説明

デキストリンおよびその用途

【課題】本発明は、経済的かつ工業的に有効な製造法による、低DE、低老化性、低粘度、低浸透圧および低オリゴ糖組成の全ての特徴を有するデキストリンの開発を目的とする。
【解決手段】澱粉および/または澱粉加水分解物にグルカン転移酵素および/またはその変異型酵素を作用させる工程によって得られるデキストリンであって、該デキストリンのヨウ素呈色度が該澱粉および/または澱粉加水分解物のヨウ素呈色度の20%以下である、デキストリン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、澱粉および/または澱粉加水分解物にグルカン転移酵素および/またはその変異型酵素を作用させる工程によって得られるデキストリンおよびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的なデキストリンは、酵素(主としてα−アミラーゼ(amylase))による分解法、酸による分解法、酸および酵素(主としてα−アミラーゼ)による分解法によって、澱粉から製造されている。
【0003】
従来の一般的な製造方法で製造した低分解度[分解度:DE(dextrose equivalent)、以後分解度をDEと表する]デキストリンは、非常に老化し易く(高老化性)、冷時溶液状態で白濁沈殿物(「老化物」と称する)が生じ、デキストリン添加製品の品質が著しく低下する。また、一般的な製造方法で製造した低DEデキストリンの分子量分布は非常に広く、高分子を多く含むため、粘度が高くなり、所望の特性が得られない等の欠点があった。
【0004】
さらに、酵素分解デキストリンよりも高分子が少ない酸分解デキストリンにおいては、分解度が中程度(DE10〜18)であっても老化し易く、分解度が中程度以上になると、それまでは低浸透圧および低オリゴ糖組成であったが、浸透圧およびオリゴ糖組成が高くなり、所望の特性が得られない等の欠点を有していた。
【0005】
老化性の欠点を解決するために、デキストリンの分解度を上げると、特に低分子のオリゴ糖が増加し、デキストリン添加製品の色焼けや甘味の増加、浸透圧上昇に伴う緩下性の下痢の発生等の欠点が生じ、デキストリン添加製品の品質が低下し、所望の特性が得られない等の欠点があった。
【0006】
このように、従来のデキストリンは、低DE、高老化性、高粘度、低浸透圧および低オリゴ糖組成の特性を有していた。しかし当該分野では、デキストリン添加製品の品質を高めるため、およびさらなる機能を付与するために、低DE、低老化性、低粘度、低浸透圧および低オリゴ糖組成の全ての特徴を有するデキストリンの開発が望まれていた。
【0007】
さらに、デキストリン製造においては、原料となる澱粉の種類を限定することなく使用できることが経済性の面で望ましいが、低老化性を追求したデキストリンの工業的生産方法をとる場合、原料澱粉を糯種澱粉および/または地下茎澱粉に限定することが必要となり、低価格でかつ前述した5つの特徴を兼ね備えたデキストリンを得ることは困難であった。
【0008】
なお、従来技術では、原料澱粉を糯種澱粉および/または地下茎澱粉に限定しても、前述した5つの特徴全てを満足するデキストリンを製造することは極めて困難である。
【0009】
この問題を解決するために、特許第1815698号(特許文献1)では、高DEのデキストリンを製造した後、これを原料として低分子部分を分画除去する方法での改良型デキストリンの製造が開示されている。しかしながら、この方法では、原料からのデキストリン回収率が実質的に40%以下と低く、工業的生産方法としては十分満足行くものではなかった。
【特許文献1】特許第1815698号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、経済的かつ工業的に有効な製造法による、低DEであっても低老化性、低粘度、低浸透圧および低オリゴ糖組成の全ての特徴を有するデキストリンの開発を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、低DEであっても低老化性、低粘度、低浸透圧および低オリゴ糖組成の全ての特徴を有するデキストリンの開発を目的として、鋭意検討を行った結果、澱粉および/または澱粉加水分解物にグルカン転移酵素および/またはその変異型酵素を作用させる工程によって、ヨウ素呈色度を原料である澱粉および/または澱粉加水分解物のヨウ素呈色度の20%以下にすることができ、所望のデキストリンが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
従って、本発明は以下を提供する。
【0013】
澱粉および/または澱粉加水分解物にグルカン転移酵素および/またはその変異型酵素を作用させる工程によって得られるデキストリンであって、該デキストリンのヨウ素呈色度が該澱粉および/または澱粉加水分解物のヨウ素呈色度の20%以下である、デキストリン。
【0014】
ヨウ素呈色度が前記澱粉および/または澱粉加水分解物のヨウ素呈色度の1〜15%である上記デキストリン。
【0015】
粘度が前記澱粉および/または澱粉加水分解物の粘度以下である上記デキストリン。
【0016】
分解度が前記澱粉および/または澱粉加水分解物の分解度以下である上記デキストリン。
【0017】
浸透圧が前記澱粉および/または澱粉加水分解物の浸透圧以下である上記デキストリン。
【0018】
オリゴ糖組成が前記澱粉および/または澱粉加水分解物のオリゴ糖組成と同一である上記デキストリン。
【0019】
グルカン転移酵素がRhodothermus obamensis由来の酵素である上記デキストリン。
【0020】
澱粉および/または澱粉加水分解物にグルカン転移酵素および/またはその変異型酵素を作用させる工程によって得られるデキストリンを含む飲食物であって、該デキストリンのヨウ素呈色度が該澱粉および/または澱粉加水分解物のヨウ素呈色度の20%以下である、飲食物。
【0021】
澱粉および/または澱粉加水分解物にグルカン転移酵素および/またはその変異型酵素を作用させる工程によって得られるデキストリンを含む高エネルギー付与剤であって、該デキストリンのヨウ素呈色度が該澱粉および/または澱粉加水分解物のヨウ素呈色度の20%以下である、高エネルギー付与剤。
【発明の効果】
【0022】
本発明によって、低DEであっても、低老化性、低粘度、低浸透圧および低オリゴ糖組成の全ての特徴を有するデキストリンを提供することができる。
【0023】
さらに、本発明のデキストリンは、飲食物(例えば、一般食品、一般飲料、レトルト食品、冷凍食品、健康食品、医療食、介護食、流動食、嚥下食、ベビーフード、離乳食、幼児食、スポーツ飲料、清涼飲料水、炭酸飲料、果実飲料、乳飲料、コーヒー、コーヒー飲料、コーヒー入り清涼飲料、紅茶飲料、ウーロン茶飲料、緑茶飲料、麦茶飲料、混合茶(ブレンド茶)、アルコール飲料、ノンアルコール飲料、野菜ジュースなど)などに添加することによって、飲食物にさらなる機能を付与することができる。さらに、デキストリンの高濃度添加、すなわち、高エネルギー付与またはとろみ(粘性)付与が可能となる。また、本発明のデキストリンは、高エネルギー付与剤、とろみ(粘性)付与剤、保湿剤、矯味剤、老化抑制剤などとして有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明は、澱粉および/または澱粉加水分解物にグルカン転移酵素および/またはその変異型酵素を作用させる工程によって得られる、原料である澱粉および/または澱粉加水分解物のヨウ素呈色度の20%以下のヨウ素呈色度を有するデキストリンならびにその用途に関する。
【0025】
まず、澱粉および/または澱粉加水分解物にグルカン転移酵素および/またはその変異型酵素を作用させる工程について説明する。
【0026】
澱粉および/または澱粉加水分解物としては、特に限定はなく、例えば、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、小麦澱粉、米澱粉、タピオカ澱粉等の一般的な澱粉、ならびに酸、α−アミラーゼなどによる上記澱粉の液化液を含む澱粉加水分解物、その混合物などが挙げられる。
【0027】
グルカン転移酵素および/またはその変異型酵素としては、Rhodothermus obamensis由来のグルカン転移酵素、WO00/58445号に記載の枝付け酵素、具体的にはノボザイム社製SP1029−Dが特に好ましい。グルカン転移酵素および/またはその変異型酵素は、α−1,4−グリコシド結合をα−1,6−グリコシド結合に変換し、分子量1000000程度の高分子基質から分子量1600程度の低分子基質までのいずれの澱粉および/または澱粉加水分解物にも作用することができる枝付け酵素である。尚、酵素添加量は、好ましくは1000U/g-DSであるが特に限定されない。例えば、短時間で反応を終了させる場合には酵素添加量を上記酵素添加量より増せばよい。酵素にかかるコストを下げる場合には、酵素添加量を減じ、反応時間を延長すればよく、製造設備に合致した条件を採用すれば良いので、添加量には特に制限はない。
【0028】
また、酵素反応温度も、該酵素の最適温度(通常、50℃〜70℃)に合わせれば良く、失活が生じない範囲に設定すればよく、特に制限はない。
【0029】
上記工程により得られたデキストリンは、通常の方法に従って処理・精製(例えば、ろ過、イオン精製、乾燥等)することができる。
【0030】
グルカン転移酵素および/またはその変異型酵素による反応を調整することで、得られる本発明のデキストリンは、原料である澱粉および/または澱粉加水分解物のヨウ素呈色度の20%以下のヨウ素呈色度を有する。
【0031】
ヨウ素呈色度は、以下の方法に従って測定することができる。
ヨウ素呈色度の測定方法
10mlの標線付試験管にデキストリンを無水物換算で0.5g精秤し、純水を添加し、10mlにメスアップする。これに0.1NI溶液0.05mlを加え、十分に攪拌する。15分後、10mmの石英セルを用いて、分光光度計で660nmでの吸光度を測定し、このときの吸光度をヨウ素呈色度とする。
【0032】
上記工程によって得られる本発明のデキストリンは、原料である澱粉および/または澱粉加水分解物のヨウ素呈色度の20%以下のヨウ素呈色度を有するが、本発明のデキストリンは、驚くべきことに、低分解度(低DE)でありながら、低老化性、低粘度、低浸透圧および低オリゴ糖組成を有する。なお、デキストリンのヨウ素呈色度が原料のヨウ素呈色度の20%を超過する場合、老化性が極めて強くなる。また、得られるデキストリンのヨウ素呈色度の減少率は大きければ大きいほど効果は高いが、産業上の費用対効果を考慮した場合、原料の1〜15%の範囲のヨウ素呈色度が好ましい。
【0033】
以下、分解度、老化性、粘度、浸透圧、オリゴ糖組成について詳細に説明する。
【0034】
分解度[DE(dextrose equivalent)]
デキストリンの分解度(DE)は、ソモギ変法(「澱粉糖関連工業分析法」のp11〜p12記載)によって測定することができる。
【0035】
本発明のデキストリンは、原料である澱粉および/または澱粉加水分解物と比較して、同等もしくはそれよりも低い分解度を有するので、澱粉添加製品の規格値を変更することなく、従来の使用していた澱粉および/または澱粉加水分解物の代替材料として自由に使用可能となる利点が得られる。
【0036】
老化性
デキストリンの老化性は、以下の方法に従って評価することができる。
老化性評価方法
固形分濃度25%のデキストリン水溶液を調製し、4℃で保存する。保存した溶液を10mmの石英セルを用い、分光光度計(UV−1600 UV−Visible Spectrophotometer:島津製作所社製)で波長720nmの光の透過度を老化性の指標(透過度の低下は老化の進行を示す)として測定し、完全老化に要する時間または日数で評価する。
透過度(%)=透過光の強度/入射光の強度×100
完全老化:透過度5%未満
老化なし:透過度95%以上
【0037】
本発明のデキストリンは、改善された老化性、すなわち低老化性を有するので、デキストリン添加製品の品質劣化を抑制でき、長期品質の安定性に寄与するなどの利点が得られる。
【0038】
粘度
デキストリンの粘度は、以下の方法に従って測定することができる。
粘度測定方法
固形分濃度30%のデキストリン水溶液を調製し、温度30℃、12rpmでB型粘度計(Viscometer Model B:TOKIMEC INC.社製)を用いて粘度(mPa・s)を測定する。
【0039】
本発明のデキストリンは、原料である澱粉および/または澱粉加水分解物と比較して、同等もしくはそれよりも低い粘度を有するので、デキストリン添加製品の粘度変化が小さく、更に高濃度でのデキストリン添加が可能になるなどの利点が得られる。
【0040】
浸透圧
デキストリンの浸透圧は、以下の方法に従って測定することができる。
浸透圧測定方法
固形分濃度10%のデキストリン水溶液を調製し、自動浸透圧測定装置(例えば、オズモスタットOM−6040:(株)京都第一科学製)を用いて浸透圧(mOsm)を測定する。
【0041】
本発明のデキストリンは、原料である澱粉および/または澱粉加水分解物と比較して、同等もしくはそれよりも低い浸透圧を有するので、従来の澱粉および/または澱粉加水分解物よりも高濃度で使用しても、浸透圧を等しいか、低く抑えることが可能となり、緩下性の下痢等を起さないデキストリン添加製品の製造が可能となる利点が得られる。
【0042】
オリゴ糖組成
デキストリンのオリゴ糖組成は以下の方法に従って測定することができる。
オリゴ糖組成測定方法
固形分濃度1%のデキストリン水溶液を調製し、カラムとして例えばMCI CK04S(三菱化学社製)を用いた通常の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の通常分析法にて、オリゴ糖組成を測定する。
【0043】
本発明のオリゴ糖は、原料である澱粉および/または澱粉加水分解物のオリゴ糖組成と同一である。
【0044】
本明細書において、「オリゴ糖組成が同一である」とは、上記のオリゴ糖組成分析において、各成分の差が1.0%以内であることを意味する。
【0045】
本発明のデキストリンのオリゴ糖組成は、原料の澱粉および/または澱粉加水分解物のオリゴ糖組成と同一のオリゴ糖組成を有するので、デキストリン添加製品の色焼けや甘味の増加を防ぐことができ、従来使用していた澱粉および/または澱粉加水分解物の代替としても、本発明のデキストリンを自由に使用できるなどの利点が得られる。
【0046】
上述の通り、澱粉および/または澱粉加水分解物にグルカン転移酵素および/またはその変異型酵素を作用させ、原料である澱粉および/または澱粉加水分解物のヨウ素呈色度の20%以下のヨウ素呈色度を有する本発明のデキストリンは、低DEだけでなく、低老化性、低粘度、低浸透圧および低オリゴ糖組成の特性を有する。本発明のデキストリンがこれら5つの特徴(低DE、低老化性、低粘度、低浸透圧および低オリゴ糖組成)を有することによって、従来使用されている澱粉および/または澱粉加水分解物の代替として使用しても、デキストリン添加製品の規格や風味を変えることなく、安定性などの機能を付与することが可能となる。また、本発明のデキストリンを高濃度で添加しても緩下性の下痢などを起さないなどの効果が得られる。
【0047】
また、本発明のデキストリンは様々な飲食物の用途に適用することができる。
【0048】
本発明のデキストリンは飲食物に添加することができ、飲食物として特に限定はなく、例えば、一般食品、一般飲料、レトルト食品、冷凍食品、健康食品、医療食、介護食、流動食、嚥下食、ベビーフード、離乳食、幼児食、スポーツ飲料、清涼飲料水、炭酸飲料、果実飲料、乳飲料、コーヒー、コーヒー飲料、コーヒー入り清涼飲料、紅茶飲料、ウーロン茶飲料、緑茶飲料、麦茶飲料、混合茶(ブレンド茶)、アルコール飲料、ノンアルコール飲料、野菜ジュースなどが挙げられる。
【0049】
また、本発明のデキストリンは、高エネルギー付与剤、とろみ(粘性)付与剤、保湿剤、矯味剤、老化抑制剤などとしても有用である。
【実施例】
【0050】
以下の実施例において本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
比較例1:ワキシーコーンスターチ加水分解物
ワキシーコーンスターチの乳液(濃度10〜30%)にα−アミラーゼを添加後、95〜140℃で0.5〜1.0時間処理し、ワキシーコーンスターチ加水分解物を85%の収率で得た(DE=0.6)。
【0052】
比較例2:ワキシーコーンスターチ加水分解物
比較例1に準じてDE=2.7のワキシーコーンスターチ加水分解物を94%の収率で得た。
【0053】
比較例3:甘藷澱粉加水分解物
比較例1に準じて甘藷澱粉からDE=7.0の甘藷澱粉加水分解物を94%の収率で得た。
【0054】
比較例4:コーンスターチ加水分解物
コーンスターチの乳液(濃度10〜30%)にシュウ酸を添加して、pHを2.0に調整後、95〜140℃で0.5〜1.0時間処理し、DE=17.2のコーンスターチ加水分解物を94%の収率で得た。
【0055】
実施例1:デキストリンの調製
比較例1のワキシーコーンスターチ加水分解物(DE=0.6)を60℃に冷却し、pH6.5に調整した後、ノボザイム社製SP1029−D(Rhodothermus obamensis由来)を1000U/g-DS添加し、60℃で24時間酵素反応を行った。得られたデキストリンをろ過、イオン精製、乾燥し、粉末デキストリンを92%の収率で得た(DE=0.6)。このような低DEのデキストリンの場合(比較例1と実施例1)、低粘性と老化改善により収率が向上する。
【0056】
実施例2:デキストリンの調製
比較例2のワキシーコーンスターチ加水分解物(DE=2.7)をpH6.5に調整した後、ノボザイム社製SP1029−D(Rhodothermus obamensis由来)を1000U/g-DS添加し、60℃で24時間酵素反応を行った。得られたデキストリンをろ過、イオン精製、乾燥し、粉末デキストリンを94%の収率で得た(DE=2.7)。
【0057】
実施例3:デキストリンの調製
比較例3の甘藷澱粉加水分解物(DE=7.0)をpH6.5に調整した後、ノボザイム社製SP1029−D(Rhodothermus obamensis由来)を1000U/g-DS添加し、60℃で24時間酵素反応を行った。得られたデキストリンをろ過、イオン精製、乾燥し、粉末デキストリンを94%の収率で得た(DE=7.0)。
【0058】
実施例4:デキストリンの調製
比較例4のコーンスターチ加水分解物(DE=17.2)をpH6.0に調整した後、ノボザイム社製SP1029−D(Rhodothermus obamensis由来)を1000U/g-DS添加し、60℃で24時間酵素反応を行った。得られたデキストリンをろ過、イオン精製、乾燥し、粉末デキストリンを94%の収率で得た(DE=16.5)。
【0059】
比較例1〜4の加水分解物、実施例1〜4のデキストリンの物性(ヨウ素呈色度、DE、浸透圧、粘度および老化性)を以下の表1に示す。
【0060】
尚、Rhodothermus obamensis由来の酵素を作用させて得られる本発明のデキストリンは、いずれの条件においても、特許第1815698号(特許文献1)により示された収率よりもきわめて高い収率で得ることが可能となり、経済的に極めて有利である。
【0061】
【表1】

【0062】
(*1)希釈して測定した後、その希釈倍率を測定値に乗じた
(*2)老化白濁沈殿物のため測定不能
(*3)測定条件:Brix 14.0、温度60℃、30rpm
【0063】
表1から、原料である澱粉および/または澱粉加水分解物にRhodothermus obamensis由来の酵素を作用させることにより、ヨウ素呈色度を原料の20%以下としたデキストリンを得ることができる。
【0064】
実施例のデキストリンは、ヨウ素呈色度が低く、色調が淡黄色である為、飲食物等に添加しても「澱粉の添加」と誤認されることなく、自由に飲食物などに添加することが可能となった。
【0065】
Rhodothermus obamensis由来の酵素を作用させて得られるデキストリンのヨウ素呈色度を原料の20%以下とすることによって、本発明デキストリンは60日間老化白濁せず、安定した溶液状態を保つことができた(表1参照)。
【0066】
この極めて高い耐老化性によって、デキストリン添加量を変更することなく、すなわち規格変更なく、デキストリン添加製品を製造することが可能となった。さらに、デキストリン添加製品の長期低温保存が可能となった。
【0067】
Rhodothermus obamensis由来の酵素を作用させて得られるデキストリンのヨウ素呈色度を原料の20%以下とすることによって、原料以下のDEを達成することができた(表1参照)。
【0068】
これによりデキストリン添加量を変更することなく、すなわち規格変更なく、デキストリン添加製品を製造することが可能となった。
【0069】
Rhodothermus obamensis由来の酵素を作用させて得られるデキストリンのヨウ素呈色度を原料の20%以下とすることによって、原料以下の粘度を達成することができた(表1参照)。
【0070】
これにより本発明のデキストリンを飲食物などに添加しても粘度上昇がないため、デキストリン添加量を変更することなく(すなわち規格変更なく)、あるいは添加量を増加させても粘度の変わらない飲食物を提供することが可能となった。
【0071】
Rhodothermus obamensis由来の酵素を作用させて得られるデキストリンのヨウ素呈色度を原料の20%以下にすることによって、原料以下の浸透圧を達成することができた(表1参照)。
【0072】
これによりデキストリン添加量を変更することなく、すなわち規格変更なく、あるいは添加量を増加させても、浸透圧上昇に伴う緩下性の下痢の発生等の欠点を生じることがないデキストリン添加製品を提供することが可能となった。
【0073】
比較例の加水分解物および実施例のデキストリンのオリゴ糖組成を以下の表2に示す。
【表2】

【0074】
Fru: フルクトース
G1: グルコース
G2: マルトース
G3: マルトトリオース
G4: マルトテトラオース
G5: マルトペンタオース
DX: デキストリン
(*4)測定不能(老化白濁沈殿物)
【0075】
オリゴ糖組成分析の結果、Rhodothermus obamensis由来の酵素を作用させて得られるデキストリンのヨウ素呈色度を原料の20%以下にしても、オリゴ糖組成を同一にすることが可能となった。
【0076】
これにより、デキストリン添加量を変更することなく、すなわち規格変更なく、加熱しても色焼けが増加したり、甘味が増加する等の欠点がないデキストリン添加製品を提供することが可能となった。
【0077】
低DE、低老化性、低粘度、低浸透圧および低オリゴ糖組成を有する本発明デキストリンは、飲食物、特に、健康食品、医療食、介護食、流動食、嚥下食、ベビーフード、離乳食、幼児食、スポーツ飲料等の分野に利用することが可能となった。
【0078】
分子量分布および多分散度
溶離液として0.2%NaCl水溶液を用いて比較例の加水分解物および実施例のデキストリンの分析試料溶液を調製し、HPLCによるゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって分子量分布および多分散度を求めた。
【0079】
尚、使用するカラムは通常市販されているHPLC用Na型強酸性カチオン交換樹脂を充填したカラムを用いればよく、測定は通常の方法を用いればよく、特に限定されるものではない。
【0080】
多分散度は分子量分布の広がりを示す指標であり、多分散度の数値が小さければ小さい程、分子量分布が狭いことを示す。分子量をLogMで示し、分布を図1〜3に示す。多分散度はMw/Mnの値を示す。
【0081】
本発明のデキストリンは、原料と比較して、分子量分布が非常にシャープであった。
【0082】
図1に示すように、実施例1のデキストリン(DE=0.6)の場合、多分散度は1.9であり、分子量分布が非常にシャープであった。
【0083】
尚、比較例1のワキシーコーンスターチ加水分解物(DE=0.6)は、即時に老化白濁沈殿物が生じるため、分子量分布および多分散度は測定不能であった。
【0084】
図2に示すように、比較例2のワキシーコーンスターチ加水分解物(点線)の多分散度は13.5、実施例2のデキストリン(実線)の多分散度は4.3となり、分子量分布が非常にシャープになった。
【0085】
図3に示すように、比較例3の甘藷澱粉加水分解物(点線)の多分散度は10.0、実施例3のデキストリン(実線)の多分散度は6.1となり、分子量分布が非常にシャープになった。
【0086】
図1〜3は、原料グルカン分子の外鎖部分が転移反応により同分子に転移し、より分岐鎖が密な分子へと変化していることを示している。分岐鎖が密になった分子は、直鎖の分子と比較して分子サイズがコンパクトになる為、分子量分布が非常にシャープになり、更に分子間相互作用が減少し、低粘度となると推察される。
【0087】
また、分岐鎖が多くなると、分岐鎖間に水分子が保持され易くなり、分岐鎖分子同士の水素結合力が弱まることから、老化性が極めて低くなる。
【0088】
なお、酵素により外鎖グルカン分子部分は一時切断されるが、すぐに酵素の転移反応により新たな分岐鎖として分子内に結合される為、還元末端の数は変化せず、DEは維持される。このように転移反応により低分子も増加しないことから、浸透圧にも変化がなく、低DE、低老化性、低粘度、低浸透圧の特性が付与される。
【0089】
実施例5:保湿剤
本発明のデキストリン(実施例1〜4)25wt%水溶液11.4gを市販の餡(小豆あん)57.1gに添加した。比較例として、本発明のデキストリン水溶液の代わりに水11.4gを市販の餡(小豆あん)57.1gに添加し、ゴムベラで全体を練り、均一にした。餡をゼリーカップに分注(約20g)し、採取した餡の重量およびカップ重量を含む全体重量を測定した。恒温恒湿室でカップの蓋を空けて静置(温度23℃、湿度54%)し、保存一週間後に重量を測定し、水分蒸発量を算出した。
【0090】
結果を以下の表3に示す。本発明のデキストリンは、比較例よりも水分蒸発を抑制し、保湿性を向上することが可能であり、保湿剤として有用であることが明らかとなった。
【0091】
従って、本発明のデキストリンを飲食物などに適用した場合、
低DEおよび低オリゴ糖組成であるため、甘味の上昇がない、
低粘度であるため、デキストリン添加製品の物性、特に、粘度に変化がないため、食感が変化しない、
低老化性であるため、飲食物などの物性、特に、澱粉質の老化による硬化およびパサツキが抑制され、保存性が向上する、
保湿性が高い為、パサツキが抑制され、保存性が向上する
などの利点を有する。
【0092】
【表3】

【0093】
実施例6:矯味剤
(1)茶葉10.0gを98℃のお湯500m1中に20分間煮出し、お茶を調製した。
(2)上記(1)のお茶50mlに本発明のデキストリン(実施例1〜4)を1.5g添加し、苦味に関する官能試験を行った。比較例として、本発明のデキストリンを添加していない(無添加)のお茶50mlを調製した。
【0094】
【表4】

【0095】
結果、本発明のデキストリンは、比較例(無添加)よりも、お茶の苦味を低減でき、なおかつ、良好な風味を維持することが可能であり、矯味剤として有用であることが明らかとなった。
【0096】
従って、本発明のデキストリンを飲食物などに適用した場合、
低DEおよび低オリゴ糖組成であるため、甘味の上昇がなく、飲食物の品質を変化させることがない、
低粘度であるため、デキストリン添加製品の物性、特に、粘度を変化させることがない、
低浸透圧であるため、浸透圧上昇に伴う緩下性の下痢の発生等の欠点を生じない、
低老化性であるため、デキストリン添加製品の冷時保存中に白濁沈殿物を生じることがない、
苦味を低減でき、なおかつ、良好な風味を維持することが可能
などの利点を有する。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、低DEであっても、低老化性、低粘度、低浸透圧および低オリゴ糖組成の全ての特徴を有するデキストリンを提供することができる。
【0098】
本発明のデキストリンは、澱粉および/または澱粉加水分解物にグルカン転移酵素および/またはその変異型酵素を作用させる工程によって得られるので、簡便かつ収率が高い為、産業上非常に経済的である。
【0099】
このように、本発明のデキストリンは、飲食物、例えば、一般食品、一般飲料、レトルト食品、冷凍食品、健康食品、医療食、介護食、流動食、嚥下食、ベビーフード、離乳食、幼児食、スポーツ飲料、清涼飲料水、炭酸飲料、果実飲料、乳飲料、コーヒー、コーヒー飲料、コーヒー入り清涼飲料、紅茶飲料、ウーロン茶飲料、緑茶飲料、麦茶飲料、混合茶(ブレンド茶)、アルコール飲料、ノンアルコール飲料、野菜ジュースなどへの添加が可能となった。
【0100】
さらに、本発明デキストリンを添加した製品の冷時長時間保存および流通が可能となった。
【0101】
また、本発明のデキストリンは、高エネルギー付与剤、とろみ(粘性)付与剤、保湿剤、矯味剤、老化抑制剤などとしても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】実施例1のデキストリンの分子量分布を示す。
【図2】実施例2のデキストリン(実線)および比較例2のワキシーコーンスターチ加水分解物(点線)の分子量分布を示す。
【図3】実施例3のデキストリン(実線)および比較例3の甘藷澱粉加水分解物(点線)の分子量分布を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉および/または澱粉加水分解物にグルカン転移酵素および/またはその変異型酵素を作用させる工程によって得られるデキストリンであって、該デキストリンのヨウ素呈色度が該澱粉および/または澱粉加水分解物のヨウ素呈色度の20%以下である、デキストリン。
【請求項2】
ヨウ素呈色度が前記澱粉および/または澱粉加水分解物のヨウ素呈色度の1〜15%である、請求項1記載のデキストリン。
【請求項3】
粘度が前記澱粉および/または澱粉加水分解物の粘度以下である、請求項1または2に記載のデキストリン。
【請求項4】
分解度が前記澱粉および/または澱粉加水分解物の分解度以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のデキストリン。
【請求項5】
浸透圧が前記澱粉および/または澱粉加水分解物の浸透圧以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のデキストリン。
【請求項6】
オリゴ糖組成が前記澱粉および/または澱粉加水分解物のオリゴ糖組成と同一である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のデキストリン。
【請求項7】
グルカン転移酵素がRhodothermus obamensis由来の酵素である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のデキストリン。
【請求項8】
澱粉および/または澱粉加水分解物にグルカン転移酵素および/またはその変異型酵素を作用させる工程によって得られるデキストリンを含む飲食物であって、該デキストリンのヨウ素呈色度が該澱粉および/または澱粉加水分解物のヨウ素呈色度の20%以下である、飲食物。
【請求項9】
澱粉および/または澱粉加水分解物にグルカン転移酵素および/またはその変異型酵素を作用させる工程によって得られるデキストリンを含む高エネルギー付与剤であって、該デキストリンのヨウ素呈色度が該澱粉および/または澱粉加水分解物のヨウ素呈色度の20%以下である、高エネルギー付与剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−222822(P2008−222822A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61774(P2007−61774)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(591173213)三和澱粉工業株式会社 (33)
【Fターム(参考)】