説明

ディップ成形用組成物およびディップ成形品

【課題】耐油性に優れ、かつ、高い柔軟性および機械的強度を有するディップ成形品を与えるディップ成形用組成物を提供すること。
【解決手段】シアノ基含有共役ジエンゴムのラテックスと、無機層状化合物の層間に、RNH、RNH、R(CH、およびR(CHから選択される少なくとも一種のアンモニウムイオン(ただし、R、R、R、Rは炭素数8〜20の飽和炭化水素、R、Rは炭素数6〜12の飽和炭化水素である。)がインターカレートした有機化無機層状化合物を含む充填剤と、を含有し、前記シアノ基含有共役ジエンゴムのラテックスを構成する全単量体単位100重量部に対する、前記シアノ基含有エチレン性不飽和単量体単位の含有量を、X重量部とし、前記シアノ基含有共役ジエンゴムのラテックスの固形分100重量部に対する、前記有機化無機層状化合物の含有量を、Y重量部とした場合に、前記XとYとが、「−0.25X+12.5≦Y≦−0.375X+22.5」および「15≦X≦45」の関係を満足するディップ成形用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディップ成形用組成物およびディップ成形品に係り、さらに詳しくは、ディップ成形品とした場合に、耐油性に優れ、かつ、高い柔軟性および機械的強度を有するディップ成形品を与えることができるディップ成形用組成物およびディップ成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ゴムラテックスや合成のゴムラテックスからなるディップ成形用組成物を、ディップ成形して得られる成形品は、柔軟で、かつ十分な機械的強度を有することから、ゴム手袋用途として、様々な分野で用いられている。
【0003】
このようなディップ成形品は、手、指などの形をした成形型の表面に硝酸カルシウムなどの凝固剤を付着させ、ゴムラテックスを含有するディップ成形用組成物に前記成形型を浸漬(ディップ)し、次いで、引き上げて成形型の表面に塗膜(ディップ成形層)を形成させた後、加熱することによりディップ成形層を加硫(架橋)することにより成形される。
【0004】
有機溶剤を使用する作業場で使用される手袋、たとえば、自動車工場などで使用される手袋などは、柔軟性および機械的強度などの各種特性に加えて、特に耐油性に優れていることが求められている。これに対して、従来、シアノ基含有共役ジエンゴムラテックスが用いられている。
【0005】
たとえば、特許文献1では、共役ジエン単量体30〜90重量%、エチレン性不飽和ニトリル単量体9〜50重量%、エチレン性不飽和酸単量体0.1〜20重量%およびこれらの単量体と共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体0〜20重量%からなる単量体混合物を重合して得られ、所定の分子量を有し、メチルエチルケトン不溶解分が所定の範囲に制御されたディップ成形用ラテックスが開示されている。
【0006】
一方で、シアノ基含有共役ジエンゴムのラテックスは、前記シアノ基含有共役ジエンゴム中のニトリル量(エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の量)により、その物性(特に、耐油性)が大きく依存するという性質を有している。具体的には、特許文献1のように、ディップ成形用のラテックスとして、シアノ基含有共役ジエンゴムのラテックスを用いた場合には、ニトリル量を増加させると、得られるディップ成形品は、その耐油性は向上するものの、柔軟性および機械的強度が低下してしまう。また、その一方で、ニトリル量を少なくすると、耐油性に劣る結果となってしまう。そのため、従来においては、耐油性、柔軟性および機械的強度の全てにおいて優れた成形品を得ることが難しかった。
【0007】
【特許文献1】特開平5−247266号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、ディップ成形品とした場合に、耐油性に優れ、かつ、高い柔軟性および機械的強度を有するディップ成形品を与えるディップ成形用組成物、およびこのディップ成形用組成物をディップ成形することにより得られるディップ成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を進めた結果、シアノ基含有共役ジエンゴムのラテックスを含むディップ成形用組成物中に、充填剤として、無機層状化合物の層間に所定のアンモニウムイオンがインターカレートした有機化無機層状化合物を含有させるとともに、ラテックス中に含まれるシアノ基含有単量体単位と、有機化無機層状化合物と、の比率を所定の範囲に制御することにより、上記目的を達成できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明によれば、共役ジエン単量体単位およびシアノ基含有エチレン性不飽和単量体単位を少なくとも含んでなるシアノ基含有共役ジエンゴムのラテックスと、
無機層状化合物の層間に、RNH、RNH、R(CH、およびR(CHから選択される少なくとも一種のアンモニウムイオン(ただし、Rは炭素数8〜20の飽和炭化水素、R、Rは炭素数6〜12の飽和炭化水素、Rは炭素数8〜20の飽和炭化水素、R、Rは炭素数8〜20の飽和炭化水素である。)がインターカレートした有機化無機層状化合物を含む充填剤と、を含有するディップ成形用組成物であって、
前記シアノ基含有共役ジエンゴムのラテックスを構成する全単量体単位100重量部に対する、前記シアノ基含有エチレン性不飽和単量体単位の含有量を、X重量部とし、
前記シアノ基含有共役ジエンゴムのラテックスの固形分100重量部に対する、前記有機化無機層状化合物の含有量を、Y重量部とした場合に、
前記XとYとが、
−0.25X+12.5≦Y≦−0.375X+22.5、および、
15≦X≦45、
の関係を満足するディップ成形用組成物が提供される。
【0011】
好ましくは、前記有機化無機層状化合物を構成する前記無機層状化合物が、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、バイデライト、スティブンサイト、ノントロナイト、バーミキュライト、ハロイサイト、マイカおよびベントナイトから選択される少なくとも一種である。
【0012】
また、本発明によれば、上記いずれかのディップ成形用組成物をディップ成形してなるディップ成形品が提供される。好ましくは、本発明のディップ成形品は、手袋である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ディップ成形用組成物を構成するラテックスとして、シアノ基含有エチレン性不飽和単量体単位を所定の割合で含む共重合体(ゴム)のラテックスを用い、充填剤として、無機層状化合物の層間に所定のアンモニウムイオンがインターカレートした有機化無機層状化合物を含有させ、しかも、ラテックス中に含まれるシアノ基含有単量体単位と、有機化無機層状化合物と、の比率を所定の範囲に制御している。そのため、本発明のディップ成形用組成物を用い、これをディップ成形することにより、耐油性に優れ、しかも、高い柔軟性および機械的強度を有するディップ成形品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明のディップ成形用組成物およびこれをディップ成形して得られる本発明のディップ成形品について説明する。
【0015】
ディップ成形用組成物
本発明のディップ成形用組成物は、少なくとも、シアノ基含有共役ジエンゴムのラテックスと、有機化無機層状化合物を含む充填剤と、を含有する。
充填剤としての有機化無機層状化合物は、無機層状化合物の層間に、所定のアンモニウムイオンがインターカレートしてなる化合物である。
【0016】
本発明においては、シアノ基含有共役ジエンゴムのラテックスに含有されるシアノ基含有単量体単位と、有機化無機層状化合物と、の比率を以下のような関係とする。
すなわち、シアノ基含有共役ジエンゴムのラテックスを構成する全単量体単位100重量部に対する、シアノ基含有エチレン性不飽和単量体単位の含有量を、X重量部とし、シアノ基含有共役ジエンゴムのラテックスの固形分100重量部に対する、有機化無機層状化合物の含有量を、Y重量部とした場合に、これらXとYとの関係を、以下の式(1)および(2)を満足するものとする。
−0.25X+12.5≦Y≦−0.375X+22.5 …(1)
15≦X≦45 …(2)
これらXとYとの関係を、上記式(1)および(2)を満足するものとすることにより、ディップ成形品とした場合に、耐油性に優れ、しかも、高い柔軟性および機械的強度を有するものとすることができる。
【0017】
シアノ基含有共役ジエンゴムのラテックス
本発明のディップ成形用組成物を構成するシアノ基含有共役ジエンゴムのラテックスは、少なくとも、前記シアノ基含有共役ジエンゴム中に、共役ジエン単量体単位およびシアノ基含有エチレン性不飽和単量体単位を含んでなるものであり、前記シアノ基含有共役ジエンゴム中には、必要に応じて、他の単量体単位を含有していても良い。
【0018】
重合により共役ジエン単量体単位となる共役ジエン単量体としては、特に限定されないが、共役ジエンを含有する炭素数4〜12の化合物が好ましい。このような共役ジエン単量体としては、たとえば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、クロロプレンなどのハロゲン置換ブタジエンなどが挙げられる。これらの共役ジエン単量体は単独でまたは2種以上を組み合せて用いることができる。なかでも、1,3−ブタジエンが好ましく使用できる。ラテックスを構成する共重合体(ゴム)中における共役ジエン単量体単位の含有量は、全単量体単位100重量部に対して、好ましくは35〜84.5重量部であり、より好ましくは45〜79重量部である。
【0019】
重合によりシアノ基含有エチレン性不飽和単量体単位となるシアノ基含有エチレン性不飽和単量体としては、特に限定されないが、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−シアノエチルアクリロニトリルなどが挙げられる。なかでも、アクリロニトリルが好ましく使用できる。ラテックスを構成する共重合体(ゴム)中におけるシアノ基含有エチレン性不飽和単量体単位の含有量は、全単量体単位100重量部に対して、15〜45重量部であり、好ましくは20〜40重量部である。なお、シアノ基含有エチレン性不飽和単量体単位の含有量は、上記Xに該当する。すなわち、上記Xは、15≦X≦45であり、好ましくは20≦X≦40である。X(シアノ基含有エチレン性不飽和単量体単位の含有量)が小さすぎると、得られる成形品の耐油性が低下してしまう。一方、大きすぎると、耐油性は向上するものの、柔軟性および機械的強度に劣ってしまう。
【0020】
他の単量体単位としては、特に限定されず、上述の共役ジエン単量体およびシアノ基含有エチレン性不飽和単量体と共重合可能な単量体から構成される単量体単位であれば良く、特に限定されない。このような単量体単位を構成する共重合可能な単量体としては、たとえば、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体、芳香族ビニル単量体、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体、エチレン性不飽和カルボン酸アミド単量体などが挙げられる。
【0021】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体としては、特に限定されないが、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸およびその無水物;マレイン酸メチル、イタコン酸メチル等のエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル化物;などが挙げられる。カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体は、アルカリ金属塩またはアンモニウム塩として用いることもでき、また、単独で、あるいは2種以上を組み合せて用いることもできる。なかでも、エチレン性不飽和モノカルボン酸が好ましく、メタクリル酸がより好ましく使用できる。
【0022】
芳香族ビニル単量体としては、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、モノクロルスチレン、ビニルトルエンなどが挙げられる。
【0023】
エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としては、たとえば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートアクリルアミドなどが挙げられる。
【0024】
エチレン性不飽和カルボン酸アミド単量体としては、たとえば、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
【0025】
なお、上記の単量体以外にも、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、ビニルピリジンなどを用いることができる。
これらの単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0026】
本発明においては、上記他の単量体単位を構成する単量体のなかでも、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体を用いることが好ましい。すなわち、ゴムラテックスを構成する共重合体(ゴム)を、共役ジエン単量体単位、シアノ基含有エチレン性不飽和単量体単位およびカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体単位を含有するものとすることが好ましい。必要に応じて用いられる、他の単量体単位の含有量は、全単量体単位100重量部に対して、好ましくは0.5〜20重量部であり、より好ましくは1〜15重量部である。
【0027】
次に、本発明で用いるシアノ基含有共役ジエンゴムのラテックスの製造方法を説明する。
本発明で用いるシアノ基含有共役ジエンゴムのラテックスは、上記の各単量体単位を構成する単量体の混合物を、乳化重合することにより製造することができる。乳化重合方法としては、従来公知の乳化重合法を採用すれば良い。また、乳化重合するに際しては、乳化剤、重合開始剤等の通常用いられる重合副資材を使用することができる。
【0028】
乳化剤としては、特に限定されないが、たとえば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。これらのなかでも、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、高級アルコールの硫酸エステル塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤が好ましく使用できる。乳化剤の使用量は、ゴムラテックスを構成する共重合体(ゴム)を得るための全単量体100重量部に対して、好ましくは0.5〜10重量部、より好ましくは1〜8重量部である。
【0029】
重合開始剤としては、特に限定されないが、ラジカル開始剤が好ましく使用できる。このようなラジカル開始剤としては、たとえば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;t−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物;などを挙げることができる。これらの重合開始剤は、単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらラジカル開始剤のなかでも、無機過酸化物または有機過酸化物が好ましく、無機過酸化物がより好ましく、過硫酸塩が特に好ましく使用できる。重合開始剤の使用量は、ゴムラテックスを構成する共重合体(ゴム)を得るための全単量体100重量部に対して、好ましくは0.01〜2重量部、より好ましくは0.05〜1.5重量部である。
【0030】
本発明においては、さらに必要に応じて、上記以外の重合副資材を用いてもよい。このような重合副資材としては、分子量調整剤、キレート剤、分散剤、pH調整剤、脱酸素剤、粒子径調整剤等が挙げられ、これらの種類、使用量とも特に限定されない。
【0031】
乳化重合は、上記各単量体および各重合副資材を用い、通常、水媒体中で行われる。重合温度は特に限定されないが、通常、0〜95℃、好ましくは5〜70℃とする。重合反応を停止した後、所望により、未反応の単量体を除去し、固形分濃度やpHを調整することによりゴムラテックスを得ることができる。
【0032】
有機化無機層状化合物
充填剤としての有機化無機層状化合物は、無機層状化合物の層間に、RNH、RNH、R(CH、およびR(CHから選択される少なくとも一種のアンモニウムイオン(ただし、Rは炭素数8〜20の飽和炭化水素、R、Rは炭素数6〜12の飽和炭化水素、Rは炭素数8〜20の飽和炭化水素、R、Rは炭素数8〜20の飽和炭化水素である。)が、インターカレートしてなる化合物である。
【0033】
無機層状化合物としては、特に限定されないが、たとえば、スメクタイト属に属する層状ケイ酸塩鉱物が挙げられ、より具体的には、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、バイデライト、スティブンサイト、ノントロナイト、バーミキュライト、ハロイサイト、マイカおよびベントナイト等が例示される。
【0034】
これら無機層状化合物は、天然、合成品、加工処理品のいずれであってもよい。たとえば、天然スメクタイトとしては、ヘクトライト、サポナイト、モンモリロナイトおよびベントナイト等が挙げられる。合成スメクタイトとしては、組成式:(Naおよび/またはLi)0.1〜1.0Mg2.4〜2.9Li0.0〜0.6Si3.5〜4.09.0〜10.6(OHおよび/またはF)1.5〜2.5で示されるものが挙げられる。合成マイカとしては、膨潤性フッ素マイカが挙げられる。
【0035】
このような無機層状化合物としては、市販されている粘土鉱物、たとえば、一般にナトリウムベンナイトと呼ばれる天然のベントナイトや、市販品のクニピア、スメクトン(クニミネ工業社製)、ビーガム(バンダービルト社製)、ラポナイト(ラポルテ社製)、DMクリーンA、DMA−350、Na−Ts(トピー工業)、ベンゲル(豊順洋行社製)等を用いても良い。
【0036】
本発明で用いる無機層状化合物は、上記アンモニウムイオン(RNH、RNH、R(CH、R(CH)との接触面が大きく、これにより、層間を十分に膨潤できるものであることが好ましい。具体的には、無機層状化合物としては、陽イオン交換容量が好ましくは10〜200ミリ等量/100g、より好ましくは50〜180ミリ等量/100gの範囲であるものが好ましい。陽イオン交換容量が低すぎると、無機層状化合物の層間への上記アンモニウムイオン(RNH、RNH、R(CH、R(CH)のインターカレーションが不十分となる傾向にある。一方、陽イオン交換容量が高すぎると、無機層状化合物の結合力が強固となり、層間への上記アンモニウムイオンのインターカレーションが困難となる。なお、無機層状化合物の陽イオン交換容量は、たとえば、メチレンブルー吸着量を測定することにより求めることができる。
【0037】
また、無機層状化合物としては、そのアスペクト比(Z)が、好ましくは50〜5000、より好ましくは100〜5000である。アスペクト比(Z)は、層状に分散された無機層状化合物の長さをL、単位厚みをaとした場合に、式:Z=L/aに従い求めることができる。なお、長さLおよび単位厚みaは、電子顕微鏡写真より測定することができる。
【0038】
たとえば、上記無機層状化合物の一例としてのNaモンモリロナイトは、2層のシリカ四面体層がマグネシウム八面体層またはアルミニウム八面体層を間に挟んだ厚さ約1nmのサンドイッチ型の3層構造のケイ酸塩層を有し、これが数層〜数十層積層されたものである。そして、ケイ酸塩層が負の電荷を有し、層間に存在するアルカリ金属カチオン(Naモンモリロナイトにおいては、Naカチオン)やアルカリ土類金属カチオンなどを介して、層間が結合する構成となっている。
【0039】
本発明において、上記無機層状化合物にインターカレートさせるアンモニウムイオンは、RNH、RNH、R(CH、およびR(CHから選択される少なくとも一種である。ここにおいて、Rは炭素数8〜20、好ましくは炭素数8〜18の飽和炭化水素、R、Rは炭素数6〜12、好ましくは炭素数8〜12の飽和炭化水素、Rは炭素数8〜20、好ましくは炭素数10〜18の飽和炭化水素、R、Rは炭素数8〜20、好ましくは炭素数10〜18の飽和炭化水素である。
【0040】
本発明においては、無機層状化合物の層間に、上記アンモニウムイオンをインターカレートさせて、無機層状化合物を有機化させることにより、無機層状化合物の層間が膨潤し、層間距離を大きくすることができ、無機層状化合物の分散性を向上させることができる。このように無機層状化合物を、有機化無機層状化合物の形態でディップ成形用組成物中に微分散させることにより、これをディップ成形して得られる成形品の耐油性を向上させることができる。
【0041】
そのため、本発明によれば、耐油性向上効果を有するシアノ基含有エチレン性不飽和単量体単位の、ラテックスを構成する共重合体(ゴム)中における含有量を多くすることなく、耐油性の向上を図ることができる。そして、その結果として、シアノ基含有エチレン性不飽和単量体単位の含有量を多くした場合における問題点、すなわち、得られる成形品の柔軟性や機械的強度が低下してしまうという問題を有効に防止しながら、耐油性の向上を図ることができるものである。
なお、上記アンモニウムイオンは、比較的に長鎖な炭化水素基で置換されたアンモニウムイオンであり、本発明に係る有機化無機層状化合物は、このようなアンモニウムイオンでイオン交換して得られるものである。
【0042】
各アンモニウムイオンにおける、飽和炭化水素基(R、R、R、R、R、R)の炭素数が少なすぎると、インターカレートするアンモニウムイオン容積が小さく層間距離が不十分となり無機層状化合物の分散性が劣り、一方、炭素数が多すぎると、アンモニウムイオンの疎水性が高くなりすぎ、溶媒への溶解性が低下し、無機層状化合物へのインターカレートがしにくくなる。
【0043】
NHまたはRNHで表されるアンモニウムイオンとしては、たとえば、RNHまたはRNHで表されるアミンを、塩酸、硫酸、硝酸などの酸を用いてアンモニウムイオンとしたものが用いられる。RNHまたはRNHで表されるアミンとしては、たとえば、オクチルアミン、2─エチルヘキシルアミン、ドデシルアミン、オクタデシルアミン、ジヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジデシルアミン、ジドデシルアミンなどが挙げられる。なお、RNHにおいて、R、Rは、同じ炭素数の飽和炭化水素としても良いし、互いに異なる炭素数の飽和炭化水素としても良い。
【0044】
(CHまたはR(CHで表されるアンモニウムイオンとしては、たとえば、これらの塩化物塩、臭化物塩、硫酸塩などの各種塩の形態で用いることができる。このような塩としては、オクチルトリメチルアンモニウム塩、デシルトリメチルアンモニウム塩、ドデシルトリメチルアンモニウム塩、オクタデシルトリメチルアンモニウム塩、ジオクチルジメチルアンモニウム塩、ジデシルジメチルアンモニウム塩、ジドデシルジメチルアンモニウム塩、ジオクタデシルジメチルアンモニウム塩などが挙げられる。なお、R(CHおいて、R、Rは、同じ炭素数の飽和炭化水素としても良いし、互いに異なる炭素数の飽和炭化水素としても良い。
【0045】
上記アンモニウムイオン(RNH、RNH、R(CH、R(CH)の使用量は、無機層状化合物を十分に膨潤させることができる量であれば良く、特に限定されないが、アンモニウムイオンの使用量の下限は、好ましくは無機層状化合物の陽イオン交換容量の0.5当量、より好ましくは0.7当量である。また、アンモニウムイオンの使用量の上限は、陽イオンの交換効率の点から、2当量が好ましく、より好ましくは1.5当量である。アンモニウムイオンの使用量を、0.5当量未満とすると、陽イオンの交換が不十分となり、有機化無機層状化合物の生成が不十分になる傾向にある。また、2当量を超えると、陽イオン交換に関与しないアンモニウムイオンの量が多くなり、経済的に不利となる傾向にある。
【0046】
有機化無機層状化合物の大きさは、特に限定されないが、平均厚みが1〜50nm、平均直径が50〜1000nmであることが好ましい。
【0047】
有機化無機層状化合物は、たとえば、(1)RNHまたはRNHで表されるアミンと酸との化合物や、R(CHまたはR(CHの塩を、溶解した溶媒中に、無機層状化合物を添加することにより反応させる方法、(2)上記化合物や塩を軟化または溶融させ、次いで、これらの中に、無機層状化合物を添加することにより反応させる方法、により得ることができる。
【0048】
上記(1)の方法によれば、室温下で、無機層状化合物の層間に、アンモニウムイオンをインターカレートさせることができる。この方法においては、用いる溶媒としては、たとえば、水の他、各種有機溶媒を用いることができる。また、上記(2)の方法においては、上記化合物や塩の軟化温度または溶融温度以上の高温に加熱する必要がある。この加熱は、上記化合物や塩、さらには無機層状化合物が分解しない温度で、かつこれらが安定に存在する温度において行うことが望ましく、たとえば、加熱温度は250℃以下である。
【0049】
本発明では、ディップ成形用組成物中における、有機化無機層状化合物の含有量は、シアノ基含有共役ジエンゴムのラテックスを構成する、シアノ基含有エチレン性不飽和単量体単位の量との関係で決定する。
すなわち、シアノ基含有共役ジエンゴムのラテックスを構成する全単量体単位100重量部に対する、シアノ基含有エチレン性不飽和単量体単位の含有量を、X重量部とし、シアノ基含有共役ジエンゴムのラテックスの固形分100重量部に対する、有機化無機層状化合物の含有量を、Y重量部とした場合に、有機化無機層状化合物の含有量を示すYの値を、上記Xとの関係で、下記式(1)および(2)を満足するものとする。
−0.25X+12.5≦Y≦−0.375X+22.5 …(1)
15≦X≦45 …(2)
【0050】
有機化無機層状化合物の含有量を示すYの値を、上記Xとの関係において、上記式(1)および(2)を満足するものとすることにより、耐油性に優れ、しかも、高い柔軟性および機械的強度を有するディップ成形品を得ることができる。なお、本発明において、有機化無機層状化合物の含有量を示すYの値は、Xとの関係において、さらに、下記式(3)を満足するものであることが好ましい。
−0.25X+13.5≦Y≦−0.375X+21.5 …(3)
【0051】
本発明のディップ成形用組成物においては、耐油性の向上効果は、主として、ラテックスを構成する共重合体(ゴム)中に含有されるシアノ基含有エチレン性不飽和単量体単位の量と、有機化無機層状化合物の量と、に依存するものである。そのため、耐油性を所望の水準とするためには、上記式(1)に示すように、シアノ基含有エチレン性不飽和単量体単位量(すなわち、上記Xの値)を低くした場合には、有機化無機層状化合物の配合量(すなわち、上記Yの値)を多くすることが望ましい。また、シアノ基含有エチレン性不飽和単量体単位量を多くした場合には、その分だけ、有機化無機層状化合物の配合量を少なくすることが望ましい。
ただし、シアノ基含有エチレン性不飽和単量体単位の含有量(すなわち、上記Xの値)が少なすぎると、有機化無機層状化合物を配合したとしても、充分な耐油性を得ることができず、一方、シアノ基含有エチレン性不飽和単量体単位の含有量が多すぎると、得られるディップ成形品自体が硬いものとなってしまい、柔軟性および機械強度に劣るものとなってしまう。そのため、本発明では、これらの含有量を表すXおよびYを上記範囲に制御するものである。
【0052】
架橋剤
本発明のディップ成形用組成物は、上述のシアノ基含有共役ジエンゴムのラテックスを構成する共重合体(ゴム)を架橋するために、架橋剤をさらに含有していることが好ましい。
架橋剤としては、特に限定されないが、有機過酸化物;粉末硫黄、硫黄華、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄などの硫黄;ヘキサメチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンなどのポリアミン;などが挙げられる。なかでも、有機過酸化物または硫黄が好ましい。
【0053】
架橋剤の含有量は、ディップ成形用組成物中の固形分100重量部に対して、好ましくは0.01〜10重量部、より好ましくは0.05〜4重量部、特に好ましくは0.1〜2重量部である。架橋剤の含有量が少なすぎると、成形が不十分となる傾向にあり、多すぎると、風合いや引張強度に劣る傾向にある。
【0054】
上記有機過酸化物としては、常圧、30℃で固体の性状を示し、10時間半減期温度が、好ましくは、150℃以下、より好ましくは130℃以下、特に40℃以上、120℃以下であるものが好ましい。なお、10時間半減期温度とは、当該有機過酸化物を、その温度で10時間加熱した場合において、活性を保持している有機過酸化物の量が、半分になる温度を意味する。すなわち、たとえば、10時間半減期温度が100℃である有機過酸化物は、100℃、10時間の条件で加熱した場合に、活性を保持している有機過酸化物の量が半分になる性質を有する。
【0055】
このような有機過酸化物としては、たとえば、ジベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイル(3−メチルベンゾイル)パーオキサイド、ジ(4−メチルベンゾイル)パーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、ジステアロイルパーオキサイド、ジ−α−クミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、サクシニックアシッドパーオキサイド、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイックアシッドなどが挙げられる。これらは単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0056】
また、架橋剤として硫黄を使用する場合には、架橋促進剤(加硫促進剤)や、酸化亜鉛を配合することが好ましい。架橋促進剤(加硫促進剤)としては、ディップ成形において通常用いられるものが使用できる。架橋促進剤の使用量は、ディップ成形用組成物中の固形分100重量部に対して、0.1〜10重量部、好ましくは0.2〜4重量部である。酸化亜鉛の使用量は、ディップ成形用組成物中の固形分100重量部に対して、5重量部以下、好ましくは2重量部以下である。
【0057】
ディップ成形品
本発明のディップ成形品は、上述した本発明のディップ成形用組成物をディップ成形して得られる。ディップ成形方法としては、従来公知の方法を採用することができ、たとえば、直接浸漬法、アノード凝着浸漬法、ティーグ凝着浸漬法などが挙げられる。なかでも、均一な厚みを有するディップ成形品が得やすいという点で、アノード凝着浸漬法が好ましい。以下、一実施形態としてのアノード凝着浸漬法によるディップ成形方法を説明する。
【0058】
まず、ディップ成形型を凝固剤溶液に浸漬して、ディップ成形型の表面に凝固剤を付着させる。ディップ成形型としては、材質は磁器製、ガラス製、金属製、プラスチック製など種々のものが使用できる。型の形状は最終製品であるディップ成形品の形状に合わせたものとすれば良い。
【0059】
凝固剤溶液は、塩析剤などの凝固剤を、水やアルコールまたはそれらの混合物に溶解させた溶液である。塩化バリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウム等のハロゲン化金属;硝酸バリウム、硝酸カルシウム、硝酸亜鉛等の硝酸塩;酢酸バリウム、酢酸カルシウム、酢酸亜鉛等の酢酸塩;硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩;などが挙げられる。凝固剤溶液中の凝固剤濃度は、好ましくは5〜70重量%、より好ましくは15〜50重量%である。
【0060】
次いで、凝固剤を付着させたディップ成形型を、上述した本発明のディップ成形用組成物に浸漬し、その後、ディップ成形型を引き上げ、ディップ成形型にディップ成形層を形成する。
【0061】
次いで、ディップ成形型に形成されたディップ成形層を加熱し、ディップ成形層を構成する共重合体(ゴム)を架橋させる。加熱温度は、好ましくは100〜150℃である。温度が低すぎると、架橋反応に長時間要するため生産性が低下するおそれがある。一方、高すぎると、ディップ成形層を構成する共重合体(ゴム)の酸化劣化が促進されて成形品の物性が低下する可能性がある。加熱処理の時間は、加熱処理温度に応じて適宜選択すれば良いが、通常、10〜120分である。また、加熱の方法としては、特に限定されないが、たとえば、赤外線や熱空気による外部加熱または高周波による内部加熱による方法が採用できる。なかでも、熱空気による加熱が好ましい。
【0062】
本発明においては、ディップ成形層に加熱処理を施す前に、ディップ成形層を、20〜80℃の温水に0.5〜60分程度浸漬して、水溶性不純物(乳化剤、水溶性高分子、凝固剤など)を除去しておくことが好ましい。
【0063】
次いで、加熱処理により架橋したディップ成形層を、ディップ成形型から脱型し、ディップ成形品を得る。脱型方法は、手でディップ成形型から剥がす方法や、水圧や圧縮空気の圧力により剥がす方法などが採用できる。
脱型後には、さらに60〜120℃の温度で、10〜120分の加熱処理(後架橋工程)を行ってもよい。
【0064】
また、ディップ成形品が手袋である場合、ディップ成形品同士の接触面における密着を防止したり、着脱の際の滑りをよくするために、タルク、炭酸カルシウム、澱粉粒子などの無機微粒子または有機微粒子を手袋表面に散布したり、それらの微粒子を含有するエラストマー層を手袋表面に形成したり、手袋の表面層を塩素化したりしてもよい。
【0065】
このようにして得られる本発明のディップ成形品は、上記本発明のディップ成形用組成物をディップ成形してなるものであるため、耐油性に優れ、しかも、高い柔軟性および機械的強度を有するものである。
【0066】
そして、このような本発明のディップ成形品は、厚みを約0.1〜約3mm、特に0.1〜0.3mmとすることが可能であるため、このような厚みを有する薄手のものに好適に使用できる。具体的には、哺乳瓶用乳首;スポイト、導管、水枕などの医療用品;風船、人形、ボールなどの玩具や運動具;加圧成形用バッグ、ガス貯蔵用バッグなどの工業用品;医療用、家庭用、農業用、漁業用および工業用の手袋;指サックなどに好適に用いることができる。特に、本発明のディップ成形品は、上記特性を生かし、耐油性の要求される手袋用途に好適に用いることができる。なお、成形品を手袋とする場合には、サポート型であっても、アンサポート型であってもよい。
【実施例】
【0067】
以下に実施例、比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。これらの例中の〔部〕および〔%〕は、特に断わりのない限り重量基準である。ただし本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各特性の評価は下記の方法により行う。
【0068】
成膜性
成膜性は、ディップ成形品について、以下に示すピンホール発生個数にて評価する。
ゴム手袋内に水を満たし、それから30分の間に、内部の水が手袋外表面へ漏れ出ている箇所1箇所につきピンホール1個として数える。なお、1回の評価に際してはゴム手袋を100個作製し、一つ一つのゴム手袋に発生したピンホールの発生個数を100個のゴム手袋について積算する。成膜性は、以下の基準で評価する。
○:0〜2個
△:3〜5個
×:6個以上
【0069】
300%引張応力、引張強度、伸び
ディップ成形品(ゴム手袋)から、ASTM D−412に準じて、ダンベル(Die−C)を用いて、ダンベル形状の試験片を作製する。次いで、この試験片を、引張速度500mm/分で引っ張り、伸び率が300%の時の引張応力(MPa)、破断時の引張強度(MPa)および破断時の伸び(%)を測定する。なお、本実施例では、以下の基準で各特性を評価する。
すなわち、300%引張応力については、以下の基準で評価する。300%引張応力が低い程、柔軟性に優れると判断できる。
◎:3.5MPa以下
○:3.5MPa超、6.5MPa以下
×:6.5MPa超
引張強度については、以下の基準で評価する。引張強度が高い程、機械的強度に優れると判断できる。
◎:25MPa以上
○:15MPa以上、25MPa未満
×:15MPa未満
破断時の伸びについては、以下の基準で評価する。破断時の伸びが高い程、機械的強度に優れると判断できる。
◎:600%以上
○:500%以上、600%未満
×:500%未満
【0070】
耐油性(JIS#3オイル、イカ油、ガソリン)
ディップ成形品(ゴム手袋)を、直径20mmの円形に打ち抜いて、試験片を作製する。そして、試験片を、所定の試験油に48時間浸漬した後、試験片の面積を測定し、試験油に浸漬する前と浸漬後との面積の変化を浸漬前の面積で除した値(面積膨潤率:%)を算出することにより、耐油性を評価する。本実施例では、試験油として、JIS#3オイル、イカ油およびガソリンを用い、それぞれ以下の基準で評価する。面積膨潤率は、用いる試験油によって異なり、また、その値は小さい方が好ましい。
JIS#3オイルに対する耐油性
◎:面積膨潤率が2%以下
○:面積膨潤率が2%超、4%以下
×:面積膨潤率が4%超
イカ油に対する耐油性
◎:面積膨潤率が5%以下
○:面積膨潤率が5%超、7%以下
×:面積膨潤率が7%超
ガソリンに対する耐油性
◎:面積膨潤率が14%以下
○:面積膨潤率が14%超、20%以下
×:面積膨潤率が20%超
【0071】
製造例1
窒素置換した重合反応器に、アクリロニトリル30部、1,3−ブタジエン65部、メタクリル酸5部、t−ドデシルメルカプタン(TDM)0.3部、軟水132部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム3.0部、β−ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩0.5部,過硫酸カリウム0.3部およびエチレンジアミン四酢酸ナトリウム塩0.05部を仕込み、重合温度を37℃に保持して重合を開始する。次いで、重合転化率が60%になった時点で、t−ドデシルメルカプタン0.15部を添加して、重合温度を40℃に昇温し、その後、重合転化率が80%になった時点で、t−ドデシルメルカプタン0.15部を添加して重合反応を継続し、重合転化率が94%に達するまで反応させる。その後、重合停止剤としてジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム0.1部を添加して重合反応を停止する。
そして、上記のようにして得られる共重合体ラテックスから未反応単量体を除去した後、共重合体ラテックスのpHおよび固形分濃度を調整して、固形分濃度40%、pH8の共重合体ラテックスAを得る。この共重合体ラテックスAの各単量体単位量の含有量を表1に示す。なお、各単量体単位の含有量は、共重合体ラテックスの一部を採取し、それにメタノールを加えて凝固させた後、水洗・乾燥し、ゴム状の共重合体を得て、このゴム状の共重合体中の各単量体単位量を、熱分解ガスクロマトグラフィー、H-NMRおよび13C-NMRにより求めることができる。
【0072】
製造例2〜5
各単量体単位の含有量が表1に示す量となるように、原料となる単量体の量を変更する以外は、製造例1と同様にして、共重合体ラテックスB,C,D,Eを製造する。
【0073】
【表1】

【0074】
実施例1
有機化無機層状化合物の製造
まず、無機層状化合物としてのNaモンモリロナイト(陽イオン容量115meq./100g)を準備し、Naモンモリロナイト160gを80℃の水10リットルに分散させて、1時間攪拌してモンモリロナイト分散液を得る。次いで、ドデシルアミン42.20gに塩酸8.32gを加えることにより調製されるドデシルアンモニウムイオン溶液を、モンモリロナイト分散液に加えさらに同温度(80℃)で1時間撹拌する。そして、室温に冷却後に析出物を濾過、洗浄し、固形分濃度が10%になるように再度水を加え、80℃に昇温して1時間攪拌することにより、モンモリロナイトを十分に膨潤させ、有機化無機層状化合物分散液を調製する。なお、本実施例では、ドデシルアンモニウムイオンの添加量は、Naモンモリロナイトの陽イオン交換容量に対して、1.24当量である。
【0075】
ディップ成形用組成物の製造
上記にて得られる共重合体ラテックスA250部(固形分換算では100部)に、硫黄1.0部、加硫促進剤としてジエチルジチオカルバミン酸亜鉛0.5部および酸化亜鉛1.0部を配合する。そして、上記にて得られる有機化無機層状化合物の水分散液を80部(固形分換算では8部)加え、次いで、水酸化カリウム水溶液を添加してpHを9.5に調整し、さらに水を加えて固形分濃度を30%に調整することにより、ディップ成形用組成物を得る。
【0076】
ディップ成形品(ゴム手袋)の製造
60℃に加熱した手袋型を、硝酸カルシウム25%水溶液(凝固剤溶液)に浸漬した後、引き上げ、60℃、10分間乾燥して、凝固剤を付着させる。次いで、この凝固剤が付着した手袋型を、上記にて得られるディップ成形用組成物に10秒間浸漬し、手袋型にディップ成形層を形成する。そして、40℃の脱イオン水で5分間リーチングし、60℃で10分間乾燥した後、120℃で20分間ディップ成形層を加硫する。最後に、得られる加硫物を、手型から反転させながら脱着して、ディップ成形品(ゴム手袋)を得る。
【0077】
そして、上記のようにして得られるディップ成形品について、上記方法により、成膜性、300%引張応力、引張強度、伸びおよび耐油性の各評価を行う。結果を表3に示す。
【0078】
実施例2,3、比較例1〜3
ディップ成形用組成物を製造する際に、有機化無機層状化合物の配合量を、それぞれ、表1に示す量(固形分換算)とする以外は、実施例1と同様に、ディップ成形用組成物およびディップ成形品を製造し、同様に評価を行う。結果を表3,4に示す。なお、比較例1は、有機化無機層状化合物を配合しない例である。
【0079】
実施例4〜9、比較例4〜15
ディップ成形用組成物を製造する際に、共重合体ラテックスAの代わりに、それぞれ共重合体ラテックスB(実施例4〜6、比較例4〜6)、共重合体ラテックスC(実施例7〜9、比較例7〜9)、共重合体ラテックスD(比較例10〜12)、重合体ラテックスE(比較例13〜15)を使用するとともに、有機化無機層状化合物の配合量を、表3,4に示す量(固形分換算)とする以外は、実施例1と同様に、ディップ成形用組成物およびディップ成形品を製造し、同様に評価を行う。結果を表3,4に示す。なお、比較例4,7は、有機化無機層状化合物を配合しない例である。
【0080】
実施例10〜13、比較例16,17
充填剤としての有機化無機層状化合物を調製する際に、アンモニウムイオンを構成する化合物として、ドデシルアミン42.20部の代わりに、表2に示す各アミン化合物を表2に示す添加量にて用いる以外は実施例1と同様にして、ディップ成形用組成物およびディップ成形品を製造し、実施例1と同様に評価する。結果を表3,4に示す。
【0081】
実施例14〜17、比較例18,19
充填剤としての有機化無機層状化合物を調製する際に、アンモニウムイオンを構成する化合物として、ドデシルアミン42.20部および濃度10%の塩酸83.2部の代わりに、表2に示す各アンモニウム塩を表2に示す添加量にて用いる以外は実施例1と同様にして、ディップ成形用組成物およびディップ成形品を製造し、実施例1と同様に評価する。結果を表3,4に示す。
【0082】
【表2】

【0083】
【表3】

【0084】
【表4】

表3,4中、アクリロニトリル単位含有量(X)は共重合体ラテックスを構成する全単量体100部に対する量であり、有機化無機層状化合物の配合量(Y)は共重合体ラテックスの固形分100部に対する量である。
また、比較例15は、各評価を行えるような成形品を得ることができないため、各評価を「−」で示している。
【0085】
表3に示すように、ディップ成形用組成物を、シアノ基含有共役ジエンゴムのラテックスおよび本発明所定の有機化無機層状化合物を含有するものとし、シアノ基含有エチレン性不飽和単量体単位であるアクリロニトリル単位の含有量Xと、有機化無機層状化合物の含有量Yとを、「−0.25X+12.5≦Y≦−0.375X+22.5」および「15≦X≦45」を満たすようにすることにより、成膜性、300%引張応力、引張強度、伸びを良好に保ちながら、耐油性を向上させることができる(実施例1〜17)。
【0086】
これに対して、有機化無機層状化合物を添加しない場合、あるいは、有機化無機層状化合物を添加しても、上記XまたはYが本発明の範囲外となると、各特性に劣る結果となる(比較例1〜15)。
また、無機層状化合物にインターカレートさせるアンモニウムイオンとして、本発明所定のアンモニウムイオン以外のものを使用しても、耐油性の向上効果を得ることができない結果となる(比較例16〜19)。
【0087】
なお、図1に、実施例1〜17および比較例1〜15のアクリロニトリル単位の含有量Xと、有機化無機層状化合物の含有量Yと、の関係をグラフ化して示す。ここにおいて、図中、黒色の丸印は本発明実施例を示す。一方で、中抜きの丸印は比較例を示す。図1より明らかなように、実施例1〜17はいずれも、Y=−0.25X+12.5、Y=−0.375X+22.5、X=15およびX=45の4本の線に囲まれた範囲内に位置する例である。一方で、比較例1〜15は、いずれもこれらの線で囲まれた範囲の外側に位置する例である。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】図1は実施例および比較例におけるアクリロニトリル単位の含有量Xと、有機化無機層状化合物の含有量Yと、の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共役ジエン単量体単位およびシアノ基含有エチレン性不飽和単量体単位を少なくとも含んでなるシアノ基含有共役ジエンゴムのラテックスと、
無機層状化合物の層間に、RNH、RNH、R(CH、およびR(CHから選択される少なくとも一種のアンモニウムイオン(ただし、Rは炭素数8〜20の飽和炭化水素、R、Rは炭素数6〜12の飽和炭化水素、Rは炭素数8〜20の飽和炭化水素、R、Rは炭素数8〜20の飽和炭化水素である。)がインターカレートした有機化無機層状化合物を含む充填剤と、を含有するディップ成形用組成物であって、
前記シアノ基含有共役ジエンゴムのラテックスを構成する全単量体単位100重量部に対する、前記シアノ基含有エチレン性不飽和単量体単位の含有量を、X重量部とし、
前記シアノ基含有共役ジエンゴムのラテックスの固形分100重量部に対する、前記有機化無機層状化合物の含有量を、Y重量部とした場合に、
前記XとYとが、
−0.25X+12.5≦Y≦−0.375X+22.5、および、
15≦X≦45、
の関係を満足するディップ成形用組成物。
【請求項2】
前記有機化無機層状化合物を構成する前記無機層状化合物が、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、バイデライト、スティブンサイト、ノントロナイト、バーミキュライト、ハロイサイト、マイカおよびベントナイトから選択される少なくとも一種である請求項1に記載のディップ成形用組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のディップ成形用組成物をディップ成形してなるディップ成形品。
【請求項4】
手袋である請求項3に記載のディップ成形品。

【図1】
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【公開番号】特開2008−255158(P2008−255158A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−96345(P2007−96345)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】