説明

デオキシウリジン5’−モノリン酸の製造法

【課題】効率良いdUMPの製造方法を提供することにある。
【解決手段】デオキシシチジン5'-モノリン酸(dCMP)の脱アミノ反応によりdUMPを製造する際に、反応系中で、デオキシシチジン5'-モノリン酸(dCMP)デアミナーゼ活性を有する酵素によるdCMPの脱アミノ反応を、デオキシシチジン5'-トリリン酸(dCTP)の存在下で行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
デオキシシチジン5'-モノリン酸(dCMP)を原料として使用し、デオキシシチジン5'-モノリン酸(dCMP)デアミナーゼ活性を有する酵素の存在下で、デオキシシチジン5'-モノリン酸(dCMP)の脱アミノ反応を行い、デオキシウリジン5'-モノリン酸(dUMP)を効率的に生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デオキシウリジン5'-モノリン酸(dUMP)の製造法としては、ヌクレオシド・デオキシリボシルトランスフェラーゼとデオキシヌクレオシドキナーゼを併用する変換法(特開2005-52033号公報)がある。
【0003】
一方、DNAや、DNAを原料とする核酸及び種々の核酸関連物質等の様々な分野での利用に対応する上で、サケ白子などの種々の材料からの安価なDNAの利用が検討されている。
【特許文献1】特開2005-52033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
先に記載したヌクレオシド・デオキシリボシルトランスフェラーゼとデオキシヌクレオシドキナーゼを併用する変換法では、デオキシヌクレオシドと塩基の2つの主原料が必要である。すなわち、この方法は、デオキシウリジン5'-モノリン酸(dUMP)の製造コストの低減のためになお改善すべき課題を有するものといえる。
【0005】
本発明の他の目的は、デオキシウリジン5'-モノリン酸(dUMP)の製造コストの低減を図ることができるdUMPの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のデオキシウリジン5'-モノリン酸(dUMP)の製造方法は、デオキシシチジン5'-モノリン酸(dCMP)の脱アミノ反応によるデオキシウリジン5'-モノリン酸(dUMP)の製造方法であって、反応系中で、dCMPデアミナーゼ活性を有する酵素及びデオキシシチジン5'-トリリン酸(dCTP)の存在下で、デオキシシチジン5'-モノリン酸(dCMP)の脱アミノ反応を行い、デオキシウリジン5'-モノリン酸(dUMP)を生成させることを特徴とするデオキシウリジン5'-モノリン酸(dUMP)の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、主原料として、サケ白子由来DNAなど安価なDNAを加水分解して得られるデオキシシチジン5'-モノリン酸(dCMP)を用いることができ、デオキシシチジン5'-モノリン酸(dCMP)デアミナーゼ活性による脱アミノ反応で効率よくデオキシウリジン5'-モノリン酸(dUMP)を製造し、デオキシウリジン5'-モノリン酸(dUMP)の製造コストの低減を可能とするデオキシウリジン5'-モノリン酸(dUMP)の製造法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のデオキシウリジン5'-モノリン酸(dUMP)の製造方法は、デオキシシチジン5'-モノリン酸(dCMP)の脱アミノ反応を特異的に行うdCMPデアミナーゼ活性を有する酵素を触媒にして、dCMPの脱アミノ反応を行う際に、反応系にデオキシシチジン5'-トリリン酸(dCTP)を共存させる点に特徴を有する。dCTPはdCMPデアミナーゼを活性化する活性化剤としての作用を有し、dCTPを反応系に共存させることでdUMPの効率よい製造が可能となる。
【0009】
dCMPデアミナーゼ活性を有する酵素としては、本発明の目的効果が得られるものであればよい。コリネバクテリウム(一例として、コリネバクテリウム アンモニアゲネス)、バチルスまたはラクトバチルス属などの微生物にはdCMPデアミナーゼを生産して持っているものがあり、これらの微生物由来の酵素が好適に利用できる。また、dCMPデアミナーゼ活性を有する酵素を反応系に存在させるには、dCMPデアミナーゼを生産する微生物、この微生物を処理して得られるdCMPデアミナーゼ活性を有する処理物などを反応系に共存させる方法を用いることが好ましい。このような処理物としては、dCMPデアミナーゼを生産する微生物の培養液(菌体を含む)の処理物を挙げることができる。このような培養液の処理物としては、例えば、培養液の濃縮物、培養液の乾燥物、培養液を遠心分離して得られる菌体、該菌体の乾燥物、該菌体の界面活性剤処理物、該菌体の超音波処理物、該菌体の機械的摩砕処理物、該菌体の溶媒処理物、該菌体の酵素処理物、該菌体の蛋白質分画物、該菌体の固定化物あるいは該菌体より抽出して得られる酵素標品などをあげることができる。これらの中では、反応系中に製造されたdUMPの反応系からの単離、精製の効率を上げる上で、dCMPデアミナーゼを生産する微生物を反応系に共存させることが好ましい。また、このdCMPデアミナーゼを生産する微生物は、本来dCMPデアミナーゼを生産する微生物であっても、遺伝子組み換えによりdCMPデアミナーゼを生産するように形質転換された微生物であってもよい。
【0010】
dCMPデアミナーゼの活性化剤としてのdCTPの反応系への供給は、反応系にdCTPを添加する方法、反応系内でdCMPとATPを原料として酵素反応で生成させる方法などにより行うことができる。dCMPからのdCTPの生成は、dCTP生成反応酵素として、シチジレートキナーゼとヌクレオシドジホスフェートキナーゼを組み合わせて反応系に共存させることで行うことができる。
【0011】
これらの酵素としても、目的とするdCTP生成反応酵素を生産する微生物またはその培養液(菌体を含む)の処理物を用いることができる。培養液の処理物としては、先にdCMPデアミナーゼ活性を有する酵素について挙げた種々の処理物を例示することができる。これらの中では、目的とするdCTP生成反応酵素を生産する微生物を用いることが好ましい。この微生物としても、本来目的とするdCTP生成反応酵素を生産する微生物や、遺伝子組み換えにより目的とするdCTP生成反応酵素を生産可能なように形質転換された微生物を用いることができる。
【0012】
このような形質転換された微生物としては、反応系でdCMPからデオキシシチジン5'−ジリン酸(dCDP)を介してdCTPを生成させる場合には、シチジレートキナーゼ遺伝子(cmk)を有する微生物とヌクレオシドジホスフェートキナーゼ遺伝子(ndk)を有する微生物の組み合わせを共存させる方法が好適である。更に、cmk遺伝子とndk遺伝子を共存させ組み換えた微生物を反応系に共存させることが好ましい。
【0013】
反応系に目的とする酵素(dCMPデアミナーゼ活性を有する酵素やdCTP生成反応酵素)を生産する微生物を共存させる場合には、これらの微生物は、静止菌体として用いることが好ましい。この静止菌体を得るには、菌体を界面活性剤で処理する方法が好適である。この処理に用い得る界面活性剤としては、ポリオキシエチレン・オクタデシルアミン(例えば、ナイミーンS-215、日本油脂製)などの非イオン界面活性剤、セチルトリメチルアンモニウム・ブロマイドなどのカチオン系界面活性剤、ラウロイル・ザルコシネートなどのアニオン系界面活性剤などいずれでもよく、1種または数種混合して使用することもできる。界面活性剤は通常0.1〜50g/lの濃度で用いられる。有機溶媒としては、キシレン、トルエン、脂肪族アルコール、アセトン、酢酸エチルなどが挙げられ、通常0.1〜50ml/lの濃度で用いられる。
【0014】
また、dCTP生成反応で必要なATPを供給する方法としては、市販のATPを反応液に混合する方法、通常のエネルギー代謝でATP再生系を強化した微生物やポリリン酸キナーゼの作用でATPを再生する微生物を反応液中に共存させる方法(共役系)が利用できる。前者の場合、反応系へのATPの添加量としては、0.1〜10mM程度が好ましい。一方、後者の共役系を利用すると、高価な市販のATPを用いることを回避でき、製造コストの低減を図ることが可能である。また、ATP生産能を有する微生物であるコリネバクテリウム・アンモニアゲネス(藤尾達郎ほか:バイオサイエンスとインダストリー,56,737-742(1998).)は、dCMPデアミナーゼ活性を併せ持つという点で、dUMP生産においては好適に用いることができる微生物である。
【0015】
dCTP生成反応及びdCMPデアミナーゼ反応工程における反応温度は、20℃〜50℃の範囲から選択することができる。
【0016】
原料としてのdCMPとしては、種々のものが利用できるが、サケ白子等の天然物のDNA粗抽出液を微生物由来ヌクレアーゼにより加水分解物して得られるdCMPを好適に用いることができる。反応系へのdCMPの添加量としては、1〜100mM程度が好ましい。
【0017】
反応系の反応媒体は、水あるいは水を含む緩衝液等から形成することができる。
【0018】
反応液からのdUMPの回収は常法により行なうことができる。例えば、反応液から、活性炭処理、イオン交換樹脂、吸着樹脂によるクロマト分離、有機溶媒晶析法、有機溶媒沈殿、活性炭処理などを適宜組み合わせて用いることができる。
【0019】
また、生成したdUMPの定量は、HPLC法(P. L. Brown, Journal of Chromatography, 52, 257 (1970))やキャピラリー電気泳動法(R.Takigiku, R. E. Schneider, Journal of Chromatography, 559, 247 (1991))などを用いて行うことができる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例等により更に詳細に説明する。なお、以下における「%」は特に断らない限り重量基準である。
【0021】
参考例1
(dCMPデアミナーゼ活性を有する菌株とその培養法)
(dCMPデアミナーゼ活性を有する菌株)
コリネバクテリウム・アンモニアゲネスATCC21170を使用した。コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(以下「コリネ菌」と略す)の培養菌体は、以下の方法で作成する。
(コリネ菌の培養菌体の作成)
肉エキス・ブイヨン斜面培地(肉エキス0.3%、ペプトン0.3%;pH6.8)で30℃、1〜2日間培養したものを種菌とする。これをグルコース・ブイヨン培地(ペプトン1.0%、酵母エキス0.2%、グルコース 1.0%、MgSO4・7H2O 0.1%、ビオチン 100μg/L;初発pH7.0(NaOH添加による);500mL容坂口フラスコ使用)3mLに一白金耳接種し、30℃にて24時間振とうしながら一次培養を行う。一次培養液2.5mLを75mLのグルコース・ブイヨン培地(ペプトン 1.0%、酵母エキス 0.2%、肉エキス 1.0%、尿素 0.4%、グルコース 5.0%、MgSO4・7H2O 0.1%、(NH4)2SO4 1.0%、KH2PO4 0.2%、K2HPO4 0.2%、MnSO4・2H2O 1mg/L、FeSO4・7H2O 1mg/L、CaCl2・2H2O 10mg/L、ビオチン 100μg/L;初発pH 7.0 (NaOH溶液による);500mL容バッフル付き三角フラスコを使用)に接種し、30℃で24時間、回転数170rpmで振とう培養し、dCMPデアミナーゼ活性を有するコリネ菌の培養菌体を含む培養液を得る。
【0022】
(dCTP生成系菌株の造成、同菌株の培養法)
(シチジレートキナーゼ遺伝子(cmk)の取得と発現)
エシェリヒア・コリK12株(IFO3301)の染色体DNAを鋳型DNAとして用い、エシェリヒア・コリK12株の既知のcmk塩基配列(GenBank accession No. D90729)に基づいて設計した以下に示す2種類の両端プライマー(ck(F)及びck(R)(シグマジェノシスジャパン(株)で合成))によるPCR法を行い、シチジレートキナーゼ(cmk)遺伝子を含む約0.9kb断片を増幅した。なお、プライマーの5'末端付近には、それぞれEcoRI (ck(F))及びHindIII(ck(R))の制限酵素認識配列を加えて設計した。
【0023】
ck(F):5'−TCGAATTCAGCCCGCTATAATTGCGC−3'(26mer)(配列番号:1)
ck(R):5'−CGAAGCTTATTTAACGTCCACGTGGC−3'(26mer)(配列番号:2)
PCRによるcmk遺伝子の増幅は、反応液50μL(鋳型 DNA 1μg, 50pM プライマーDNA 各1μL, 2.5mM dNTP 4μL, 10×PCR buffer 5μL, TaKaRa Taq TM DNA polymerase 0.5μL(2.5U))を0.2mL容量のPCRチューブに入れ、サーマルサイクラー(TaKaRa PCR Thermal Cycler GP - TP500)にセットし、熱変性(94℃、0.5分)、アニーリング(60℃、0.5分)、伸長反応(72℃、1.0分)からなる反応ステップを30回繰り返し行った。
【0024】
増幅断片をEcoRI及びHindIIIで切断し、同じく制限酵素EcoRI及びHindIII で切断したプラスミドpUC18(タカラバイオ(株))とLigation-Convenience Kit((株)ニッポンジーン)を用いて連結した。得られたプラスミドでエシェリヒア・コリJM109(タカラバイオ(株))を形質転換した。形質転換株をアンピシリン(100μg/mL)、IPTG(0.1mM)およびX-Gal(40μg/mL)を含むLB寒天培地(Tryptone:1.0%, Yeast extract:0.5%, NaCl:1.0%)で培養し、アンピシリン耐性で且つ白色コロニーとなった形質転換株を取得した。このようにして得られた形質転換株よりプラスミドを抽出し、目的のDNA断片が挿入されたプラスミドをpUC-CMKと命名した。pUC-CMKは、pUC18が持つlacプロモーター下流のEcoRIHindIII切断部位にcmk遺伝子を含有する断片が挿入されたものであり、lacプロモーター支配下で発現され、シチジレートキナーゼに翻訳されるものである。また、プラスミドpUC-CMKを保持する形質転換体をエシェリヒア・コリ NCR-1003と命名した。
【0025】
(ヌクレオシドジホスフェートキナーゼ遺伝子(ndk)の取得と発現)
エシェリヒア・コリK12株(IFO3301)の染色体DNAを鋳型DNAとして用い、エシェリヒア・コリK12株の既知のndk塩基配列(GenBank accession No. X57555)に基づいて設計した以下に示す2種類の両端プライマー(ndk(F)及びndk(R)(シグマジェノシスジャパン(株)で合成))によるPCR法を行い、ヌクレオシドジホスフェートキナーゼ(ndk)遺伝
子を含む約0.6kb断片を増幅した。なお、プライマーの5'末端付近には、それぞれXbaI (ndk(F))及びHindIII(ndk(R))の制限酵素認識配列を加えて設計した。
【0026】
ndk(F):5'−CGTCTAGAATCAATAGTCAACGGCCC−3'(26mer)(配列番号:3)
ndk(R):5'−TAAAGCTTAGAAACGCCCCGGTGAGC−3'(26mer)(配列番号:4)
PCRによるndk遺伝子の増幅は、反応液50μL(鋳型 DNA 1μg, 50pM プライマーDNA 各1μL, 2.5mM dNTP 4μL, 10×PCR buffer 5μL, TaKaRa Taq TM DNA polymerase 0.5 μL(2.5U))を0.2mL容量のPCRチューブに入れ、サーマルサイクラー(TaKaRa PCR Thermal Cycler GP - TP500)にセットし、熱変性(94℃、0.5分)、アニーリング(62℃、0.5分)、伸長反応(72℃、1.0分)からなる反応ステップを30回繰り返し行った。増幅断片をXbaI及びHindIIIで切断し、同じく制限酵素XbaI及びHindIII で切断したプラスミドpUC18(タカラバイオ(株))とLigation-Convenience Kit((株)ニッポンジーン)を用いて連結した。得られたプラスミドでエシェリヒア・コリJM109(タカラバイオ(株))を形質転換した。形質転換株をアンピシリン(100μg/mL)、IPTG(0.1mM)およびX-Gal(40μg/mL)を含むLB寒天培地(Tryptone:1.0%, Yeast extract:0.5%, NaCl:1.0%)で培養し、アンピシリン耐性で且つ白色コロニーとなった形質転換株を取得した。
【0027】
このようにして得られた形質転換株よりプラスミドを抽出し、目的のDNA断片が挿入されたプラスミドをpUC-NDKと命名した。pUC-NDKは、pUC18が持つlacプロモーター下流のXbaI−HindIII切断部位にndk遺伝子を含有する断片が挿入されたものであり、lacプロモーター支配下で発現され、ヌクレオシドジホスフェートキナーゼに翻訳されるものである。
また、プラスミドpUC-NDKを保持する形質転換体をエシェリヒア・コリ NCR-1005と命名した。
【0028】
(シチジレートキナーゼとヌクレオシドジホスフェートキナーゼの共発現プラスミドの取得と発現)
エシェリヒア・コリK12株(IFO3301)の染色体DNAを鋳型DNAとして用い、エシェリヒア・コリK12株の既知のcmk塩基配列(GenBank accession No. D90729)に基づいて設計した以下に示す2種類の両端プライマー(ck(F)及びck(R2)(インビトロジェン(株)で合
成))によるPCR法を行い、シチジレートキナーゼ(cmk)遺伝子を含む約0.9kb断片を増幅した。なお、プライマーの5'末端付近には、それぞれEcoRI (ck(F))及びXbaI(ck(R2))の制限酵素認識配列を加えて設計した。
【0029】
ck(F):5'−TCGAATTCAGCCCGCTATAATTGCGC−3'(26mer)(配列番号:1)
ck(R2):5'−GCTCTAGAATTTAACGTCCACGTGGC−3'(26mer)(配列番号:5)
PCRによるcmk遺伝子の増幅は、反応液50μL(鋳型 DNA 1μg, 50pM プライマーDNA 各1μL, 2.5mM dNTP 4μL, 10×PCR buffer 5μL, TaKaRa Taq TM DNA polymerase 0.5 μL(2.5U))を0.2mL容量のPCRチューブに入れ、サーマルサイクラー(TaKaRa PCR Thermal Cycler GP - TP500)にセットし、熱変性(94℃、0.5分)、アニーリング(60℃、0.5分)、伸長反応(72℃、1.0分)からなる反応ステップを30回繰り返し行った。増幅断片をEcoRI及びXbaIで切断し、同じく制限酵素EcoRI及びXbaI で切断したプラスミドpUC18(タカラバイオ(株))とLigation-Convenience Kit((株)ニッポンジーン)を用いて連結した(pUC-CMK2)。一方、既に構築したプラスミドpUC-NDKを制限酵素XbaI及びHindIIIで処理後、精製した遺伝子断片をヌクレオシドジホスフェートキナーゼ遺伝子(ndk)として用い、この断片を同様の制限酵素で処理したプラスミド(pUC-CMK2)と連結した。得られたプラスミドでエシェリヒア・コリJM109(タカラバイオ(株))を形質転換した。形質転換株をアンピシリン(100μg/mL)、IPTG(0.1mM)およびX-Gal(40μg/mL)を含むLB寒天培地(Tryptone:1.0%, Yeast extract:0.5%, NaCl:1.0%)で培養し、アンピシリン耐性で且つ白色コロニーとなった形質転換株を取得した。
【0030】
このようにして得られた形質転換株よりプラスミドを抽出し、目的のDNA断片が挿入されたプラスミドをpUC-CMK-NDKと命名した。pUC-CMK-NDKは、pUC18が持つlacプロモーター下流のEcoRI−HindIII切断部位にcmk遺伝子とndk遺伝子を含有する断片が挿入されたものであり、lacプロモーター支配下で発現され、それぞれシチジレートキナーゼおよびヌクレオシドジホスフェートキナーゼに翻訳されるものである。また、プラスミドpUC-CMK-NDKを保持する形質転換体をエシェリヒア・コリ NCR-1008と命名した。
【0031】
エシェリヒア・コリ NCR-1003、NCR-1005及びNCR-1008の各形質転換体は、独立行政法人製品評価技術基盤機構、特許微生物寄託センター(〒292-0818、千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に寄託されており、寄託番号尾及び寄託日は以下のとおりである。
エシェリヒア・コリ NCR-1003:NITE P-104(寄託日:2005年6月24日)
エシェリヒア・コリ NCR-1005:NITE P-106(寄託日:2005年6月24日)
エシェリヒア・コリ NCR-1008:NITE P-213(寄託日:2006年2月28日)
(組換えエシェリヒア・コリ(NRC-1003, NRC-1005、NRC-1008)の培養菌体の作成)
アンピシリン100μg/mlを含有するLB斜面培地(バクトトリプトン1.0%、酵母エキス0.5%、NaCl 1.0%;pH7.0(NaOH添加による))で37℃、一晩培養したものを種菌とする。これを、同LB培地(アンピシリン含有)3mLに一白金耳接種し、37℃にて24時間振とうしながら一次培養を行う。一次培養液2mLを 200mLの同LB培地(アンピシリン含有、500mL容坂口フラスコを使用)に接種し、37℃で振とう培養(回転数130rpm)する。培養2時間後にIPTGを終濃度0.5mMとなるように添加後、20時間培養し、dCTP生成菌体とする。
【0032】
参考例1
dUMPへの変換反応:
(コリネ菌株による脱アミノ反応へのdCTPの影響)
前述の「コリネ菌の培養菌体を含む培養液」から遠心分離で得られる菌体14g/l、グルコース 5%、KH2PO4 0.1%、ニコチン酸 0.016%、MgSO4・7H2O 0.1%、ナイミーン 0.4%、キシレン 10mL/L、dCMP(5.0mM)、dCTP(0.1mM)及び水(残部)からなる反応液15mLを30mLビーカーに添加し、32℃、初発pH 7.3(KOH溶液により調整)でスターラー攪拌しながら反応させながら、24時間反応させる。反応液の生成物組成は表1に示す。対照区として、dCTP無添加の区を示す。
【0033】
【表1】

【0034】
実施例1
(コリネ菌株+NRC-1003+NRC-1005共存反応)
前述の「コリネ菌の培養菌体を含む培養液」から遠心分離で得られる菌体 17.2g/l、シチジレートキナーゼ高生産エシェリヒア・コリ(NCR-1003) 3g/l、ヌクレオシドジホスフェートキナーゼ高生産エシェリヒア・コリ(NCR-1005) 1g/lに相当する遠心分離菌体、グルコース 5%、KH2PO4 0.1%、ニコチン酸 0.016%、MgSO4・7H2O 0.1%、ナイミーン 0.4%、キシレン 10mL/L、dCMP(14.0mM)及び水(残部)からなる反応液15mLを30mLビーカーに添加し、32℃、初発pH 7.3(KOH溶液により調整)でスターラー攪拌しながら反応させながら、24時間反応させる。反応液の生成物組成は表2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
実施例2
(コリネ菌株+NRC-1008共存反応)
前述の「コリネ菌の培養菌体を含む培養液」から遠心分離で得られる菌体 17.2g/l、シチジレートキナーゼおよびヌクレオシドジホスフェートキナーゼ高生産エシェリヒア・コリ(NCR-1008) 3g/l に相当する遠心分離菌体、グルコース 5%、KH2PO4 0.1%、ニコチン酸 0.016%、MgSO4・7H2O 0.1%、ナイミーン 0.4%、キシレン 10mL/L、dCMP(14.0mM)及び水(残部)からなる反応液15mLを30mLビーカーに添加し、32℃、初発pH 7.3(KOH溶液により調整)でスターラー攪拌しながら反応させながら、24時間反応させる。反応液の生成物組成は表3に示す。
【0037】
【表3】

【0038】
実施例3
(dUMPの精製)
ここで示す実施例は、デオキシリボヌクレオシド一リン酸の公知の方法を利用した精製を示すもので、精製法はこの実施例に限定されるものではない。
【0039】
実施例2で得た最終反応液を90℃、5分間加熱することで反応を停止し、遠心分離及びろ過を行うことで菌体及び不溶物を除去する。この反応液ろ液1,000mlを250mlの陰イオン交換樹脂カラムに通液しdUMPを吸着した。カラムを水洗後、0.002N-HClを通液しdCMP等の不純物を除去した。さらに0.009N-NaClで溶出しdUMP画分を取得する。dUMP画分をHPLCにより分析した結果、純度99%以上(対dCTP+dCDP+dCMP+dUMP)のdUMPが0.86g含まれることを確認した。得られたdUMP画分にはNaClが含まれているが、エタノールを用いた晶析を行うことで、dUMP-2Na塩の結晶を得ることが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デオキシシチジン5'-モノリン酸(dCMP)の脱アミノ反応によるデオキシウリジン5'-モノリン酸(dUMP)の製造方法であって、反応系中で、dCMPデアミナーゼ活性を有する酵素及びデオキシシチジン5'-トリリン酸(dCTP)の存在下で、デオキシシチジン5'-モノリン酸(dCMP)の脱アミノ反応を行い、デオキシウリジン5'-モノリン酸(dUMP)を生成させることを特徴とするデオキシウリジン5'-モノリン酸(dUMP)の製造方法。
【請求項2】
前記dCMPデアミナーゼ活性を有する酵素は、コリネバクテリウム、バチルスまたはラクトバチルス属の微生物に由来するものである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記反応系に、前記dCMPデアミナーゼ活性を有する酵素を持った微生物を共存させて前記脱アミノ反応を行う請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記反応系にdCTP生成反応酵素とATPを共存させて、前記反応系にdCTPを供給する請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記dCTP生成反応酵素が、シチジレートキナーゼとヌクレオシドジホスフェートキナーゼの組み合わせからなり、dCMPからdCTPを得る請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記反応系に、シチジレートキナーゼ遺伝子(cmk)を有する微生物とヌクレオシドジホスフェートキナーゼ(ndk)を有する微生物の組み合わせを共存させて前記dCTP生成反応酵素によるdCTPの供給を行う請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記シチジレートキナーゼとヌクレオシドジホスフェートキナーゼの組み合わせからなるdCTP生成反応酵素を、cmk遺伝子とndk遺伝子を共存させ組み換えた微生物を前記反応系に共存させることで前記反応系に供給する請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記dCMPからdUMPへの変換反応を、前記dCMPデアミナーゼ活性を有する酵素を持った微生物単独、あるいは前記dCMPデアミナーゼ活性を有する酵素を持った微生物と前記dCTP生成系酵素を持った微生物の組合せを、静止菌体の状態で、共存させて行う請求項3〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
dCTP生成反応において用いられるATPが、ATP生産能を持つ微生物によってdCMPのリン酸化工程に供給される請求項4〜8のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−289047(P2007−289047A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−119440(P2006−119440)
【出願日】平成18年4月24日(2006.4.24)
【出願人】(000233620)株式会社ニチロ (34)
【Fターム(参考)】