説明

デザインの計算又は選択による眼科用メガネレンズの提供方法

装着者に眼科用メガネレンズを提供する方法であって、その方法は、装着者の少なくとも一方の眼における高次収差を測定する段階と、装着者の眼における高次収差の測定に基づいて残余乱視の管理を適合させることによって、眼科用メガネレンズのデザインを計算し、又は眼科用メガネレンズのデザインデータベースにおいてデザインを選択する段階と、を備える。コンピュータプログラム製品は、これらの段階のうちの少なくとも一つの段階を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的に、視野の改善の分野に関し、特にデザイン(design)の計算又は選択による眼科用メガネレンズ(spectacle ophtalmic lens)の提供方法に関する。眼科用メガネレンズは、例えばプログレッシブレンズ(progressive lens)又は単焦点レンズ(unifocal lens)とすることができる。また、本発明は、眼科用メガネレンズの製造方法に関する。更に、本発明は、本発明に係る眼科用メガネレンズのデザインのための計算方法を実行するソフトウェアセットアップに関する。
【背景技術】
【0002】
眼科用メガネレンズは使用者によって装着され、多くの様々なタイプの視力障害(vision deficiencies)の矯正のために広く用いられる。視力障害は、近視(near−sightedness(myopia))、遠視(farsightedness(hypermetropia))、乱視(astigmatism)のような障害と、加齢(老眼)に通常関連するニアーレンジビジョン(near−range vision)における障害とを含む。
【0003】
眼科医又は検眼士は、球体、円筒体、軸に関連する屈折異常(refractive errors)を矯正することで通常視力(visual acuity)を改善する。その屈折異常は、低次収差である。
【0004】
乱視は、眼における屈折異常が経線に依存する(meridian−dependent)ときに生じる。これは、通常、トロイダル形状の一つ又はそれ以上の屈折表面、もっとも一般的には角膜前面(anterior cornea)によるものである。乱視の屈折異常は、第2次収差である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Handbook of lens design, Malacara D. & Malacara Z.
【非特許文献2】“Accuracy and precision of objective refraction from wavefront aberrations”, Larry N. Thibos, Xin Hong, Arthur Bradley, Raymond A. Applegate, Journal of Vision (2004) 4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は、レンズ装着者、特にプログレッシブレンズの装着者の光学上の要求(visual needs)をより満たすと共に、レンズ装着者の快適さを改善し、且つレンズへの順応を容易にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題のために、本発明の一つの主題は、装着者に眼科用メガネレンズを提供する方法であり、その方法は、
・装着者の少なくとも一方の眼における高次収差を測定する段階と、
・装着者の眼における高次収差の測定に基づいて残余乱視(residual astigmatism)の管理(management)を適合させ、眼科用メガネレンズのデザイン(構造、設計)を計算し、又は眼科用メガネレンズのデザインデータベースにおいてデザインを選択する段階と、
を備える。
【0008】
本発明の大枠において、眼科用メガネレンズの「デザイン」は眼科用メガネレンズの光学系(optical system)の一部として理解されるべきである。光学系は、装着者のために決められた球体、円筒体、軸、度数加入値(power addition values)からなる装着者の標準処方パラメータによっては決定されない。
【0009】
本発明の実施形態によれば、装着者のためのデザインの計算又は選択は、装着者の一方の眼又は両方の眼に関連する。
【0010】
第2次収差に加えて、人間の眼は通常、屈折面における多数の他の収差を有する。眼科用の波面センサー(wavefront sensors)のような技術における近年の発展は、標準の球面円筒状の平均屈折異常と比べてより高度な測定を提供する。ゼルニケ多項式(zernike polynomials)は、一般的に光学系の屈折異常を説明するのに用いられる。ゼルニケ基底関数は、全体の屈折異常のマップを正確に説明することができる。
【0011】
本発明に係る一実施形態によれば、眼科用メガネレンズのデザインのための計算方法は、
・レンズ装着者の眼における高次収差を測定する段階と、
・装着者の眼における高次収差の測定に基づいて残余乱視の管理を適合させることによって、眼科用メガネレンズのデザインを計算する段階と、を備える。
【0012】
眼科用メガネレンズ、及び特にプログレッシブレンズは、残余収差(residual aberrations)、主に乱視を伴う。従って、本発明は、装着者の眼における高次収差に基づいて残余乱視の管理をカスタマイズし、結果として明瞭度(acuity)及びゆがみの折衷(compromise)を最適化することを提供する。実際に、発明者らは、高次収差の存在による視力への残余乱視の影響を証明することができた。乱視及び高次収差は組み合わせられて、それぞれの方向によって視認性(visual performance)を向上又は低下させる。特に、これらが高次であればあるほど、対象の乱視に対する感度は低くなる。
【0013】
眼における具体的な測定のための波面センサーである収差計(aberrometers)は、球面収差、円筒面収差及び高次収差を含む眼の波面を測定するように設計された機器である。
【0014】
そのような機器を用いると、眼の収差の程度を測定及び/又は計算することができると共に、低次収差及び高次収差の寄与を分離することができる。
【0015】
本発明の一実施形態によれば、装着者のためのデザインの計算又は選択が、装着者の眼において測定された高次収差のデータで計算された高次収差パラメータによって、実行される。ここで、高次収差パラメータは、高次収差のRMS(自乗平均)値(HOA RMS値)、ストレール比(strehl ratio)、瞳の比率(pupil ratio)及び変調伝達関数のボリューム(modulation transfer function:MTF volume)からなる群から選択される。高次収差の程度が低ければ低いほど、高次収差のRMS値は低い。しかし、ストレール比が高ければ高いほど(最大値=1)、また変調伝達関数のボリュームが高ければ高いほど、高次収差のRMS値は低い。
【0016】
光学系の高次収差の特徴を示すものとして最先端技術において公知であるパラメータは、「高次収差のRMS値」、「ストレール比」、「瞳の比率」、及び「MTFのボリューム」に限定されない。
【0017】
次に、収差計を用いた眼における測定を用いてそれらを計算することが可能である。
【0018】
「高次収差の自乗平均」は通常HOA RMSと書かれ、その単位は通常、マイクロメートル(μm)である。
【0019】
収差が存在しないと、強度はガウス像点(gaussian image point)において最大となる。「ストレール比」は、収差を特徴付けるために用いられる。すなわち、「ストレール比」は、高次収差が存在する場合におけるガウス像点(参照球の原点が観察平面における最大強度の点である)での強度を、如何なる収差も存在しない場合において得られるであろう強度で割った比である。
【0020】
MTFは、各空間的な周波数に対して光学系によって対象物から得られた像における変調の振幅(又は、正弦波状の周期的な構造のコントラスト)を示す関数である(例えば、Marcel Dekker社によって1994年に出版された非特許文献1の295ページから303ページを参照)。MTFのボリュームは、一般的に0から無限大までの空間周波数範囲にわたってこの関数を積分することで計算可能である。多くの他の一般的なパラメータは、非特許文献2の329頁から351頁に掲載されている。
【0021】
高次収差のRMS値は、波面分析技術を用いて測定されても良い。収差計は、球面収差、円筒面収差及び高次収差を含む眼の波面を測定するように設計される。シャック−ハルトマン収差測定(Shack−Hartmann aberrometry)は現在、人間の眼における収差を測定するための最も一般的な方法である。市販されている眼科用のシャック−ハルトマン収差計は、例えば、ウェーブフロントサイエンス社(Wave Front Sciences Inc)、ビジックス社(VISX)、アルコン社(Alcon)、イメージングアイ社(Imagine Eyes)(例えば、irx3収差計を参照)によって販売されている。
【0022】
その収差計は、眼(eye’s optic)によって屈折された波面の表面と、眼の入射瞳(entrance pupil)に位置する参照面との間の距離を測定することで波面形状を測定する。この距離は、波面誤差(wavefront error)として知られている。シャック−ハルトマンデータセット(Shack−Hartmann data set)は、瞳平面上の異なる位置についての数(波面誤差)の大規模な配列からなる。総括して、全体のデータは波面と呼ばれる。
【0023】
波面は、ゼルニケ多項式を用いて分析され得る。そのような分析は、眼球波面収差(ocular wavefront aberration)を説明するために、例えば、米国光学会(Optical Society of America :OSA)によって推薦されたものである。しかし、例えばテイラー級数(Taylor series)、又はスプライン(splines)のような他の多項式も、波面を数学的に説明するのに用いられ得る。
【0024】
ゼルニケ展開は、多項式の直交系(orthogonal set)における収差を表す。それは、ピラミッドの形状に表示され得る。垂直に各列は、収差の一般的な形状を現し、これらは(半径方向の)オーダー((radial) orders)と呼ばれる。最上位は零次と呼ばれる。零次は、実際に如何なる収差も存在しないが、例えば尺度構成法のために追加され得る定数である。第2列(第1次)は、プリズムで分光した効果を表す。収差の各表示は、項(term)と呼ばれる。プリズム効果は、垂直(ゼルニケ多項式の第2項、上又は下)及び水平に(ゼルニケ多項式の第3項、内又は外)の基礎を形成する(base)。零次及び第1次(ゼルニケ多項式の第1〜3項)は、特定の視覚欠陥又は特定の測定条件に関連付けられており、これらは通常表れない。第2次から興味深くなる。ピラミッドの中央において、フォーカスのずれ(ゼルニケ多項式の第4項)が見られ得る。これは、ピラミッドの軸線上に位置する。これは、フォーカスのずれ(屈折の球面の部分)が回転対称(ゼロ角振動数)であるからである。フォーカスのずれの両側上に、乱視の(屈折の円筒体)ゼルニケ多項式の第3項及び第5項が見られることがある。ゼルニケ多項式の第3項及び5項は一つの経線においてのみ働くため、これらはフォーカスのずれの特定条件である。結果として、これらは、斜めの乱視に対してはゼルニケ多項式の第3項を、水平線上の乱視に対してはゼルニケ多項式の第5項を、方向(円筒の軸)と共に示さなければならない。第3次の収差は、それぞれ方向を有するコマ(coma)とトレフォイル(trefoil)を含み、それぞれは方向を有しており、その中央における列においてゼルニケ多項式の如何なる項も有しない。次は、第4次のゼルニケ多項式の第5項である。球面収差(ゼルニケ多項式の第12項)は回転対称であり、他の項(方向を有する)は、二次的な乱視及びテトラフォイル(tetra foil)である。光学において収差を説明するために、ピラミッドはより多い次数及びゼルニケ多項式の項で連続している。通常、これらは眼において存在しないか、又は非常に低い。ゼルニケ多項式第14項内においても、討論したように、全ての項が眼に対して同等に重要であるわけではない。眼に対して、第2次の収差は、「低次収差」と呼ばれ、屈折の球状の値及び円筒状の値を含む。第3次及びそれ以上は、「高次収差」と呼ばれる。
【0025】
高次収差のRMS値は、その後、例えば、波面収差関数のゼルニケ多項式の要素の値を用いて計算される。波面収差関数は、第3次又はそれ以上である。
【0026】
異なる眼の高次収差のRMS値と比較するために、瞳の基準直径に関して高次収差のRMS値に正規化することが有効である。
【0027】
発明者らは、直径5mmの瞳に関して測定された高次収差のRMS値を正規化することにしたが、如何なる他の直径の瞳にも有効に働く。各人は、両眼の高次収差のRMSの平均値によって特徴付けられた。人の各眼の波面が測定された。一般的に、波面に関連付けられたソフトウェアでは、波面のRMS(自乗平均)が、瞳の直径より小さな特定の直径に関して計算された。次の計算方法が用いられた。
・所与の直径に限定された波面のゼルニケ多項式に適応させる。
・このゼルニケ多項式の高次収差のRMSを計算する。
・右眼に関する結果を高次収差のRMSとし、左眼に関する結果を高次収差のRMSとする。
【0028】
本発明の一実施形態によれば、眼科用メガネレンズは、プログレッシブ付加レンズ(progressive addition lens)である。
【0029】
本発明の一実施形態によれば、装着者のためのデザインの計算又は選択が、プログレッシブ付加レンズの硬度パラメータ(hardness parameter)で実行される。
【0030】
本発明の大枠において、「レンズの硬度パラメータ」は、眼科用レンズの周辺収差の管理を特徴つけるのに適したパラメータとして理解されるべきである。周辺収差の管理は、遠視ゾーン及び近視ゾーンにおける視野開口部(vision fields apertures)に関係し、従って、眼科用メガネレンズの周辺部に沿った収差の変化程度に関係する。非限定的な例によれば、レンズの硬度パラメータは、レンズ表面上の乱視の最大の勾配、レンズ表面上の屈折度(dioptric power)の最大の勾配、又はこれらの組み合わせである。
【0031】
プログレッシブレンズは、度数及び乱視の分布に基づいて、「ハード」型デザイン又は「ソフト」型デザインで広く分類される。
【0032】
ハード型レンズのデザインでは、レンズ表面のより狭い領域内にプログレッシブオプティクス(progressive optics)が集中される。その結果、周辺部における不必要な円柱度(cylindrical power)の全体的な大きさ及び勾配の高めたことの代償として明視野(clear vision)の領域が拡張される。
【0033】
ソフト型レンズのデザインでは、レンズ表面のより広い領域にわたってプログレッシブオプティクスが広けられる。その結果、明視野の領域が狭くなることの代償として、不必要な円柱度の勾配及び総大きさが低減される。
【0034】
ソフト型レンズのデザインは、一般的に、度数増加(addition power)の相対的に緩慢な進行(slow progression)を有するより長いプログレッシブ累進帯長(corridor length)を使用する。一方、ハード型レンズのデザインは、一般的に、度数増加の相対的に急激な進行(rapid progression)を有するより短い累進帯長を利用する。
【0035】
本発明の実施形態によれば、
・高次収差のパラメータは高次収差のRMS値であり、高次収差のRMS値が低ければ低いほど装着者のためのデザインがハードとなり、高次収差のRMS値が高ければ高いほど装着者のためのデザインがソフトとなるように、装着者のためのデザインの計算又は選択が実行される。同様の技術が高次収差のレベルが低減するときに低減する高次収差のパラメータにも適用されることは理解されるべきである。一方、本願発明は、高次収差パラメータ値が最高になると、装着者のためのデザインはよりハードとなり、高次収差パラメータ値が最低になると、装着者のためのデザインはよりソフトとなることを示唆する。このとき、ストレール比又は変調伝達関数のボリュームのような高次収差のパラメータの値は、高次収差のレベルが低下するとき、増加する。
・高次収差パラメータが高次収差のRMS値であり、5mmの瞳に対して高次収差のRMS値が0.2μm未満である場合には、装着者のための計算されたデザイン又は選択されたデザインがハードとなり、5mmの瞳に対して高次収差のRMS値が0.2μmより大きい場合には、見る人のための計算されたデザイン又は選択されたデザインがソフトとなる。
・高次収差パラメータが高次収差のRMS値であり、高次収差が左側(L)の眼及び右側(R)の眼の両方において測定され、デザインパラメータ(DP1)が装着者のためのデザインを計算又は選択するのに用いられ、 DP1=((HOA_RMS+HOA_RMS)−HOA_RMSmin)/HOA_RMSmaxであり、
ここで、HOA_RMS及びHOA_RMSはそれぞれ、右側の眼及び左側の眼に対する高次収差のRMSであり、HOA_RMSmin及びHOA_RMSmaxはそれぞれ、最小の閾値及び最大の閾値である。一例によれば、HOA_RMSminは0.1μmであり、HOA_RMSmaxは0.4μmである。
・デザインパラメータ(DP2)が、装着者のためにデザインを計算又は選択するのに用いられ、
DP2=EHC+(1−EHC)×DPであり、
ここで、EHC(Eye−head coefficient)は眼と頭部との間の係数であり、DPは高次収差パラメータによって計算されたデザインパラメータである。一例によれば、DP=DP1である。
【0036】
本発明の大枠において、「眼と頭部との間の係数」は、装着者の見つめる方向が変わるとき、装着者の眼及び頭部のそれぞれの動きの相対的な大きさを特徴付けるのに適した係数である。「眼と頭部との間の係数」は、「眼/頭部」の動きの協調テスト(coordination test)によって、所定の装着者に対して測定され得る。
【0037】
一実施形態によれば、EHCは、装着者の頭部の角度偏差(angular deviation)(α)を、装着者が見ているターゲットの角度離心率(angular eccentricity)(E)で割った関数である。EHCは、ターゲットを見るときに頭部のみを向ける装着者に対しては「1」であり、ターゲットを見るときに眼のみを向ける装着者に対しては「0」である。
【0038】
また、本発明は、装着者のための眼科用メガネレンズを製造する方法に関する。その方法は以下の段階を備える。
a)装着者の少なくとも一方の眼における高次収差を測定する段階
b)装着者の眼における高次収差の測定に基づいて残余乱視の管理を適用して、眼科用メガネレンズのデザインを計算し、又は眼科用メガネレンズのデザインデータベースにおいてデザインを選択する段階
c)レンズ基板を準備する段階
d)段階b)において計算又は選択されたデザインに対応する光学系(OS)に基づいて眼科用メガネレンズを製造する段階
【0039】
別の実施形態によれば、該製造方法には、装着者に眼科用メガネレンズを提供するための前述の方法の既述した特徴及び異なる実施形態が組み入れられている。
【0040】
また、本発明は、一つ又はそれ以上の記憶されたシーケンスの指令(instruction)を備えるコンピュータプログラム製品に関する。その指令は、プロセッサーにアクセス可能であると共に、プロセッサーによって実行されるとき、前述の方法の異なる実施形態における少なくとも一つの段階をプロセッサーに実行させる。
【0041】
]更に、本発明は、前述のコンピュータプログラム製品における指令の一つ又はそれ以上のシーケンスを保持するコンピュータ読取可能な記録媒体に関する。
【0042】
具体的に特別な記載されていない限り、次の解説において明らかであるように、明細書解説の全般において、用いる「算出(computing)」、「計算(calculating)」、「生成(generating)」等の用語は、コンピュータ、コンピューティングシステム又は類似の電子計算装置の動作又はプロセスを意味していることを理解されたい。コンピュータ、コンピューティングシステム又は類似の電子計算装置は、コンピューティングシステムのレジスタ及び/又はメモリ内の電子的な量のような物理的な量で表されるデータを、計算システムのメモリ、レジスタ又は他のそのような情報記憶装置、情報伝送装置又は情報表示装置内の物理的な量で同様に示される他のデータにマニピュレート及び/又は変換(transform)する。
【0043】
本発明に係る実施形態は、本明細書中の動作を実行するための装置を含んでもよい。その装置は、所望の目的のために特別に組み立てられ得る。また、この装置は、コンピュータに格納されたコンピュータプログラムによって選択的に活性化された又は設定しなおされた一般的な用途のコンピュータ又はデジタルシグナルプロセッサ(Digital Signal Processor:DSP)であり得る。そのようなコンピュータプログラムはコンピュータ読取可能な記録媒体内に格納されていてもよい。コンピュータ読取可能な記録媒体は、例えば、限定はされないが、フロッピー(登録商標)ディスク、光ディスク、CD−ROM、光磁気ディスク、ROM、RAM、EPROM(electrically programmable read−only memories)、EEPROM(electrically erasable and programmable read only memories)、磁気カード又は光カード、又は電子的な指示を格納するのに適した他のタイプの記録媒体であり、コンピュータシステムバスに連結され得る。
【0044】
本明細書中に示されているプロセス及び表示は、いかなる特定のコンピュータ又は他の装置に固有に関連しているものではない。様々な一般的な用途のシステムが、本明細書中の示唆にしたがってプログラムと共に用いられ得る。または、所望の方法を実行するためのより細分化された装置を構成することが便利であることが証明され得る。様々なこれらのシステムのための所望の構造は、以下の説明から理解される。更に、本発明の実施形態は、任意の特定のプログラム言語を参照して説明されてはいない。本明細書において説明されているように、様々なプログラム言語が本発明の示唆を履行するために用いられ得ることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】5つの対象の視覚的な特徴に基づくデータを示す図である。
【図2】視力への乱視の影響を示す図である。
【図3】視力への乱視の影響を示す図である。
【図4】視力への乱視の影響を示す図である。
【図5】一つのプログレッシブ付加レンズのデザインを示す図である。
【図6】一つのプログレッシブ付加レンズのデザインを示す図である。
【図7】高次収差による視力の偏差の結果を示す図である。
【図8】そのa及びbは、それぞれメガネレンズの装着者のための眼及び頭部の動きの測定の原理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明のそれ自体はもちろん、本発明の態様は、その構造及び動作の両方に関して、以下の詳細な説明と組み合わせられた添付する非限定的な図面及び実施例から最適に理解される。
【0047】
図1は、視力に対する3つの矯正の5つの対象における平均効果と、平面波面に対する異常波面(aberrant wave front)の自乗平均(以下、RMSという)とを示す。これらの3つの矯正において、焦点合わせは同一であり、対象の最適な視力のために調節される。
【0048】
バーグラフにおいて、「A」(A−1からA−3)と分類されたバーは、角度の一分における最小視角(Minimum Angle Resolution:MAR)の常用対数として視力の損失を示しており、通常の矯正によって得られた参照値と関連して3つの各矯正に対して計算されたものである。以下において、最小視角の常用対数は、logMARと表される。バーグラフにおいて、「B」(B−1からB−3)と分類されたバーは、矯正後に残る残余の高次収差のRMSを示しており、マイクロメートル(μm)単位で表されている。バーグラフにおいて、「C」(C−1からC−3)と分類されたバーは、矯正後に残ると共に乱視を含む残余収差の合計のRMSを示しており、マイクロメートル(μm)単位で表されている。
【0049】
データA−1、B−1及びC−1に対応する左側において、0.12μmの高次の残余RMSと0.15μmの収差の合計の残余RMSとを有する収差(高次収差を含む)の総矯正は、調整ミラーを有すると共に適合された光学系を用いて矯正後に得られた最小値に対応する。これらの2つのバーは、調整ミラーを有する複合システムを用いる場合であっても、良好で十分な矯正を得ることが如何に困難であるかを示す。
【0050】
データA−2、B−2、C−2に対応する中央と、データA−3、B−3、C−3に対応する右側とにおいては、焦点合わせに加え、乱視のみが矯正される場合、同じ光学系を用いて得られた2つの矯正が示されている。高次のRMS(「C」と分類されたバー、C−2及びC−3)は、両方のケースにおいて同じであり、矯正されない値(0.25μm)に対応する。右側において、他覚的な矯正(objective correction)は、乱視の最良の光学的な矯正に対応する。この矯正に関しては、その光学系の感度を考慮すると、総合RMS(「B」と分類されたバー、B−2、B−3、0.28μm)が高次のRMS(「C」と分類されたバー、C−2及びC−3、0.25μm)と実際上は同等であった。中央において、自覚的な矯正(subjective correction)は、対象によって好まれた乱視矯正である。これは、標準の屈折法(standard refraction method)で得ることができる。
【0051】
3つの矯正のそれぞれに起因する視力の損失は、「A」と分類されたバーで示されている。マイナスの値の損失は、視力の改善を意味する。結果は、収差のRMSによって測定されたときに、自覚的な矯正は、光学的な品質としては最も低い値であったにも拘わらず、自覚的な矯正によって最善の視力に至ることが可能であることを示す。従って、対象によって要求されたその残余乱視は、矯正無しの高次を補う。残余乱視と高次との間の良好な折衷は、レンズ装着者をより満足させる結果をもたらすことができる。
【0052】
図2及び図3は、眼の高次の矯正を伴う場合(図2参照)と眼の高次の矯正を伴わない場合(図3参照)とにおいて、そのモジュール(RMSの3つのレベル、すなわち、カーブ21及び31に対して0.25μm、カーブ22及び32に対して0.5μm、及びカーブ23及び33に対して0.75μm)及びその軸による視力への乱視の影響を示す。
【0053】
両方の場合において、焦点合わせは同一であり、視力を最適化させるために調整された。図2においては、高次の矯正が行われておらず、特に中間レベルに対して視力が実質上乱視軸と共に変化する。すなわち、乱視は、改善又は悪化される視力における高次に組み合わせられる。図3においては、高次の矯正が行われており、軸の影響がそれほど顕著なものではなかった。すなわち、乱視の影響は、実際上は軸には依存していなかった。
【0054】
図4は、眼の高次の様々なオリジナル矯正に対して、すべての軸にわたって平均化されたこのモジュール(μmスケールのRMSレベル)による視力への乱視の影響を示す。高次矯正を含む総矯正(実線)は、最も急勾配の傾斜をもたらす。このように、高次が矯正されると、装着者は任意の残余乱視に対してより敏感になった。
【0055】
上述した結果から、我々は、レンズ装着者の眼における高次収差によってレンズの残余乱視を調節することが好ましいことを推論することができる。
【0056】
従って、プログレッシブレンズに関する実行は、眼における高次によるデザインをカスタマイジングすることにより行われる。すなわち、レンズを処方するために、レンズ装着者の眼における眼球収差の測定を得ることが必要である。結果として、デザインは、レンズ装着者の高次の平均レベルによって調整され得る。高次収差のRMSが低ければ低いほど、如何なる乱視を有しない領域は大きくなるはずである。それにもかかわらず、デザインは、眼の高次収差に対して如何なる矯正も行われない標準的なデザインであっても良い。
【0057】
図5及び図6は、プログレッシブレンズのデザインの二つの例を示す。この2つの例は、高次のRMSの程度に依存して、レンズ装着者の2つのカテゴリに対して一般的に調整された乱視の分布を有する。
【0058】
図5は、5mmの瞳に対して高次収差のRMSが計算された人のために調整されたデザインの乱視分布が好ましくは0.2μmより小さい(より好ましくは、0.15μmより小さい)ことを示す。
【0059】
図6は、5mmの瞳に対して高次収差のRMSが計算された人のために調整された設計の乱視分布が好ましくは0.2μmより大きい(より好ましくは、0.4μmより大きい)ことを示す。遠視(すなわち、FS)の領域及び近視(すなわち、NS)の領域における乱視の高いレベルが許容されるので、第2のデザインは、第1のデザインよりずっとソフトである。従って、装着者に対して適合させることは、歪の観点からはずっと容易となる。
【0060】
得られた結果から、眼の高次収差及び高次収差の方向に基づいて、視認性を最大化させるようにカスタマイズされた方法で残余乱視軸を調整することでレンズが最適化され得ることが明らかである。
【0061】
同様に、顕著な高次収差の種類(type)は、乱視との組み合わせにおいて役割を果たす。例えば、高次収差が主に球面収差として存在すると、乱視軸は影響を何ら与えない。高次収差が主にコマ収差として存在すると、軸が主要な役割を果たす。従って、デザインは、レンズ装着者の眼のレベルに関してだけでなく、装着者の眼の顕著な高次収差の種類に関しても調節され得る。
【0062】
また、本発明に係る方法は、既存のレンズデザインの選択を最適化するのに用いられ得る。特に、高次収差に依存して、視野の全体における既定の矯正でより良好な適合を可能とする関数、又はアセンブリパラメータ及び装着モードが考慮された関数を用いる、又は用いないことが可能である。例えば、そのような関数は、5mmの瞳に対して計算された高次収差のRMSが0.2μmより小さい人のために有利に用いられ得る。
【0063】
図7は、高次収差のRMS値(μm単位で表されている)による視力偏差(VA)の結果を示す。視力偏差(VA)は、付加された乱視度数の関数として視力の変化の傾きとして計算される。
【0064】
発明者らは、視力偏差(VA)が高次収差のRMS値に大きく依存していることを確かめた。平均依存直線71が表示されている。
【0065】
従って、当業者は、高次収差のRMSが低い、例えば0.05μm〜0.15μmを備える例に関して、装着者の眼が非常に敏感(かなり高い視力偏差)であり、高次収差のRMSが高い、例えば0.25μm〜0.40μmを備える例に関して、装着者の眼の視力は低い感度(低い視力偏差)と決めることができる。この示唆によって、当業者は「ハード型デザイン」の眼科用メガネレンズを高次収差のRMSが低い装着者に、「ソフト型デザイン」の眼科用メガネレンズを高次収差のRMSが高い装着者に有効に提供することができる。
【0066】
図8a及び図8bは、眼科用メガネレンズの装着者80がその前に位置する第1ターゲットRをみているとき、装着者80の眼及び頭部の動きを測定する原理を示す。装着者は、図8a上に示されているように、まずターゲットRをみる。その後に、装着者は、図8bにおいて示されているように、肩を動かさずにテストターゲットTをみるように要求される。2つのターゲット間の角度シフトは、偏心度(eccentricity)と呼ばれ、Eとして表される。αは装着者80の頭部の角度シフトであり、αγは装着者の眼の角度シフトであり、E=α+αγである。眼と頭部との間の係数EHCは、αとEとの間の比の成長関数(growing function)として定義され得る。一例によれば、EHC=α/Eである。眼及び頭部の動きの測定方法の詳細は、参照により全体が本明細書に組み込まれる国際公開第2008/104695号パンフレット(具体的にいうと、同文献の第5頁及び第6頁)に記載されている。
【0067】
ある装着者のために決定されたEHCは、その後、上記において開示されたデザインパラメータDP2の計算に使用されるパラメータとして用いられ得る。
【0068】
本発明に係る一実施形態によれば、装着者のための眼科用メガネレンズのデザインは、本発明に係る眼科用メガネレンズの複数のデザインのうちから選択され、装着者のためのレンズの光学系はその選択されたデザインと装着者に対する処方データとを組み合われることで得られる。
【0069】
本発明の別の実施形態によれば、デザインは、ある装着者の眼における高次収差の測定に基づいて残余乱視の管理を適合させ、その装着者のために計算される。
【0070】
デザイン計算は、本技術分野における当業者にとって公知のデザイン計算法によって実行され得る。ここで、計算パラメータは装着者の眼における高次収差に関連する。
【0071】
本発明に適したデザイン計算法によれば、第1デザインが選択され、その後、高次収差が考慮されて第1デザインが変更される。最適化の方法は、最適化されたパラメータが高次収差のパラメータである場合に実行されても良い。
【0072】
一実施形態によれば、最適化パラメータはデザインパラメータDP1である。
【0073】
別の実施形態によれば、最適化パラメータはデザインパラメータDP2である。
【0074】
本発明の一実施形態によれば、装着者のための眼科用メガネレンズの製造方法が、エシロールインターナショナル(カンパニー ジェネラーレ デ オプティック)の出願人名で2008年9月11日に出願された国際出願第PCT/FR2008/051618号明細書において記載された方法によって実施されることができる。ここで、「装着者のために計算されたゲインファクタG」の値は、本発明のデザインパラメートDP2と同等である。
【0075】
本発明は、一般的な発明の概念を限定することなく実施形態によって説明されてきた。本発明に係る残余乱視の管理を適合させるために、本技術分野における当業者に公知の様々な計算及び/又は製造方法が特に用いられ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着者に眼科用メガネレンズを提供する方法であって、
前記装着者の少なくとも一方の眼における高次収差を測定する段階と、
前記装着者の前記眼における前記高次収差の測定に基づいて残余乱視の管理を適合させ、前記眼科用メガネレンズのデザインを計算し、又は眼科用メガネレンズのデザインデータベースにおいてデザインを選択する段階と、
を備える方法。
【請求項2】
前記装着者のための前記デザインの計算又は選択が、前記装着者の前記眼における前記高次収差の測定されたデータに基づいて計算された高次収差パラメータによって実行され、
前記高次収差パラメータが高次収差のRMS値、ストレール比、瞳の比率、及び変調伝達関数のボリュームからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記眼科用メガネレンズが、メガネ用のプログレッシブ付加レンズである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記装着者のための前記デザインの計算又は選択が、プログレッシブ付加レンズの硬度パラメータによって実行される、請求項1〜3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記高次収差パラメータが前記高次収差のRMS値であり、
前記高次収差のRMS値が低ければ低いほど前記装着者のための前記デザインがハードとなり、前記高次収差のRMS値が高ければ高いほど前記装着者のための前記デザインがソフトとなるように、前記装着者のための前記デザインの計算又は選択が実行される、請求項1〜4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記高次収差パラメータが前記高次収差のRMS値であり、
5mmの瞳に対して前記高次収差のRMS値が0.2μm未満である場合には、前記装着者のための前記計算されたデザイン又は前記選択されたデザインがハードであり、
5mmの瞳に対して前記高次収差のRMS値が0.2μmより大きい場合には、前記装着者のための前記計算されたデザイン又は前記選択されたデザインがソフトである、請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記高次収差パラメータが前記高次収差のRMS値であり、
前記高次収差が左側の眼及び右側の眼の両方において測定され、
デザインパラメータDP1が前記装着者のための前記デザインを計算又は選択するのに用いられ、
DP1=((HOA_RMS+HOA_RMS)−HOA_RMSmin)/HOA_RMSmaxであり、
ここで、HOA_RMS及びHOA_RMSはそれぞれ、前記右側の眼及び前記左側の眼に対する前記高次収差のRMS値であり、HOA_RMSmin及びHOA_RMSmaxはそれぞれ、最小の閾値及び最大の閾値である、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
デザインパラメータDP2が、前記装着者のために前記デザインを計算又は選択するのに用いられ、
DP2=EHC+(1−EHC)×DPであり、
ここで、EHCは眼と頭部との間の係数であり、DPは前記高次収差パラメータによって計算されたデザインパラメータである、請求項2及び請求項3〜7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
装着者のための眼科用メガネレンズを製造する方法であって、
a)前記装着者の少なくとも一方の眼における高次収差を測定する段階と、
b)前記装着者の前記眼における前記高次収差の測定に基づいて残余乱視の管理を適合させ、前記眼科用メガネレンズのデザインを計算し、又は眼科用メガネレンズのデザインデータベースにおいてデザインを選択する段階と、
c)レンズ基板を準備する段階と、
d)段階b)において前記計算されたデザイン又は前記選択されたデザインに対応する光学系に基づいて前記眼科用メガネレンズを製造する段階と、
を備える方法。
【請求項10】
指令の一つ又はそれ以上の記憶されたシーケンスを備えるコンピュータプログラム製品であって、
前記指令が、プロセッサーにアクセス可能であると共に、前記プロセッサーによって実行されるとき、前記プロセッサーに請求項1〜9の何れか一項における少なくとも一つの段階を実行させるコンピュータプログラム製品。
【請求項11】
請求項10に記載のコンピュータプログラム製品における指令の一つ又はそれ以上のシーケンスを保持するコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8a】
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【図8b】
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【公表番号】特表2010−541085(P2010−541085A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−527472(P2010−527472)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【国際出願番号】PCT/EP2008/063355
【国際公開番号】WO2009/043941
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(505425373)エシロール アンテルナシオナル (コンパニー ジェネラレ ドプテイク) (74)
【Fターム(参考)】