説明

テラヘルツ光伝導基板、並びに、それを用いたテラヘルツ光検出装置、テラヘルツ光発生装置、およびテラヘルツ光測定装置

【課題】低コストで、かつ、簡単に大量生産が可能なテラヘルツ光伝導基板、並びに、それを用いたテラヘルツ光検出装置、テラヘルツ光発生装置、およびテラヘルツ光測定装置を提供する。
【解決手段】 本発明のテラヘルツ光伝導基板10は、第1の半導体層11と、第1の半導体層12の一方の主面上に形成された、光照射により伝導性を示す第2の半導体層12とを備え、第2の半導体層12は、希土類元素を含有する。これにより、光伝導材料に必要な(1)非常に短いキャリア寿命、(2)高い絶縁性、(3)比較的高い移動度という3つの特性を有する光伝導材料を実現可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ光検出装置や発生装置に用いられるテラヘルツ光伝導基板、並びに、それを用いたテラヘルツ光検出装置、テラヘルツ光発生装置、およびテラヘルツ光測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
テラヘルツ電磁波は、光と電波の境界領域にある未開拓電磁波として長年研究されてきたが、近年の科学技術革新により、テラヘルツ波帯利用への道が開かれつつあり、次世代の産業に大きな役割を果たすことが期待されている。
【0003】
このようなテラヘルツ電磁波の検出あるいは発生方法としては様々なものが提案されているが、その一翼を担っているのがテラヘルツ光伝導基板である(たとえば特許文献1参照)。現在、広く利用されているテラヘルツ光伝導基板は、ガリウム砒素(GaAs)を含む半絶縁性層上に分子線エピタキシー法(MBE法)により低温で結晶成長させたガリウム砒素(LT−GaAs)を光伝導膜として用いたものである。このLT−GaAs膜を用いたテラヘルツ光伝導基板が光伝導材料として使用されてきた理由は、(1)非常に短いキャリア寿命、(2)高い絶縁性、(3)比較的高い移動度という光伝導材料に必要な3つの特性を都合よく満たしているからである。
【特許文献1】特開2007−79511号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のテラヘルツ光伝導基板は、上述したとおり、光伝導材料に必要な3つの特性を有するが、これらの特性は、半絶縁性GaAs層上にGaAs膜を低温成長させることによって結晶中に導入される格子欠陥が原因となって生じるものであり、上記3つの特性を精密に制御することは難しく、結晶中に多量の格子欠陥が導入されることによる結晶性の悪化は免れない。
【0005】
また、上記従来のテラヘルツ光伝導基板は、LT−GaAs膜を低温成長させた後に熱処理を行う工程が必要である。しかし、この熱処理は手作業であり、さらに熟練した技術者の経験と勘に頼っているため、再現性に乏しく、実用的ではない。
【0006】
また、上記従来のテラヘルツ光伝導基板の製造方法には、MBE法が利用されているが、このMBE法は、真空中で蒸発させた分子状材料から結晶成長させる方法であるため、真空状態にするための特殊な装置を必要とする。そのため、大学等の研究用途には向いているが、大量生産することができず、コストが高くなるという問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題点を解消するためになされたものであり、低コストで、かつ、簡単に大量生産が可能なテラヘルツ光伝導基板、並びに、それを用いたテラヘルツ光検出装置、テラヘルツ光発生装置、およびテラヘルツ光測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のテラヘルツ光伝導基板は、第1の半導体層と、前記第1の半導体層の一方の主面上に形成された、光照射により伝導性を示す第2の半導体層とを含むテラヘルツ光伝導基板であって、前記第2の半導体層は、希土類元素を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明のテラヘルツ光検出装置は、上記テラヘルツ光伝導基板を用いたことを特徴とする。
【0010】
本発明のテラヘルツ光発生装置は、上記テラヘルツ光伝導基板を用いたことを特徴とする。
【0011】
本発明のテラヘルツ光測定装置は、上記テラヘルツ光検出装置および上記テラヘルツ光発生装置を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のテラヘルツ光伝導基板によれば、第1の半導体層と、前記第1の半導体層の一方の主面上に形成された、光照射により伝導性を示す第2の半導体層とを含むテラヘルツ光伝導基板であって、前記第2の半導体層は、希土類元素を含むことにより、光伝導材料に必要な(1)非常に短いキャリア寿命、(2)高い絶縁性、(3)比較的高い移動度という3つの特性を有することが可能である。また、第2の半導体層の希土類元素の含有濃度を制御することにより、光伝導材料に必要な3つの特性を緻密に変化させることができる。また、製造工程において、従来のLT−GaAs膜のように低温成長や熱処理を行う工程を必要としないため、テラヘルツ光伝導基板を簡単に製造できるだけでなく、結晶中に導入される欠陥を低減させて結晶性に優れたテラヘルツ光伝導基板を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
(実施の形態1)
本実施の形態1では、従来のLT−GaAs膜に代わる新規な光伝導膜を備えた、テラヘルツ光伝導基板の一例について説明する。図1に、本実施の形態1によるテラヘルツ光伝導基板10の構造の断面図を示した。
【0015】
本実施の形態1のテラヘルツ光伝導基板10は、第1の半導体層11と、第1の半導体層11の一方の主面上に形成された、光照射により伝導性を示す第2の半導体層12とを備え、第2の半導体層12は希土類元素を含む。
【0016】
上記第2の半導体層12に含まれる希土類元素としては、スカンジウム(Sr)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、およびルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を用いることができる。また、上記第2の半導体層12は、上記希土類元素を1種類のみ含むものであっても良いが、複数種類の希土類元素、あるいは、希土類元素と他の元素、たとえば、酸素元素(O)を含むものであっても良い。上記第2の半導体層が希土類元素と酸素元素とを含む場合には、結晶格子内における希土類元素の位置を固定することが可能である。これにより、結晶構造の安定化が図れる。
【0017】
また、上記希土類元素の含有濃度は、1×1017〜1×1021cm-3であることが好ましい。なお、単位“cm-3”は、1cm3あたりの希土類元素の個数を表している。上記範囲内で、上記第2の半導体層12の上記希土類元素の含有濃度を調整することで、光伝導材料としての特性を緻密に変化させることができる。
【0018】
また、上記第2の半導体層12が酸素元素を含む場合、その酸素元素の含有濃度は、上記希土類元素の含有濃度の2倍程度にすることが、希土類元素の周辺局所構造を単一化させる観点から好ましい。
【0019】
上記第1の半導体層11の厚さは、300〜500μmの範囲であればよい。また、上記第2の半導体層12の厚さは、0.01〜5μmの範囲であればよい。
【0020】
上記第2の半導体層12としては、IV族半導体、化合物半導体、有機半導体のいずれかを用いることができる。具体的には、Si、GeなどからなるIV族半導体、III族元素としてAl、Ga、InおよびV族元素としてN、P、As、Sbなどから2つ以上の元素が選択されたGaAs、InGaAs、InGaSb、InAs、InNなどからなるIII−V族半導体、ZnSeなどからなるII−VI族半導体のように、光伝導性を有する半導体であれば良い。
【0021】
また、上記テラヘルツ光伝導基板10は、第1の半導体層11の一方の主面上に第2の半導体層12を結晶成長させることにより得られるが、第2の半導体層12の結晶成長方法としては、MBE法や有機金属気相エピタキシャル法(OMVPE法)を用いることができる。より好ましくは、OMVPE法を用いる方が良い。これは、OMVPE法は、MBE法のように真空状態にするための特殊な装置を必要とせず、研究用途から産業用途まで広く利用可能であるからである。
【0022】
ここで、第1の半導体層11としてGaAs膜を用い、このGaAs膜上に、第2の半導体層12としてEr(含有濃度は1×1017cm-3)とO(含有濃度は0.5〜2×1017cm-3程度)とを含むGaAs膜をOMVPE法を用いて結晶成長させ、得られたテラヘルツ光伝導基板10の表面粗さRMS(Root Mean Square)を原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した。このとき、AFMの設定モードはコンタクトモードとし、スキャンエリアは5×5μmとした。そして、AFMによる画像解析の結果からRMS値を算出したところ、0.4nm未満であった。このことから、OMVPE法で作製したテラヘルツ光伝導基板10の表面は、その平坦性を優れたものとすることができることがわかった。一方、MBE法で作製した従来のLT−GaAs膜は、低温で、かつ過剰のAs雰囲気中で結晶成長させるため、その表面の平坦性を優れたものとすることは難しい。
【0023】
次に、本発明のテラヘルツ光伝導基板10の特性について説明する。
【0024】
ここでは、第1の半導体層11としてGaAs膜を用い、第2の半導体層12としてErとOを含むGaAs膜を用い、Er含有濃度の異なる複数のテラヘルツ光伝導基板10を試作した。なお、第2の半導体層12のEr含有濃度は、0cm-3、1.0×1017cm-3、8.3×1017cm-3、5.8×1018cm-3、8.7×1018cm-3とした。また、第2の半導体層12のO含有濃度は、すべてEr含有濃度の0.5〜2倍程度とした。
【0025】
第2の半導体層12の結晶成長方法にはOMVPE法を用い、成長温度は、Er含有濃度が0cm-3、1.0×1017cm-3の場合は550℃とし、Er含有濃度が8.3×1017cm-3、5.8×1018cm-3、8.7×1018cm-3の場合は540℃とした。また、第1の半導体層11の厚みは、600μmとし、第2の半導体層12の厚みは、1μmとした。
【0026】
なお、以下の説明において、第2の半導体層12のEr含有濃度が0cm-3、すなわち、Erが添加されていないテラヘルツ光伝導基板を、無添加GaAsと呼び、Er含有濃度が1.0×1017cm-3、8.3×1017cm-3、5.8×1018cm-3、8.7×1018cm-3、すなわち、Erが添加されたテラヘルツ光伝導基板を、Er−O共添加GaAsと呼ぶことにする。
【0027】
このようにして試作したテラヘルツ光伝導基板10の特性およびテラヘルツ光伝導基板10の利用可能性について、以下に詳細に説明する。
【0028】
(1)特性について
(a)キャリア寿命について
本発明のテラヘルツ光伝導基板10のキャリア寿命については以下のようにして調べた。
【0029】
まず、無添加GaAsと、Er含有濃度が8.3×1017cm-3、8.7×1018cm-3の場合のEr−O共添加GaAsの表面におけるポンプ−プローブ反射率をポンプ−プローブ法により測定した。このとき、波長840nm、出力パワー30mWのポンプ光、および波長840nm、出力パワー1mWのプローブ光を用いた。また、上記測定は、室温で行った。なお、上記ポンプ−プローブ法の参考文献として、Physica B, 376-377, (2006) 556.が挙げられる。図2に、ポンプ−プローブ法による正規化反射率と時間との関係を示す。
【0030】
そして、図2の測定結果からキャリア寿命を算出した。このキャリア寿命の算出は、反射率の緩和初期を指数関数でフィッティングすることにより行った。その結果、無添加GaAsのキャリア寿命は0.84ps、Er含有濃度が8.3×1017cm-3のEr−O共添加GaAsのキャリア寿命は0.56ps、Er含有濃度が8.7×1018cm-3のEr−O共添加GaAsのキャリア寿命は0.37psであった。
【0031】
また、比較のため、市販LT−GaAs膜(浜松ホトニクス社製LT−GaAsダイポール型光伝導型アンテナ、膜厚は1.2μm)を用いたテラヘルツ光伝導基板についても、同様にして測定したところ、キャリア寿命は0.3psであった。なお、上記テラヘルツ光伝導基板は、上記市販LT−GaAs膜を、500μmのGaAs基板上に形成することにより作製したものである。
【0032】
以上のことから、第2の半導体層12のEr含有濃度が高くなるに伴い、キャリア寿命が短くなることが分かった。また、Er含有濃度が8.7×1018cm-3のEr−O共添加GaAsの場合には、市販LT−GaAs膜を用いたテラヘルツ光伝導基板とほぼ同程度のキャリア寿命を実現可能であることが分かった。
【0033】
(b)抵抗値および移動度について
本発明のテラヘルツ光伝導基板10の抵抗値および移動度については以下のようにして調べた。
【0034】
Er−O共添加GaAsのVan der Pauw法によるホール測定を、ホール係数測定システムを用いて行った。このとき、上記測定は、室温で行った。また、測定条件は、磁場3100G、電流10nAとした。ここでは、Er含有濃度が1.0×1017cm-3のEr−O共添加GaAsを用いた。また、比較のため、上記市販LT−GaAs膜を用いたテラヘルツ光伝導基板についても同様にして測定した。
【0035】
測定の結果、市販LT−GaAs膜を用いたテラヘルツ光伝導基板の移動度は、150〜200cm2/Vsであり、抵抗値は、106Ωcmであった。一方、Er−O共添加GaAsの移動度は1000cm2/Vsであり、抵抗値は、104Ωcmであった。
【0036】
このように、Er−O共添加GaAsは、市販LT−GaAs膜を用いたテラヘルツ光伝導基板に比べて抵抗値は下がるものの、市販LT−GaAs膜を用いたテラヘル光伝導基板よりも高い移動度を示した。
【0037】
(2)応用性について
(a)テラヘルツ光の発生
本発明のテラヘルツ光伝導基板10を用いてテラヘルツ光を発生可能であるかどうかについて以下のようにして調べた。
【0038】
まず、テラヘルツ光伝導基板10の表面に、5mm角の導電膜を形成した。ここでは、上記テラヘルツ光伝導基板10として、Er含有濃度が1.0×1017cm-3、8.7×1018cm-3のEr−O共添加GaAsを用いた。
【0039】
そして、上記基板10の表面に対し、波長が800nmで出力パワーが80mWのポンプパルス光を照射し、該基板表面から放射されるテラヘルツ光の検出を行った。検出には、市販のLT−GaAsダイポール型光伝導アンテナを用いたテラヘルツ光検出装置を用いた。このとき、波長が800nm、出力パワーが10mWのゲートパルス光を用いた。なお、測定方法は一般的なテラヘルツ(THz)表面放射の測定方法と同じである。図3に、テラヘルツ光伝導基板表面から放射されたテラヘルツ光の時間波形を示す。
【0040】
図3に示すように、Erの含有濃度の増加とともに、テラヘルツ光強度の低下がみられ、Er含有濃度が8.7×1018cm-3のEr−O共添加GaAsの表面から放射されたテラヘルツ光の強度は、無添加GaAsの上面から放射されたテラヘルツ光の強度に比べて約1/5であった。
【0041】
しかし、この図3に示す結果は、Er−O共添加GaAsが、テラヘルツ周波数領域において十分に動作し、高い移動度を持っていることを示唆している。これにより、本発明のテラヘルツ光伝導基板は、テラヘルツ光発生装置に利用可能であると考えられる。
【0042】
(b)テラヘルツ光の検出
本発明のテラヘルツ光伝導基板10を用いてテラヘルツ光を検出可能であるかどうかを以下にようにして調べた。
【0043】
まず、テラヘルツ光伝導基板10の第2の半導体層12上に、ボウタイ型アンテナである一対のAu電極を形成した。このとき、Au電極の間隙部の幅は0.5μmとした。また、テラヘルツ光伝導基板10としては、Er含有濃度が1.0×1017cm-3のEr−O共添加GaAsを用いた。
【0044】
そして、テラヘルツ光伝導基板10の表面に形成されたAu電極の間隙部に、波長800nm、出力パワー10mWのゲートパルス光を照射してキャリアを生成させた。この状態で、テラヘルツ光伝導基板10の裏面からテラヘルツ光を照射すると、テラヘルツ光の電場によりキャリアが加速するので、このときの電流値を測定した。また、比較のため、前述の市販LT−GaAs膜を用いたテラヘルツ光伝導基板についても同様に測定した。図4に、本発明のテラヘルツ光伝導基板10および市販LT−GaAs膜を用いたテラヘルツ光伝導基板を用いて検出された各テラヘルツ光の時間波形を示した。なお、上記測定には、波長が800nm、出力パワーが10mWのゲートパルス光と、波長が800nm、出力パワーが70mWのポンプパルス光を用いた。
【0045】
図4から、市販LT−GaAs膜を用いたテラヘルツ光伝導基板に比べて検出精度は良くないものの、Er−O共添加GaAsはテラヘルツ光を検出可能であることを確認した。これにより、本発明のテラヘルツ光伝導基板10が、テラヘルツ光検出装置に利用可能であると考えられる。
【0046】
また、図4の測定結果から半値幅を算出したところ、市販LT−GaAs膜を用いたテラヘルツ光伝導基板の半値幅は、0.84psであったが、Er−O共添加GaAsの半値幅は、0.72psであった。これは、Er−O共添加GaAsの方が、LT−GaAsを用いた場合よりも応答速度が早いことを示している。
【0047】
以上のことから、本発明のテラヘルツ光伝導基板10は、光伝導材料に必要な3つの特徴を有する光伝導材料であり、LT−GaAs膜を用いたテラヘルツ光伝導基板に代わる新規な光伝導材料として利用可能であることが分かった。また、本発明における第2の半導体層12は、LT−GaAs膜のように低温成長や熱処理を行う工程を必要としないため、低温成長によって結晶中に導入される欠陥を防ぎ、結晶性に優れたものとすることができることがわかった。
【0048】
(実施の形態2)
本実施の形態2では、本発明のテラヘルツ光伝導基板10を用いたテラヘルツ光検出装置について説明する。図5に、本実施の形態2によるテラヘルツ光検出装置20の構成例を示す。図5において、図1と同一構成要素については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0049】
本実施の形態2のテラヘルツ光検出装置20は、テラヘルツ光伝導基板10と、テラヘルツ光伝導基板10の第2の半導体層12上にパターニング形成された、間隙部Gを有する一対の導電膜13と、外部から受光したテラヘルツ光を導電膜13の間隙部Gに集光するシリコン半球レンズ14と、導電膜13の間隙部Gにおける電流値を電圧に変換して出力するIV変換回路15とを備える。
【0050】
テラヘルツ光伝導基板10は、シリコン半球レンズ14の平坦部に対し、第2の半導体層12が形成された主面とは反対の主面が接するようにマウントされている。
【0051】
第2の半導体層12は、少なくとも1種類の希土類元素を含む。さらに、酸素元素を含んでいてもよい。たとえば、第2の半導体層12として、ErおよびOを含むGaAs膜を用いることができる。また、第1の半導体層11として、GaAs膜を用いることができる。
【0052】
図示した導電膜13はダイポール型であるが、ボウタイ型、スロット型、スパイラル型等様々な形状とすることができ、光伝導アンテナとして利用可能である。
【0053】
次に、テラヘルツ光検出装置20の動作を説明する。
【0054】
テラヘルツ光T1を、テラヘルツ光検出装置20の裏面、つまり、シリコン半球レンズ14に入射すると、シリコン半球レンズ14の屈折作用により導電膜13の間隙部Gにテラヘルツ光が集光する。一方、プローブパルス光L1を導電膜13の間隙部Gに照射すると、テラヘルツ光T1の電場強度に応じた光電流が生じる。この電場強度に応じた光電流をIV変換回路15によって電圧に変換して検出することにより、テラヘルツ光T1の電場振幅を測定することができる。
【0055】
このように、本実施の形態2のテラヘルツ光検出装置20は、本発明のテラヘルツ光伝導基板10を用いてテラヘルツ光を検出することができるため、通信用の電磁波受信アンテナや、センシングシステム分野における検出装置などに利用可能である。
【0056】
(実施の形態3)
本実施の形態3では、本発明のテラヘルツ光伝導基板10を用いたテラヘルツ光発生装置について説明する。図6に、本実施の形態3によるテラヘルツ光発生装置30の構成例を示す。
【0057】
本実施の形態3のテラヘルツ光発生装置30は、テラヘルツ光伝導基板10と、テラヘルツ光伝導基板10の第2の半導体層12上にパターニング形成された、間隙部Gを有する一対の導電膜13と、導電膜13の間隙部Gで発生したテラヘルツ光T2を外部へ出射するシリコン半球レンズ14と、導電膜13にバイアス電圧を印加する電圧印加回路16とを備える。図6において、図5と同一構成要素については同一符号を用い、その説明を省略する。
【0058】
図6に示した導電膜13はダイポール型形状の導電膜13を示したが、上記実施の形態2でも説明した通り、導電膜13の形状はボウタイ型、スロット型、スパイラル型等様々な形状とすることができる。また、導電膜13の形状に応じて、光強度や周波数帯域が異なるテラヘルツ光を発生させることが可能である。
【0059】
次に、テラヘルツ光発生装置30の動作について説明する。
【0060】
ダイポール型の導電膜13の間隙部Gに、電圧印加手段16からバイアス電圧が印加される。そして、バイアス電圧を印加した状態で、ポンプパルス光L2が導電膜13の間隙部Gに照射されると、テラヘルツ光T2が発生する。このテラヘルツ光T2は、ポンプパルス光L2の照射により励起された光励起キャリアがバイアス電圧の印加によって加速されることにより発生する。そして、発生したテラヘルツ光T2は、シリコン半球レンズ14を透過して外部に放射される。
【0061】
このように、本実施の形態3のテラヘルツ光発生装置30は、本発明のテラヘルツ光伝導基板10を用いてテラヘルツ光を発生させることができるため、人体に危険なX線に代わる安全な光源として利用可能である。
【0062】
(実施の形態4)
本実施の形態4では、本発明のテラヘルツ光伝導基板10を用いたテラヘルツ光測定装置について説明する。図7に、本実施の形態4によるテラヘルツ光測定装置100の概略構成の一例を示す。
【0063】
本実施の形態4のテラヘルツ光測定装置100は、レーザ光源101、ビームスプリッタ102、チョッパー103、レンズ104、テラヘルツ光発生装置105、第1放物面鏡106、第2放物面鏡108、テラヘルツ光検出装置109、ミラー110、光学遅延ステージ112、測定回路113、制御・演算処理部114、表示部115を備える。
【0064】
レーザ光源101としては、たとえば、フェムト秒パルスレーザが用いられ、数10フェムト秒のパルス幅を有する近赤外波長領域のレーザパルス光を出射する。
【0065】
テラヘルツ光発生装置105としては、たとえば、図6に示すテラヘルツ光発生装置30を用いる。なお、テラヘルツ光発生装置30については上記実施の形態3において説明したので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0066】
テラヘルツ光検出装置109としては、たとえば、図5に示すテラヘルツ光検出装置20を用いる。なお、テラヘルツ光検出装置20ついては上記実施の形態2において説明したので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0067】
次に、テラヘルツ光測定装置100の動作について図5、図6および図7を用いて説明する。
【0068】
レーザ光源101から出射されたレーザ光は、ビームスプリッタ102でポンプパルス光(反射光)L2とプローブパルス光(透過光)L1に分割される。
【0069】
ビームスプリッタ102で反射されたポンプパルス光L2は、チョッパー103により周期的に光がチョッピングされ、周波数に応じて光量が変化する。そして、レンズ104を介してテラヘルツ光発生装置105の表面に照射され、テラヘルツ光T2が発生する。
【0070】
ここで、テラヘルツ光発生装置105におけるテラヘルツ光の発生について図6を用いてさらに詳細に説明する。上記ポンプパルス光L2は、上記テラヘルツ光発生装置105の表面に形成された、バイアス電圧が印加された状態のテラヘルツ光伝導基板10に照射され、これにより、テラヘルツ光伝導基板10が励起され、テラヘルツ光T2が発生する。そして、発生したテラヘルツ光T2は、シリコン半球レンズ14を透過して外部へ出力される。
【0071】
このようにしてテラヘルツ光発生装置105で発生したテラヘルツ光L2は、第1放物面鏡106によって平行化され、試料107に照射される。試料107を透過する際に、テラヘルツ光T2は、試料107に吸収あるいは試料107で反射され、特性の空間分布に応じて変調される。
【0072】
そして、変調されたテラヘルツ光、つまり、試料を透過したテラヘルツ光T1は、第2放物面鏡108によってテラヘルツ光検出装置109の裏面に照射される。一方、ビームスプリッタ102を透過したプローブパルス光L1は、光学遅延ステージ112内の折り返しミラー112aで反射され、さらにミラー111で反射された後、レンズ110により光束が絞られてテラヘルツ光検出装置109の表面に入射される。
【0073】
ここで、テラヘルツ光検出装置109におけるテラヘルツ光の検出について図5を用いて詳細に説明する。テラヘルツ光T1を、テラヘルツ光検出装置109の裏面に位置するシリコン半球レンズ14を介して導電膜13の間隙部Gに集光するとともに、プローブパルス光L1も、導電膜13の間隙部Gに照射すると、導電膜13の間隙部Gでは、テラヘルツ光T1の電場強度に応じた光電流が流れる。この光電流をIV変換回路15によって電圧に変換したものを測定回路113で測定する。
【0074】
ところで、光学遅延ステージ112は、制御・演算処理部114からの制御信号に基づいて折り返しミラー112aを移動させることにより、折り返しミラー112aの移動量に応じてプローブパルス光L1の光路長を変化させることができる。その結果、プローブパルス光L1がテラヘルツ光検出装置109へ到達する時間が遅延することになる。このように遅延時間を変更しながら、各遅延時間の時点における電場強度に応じた光電流値を測定することで、時系列テラヘルツ分光が可能となる。
【0075】
そして、測定回路113の測定結果から、制御・演算処理部114で所定の演算処理を行うことにより、試料の電気的特性や成分濃度等が得られる。また、演算結果は必要に応じて表示部115に表示してもよい。
【0076】
このように、本実施の形態4のテラヘルツ光測定装置100は、本発明のテラヘルツ光伝導基板10を用いたテラヘルツ光発生装置109によってテラヘルツ光T2を発生させて試料107に照射し、試料107を透過したテラヘルツ光T2を、本発明のテラヘルツ光伝導基板10を用いたテラヘルツ光検出装置109によって検出することにより、試料に接触したり試料を破壊したりすることなく、試料の電気的特性や成分濃度などを、簡便に測定することができる。よって、本発明のテラヘルツ光測定装置100は、X線や赤外線イメージングに並ぶ新たなイメージング装置として、様々な分野で利用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明のテラヘルツ光伝導基板は、テラヘルツ光検出装置、テラヘルツ光発生装置、およびテラヘルツ光測定装置に利用可能であり、様々な物質の物性分析を行うことが可能である。また、テラヘルツ光測定装置に利用した場合には、観察対象の内部を非破壊で観察することができるため、X線、赤外線イメージングに並ぶ新たなイメージング技術として、材料分野、セキュリティ分野、バイオテクノロジー分野、医療分野といった多岐にわたる分野で利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】図1は、本発明のテラヘルツ光伝導基板の構成を示す断面図である。
【図2】図2は、ポンプ−プローブ法による正規化反射率と時間との関係を示す図である。
【図3】図3は、本発明のテラヘルツ光伝導基板表面から放射されたテラヘルツ光の時間波形を示す図である。
【図4】図4は、本発明のテラヘルツ光伝導基板を用いて検出されたテラヘルツ光の時間波形を示す図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態2によるテラヘルツ光検出装置の一構成例を示す斜視図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態3によるテラヘルツ光発生装置の一構成例を示す斜視図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態4によるテラヘルツ測定装置の一構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0079】
10 テラヘルツ光伝導基板
11 第1の半導体層
12 第2の半導体層
13 導電膜
14 シリコン半球レンズ
15 IV変換回路
16 電圧印加回路
20 テラヘルツ光検出装置
30 テラヘルツ光発生装置
100 テラヘルツ光測定装置
101 レーザ光源
102 ビームスプリッタ
103 チョッパー
104 ミラー
105 テラヘルツ光発生装置
106 第1放物面鏡
107 試料
108 第2放物面鏡
109 テラヘルツ光検出装置
110 レンズ
111 ミラー
112 光学遅延ステージ
112a 折り返しミラー
113 測定回路
114 制御・演算処理部
115 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の半導体層と、前記第1の半導体層の一方の主面上に形成された、光照射により伝導性を示す第2の半導体層とを含むテラヘルツ光伝導基板であって、
前記第2の半導体層は、希土類元素を含むことを特徴とするテラヘルツ光伝導基板。
【請求項2】
前記希土類元素が、スカンジウム(Sr)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、およびルテチウム(Lu)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である請求項1に記載のテラヘルツ光伝導基板。
【請求項3】
前記第2の半導体層は、酸素元素をさらに含む請求項1または2に記載のテラヘルツ光伝導基板。
【請求項4】
前記第2の半導体層の前記希土類元素の含有濃度は、1×1017〜1×1021cm-3である請求項1ないし3のいずれかに記載のテラヘルツ光伝導基板。
【請求項5】
前記第1の半導体層の厚みは、300〜500μmの範囲であり、前記第2の半導体層の厚みは、0.01〜5μmの範囲である請求項1ないし4のいずれかに記載のテラヘルツ光伝導基板。
【請求項6】
前記第2の半導体層は、IV族半導体、化合物半導体、有機半導体のいずれかである請求項1ないし5のいずれかに記載のテラヘルツ光伝導基板。
【請求項7】
前記第2の半導体層は、有機金属気相エピタキシャル法により前記第1の半導体層上に形成された請求項1ないし6のいずれかに記載のテラヘルツ光伝導基板。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のテラヘルツ光伝導基板を用いたテラヘルツ光検出装置。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載のテラヘルツ光伝導基板を用いたテラヘルツ光発生装置。
【請求項10】
請求項8に記載のテラヘルツ光検出措置と、請求項9に記載のテラヘルツ光発生装置とを含むテラヘルツ光測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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