説明

ディーゼルエンジンの排ガス中の窒素酸化物の選択接触還元

【課題】ディーゼルエンジン排ガス中の窒素酸化物をアンモニア又はアンモニアに分解可能な化合物で選択接触還元する、触媒及び方法。
【解決手段】浄化されるべき排ガスを、アンモニア又はアンモニアに分解可能な化合物と共に、ゼオライト又はゼオライト類似化合物の全質量を基準として、銅1〜10質量%を含有するゼオライト又はゼオライト類似化合物、及び均質なセリウム−ジルコニウム混合酸化物及び/又は酸化セリウムを含んでなる触媒上を通過させる。使用されるゼオライト又は使用されるゼオライト類似化合物は、チャバザイト、SAPO−34、ALPO−34及びゼオライト−βからなる群から選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジン排ガス中の窒素酸化物を、アンモニアで又はアンモニアに分解可能な化合物で選択接触還元する、触媒及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料の不完全燃焼から生じる汚染ガス、これらは一酸化炭素(CO)及び炭化水素(HC)である、に加えて、ディーゼルエンジンの排ガスは、粒子状物質(PM)及び窒素酸化物(NOx)を含んでなる。そのうえ、ディーゼルエンジンの排ガスは、酸素を15体積%まで含有する。酸化可能な汚染ガスであるCO及びHCが、適した酸化触媒上を通過させることにより無害な二酸化炭素(CO2)に転化されることができ、かつ微粒子(particulates)は、排ガスを適したパティキュレートフィルタに通すことにより除去されることができることは知られている。酸素の存在で排ガスから窒素酸化物を除去する技術も先行技術から周知である。これらの"脱硝(denoxing)"法の1つは、SCR法(SCR=Selective Catalytic Reduction、選択接触還元)、すなわち、窒素酸化物の、還元剤アンモニアを用いる、そのために適した触媒であるSCR触媒上での選択接触還元である。排ガス流に、アンモニア自体を、又は外界(ambient)条件下でアンモニアに分解可能な前駆物質化合物の形で、添加することは可能であり、ここで"外界条件"は、SCR触媒の上流の排ガス流中でアンモニアに分解可能な化合物の環境を意味すると理解される。SCR法を実施するために、還元剤を供給する源、必要とされる還元剤を排ガス中へ配量添加する噴射装置及び前記排ガスの流路中に配置されたSCR触媒が必要とされる。還元剤源と、SCR触媒と、前記SCR触媒への流入側に配置された噴射装置との全体が、SCRシステムとも呼ばれる。
【0003】
自動車におけるディーゼル排ガスの浄化のためには、前記SCRシステムは通常、酸化触媒及びディーゼルパティキュレートフィルタのような他の排ガス浄化ユニットと組み合わせて使用される。これは、排ガスシステム配置の多くの異なる選択肢を生じさせる。SCRシステムの取り付け位置に応じて、及びより詳細には排ガスの流路中のSCR触媒の配置に応じて、その性能及びエージング安定性に異なる要件が課される。その結果、先行技術には、ディーゼルエンジンの排ガス中の窒素酸化物の還元に適しており、かつ個々の排ガスシステム配置への特定の要求に従って通常最適化される、多数のSCR触媒が記載されている。
【0004】
例えば、欧州特許(EP)第1 203 611号明細書には、上流の酸化触媒との組合せで有利には使用される、SCR触媒が記載されている。前記SCR触媒は、NOx貯蔵成分並びにSCR活性成分を含んでなる。使用されるSCR成分は、場合によりWO3、MoO3、SiO2、硫酸塩又はゼオライトも含んでなる、TiO2/VOxをベースとする固体酸系であってよい。SCR成分のさらなる選択肢は、酸性H+型のゼオライト又は金属イオン交換ゼオライトである。使用されるNOx貯蔵成分は、好ましくは、アルカリ金属、アルカリ土類金属及びセリウムからなる群から選択される元素の化合物である。そのうえ、前記触媒は、白金族金属(Pt、Pd、Rh、Ir)を触媒活性成分として場合により含んでなっていてよく、これらは、窒素酸化物貯蔵成分に及び/又は酸化アルミニウム、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン又はその混合酸化物(mixed oxides)から選択される担体材料に施与される。
【0005】
欧州特許(EP)第0 234 441号明細書には、アンモニアの存在でのNOxの窒素への選択接触還元用の触媒が開示されており、前記触媒は、少なくとも10m2/gの比表面積を有する酸化ジルコニウム出発物質を5〜50質量%の程度で、水素型又はアンモニウム型の1つ又はそれ以上のゼオライトを50〜90%の程度で、及び結合剤を0〜30%の程度で含んでなる。使用されるゼオライトは好ましくは、場合によりチャバザイトとブレンドされる、クリノプチロライトである。そのうえ、前記触媒は、助触媒として酸化バナジウム及び/又は酸化銅を含んでなっていてよい。
【0006】
米国特許(US)第4,874,590号明細書には、ガス流から特定レベルの窒素酸化物、並びに硫黄酸化物を、前記ガス流をアンモニアと共に、ミクロ孔の非ゼオライト性モレキュラーシーブ上を通過させることによって、接触還元する方法が開示されている。このモレキュラーシーブは、SAPOs、ELAPSOs、AlPO4S、MeAlPOs、FeAPOs、TAPOs、ELAPOs及びMeAFSOsの群から好ましくは選択される。Cu、Co、V、Cr、W、Ni、Pd、Pt、Mn、Mo、Rh、Mg、Al及びFeから選択される金属イオンは、前記モレキュラーシーブ中へ交換されてよく、その際にCuを前記交換イオンとして使用することが特に好ましい。前記非ゼオライト性モレキュラーシーブ組成物は、場合により無機酸化物マトリックス中に担持されて存在し、それらのために、無定形の触媒活性な無機酸化物、例えばシリカ/アルミナ、アルミナ、SiO2、Al23、SiO2とAl23、ZrO2、MgO、酸化トリウム、酸化ベリリウムとの混合酸化物、Si−Al−Th混合酸化物、Si−Al−Zr混合酸化物、Al−B混合酸化物、チタン酸アルミニウム等を使用することは普通である。
【0007】
国際公開(WO)第2005/088091号には、ディーゼル排ガス中の窒素酸化物を、還元剤としてアンモニア又はアンモニアに分解可能な化合物の代わりに燃料(炭化水素)を用いて還元する方法が開示されている。この方法において、NOx吸収材料及びNOx還元材料を含んでなる触媒が使用される。双方の材料は、天然の、合成の、イオン交換、非イオン交換、変性、未変性、ピラード(pillared)、非ピラードの粘土鉱物、海泡石、アタパルジャイト、天然の、合成の、イオン交換、非イオン交換、変性、未変性のゼオライト、Cu、Ba、K、Sr、及びAg添加(laden)、Al、Si及びTiピラードのモンモリロナイト、Fe、In、Mn、La、Ce又はCuでドープされたヘクトライト、及びその混合物、Cu、Fe、Ag、Ce添加クリノプチロライト、及びその混合物を含んでなる群から選択される。好ましい実施態様において、ゼオライトと粘土鉱物及び銅とのブレンドが触媒活性成分として使用される。
【0008】
米国特許(US)第7,220,692号明細書には同様に、還元剤として炭化水素を用いるリーン燃焼排ガス中の窒素酸化物の還元に適している触媒が開示されている。この触媒は、二元機能であり、かつ活性な金属交換モレキュラーシーブを、ゾル前駆物質化合物からコーティングとして前記モレキュラーシーブ粒子上に得られ、かつ低温NOx還元活性を保持すると同時に改善された水熱安定性をもたらす別個の安定化金属酸化物と、組み合わせる。使用される金属交換モレキュラーシーブは、好ましくは、孔径が少なくとも4Åであり(ゼオライトY、ゼオライトβ、モルデナイト、フェリエライト、ZSM−5、ZSM−12)、かつ助触媒として、遷移金属Cu、Co、Fe、Ag及びMoの1つ又はそれ以上を含んでなるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許(EP)第1 203 611号明細書
【特許文献2】欧州特許(EP)第0 234 441号明細書
【特許文献3】米国特許(US)第4,874,590号明細書
【特許文献4】国際公開(WO)第2005/088091号
【特許文献5】米国特許(US)第7,220,692号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、ディーゼルエンジン排ガス中の窒素酸化物をアンモニアで又はアンモニアに分解可能な化合物で選択接触還元する、触媒及び方法を提供することである。本方法において使用される触媒は、卓越した窒素の選択性と同時に、350℃を上回る温度でのアンモニアでのNOxの還元における改善された転化活性に特に傑出しているべきである。同時に、どのような従来の触媒と比較しても、活性損失が、250〜350℃の温度範囲内で及び特に150〜250℃の低温範囲内で、観察されないべきである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は、ディーゼルエンジン排ガス中の窒素酸化物を、アンモニアで又はアンモニアに分解可能な化合物で選択接触還元するための、基材と、それに施与された触媒活性コーティングとからなる触媒によって達成され、ここで前駆触媒は、
・ゼオライト又はゼオライト類似(zeolite-like)化合物の全質量を基準として、銅1〜10質量%を含有するゼオライト又はゼオライト類似化合物、ここで前記ゼオライト又は前記ゼオライト類似化合物は、チャバザイト、SAPO−34、ALPO−34及びゼオライトβからなる群から選択される;及び
・均質なセリウム−ジルコニウム混合酸化物及び/又は酸化セリウム
を含んでなる。
【0012】
本発明による触媒は、ディーゼルエンジン排ガス中の窒素酸化物を選択接触還元する方法において使用され、前記方法は次の処理段階:(a.)アンモニアを又はアンモニアに分解可能な化合物を、前記エンジンの独立した源から、前記窒素酸化物を含んでなり、かつ浄化されるべき排ガスに添加する段階;(b.)段階(a.)において得られた、浄化されるべき排ガスとアンモニア又はアンモニアに分解可能な化合物との混合物を、本発明による触媒上を通過させる段階を含んでなる。
【0013】
アンモニア又はアンモニアに分解可能な適した化合物、例えば尿素が、還元剤として使用される場合に、銅交換ゼオライト又は銅交換ゼオライト類似化合物がディーゼル排ガスの脱硝に適していることは、原則的に知られている。先行技術から知られた相応する触媒は、300℃を下回る温度での良好なNOx転化活性に傑出しているが、しかしより高温で及び特に350℃を上回る温度で欠点を有する。この温度範囲内で、前記銅の酸化力はしばしば、アンモニアの過剰酸化(overoxidation)をまねいて、有毒であるので望ましくない一酸化二窒素N2Oを二次排出物質として形成する。アンモニア還元剤の過剰酸化は、一酸化二窒素の排出だけでなく、350℃を上回るNOx転化の有意な劣化もまねく。比較例2は図2と関連して、アンモニアを還元剤として用いる銅交換ゼオライト触媒(CC2)の典型的なNOx転化プロフィールを示す。CC2上でのNOx転化が、温度が350℃を上回り上昇するにつれて減少することが明らかにわかる。この性質は、これらの触媒の適性を制限して、350℃を下回る温度で使用される。
【0014】
本発明者らは、意外なことに、この適性の制限が、銅交換ゼオライト又は銅交換ゼオライト類似化合物を未処理の均質なセリウム−ジルコニウム混合酸化物及び/又は酸化セリウムと制御してブレンドすることにより、少なくとも部分的に克服されることができることを目下見出した。この効果は特に意外である、それというのも、未処理の状態での均質なセリウム−ジルコニウム混合酸化物及び/又は酸化セリウムは、いずれのNOx還元活性を通常示さないからである。これに反して:350℃を上回る温度で、還元剤として添加されるアンモニアの一酸化二窒素への過剰酸化、ひいては付加的なN2Oの形成及び不利なNOx転化は、窒素酸化物を含有しているリーンディーゼル排ガス中で、未処理の均質なセリウム−ジルコニウム混合酸化物上で、同様に観察される。図1は、一例として、標準アンモニアSCR反応の条件下で観察される、CeO2 86質量%、ZrO2 10質量%及びLa23 4質量%から構成される未処理のセリウム−ジルコニウム混合酸化物(比較例1からのCC1)上での転化挙動を示す。
【0015】
銅交換ゼオライト又は銅交換ゼオライト類似化合物の物理混合物については、故に、NOx転化が350℃を上回る温度で悪化し、かつアンモニアの過剰酸化から生じる前記N2Oの割合がさらに上昇することが予測される。しかしながら、前記2成分の意外な相乗的な相互作用のために、逆があてはまる:例1から図2と関連して明らかであるように、銅交換ゼオライト又はゼオライト類似化合物と、CeO2 86質量%、ZrO2 10質量%及びLa23 4質量%から構成される未処理の均質なセリウム−ジルコニウム混合酸化物とのブレンドを含んでなる本発明による触媒(C1)は、意外なことに、350℃を上回る温度でのNOx転化の明白な改善を示す。同時に、250〜350℃の温度範囲内及び特に150〜250℃の低温範囲内での銅ゼオライト触媒に典型的な卓越した転化特性は、維持される。一酸化二窒素の形成は、意外なことに増加されないが、しかし同じレベルのままであるか又は僅かに改善されるので、窒素の選択性は、前記成分の相加的な相互作用により予測されるよりも、かなりより良好である。
【0016】
本発明による触媒中に存在するコーティングは、前記コーティングの全量を基準として、ゼオライト又はゼオライト類似化合物と、均質なセリウム−ジルコニウム混合酸化物及び/又は酸化セリウムとの物理混合物を好ましくは70〜100質量%の程度で含んでなる。この物理混合物中で、ゼオライト又はゼオライト類似化合物及び均質なセリウム−ジルコニウム混合酸化物及び/又は酸化セリウムは、好ましくは4:1〜2:1の質量比で、より好ましくは3:1〜2:1の質量比で及び最も好ましくは2:1の質量比で存在する。質量比は、前記コーティング中の成分の相互に対する質量による割合(質量%)の比を意味すると理解される。
【0017】
使用されるゼオライト又はゼオライト類似化合物は、好ましくは、4オングストローム(Å)未満の平均孔径を有するものであり、かつチャバザイト、SAPO−34及びALPO−34からなる群から選択される。特に好ましくは、ゼオライト類似モレキュラーシーブSAPO−34及びALPO−34が使用される。SAPO−34は、チャバザイト構造を有するゼオライト類似シリコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブであり、ALPO−34は、チャバザイト構造を有するゼオライト類似アルミノリン酸塩モレキュラーシーブである。これらの化合物は、未処理のディーゼル排ガス中に存在し、かつSCR触媒の取り付け位置及びディーゼルエンジンの運転状態に応じて従来のSCR触媒上での窒素酸化物転化の明白な分解を引き起こしうる炭化水素(HC)での被毒に対して耐性があるという利点を有する。
【0018】
少なくとも4Åの平均孔径を典型的に有する従来の銅交換ゼオライト触媒中で、炭化水素(HC)が、前記アンモニアSCR反応の条件下にこれらの炭化水素の存在で、前記ゼオライトの細孔構造中へインターカレートされることが観察された。これらのインターカレートされた炭化水素が前記アンモニアSCR反応のための反応性サイトを少なくとも一時的にブロックすることが推測される。全結果は、増加されたアンモニア漏出(breakthroughs)及び悪化された窒素酸化物転化が、浄化されるべき排ガス中の炭化水素の存在で、従来の銅交換ゼオライト触媒上での前記アンモニアSCR反応の反応条件下で観察されることである。4オングストローム(Å)未満の平均孔径を有し、チャバザイト、SAPO−34及びALPO−34からなる群から選択されるゼオライト又はゼオライト類似化合物の使用は、そのようなHCに関連した被毒現象を防止する。これらの化合物の低い平均孔径は、炭化水素が前記ゼオライトの細孔構造中へ侵入するのを防止し、こうしてアンモニアSCR反応のための反応性サイトをブロックすることができる。SAPO−34及びALPO−34は、そのアンモニア貯蔵容量の卓越した熱安定性に付加的に傑出している。結果として、窒素の高い選択性と同時に極めて良好な窒素酸化物転化速度及び単に低いアンモニア漏出が、これらのゼオライト類似化合物を含んでなる本発明による好ましい実施態様の触媒上で、HCを含有する排ガス中でさえ観察される。
【0019】
本発明による触媒中で使用される均質なセリウム−ジルコニウム混合酸化物は好ましくは、セリウム及びジルコニウムの高表面積の混合酸化物であり、この中に酸化セリウム及び酸化ジルコニウムの大部分の混晶が存在する。酸化セリウム及び酸化ジルコニウムの"固溶体"という用語は、そのような化合物にも使用される。本発明による触媒中で使用されるセリウム−ジルコニウム混合酸化物は、前記混合酸化物の全質量に対して、好ましくはCeO2 40〜98質量%を含有する。純酸化セリウムを使用することも可能である。混合酸化物の全質量を基準として、ランタン、イットリウム、ネオジム、プラセオジム及びサマリウムからなる群から選択される1つ又はそれ以上の希土類金属の酸化物、及び/又は酸化ニオブ1〜20質量%でドープされた、高表面積の均質なセリウム−ジルコニウム混合酸化物及び/又は高表面積の酸化セリウムを使用することが特に好ましい。そのようなドーパントは、とりわけ、水熱外界条件下での前記材料の高表面積の安定化をもたらしうる。"高表面積の"酸化物は、少なくとも10m2/g、好ましくは少なくとも50m2/g、より好ましくは少なくとも70m2/gのBET表面積を有する材料を意味すると理解される。
【0020】
そのうえ、本発明による触媒の好ましい実施態様の触媒活性コーティングは、場合により希土類セスキ酸化物で安定化された、高表面積の酸化アルミニウムを含んでなる。そのような酸化アルミニウムは、商業的に入手可能であり、かつ未処理の状態で、100m2/gよりも多いBET表面積を典型的に有する。それらは、好ましくは、酸化アルミニウムの全質量を基準として、ランタン、イットリウム、ネオジム、プラセオジム及びサマリウムからなる群から選択される1つ又はそれ以上の希土類金属の酸化物1〜10質量%でドープされる。前記コーティングへのそのような酸化物の添加は、本発明による触媒の熱エージング安定性の改善をもたらす。
【0021】
本発明による触媒は、卓越した窒素の選択性と同時に、200〜500℃の温度範囲内で、特に350℃を上回る高温範囲内での高いNOx転化速度に傑出している。本発明による触媒の顕著に良好な選択性性能及びアンモニアの過剰酸化の極めて低い傾向の1つの理由は、本発明による触媒が、いずれの白金族金属を含有しないことである。より詳細には、本発明による触媒の触媒活性コーティングは、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム及びルテニウムからなる群から選択されるいずれの金属も含有しない。本発明による触媒の触媒活性コーティング中での極めて少量のこれらの貴金属でさえ、リーンディーゼル排ガス中でのアンモニアの一酸化二窒素N2Oへの過剰酸化を、その強い酸化触媒作用のために引き起こし、ひいては窒素の高い選択性を破壊する。故に、本発明による触媒の製造において、使用される原料の結果として又は使用される装置の結果としてのいずれかでの、貴金属での触媒活性コーティングのいずれの汚染がありえないことが保証されるべきである。
【0022】
本発明者らが知る最良の実施態様の本発明による触媒は、基材と、それに施与された触媒活性コーティングからなり、これは
・ゼオライト又はゼオライト類似化合物の全質量を基準として、銅1〜10質量%を含有するゼオライト又はゼオライト類似化合物50〜60質量%、ここで前記ゼオライト又は前記ゼオライト類似化合物は、チャバザイト、SAPO−34、ALPO−34及びゼオライトβからなる群から選択される;
・均質なセリウム−ジルコニウム混合酸化物及び/又は酸化セリウム25〜30質量%;
・場合により希土類セスキ酸化物で安定化された、高表面積の酸化アルミニウム8〜10質量%;
・残余:シリカゾル、アルミナゾル、シリカ−アルミナゾル及び酸化ジルコニウムゾルから選択される無機結合剤のか焼生成物
から構成される。
【0023】
本明細書において使用されるゼオライト又はゼオライト類似化合物は好ましくは、4オングストローム未満の平均孔径を有し、かつチャバザイト、SAPO−34及びALPO−34からなる群から選択される。SAPO−34及び/又はALPO−34が最も好ましい。
【0024】
前記触媒活性コーティングに適した担体は、不均一系触媒用に知られた原則的には全ての担体である。セラミック及び金属から構成されるモノリス及びモノリス様のフローハニカム、並びにディーゼルエンジン排ガスの浄化に典型的に使用されるパティキュレートフィルタ基材を使用することが好ましい。コーディエライト、チタン酸アルミニウム又は炭化ケイ素から構成されるセラミックフローハニカム及びセラミックウォールフローフィルタ基材が極めて特に好ましい。
【0025】
本発明による触媒は、ディーゼルエンジンの排ガスから窒素酸化物を、その選択接触還元法において除去するのに適しており、前記方法は次の処理段階:
a.アンモニアを又はアンモニアに分解可能な化合物を、前記エンジンの独立した源から、窒素酸化物を含んでなり、かつ浄化されるべき前記排ガスに添加する段階;
b.段階a.において得られた、浄化されるべき排ガスとアンモニア又はアンモニアに分解可能な化合物との混合物を、本発明による触媒上を通過させる段階
を含んでなる。
【0026】
本発明は、以下に幾つかの実施例及び図を参照して詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】比較成分CC1の定常状態における試験中に観察されたNOx転化挙動を示す図。
【図2】定常状態における試験の結果を示す図。
【図3】動的運転条件下での触媒CC2及びC1の転化挙動を示す図。
【図4】触媒CC3及びC2の、合成エージング後での定常状態における試験の結果を示す図。
【図5】触媒CC4//C2の動的試験における結果を示す図。
【図6】定常状態における試験においてCC5について達成された活性結果をC1及びC2と比較して示す図。
【実施例】
【0028】
本発明による触媒及び幾つかの比較触媒を製造した。このためには、93mmの直径及び76.2mmの長さを有し、0.17mmのセル壁厚を有する1cm2につき62セルを有するセラミックハニカムを、以下に明記される組成のコーティング懸濁液で、常用の浸漬法によりコートした。前記コーティング懸濁液を施与した後に、前記ハニカムを熱気送風機中で乾燥させ、かつ640℃で2時間の期間にわたってか焼した。
【0029】
例及び比較例において明記されたローディング(loadings)は、乾燥及びか焼後に完成した触媒に適用する。図の各g/lは、触媒全体の体積に関する。
【0030】
ドリルコアを、こうして製造された触媒から、その触媒活性を試験するために取り出した。これらの試験片は、25.4mmの直径及び76.2mmの長さを有していた。他に記載されない限り、前記試験片は、触媒活性について試験される前に、炉中で窒素中の水蒸気10体積%及び酸素10体積%の雰囲気中で750℃で16時間貯蔵することにより合成エージングにかけた。
【0031】
その後に、前記触媒の活性を、実験室モデルガス系中で試験した。このためには、定常状態における試験及び/又は動的活性試験を実施した。前記試験条件を以下に記載する。
【0032】
定常状態における試験
定常状態における運転条件下での触媒の転化挙動を試験するために、次のパラメーターを設定した:
【表1】

【0033】
前記分析の間に、触媒の下流のモデル排ガスの窒素酸化物濃度を、適した分析法を用いて検出した。個々の試験ランの開始時にプレ触媒排ガス分析で前記コンディショニングの間に確かめた既知の窒素酸化物配量、及び触媒の下流で測定される窒素酸化物含量を、次のように各温度測定点について前記触媒上での窒素酸化物転化を計算するのに使用した:
【数1】

ここで、C入口/出口(NOx)=C入口/出口(NO)+C入口/出口(NO2)。
【0034】
生じる窒素酸化物転化値CNOx[%]を、前記触媒の上流で測定される温度の関数としてプロットして、試験された材料のSCR活性を評価した。
【0035】
動的活性試験
動的活性試験において、次のガス混合物を使用した:
【表2】

【0036】
前記試験を175℃〜500℃の異なる9の温度(500、450、400、350、300、250、225、200及び175℃)で実施した。各温度で、異なる4つのフェーズから構成されるサイクルを通過させ、これらは以下にフェーズA〜Dと呼ぶ:
フェーズA:ガス混合物1;期間:5分
フェーズB:NH3 SCRフェーズ:
ガス混合物2;期間:20ppmVのNH3漏出又は時間による停止まで;
フェーズC:ガス混合物3;500℃への温度ランプによりNH3貯蔵を空にする;
フェーズD:ガス混合物3;次の測定温度に調節する。
【0037】
サイクル内で、触媒温度を最初に、定義されたターゲット温度に調節した。ついで、前記触媒を、ガス混合物1と5分間接触させた(フェーズA)。フェーズBにおいて、前記ガス混合物を、NH3 SCR転化を決定するためにガス混合物2に切り替えた。このフェーズを、20ppmVのNH3漏出の検出の際又はプリセット時間基準によるいずれかで停止した。ついでガス混合物3を設定し、かつ前記触媒を、アンモニア貯蔵を空にするために500℃まで加熱した(フェーズC)。その後に、前記触媒を、試験されるべき次の測定温度に冷却した(フェーズD);次のサイクルは、ターゲット温度が調節された後に、ガス混合物1を設定することによりフェーズAで開始した。
【0038】
動的NOx転化を、フェーズBの間に決定される、触媒の上流及び下流の相応する排ガス成分の濃度から全ての9の測定温度について決定した。このためには、このフェーズにわたる平均NOx転化を、N2O形成を考慮して次のように計算した:
【数2】

【0039】
次の触媒を製造し、かつ試験した:
比較例1
比較成分CC1を、アンモニアSCR反応において未処理の均質なセリウム−ジルコニウム混合酸化物の反応挙動を試験するために製造した。このためには、前記のタイプのセラミックハニカムを、CeO2 86質量%、ZrO2 10質量%及びLa23 4質量%から構成される未処理の均質なセリウム−ジルコニウム混合酸化物200g/lで、常用の浸漬法においてコートし、500℃で2時間の期間にわたってか焼した。
【0040】
新鮮に製造された成分CC1の触媒活性を、定常状態における試験において試験した。図1は、前記試験中に観察されたNOx転化を示す。窒素酸化物及びN2Oが、400℃からの温度で成分全体で還元剤として使用されるアンモニアの過剰酸化から形成されることが明らかにわかる。窒素酸化物転化は残りの温度範囲で観察されない。
【0041】
比較例2
先行技術の触媒、CC2を製造するために、セラミックハニカムを、銅交換ゼオライト類似化合物SAPO−34 160g/lを準備した。このためには、商業的に入手可能なSAPO−34を水中に懸濁させた。硝酸銅(II)溶液を、撹拌しながら前記懸濁液に添加した。添加された硝酸銅溶液の量を、完成した触媒が、交換されたゼオライト類似化合物の全質量を基準として、Cu 3質量%を含有するように計算した。前記懸濁液を一晩にわたって撹拌した。その後に、商業的に入手可能なシリカゾルを結合剤として添加し、かつ前記ゾルの量を、完成した触媒が、付着を促進する機能でSiO2 16g/lを含んでなるように計算した。前記懸濁液を、粉砕し、常用のコーティング法において前記ハニカムを施与した。コートしたハニカムを乾燥させ、かつか焼した。
【0042】
例1
比較例2に概説された手順に従って、本発明による触媒C1を製造し、その触媒活性組成物は、次の組成を有していた:
Cu 3質量%で交換されたSAPO−34 96g/l
CeO2 86質量%、ZrO2 10質量%及びLa23 5質量%から構成される均質なセリウム−ジルコニウム混合酸化物48g/l
La23 4質量%を含有している酸化アルミニウム 16g/l
結合剤としての商業的に入手可能なシリカゾル由来のSiO2 16g/l。
【0043】
アンモニアSCR反応における触媒CC1及びC1の転化挙動を、エージング後に定常状態における試験において及び動的条件下に試験した。図2は、定常状態における試験の結果を示す。350℃を上回り、本発明による触媒C1は、銅交換ゼオライト類似化合物SAPO−34を単に含有する先行技術の触媒CC2上よりも有意な転化利点を示す。意外なことに、均質なセリウム−ジルコニウム混合酸化物の添加は、350℃を上回る温度で、NOx転化の明白な改善だけでなく、N2O形成の僅かな減少ももたらす。このことは、意外である、特にそれというのも、添加されたセリウム−ジルコニウム混合酸化物は、比較例1に示されるように、この温度範囲内でN2O形成に事実上寄与するはずだからである。
【0044】
図3は、動的運転条件下での触媒CC2及びC1の転化挙動を示す。定常状態における試験の結果が確認される。
【0045】
比較例3
先行技術の触媒CC3を、次の組成の触媒活性コーティングで製造した:
Cu 5質量%で交換されたβ−ゼオライト 160g/l
結合剤としての商業的に入手可能なシリカゾル由来のSiO2 16g/l。
【0046】
比較例4
比較例CC4を製造し、その触媒活性コーティングは、完全にCu交換β−ゼオライトからなっていた:
Cu 5質量%で交換されたβ−ゼオライト 160g/l。
【0047】
例2
本発明によるさらなる触媒C2を、次の組成の触媒活性コーティングで製造した:
Cu 5質量%で交換されたβ−ゼオライト 96g/l
CeO2 86質量%、ZrO2 10質量%及びLa23 5質量%から構成される均質なセリウム−ジルコニウム混合酸化物48g/l
La23 4質量%を含有している酸化アルミニウム 16g/l
結合剤としての商業的に入手可能なシリカゾル由来のSiO2 16g/l。
【0048】
触媒CC3及びC2を、合成エージング後に定常状態における試験にかけた。図4は結果を示す。定常状態における条件下での前記セリウム−酸化ジルコニウムとブレンドすることにより達成された窒素酸化物転化の改善は、SAPO−34をベースとする触媒(CC2//C1)へよりも、エージング後に商業的なCu交換β−ゼオライトSCR触媒へのより明らかですらある効果を有する。より詳細には、本発明による触媒C2は、200℃からでさえも、NOx転化挙動の明白な改善を示す。前記効果はここで、故に350℃からの高温範囲に限定されていないが、しかし200℃からの中温範囲内で既に明らかに目に見える。これはまた、動的試験(図5;CC4//C2)においても確認された。
【0049】
比較例5
そのうえ、銅交換Cu−ZSM−5触媒についての均質なセリウム−ジルコニウム混合酸化物とブレンドした影響を試験した。このためには、触媒を次の組成のコーティングで製造した:
Cu 5質量%で交換されたZSM−5−ゼオライト 96g/l
CeO2 86質量%、ZrO2 10質量%及びLa23 5質量%から構成される均質なセリウム−ジルコニウム混合酸化物48g/l
La23 4質量%を含有している酸化アルミニウム 16g/l
結合剤としての商業的に入手可能なシリカゾル由来のSiO2 16g/l。
【0050】
この触媒CC5も、エージング後に定常状態における試験にかけた。しかしながら、前記結果は期待はずれであった。未知の理由のために、均質なセリウム−ジルコニウム混合酸化物をブレンドすることから生じる転化の相乗的な改善はCu−ZSM−5について観察されなかった。図6は、定常状態における試験においてCC5について達成された活性結果をC1及びC2と比較して示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアで又はアンモニアに分解可能な化合物でディーゼルエンジン排ガス中の窒素酸化物を選択接触還元するための、基材と、それに施与された触媒活性コーティングとからなる触媒であって、
・ゼオライト又はゼオライト類似化合物の全質量を基準として、銅1〜10質量%を含有するゼオライト又はゼオライト類似化合物、ここで前記ゼオライト又は前記ゼオライト類似化合物は、チャバザイト、SAPO−34、ALPO−34及びゼオライトβからなる群から選択される;及び
・均質なセリウム−ジルコニウム混合酸化物及び/又は酸化セリウム
を含んでなることを特徴とする、窒素酸化物の選択接触還元用の触媒。
【請求項2】
前記触媒中に存在するコーティングが、前記コーティングの全量を基準として、ゼオライト又はゼオライト類似化合物と、均質なセリウム−ジルコニウム混合酸化物及び/又は酸化セリウムとの物理混合物を70〜100質量%の程度で含んでなる、請求項1記載の触媒。
【請求項3】
ゼオライト又はゼオライト類似化合物及び均質なセリウム−ジルコニウム混合酸化物及び/又は酸化セリウムが、物理混合物中に4:1〜2:1の質量比で存在する、請求項2記載の触媒。
【請求項4】
ゼオライト又はゼオライト類似化合物が4オングストローム未満の平均孔径を有し、かつチャバザイト、SAPO−34及びALPO−34からなる群から選択される、請求項1から3までのいずれか1項記載の触媒。
【請求項5】
触媒活性コーティングがさらに、場合により希土類セスキ酸化物で安定化された、高表面積の酸化アルミニウムを含んでなる、請求項4記載の触媒。
【請求項6】
触媒活性コーティングが、白金族金属、特により詳細には白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム及びルテニウムからなる群から選択される金属を含まない、請求項1記載の触媒。
【請求項7】
アンモニアで又はアンモニアに分解可能な化合物でディーゼルエンジン排ガス中の窒素酸化物を選択接触還元するための、基材と、それに施与された触媒活性コーティングとからなる触媒であって、前記触媒活性コーティングが次の組成:
・ゼオライト又はゼオライト類似化合物の全質量を基準として、銅1〜10質量%を含有するゼオライト又はゼオライト類似化合物50〜60質量%、ここでゼオライト又は前記ゼオライト類似化合物は、チャバザイト、SAPO−34、ALPO−34及びゼオライトβからなる群から選択される;
・均質なセリウム−ジルコニウム混合酸化物及び/又は酸化セリウム25〜30質量%;
・場合により希土類セスキ酸化物で安定化された、高表面積の酸化アルミニウム8〜10質量%;
・残余: シリカゾル、アルミナゾル、シリカ−アルミナゾル及び酸化ジルコニウムゾルから選択される無機結合剤のか焼生成物
を有することを特徴とする、窒素酸化物の選択接触還元用の触媒。
【請求項8】
ゼオライト又はゼオライト類似化合物が4オングストローム未満の平均孔径を有し、かつチャバザイト、SAPO−34及びALPO−34からなる群から選択される、請求項7記載の触媒。
【請求項9】
ディーゼルエンジン排ガス中の窒素酸化物を選択接触還元する方法であって、次の処理段階:
a.アンモニアを又はアンモニアに分解可能な化合物を、前記エンジンの独立した源から、窒素酸化物を含んでなり、かつ浄化されるべき前記排ガスに添加する段階;
b.段階a.において得られた、浄化されるべき排ガスと、アンモニア又はアンモニアに分解可能な化合物との混合物を、基材と、それに施与された触媒活性コーティングとからなり、
・ゼオライト又はゼオライト類似化合物の全質量を基準として、銅1〜10質量%を含有するゼオライト又はゼオライト類似化合物、ここで前記ゼオライト又は前記ゼオライト類似化合物は、チャバザイト、SAPO−34、ALPO−34及びゼオライトβからなる群から選択される;及び
・均質なセリウム−ジルコニウム混合酸化物及び/又は酸化セリウム
を含んでなる触媒上を通過させる段階
を特徴とする、窒素酸化物を選択接触還元する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−121055(P2011−121055A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276833(P2010−276833)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(501399500)ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト (139)
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Rodenbacher Chaussee 4,D−63457 Hanau,Germany
【Fターム(参考)】