説明

ディスプレイ装置用のガラスおよびガラス板

【課題】低温かつ短時間で化学強化できるディスプレイ装置用ガラスを提供する。
【解決手段】下記酸化物基準のモル百分率表示で、SiOを61〜72%、Alを8〜17%、LiOを6〜18%、NaOを2〜15%、KOを0〜8%、MgOを0〜6%、CaOを0〜6%、TiOを0〜4%、ZrOを0〜2.5%含有し、LiO、NaOおよびKOの含有量の合計ROが15〜25%、LiOの含有量とROの比LiO/ROが0.35〜0.8、MgOおよびCaOの含有量の合計が0〜9%であるディスプレイ装置用ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスプレイ装置のカバーガラスやディスプレイ装置を入れる筐体の構成部材などとして用いられるディスプレイ装置用ガラス板およびそのようなガラス板に好適なディスプレイ装置用ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、PDA等のモバイル機器などの携帯機器や薄型テレビ、特に大型の薄型テレビなどに対しては、ディスプレイの保護ならびに美観を高めるためのカバーガラス(保護ガラス)が用いられることが多くなっている。なお、本明細書ではプラズマテレビの光学フィルタなどディスプレイの保護機能を兼ね備えるものに用いられるガラス板もカバーガラスに含める。
【0003】
一方、このような携帯情報機器に対しては、軽量・薄型化が要求されている。そのため、ディスプレイ保護用に使用されるカバーガラスも薄くすることが要求されている。しかし、カバーガラスの厚さを薄くしていくと強度が低下し、使用中に何かを携帯機器にぶつけたり、携帯中に携帯機器を落としたりすることによりカバーガラス自身が割れてしまうことがあり、ディスプレイ装置を保護するという本来の役割を果たすことができなくなるという問題があった。
【0004】
また、大型薄型テレビではカバーガラス自体が大きくなるので破壊する確率が高くなり、また、軽量化のためにカバーガラスを薄くすることが求められており、この点からもカバーガラス破壊のおそれが大きくなっている。
【0005】
上記問題を解決するためには、カバーガラスの強度を高めることが考えられ、その方法としてガラス表面に圧縮応力層を形成させる手法が一般的に知られている。
ガラス表面に圧縮応力層を形成させる手法としては、軟化点付近まで加熱したガラス板表面を風冷などにより急速に冷却する風冷強化法(物理強化法)と、ガラス転移点以下の温度でイオン交換によりガラス板表面のイオン半径が小さなアルカリ金属イオン(典型的にはLiイオン、Naイオン)をイオン半径のより大きいアルカリイオン(典型的にはKイオン)に交換する化学強化法が代表的である。
【0006】
前述したようにカバーガラスの厚さは薄いことが要求されている。薄いガラス板に対して風冷強化法を適用すると、表面と内部の温度差がつきにくいために圧縮応力層を形成することが困難であり、目的の高強度という特性を得ることができない。そのため、後者の化学強化法によって強化されたカバーガラスが提案されている(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−320234号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2009/298669号明細書
【特許文献3】国際公開第2008/143999号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1〜3に記載されている実施例を見ると、いずれも450℃を超える高温での化学強化処理または4時間を超える長時間の化学強化処理が必要となっている。たとえば後述するガラスG55は特許文献3に記載されている発明のガラスであるが、硝酸カリウム溶融塩を用いた化学強化処理によって所望の圧縮応力層を形成しようとすると、溶融塩の温度が400℃であれば6時間という長時間にわたってガラスを溶融塩に浸漬しなければならない。なお、このような化学強化処理によって形成された圧縮応力層の表面圧縮応力と厚みはそれぞれ800MPa、37μmであった。
【0009】
化学強化にはナトリウムやカリウムの硝酸塩が代表的に用いられるが、いずれも450℃を超えると蒸気圧が高くなり、非常に揮散しやすくなる。このような揮散が起こると、化学強化をしたガラスの品質が安定しなくなると同時に、揮散物を回収するための付帯設備も必要となり、品質およびコスト面で問題が生じる。また、長時間の化学強化処理はコスト増に直結するため好ましくない。
【0010】
本発明は、低温かつ短時間の化学強化によって十分な強度を得ることが可能なディスプレイ装置用ガラス、そのようなディスプレイ装置用ガラスからなるガラス板を化学強化して得られたディスプレイ装置用ガラス板、ディスプレイ装置用ガラスからなるガラス板を化学強化してディスプレイ装置用ガラス板を製造する方法、およびこのようなディスプレイ装置用ガラス板をディスプレイ保護に用いたディスプレイ装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、下記酸化物基準のモル百分率表示で、SiOを61〜72%、Alを8〜17%、LiOを6〜18%、NaOを2〜15%、KOを0〜8%、MgOを0〜6%、CaOを0〜6%、TiOを0〜4%、ZrOを0〜2.5%含有し、LiO、NaOおよびKOの含有量の合計ROが15〜25%、LiOの含有量とROの比LiO/ROが0.35〜0.8、MgOおよびCaOの含有量の合計が0〜9%であるディスプレイ装置用ガラス(以下、本発明のガラスということがある)を提供する。なお、本明細書でたとえば「KOを0〜8%含有する」とは、KOは必須ではないが8%までの範囲で含有してもよい、の意である。
【0012】
また、SiOが68%以下、Alが15%以下、LiOが16%以下、NaOが13%以下、KOが7%以下、MgOが0〜5%、CaOが0〜5%、TiOが0〜2%、ROが16〜23%、であり、LiO/ROが0.4以上である前記ディスプレイ装置用ガラスを提供する。
【0013】
また、SiOが70%以下、Alが15%以下、LiOが10%以上、NaOが10%以下、KOが0〜6%、ROが22%以下、LiO/ROが0.6以上である前記ディスプレイ装置用ガラスを提供する。
【0014】
また、SiOが68%以下、Alが15%以下、LiOが12%以上、NaOが6%以下、KOが0〜3%、MgOが1%以上、CaOが0〜2%、TiOが0〜1%、ROが22%以下、LiO/ROが0.7以上である前記ディスプレイ装置用ガラスを提供する。
また、破壊靱性値が0.85MPa・m1/2以上である前記ディスプレイ装置用ガラスを提供する。
【0015】
また、前記ディスプレイ装置用ガラスからなり、フロート法またはフュージョン法によって製造されたガラス板を提供する。
前記ディスプレイ装置用ガラスからなるガラス板を化学強化処理して得られたディスプレイ装置用ガラス板を提供する。
また、前記ディスプレイ装置用ガラス板であって、前記ガラス板がフロート法またはフュージョン法によって製造され、かつ、その表面が研磨されていない火造り面であるディスプレイ装置用ガラス板を提供する。
また、破壊靱性値が1.0MPa・m1/2以上である前記ディスプレイ装置用ガラス板を提供する。
【0016】
また、下記酸化物基準のモル百分率表示で、SiOを61〜72%、Alを8〜17%、LiOを6〜18%、NaOを2〜15%、KOを0〜8%、MgOを0〜6%、CaOを0〜6%、TiOを0〜4%、ZrOを0〜2.5%含有し、LiO、NaOおよびKOの含有量の合計ROが15〜25%、LiOの含有量とROの比LiO/ROが0.35〜0.8、MgOおよびCaOの含有量の合計が0〜9%であるディスプレイ装置用ガラスからなるガラス板を溶融塩に浸漬して化学強化処理を行うディスプレイ装置用ガラス板の製造方法であって、溶融塩の組成がモル百分率表示で、LiNOが0〜7%、NaNOが10〜100%、KNOが0〜90%であるディスプレイ装置用ガラス板の製造方法を提供する。
また、化学強化処理が、前記ガラス板を温度が425℃以下の溶融塩に2時間以下の時間浸漬して行うものである前記ディスプレイ装置用ガラス板の製造方法を提供する。
【0017】
また、カバーガラスを有するディスプレイ装置であって、当該カバーガラスが前記ディスプレイ装置用ガラス板であるディスプレイ装置を提供する。
また、前記ディスプレイ装置を備えた携帯機器を提供する。
また、前記ディスプレイ装置を備えたテレビを提供する。
また、前記ディスプレイ装置を備えたタッチパネルを提供する。
また、ディスプレイ装置を入れる筐体であって、前記ディスプレイ装置用ガラス板を有するディスプレイ装置用筐体を提供する。
【0018】
本発明者は低温かつ短時間の化学強化で十分な強度を得られるようにするにはAl含有量およびLiO/RO比率を最適化することが有効であることを見出し、本発明に至った。また、低温かつ短時間の化学強化によって十分な強度を得るには、溶融塩中にNaNOが含まれていることが有効であることを見出し、本発明に至った。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、破壊靭性値が大きなディスプレイ装置用ガラスを得ることができる。
また、低温かつ短時間の化学強化処理でもディスプレイ装置用ガラス板の強度を十分なものとすることが可能になる。
また、化学強化処理によりガラス板の破壊靭性値を増加させることが可能となるばかりでなく、その増加割合も大きくすることが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のディスプレイ装置用ガラス板(以下、本発明のガラス板という。)の厚みは典型的には0.2〜1.0mmである。0.2mm未満では実用強度の観点から問題が起こるおそれがある。
本発明のガラス板の表面圧縮応力層厚みtは25μm超であることが好ましい。25μm以下では割れやすくなるおそれがある。より好ましくは30μm以上、特に好ましくは40μm以上、典型的には45μm以上または50μm以上である。
本発明のガラス板の表面圧縮応力Sは典型的には100MPa以上1200MPa未満である。100MPa未満では割れやすくなるおそれがある。好ましくは200MPa以上である。
【0021】
本発明のガラス板の破壊靱性値の値は1.0MPa・m1/2以上であることが好ましい。1.0MPa・m1/2未満では割れやすくなるおそれがある。より好ましくは1.1MPa・m1/2以上、特に好ましくは1.2MPa・m1/2以上、典型的には1.3MPa・m1/2以上である。なお、破壊靭性値はたとえばJIS R1607準拠、圧子圧入法(IF法)により測定される。
【0022】
本発明のガラス板は本発明のガラスからなるガラス板を化学強化して得られる。
本発明のガラスからなるガラス板の製造方法は特に限定されないが、たとえば種々の原料を適量調合し、約1400〜1600℃に加熱し溶融した後、脱泡、攪拌などにより均質化し、周知のフロート法、ダウンドロー法(フュージョン法など)、プレス法などによって板状に成形し、徐冷後所望のサイズに切断、研磨加工を施して製造される。
【0023】
化学強化の方法としては、ガラス板表層のLiO、NaOと溶融塩中のNaO、KOとをイオン交換できるものであれば特に限定されないが、たとえば加熱された硝酸ナトリウム(NaNO)溶融塩、硝酸カリウム(KNO)溶融塩、またはこれらの混合溶融塩にガラス板を浸漬する方法が挙げられる。
【0024】
次に、本発明のディスプレイ装置用ガラス板の製造方法において用いられる溶融塩の組成についてモル百分率表示で説明する。
硝酸ナトリウム(NaNO)は低温かつ短時間の化学強化のための必須成分である。10%未満では表面圧縮応力および表面圧縮応力層厚みが小さくなる。好ましくは20%以上、より好ましくは40%以上、特に好ましくは60%以上である。
【0025】
硝酸カリウム(KNO)は必須ではないが、化学強化特性制御のため90%まで含有してもよい。90%超では表面圧縮応力または表面圧縮応力層厚みが小さくなるおそれがある。好ましくは80%以下、より好ましくは60%以下、特に好ましくは40%以下である。
硝酸リチウム(LiNO)は必須ではないが、化学強化特性の制御や化学強化後の反り性状等を改善するため7%まで含有してもよい。7%超では表面圧縮応力が小さくなるおそれがある。好ましくは6%以下、より好ましくは4%以下、特に好ましくは2%以下である。
【0026】
ガラス板に所望の表面圧縮応力を有する化学強化層(表面圧縮応力層)を形成するための条件はガラス板の厚さによっても異なるが、300〜450℃の硝酸アルカリ溶融塩
に10分〜4時間ガラス基板を浸漬させることが典型的である。経済的な観点からは300〜425℃、10分〜2時間の条件で浸漬させることが好ましい。
【0027】
次に、本発明のガラスの組成について、特に断らない限りモル百分率表示含有量を用いて説明する。
SiOはガラスの骨格を構成する成分であり必須である。61%未満ではガラスとしての安定性が低下する、または化学強化後に表面荒れが発生しやすくなる。好ましくは61.5%以上、より好ましくは64%以上である。SiOが72%超ではガラスの粘性が増大し溶融性が著しく低下する。好ましくは70%以下、典型的には68%以下である。
【0028】
Alはイオン交換速度を向上させる成分であり、必須である。8%未満ではイオン交換速度が低下する。好ましくは9%以上、典型的には10%以上である。Alが17%超ではガラスの粘性が高くなり均質な溶融が困難になる、または化学強化後に表面荒れが発生しやすくなる。好ましくは15%以下、より好ましくは14%以下、典型的には13%以下である。
【0029】
LiOはイオン交換により表面圧縮応力層を形成させ、またガラスの溶融性を向上させる成分であり、必須である。6%未満ではイオン交換により所望の表面圧縮応力層を形成することが困難となる。好ましくは7%以上、典型的には8%以上である。LiO/ROが0.6以上のときは好ましくは10%以上、LiO/ROが0.7以上のときは好ましくは12%以上である。LiOが18%超では耐候性が低下する、または化学強化後に表面荒れが発生しやすくなる。好ましくは16%以下、典型的には14%以下である。
【0030】
NaOはイオン交換により表面圧縮応力層を形成させ、またガラスの溶融性を向上させる成分であり、必須である。2%未満ではイオン交換により所望の表面圧縮応力層を形成することが困難となる。好ましくは3%以上、典型的には4%以上である。NaOが15%超では耐候性が低下する、または化学強化後に表面荒れが発生しやすくなる。好ましくは13%以下、典型的には12%以下である。表面圧縮応力をより大きくしたい場合には、LiO/ROが0.6以上のときなどは好ましくは10%以下、LiO/ROが0.7以上のときなどは好ましくは6%以下である。
【0031】
Oは必須ではないが、溶融性を向上させる等のために8%まで含有させてもよい。KOが8%超では耐候性が低下する、または化学強化後に表面荒れが発生しやすくなる。好ましくは7%以下、典型的には6%以下である。LiO/ROが0.6以上のときは好ましくは6%以下、より好ましくは3%以下、典型的にはKOは含有せず、LiO/ROが0.7以上のときは好ましくは3%以下であり、典型的にはKOは含有しない。なお、KOを含有させる場合は1%以上が好ましく、2.5%以上がより好ましい。
【0032】
LiO、NaOおよびKOの含有量の合計ROが15%未満では所望のイオン交換特性を得ることができなくなる。好ましくは16%以上、より好ましくは17%以上である。ROが25%超ではガラスの耐候性をはじめとする化学的耐久性が低くなる。好ましくは24%以下、典型的には23%以下である。LiO/ROが0.6以上のときは好ましくは22%以下である。
【0033】
低温または短時間の化学強化によって十分な強度を示すためには、LiO/ROが0.35以上0.8以下の範囲にあることが必要である。より好ましくは0.4以上である。この場合においてLiO/ROを0.7以下とすることがある。化学強化によってより十分な強度を得たい場合は、LiO/ROは0.6以上が好ましく、0.7以上がより好ましい。
【0034】
MgOおよびCaOはいずれも必須ではないが、ガラスの溶融性を向上させる等のため、それぞれ6%以下、合量で9%まで含有してもよい。合量で9%超ではイオン交換を阻害し所望の表面圧縮応力層を形成できなくなる、またはガラスが傷つきやすくなる。好ましくは8%以下、典型的には5%以下である。
溶解性を向上させたい場合などにはMgOは含有させることが好ましい。その場合、MgOの含有量は1%以上であることが好ましい。
また、CaOはイオン交換をより強く阻害するため、含有する場合であっても6%以下であることが好ましい。
【0035】
TiOは必須ではないが、ガラスの耐候性および溶解性を向上させる等のため、4%まで含有してもよい。4%超ではガラスが傷つきやすくなる、または分相現象が起りやすくなるおそれがある。好ましくは2%以下、LiO/ROが0.7以上のときなどは典型的には1%以下である。
【0036】
ZrOは必須ではないが、ガラスの耐候性および溶解性を向上させる等のため、2.5%まで含有してもよい。2.5%超ではガラスが傷つきやすくなる、または分相現象が起りやすくなるおそれがある。好ましくは2%以下、典型的には1.5%以下である。なお、ZrOは質量百分率表示で5%以下であることが典型的である。
【0037】
本発明のガラスは本質的に以上で説明した成分からなるが、本発明の目的を損なわない範囲でその他の成分を含有してもよい。そのような成分を含有する場合、それら成分の含有量の合計は10%以下であることが好ましく、典型的には5%以下である。以下、上記その他成分について例示的に説明する。
【0038】
SrOおよびBaOはいずれもイオン交換速度を低下させる効果が大きいため、含有しないこととするか、含有する場合であってもその含有量の合計は1%未満とすることが好ましい。
は高温での溶融性またはガラス強度の向上のためにたとえば1%まで含有してもよい場合がある。1%超では均質なガラスを得にくくなり、ガラスの成型が困難になるおそれがある。典型的にはBは含有しない。
【0039】
ガラスの溶融の際の清澄剤として、SO、塩化物、フッ化物などを適宜含有してもよい。ただし、ディスプレイ装置の視認性を上げるため、可視域に吸収をもつFe、NiO、Crなど原料中の不純物として混入するような成分はできるだけ減らすことが好ましく、各々質量百分率表示で0.15%以下であることが好ましく、より好ましくは0.05%以下である。
【0040】
本発明のディスプレイ装置としては、携帯機器であれば携帯電話、携帯情報端末(PDA)、スマートフォン、ネットブック、車載ナビなどが典型的であり、持ち運びを想定しないものであれば液晶テレビ、プラズマテレビなどの薄型テレビ(3Dテレビも含む)やデスクトップ・パーソナルコンピュータなどのディスプレイやモニター用ディスプレイが例示される。また、違う観点からはタッチパネルも挙げられる。
【実施例】
【0041】
表1のSiOからBまでの欄にモル百分率表示で示す組成を有するガラスG1〜G6、G51〜G55からなり、サイズが40mm×40mm、厚みが0.8mmであるガラス板を用意した。G1〜G6は本発明のガラスの実施例、G51〜G55は比較例である。なお、表中のLi/RはLiO/ROである。
【0042】
ガラスG1〜G6、G51〜G54については次のようにして前記ガラス板を作製した。すなわち、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等一般に使用されているガラス原料を適宜選択し、ガラスとして400gとなるように秤量し、また前記組成には示していないが、SO換算で0.2質量%に相当する硫酸ナトリウムを添加したものについて混合した。ついで、白金製るつぼに入れ、1600℃の抵抗加熱式電気炉に投入し、3時間溶融し、脱泡、均質化した後、型材に流し込み、所定の温度で徐冷し、ガラスブロックを得た。このガラスブロックを切断、研削し、最後に両面を鏡面に加工して、サイズが40mm×40mm、厚みが0.8mmのガラス板を得た。
【0043】
得られたガラス板について、JIS R1607に準拠してIF法(圧子圧入法)により破壊靭性値Kc(単位:MPa・m1/2)を測定した。すなわち、ビッカース硬度計を用い、押し込み荷重5kgf、保持時間15秒で圧痕を導入し、圧痕の対角線長さとき裂長さを15秒待機後に試験機付属の顕微鏡を用いて測定することを10回繰り返し、以下の式より破壊靭性値を算出した。
破壊靱性値=0.026×(E×P)1/2×a×c−3/2
ここで、Eはヤング率であり、厚さが4〜10mm、大きさが約4cm×4cmのガラス板について超音波パルス法により測定した。また、Pは押し込み荷重(単位:N)、a(単位:m)は圧痕の対角線長さの平均の半分、c(単位:m)はき裂長さの平均の半分である。
【0044】
結果を表1に示す。これからわかるように本発明のガラスの破壊靱性値は大きく、0.85MPa・m1/2超である。
【0045】
【表1】

【0046】
G1〜G6、G51〜G54のガラス板を、LiNOが5モル%、NaNOが45モル%、KNOが50モル%であり、温度が400℃である溶融塩に0.5時間浸漬する化学強化処理を行った(例A1〜A10)。
化学強化処理を行ったガラス板について、破壊靭性値KcをKc測定におけると同様にして、表面圧縮応力S(単位:MPa)および圧縮応力層の厚みt(単位:μm)を東京インスツルメンツ社製複屈折イメージングシステムAbrio(商品名)によりそれぞれ測定した。なお、前記Sとtの測定に際してはサイズが40mm×40mm、厚みが0.8mmのガラス板から長さが40mm、幅が約1mm、厚みが0.8mmの小片を切り出し、対向する40mm×0.8mmの2面を両側から鏡面研磨して幅を0.3mmとしたものを測定サンプルとした。
【0047】
結果を表2に示す。なお、表中のKc比はKc/Kcである。また、例A9については化学強化処理後の前記サンプル加工時にガラスが割れてしまいS、t、Kcは測定できなかった。これは、例A9で用いられたガラスG53にはKOが多く含まれており、このKOが溶融塩中のLiまたはNaとイオン交換し、その結果例A9のガラス板の表面には圧縮応力層ではなく引張応力層が形成されていたためであると考えられる。
NaOが多く含まれているガラスG55からなるガラス板についてはこのような化学強化処理は行わなかったが、仮にこのような化学強化処理を行ったとすれば例A9と同様に表面に引張応力層が形成されると考えられる。
【0048】
これからわかるように本発明のガラスの化学強化処理後のSは100MPa以上、tは30μm以上であり、0.5時間という短時間の化学強化処理によって所望の圧縮応力層が得られる(例A1〜A6)。また、Kc比も1.5以上であり比較例のガラスを使用した場合(例A7、A8、A10)よりも大きい。
【0049】
【表2】

【0050】
また、G1〜G6のガラス板を、LiNOが0モル%、NaNOが50モル%、KNOが50モル%であり、温度が400℃である溶融塩に0.5時間浸漬する化学強化処理を行った(例B1〜B6)。これら化学強化処理を行ったガラス板についてKcを測定した。結果をKc比とともに表3に示す。なお、同表中のS、tの値は組成等から計算して求めた推定値である。
【0051】
【表3】

【0052】
また、G1のガラス板を、温度が350℃であり、表4のLiNOからKNOまでの欄にモル百分率表示で示す組成の各種溶融塩に2時間浸漬した。これら化学強化処理を行ったガラス板についてS、t、Kcを測定した。結果を表4に示す(例C1〜C7)。
本発明のディスプレイ装置用ガラス板の製造方法の実施例である例C1〜C4においてはSは130MPa以上、Kc比は1.7以上であるが、比較例である例C5〜C7においてはSは30MPa以下、Kc比は1.4以下であった。
【0053】
【表4】

【0054】
また、表5、6のSiOからZrOまでの欄にモル百分率表示で示す組成を有するガラスD1〜D14からなり、サイズが40mm×40mm、厚みが1.0mmであるガラス板を先に述べたと同様の方法で用意した。なお、D1〜D3、D5、D8についてはKcを測定し、それ以外のものについては組成から計算によってKcを求めた。
これらガラス板をNaNOが100モル%であり温度が400℃である溶融塩に1時間浸漬する化学強化処理を行い、S、tを先に述べたと同様の方法で測定した。結果を表5、6に示す。
また、表1のガラスG2についても同様の化学強化処理を行ったところSは286MPa、tは58μmであった。
なお、これら化学強化処理したガラス板は例B1〜B6、例C1〜C7のものに比べてSが大きく、そのために、先に述べたような方法でガラス板に圧痕を導入しようとしても圧痕を導入できないか、または破壊してしまうかしてしまいKcは測定できなかった。
また、表6のガラスD15〜D20もNaNOが100モル%であり温度が400℃である溶融塩に1時間浸漬する化学強化処理を行ったときに250MPa以上の大きなSが得られる本発明のガラスの実施例である。これに対し、表1のガラスG54で同様の化学強化処理を行うとSは220MPa、tは55μmである。
【0055】
【表5】

【0056】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0057】
ディスプレイ装置のカバーガラスなどに利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記酸化物基準のモル百分率表示で、SiOを61〜72%、Alを8〜17%、LiOを6〜18%、NaOを2〜15%、KOを0〜8%、MgOを0〜6%、CaOを0〜6%、TiOを0〜4%、ZrOを0〜2.5%含有し、LiO、NaOおよびKOの含有量の合計ROが15〜25%、LiOの含有量とROの比LiO/ROが0.35〜0.8、MgOおよびCaOの含有量の合計が0〜9%であるディスプレイ装置用ガラス。
【請求項2】
SiOが68%以下、Alが15%以下、LiOが16%以下、NaOが13%以下、KOが7%以下、MgOが0〜5%、CaOが0〜5%、TiOが0〜2%、ROが16〜23%、であり、LiO/ROが0.4以上である請求項1のディスプレイ装置用ガラス。
【請求項3】
SiOが70%以下、Alが15%以下、LiOが10%以上、NaOが10%以下、KOが0〜6%、ROが22%以下、LiO/ROが0.6以上である請求項1のディスプレイ装置用ガラス。
【請求項4】
SiOが68%以下、Alが15%以下、LiOが12%以上、NaOが6%以下、KOが0〜3%、MgOが1%以上、CaOが0〜2%、TiOが0〜1%、ROが22%以下、LiO/ROが0.7以上である請求項1のディスプレイ装置用ガラス。
【請求項5】
破壊靱性値が0.85MPa・m1/2以上である請求項1、2、3または4のディスプレイ装置用ガラス。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかのディスプレイ装置用ガラスからなり、フロート法またはフュージョン法によって製造されたガラス板。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかのディスプレイ装置用ガラスからなるガラス板を化学強化処理して得られたディスプレイ装置用ガラス板。
【請求項8】
請求項7のディスプレイ装置用ガラス板であって、前記ガラス板がフロート法またはフュージョン法によって製造され、かつ、その表面が研磨されていない火造り面であるディスプレイ装置用ガラス板。
【請求項9】
破壊靱性値が1.0MPa・m1/2以上である請求項7または8のディスプレイ装置用ガラス板。
【請求項10】
下記酸化物基準のモル百分率表示で、SiOを61〜72%、Alを8〜17%、LiOを6〜18%、NaOを2〜15%、KOを0〜8%、MgOを0〜6%、CaOを0〜6%、TiOを0〜4%、ZrOを0〜2.5%含有し、LiO、NaOおよびKOの含有量の合計ROが15〜25%、LiOの含有量とROの比LiO/ROが0.35〜0.8、MgOおよびCaOの含有量の合計が0〜9%であるディスプレイ装置用ガラスからなるガラス板を溶融塩に浸漬して化学強化処理を行うディスプレイ装置用ガラス板の製造方法であって、溶融塩の組成がモル百分率表示で、LiNOが0〜7%、NaNOが10〜100%、KNOが0〜90%であるディスプレイ装置用ガラス板の製造方法。
【請求項11】
化学強化処理が、前記ガラス板を温度が425℃以下の溶融塩に2時間以下の時間浸漬して行うものである請求項10のディスプレイ装置用ガラス板の製造方法。
【請求項12】
カバーガラスを有するディスプレイ装置であって、当該カバーガラスが請求項7、8または9のディスプレイ装置用ガラス板であるディスプレイ装置。
【請求項13】
請求項12のディスプレイ装置を備えた携帯機器。
【請求項14】
請求項12のディスプレイ装置を備えたテレビ。
【請求項15】
請求項12のディスプレイ装置を備えたタッチパネル。
【請求項16】
ディスプレイ装置を入れる筐体であって、請求項7、8または9のディスプレイ装置用ガラス板を有するディスプレイ装置用筐体。

【公開番号】特開2012−20921(P2012−20921A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85445(P2011−85445)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】