説明

テーパ角度測定方法及びテーパ角度測定装置

【課題】簡易な構成でありながら短時間で高精度に多量の被測定物を容易に測定できるとともにコストが低いテーパ角度測定方法及びテーパ角度測定装置を提供する。
【解決手段】円錐状内面のテーパ角度が正規テーパ角度として既知であるマスタ部材について、マスタ部材を固定し円錐状内面の軸方向に向かって第1直径から第n直径までの測定位置まで測定子を移動させ、測定位置と測定位置に対応する前記第1直径から第n直径までの直径値を第1のデータとして記憶し、円錐状内面を有する測定ワーク部材について、測定ワーク部材を固定し円錐状内面の軸方向に向かって、マスタ部材に対応する第1直径から第n直径までの測定位置まで測定子を移動させ、測定位置と測定位置に対応する前記第1直径から第n直径までの直径値を第2のデータとして記憶し、第1のデータと第2のデータとを比較してテーパ角度の測定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円錐状内面のテーパ角度を算出するテーパ角度測定方法及びテーパ角度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
テーパ角度の従来の測定方法としては、2個の適当な内径の異なるリングゲージをテーパ棒に嵌め込み、リングゲージの間隔を測定してテーパ棒のテーパ角度を評価するものなどがよく知られている。また、テーパ穴では適当な外径の異なる2個の円盤ゲージをテーパ穴に嵌め込み、円盤ゲージの間隔を測定することで評価するものがある。しかし、この方法では、測定に時間を要する上、直接テーパ角度を直接測定するものではないため測定精度に問題があった。
【0003】
これに対して、光学系にて非接触測定で直接測定するものがある(例えば、特許文献1)。この測定では、測定台の移動量と被測定物の直径の変化量から、被測定物の円錐状内面の中心軸に対するテーパ角度を算出することが行われている。
【0004】
また、テーパ角度を高精度で直接測定するものとして、3次元測定方法が知られている。この方法では、3次元測定機などを用いて、テーパの円周上4点(各90度方向)を3ヶ所異なる高さで測定し、径差と高低差より角度を自動計算するものである。なお、被測定物は、内径小径側基準で測定テーブルに固定され測定される。
【特許文献1】特開平11−044522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の測定装置においては、光学系による非接触測定を行っているため、測定分解能が低いという問題があった。
【0006】
また、3次元測定方法においては、高精度である反面、測定時間が長く、大量の測定物を測定するには不向きであった。
さらに、3次元測定機は高価であり、また測定環境を一定にする必要があることから恒温室に設置しなければならず、作業現場で容易に使用することができないことから使い勝手が悪いという問題があった。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡易な構成でありながら、短時間で高精度に多量の被測定物を容易に測定できるとともにコストが低いテーパ角度測定方法及びテーパ角度測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 円錐状内面を有する測定ワーク部材の当該円錐状内面のテーパ角度を測定するテーパ角度測定方法において、
円錐状内面のテーパ角度が正規テーパ角度として既知であるマスタ部材について、当該マスタ部材を固定し当該円錐状内面の軸方向に向かって第1直径から第n直径までの測定位置まで測定子を移動させ、当該測定位置と当該測定位置に対応する前記第1直径から第n直径までの直径値を第1のデータとして記憶し、
円錐状内面を有する測定ワーク部材について、当該測定ワーク部材を固定し当該円錐状内面の軸方向に向かって、前記マスタ部材に対応する第1直径から第n直径までの測定位置まで測定子を移動させ、当該測定位置と当該測定位置に対応する前記第1直径から第n直径までの直径値を第2のデータとして記憶し、
当該第1のデータと当該第2のデータとを比較し、その比較結果に基づいて直径差分値を演算処理した後、
当該直径差分値と前記測定位置とから差分テーパ角度を求め、
当該差分テーパ角度と前記マスタ部材の正規テーパ角度に基づいて、前記測定ワーク部材の円錐状内面のテーパ角度を測定することを特徴とするテーパ角度測定方法。
【0009】
(2) (1)に記載のテーパ角度測定方法において、
前記マスタ部材と前記測定ワーク部材との、円錐状内面の軸を含む断面を複数回測定し、各々の断面に対して前記差分テーパ角度を求めた後、
当該差分テーパ角度の平均をとって前記測定ワーク部材のテーパ角度を算出することを特徴とするテーパ角度測定方法。
【0010】
(3) 円錐状内面を有する被測定物を載置するための載置部と、
当該円錐状内面の軸方向に沿って移動するとともに、当該被測定物の当該円錐状内面の直径を測定する測定子と、
当該測定子によって測定された前記円錐状断面の直径を前記測定子の測定位置とともに対応付けて測定データとして記憶する記憶部と、
当該記憶部に記憶された当該測定データに基づいて前記被測定物の円錐状内面のテーパ角度を算出する演算処理部とを備え、
当該前記測定子は、円錐状内面のテーパ角度が正規テーパ角度として既知であるマスタ部材と、円錐状内面を有する測定ワーク部材との各々の円錐状内面を第1直径から第n直径まで対応した測定位置で測定し、
前記演算処理部は、当該測定した結果により得られたマスタ部材の測定データと測定ワーク部材の測定データとを比較し、その比較結果に基づいて直径差分値を算出した後、
当該直径差分値と前記測定子の前記測定位置とから差分テーパ角度を求め、
当該差分テーパ角度と前記マスタ部材の正規テーパ角度に基づいて、前記測定ワーク部材の前記円錐状内面の絶対テーパ角度を算出することを特徴とするテーパ角度測定装置。
【0011】
(4) (3)に記載のテーパ角度測定装置において、
前記演算処理部は、
前記マスタ部材と前記測定ワーク部材との、円錐状内面の軸を含む断面を複数回測定し、各々の断面に対して前記差分テーパ角度を求めた後、
当該差分テーパ角度の平均をとって前記測定ワーク部材のテーパ角度を算出することを特徴とするテーパ角度測定装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、円錐状内面を有する測定ワーク部材の当該円錐状内面のテーパ角度を測定するテーパ角度測定方法において、
円錐状内面のテーパ角度が正規テーパ角度として既知であるマスタ部材について、当該マスタ部材を固定し当該円錐状内面の軸方向に向かって第1直径から第n直径までの測定位置まで測定子を移動させ、当該測定位置と当該測定位置に対応する前記第1直径から第n直径までの直径値を第1のデータとして記憶し、
円錐状内面を有する測定ワーク部材について、当該測定ワーク部材を固定し当該円錐状内面の軸方向に向かって、前記マスタ部材に対応する第1直径から第n直径までの測定位置まで測定子を移動させ、当該測定位置と当該測定位置に対応する前記第1直径から第n直径までの直径値を第2のデータとして記憶し、
当該第1のデータと当該第2のデータとを比較し、その比較結果に基づいて直径差分値を演算処理した後、
当該直径差分値と前記測定位置とから差分テーパ角度を求め、
当該差分テーパ角度と前記マスタ部材の正規テーパ角度に基づいて、前記測定ワーク部材の円錐状内面のテーパ角度を測定するので、
短時間で高精度に多量の被測定物を測定できる。また、簡易な構成で測定可能であるので、低コスト且つ容易に測定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係る円錐状内面の軸に対するテーパ角度を測定するテーパ角度測定方法及びテーパ角度測定装置について図面に従って説明する。図1は、本実施形態のテーパ角度測定装置を説明するための概略構成図であり、図1(a)に上視図を示し、図1(b)に縦断面図を示している。図2は本実施形態のテーパ角度測定装置のシステム図である。図3は本発明の一実施形態に係るテーパ角度測定方法を示すフローチャートである。図4は、本発明のテーパ角度測定装置の測定動作を示す図である。図5は、本発明の一実施形態で取得した測定データの一例を示すグラフである。
【0014】
図1に示すように本実施形態のテーパ角度測定装置10は、装置本体1上に、被測定物、即ち円錐状内面のテーパ角度が正規テーパ角度として既知であるマスタ部材M或いは円錐状内面を有する測定ワーク部材Wを載置するための載置部2と、先端に接触子4a,5aを有した測定子である測定ゲージ4,5と、当該測定ゲージ4,5を駆動する測定ゲージ駆動部3とを備えている。
また、載置部2の被測定物、即ちマスタ部材M及び測定ワーク部材Wの円錐状内面の軸と測定ゲージ駆動部3の測定ゲージ4,5は高さ(図示Z方向)が等しくなるようになっている(図1(b)参照)。
【0015】
載置部2は、装置本体1上に配置された台座6と、台座6上にマスタ部材Mや測定ワーク部材Wなどの被測定物を溝に固定可能なVブロック7とにより構成されている。また、Vブロック7は、例えばバイスなどのように部材を相対する2面の部材の間に挟むことによって強く固定でき、また当該固定を緩めることによって被測定物を取替え自在となる構造を有している。
マスタ部材M及び測定ワーク部材Wの測定は、Vブロック7に強く固定され実施される。
【0016】
測定ゲージ4,5は、先端に接触子4a,5aを有した電気マイクロメータであり、対をなして構成される。また、1対の接触子4a,5aが離間して載置部2の被測定物、即ちマスタ部材M或いは測定ワーク部材Wの円錐状内面に当接されるように配置され、そして図示Y方向の変位を測定することにより円錐状内面の直径を測定可能となっている。
さらに、当該測定ゲージ4,5は、被測定物の寸法に応じて図示Y方向に移動調節され、ねじなどによって固定可能となっている。
【0017】
測定ゲージ駆動部3は、支持台11と測定ゲージ4,5などにより構成されている。また、当該支持台11の下部には被測定物の円錐状内面の軸方向にボールネジ8と両側に図示しないリニアガイドが取付けられている(図1(b)参照)。したがって、当該ボールネジ8をパルスモータ9で駆動することにより、測定ゲージ4,5を載せた支持台11を図示X方向に沿って精度よくスライド移動可能としている。
【0018】
テーパ角度測定装置10のシステム構成について、図2に従って説明する。テーパ角度測定装置10は、モータ信号処理部21と、測定ゲージ信号処理部22と、演算処理部(MPU)23とを備えている。
【0019】
モータ信号処理部21は、パルスモータ9の指令値をパルス列信号として出力するインターフェイスカード(I/F CARD)24と、パルスモータ9を当該パルス列信号に従って駆動させるためのパルスモータドライバ25とを備えている。これにより、演算処理部23は、パルスモータ9の回転指令値として、インターフェイスカード24を介してパルス列信号を出力し、パルスモータドライバ25は当該パルス列信号に従ってパルスモータ9を回転指令値通りに回転駆動させる。
【0020】
測定ゲージ信号処理部22は、測定アンプ(AMP)26を備え、測定ゲージ4,5から出力される電気信号を取り込む。測定アンプ26は、アナログアンプ機能とローパスフィルタなどのフィルタ機能とを備えている。前記測定アンプ26にて、増幅・濾波された測定ゲージ4,5の信号は、演算処理部23に取り込まれる。
【0021】
演算処理部(MPU)23は、中央処理装置と記憶装置などを備え、パルスモータ9の回転指令値のデータを生成するとともに、取り込んだ測定ゲージ4,5の信号を直径の測定値として変換する。また、当該演算処理部23は、前記回転指令値を支持台11の移動位置、即ち測定位置に変換演算する。
また、テーパ角度測定装置10は、データを記憶保持可能なようにバックアップ電池(Batt)28を有するスタティックランダムメモリー(SRAM)27を備え、当該スタティックランダムメモリー27にて前記測定位置と前記測定値とを測定ごとに測定データとして記憶保持可能となっている。
【0022】
以上のように構成されたテーパ角度測定装置10おけるテーパ角度測定方法について、図3〜図5に従って説明する。
【0023】
先ず、Vブロック7上に、前記マスタ部材Mを載置し固定する(即ちS101)。そして、測定ゲージ4,5が前記マスタ部材Mの円錐状内面の初期測定位置に到達するよう、ボールネジ8をパルスモータ9で駆動させ、支持台11を軸方向にスライド移動させる(即ちS102)。なお、当該初期測定位置は演算処理部23で予め設定されており、状況に応じて外部から設定変更可能となっている。
測定ゲージ4,5が当該初期測定位置に到達すると、1対の接触子4a,5bが離間して円錐状内面に当接しているので、前記マスタ部材Mの円錐状内面の第1直径YM1を測定する(即ちS103)。この際、第1直径YM1を初期測定位置XM1とともに一時的にRAMなどの記憶装置に保存する。
【0024】
次に、測定ゲージ4,5を第1直径YM1の測定位置(X方向の前記初期基準位置)から第2直径YM2の測定位置(X方向の測定位置)まで到達するように、ボールネジ8をパルスモータ9で駆動させ、支持台11を図示X正方向にスライド移動させる(即ちS104、図4参照)。この際、測定ゲージ4,5の測定位置XM2を一時的にRAMなどの記憶装置に保存する。
【0025】
そして、図示X方向で終了測定位置(第n直径)を超えていなければ、直径の測定を行う(即ちS105)。これにより、1対の接触子4a,5bが離間して円錐状内面に当接しているので、前記マスタ部材Mの円錐状内面の第2直径YM2を測定する(即ちS103)。この際、第2直径YM2を一時的にRAMなどの記憶装置に記憶する。なお、前記終了測定位置(第n直径)は演算処理部23で予め設定されており、状況に応じて外部から設定変更可能となっている。
【0026】
これら測定動作を前記終了測定位置(第n直径)まで実施する(即ちS105)。これら一連の測定動作より取得されたデータ、即ち(XM1,YM1),(XM2,YM2)・・・(XMn,YMn)のn個の組合せデータは、当該データが一時的に格納されている前記記憶装置から読み出され、最終的に一つのデータとしてSRAM27に記憶保持される(即ちS106、図5(a)参照)。このマスタ部材Mに係る当該データを第1のデータと記す。
【0027】
次に、Vブロック7に載置し固定された前記マスタ部材Mを、固定を緩め取り外し、測定ワーク部材Wに取り替えて載置し直して、取り付け位置が前記マスタ部材Mと同じになるように固定する(即ちS107)。そして、前記マスタ部材Mと同様な手順で当該測定ワークの第1から第nまでの直径Ywi(ただし、i=1,・・・,n)を測定する(即ちS108〜S111)。
なお、前記マスタ部材Mと前記測定ワーク部材Wを比較可能とするため、前記測定ワークWを測定する際の初期測定位置と終了測定位置は、マスタ部材Mの測定の際と同じ位置となっている。即ち、測定ワーク部材Wにおける測定位置Xwiとすると、XWi=XMiとなる(ただし、i=1,・・・,n)。
前記測定ワークWの測定に関する一連の手順により取得されたデータ、即ち(XW1,YW1),(XW2,YW2)・・・(XWn,YWn)のn個の組合せデータは、当該データが一時的に格納されている前記記憶装置から読み出され、最終的に一つのデータとしてSRAM27に記憶保持される(即ちS112、図5(a)参照)。この測定ワーク部材Wに係る当該データを第2のデータと記す。
【0028】
その後、第1のデータと第2のデータとに基づき、測定位置XMi(=XWi)(ただし、i=1,・・・,n)に対応して、前記マスタ部材Mと前記測定ワーク部材Wとの第1直径から第nまでの直径差ΔY(=YWi−YWi)(ただし、i=1,・・・,n)を求め、前記測定位置XMi(=XWi)と前記直径差ΔYとの組合せデータとして差分データを算出する(即ちS113、図5(b)参照)。
【0029】
さらに、図5(b)に示すように、当該差分データに、近似直線として、例えば最小二乗法を用いて回帰直線を求め、当該回帰直線の傾きをもって、マスタ部材Mと測定ワーク部材Wとの角度の差分値である差分テーパ角度を算出する(即ちS114)。つまり、当該回帰直線の傾きをa、当該差分テーパ角度をΔθとすると、
Δθ=arctan(a)
として求まる。
【0030】
次に、予め測定されたマスタ部材Mの正規テーパ角度θのデータを取得し(即ちS115)、前記差分テーパ角度Δθと正規テーパ角度θとの和をとり、測定ワーク部材Wの円錐状内面の軸に対するテーパ角度θをθ=θ+Δθとして算出する(即ちS116)。なお、前記正規テーパ角度θは、SRAM27に記憶されており、演算処理部にて読み出され利用される。
最後に、測定ワーク部材Wの前記テーパ角度θを図示しない表示器、例えばLEDやディスプレイモニタなどに出力表示する(即ちS117)。
以上により、測定が終了する。
【0031】
また、複数の測定ワーク部材Wを連続して測定する際には、マスタ部材Mの測定データ、即ち第1のデータがSRAM27に記憶保持されているので、マスタ部材Mの測定(即ちS101〜S106)を省略し、2回目以降の測定は測定ワーク部材のみでよい。
ただし、温度変化による測定ゲージ5,6などのドリフト補償を行うため、マスタ部材Mの測定を定期的に行う。
【0032】
以上より、本実施形態によれば、円錐状内面のテーパ角度が正規テーパ角度として既知であるマスタ部材Mについて、当該マスタ部材Mを固定し当該円錐状内面の軸方向に向かって第1直径から第n直径までの測定位置まで測定ゲージ4,5を移動させ、当該測定位置と当該測定位置に対応する前記第1直径から第n直径までの直径値を第1のデータとして記憶し、円錐状内面を有する測定ワーク部材Wについて、当該測定ワーク部材Wを固定し当該円錐状内面の軸方向に向かって、前記マスタ部材Mに対応する第1直径から第n直径までの測定位置まで測定ゲージ4,5を移動させ、当該測定位置と当該測定位置に対応する前記第1直径から第n直径までの直径値を第2のデータとして記憶し、当該第1のデータと当該第2のデータとを比較し、その比較結果に基づいて直径差分値を演算処理した後、当該直径差分値と前記測定位置とから差分テーパ角度を求め、当該差分テーパ角度と前記マスタ部材Mの正規テーパ角度に基づいて、前記測定ワーク部材Wの円錐状内面のテーパ角度を測定するので、被測定物のセット誤差やスライド移動における振動の成分の影響などの測定系の特性及び測定方法に起因した統計誤差を抑制することができる。したがって、簡易な構成でも、高精度に測定可能であり、また低コストで且つ容易に測定が可能となる。
【0033】
また、前記統計誤差を厳密に考慮しなくても測定可能なため、セットアップが容易となり、測定時間が短縮でき、所定時間においては多量の測定ワーク部材Wを高精度に測定可能である。また、マスタ部材Mの測定を毎度行う必要がない。
【0034】
さらに、統計誤差をさらに抑制するために、図3に示したテーパ角度測定方法で前記マスタ部材Mを測定して得られた前記マスタ部材Mのテーパ角度と、当該マスタ部材の正規テーパ角度とを比較して補正値を算出し、測定ワークMの測定結果を補正値で補正する。
【0035】
例えば、テーパ角度測定装置10において測定して算出されたマスタ部材Mのテーパ角度が10.2度、当該マスタ部材Mの正規テーパ角度が10.0度であった場合、補正値HをH=10/10.2=0.98として算出する。そして、図3に示したテーパ角度測定方法で測定して得られた測定ワーク部材Wのテーパ角度に0.98を掛け(真のテーパ角度=測定結果×補正値H)、統計誤差を補正する。これにより、さらに統計誤差を抑制することができ、テーパ角度を高精度に測定可能となる。
【0036】
また、測定ワーク部材Wは、均一な円環状ではなく楕円となっている場合がある。このため、図3に示したテーパ角度測定方法で1回の測定を終了した後に、円錐状内面の軸に対して測定の載置状態を所定の角度、例えば90°ごとに回転させて複数回測定し、当該複数回の測定結果の平均をとって測定ワーク部材Wの平均テーパ角度を算出する。これにより、測定ワークWの円錐状内面が楕円となっていても、平均をとることにより、測定ワーク部材Wのテーパ角度を高精度に測定可能となる。
【0037】
また、被測定物の円錐状内面を測定する際、当該円錐状内面に金属片などのごみが付着している場合がある。当該ごみによる誤差を含めて測定するのは不適であるので、例えば当該円錐状内面の測定データに関し微分係数絶対値の基準値となる閾値を設け、当該測定データ全部に亘って微分係数絶対値を求め当該閾値を超える部分を切り捨てる。これにより、ごみなどによる誤差の影響を抑制でき、測定ワーク部材Wのテーパ角度を高精度に導出可能となる。
【0038】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明の様態はこれら実施形態に限られるものではない。例えば、本実施形態では処理の大部分をソフトウエアにて行っているが、その一部またはすべてをFPGA(Field Programable Gate Array)などのハードウエアで実現してもよい。
【0039】
また、本実施形態では測定データの記憶をSRAM27で行っているが、測定データを記憶保持できるものであればよく、例えば、フロッピーディスクドライブ、ハードディスクドライブなどの外部記憶装置を用いてもよい。
【0040】
また、本実施形態では測定子として電気マイクロメータを用いたが、被測定物の円錐状内面の直径を測定できるものであればよく、例えば非接触でも高精度な測定が可能なレーザ変位計などを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態に係るテーパ角度測定装置の概略構成図であり、(a)は平面図を示し、(b)は縦断面図を示す。
【図2】本実施形態のテーパ角度測定装置のシステム図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るテーパ角度測定方法を示すフローチャートである。
【図4】本発明のテーパ角度測定装置の測定動作を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態で取得した測定データの一例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0042】
1 装置本体
2 載置部
3 測定ゲージ駆動部
4,5 測定ゲージ
6 台座
7 Vブロック
8 ボールネジ
9 パルスモータ
10 テーパ角度測定装置
11 支持台
21 モータ信号処理部
22 測定ゲージ信号処理部
23 演算処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円錐状内面を有する測定ワーク部材の当該円錐状内面のテーパ角度を測定するテーパ角度測定方法において、
円錐状内面のテーパ角度が正規テーパ角度として既知であるマスタ部材について、当該マスタ部材を固定し当該円錐状内面の軸方向に向かって第1直径から第n直径までの測定位置まで測定子を移動させ、当該測定位置と当該測定位置に対応する前記第1直径から第n直径までの直径値を第1のデータとして記憶し、
円錐状内面を有する測定ワーク部材について、当該測定ワーク部材を固定し当該円錐状内面の軸方向に向かって、前記マスタ部材に対応する第1直径から第n直径までの測定位置まで測定子を移動させ、当該測定位置と当該測定位置に対応する前記第1直径から第n直径までの直径値を第2のデータとして記憶し、
当該第1のデータと当該第2のデータとを比較し、その比較結果に基づいて直径差分値を演算処理した後、
当該直径差分値と前記測定位置とから差分テーパ角度を求め、
当該差分テーパ角度と前記マスタ部材の正規テーパ角度に基づいて、前記測定ワーク部材の円錐状内面のテーパ角度を測定することを特徴とするテーパ角度測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載のテーパ角度測定方法において、
前記マスタ部材と前記測定ワーク部材との、円錐状内面の軸を含む断面を複数回測定し、各々の断面に対して前記差分テーパ角度を求めた後、
当該差分テーパ角度の平均をとって前記測定ワーク部材のテーパ角度を算出することを特徴とするテーパ角度測定方法。
【請求項3】
円錐状内面を有する被測定物を載置するための載置部と、
当該円錐状内面の軸方向に沿って移動するとともに、当該被測定物の当該円錐状内面の直径を測定する測定子と、
当該測定子によって測定された前記円錐状断面の直径を前記測定子の測定位置とともに対応付けて測定データとして記憶する記憶部と、
当該記憶部に記憶された当該測定データに基づいて前記被測定物の円錐状内面のテーパ角度を算出する演算処理部とを備え、
当該前記測定子は、円錐状内面のテーパ角度が正規テーパ角度として既知であるマスタ部材と、円錐状内面を有する測定ワーク部材との各々の円錐状内面を第1直径から第n直径まで対応した測定位置で測定し、
前記演算処理部は、当該測定した結果により得られたマスタ部材の測定データと測定ワーク部材の測定データとを比較し、その比較結果に基づいて直径差分値を算出した後、
当該直径差分値と前記測定子の前記測定位置とから差分テーパ角度を求め、
当該差分テーパ角度と前記マスタ部材の正規テーパ角度に基づいて、前記測定ワーク部材の前記円錐状内面の絶対テーパ角度を算出することを特徴とするテーパ角度測定装置。
【請求項4】
請求項3に記載のテーパ角度測定装置において、
前記マスタ部材と前記測定ワーク部材との、円錐状内面の軸を含む断面を複数回測定し、各々の断面に対して前記差分テーパ角度を求めた後、
当該差分テーパ角度の平均をとって前記測定ワーク部材のテーパ角度を算出することを特徴とするテーパ角度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−240201(P2007−240201A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−59822(P2006−59822)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】