説明

テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドの製造法

【課題】テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドおよびテトラフルオロテレフタル酸ジエステル化合物の工業的に有利な製造法を提供すること。
【解決手段】スルホラン中、テトラクロロテレフタル酸ジクロライドとフッ化カリウムとの反応を、テトラクロロテレフタル酸ジクロライドに対して0.3〜0.6モル倍の水の存在下に実施することを特徴とするテトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドの製造法、および該テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドと式(1)


(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
で示されるアルコール化合物とを反応させ、式(2)


(式中、Rは上記と同一の意味を表す。)
で示されるテトラフルオロテレフタル酸ジエステル化合物の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドは、医農薬原料として重要な化合物である。テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドの製造法としては、例えば、予めフッ化カリウムと極性非プロトン性溶媒とを混合し、得られた混合物を加熱脱水した後にテトラクロロテレフタル酸ジクロライドと反応させる方法(例えば、特許文献1参照。)、触媒としてカリックスアレンを用いてスルホラン中でテトラクロロテレフタル酸ジクロライドとフッ化カリウムとを反応させる方法(例えば、特許文献2参照。)等が知られている。しかしながら、これらの方法は、煩雑な操作や高価な触媒を必要とするため、工業的に必ずしも満足できるできるものではなかった。
【0003】
【特許文献1】特公平4−66220号公報
【特許文献2】中国特許公開第1458137号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況の下、本発明者は、テトラクロロテレフタル酸ジクロライドとフッ化カリウムとから、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドを得る反応を工業的有利に実施する方法について鋭意検討したところ、テトラクロロテレフタル酸ジクロライドとフッ化カリウムとの反応を、スルホラン中、特定の量の水の存在下に実施すれば、煩雑な操作や高価な触媒を用いることなくフッ素化反応が効率よく進行することを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明は、スルホラン中、テトラクロロテレフタル酸ジクロライドとフッ化カリウムとの反応を、テトラクロロテレフタル酸ジクロライドに対して0.3〜0.6モル倍の水の存在下に実施することを特徴とするテトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドの製造法を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、煩雑な操作や高価な触媒を用いることなく、医農薬原料等として利用可能なテトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドを製造することができるため、工業的に有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
テトラクロロテレフタル酸ジクロライドは、例えば特公平2−11571号公報等に記載の公知の方法により製造することができる。
【0009】
フッ化カリウムは、市販のものを用いてもよいし、例えば水酸化カリウムとフッ化水素とから得られるものを用いてもよい。粒径は小さい方が好ましく、含水量は少ない方が好ましい。かかる好ましいフッ化カリウムとしては、例えばスプレイドライ法で得たフッ化カリウムが挙げられる。
【0010】
フッ化カリウムの使用量は、テトラクロロテレフタル酸ジクロライドに対して、通常6モル倍以上であれば本発明の目的を達することができ、その上限は特にないが、経済的な観点から好ましくは6〜10モル倍の範囲である。
【0011】
スルホランは、市販のものを用いることができる。その使用量は、特に限定されないが、通常、テトラクロロテレフタル酸ジクロライドに対して1〜20重量倍、好ましくは3〜10重量倍の範囲である。
【0012】
フッ素化反応に用いる水の使用量は、少なすぎるとフッ素化反応の効率が低下し、多すぎるとテトラクロロテレフタル酸ジクロライドの加水分解が優先してしまうので、テトラクロロテレフタル酸ジクロライドに対して通常0.3〜0.6モル倍、好ましくは0.3〜0.5モル倍の範囲である。本反応には、スルホランやフッ化カリウムに含まれる水を用いてもよいし、別途仕込んでもよい。
【0013】
反応温度は、通常120〜200℃の範囲である。
【0014】
本反応は、スルホラン、フッ化カリウム、水およびテトラクロロテレフタル酸ジクロライドを混合し、所定の温度に加熱し、攪拌することにより実施される。以下、好ましい混合順序について説明する。まず、スルホランとフッ化カリウムとを混合し、得られた混合物中の水分を、例えばカールフィッシャー水分測定装置等の通常の手段を用いて測定する。ここで、得られた混合物中の水が所定量の範囲であれば、そのまま該混合物とテトラクロロテレフタル酸ジクロライドとを混合すればよい。もし、得られた混合物中の水が所定量の範囲より少なければ、不足分の水を混合し、該混合物とテトラクロロテレフタル酸ジクロライドとを混合すればよい。また、得られた混合物中の水が所定量の範囲を超える場合は、該混合物に脱水操作を施した後に再度水分測定し、必要により水を混合した後、該混合物とテトラクロロテレフタル酸ジクロライドとを混合すればよい。脱水処理の方法としては、例えば、減圧下または常圧下で加熱脱水する方法;トルエン、キシレン等の水と共沸する有機溶媒を用いて共沸脱水する方法;等が挙げられる。
【0015】
本反応は、通常、常圧条件下で実施されるが、加圧条件下に実施してもよい。反応の進行は、例えばガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー等の通常の分析手段により確認することができる。
【0016】
反応終了後、例えば減圧蒸留等の通常の単離操作により、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドを単離することができる。得られたテトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドは、例えば精留等の通常の精製方法により、さらに精製してもよい。
【0017】
また、フッ素化反応により得られたテトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドと、式(1)
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
で示されるアルコール化合物(以下、アルコール(1)と略記する。)とを反応させることにより、式(2)
【化2】

(式中、Rは上記と同一の意味を表す。)
で示されるテトラフルオロテレフタル酸ジエステル化合物(以下、テトラフルオロテレフタル酸ジエステル(2)と略記する。)を製造することができる。以下、かかるエステル化反応について説明する。
【0018】
テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドは、上記反応により得られる混合物をそのまま用いてもよいし、該混合物から単離した後に用いてもよい。
【0019】
Rで示される炭素数1〜6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の直鎖状、分枝鎖状または環状のアルキル基が挙げられる。
【0020】
アルコール(1)としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール、シクロヘキサノール等が挙げられる。かかるアルコール(1)は、通常、市販のものを用いることができる。
【0021】
アルコール(1)の使用量は、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドに対して、通常2モル倍以上であり、その上限は特に制限されず、溶媒を兼ねて過剰量用いてもよいが、実用的には、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドに対して2〜50モル倍の範囲である。
【0022】
テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドとして、上記反応後の混合物をそのまま用いる場合は、有機溶媒を新たに使用することなく実施することができるが、単離されたものを用いる場合は、有機溶媒の存在下に実施することが好ましい。かかる有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル等のエーテル溶媒;酢酸エチル等のエステル溶媒;などが挙げられる。有機溶媒の使用量は、特に限定されない。
【0023】
エステル化反応により、腐食性を有するフッ化水素が副生する。したがって、例えば、塩基の存在下に反応を実施したり、不活性ガスを吹き込みながら反応を実施したり、減圧下で反応を実施したりすることにより、フッ化水素を反応系内に滞留させないことが工業的に好ましい。より好ましくは、塩基の存在下に反応を実施するか、または、不活性ガスを吹き込みながら反応を実施する。
【0024】
塩基の存在下に反応を実施する場合に用いる塩基としては、例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等の3級アミン化合物;ピリジン、コリジン、キノリン等の含窒素芳香族化合物;酢酸ナトリウム等のカルボン酸アルカリ金属塩;ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート等のアルカリ金属アルコラート;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩;炭酸水素カルシウム、炭酸水素マグネシウム等のアルカリ土類金属炭酸水素塩;などが挙げられる。含窒素芳香族化合物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ土類金属炭酸塩およびアルカリ土類金属炭酸水素塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ土類金属炭酸塩またはアルカリ土類金属炭酸水素塩を用いることがより好ましい。
【0025】
かかる塩基の使用量は、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドに対して、通常2〜5モル倍の範囲である。
【0026】
不活性ガスとしては、例えば窒素、二酸化炭素、空気等が挙げられる。不活性ガスの吹き込み流量は反応混合物に対して、通常1容量%/分以上であり、その上限は特にないが、操作性の点で、30容量%/分以下が好ましい。
【0027】
減圧下に反応を実施する場合の圧力は、通常6〜100kPaの範囲である。
【0028】
テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドとアルコール(1)との混合順序は特に限定されない。塩基の存在下に反応を実施する場合は、反応温度条件下で、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドと塩基との混合物にアルコール(1)を加えるか、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドに、塩基とアルコール(1)の混合物を加えることが好ましい。
【0029】
エステル化反応の温度は特に限定されず、通常0〜100℃の範囲である。塩基の存在下に反応を実施する場合は、0〜30℃の範囲が好ましい。
【0030】
エステル化反応は、通常、常圧条件下で実施されるが、加圧条件下に実施してもよい。反応の進行は、例えばガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー等の通常の分析手段により確認することができる。
【0031】
反応終了後、反応混合物に、以下に例示する単離手段を施すことにより、テトラフルオロテレフタル酸ジエステル(2)を単離することができる。なお、反応混合物中には、通常、塩化カリウムや、用いた塩基由来の塩等が析出するので、必要によりろ過処理等を施し、塩を除去した後に単離処理を施せばよい。
【0032】
<単離手段1>
例えば、反応混合物に蒸留処理を施してアルコール(1)や有機溶媒を留去し、得られた蒸留残渣と水とを混合することにより、テトラフルオロテレフタル酸ジエステル(2)を結晶として析出させることができる。かかる結晶をろ過処理により分取すれば、テトラフルオロテレフタル酸ジエステル(2)を単離することができる。
【0033】
<単離手段2>
例えば、反応混合物と水とを、必要により水との相溶性が低い有機溶媒の存在下に混合し、分液処理を施すことにより、テトラフルオロテレフタル酸ジエステル(2)を有機層として取り出すこともできる。かかる有機層を蒸留処理すれば、テトラフルオロテレフタル酸ジエステル(2)を単離することができる。ここで、水との相溶性が低い有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル等のエーテル溶媒;酢酸エチル等のエステル溶媒;などが挙げられ、その使用量は特に限定されない。
【0034】
単離手段により得られたテトラフルオロテレフタル酸ジエステル(2)は、例えば晶析、カラムクロマトグラフィ等の通常の精製手段により、さらに精製してもよい。
【0035】
かかるテトラフルオロテレフタル酸ジエステル(2)としては、例えば2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチル、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジエチル、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジ(n−プロピル)、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジイソプロピル、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジ(n−ブチル)、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジ(tert−ブチル)等が挙げられる。
【0036】
エステル化反応において、原料であるテトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドとしてフッ素化反応後の混合物をそのまま用いた場合は、フッ素化反応に用いたスルホランを容易に回収することができる。例えば、上記単離手段1を施した場合はろ液として、上記単離手段2を施した場合は水層として、それぞれスルホラン水溶液を回収できる。回収されたスルホラン水溶液は、蒸留処理等により水を除去すれば、フッ素化反応にリサイクル使用することができる。また、回収されたスルホラン水溶液が無機塩を含む場合には、必要に応じ脱塩処理やろ過処理等により無機塩を除去した後、フッ素化反応にリサイクル使用することもできる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。なお、水分量の測定は、平沼産業株式会社製カールフィッシャー電量滴定式水分測定装置AQ−7(発生液:リーデルデハーン社製ハイドラナールクローマットAG、対極液:リーデルデハーン社製ハイドラナールクローマットCG)を用いて行った。
【0038】
実施例1(テトラクロロテレフタル酸ジクロライドに対し0.34モル倍の水が存在)
還流冷却管を付した50mlフラスコに、フッ化カリウム(スプレイドライ品)2.3g、スルホラン8.5gを仕込み、得られた混合物の水分量を測定した。測定結果に基づき、該混合物に所定量の水を加え、水分量が31mgの混合物を調製した。調製した混合物とテトラクロロテレフタル酸ジクロライド1.7gとを混合し、155℃に昇温し、同温度で4時間保温・攪拌後、170℃に昇温し、同温度で3時間保温・攪拌した。反応後、一部の反応液をサンプリングし、ガスクロマトグラフ質量分析装置を用いた分析により、主生成物として、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドが得られ、原料が消失していることを確認した。反応液を室温まで冷却し、メタノール10gを加えて1時間攪拌した。析出した結晶を、ろ過後、結晶をメタノール5mlで洗浄し、ろ液を洗液とを合一し、濃縮操作によりメタノールを留去した。濃縮残渣に水を20g加えると、結晶が析出した。ろ過操作により1.4gのウエットケーキを得た。このウエットケーキをガスクロマトグラフィー内部標準法により分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルの含量は66.4%であった。収率:70%
【0039】
実施例2(テトラクロロテレフタル酸ジクロライドに対し0.36モル倍の水が存在)
還流冷却管を付した50mlフラスコに、実施例1で用いたものと同じフッ化カリウム2.3g、スルホラン17gを仕込み、得られた混合物の水分量を測定した。測定結果に基づき、該混合物に所定量の水を加え、水分量が32mgの混合物を調製した。調製した混合物とテトラクロロテレフタル酸ジクロライド1.7gとを混合し、155℃に昇温し、同温度で4時間保温・攪拌した。反応後、室温まで冷却し、メタノールを5g加えて1時間攪拌した。酢酸エチルを10g加え、ガスクロマトグラフィー内部標準法により分析して収率を求めた。
2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルの収率:50%
2,3,5−トリフルオロ−6−クロロテレフタル酸ジメチルの収率:9%
ジフルオロ、ジクロロテレフタル酸ジメチルの収率(3異性体合計):10%
2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジメチルの収率:0%
【0040】
実施例3(テトラクロロテレフタル酸ジクロライドに対し0.47モル倍の水が存在)
還流冷却管を付した50mlフラスコに、実施例1で用いたものと同じフッ化カリウム2.3g、スルホラン8.5gを仕込み、得られた混合物の水分量を測定した。測定結果に基づき、該混合物に所定量の水を加え、水分量が42mgの混合物を調製した。調製した混合物とテトラクロロテレフタル酸ジクロライド1.7gとを混合し、145℃に昇温し、同温度で3時間保温・攪拌した。反応後、室温まで冷却し、トルエン20gと炭酸カリウム1.4gを加え、同温度で攪拌しながらメタノール5gを加えて1時間攪拌した。酢酸エチルを10g加え、ガスクロマトグラフィー内部標準法により分析して収率を求めた。
2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルの収率:52%
2,3,5−トリフルオロ−6−クロロテレフタル酸ジメチルの収率:10%
ジフルオロ、ジクロロテレフタル酸ジメチルの収率(3異性体合計):4%
2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジメチルの収率:0%
【0041】
実施例4(テトラクロロテレフタル酸ジクロライドに対し0.33モル倍の水が存在)
還流冷却管を付した50mlフラスコに、フッ化カリウム(粉末品)2.3g、スルホラン8.5gを仕込み、得られた混合物の水分量を測定した。測定結果に基づき、該混合物に所定量の水を加え、水分量が30mgの混合物を調製した。該混合物とテトラクロロテレフタル酸ジクロライド1.7gとを混合し、145℃に昇温し、同温度で5時間保温・攪拌した。反応後、室温まで冷却し、メタノールを5g加えて1時間攪拌した。酢酸エチルを10g加え、ガスクロマトグラフィー内部標準法により分析して収率を求めた。
2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルの収率:68%
2,3,5−トリフルオロ−6−クロロテレフタル酸ジメチルの収率:16%
ジフルオロ、ジクロロテレフタル酸ジメチルの収率(3異性体合計):3%
2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジメチルの収率:0%
【0042】
比較例1(テトラクロロテレフタル酸ジクロライドに対し0.01モル倍の水が存在)
還流冷却管を付した50mlフラスコに、実施例1で用いたものと同じフッ化カリウム480mg、スルホラン1.7gおよびトルエン10gを仕込み、得られた混合物を、内温130℃に加熱し、該混合物中の水分をトルエンとの共沸混合物として除去した。その後、内温140℃でトルエンの留出が見られなくなるまで保温した。得られた混合物を内温100℃まで冷却し、その水分量を測定したところ、0.2mgであった(水分濃度:117ppm)。該混合物とテトラクロロテレフタル酸ジクロライド340mgとを混合し、155℃に昇温し、同温度で4時間保温・攪拌後、170℃に昇温し、同温度で3時間保温・攪拌した。反応後、室温まで冷却し、メタノールを5g加えて1時間攪拌した。酢酸エチルを10g加え、ガスクロマトグラフィー内部標準法により分析して収率を求めた。
2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルの収率:26%
2,3,5−トリフルオロ−6−クロロテレフタル酸ジメチルの収率:12%
ジフルオロ、ジクロロテレフタル酸ジメチルの収率(3異性体合計):11%
2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジメチルの収率:7%
【0043】
比較例2(テトラクロロテレフタル酸ジクロライドに対し0.68モル倍の水が存在)
還流冷却管を付した50mlフラスコに、実施例1で用いたものと同じフッ化カリウム2.3g、スルホラン8.5gを仕込み、得られた混合物の水分量を測定した。測定結果に基づき、該混合物に所定量の水を加え、水分量が61mgの混合物を調製した。調製した混合物とテトラクロロテレフタル酸ジクロライド1.7gとを混合し、155℃に昇温し、同温度6時間保温・攪拌後した。反応後、室温まで冷却し、メタノールを10g加えて1時間攪拌した。酢酸エチルを30g加え、ガスクロマトグラフィー内部標準法により分析して収率を求めた。
2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルの収率:38%
2,3,5−トリフルオロ−6−クロロテレフタル酸ジメチルの収率:3%
ジフルオロ、ジクロロテレフタル酸ジメチルの収率(3異性体合計):5%
2,3,5,6−テトラクロロテレフタル酸ジメチルの収率:0%
【0044】
比較例3(テトラクロロテレフタル酸ジクロライドに対し0.22モル倍の水が存在)
還流冷却管を付した50mlフラスコに、実施例1で用いたものと同じフッ化カリウム2.3g、スルホラン8.5gおよびトルエン15gを仕込み、得られた混合物を、内温130℃に加熱し、該混合物中の水分をトルエンとの共沸混合物として除去した。その後、内温140℃でトルエンの留出が見られなくなるまで保温した。得られた混合物を内温100℃まで冷却し、得られた混合物の水分量を測定した。測定結果に基づき、該混合物に所定量の水を加え、水分量が20mgの混合物を調製した。調製した混合物とテトラクロロテレフタル酸ジクロライド1.7gとを混合し、155℃に昇温し、同温度で4時間保温・攪拌後、170℃に昇温し、同温度で3時間保温・攪拌した。反応後、一部の反応液をサンプリングし、ガスクロマトグラフ質量分析装置を用いた分析により、主生成物として、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドが得られ、原料が消失していることを確認した。反応液を室温まで冷却し、メタノール10gを加えて1時間攪拌した。反応後、室温まで冷却し、トルエン20gと炭酸カリウム1.4gを加え、同温度で攪拌しながらメタノール5gを加えて1時間攪拌した。酢酸エチルを10g加え、ガスクロマトグラフィー内部標準法により分析して収率を求めた。
2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルの収率:17%
2,3,5−トリフルオロ−6−クロロテレフタル酸ジメチルの収率:29%
ジフルオロ、ジクロロテレフタル酸ジメチルの収率(3異性体合計):41%
【産業上の利用可能性】
【0045】
テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドおよびテトラフルオロテレフタル酸ジエステル化合物は、例えば、中国特許公開第1458137号明細書等に記載の方法により、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノールや2,3,5,6−テトラフルオロパラメチルベンジルアルコールに導くことができる。これらの化合物は、家庭用殺虫剤の中間体として有用であることが知られている(例えば、特許第2606892号公報参照。)。したがって、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドおよびテトラフルオロテレフタル酸ジエステル化合物は、医農薬原料として利用でき、かかる化合物を工業的に有利に製造することができる点において、本発明は産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホラン中、テトラクロロテレフタル酸ジクロライドとフッ化カリウムとの反応を、テトラクロロテレフタル酸ジクロライドに対して0.3〜0.6モル倍の水の存在下に実施することを特徴とするテトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドの製造法。
【請求項2】
スルホラン、フッ化カリウムおよび水の混合物と、テトラクロロテレフタル酸ジクロライドとを反応させる請求項1に記載の製造法。
【請求項3】
スルホランの使用量が、テトラクロロテレフタル酸ジクロライドに対して1〜20重量倍である請求項1または2に記載の製造法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造法により得られたテトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドと式(1)
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
で示されるアルコール化合物とを反応させる式(2)
【化2】

(式中、Rは上記と同一の意味を表す。)
で示されるテトラフルオロテレフタル酸ジエステル化合物の製造法。
【請求項5】
テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドと式(1)で示されるアルコール化合物との反応を、塩基の存在下に実施する請求項4に記載の製造法。
【請求項6】
塩基が、含窒素芳香族化合物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ土類金属炭酸塩およびアルカリ土類金属炭酸水素塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項5に記載の製造法。
【請求項7】
テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドと式(1)で示されるアルコール化合物との反応を、不活性ガスを吹き込みながら実施する請求項4に記載の製造法。

【公開番号】特開2007−182427(P2007−182427A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−311240(P2006−311240)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】