説明

ディスクブレーキ

【課題】 ディスクブレーキのコスト低減および騒音抑制を同時に実現すること。
【解決手段】 車輪と共に回転するディスクロータと、ディスクロータの両側面に押圧される一対のパッドと、ディスクロータの外周を跨いで設けられ、一側にピストンとピストンを収容するシリンダとを有し、他側に爪が形成され、ピストンの端面と爪の内側面との間で一対のパッドをディスクロータの両側面に押圧するキャリパと、キャリパを摺動自在に支持する支持部材と、を備えるディスクブレーキであって、ピストンの端面及び爪の内側面のうち少なくとも一方と、パッドとの間に圧力感応性を有する弾性部材が介在している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用のディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、摩擦部材と、摩擦部材をディスクロータに押圧する押圧機構と、押圧機構を支持する支持手段と、を備えるディスクブレーキ装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、摩擦部材と、押圧機構とは、支持手段に対して一体に揺動できるように構成されている。これにより、ブレーキパッドの面圧分布の不均一が原因となり生じる、ブレーキパッドの偏磨耗およびブレーキの鳴きを防止している。
【特許文献1】特開平9−329162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来のディスクブレーキ装置においては構成が複雑となり、当該ディスクブレーキ装置のコスト増加を招くことがある。
【0004】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、ディスクブレーキのコスト低減および騒音抑制を同時に実現することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、車輪と共に回転するディスクロータと、該ディスクロータの両側面に押圧される一対のパッドと、前記ディスクロータの外周を跨いで設けられ、一側にピストンと該ピストンを収容するシリンダとを有し、他側に爪が形成され、前記ピストンの端面と前記爪の内側面との間で前記一対のパッドを前記ディスクロータの両側面に押圧するキャリパと、該キャリパを摺動自在に支持する支持部材と、を備えるディスクブレーキであって、前記ピストンの端面及び前記爪の内側面のうち少なくとも一方と、前記パッドとの間に圧力感応性を有する弾性部材が介在していることを特徴とするディスクブレーキである。
【0006】
この一態様によれば、前記ピストンの端面及び前記爪の内側面のうち少なくとも一方と、前記パッドとの間に圧力感応性を有する弾性部材が介在している。これにより、例えばディスクロータの面振れ等が生じている位置において、ディスクロータが傾斜する。また、パッドのディスクロータへの押圧力が大きくなると、ディスクロータの傾斜に沿うようにしてパッドの接触面が傾斜する。一方でキャリパの爪の内側面およびピストンの端面は一定の位置に固定される。パッドの傾斜により生じるパッド背面と爪部の内側面との隙間、およびパッド背面とピストンの端面との隙間は、夫々の隙間に介在する弾性部材の変形により補完される。また、この弾性部材にはパッドをディスクロータに押圧した際の反力と、ピストンおよび爪の内側面の押圧力が作用している。さらに弾性部材は圧力感応性を有することから、例えば、この反力および押圧力が所定値以上になると剛体になる。したがって、パッドをディスクロータに接触させる際の剛性を確保することができ、パッドとディスクロータ間で生じる振動を抑制することができる。これにより、ブレーキの鳴きを防止することができ、騒音を抑制できる。
【0007】
さらに、圧力感応性を有する弾性部材が介在させるだけの簡易な構成で上記ブレーキの鳴き防止を実現可能であることから、ディスクブレーキのコストを低減できる。
【0008】
また、上記目的を達成するための本発明の一態様は、車輪と共に回転するディスクロータと、該ディスクロータの両側面に押圧される一対のパッドと、前記ディスクロータの外周を跨いで設けられ、ピストンと該ピストンを収容するシリンダとを両側に夫々有し、前記ピストンの端面で前記パッドを前記ディスクロータの両側面に押圧するキャリパと、該キャリパを摺動自在に支持する支持部材と、を備えるディスクブレーキであって、一対の前記ピストンの端面のうち少なくとも一方と、前記パッドとの間に圧力感応性を有する弾性部材が介在していることを特徴とするディスクブレーキであってもよい。
【0009】
さらに、これら態様において、前記パッドは、前記ディスクロータに摺接して該ディスクロータの回転を制動するライニング部材と、該ライニング部材の裏面に固着される裏板とを有し、前記ライニング部材と前記裏板との間に前記弾性部材が介在していてもよい。
【0010】
なお、これら態様において、前記一対のパッドによる前記ディスクロータの両側面への押圧力が増加すると、前記弾性部材の剛性が高くなるのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ディスクブレーキのコスト低減および騒音抑制を同時に実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら実施例を挙げて説明する。なお、車両用のディスクブレーキの基本概念、主要なハードウェア構成、作動原理、及び基本的な制御手法等については当業者には既知であるため、詳しい説明を省略する。
【0013】
図1は、本発明の一実施例に係るディスクブレーキを示す図である。また、図2は図1に示すディスクブレーキ1を直線A−A′で切断した際の断面図である。図1及び図2に示すように、本実施例に係るディスクブレーキ1は、車輪と共に回転するディスクロータ3と、ディスクロータ3の摺動面に押圧されるインナ側及びアウタ側のパッド5と、を備えている。また、一方の内側にピストン7を内蔵し、他方側に爪部9aを形成するキャリパ9がディスクロータ3の外周を跨いで設けられている。さらに、ピストン7の端面7aにインナ側のパッド5が保持され、爪部9aの内側面9bにアウタ側のパッド5が保持されている。インナ側及びアウタ側のパッド5がディスクロータ3の摺動面に押圧されることにより、ディスクロータ3の摺動面とパッド5の接触面との間の摩擦力が生じ、ディスクロータ3の回転は制動される。
【0014】
ピストン7の端面7aとインナ側のパッド5との間には、圧力感応性を有する弾性部材11が介在している。また、爪部9aの内側面9bとアウタ側パッド5との間には、圧力感応性を有する弾性部材11が介在している。さらに、この弾性部材11は一対のパッド5のディスクロータ3の両側面への押圧力が増加すると剛性が高くなり、押圧力が所定値以上になると剛体になる。このような圧力感応性を有する弾性部材11として、例えばポリノルボーネン、ポリアクリルニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン/塩化ビニル共重合体、エチレン/塩化ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリテトラフロロエチレン等を含有するゴム組成物が用いられている。
【0015】
さらに、車両本体にはキャリパ9を支持する支持部材13が取付けられ、キャリパ9には2つのスライドピン15がボルトにより固定されている。キャリパ9に固定されたスラドピン15は、支持部材13に形成されたスライド孔13aに挿入され、キャリパ9は支持部材13に対して、ディスクロータ3の軸方向に摺動自在に連結されている。
【0016】
キャリパ9に内蔵されたピストン7は、キャリパ9に形成されたシリンダ17内にディスクロータ3の軸方向に摺動自在に収容されている。また、ピストン7の外周とシリンダ17の内周との間に、シール19が配設されている。さらに、シール19の内周部がピストン7の外周部に密着して、ピストン7とシリンダ17との間の油液が密閉されている。なお、シリンダ17内に塵等が侵入するのを防止する為に、ピストン7の外周部とシリンダ17との間にはダストブーツ20が配設されている。
【0017】
図3(a)はパッド5がディスクロータ3に押圧された状態を示す概略図であり、ディスクロータ3において面振れが生じていない状態を示す図である。図3(b)はパッド5がディスクロータ3に押圧された状態を示す概略図であり、ディスクロータ3においてピストン7側に面振れが生じている状態を示す図である。なお、図3(a)および(b)において、ディスクロータ3の面振れの状態および弾性部材11の変形を実際より大きく表現している。
【0018】
例えば、車両にブレーキが掛けられると、キャリパ9のシリンダ17内に油圧が加わる。シリンダ17内に油圧が加わると、ピストン7はB方向に移動し、インナ側パッド5をディスクロータ3のインナ側摺動面に押圧する(図2)。さらに、インナ側パッド5がディスクロータ3に押圧されると、その反力でキャリパ9はC方向にスライドし、キャリパ9の爪部9aの内側面9bに設けられたアウタ側パッド5がディスクロータ3のアウタ側摺動面に押圧される。このようにして、一対のパッド5はディスクロータ3の摺動面に押圧される(図3(a))。
【0019】
このとき、図3(b)に示す如く、ディスクロータ3に面振れ、熱倒れ等が生じていると、ディスクロータ3の面振れ等が生じている位置において、ディスクロータ3の摺動面が爪部9aの内側面9bおよびピストン7の端面7aに対し相対的に傾斜する。また、パッド5のディスクロータ3への押圧力が大きくなると、ディスクロータ3の摺動面の傾斜に沿うようにして、パッド5の接触面が傾斜する。なお、キャリパ9はスライドピン15とスライド孔13aとの隙間により、僅な傾動が許容され、ピストン7はピストン7とシリンダ17との隙間により、僅な傾動が許容される。これにより、キャリパ9の爪部9aの内側面9bおよびピストン7の端面7aにおいて、微小範囲内の傾動が許容されるが、一定の位置に固定される。
【0020】
上記したように、パッド5の傾斜により生じるパッド背面5cと爪部9aの内側面9bとの隙間、およびパッド背面5cとピストン7の端面7aとの隙間は、夫々の隙間に介在する弾性部材11の弾性変形により補完される。また、この弾性部材11にはパッド5をディスクロータ3に押圧した際の反力と、ピストン7および爪部9aの内側面9bの押圧力が作用している。さらに弾性部材11は圧力感応性を有することから、この反力および押圧力が所定値以上になると剛体となる。したがって、パッド5をディスクロータ3に接触させる際の剛性(接触剛性)を確保することができ、パッド5とディスクロータ3間で生じる振動を抑制することができる。これにより、ブレーキの鳴きを防止することができ、騒音を抑制できる。
【0021】
さらに、ピストン7の端面7aとインナ側のパッド5との間、および爪部9aの内側面9bとアウタ側パッド5との間に、圧力感応性を有する弾性部材11が介在させるだけの簡易な構成で上記ブレーキの鳴き防止できることから、ディスクブレーキ1の組付け工数およびコスト低減を実現できる。
【0022】
なお、ディスクロータ3の面振れに起因するパッド5の傾斜を弾性部材11の弾性変形により緩和できる。これにより、ピストン7に対し摺動方向以外の力が作用するのを抑制でき、ピストン7とシリンダ17との間の抉りを防止することができる。さらに、パッド5の接触面とディスクロータ3の摺動面との接触面圧を均一にできることから、ディスクロータ3およびインナ側およびアウタ側のパッド5の偏磨耗を防止することができる。すなわち、ディスクブレーキ1の信頼性を向上させることができる。
【0023】
以上、本発明を実施するための最良の形態について一実施例を用いて説明したが、本発明はこうした一実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、上述した一実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0024】
例えば、上記一実施例において、ピストン7の端面7aとインナ側のパッド5との間および爪部9aの内側面9bとアウタ側パッド5との間には圧力感応性を有する弾性部材11を介在させているが、温度感応性を有する弾性体を介在させてもよい。
【0025】
また、上記一実施例において、ピストン7の端面7aとインナ側のパッド5との間および爪部9aの内側面9bとアウタ側パッド5との間には、弾性部材11が介在しているが、ピストン7の端面7aとインナ側のパッド5との間または爪部9aの内側面9bとアウタ側パッド5との間のいずれか一方のみに弾性部材11を介在させてもよい。
【0026】
さらに、上記一実施例において、ピストン7の端面7aと弾性部材11との間および/または爪部9aの内側面9bと弾性部材11との間にシムを介在させてもよい。
【0027】
なお、上記一実施例において、インナ側およびアウタ側のパッド5は、ディスクロータ3に摺接してディスクロータ3の回転を制動するライニング部材5aと、ライニング部材5aの裏面に固着され、両端に一対のトルク受部を有する裏板5bとを有し、弾性部材11を、ライニング部材5aと裏板5bとの間に介在させてもよい。
【0028】
上記一実施例において、シングルシリンダ型(浮動型)のディスクブレーキ1に適用されているが、オポーズドシリンダ型(対向型)のディスクブレーキにも適用可能である。この場合、キャリパの両側にはピストンと、このピストンをディスクロータ3の軸方向に摺動自在に収容するシリンダが夫々設けられる。また、ピストンの端面とパッド5との間に圧力感応性を有する弾性部材11が介在する。
【0029】
また、上記一実施例において、一対のパッド5はディスクロータ3の両側に設けられているが、本発明はこれに限定されるものでなく、パッド5をディスクロータ3のインナ側またはアウタ側の片側のみに設けてもよい。
【0030】
さらに、上記一実施例において、ディスクロータ3の両側に1つずつパッド5が設けられているが、本発明はこれに限定されるものではなく、ディスクロータ3の両側に複数のパッド5が夫々設けられていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、車両用のディスクブレーキに利用できる。搭載される車両の外観、重量、サイズ、走行性能等は問わない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施例に係るディスクブレーキを示す図である。
【図2】図1に示すディスクブレーキを直線A−A′で切断した際の断面図である。
【図3】(a)パッドがディスクロータに押圧された状態を示す概略図であり、ディスクロータにおいて面振れが生じていない状態を示す図である。(b)パッドがディスクロータに押圧された状態を示す概略図であり、ディスクロータにおいてピストン側に面振れが生じている状態を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1 ディスクブレーキ
3 ディスクロータ
5 パッド
7 ピストン
7a 端面
9 キャリパ
9a 爪部
9b 内側面
11 弾性部材
13 支持部材
17 シリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と共に回転するディスクロータと、
該ディスクロータの両側面に押圧される一対のパッドと、
前記ディスクロータの外周を跨いで設けられ、一側にピストンと該ピストンを収容するシリンダとを有し、他側に爪が形成され、前記ピストンの端面と前記爪の内側面との間で前記一対のパッドを前記ディスクロータの両側面に押圧するキャリパと、
該キャリパを摺動自在に支持する支持部材と、を備えるディスクブレーキであって、
前記ピストンの端面及び前記爪の内側面のうち少なくとも一方と、前記パッドとの間に圧力感応性を有する弾性部材が介在していることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項2】
車輪と共に回転するディスクロータと、
該ディスクロータの両側面に押圧される一対のパッドと、
前記ディスクロータの外周を跨いで設けられ、ピストンと該ピストンを収容するシリンダとを両側に夫々有し、前記ピストンの端面で前記パッドを前記ディスクロータの両側面に押圧するキャリパと、
該キャリパを摺動自在に支持する支持部材と、を備えるディスクブレーキであって、
一対の前記ピストンの端面のうち少なくとも一方と、前記パッドとの間に圧力感応性を有する弾性部材が介在していることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項3】
請求項1又は2記載のディスクブレーキであって、
前記パッドは、前記ディスクロータに摺接して該ディスクロータの回転を制動するライニング部材と、該ライニング部材の裏面に固着される裏板とを有し、前記ライニング部材と前記裏板との間に前記弾性部材が介在していること特徴とするディスクブレーキ。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちいずれか1項記載のディスクブレーキであって、
前記一対のパッドによる前記ディスクロータの両側面への押圧力が増加すると、前記弾性部材の剛性が高くなることを特徴とするディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−132734(P2006−132734A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−325055(P2004−325055)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】