説明

ディスクブレーキパッドの製造方法

【課題】成形型によって摩擦材の傾斜面を形成するディスクブレーキパッドの製造において、摩擦材粉末状原料の流動性が悪い場合にでも、均一な質の摩擦材を製造することが可能な、ディスクブレーキパッドの製造方法を提供する。
【解決手段】粉末状原料を予備成形用金型で加熱せずに加圧して固める予備成形工程と、傾斜面を有する成形用金型で加熱加圧して摩擦材に傾斜面を形成する成形工程を含むディスクブレーキパッドの製造方法において、予備成形工程で得られた予備成形品のバックプレートとの張付側とは反対側に、摩擦材に形成されるべき傾斜面の角度よりも大きな角度の傾斜面を形成するとともに、バックプレートとの張付側に除肉部を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車のディスクブレーキに使用されるディスクブレーキパッドの製造に関し、特に、ブレーキ鳴きを防止できるディスクブレーキパッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のディスクブレーキに使用するディスクブレーキパッドは、通常は鋼鉄製のバックプレートに摩擦材を張付したものである。摩擦材は、繊維材、充填材、結合材等を混合した粉末状原料を、加圧・加熱して成形される。ディスクブレーキは、このディスクブレーキパッドを金属製のディスクロータに圧接し、そのときの摩擦力によって、自動車の制動をするのである。
【0003】
このようなディスクブレーキにおいては、ブレーキ作動時に、ディスクブレーキパッドやディスクロータなどが振動してブレーキ鳴きを発するという問題がある。このようなブレーキ鳴きは不快な騒音となることから、各種の対策が講じられてきた。ブレーキ鳴きを防止する対策の1つとして、ディスクブレーキパッドの両端に傾斜面を形成する方法が知られている。
【0004】
図5は、このような傾斜面を形成したディスクブレーキパッドの従来例で、(a)は正面図、(b)は下面図である。図5に示すディスクブレーキパッド1は、鋼鉄製のバックプレート2に摩擦材3を張付けて構成されている。摩擦材3は、中央に平面の摩擦面3aがあり、両側部には傾斜面3b,3bが形成されている。摩擦面3aと両側の傾斜面3b,3bとの境界線5,5は、相互に平行である。これによって、ディスクロータの外周側で接触する摩擦面3aの長さと、内周側で接触する摩擦面3aの長さが等しくなるようにされている。
【0005】
このような傾斜面3bを設けることで、ディスクロータに対して引っ掛かりにくくなり、スティックスリップによるノイズが抑制されるのである。
【0006】
図6は、傾斜面を形成したディスクブレーキパッドの別の従来例である。図6(a)では、摩擦面3cがディスクロータの外側に向かって拡がった扇形になるように両端部に傾斜面3d,3dを形成し、図6(b)では、摩擦面3eが逆扇形になるように傾斜面3f,3fを形成している。
【0007】
ブレーキ鳴きは、ブレーキ作動時にディスクブレーキパッド1やディスクロータに生じる振動が原因と考えられているが、これに対し、ディスクブレーキパッド1の上記境界線5,6,7が、ディスクロータに直角に当接するようになっていると、ディスクロータの振動を抑制する効果が増大する。この理由から、摩擦面3c,3eを図6に示すように扇形にすることも行われてきた。
【0008】
特許文献1では、粉末状原料を予備成形用金型内で加熱せずに加圧して固め、傾斜面を有する予備成形品を製造する工程と、該予備成形品を前記予備成型用金型と同じ開口形状を有する成形用金型内で加熱加圧して前記傾斜面の位置に所望の角度の傾斜面を持つ摩擦材にする工程とを有し、予備成形品の傾斜面の角度を摩擦材の傾斜面の角度より大きくしたことを特徴とする摩擦材の製造方法が提案されている。
【0009】
特許文献1の製造方法では、予備成形品に形成された傾斜面は、摩擦材に形成されるべき傾斜面より勾配が急になっている。成形金型の傾斜面は、当初は、予備成形品の傾斜面の内側だけで接触し、接触部の外側には楔形の空間ができるようになっているため、粉末状原料は、加熱により溶融状態になるが、金型と予備成形品との間に空間があることから、原料が流動して全体が均一な摩擦材となるのである。
【0010】
しかし、摩擦材に含まれる繊維材の量が多く、粉末状原料の流動性が悪い場合は、特許文献1の製造方法を用いても全体が均一な摩擦材が得られないことがある。
【0011】
詳しくは、粉末状原料が流動するスペースが足りず、粉末状原料が十分に流動することができなくなるため、傾斜面の部分の密度が高い摩擦材を持つディスクブレーキパッドができる。このように傾斜面の密度が摩擦面の密度より大きくなると、摩擦材が摩耗して傾斜面の部分が消滅したとき、ブレーキ鳴きが発生し易くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−83978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このような問題を解決するもので、その目的とするところは、成形型によって摩擦材の傾斜面を形成するディスクブレーキパッドの製造において、摩擦材に含まれる繊維材の量が多く、粉末状原料の流動性が悪い場合においても、全体が均一な摩擦材を製造することが可能な、ディスクブレーキパッドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、粉末状原料を予備成形用金型で加圧して固める予備成形工程と、傾斜面を有する成形用金型で加熱加圧して摩擦材に傾斜面を形成する成形工程を含むディスクブレーキパッドの製造方法において、前記予備成形工程で得られた予備成形品のバックプレートとの張付側とは反対の側に、摩擦材に形成されるべき傾斜面の角度よりも大きな角度の傾斜面を形成するとともに、バックプレートとの張付側に除肉部を形成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、予備成形品のバックプレートの張付側に除肉部が形成されているため、粉末状原料が流動するスペースが十分に確保され、摩擦材に含まれる繊維材の量が多い場合においても、粉末状原料が十分に流動することができるようになり、全体が均一な摩擦材となる。溶融が進んだ状態では、成形金型の傾斜面は、隙間なく溶融した摩擦材と接触し、最終的に成形された摩擦材は、成形金型の傾斜面と同じ勾配の傾斜面を有することになる。
【0016】
本発明のディスクブレーキパッドの製造方法によれば、成形型によって摩擦材の傾斜面を形成するディスクブレーキパッドの製造において、摩擦材に含まれる繊維材の量が多く、粉末状原料の流動性が悪い場合にでも、均一な質の摩擦材を製造することができる。
【0017】
このような製造方法によって傾斜面の密度が摩擦面の密度と同じになると、摩擦材が摩耗して傾斜面の部分が消滅しても、ブレーキ鳴きは発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の製造方法で使用される予備成形用金型の図である。
【図2】予備成形品の側面図である。
【図3】本発明の製造方法で使用される成形用金型の図で、(a)は成形開始状態を示す図、(b)は成形完了状態を示す図である。
【図4】バックプレートとプランジャと予備成形品の一方の傾斜面の部分を拡大した図である。
【図5】傾斜面を形成したディスクブレーキパッドの従来例で、(a)は正面図、(b)は下面図である。
【図6】ディスクブレーキパッドの別の従来例の図で、(a)は、摩擦面がディスクロータの外側に向かって拡がった扇形になる例、(b)は、摩擦面が逆扇形になる例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施の形態を図面によって説明する。
図1は、本発明の製造方法に使用される予備成形用金型の図である。予備成形用金型10は、上型15と枠型16及びプランジャ17の3つの金型から構成される。これらはプレス機に取り付けられるが、枠型16は固定され、上型15及びプランジャ17は図の上下方向に移動可能な状態である。枠型16の中空部16aは、断面形状が図5(a)に示す摩擦材3の正面からみた形状と同じ形状で、中空部16aは枠型16の上下を貫通して形成されている。プランジャ17は、この中空部16a内を昇降自在である。また、プランジャ17の上面の中央には平面17aが、その両端には傾斜面17b,17bが形成されている。この傾斜面17bの角度はβである。傾斜面17bをプランジャ17に形成するので、傾斜面と平面との境界線が、図5の境界線5,5のように平行な場合に限らず、図5(a)の境界線6,6や図5(b)の境界線7,7のように非平行なものでも形成可能である。また、上型15には、後述する予備成形品30に除肉部30cを形成するための余肉部15aが形成されている。
【0020】
上型15を図の上方に退避させ、枠型16内で、プランジャ17の上の中空部16a内に粉末状の摩擦材原料を投入し、プランジャ17を上昇させ、上型15を下降させ加圧する。
【0021】
図2は、予備成形品30の側面図で、予備成形用金型10内で加圧して固まった状態である。正面から見た形状は、図5(a)の完成品と同じ形状であるが、密度は粗く、その厚さTは、バックプレート2に加圧接着されて所定の密度に圧縮された完成品の厚さのほぼ2倍となっている。予備成形品30は、図の下面の中央に摩擦面となる平面30aが、その両端に傾斜面30b,30bがあり、バックプレートとの張付側の両端には除肉部30c,30cを有している。傾斜面30bの角度は予備成形用金型10のプランジャ17に形成された傾斜面17bの角度と同じβである。この予備成形品30は、平面30a部分Xの密度と傾斜面30bの部分Yの密度とを比較すると、傾斜面30bの部分Yの密度の方が大きくなっている。
【0022】
こうして形成された予備成形品30をつぎのようにして、バックプレート2に張付けける。まず、この予備成形品30を図3(a)に示す成形用金型20内に入れる。成形用金型20は予備成形用金型10と基本的には同じ構造である。すなわち、上型25と枠型26、及びこの枠型26に貫通形成された空間内を昇降するプランジャ27とから構成される。枠型26には、仮成型の枠型16と同じ形状で同じ大きさの開口が形成されている。プランジャ27の上面の両側には、傾斜面27b,27bが形成されている。傾斜面27bの長さは、予備成形品30の傾斜面30bの長さと等しく、図2に示すように長さLで、傾斜の角度はαである。
【0023】
プランジャ27を枠型26内の適当な位置に停止させ、枠型26の空間内に予備成形品30を入れる。次に枠型26の上面にバックプレート2を載置する。バックプレート2は枠型26に形成された図示しない位置決め部材によって、所定の位置に載置される。
【0024】
上型25を降下させ、プランジャ27を上昇させ、予備成形品30に加圧と加熱とを加えてバックプレート2に張付ける。
【0025】
図4は、バックプレート2とプランジャ27と予備成形品30の一方の端部を拡大した図である。同図に示すように、両傾斜面27bと30bの水平方向の長さLは同一で、予備成形品30の傾斜面30bの角度はβで、プランジャ27の上面に形成された傾斜面27bの角度はαであり、β>αの関係がある。そのため、2つの傾斜面30bと27bとは内側の端部Aで接触し外側の端部では離間して、両斜面間に楔形の空間Bが形成される。また、予備成形品30のバックプレートとの張付面側にも除肉部30cが形成されており、予備成形品30とバックプレート2との間にも空間Dが形成される。
【0026】
上型25がバックプレート2を枠型26に押しつけ、プランジャ27が枠型26内を上昇し、予備成形品30がバックプレート2に押しつけられる。同時に予備成形品30に周囲の金型から熱が加わり、予備成形品30は溶融し始める。溶融することによって、摩擦材原料が空間B、空間Cを利用して流動し、摩擦材3となったときに、傾斜面3bの部分と摩擦面3aの部分との密度がほぼ等しくなる。
【0027】
図5は、成形用金型20で成形され取り出されたディスクブレーキパッド1の図で、(a)は正面図で、(b)は下面図で、従来例で示した物と外観上は同じである。傾斜面3bの角度は成形用金型20のプランジャ27に形成された傾斜面27bの角度と同じαとなる。この後、必要に応じて仕上げ研磨等を行い完成品となる。
【0028】
摩擦材に含まれる繊維材の含有量が比較的多く、粉末状原料の流動性が良くない表1の組成を有する摩擦材をレディゲミキサーにて10分間混合し、得られた摩擦材原料混合物を予備成形型に投入し、35MPaにて1分間加圧して予備成形した。予備成形品と、予め洗浄、表面処理を施したバックプレートを、成形用金型に重ねて投入し、成形温度155℃、成形圧力40MPaの条件下で5分間加熱・加圧成形した後、熱処理炉にて200℃で4時間硬化処理を行い、塗装、焼き付け、研磨して、実施例、比較例のディスクブレーキパッドを作成した。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
評価は、実車によるブレーキの鳴き試験と、比重及び気孔率とを測定することにより行った。気孔率とは、摩擦材中に存在する空隙部分が、摩擦材の見かけの全容積に占める割合を体積%で表したものである。比重の測定は、JIS D 4417の規定に従い、気孔率は、JIS D 4418に準拠して行った。比重及び気孔率測定に使用するテストピースは、摩擦面3a部と傾斜面3b部とから切出した。なお、摩擦面部と傾斜面部との分け方は、図2のX,Yに準じて行った。
【0032】
実施例の比重は、摩擦面部と傾斜面部とでは殆ど差がないが、比較例では差が見られた。これは、比較例では、原料の流動が不十分であったことが原因と考えられる。
【0033】
ブレーキ鳴きは、表2において、◎は、全く鳴きがない状態、○は極く微小な鳴きがある状態、△は微小な鳴きがある状態、×は明瞭に鳴きが出る状態を示す。実施例と比較例はいずれも新品の場合は、一切発生せず、良好であった。
【0034】
しかし、傾斜面が消滅するまで使用した状態では、実施例では◎で、全く無く、比較例では×であり、明瞭に「鳴き」が起こった。
【符号の説明】
【0035】
1 ディスクブレーキパッド
2 バックプレート
3 摩擦材
3a 摩擦面
3b 傾斜面
5,6,7 境界線
10 予備成形用金型
15 上型
15a 余肉部
16 枠型
17 プランジャ
20 成形用金型
25 上型
26 枠型
27 プランジャ
27b 傾斜面
30 予備成形品
30b 傾斜面
30c 除肉部
β 予備成形品の傾斜面の角度
α 摩擦材の傾斜面の角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状原料を予備成形用金型で加圧して固める予備成形工程と、傾斜面を有する成形用金型で加熱加圧して摩擦材に傾斜面を形成する成形工程を含むディスクブレーキパッドの製造方法において、前記予備成形工程で得られた予備成形品のバックプレートとの張付側とは反対側に、摩擦材に形成されるべき傾斜面の角度よりも大きな角度の傾斜面を形成するとともに、バックプレートとの張付側に除肉部を形成することを特徴とするディスクブレーキパッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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