説明

デコイを含む薬学的組成物およびその使用方法

NF−κBまたはetsに制御される遺伝子の発現に起因する疾患を治療および予防するための薬学的組成物であって、少なくとも1つのデコイ、および薬学的に受容可能なキャリアを含む組成物。上記少なくとも1つのデコイは、NF−κBのデコイ、etsのデコイ、またはNF−κBのデコイおよびetsのキメラデコイである。上記疾患は、脳動脈瘤、癌、マルファン症候群、大動脈解離、血管形成術後再狭窄、慢性関節リウマチ、喘息、アトピー性皮膚炎、腎炎、腎不全またはプラークラプチャーである。上記薬学的に受容可能なキャリアは、親水性ポリマーであり得る。

【発明の詳細な説明】
技術分野
本発明は、染色体上に存在する、転写調節因子が結合する部位と特異的に結合する化合物(例えば、核酸およびその類似体)を含む組成物およびその使用方法に関する。より詳細には、本発明は、デコイ化合物を含む組成物およびその使用方法に関する。
背景技術
喘息、癌、心臓病、動脈瘤、自己免疫疾患およびウイルス感染症などの種々の疾患は、それぞれ異なる症状を示すにもかかわらず、その大部分は、1種類または数種類のタンパク質が、異常発現(過剰発現または過少発現)したことに起因することが示唆されている。一般に、これらタンパク質の発現は、種々の転写活性因子および転写抑制遺伝子などの転写調節因子によって制御されている。
NF−κBは、p65とp50のヘテロダイマーからなる転写調節因子である。NF−κBは、通常、その阻害因子IκBが結合した形で細胞質内に存在し、その核内移行が阻止されている。ところが、何らかの原因で、サイトカイン、虚血、再灌流などの刺激が加わると、IκBがリン酸化を受けて分解され、それによってNF−κBが活性化されて核内に移行する。核内に移行したNF−κBは、染色体上のNF−κB結合部位に結合し、その下流にある遺伝子の転写を促進する。NF−κB結合部位の下流にある遺伝子として、例えば、IL−1、IL−6、IL−8、腫瘍壊死因子α(TNFα)などの炎症性サイトカイン類、VCAM−1、ICAM−1などの接着因子が知られている。
NF−κBは、腫瘍悪性度の進行の開始に関与し得る(Rayet Bら、Oncogene 1999 Nov 22;18(49)6938−47);NF−κBは、低酸素症ストレスに対する腫瘍細胞の応答に関与する(Royds JAら、Mol Pathol 1998 Apr;51(2):55−61);NF−κBデコイは、慢性関節リウマチ患者由来の滑膜細胞におけるサイトカインおよび接着分子の発現を阻害する(Tomita Tら、Rheumatology(Oxford)2000 Jul;39(7):749−57);NF−κBを含む複数の転写因子間の協力作用の抑制は、種々の癌の悪性表現型を変える(Denhardt DT、Crit Rev Oncog 1996;7(3−4):261−91);緑茶ポリフェノールによるNF−κB活性のダウンレギュレーションは、一酸化窒素合成酵素の誘導をブロックし、A431ヒト類表皮癌細胞を抑制する(Lin JKら、Biochem Pharmacol 1999 Sep 15;58(6):911−5);アルツハイマー病患者の脳で見られるアミロイドβペプチドは、神経芽腫細胞において、75kD神経栄養因子レセプター(p75NTR)に結合することにより、NF−κBを時間依存性様式および用量依存性様式で活性化する(Kuper Pら、J Neurosci Res 1998 Dec 15;54(6):798−804);NF−κBで活性化されるTNFαは、糸球体腎炎の発症に重要な役割を演じる(Ardaillouら、Bull Acad Natl Med 1995 Jan;179(1)103−15)。NF κBデコイは、TNFαで誘導されるマウス腎炎においてサイトカインおよび接着分子の発現をインビボで阻害する(Tomlta Nら、Gene Ther 2000 Aug;7(15)1326−32);など。
NF−κBは、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)のメンバーであるMMP1およびMMP9を転写レベルで抑制することが示唆された(Amplification of IL−1beta−induced matrix metalloproteinase−9 expression by superoxide in rat glomerular mesangial cells is mediated by increased activities of NF−kappaB and activating protein−1 and involves activation of the mitogen−activated protein kinase pathways.Eberhardt W,Huwiler A,Beck KF,Walpen S,Pfeilschifter J.J Immunol 2000 Nov 15、165(10)、5788−97;Nuclear factor kappaB activity is essential for matrix metalloproteinase−1 and −3 upregulation in rabbit dermal fibroblasts.Biochem Biophys Res Commun.Bond M,Baker AH,Newby AC.1999 Oct 22、264(2)、561−7;Synergistic upregulation of metalloproteinase−9 by growth factors and inflammatory cytokines:an absolute requirement for transcription factor NF−kappa B.Bond M,Fabunmi RP,Baker AH,Newby AC.FEBS Lett 1998 Sep 11、435(1)、29−34;およびLipopolysaccharide activates matrix metalloproteinase−2 in endothelial cells through an NF−kappaB−dependent pathway.Kim H,Koh G.Biochem Biophys Res Commun.2000 Mar 16、269(2)、401−5)。
MMPは、細胞外マトリックス成分の分解に関与する亜鉛依存性酵素の多遺伝子ファミリーである。またetsも、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)のメンバーであるMMP1およびMMP9を転写レベルで抑制することが知られている(Signal transduction and transcriptional regulation of angiogenesis.Sato Y,Abe M,Tanaka K,Iwasaka C,Oda N,Kanno S,Oikawa M,Nakano T,Igarashi T.Adv Exp Med Biol 2000、476、109−15;およびETS−1 converts endothelial cells to the angiogenic phenotype by inducing the expression of matrix metalloproteinases and integrin beta3.Oda N,Abe M,Sato Y.J Cell Physiol 1999 Feb、178(2)、121−32)。
MMPは、細胞外マトリックスタンパク質の分解を仲介することにより癌細胞侵入において重要な役割を果たす。多くの癌研究によって、MMPのインヒビター(TIMPなど)が、癌の進行を抑制することが示唆されている:血清中のTIMP1レベルは、結腸直腸の予後および診断マーカーとなり、そして転移性癌の選択的マーカーとして用い得る(Pellegrinl Pら、Cancer Immunol Immunother 2000 Sep;49(7):388−94);ヒト膀胱癌細胞中のMMP2およびMMP9の発現および活性は、腫瘍壊死因子αとγインターフェロンの影響を受ける(Shin KYら、Cancer Lett 2000 Oct 31;159(2):127−134);卵巣上皮腫瘍で、MMP2、MMP9、MT1−MMP、およびそれらのインヒビターTIMP1、TIMP2が発現する(Sakata Kら、Int J Oncol 2000 Oct;17(4):673−681);MMP1、MMP2、MMP3およびMMP9の各々のレベルおよび総MMP活性は、結腸直腸腫瘍でアップレギュレートし、MMP1が結腸直腸癌進行に最も重要である(Baker EAら、Br J Surg 2000 Sep;87(9):1215−1221);活性化されたMMP2が、尿路上皮癌の浸潤に重要な役割を演じ、しかも活性化されたMMP2発現のレベルが有用な予後指標となる(Kaneda Kら、BJU Int 2000 Sep;86(4):553−557);プロスタグランジン合成のインヒビターが、ヒト前立腺腫瘍細胞浸潤を阻害し、かつMMPの放出を低減する(Attiga FAら、Cancer Res 2000 Aug 15;60(16):4629−37);血清真性グロブリン画分中のMMP活性が、乳癌および肺癌患者で増加し、これら癌の腫瘍マーカーとして用い得る(Farias Eら、Int J Cancer 2000 Jul 20;89(4):389−94);MMPインヒビターは、腫瘍細胞におけるゼラチン分解活性を阻害する(Ikeda Mら、Clin Cancer Res 2000 Aug;6(8):3290−6);膜タンパク質LMP1によるMMP9の誘導が、鼻咽頭癌(NPC)の転移性に寄与する(Horikawa Tら、Caner 2000 Aug 15;89(4):715−23);MMPは、血管形成の初期に重要な役割を演じ、MMPインヒビターがヒト微小血管内皮細胞浸潤および形態形成を抑制する(Jia MCら、Adv Exp Med Biol 2000;476:181−94);浸潤性および再発性下垂体腺腫および下垂体癌においてMMP9が発現する(Turner HEら、J Clin Endocrinol Metab 2000 Aug;85(8):2931−5);など。
MMPはまた、大動脈瘤の進展に関与することが知られている:MMPは、脳動脈瘤形成および破壊に関与する(Gaetani Pら、Neurol Res 1999 Jun;21(4):385−90);MMP−9の活性上昇は、脳動脈瘤のリスクファクターである(Peters DGは、Stroke 1999 Dec;30(12):2612−6);MMPの阻害は、動脈瘤モデルにおいて、小動脈瘤の成長の阻害をもたらす(Treharne GDは、Br J Surg 1999 Aug;86(8):1053−8);など。
MMPは、遊走血管平滑筋細胞、マクロファージなどから分泌され、血管壁に存在するコラーゲン、エラスチンを破壊し、これによって血管の緊張が失われ、血圧に抵抗しきれずに血管径は拡張する。事実、動脈瘤の血管では、顕著なエラスチンの破壊が認められる(Pathogenesis of aneurysms.Halloran BG,Baxter BT.Semin Vasc Surg 1995 Jun;8(2):85−92)。
大動脈瘤破裂はほとんどが死に至る。大動脈瘤破裂を防ぐためには、動脈硬化の危険因子を抑制することが重要である。しかし、このような危険因子の抑制を完全に行うことは困難である。現在、大動脈瘤破裂を回避する手段は、侵襲的な手術によるほかない。
35才から80才までの成人男性の大動脈径を測定したデータ(Abdominal Aortic Aneurysms.Dolores J Katz,James C.Stanley,Gerald B.Zelenock.Seminars in Vascular Surgery,vol 8,No4(Dec),1995;pp289−298)によると、その平均は1.5cm〜2.0cmであった。一般に、大動脈径が、平均値の1.5倍を超えると大動脈瘤と判断されるが、上記データによれば、直径3cm以上の瘤を有し、大動脈瘤と判断されるヒトは、400人に1人の割合で存在していた。従って、大動脈破裂の危険度は別にして、35才から80才までの成人男性において大動脈瘤の有病率はかなり高く、65才以上の高齢者においては有病率はさらに大きくなると考えらている。
MMPはまた、慢性関節リウマチに関与することが知られている:薬剤処理による慢性関節リウマチの改善は、滑膜組織中のMMP1の減少をもたらす(Kraan MCら、Arthritis Rheum 2000 Aug;43(8):1820−30);IL−1βによるMT−MMP発現のアップレギュレーションは、MMP−2活性化を部分的に誘導し、慢性関節リウマチにおけるサイトカイン媒介関節破壊をもたらす(Origuchi Tら、Clin Exp Rheumatol 2000 May−Jun;18(3):333−9);慢性関節リウマチ滑膜により産生される炎症性サイトカインIL−17は、MMP1の産生を増加する(Chabaud Mら、Cytokine 2000 Jul;12(7):1092−9);MMP1、MMP2、MMP3、MMP8、MMP9およびMMPインヒビターは、慢性関節リウマチ滑液中に高レベルで存在し、MMP類が活性化されるとMMPインヒビターとのバランスが崩れ、軟骨破壊に至る(Yoshihara Yら、Ann Rheum Dis 2000 Jun;59(6):455−61);MT1−MMPは、リウマチ滑膜ライニング細胞層中のプロMMP−2の活性化に関与し、慢性関節リウマチにおける軟骨破壊をもたらす(Yamanaka Hら、Lab Invest 2000 May;80(5):677−87);など。
MMPはまた、マルファン症候群における心血管病変に関与する(Segura AMら、Circulation 1998 Nov 10;98(19 Suppl):11331−7)。
膜タイプ−MMP(MT−MMP)の発現は、メサンギウム増殖性糸球体腎炎で増加する(Hayashi Kら、J Am Soc Nephrol 1998 Dec;9(12):2262−71)。
MMPインヒビターは、ラット腹部大動脈瘤モデルにおいて、血管径の拡張を抑制することが報告されている(Suppression of experimental abdominal aortic aneurysms by systemic treatment with a hydroxamate−based matrix metalloproteinase inhibitor(RS 132908).Moore G,Liao S,Curci JA,Starcher BC,Martin RL,Hendricks RT,Chen JJ,Thompson RW.J Vasc Surg.999 Mar;29(3):522−32)。
MMPインヒビターはまた、糸球体腎炎の治療に用いられ得る(Marti HP、Schweiz Med Wochenschr 2000 May 27;130(21);784−8)。しかし、MMPインヒビターの全身投与は、重篤な副作用を生じ、上記種々の疾患の処置(治療および予防)するための臨床適用は困難である。
このように、NF−κBは、その転写制御下にある、多くの遺伝子の発現を介して、種々の疾患に関与することが示唆されているが、このような疾患を有効に処置する方法、特に非侵襲的処置法は提供されていない。特に、大動脈瘤は、上記のように稀ではない疾患であり、高齢化社会にともなう動脈硬化性疾患の増加は、当然大動脈瘤疾患の増加をもたらす。患者の高齢化を考慮した場合、薬剤により大動脈瘤の増長を直接抑制できれば理想的であるが、現在のところその手段はなく、大動脈瘤の低侵襲的な治療および予防法の開発が切望されている。
発明の開示
本発明は、NF−κBまたはetsによって制御される遺伝子の発現に起因する上記種々の疾患を処置するために適した組成物およびその使用法を提供する。
本発明は、NF−κBデコイ、etsデコイ、またはNF−κBとetsとのキメラ(ダブル)デコイを主成分として含有し、NF−κBまたはetsにより制御される遺伝子の発現に起因する種々の疾患を処置(治療および予防)するための組成物および該疾患の処置方法を提供する。
本発明者らは、NF−κBまたはetsにより制御される遺伝子の発現に起因する疾患を処置するために、NF−κBのデコイ、またはetsのデコイ、またはNF−κBとetsとのキメラ(ダブル)デコイを投与することが有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、NF−κBまたはetsに制御される遺伝子の発現に起因する疾患を治療および予防するための薬学的組成物に関し、この組成物は、少なくとも1つのデコイ、および薬学的に受容可能なキャリアを含む。
好ましくは、上記少なくとも1つのデコイは、NF−κBのデコイまたはestのデコイ、そしてより好ましくはNF−κBとestとのキメラ(ダブル)デコイである。
好ましくは、上記疾患は、大動脈瘤、脳動脈瘤、癌、マルファン症候群、大動脈解離、血管形成術後再狭窄、慢性関節リウマチ、喘息、アトピー性皮膚炎、腎炎、腎不全またはプラークラプチャーである。
好ましくは、上記薬学的に受容可能なキャリアは親水性ポリマーである。
発明を実施するための最良の形態
本発明で用いられる用語「デコイ」または「デコイ化合物」は、NF−κBまたはetsが結合する染色体上の部位、あるいはNF−κBまたはetsに制御される遺伝子の他の転写調節因子が結合する染色体上の部位(以下標的結合部位という)に結合し、NF−κBまたはetsまたはその他の転写因子と、これらの標的結合部位への結合について拮抗する化合物をいう。代表的には、デコイまたはデコイ化合物は、核酸およびその類似体である。
デコイが核内に存在する場合、転写調節因子の標的結合部位への結合について、デコイが転写調節因子と競合し、その結果、転写調節因子の標的結合部位への結合によってもたらされる生物学的機能が阻害される。デコイは、標的結合配列に結合し得る核酸配列を少なくとも1つ含む。標的結合配列への結合活性を有する限り、デコイは、本発明の薬学的組成物の調製に用いることができる。
好ましいデコイの例として、5’−CCT−TGA−AGG−GAT−TTC−CCT−CC−3’(配列番号1)(NF−κBデコイ)、もしくは5’−AAT−TCA−CCG−GAA−GTA−TTC−GA−3’(配列番号3)(etsデコイ)、もしくは5’−ACC−GGA−AGT−ATG−AGG−GAT−TTC−CCT−CC−3’(配列番号5)(NF−κBとetsのキメラ(ダブル)デコイ)、またはこれらの相補体を含むオリゴヌクレオチド、これらの変異体、またはこれらを分子内に含む化合物が挙げられる。オリゴヌクレオチドは、DNAでもRNAでもよく、またはそのオリゴヌクレオチド内に核酸修飾体および/または擬核酸を含むものであってもよい。また、これらのオリゴヌクレオチド、その変異体、またはこれらを分子内に含む化合物は、1本鎖でも2本鎖であってもよく、線状であっても環状であっもよい。変異体とは上記配列の一部が、変異、置換、挿入、欠失しているもので、NF−κBまたはNF−κBに制御される遺伝子のその他の転写調節因子が結合する核酸結合部位と特異的に拮抗する核酸を示す。さらに好ましいNF−κBまたはets、あるいはNF−κBに制御される遺伝子のその他の転写調節因子のデコイとしては、上記核酸配列を1つまたは複数含む2本鎖オリゴヌクレオチドまたはその変異体が挙げられる。上記核酸配列を1つまたは複数含む核酸は、含まれる核酸配列の数を示すために、含まれる核酸配列が2つの場合キメラ(タブル)デコイと称され、そして3つの場合トリプルデコイなどと称され得る。
本発明で用いられるオリゴヌクレオチドは、リン酸ジエステル結合部の酸素原子をイオウ原子で置換したチオリン酸ジエステル結合をもつオリゴヌクレオチド(S−オリゴ)、またはリン酸ジエステル結合を電荷をもたないメチルホスフェート基で置換したオリゴヌクレオチド等、生体内でオリゴヌクレオチドが分解を受けにくくするために改変したオリゴヌクリオチド等が含まれる。
本発明で用いられるデコイの製造方法としては、当該分野で公知の化学合成法または生化学的合成法を用いることができる。例えば、デコイ化合物として核酸を用いる場合、遺伝子工学で一般的に用いられる核酸合成法を用いることができ、例えば、DNA合成装置を用いて目的のデコイ核酸を直接合成してもよいし、またはこれらの核酸、それを含む核酸またはその一部を合成した後、PCR法またはクローニングベクター等を用いて増幅してもよい。さらに、これらの方法により得られた核酸を、制限酵素等を用いて切断し、DNAリガーゼ等を用いて結合等を行い、目的とする核酸を製造してもよい。また、さらに細胞内でより安定なデコイ核酸を得るために、核酸の塩基、糖、リン酸部分に、例えば、アルキル化、アシル化等の化学修飾を施してもよい。
本発明は、上記のデコイ化合物を単独で、または安定化化合物、希釈剤、担体、または別の成分または薬剤のような他の薬剤と組み合わせて含む薬学的組成物を提供する。
本発明の薬学的組成物は、デコイが患部の細胞内または目的とする組織の細胞内に取り込まれるような形態で用いられる。
本発明の薬学的組成物は、任意の無菌生体適合性薬学的キャリアー(生理食塩水、緩衝化生理食塩水、デキストロース、および水を含むが、それらに限定されない)中で投与され得る。これらの分子のいずれも、適切な賦形剤、アジュバント、および/または薬学的に受容可能なキャリアーと混合する薬学的組成物中にて、単独で、あるいは他の薬剤と組み合わせて患者に投与され得る。本発明の実施態様において、薬学的に受容可能なキャリアーは薬学的に不活性である。
本発明の薬学的組成物の投与は、経口または非経口により達成される。非経口送達の方法としては、局所、動脈内(例えば、腫瘍、動脈瘤に直接)、筋肉内、皮下、髄内、クモ膜下腔内、脳室内、静脈内、腹腔内、または鼻孔内の投与が挙げられる。デコイ化合物に加えて、これらの薬学的組成物は、賦形剤または薬学的に使用できる製剤を調製するために、デコイ化合物のプロセシングを促進する他の化合物を含む、適切な、薬学的に受容可能なキャリアーを含み得る。処方および投与のための技術のさらなる詳細は、例えば、「REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES」(Maack Publishing Co.,Easton,PA)の最終版に記載されている。
経口投与のための薬学的組成物は、投与に適した投与形において当該分野で周知の薬学的に受容可能なキャリアを用いて処方され得る。このようなキャリアは、薬学的組成物が患者による摂取に適した錠剤、丸剤、糖衣剤、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁物などに処方されることを可能とする。
経口使用のための薬学的組成物は、活性化合物を固体賦形剤と組合せ、所望により得られた混合物を粉砕し、所望ならば、錠剤または糖衣剤のコアを得るために、適切なさらなる化合物を添加した後、顆粒の混合物をプロセシングすることを介して得られ得る。適切な賦形剤は炭水化物またはタンパク質充填剤であり、以下を含むが、それらに限定されない:ラクトース、スクロース、マンニトール、またはソルビトールを含む糖;トウモロコシ、コムギ、イネ、ジャガイモ、または他の植物由来のデンプン;メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、またはカルボキシメチルセルロースナトリウムのようなセルロース;ならびにアラビアゴムおよびトラガカントゴムを含むゴム;ならびにゼラチンおよびコラーゲンのようなタンパク質。所望ならば、架橋されたポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸またはその塩(例えば、アルギン酸ナトリウム)のような崩壊剤または可溶化剤が添加され得る。
糖衣剤コアは、濃縮糖溶液のような適切なコーティングとともに提供される。これはまた、アラビアガム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポルゲル、ポリエチレングリコール、および/または二酸化チタン、ラツカー溶液、および適切な有機溶媒または溶媒混合液をも含有し得る。製品同定のため、または活性化合物の量(すなわち用量)を特徴付けるために、染料または色素が錠剤または糖衣剤に添加され得る。
経口で使用され得る薬学的製剤は、例えば、ゼラチンカプセル、ゼラチンおよびコーティング(例えば、グリセロールまたはソルビトール)よりなるソフト封着カプセルを含む。ゼラチンカプセルは、ラクトースまたは澱粉のような充填剤またはバインダー、タルクまたはステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、および所望により安定化剤と混合した活性な成分を含有し得る。ソフトカプセルでは、デコイ化合物は、安定化剤とともにまたはともなわずに、脂肪油、流動パラフィンまたは液状ポリエチレングリコールのような適切な液体に溶解または懸濁され得る。
非経口投与用の薬学的製剤は活性化合物の水溶液を含む。注射のために、本発明の薬学的組成物は水溶液、好ましくはハンクスの溶液、リンゲル溶液、または緩衝化生理食塩水のような生理学的に適合する緩衝液中に処方され得る。水性注射懸濁物は、懸濁物の粘度を増加させる物質(例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソルビトール、またはデキストラン)を含有し得る。さらに、活性化合物の懸濁物は、適切な油状注射懸濁物として調製され得る。適切な親油性溶媒またはビヒクルは、ゴマ油のような脂肪酸、あるいはオレイン酸エチルまたはトリグリセリドのような合成脂肪酸エステル、またはリポソームを含む。所望により、懸濁物は、高濃度溶液の製剤を可能にする安定化剤または化合物の溶解度を増加させる適切な薬剤または試薬を含有し得る。
局所または鼻孔投与のために、浸透されるべき特定のバリアに対して適切な浸透剤が製剤中で使用される。このような浸透剤は一般に当該分野で公知である。
本発明の薬学的組成物は、当該分野で公知の様式と同様の様式(例えば、従来的な混合、溶解、顆粒化、糖衣剤作製、水簸、乳化、カプセル化、包括、または凍結乾燥の手段によって)で製造され得る。
好ましくは、患部の細胞または目的とする組織の細胞内に局所投与する場合、本発明の薬学的組成物は、キャリアとして合成または天然の親水性ポリマーを含み有る。このような親水性ポリマーの例として、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリエチレングリコールが挙げられる。本発明のデコイ化合物を、適切な溶媒中のこのような親水性ポリマーと混合し、溶媒を、風乾などの方法により除去して、所望の形態、例えば、シート状に成型した後、標的部位に付与し得る。このような親水性ポリマーを含む製剤は、水分含量が少ないので、保存性に優れ、使用の際には、水分を吸収してゲル状になるので、デコイ化合物の貯留性に優れる。
このようなシートは上記の組成以外にも類似物として、セルロース、デンプン及びその誘導体あるいは合成高分子化合物などに多価アルコールを混合し硬度を調整して形成した親水性シートも利用できる。
このようなシートは、例えば、腹腔鏡技術を用いて、腹腔鏡下で標的部位に付与され得る。現在、腹腔鏡手術は、非侵襲手法として目覚しく発展し、本発明の薬学的組成物と組み合わせることにより、非侵襲的であって、繰り返し治療が可能な疾患の処置法が提供され得る。
あるいは、デコイとして核酸またはその修飾体を用いる場合には、本発明の薬学的組成物は、一般に用いられている遺伝子導入法で用いられる形態、例えば、センダイウイルス等を用いた膜融合リポソーム製剤や、エンドサイトーシスを利用するリポソーム製剤等のリポソーム製剤、リポフェクトアミン(ライフテックオリエンタル社製)等のカチオン性脂質を含有する製剤、またはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター等を用いるウイルス製剤を用いるのが有利であり、特に、膜融合リポソーム製剤が好適である。
リポソーム製剤は、そのリポソーム構造体が、大きな1枚膜リポソーム(LUV)、多重膜リポソーム(MLV)、小さな一枚膜リポソーム(SUV)のいずれであってもよい。その大きさも、LUVでは200から1000nm、MLVでは400〜3500nm、SUVでは20〜50nm程度の粒子系をとり得るが、センダイウイルス等を用いる膜融合リポソーム製剤の場合は粒子系200 1000nmのMLVを用いるのが好ましい。
リポソームの製造方法は、デコイが保持されるものであれば特に限定されるものではなく、慣用の方法、例えば、逆相蒸発法(Szoka、Fら、Biochim.Biophys.Acta、Vol.601 559(1980))、エーテル注入法(Deamer、D.W.:Ann.N.Y.Acad.Sci.,Vol.308 250(1978))、界面活性剤法(Brunner,Jら:Biochim.Biophys.Acta,Vol.455 322(1976))等を用いて製造することができる。
リポソーム構造を形成するための脂質としては、リン脂質、コレステロール類や窒素脂質等が用いられるが、一般に、リン脂質が好適であり、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、卵黄レシチン、大豆レシチン、リゾレシチン等の天然リン脂質、あるいはこれらを定法に従って水素添加したものの他、ジセチルホスフェート、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、エレオステアロイルホスファチジルコリン、エレオステアロイルホスファチジルエタノールアミン、エレオステアロイルホスファチジルセリン等の合成リン脂質を用いることができる。
これらのリン脂質を含む脂質類は単独で用いることができるが,2種以上を併用することも可能である。このとき、エタノールアミンやコリン等の陽性基をもつ原子団を分子内にもつものを用いることにより、電気的に陰性のデコイ核酸の結合率を増加させることもできる。これらリポソーム形成時の主要リン脂質の他に一般にリポソーム形成用添加剤として知られるコレステロール類、ステアリルアミン、α−トコフェロール等の添加剤を用いることもできる。
このようにして得られるリポソームには、患部の細胞または目的とする組織の細胞内への取り込みを促進するために、膜融合促進物質、例えば、センダイウイルス、不活化センダイウイルス、センダウイルスから精製された膜融合促進タンパク質、ポリエチレングルコール等を添加することができる。
リポソーム製剤の製造法の例を具体的に説明すると、例えば、前記したリポソーム形成物質を、コレステロールとともにテトラヒドロフラン、クロロホルム、エタノール等の有機溶媒に溶解し、これを適切な容器に入れて減圧下に溶媒を留去して容器内面にリポソーム形成物質の膜を形成する。これにデコイを含有する緩衝液を加えて攪拌し、得られたリポソームにさらに所望により前記の膜融合促進物質を添加した後、リポソームを単離する。こりようにして得られるデコイを含有するリポソームは適当な溶媒中に懸濁させるか、または一旦凍結乾燥したものを、適当な溶媒に再分散させて治療に用いることができる。膜融合促進物質はリポソーム単離後、使用までの間に添加してもよい。
本発明の薬学的組成物は、デコイ化合物が意図される目的を達成するのに有効な量で含有される組成物を含む。「治療的有効量」または「薬理学的有効量」は当業者に十分に認識される用語であり、意図される薬理学的結果を生じるために有効な薬剤の量をいう。従って、治療的有効量は、処置されるべき疾患の徴候を軽減するのに十分な量である。所定の適用のための有効量(例えば、治療的有効量)を確認する1つの有用なアッセイは、標的疾患の回復の程度を測定することである。実際に投与される量は、処置が適用されるべき個体に依存し、好ましくは、所望の効果が顕著な副作用をともなうことなく達成されるように最適化された量である。治療的有効用量の決定は十分に当業者の能力内にある。
いずれの化合物についても、治療的有効用量は、細胞培養アッセイまたは任意の適切な動物モデルのいずれかにおいて、最初に見積もられ得る。動物モデルはまた、所望の濃度範囲および投与経路を達成するために用いられる。次いで、このような情報を用いて、ヒトにおける投与に有用な用量および経路を決定することができる。
治療的有効量とは、疾患の徴候または状態を軽減するデコイ化合物の量をいう。このような化合物の治療効果および毒性は、細胞培養または実験動物における標準的な薬学的手順(例えば、ED50、集団の50%において治療的に有効な用量;およびLD50、集団の50%に対して致死的である用量)によって決定され得る。治療効果と毒性効果との間の用量比は治療係数であり、それは比率ED50/LD50として表され得る。大きな治療係数を呈する薬学的組成物が好ましい。細胞培養アッセイおよび動物実験から得られたデータが、ヒトでの使用のための量の範囲を公式化するのに使用される。このような化合物の用量は、好ましくは、毒性をほとんどまたは全くともなわないED50を含む循環濃度の範囲内にある。この用量は、使用される投与形態、患者の感受性、および投与経路に依存してこの範囲内で変化する。一例として、デコイの投与量は、年齢その他の患者の条件、疾患の種類、使用するデコイの種類等により適宜選択されるが、例えば、血液内投与、筋肉内投与、関節内投与では、一般に、1回あたり、1μg〜100mgを1日1回から数回投与することができる。
正確な用量は、治療されるべき患者を考慮して、個々の臨床医によって選択される。用量および投与は、十分なレベルの活性部分を提供するか、または所望の効果を維持するように調整される。考慮され得るさらなる因子としては、疾患状態の重症度(例えば、腫瘍のサイズおよび位置;患者の年齢、体重、および性別;投与の食餌制限時間、および頻度、薬物組合せ、反応感受性、および治療に対する耐性/応答)が挙げられる。特定の製剤の半減期およびクリアランス速度に応じて、持続作用性薬学的組成物は、3〜4日毎に、毎週、または2週間に1回、投与され得る。特定の用量および送達の方法に関するガイダンスは当該分野で公知の文献に提供されている。
この様にして得られたデコイを主成分として含有する医薬品は、疾患の種類、使用するデコイの種類等により各種の方法で投与することができ、例えば、虚血性疾患、炎症性疾患、自己免疫疾患および癌の転移・浸潤、悪疫質においては血管内投与、疾患部位に塗布、疾患部位内に投与または疾患部位に血管内投与等することができる。さらに具体的な例としては、例えば、臓器梗塞等でPTCAを行う場合には、同時またはその前後に患部血管に投与することができ、また臓器移植等では移植する臓器を予め本願で用いられる製剤で処置して用いてもよい。また、例えば、慢性関節リウマチ等では、直接関節内に注入して用いることもできる。
実施例
以下実施例を用いて本発明を説明するが、これらの実施例は、本発明の例示であって、限定を意図するものではない。
(実施例1:ヒト大動脈瘤サンプルにおけるets−1の過剰発現)
ets−1は、MMP遺伝子の発現を制御する転写因子の1つである。手術により除去(摘出)された大動脈瘤サンプルをホルマリン固定し、ets−1に対する抗体(Santa Cruz Biotechnology社(USA))を用い、常法にて免疫染色を行った。図1、2および3に示すように、いずれの大動脈瘤サンプルにおいても、主として外膜にets−1の存在が認められた。
図1の左は、ヒト大動脈起始部の光学顕微鏡写真(×100倍)、そして図1の右は、図1の左の矩形の区画の同拡大写真(×400倍)である。
図2の左は、ヒト大動脈最拡張部の光学顕微鏡写真(×100倍)、そして図2の右もまた、ヒト大動脈最拡張部の別の部分の蛍光顕微鏡写真(×200倍)である。
図3は、ヒト大動脈最拡張部の光学顕微鏡写真(×400倍)であって、図2の矩形で示した区画の拡大写真である。図3の左は、図2の右の大きい方の矩形の区画の同拡大写真(×400倍)であり、そして図3の右は、図2の右の小さい方の矩形の区画の同拡大写真(×400倍)である。
(実施例2:オーガンカルチャー(組織培養系)におけるデコイ核酸の効果)
手術時に除去された大動脈瘤サンプルを用い、オーガンカルチャー(組織培養系)でデコイ核酸導入によるMMP遺伝子の発現抑制効果を試験した。
ヒト大動脈瘤を手術時に取り出し、2mmのサンプルに分割した。100μMのそれぞれのデコイあるいはスクランブルデコイ(共に北海道システムサイエンス社にて合成)を含む10%コラーゲゲルに室温で1時間浸した。その後ゲルの付着したまま24ウェルプレートに入れ、培養液(Dulbecco’s modified Eagle’s medium,1% FCS)を1.5mlずつ入れた。以降、37℃インキュベーターにて培養した。培養液は24時間後にウォッシュアウトし、新しい培養液に変更する。さらに48時間後、培養液中のMMP1、MMP9を常法に従い、ELISA(Amersham pharmacia biotech社製)にて測定した。
使用したデコイ:


結果を、図4および図5に示す。図4および図5の縦軸は、450nmにおける吸光度を示し、横軸のuntreat、NFsd、NF、ets−sdおよびetsは、それぞれ、核酸試薬を含まず(コントロール)、NF−κBスクランブルデコイ、NF−κBデコイ、etsスクランブルデコイ、およびetsデコイをそれぞれ示す。図中の各棒の上部に記載の横棒は標準偏差を表し、そして図中の各棒の間をつなぐ線の上にあるPは、この線でつながれる群間の比較に用いた有意水準を表し、棒の上にある**はその群の平均値がコントロールに対して統計的に有意水準1%(図4)または5%(図5)で平均値の差が有意であることを示す(Fisher検定)。
図4および図5に示されるように、etsデコイ投与群において、MMP1およびMMP9の産生は、コントロール群およびetsスクランブルデコイ投与群に比べ有意に抑制された。そしてNF−κBデコイ投与群においてもまた、MMP1およびMMP9の産生は、コントロール群およびNF−κBスクランブルデコイ投与群に比べ有意に抑制された。
(実施例3:オーガンカルチャー(組織培養系)におけるデコイ核酸およびダブルデコイ核酸の濃度依存的効果)
デコイ核酸として100μMおよび600μM濃度のNF−κBデコイ、および100および600μM濃度の以下に示す構造のダブルデコイおよびダブルスクランブルデコイを用いた点を除いて、実施例2と同様の方法でオーガンカルチャー(組織培養系)におけるデコイ核酸添加によるMMP遺伝子の発現抑制効果を試験した。

結果を、図6および図7に示す。図6および図7の縦軸は、450nmにおける吸光度を示し、横軸のuntreat、NFsd、NF100、NF600、DD sd、DD100およびDD600は、それぞれ、核酸試薬を含まず(コントロール)、NF−κBデコイ100μM、NF−κBデコイ600μM、ダブルスクランブルデコイ、ダブルデコイ100μM、およびダブルデコイ600μMをそれぞれ示す。図中の各棒の上部に記載の横棒は、標準偏差を表し、そして図中の各棒の間をつなぐ線の上にあるPは、この線でつながれる群間の比較に用いた有意水準を表し、*および**は、コントロールに対して統計的にそれぞれ有意水準5%および1%で平均値の差が有意であることを、#および‡はそれぞれNF100およびNF600群の結果に対して有意水準5%で平均値の差が有意であることをそれぞれ示す(Fisher検定)。
図6および図7に示されるように、NF−κB投与群において、MMP1およびMMP9の産生は、コントロール群およびNF−κBスクランブルデコイ投与群に比べ有意に抑制され、そしてその効果は濃度依存性であった。そしてダブルデコイ投与群においてもまた、MMP1およびMMP9の産生は、ダブルデコイ投与群において、スクランブルデコイ投与群に比べ有意に抑制された。そしてダブルデコイの効果は、NF−κBデコイ投与群に比べより効果的であった。
(実施例4:インビボにおけるデコイ核酸の効果)
ラットを用い、インビボにおけるデコイ核酸付与によるMMP遺伝子の発現抑制効果を試験した。
ラット(SDラット、12週令)を麻酔下に開腹し、以下の組成のADフィルム(大きさ1cm×1cm)をほぼ1cmの長さにわたって、腹部大動脈に周囲に巻き付けた。腹部を縫合した後通常の状態で飼育し、3日後に再び開腹し、血管を取り出して蛍光顕微鏡により解析した。
ADフィルムの組成:ヒドロキシプロピルセルロース 150〜400cps(HPC−M) 73mg/4cm;ポリエチレングルコール400(PEG) 7.3mg/4cm;FITC−標識デコイ 100nmol/cm
ADフィルムの調製方法:まず、上記のヒドロキシプロピルセルロースおよびポリエチレングルコールを、それぞれ100%エタノールに溶解し混合した。この混合液に、400nmolのFITC−標識デコイを加えて溶解した後、風乾し、最終的に4cmのシートに成型した。
図8および図9に結果を示す。図8は、腹部大動脈壁の部分断面の蛍光顕微鏡写真(×200倍)である。図8の左は、FITC−標識デコイを含まないADフィルムを巻き付けたコントロールラットの腹部大動脈壁の断面の蛍光顕微鏡写真、図8の右は、FITC−標識デコイを含むADフィルムを巻き付けたラットの同蛍光顕微鏡写真である。図9は、腹部大動脈壁の断面および部分断面の蛍光顕微鏡写真である。図9の左は、100倍、そして図9の右は、200倍の拡大倍率の蛍光顕微鏡写真である。
図8および図9に示されるように、FITC−標識デコイを含むADフィルムを巻き付けたラットの腹部大動脈壁では、血管外膜に強い緑色および中膜の一部に緑色の蛍光が観察され、デコイが血管外膜および中膜の一部に導入されたことが確認された。
(実施例5:大動脈瘤モデルラットにおけるデコイ核酸の効果)
大動脈瘤モデルラットが確立されている(Indomethacin prevents elastase−induced abdominal aortic aneurysms in the rat.Holmes DR,Petrinec D,Wester W,Thompson RW,Reilly JM.J Surg Res.1996 Jun;63(1):305−9)。このモデルはエラスターゼをラット大動脈内に150cmHOの圧力で30分間貯留させることで作成される。
図10に示されるように、大動脈瘤モデルラットにおいてスクランブルデコイ投与群では大動脈断面積は顕著に増大していく。しかし、NF−κBとEtsのダブルデコイ投与群ではその増大は2週後(図では横軸2W)、3週後(図では横軸3W)で有意に抑制された。
産業上の利用可能性
NF−κBまたはetsに制御される遺伝子の発現に起因する疾患を処置する薬学的組成物およびそれに用いるキャリアーが提供される。本発明の薬学的組成物の局所投与は、非侵襲的であって、繰り返し可能な治療方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
図1は、ヒト大動脈最拡張部の光学顕微鏡写真である。
図2は、ヒト大動脈最拡張部の光学顕微鏡写真である。
図3は、ヒト大動脈最拡張部の光学顕微鏡写真である。
図4は、本発明の薬学的組成物を用いた試験結果を示す図である。
図5は、本発明の薬学的組成物を用いた試験結果を示す図である。
図6は、本発明の薬学的組成物を用いた試験結果を示す図である。
図7は、本発明の薬学的組成物を用いた試験結果を示す図である。
図8は、本発明の薬学的組成物を用いた試験結果を示すラットの腹部大動脈壁の断面の蛍光顕微鏡写真である。
図9は、本発明の薬学的組成物を用いた試験結果を示すラットの腹部大動脈壁の断面の蛍光顕微鏡写真である。
図10は、本発明の薬学的組成物を用いた試験結果を示す図である。
【配列表】


【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
NF−κBまたはetsに制御される遺伝子の発現に起因する疾患を治療および予防するための薬学的組成物であって、少なくとも1つのデコイ、および薬学的に受容可能なキャリアを含む、組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1つのデコイが、NF−κBのデコイである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1つのデコイが、etsのデコイである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記少なくとも1つのデコイが、NF−κBのデコイおよびetsのキメラデコイである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記疾患が、脳動脈瘤、癌、マルファン症候群、大動脈解離、血管形成術後再狭窄、慢性関節リウマチ、喘息、アトピー性皮膚炎、腎炎、腎不全またはプラークラプチャーである、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記薬学的に受容可能なキャリアが親水性ポリマーである、請求項1に記載の組成物。

【国際公開番号】WO2003/063911
【国際公開日】平成15年8月7日(2003.8.7)
【発行日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−563600(P2003−563600)
【国際出願番号】PCT/JP2002/000865
【国際出願日】平成14年2月1日(2002.2.1)
【出願人】(500409323)アンジェスMG株式会社 (34)
【Fターム(参考)】