも、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセンのような二座配位子も有効である。
【0044】
ジアミンとしては、テトラメチルエチレンジアミン、1,2−ジフェニルエチレンジアミン等が挙げられる。
【0045】
これらの配位子のうち、ホスフィン、ジアミン、ビピリジルを配位子が好ましく、さらにトリアリールホスフィンが好ましく、特にトリフェニルホスフィンが好ましい。通常、ホスフィンのように嵩高い配位子を有するパラジウム錯体を用いたほうが、より収率よく目的の還元体を得ることができる。
【0046】
また、ニッケル錯体としては、0価ニッケル錯体;II価ニッケル錯体から反応中に発生した0価ニッケル錯体;又はこれらとジケトン、ホスフィン、ジアミン及びビピリジルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(配位子)とを混合して得られる錯体が挙げられる。
【0047】
0価ニッケル錯体とは、特に限定はないが、例えば、Ni(COD)、Ni(CDD)(CDDはシクロデカ‐1,5−ジエン)、Ni(CDT)(CDTはシクロデカ‐1,5,9−トリエン)、Ni(VCH)(VCHは4−ビニルシクロヘキセン)、Ni(CO)、(PCyNi−N≡N−Ni(PCy、Ni(PPh等が挙げられる。
【0048】
II価ニッケル錯体とは、例えば、塩化ニッケル、臭化ニッケル、酢酸ニッケル、ビス(アセチルアセトナト)ニッケル(II)、又はこれらにトリフェニルホスフィン等のホスフィン配位子が配位した錯体等が挙げられる。これらのII価ニッケル錯体は、例えば、反応中に共存する還元種(ホスフィン、亜鉛、有機金属試薬等)により還元されて0価ニッケル錯体が生成する。
【0049】
上記の0価ニッケル錯体又はII価ニッケル錯体から還元により生じた0価ニッケル錯体は、反応中で、必要に応じ添加される配位子と作用して、反応に関与する0価のニッケル錯体に変換することもできる。なお、反応中において、0価のニッケル錯体にこれらの配位子がいくつ配位しているかは必ずしも明らかでは無い。ニッケル錯体としては、系中で生じる0価のニッケル錯体を安定化させる機能が高いものが好ましい。具体的には、ホスフィン、ジアミン、ビピリジル等の配位子を有しているものが好ましく、特にホスフィンを有しているものが好ましい。
【0050】
ここで、ホスフィンとしては、トリアルキルホスフィン又はトリアリールホスフィンが好ましい。トリアルキルホスフィンとしては、具体的には、トリシクロヘキシルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリt−ブチルホスフィン、トリテキシルホスフィン、トリアダマンチルホスフィン、トリシクロペンチルホスフィン、ジt−ブチルメチルホスフィン、トリビシクロ[2,2,2]オクチルホスフィン、トリノルボルニルホスフィン等のトリ(C3−20アルキル)ホスフィンが挙げられる。トリアリールホスフィンとしては、具体的には、トリフェニルホスフィン、トリメシチルホスフィン、トリ(o−トリル)ホスフィン等のトリ(単環アリール)ホスフィンが挙げられる。これらの中でも、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィンとトリイソプロピルホスフィンが好ましい。
【0051】
ジアミンとしては、テトラメチルエチレンジアミン、1,2−ジフェニルエチレンジアミン等が挙げられる。
【0052】
これらの配位子のうち、トリアリールホスフィンが好ましく、特にトリフェニルホスフィン、トリ(o−トリル)ホスフィン等が好ましい。通常、トリアリールホスフィンのように嵩高い配位子を有するニッケル錯体を用いたほうが、より収率よく目的の還元体を得ることができる。
【0053】
上記の触媒のうち、目的とする有機基で置換された含フッ素オレフィンの反応性、収率、選択性等の観点から、パラジウムを含む触媒、さらにパラジウム錯体、特に0価のパラジウムのホスフィン錯体(とりわけトリフェニルホスフィン錯体)が好ましい。
【0054】
パラジウム又はニッケル触媒(或いは、パラジウム又はニッケル錯体)の使用量は、特に制限されるわけではないが、試薬として投入する0価又はII価のパラジウム錯体又はニッケル錯体の使用量は、β水素を有するアルキル金属化合物1モルに対して、通常、0.001〜1モル程度、好ましくは0.01〜0.1モル程度である。
【0055】
配位子を投入する場合には、配位子の使用量は、β水素を有するアルキル金属化合物1モルに対して、通常、0.002〜2モル程度、好ましくは0.02〜0.2モル程度である。また、配位子と触媒のモル比は、通常2/1〜10/1であり、好ましくは2/1〜4/1である。
【0056】
本発明の製造方法で用いるβ水素を有するアルキル金属化合物は、β位の炭素原子上に水素原子を有するC2以上のアルキル基が金属原子に結合した化合物である。金属原子としては、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)等が挙げられる。具体的には、β水素を有するアルキルマグネシウム化合物又はβ水素を有するアルキル亜鉛化合物が挙げられる。
【0057】
β水素を有するアルキルマグネシウム化合物としては、例えば、式(7a)及び/又は式(7b);
RMgX (7a)
Mg (7b)
(式中、Rはβ水素を有するアルキル基を示す。XはCl、Br又はIを示す。)
で表されるβ水素を有するアルキルマグネシウム化合物が挙げられる。なお、これらの化合物は反応系内において、用いる溶媒と溶媒和物を形成していてもよい。
【0058】
Rで示されるβ水素を有するアルキル基としては、例えば、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル等のβ水素を有するC2〜6のアルキル基が挙げられる。
【0059】
Xは好ましくはBr又はClである。
【0060】
上記のβ水素を有するアルキルマグネシウム化合物は、通常、THF等の不活性溶媒中、β水素を有するアルキルハライドとマグネシウム金属(Mg)を反応させて得られるグリニア試薬を用いることができる。特に、式(7b)で表されるマグネシウム化合物は、グリニア試薬の溶液に貧溶媒を添加して不溶性の塩(例えばMgX)を析出させ濾別し、必要に応じ濾液を乾燥することにより調製することができる。いずもれ公知の方法を採用することができる。
【0061】
β水素を有するアルキル亜鉛化合物としては、式(8a)及び/又は(8b);
Zn (8a)
RZnX (8b)
(式中、R及びXは前記に同じ。)
で表されるβ水素を有するアルキル亜鉛化合物が挙げられる。これらの化合物は反応系内において、用いる溶媒と溶媒和物を形成していてもよい。
【0062】
Rで示されるβ水素を有するアルキル基としては、上述したとおり、例えば、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル等のβ水素を有するC2〜6のアルキル基が挙げられる。
【0063】
上記のβ水素を有するアルキル亜鉛化合物は、市販されている試薬を用いることができ、また公知の方法で製造することもできる。
【0064】
TFE及びβ水素を有するアルキル金属化合物の使用量は、TFEにおいて置換しようとするフッ素原子の数に応じ適宜設定することができる。TFEの使用量は、通常、β水素を有するアルキル金属化合物1モルに対して、0.1〜100モル程度、好ましくは0.5〜10モル程度を用いることができる。
【0065】
本発明の製造方法では、反応系にさらにフッ素親和性化合物を添加して、及び/又は反応系を加熱して反応させることにより、前記式(1)の反応中間体(π錯体)から式(2)への反応中間体(σ錯体)を促進し、C−F結合への酸化的付加反応を容易にすることができる。そのため触媒反応を促進することができる。
【0066】
フッ素親和性化合物としては、フッ素原子との親和性を有する金属(ハードな金属)とハロゲン原子からなるルイス酸性を有する金属ハロゲン化物を挙げることができる。例えば、ハロゲン化リチウム、ハロゲン化マグネシウム、ハロゲン化亜鉛等が挙げられる。具体的には、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等のハロゲン化リチウム;臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム等のハロゲン化マグネシウム;塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛等のハロゲン化亜鉛等が挙げられる。好ましくは、ヨウ化リチウム等のハロゲン化リチウムである。
【0067】
フッ素親和性化合物を投入する場合、その使用量は、通常、β水素を有するアルキル金属化合物1モルに対して、1〜10モル程度、好ましくは1〜1.5モル程度とすることができる。
【0068】
反応温度は特に制限されないが、通常、−100℃〜200℃、0℃〜150℃、好ましくは室温(20℃程度)〜100℃が挙げられる。C−F結合へのニッケル又はパラジウム触媒の酸化的付加反応の促進の観点から、0℃〜150℃、好ましくは室温(20℃程度)〜100℃の加熱条件が挙げられる。反応で得られるオレフィン化合物の重合などの副反応が起きない程度に、その上限を設定することができる。
【0069】
また、反応時間も特に制限されないが、10分〜72時間程度が挙げられる。
【0070】
反応雰囲気は、特に限定されないが、ニッケル又はパラジウムを含む触媒の活性を考慮して、通常アルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行われる。また、反応圧力も、加圧下でも、常圧下でもよいし、減圧下でもよい。一般に加圧下で行うことが好ましく、その場合、0.1〜10MPa程度、好ましくは0.1〜1MPa程度である。
【0071】
使用する溶媒としては、反応に悪影響を与えない溶媒であれば特に制限はなく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジエチルエーテル、グライム、ジグライム等のエーテル系溶媒等を使用することができる。中でも、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、ジオキサン、THF等が好ましく、特に、THF、ジオキサンが好ましい。
【0072】
本発明の製造方法では、ニッケル又はパラジウムを含む触媒、TFE、並びにβ水素を有するアルキル金属化合物を同時に混合し反応させることができる。或いは、ニッケル又はパラジウムを含む触媒とTFEとから、一旦ニッケル又はパラジウムのトリフルオロビニル錯体を調製又は単離し、これを用いてTFEとβ水素を有するアルキル金属化合物を反応させることもできる。
【0073】
本発明においてトリフルオロエチレン(5)を製造する好適な条件としては、例えば、β水素を有するアルキル金属化合物1モルに対し、TFEを0.1〜100モル(好ましくは0.5〜10モル)、ニッケル又はパラジウムを含む触媒を0.001〜1モル(好ましくは0.01〜0.1モル)、配位子を0.002〜2モル(好ましくは0.02〜0.2モル)を用いて、THF、ジオキサン、ベンゼン、トルエン等の溶媒中で、圧力0.1〜1MPa、0℃〜50℃にて反応させることが挙げられる。
【0074】
本発明において1,1−ジフルオロエチレン(6)を製造する好適な条件としては、例えば、β水素を有するアルキル金属化合物1モルに対し、TFEを0.1〜100モル(好ましくは0.5〜10モル)、ニッケル又はパラジウムを含む触媒を0.001〜1モル(好ましくはニッケルを含む触媒を0.01〜0.1モル)、配位子を0.002〜2モル(好ましくは0.02〜0.2モル)を用いて、THF、ジオキサン、ベンゼン、トルエン等の溶媒(好ましくはTHF、ジオキサン等のエーテル系溶媒)中で、圧力0.1〜1MPa、0℃〜50℃にて反応させることが挙げられる。
【0075】
さらに、上記の条件でTFEを還元して得られる還元体(トリフルオロエチレン)は、さらに、ニッケル又はパラジウムを含む触媒の存在下又は非存在下、有機金属化合物と反応させることにより、トリフルオロエチレンのフッ素原子が有機基に置換された化合物を得ることができる。
【0076】
つまり、テトラフルオロエチレンの2つのフッ素原子が水素原子及び有機基で置換された化合物は、
(i)ニッケル又はパラジウムを含む触媒の存在下、テトラフルオロエチレンとβ水素を有するアルキル金属化合物とを反応させて、トリフルオロエチレンを製造する工程、及び
(ii)ニッケル又はパラジウムを含む触媒の存在下又は非存在下、該トリフルオロエチレンと有機金属化合物とを反応させてテトラフルオロエチレンの2つのフッ素原子が水素原子及び有機基で置換された化合物を製造する工程、
により製造することができる。
【0077】
還元反応(工程(i))と生成物のC−F結合の置換反応(工程(ii))を連続的に実施する際の、二番目の有機金属化合物としては、特に触媒の存在下で反応する場合、反応途中で発生するニッケルあるいはパラジウムビニル錯体を求核的に攻撃できるだけの求核性を有する試薬であれば特に限定はない。例えば、有機マグネシウム化合物、有機スズ化合物、有機亜鉛化合物、有機ケイ素化合物、有機銅化合物、有機アルミニウム化合物、有機ガリウム化合物等が挙げられる。また、これら有機金属試薬に含まれる有機基としては、特に制限は無く、脂肪族、芳香族等全ての基が挙げられる。有機金属化合物として、好ましくは有機マグネシウム化合物又は有機亜鉛化合物が挙げられる。
【0078】
例えば、トリフルオロエチレンは、ニッケル又はパラジウムを含む触媒の存在下、有機マグネシウム化合物又は有機亜鉛化合物と反応することにより、式(9)で表される化合物を得ることができる。本発明の一連の反応を下記に示す。
【0079】
【化7】

【0080】
(式中、R’は置換基を有しても良いアリール基又は置換基を有しても良いアルキル基を示す。)
上記の工程(i)では、上述したように、ニッケル又はパラジウムを含む触媒の存在下、テトラフルオロエチレン及びβ水素を有するアルキル金属化合物を反応させて、トリフルオロエチレン(5)を製造する。
【0081】
上記の工程(ii)では、ニッケル又はパラジウムを含む触媒の存在下、トリフルオロエチレンに有機マグネシウム化合物又は有機亜鉛化合物を反応させて、式(9)で表される化合物を製造する。本反応では、置換基R’はトリフルオロエチレンの2位のFと選択的に置換して、1,1−ジフルオロエチレン化合物を得る。なお、本発明では、工程(i)によりトリフルオロエチレンを取得した後、トリフルオロエチレンを工程(ii)に供して式(9)で表される化合物を製造する場合、或いは、TFEから工程(i)及び(ii)をワンポットで実施する場合のいずれも包含する。
【0082】
有機マグネシウム化合物としては、式(11a)及び/又は式(11b):
R’MgX’ (11a)
R’Mg (11b)
(式中、R’は前記に同じ。X’はCl、Br又はIを示す。)
で表される化合物である。
【0083】
R’で示される置換基を有しても良いアリール基のアリール基としては、例えば、フェニル、ナフチル、アントラセニル、フェナントリル基等の単環、二環又は三環のアリール基が挙げられる。アリール基上の置換基としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、n−ヘキシル等の低級(特にC1〜6)アルキル基;ビニル、アリル、クロチル等の低級(特にC2〜6)アルケニル基;メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ等の低級(特にC1〜6)アルコキシ基;フェニル、ナフチル等のアリール基等が挙げられる。アリール基は、上記置換基で1〜4個(特に1〜2個)置換されていてもよい。R’として好ましくはフェニル基である。
【0084】
R’で示される置換基を有しても良いアルキル基のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、n−ヘキシル等の低級(特にC1〜6)アルキル基が挙げられる。アルキル基上の置換基としては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ等の低級(特にC1〜6)アルコキシ基;フェニル、ナフチル等のアリール基等が挙げられる。アルキル基は、上記置換基で1〜3個(特に1〜2個)置換されていてもよい。R’として好ましくはメチル基である。
【0085】
X’は好ましくはBr又はClである。
【0086】
上記の有機マグネシウム化合物は、通常、THF等の不活性溶媒中、有機ハロゲン化物とマグネシウム金属(Mg)を反応させて得られるグリニア試薬を用いることができる。特に、式(11b)で表されるマグネシウム化合物は、グリニア試薬の溶液に貧溶媒を添加して不溶性の塩(例えばMgX’)を析出させ濾別し、必要に応じ濾液を乾燥することにより調製することができる。いずれも公知の方法を採用することができる。
【0087】
また、有機亜鉛化合物としては、式(12a)及び/又は(12b):
R’Zn (12a)
R’ZnX’ (12b)
(式中、R’及びX’は前記に同じ。)
で表される化合物が挙げられる。
【0088】
上記の有機亜鉛化合物は、市販されている試薬を用いることができ、また公知の方法で製造することもできる。
【0089】
トリフルオロエチレンの使用量は、通常、有機マグネシウム化合物又は有機亜鉛化合物1モルに対して、0.1〜100モル程度、好ましくは0.5〜10モル程度を用いることができる。
【0090】
反応温度は特に制限されないが、通常、−100℃〜200℃、好ましくは0℃〜150℃、より好ましくは室温(20℃程度)〜100℃が挙げられる。C−F結合へのニッケル又はパラジウム触媒の酸化的付加反応の促進の観点から、40℃〜150℃、好ましくは50℃〜100℃の加熱条件が挙げられる。なお、高温では生成物であるトリフルオロビニル誘導体の2量化が進行する場合があるため、2量化が進行しない範囲で上限の反応温度を設定することができる。
【0091】
また、反応時間も特に制限されないが、10分〜72時間程度があげられる。
【0092】
反応雰囲気は、特に限定されないが、ニッケル又はパラジウムを含む触媒の活性を考慮して、通常アルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行われる。また、反応圧力も、加圧下でも、常圧下でもよいし、減圧下でもよい。一般に加圧下で行うことが好ましく、その場合、0.1〜10MPa程度、好ましくは0.1〜1MPa程度である。
【0093】
使用する溶媒としては、反応に悪影響を与えない溶媒であれば特に制限はなく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジエチルエーテル、グライム、ジグライム等のエーテル系溶媒等を使用することができる。中でも、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、ジオキサン、THF等が好ましく、特にTHFが好ましい。
【0094】
また、トリフルオロエチレンは、有機マグネシウム化合物と反応することにより、式(10)で表される化合物を得ることができる。本発明の一連の反応を下記に示す。
【0095】
【化8】

【0096】
(式中、R’は前記に同じ。)
上記の工程(i)では、上述した通りである。
【0097】
上記の工程(iii)では、トリフルオロエチレンに有機マグネシウム化合物を反応させて、式(10)で表される化合物を製造する。本反応では、置換基R’はトリフルオロエチレンの1位のFと選択的に置換して、1,2−ジフルオロエチレン化合物を得る。なお、本発明では、工程(i)によりトリフルオロエチレンを取得した後、トリフルオロエチレンを工程(iii)に供して式(10)で表される化合物を製造する場合、或いは、TFEから工程(i)及び(iii)をワンポットで実施する場合のいずれも包含する。
【0098】
本反応の工程(iii)は、ニッケル又はパラジウムを含む触媒を用いないこと以外は、式(9)の化合物を製造する工程(ii)と同様に実施することができる。
【0099】
トリフルオロエチレンの使用量は、通常、有機マグネシウム化合物1モルに対して、0.1〜100モル程度、好ましくは0.5〜10モル程度を用いることができる。
【0100】
以上のように、工程(i)を経て得られたトリフルオロエチレン及び/又は1,1−ジフルオロエチレン、さらにトリフルオロエチレンから工程(ii)又は(iii)を経て得られた1,2−ジフルオロエチレン化合物又は1,1−ジフルオロエチレン化合物は、例えば、フッ素ゴム、反射防止膜材料、イオン交換膜、燃料電池用電解質膜、液晶材料、圧電素子材料、酵素阻害薬、殺虫剤等の原料として有用である。
【実施例】
【0101】
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではないことは言うまでもない。
【0102】
以下、実施例で用いる略号は以下の通りである。
【0103】
cod: cyclooctadiene
Cy: cyclohexyl
TFE: tetrafluoroethylene
THF:tetrahydrofuran
dba: dibenzylideneacetone
【0104】
実施例1
グローブボックス中、Pd(dba)(1mg,0.001mmol),PPh(1.1mg,0.004mmol)のDioxane(0.4mL)/C(0.1mL)溶液を耐圧チューブ(容量2mL、以下同じ)中に調製し、これにn−BuMgのヘプタン溶液(1M,0.103mL,0.103mmol,Aldrich社製,以下同じ)、α,α,α−trifluorotoluene(14μL,0.114mmol:19F−NMR測定時の内部標準)を加えた。さらにここにTFE(0.313mmol:上述の容器容量と導入圧力;0.35MPaから算出した。以下同じ)を加えた。この反応溶液を室温(20℃、以下同じ)で40時間放置した。反応を19F−NMRで追跡し、内部標準より、1,1,2−トリフルオロエチレンが62%、1,1−ジフルオロエチレンが3%、1,2−ジフルオロ−1−ヘキセンが33%の収率で得られたことを確認した。
【0105】
なお、ここで得られた1,2−ジフルオロ−1−ヘキセンは、TFEから生じた1,1,2−トリフルオロエチレンに、さらにn−BuMgが反応することで生成したものと考察できる(例えばJ.Fluorine Chem.,1992年, 59巻,285頁を参照)。
1,1,2−トリフルオロエチレン:
19F−NMR(C)δ:−100.5(ddd,J=33,86,1.3Hz,1F),−126.2(ddd,J=86,118,4.5Hz,1F),−204.2(ddd,J=118,33,71Hz,1F).
1,1−ジフルオロエチレン:
19F−NMR(C)δ:−81.9(d,J=34.8Hz)
1,2−ジフルオロ−1−ヘキセン(cis体及びtrans体の混合物)
19F−NMR(C)δ:−92.8(d,J=49.3Hz,1F),−93.3(d,J=52.3Hz,0.17F),−95.3(dd,J=50.8,22.4Hz,1F),−95.5(d,J=26.0Hz,0.17F).
【0106】
実施例2
グローブボックス中、Pd(dba)(1mg,0.001mmol),PPh(1.1mg,0.004mmol)のDioxane(0.4mL)/C(0.1mL)溶液を耐圧チューブ中に調製し、これにn−BuMgのヘプタン溶液(1M,0.103mL,0.103mmol)とα,α,α−trifluorotoluene(14μL:19F−NMR測定時の内部標準)を加えた。さらにここにTFE(0.313mmol、0.35MPaまで封入した)を加えた。この反応溶液を0℃で24時間放置した。反応を19F−NMRで追跡し、内部標準より、1,1,2−トリフルオロエチレンが37%、1,1−ジフルオロエチレンが2%、1,2−ジフルオロ−1−ヘキセンが23%の収率で得られたことを確認した。
【0107】
実施例3
グローブボックス中、Pd(dba)(5mg,0.005mmol),PPh(5.3mg,0.02mmol)のDioxane(0.4mL)/C(0.1mL)溶液を耐圧チューブ中に調製し、これにn−BuMgのヘプタン溶液(1M,0.115mL,0.115mmol)とα,α,α−trifluorotoluene(14μL:19F−NMR測定時の内部標準)を加えた。さらにここにTFE(0.313mmol、0.35MPaまで封入した)を加えた。この反応溶液を室温で21時間放置した。反応を19F−NMRで追跡し、内部標準より、1,1,2−トリフルオロエチレンが58%、1,1−ジフルオロエチレンが1%、1,2−ジフルオロ−1−ヘキセンが43%の収率で得られたことを確認した。
【0108】
実施例4
グローブボックス中、Pd(dba)(5mg,0.005mmol),PPh(5.3mg,0.02mmol)のDioxane(0.4mL)/C(0.1mL)溶液を耐圧チューブ中に調製し、これにn−BuMgのヘプタン溶液(1M,0.115mL,0.115mmol)とα,α,α−trifluorotoluene(14μL:19F−NMR測定時の内部標準)を加えた。さらにここにTFE(0.313mmol、0.35MPaまで封入した)を加えた。この反応溶液を室温で2時間放置した。反応を19F−NMRで追跡し、内部標準より、1,1,2−トリフルオロエチレンが16%の収率で得られたことを確認した。
【0109】
実施例5
グローブボックス中、Pd(dba)(5mg,0.005mmol),PPh(5.3mg,0.02mmol)のC(0.5mL)溶液を耐圧チューブ中に調製し、これにn−BuMgのヘプタン溶液(1M,0.115mL,0.115mmol)とα,α,α−trifluorotoluene(14μL:19F−NMR測定時の内部標準)を加えた。さらにここにTFE(0.313mmol、0.35MPaまで封入した)を加えた。この反応溶液を室温で2時間放置した。反応を19F−NMRで追跡し、内部標準より、1,1,2−トリフルオロエチレンが28%の収率で得られたことを確認した。
【0110】
実施例6
グローブボックス中、Ni(cod)(2.7mg,0.01mmol),PPh(5.3mg,0.02mmol)のDioxane(0.4mL)/C(0.1mL)溶液を耐圧チューブ中に調製し、これにn−BuMgのヘプタン溶液(1M,0.115mL,0.115mmol)とα,α,α−trifluorotoluene(14μL:19F−NMR測定時の内部標準)を加えた。さらにここにTFE(0.313mmol、0.35MPaまで封入した)を加えた。この反応溶液を室温で1.5時間放置した。反応を19F−NMRで追跡し、内部標準より、1,1,2−トリフルオロエチレンが2%、1,1−ジフルオロエチレンが8%、1,2−ジフルオロ−1−ヘキセンが10%の収率で得られたことを確認した。
【0111】
実施例7
グローブボックス中、Ni(cod)(2.7mg,0.01mmol),PPh(5.3mg,0.02mmol)のDioxane(0.4mL)/C(0.1mL)溶液を耐圧チューブ中に調製し、これにn−BuMgのヘプタン溶液(1M,0.115mL,0.115mmol)とα,α,α−trifluorotoluene(14μL:19F−NMR測定時の内部標準)を加えた。さらにここにTFE(0.313mmol、0.35MPaまで封入した)を加えた。この反応溶液を室温で30時間放置した。反応を19F−NMRで追跡し、内部標準より、1,1,2−トリフルオロエチレンが9%、1,1−ジフルオロエチレンが10%、1,2−ジフルオロ−1−ヘキセンが15%の収率で得られたことを確認した。
【0112】
実施例8
グローブボックス中、Ni(cod)(2.7mg,0.01mmol),PPh(5.3mg,0.02mmol)のTHF(0.4mL)/C(0.1mL)溶液を耐圧チューブ中に調製し、これにn−BuMgのヘプタン溶液(1M,0.115mL,0.115mmol)とα,α,α−trifluorotoluene(14μL:19F−NMR測定時の内部標準)を加えた。さらにここにTFE(0.313mmol、0.35MPaまで封入した)を加えた。この反応溶液を室温で30時間放置した。反応を19F−NMRで追跡し、内部標準より、1,1,2−トリフルオロエチレンが8%、1,1−ジフルオロエチレンが19%、1,2−ジフルオロ−1−ヘキセンが12%の収率で得られたことを確認した。
【0113】
実施例9
グローブボックス中、Pd(dba)(5mg,0.005mmol),PPh(5.3mg,0.02mmol),LiI(16.1mg,0.12mmol)のTHF(0.4mL)/C(0.1mL)溶液を耐圧チューブ中に調製し、これにEtZn(12μL,0.115mmol)を加えた。さらにここにTFE(0.313mmol、0.35MPaまで封入した)を加えた。この反応溶液を室温で2時間放置した。反応を19F−NMRで追跡し、1,1,2−トリフルオロエチレンが得られたことを確認した。
【0114】
参考例
耐圧チューブ中、n−BuMgのヘプタン溶液(1M,0.115mL,0.115mmol)とα,α,α−trifluorotoluene(14μL:19F−NMR測定時の内部標準)のDioxane(0.4mL)/C(0.1mL)溶液を調製し、ここにTFE(0.313mmol、0.35MPaまで封入した)を加えた。この反応溶液を室温で30時間放置した。反応を19F−NMRで追跡したが、TFE以外には何の生成物も得られていないことを確認した。
【0115】
実施例10
グローブボックス中、Pd(dba)(1mg,0.001mmol),PCy(1.1mg,0.004mmol),LiI(16.1mg,0.120mmol)のTHF−d(0.5mL)溶液を耐圧チューブ中に調製し、これに(CZn(12.5mg,0.100mmol)とα,α,α−trifluorotoluene(12.3μL,0.100mmol:19F−NMR測定時の内部標準)を加えた。さらにここにTFE(0.313mmol、0.35MPaまで封入した)を加えた。この反応溶液を室温で26時間放置した。反応を19F−NMRで追跡し、内部標準より、1,1,2−トリフルオロエチレンが61% (加えた(CZnのエチル基換算;TFE換算では39%収率)の収率で得られたことを確認した。
【0116】
実施例11
グローブボックス中、Ni(cod)(3.6mg,0.013mmol),PPh(6.8mg,0.026mmol),PhMg(THF)(41.9mg,0.130mmol)のTHF−d(0.5mL)溶液を調製し、上記実施例10の耐圧チューブ内の反応溶液に加えた。この反応溶液を室温で20分間放置した。反応を19F−NMRで追跡し、β,β−ジフルオロスチレンが9.3%の収率で得られていることを確認した。この際の収率は追加実施例における反応液内に発生しているトリフルオロエチレンの量を0.122mmolとして算出した。
【0117】
なお1,2−ジフルオロエチレン誘導体は発生していないことを19F−NMRで確認した。
【0118】
β,β−ジフルオロスチレン:
19F−NMR(THF−d):δ −86.5(dd,J=37.0,29.2Hz,1F),−83.4(dd,J=37.0,4.4Hz,1F).
【0119】
実施例12
グローブボックス中、Pd(dba)(5mg,0.005mmol),PPh(5.3mg,0.02mmol),LiI(32.2mg,0.240mmol)のTHF−d(0.5mL)溶液を耐圧チューブ中に調製し、これに(CZn(12.5mg,0.100mmol)とα,α,α−trifluorotoluene(12.3μL,0.100mmol:19F−NMR測定時の内部標準)を加えた。さらにここにTFE(0.313mmol、0.35MPaまで封入した)を加えた。この反応溶液を室温で9時間放置した。反応を19F−NMRで追跡し、内部標準より、1,1,2−トリフルオロエチレンが53%(加えた(CZnのエチル基換算)の収率で得られたことを確認した。
【0120】
実施例13
グローブボックス中、Pd(dba)(5mg,0.005mmol),PCy(5.5mg,0.02mmol),LiI(32.2mg,0.240mmol)のTHF(0.5mL)溶液を耐圧チューブ中に調製し、これに(CZn(12.5mg,0.100mmol)とα,α,α−trifluorotoluene(12.3μL,0.100mmol:19F−NMR測定時の内部標準)を加えた。さらにここにTFE(0.313mmol、0.35MPaまで封入した)を加えた。この反応溶液を室温で22時間放置した。反応を19F−NMRで追跡し、1,1,2−トリフルオロエチレンが59%(加えた(CZnのエチル基換算)得られたことを確認した。
【0121】
実施例14
グローブボックス中、Pd(dba)(5mg,0.005mmol),PPh(5.3mg,0.02mmol),LiI(16.1mg,0.120mmol)のTHF−d(0.4mL)/C(0.1mL)溶液を耐圧チューブ中に調製し、これに(i−Pr)Zn(15.7mg,0.100mmol)とα,α,α−trifluorotoluene(12.3μL,0.100mmol:19F−NMR測定時の内部標準)を加えた。さらにここにTFE(0.313mmol、0.35MPaまで封入した)を加えた。この反応溶液を室温で5時間、その後60℃で24時間、さらに80℃で12時間放置した。反応を19F−NMRで追跡し、内部標準より、1,1,2−トリフルオロエチレンが47%(加えたi−PrZnのイソプロピル基換算)の収率で得られたことを確認した。
【0122】
実施例15
グローブボックス中、Pd(dba)(5mg,0.005mmol),Pn−Bu(4.1mg,0.02mmol),LiI(32.2mg,0.240mmol)のTHF−d(0.5mL)溶液を耐圧チューブ中に調製し、これに(CZn(12.5mg,0.100mmol)とα,α,α−trifluorotoluene(12.3μL,0.100mmol:19F−NMR測定時の内部標準)を加えた。さらにここにTFE(0.313mmol、0.35MPaまで封入した)を加えた。この反応溶液を室温で75時間放置した。反応を19F−NMRで追跡し、内部標準より、1,1,2−トリフルオロエチレンが55%(加えた(CZnのエチル基換算)の収率で得られたことを確認した。
【0123】
実施例16
グローブボックス中、Pd(dba)(5mg,0.005mmol),Pt−BuMe(3.2mg,0.02mmol),LiI(32.2mg,0.240mmol)のTHF−d(0.5mL)溶液を耐圧チューブ中に調製し、これに(CZn(12.5mg,0.100mmol)とα,α,α−trifluorotoluene(12.3μL,0.100mmol:19F−NMR測定時の内部標準)を加えた。さらにここにTFE(0.313mmol、0.35MPaまで封入した)を加えた。この反応溶液を室温で75時間放置した。反応を19F−NMRで追跡し、内部標準より、1,1,2−トリフルオロエチレンが41%(加えた(CZnのエチル基換算)の収率で得られたことを確認した。
【0124】
実施例17
グローブボックス中、tetrakis(triphenylphosphine)palladium, polymer-bound 200-400 mesh, 2% cross-linked with divinylbenzene(20.0mg,0.01〜0.018mmol),LiI(32.2mg,0.240mmol)のTHF−d(0.4mL)/C(0.1mL)溶液を耐圧チューブ中に調製し、これに(CZn(12.5mg,0.100mmol)とα,α,α−trifluorotoluene(12.3μL,0.100mmol:19F−NMR測定時の内部標準)を加えた。さらにここにTFE(0.313mmol、0.35MPaまで封入した)を加えた。この反応溶液を40℃で48時間、さらに60℃で21時間放置した。反応を19F−NMRで追跡し、内部標準より、1,1,2−トリフルオロエチレンが22%(加えた(CZnのエチル基換算)の収率で得られたことを確認した。
【0125】
実施例18
グローブボックス中、Pd(dba)(5mg,0.005mmol),PPh(5.3mg,0.02mmol),LiBr(10.4mg,0.120mmol)のTHF−d(0.4mL)/C(0.1mL)溶液を耐圧チューブ中に調製し、これに(CZn(12.5mg,0.100mmol)とα,α,α−trifluorotoluene(12.3μL,0.100mmol:19F−NMR測定時の内部標準)を加えた。さらにここにTFE(0.313mmol、0.35MPaまで封入した)を加えた。この反応溶液を40℃で3時間放置した。反応を19F−NMRで追跡し、内部標準より、1,1,2−トリフルオロエチレンが9%(加えた(CZnのエチル基換算)の収率で得られたことを確認した。
【0126】
実施例19
グローブボックス中、Pd(dba)(5mg,0.005mmol),PPh(5.3mg,0.02mmol),LiCl(5.1mg,0.120mmol)のTHF−d(0.4mL)/C(0.1mL)溶液を耐圧チューブ中に調製し、これに(CZn(12.5mg,0.100mmol)とα,α,α−trifluorotoluene(12.3μL,0.100mmol:19F−NMR測定時の内部標準)を加えた。さらにここにTFE(0.313mmol、0.35MPaまで封入した)を加えた。この反応溶液を40℃で3時間放置した。反応を19F−NMRで追跡し、内部標準より、1,1,2−トリフルオロエチレンが5%(加えた(CZnのエチル基換算)の収率で得られたことを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリフルオロエチレン及び/又は1,1−ジフルオロエチレンの製造方法であって、ニッケル又はパラジウムを含む触媒の存在下、テトラフルオロエチレンとβ水素を有するアルキル金属化合物とを反応させることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記β水素を有するアルキル金属化合物が、β水素を有するアルキルマグネシウム化合物又はβ水素を有するアルキル亜鉛化合物である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記β水素を有するアルキル金属化合物が、式(7a)及び/又は式(7b):
RMgX (7a)
Mg (7b)
(式中、Rはβ水素を有するアルキル基を示す。XはCl、Br又はIを示す。)
で表されるβ水素を有するアルキルマグネシウム化合物である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記β水素を有するアルキル金属化合物が、式(8a)及び/又は式(8b):
Zn (8a)
RZnX (8b)
(式中、Rはβ水素を有するアルキル基を示す。XはCl、Br又はIを示す。)
で表されるβ水素を有するアルキル亜鉛化合物である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記触媒がパラジウムを含む触媒である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記パラジウムを含む触媒が、0価パラジウム錯体;II価パラジウム錯体から発生した0価パラジウム錯体;又はこれらとケトン、ジケトン、ホスフィン、ジアミン及びビピリジルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを混合して得られる錯体である請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記触媒がニッケルを含む触媒である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記ニッケルを含む触媒が、0価ニッケル錯体;II価ニッケル錯体から発生した0価ニッケル錯体;又はこれらとケトン、ジケトン、ホスフィン、ジアミン及びビピリジルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを混合して得られる錯体である請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
テトラフルオロエチレンの2つのフッ素原子が水素原子及び有機基で置換された化合物の製造方法であって、
(i)ニッケル又はパラジウムを含む触媒の存在下、テトラフルオロエチレンとβ水素を有するアルキル金属化合物とを反応させて、トリフルオロエチレンを製造する工程、及び
(ii)ニッケル又はパラジウムを含む触媒の存在下又は非存在下、該トリフルオロエチレンと有機金属化合物とを反応させてテトラフルオロエチレンの2つのフッ素原子が水素原子及び有機基で置換された化合物を製造する工程、
を含む製造方法。
【請求項10】
式(9):
【化1】

(式中、R’は置換基を有しても良いアリール基又は置換基を有しても良いアルキル基を示す。)
で表される化合物の製造方法であって、
(i)ニッケル又はパラジウムを含む触媒の存在下、テトラフルオロエチレンとβ水素を有するアルキル金属化合物とを反応させて、トリフルオロエチレンを製造する工程、及び
(ii)ニッケル又はパラジウムを含む触媒の存在下、該トリフルオロエチレンと有機基としてR’を有する有機マグネシウム化合物又は有機亜鉛化合物とを反応させて、式(9)で表される化合物を製造する工程、
を含む請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
式(10):
【化2】

(式中、R’は置換基を有しても良いアリール基又は置換基を有しても良いアルキル基を示す。)
で表される化合物の製造方法であって、
(i)ニッケル又はパラジウムを含む触媒の存在下、テトラフルオロエチレンとβ水素を有するアルキル金属化合物とを反応させて、トリフルオロエチレンを製造する工程、及び
(ii)該トリフルオロエチレンと有機基としてR’を有する有機マグネシウム化合物とを反応させて、式(10)で表される化合物を製造する工程、
を含む請求項9に記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−201877(P2011−201877A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46614(P2011−46614)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】