説明

デジタルスピーカーシステム

【課題】一つの音声チャンネルに複数のスピーカーユニットを使用する構成で、再生能力の向上と構成の簡素化とを両立することができるデジタルスピーカーシステムを提供する。
【解決手段】入力したデジタル音声信号SAを分岐した一方のデジタル音声信号SB1から複数の駆動用デジタル信号SS1〜SS6を生成する第1信号処理部32Aと、デジタル音声信号SAを分岐した他方のデジタル音声信号SB2から単一の駆動用デジタル信号SS7を生成する第2信号処理部32Bとを備えるとともに、一つの音声チャンネルに対応するスピーカーユニットを、複数の駆動用デジタル信号SS1〜SS6が供給される複数のボイスコイルを備えたボイスコイルボビン23Aを有するメインスピーカーユニット22Aと、単一の駆動用デジタル信号SS7が供給される単一のボイスコイルを備えたボイスコイルボビン23Bを有するサブスピーカーユニット22Bとで構成するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル音声信号に基づいてスピーカーを駆動するデジタルスピーカーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
デジタル音声信号を複数のデジタル信号(駆動用デジタル信号)に変換し、複数のボイスコイルに直接入力して音声を再生するデジタルスピーカーシステムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
このデジタルスピーカーシステムでは、各ボイスコイルの磁場を加算して合成した磁場を得てスピーカーユニットを駆動するので、低消費・低電圧駆動の実現や高音質化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−71872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の構成では、一つの音声チャンネルに使用するスピーカーユニットを、例えば、中・低音域を再生するウーファーと高音域を再生するツイーターの2wayで構成する場合には、同様の構造を2つ用意しなければならない。この場合、各スピーカーが、複数のボイスコイルを備えるため、振動系が重くなり、特に、ボイスコイル径が小さく振動系の軽さが求められるツィーターにとっては、高域再生能力の低下や製造が非常に難しくなる、といった課題が生じてしまう。また、部品点数が増えて構造の複雑化を招いてしまう、といった課題もある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、一つの音声チャンネルに複数のスピーカーユニットを使用する構成で、再生能力の向上と構成の簡素化とを両立することができるデジタルスピーカーシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、デジタルスピーカーシステムにおいて、デジタル音声信号に対し、ΔΣ変調処理と、複数の駆動用デジタル信号に変換する処理とを行って、複数の駆動用デジタル信号を生成する第1信号処理部と、前記デジタル音声信号に対し、ΔΣ変調処理を行って単一の駆動用デジタル信号を生成する第2信号処理部と、前記第1信号処理部で生成された前記複数の駆動用デジタル信号が供給される複数のボイスコイルを備えるボイスコイルボビンを有する第1スピーカーユニットと、前記第2信号処理部で生成された前記単一の駆動用デジタル信号が供給される単一のボイスコイルを有するボイスコイルボビンを有する第2スピーカーユニットとを備えることを特徴とする。
この構成によれば、第1スピーカーユニットは、第1信号処理部で生成された前記複数の駆動用デジタル信号が供給される複数のボイスコイルを備えるボイスコイルボビンを有するので、高いスピーカー駆動力を得ることができる。また、第2スピーカーユニットは、第2信号処理部で生成された前記単一の駆動用デジタル信号が供給される単一のボイスコイルを有するボイスコイルボビンを有するので、振動系を軽く、かつ、部品点数を低減することができる。これにより、一つの音声チャンネルに複数のスピーカーユニットを使用する構成で、再生能力の向上と構成の簡素化とを両立することができる。
【0007】
上記構成において、前記第2スピーカーユニットは、前記第1スピーカーユニットよりも高音域を再生するスピーカーユニットであるようにしても良い。この構成によれば、ボイスコイル径が小さく振動系の軽さが求められる第2スピーカーユニットの振動系を軽く、かつ、部品点数を低減することができ、高域再生能力の向上と構成の簡素化とを両立することができる。
また、上記構成において、前記第1信号処理部は、前記複数の駆動用デジタル信号にシェーピング処理を行うシェーピング回路を有するようにしても良い。この構成によれば、第1スピーカーユニットが有する複数のボイルコイルのバラツキによる再生音への影響を抑えることができる。
【0008】
また、上記構成において、前記第1信号処理部と前記第2信号処理部との処理時間の差を相殺するための遅延回路を有するようにしても良い。この構成によれば、両スピーカーユニットの同期をとることができる。
また、上記構成において、前記第1信号処理部の前段に、前記第1スピーカーユニットの再生周波数域に対応する信号成分を通過帯域に制限する第1フィルターと、前記第2信号処理部の前段に、前記第2スピーカーユニットの再生周波数域に対応する信号成分を通過帯域に制限する第2フィルターとを有するようにしても良い。この構成によれば、第1信号処理部及び第2信号処理部での演算量を低減することができ、各信号処理部の処理負担を軽減することができる。
【0009】
また、上記構成において、前記第2信号処理部と前記第2スピーカーユニットとの間に、ノイズ除去用のコンデンサを配置するようにしても良い。この構成によれば、ノイズ除去用のコンデンサを多数設ける必要がなく、コストを抑えつつ高音質に有利な構成にすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、一つの音声チャンネルに複数のスピーカーユニットを使用する構成で、再生能力の向上と構成の簡素化とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1実施形態に係るデジタルスピーカーシステムの電気的構成を示す図である。
【図2】第1信号処理部のブロック図である。
【図3】第2実施形態に係るデジタルスピーカーシステムの電気的構成を示す図である。
【図4】第3実施形態に係るデジタルスピーカーシステムの電気的構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係るデジタルスピーカーシステムの電気的構成を示す図である。
このデジタルスピーカーシステム10は、例えば、車両に搭載される車載スピーカーシステムに適用され、車両に搭載された車載オーディオ装置(CDプレーヤー、カーナビゲーション装置等の音声出力装置)11から出力されるデジタル音声信号を入力し、対応する音声を車室内に出力する。一般に、車両には、左右2チャンネル或いは5.1チャンネル(6チャンネル)或いはそれ以上のチャンネル数のスピーカーシステムが搭載されており、例えば、フロントの各音声チャンネルに図1のデジタルスピーカーシステム10が適用され、他の音声チャンネルには、単一のスピーカーユニットのデジタルスピーカーシステムが適用される。
このデジタルスピーカーシステム10は、車載オーディオ装置11から出力されるデジタル音声信号SAに各種の信号処理を行って駆動用デジタル信号を生成出力する信号処理装置21と、この信号処理装置21から出力される駆動用デジタル信号SSで駆動されるメインスピーカーユニット22A及びサブスピーカーユニット22Bとを備えている。
【0013】
メインスピーカーユニット22Aは、中低域再生用のウーファーであり、サブスピーカーユニット(高域再生用サブスピーカーユニット)22Bは、高域再生用のツイーターである。つまり、本実施形態では、2つのスピーカーユニット22A,22Bで音域をカバーする2way方式が採用され、一つのフルレンジスピーカーで音域をカバーする1way方式よりも音質等に有利な構成となっている。
メインスピーカーユニット22Aは、複数(本実施形態では6個)のボイスコイルを備えるボイスコイルボビン23Aを有した複数ボイスコイルスピーカー(第1スピーカーユニット)であり、各ボイスコイルに駆動用デジタル信号が各々供給されることによって、複数のボイスコイルによって形成された磁場を加算して十分なスピーカー駆動力を得ることができる。この複数ボイスコイルスピーカーについては、特開2009−71872号公報等に開示される公知のスピーカーを広く適用可能である。
【0014】
サブスピーカーユニット22Bは、単一のボイスコイルを備えるボイスコイルボビン23Bを有したスピーカーユニット(第2スピーカーユニット)であり、デジタル音声信号SAに基づいて駆動される点を除いて、一般的なボイスコイルスピーカーと同様の構造である。
【0015】
信号処理装置21は、車載オーディオ装置11から出力されるデジタル音声信号SAを入力する信号入力部31と、信号入力部31の出力信号(デジタル音声信号)SB1,SB2から駆動用デジタル信号SSを生成する信号処理部32と、駆動用デジタル信号SSに基づいてメインスピーカーユニット22A及びサブスピーカーユニット22Bを駆動するドライバー回路33とを備えている。
同図に示すように、信号入力部31につながる入力ラインは2つに分岐しており、同じデジタル音声信号SAが2系統で信号入力部31に入力し、信号入力部31、信号処理部32及びドライバー回路33には、メインスピーカー用の信号ライン(以下、第1信号ラインと言う)L1と、サブスピーカー用の信号ライン(以下、第2信号ラインと言う)L2とが独立して設けられている。
【0016】
信号入力部31は、第1信号ラインL1上に、第1フィルターであるローパスフィルター(LPF)35と第1信号調整回路(EQ/Delay)36とを有し、第2信号ラインL2上に、第2フィルターであるハイパスフィルター(HPF)37と第2信号調整回路(EQ/Delay)38とを有している。
ローパスフィルター35は、デジタル音声信号SAから高域の信号成分を遮断し、これによって、メインスピーカーユニット22Aの再生周波数域に対応する中・低域の信号成分を通過させる。第1信号調整回路36は、メインスピーカー用のイコライザ/遅延回路であり、予め設定された音声周波数特性の変更(音質調整)及び遅延を行う。
ハイパスフィルター37は、デジタル音声信号SAから中・低域の信号成分を遮断し、これによって、サブスピーカーユニット22Bの再生周波数域に対応する高域の信号成分を通過させる。第2信号調整回路38は、サブスピーカー用のイコライザ/遅延回路であり、予め設定された音声周波数特性の変更(音質調整)及び遅延を行う。
【0017】
本実施形態では、第1信号調整回路36のイコライザ機能によってメインスピーカーユニット22Aに合わせた音質調整を行い、第2信号調整回路38のイコライザ機能によってサブスピーカーユニット22Bに合わせた音質調整を行う。これによって、各スピーカーユニット22A,22B固有の特性に応じた音質調整を独立して行うことができる。
さらに、第1及び第2信号調整回路36,38の遅延機能は、両スピーカーユニット22A,22Bの音声出力タイミングの同期をとるために使用される。具体的には、本実施形態では、第1信号ラインL1と第2信号ラインL2とで独立して信号処理を行うため、ラインL1,L2毎の信号処理時間に差ができ、特に、信号処理部32では後述するミスマッチシェーピング回路42の分だけ、第1信号ラインL1の方が処理時間が多くなるため、第1信号ラインL1の方が第2信号ラインL2よりも長い信号処理時間を要する。この信号処理時間の差をなくすように、信号入力部31における第2信号調整回路38が第1信号処理回路36よりも遅延時間が長く設定されている。これによって、信号処理部32での信号処理時間差を相殺し、両スピーカーユニット22A、22Bの同期をとることができる。
【0018】
次に、信号処理部32について説明する。
信号処理部32は、各種演算処理を行う演算処理回路で構成されており、大別すると、第1信号ラインL1上に設けられる第1信号処理部32Aと、第2信号ラインL2に設けられる第2信号処理部32Bとを有している。
第1信号処理部32Aは、複数コイル用ΔΣ(デルタシグマ)変調回路41と、ミスマッチシェーピング回路42とを有して構成され、第2信号処理部32Bは、一コイル用ΔΣ変調回路43を有して構成されている。
【0019】
図2は、第1信号処理部32Aのブロック図を示している。
複数コイル用ΔΣ変調回路41は、第1信号ラインL1のデジタル音声信号(第1デジタル音声信号)SB1にΔΣ(デルタシグマ)変調処理を行うものであり、図2に示すように、オーバーサンプリング部45と、多値ΔΣ変調部46と、コード変換部47とを備えている。そして、第1信号ラインL1のデジタル音声信号SB1をオーバーサンプリング部45でオーバーサンプリングすることによって、再量子化雑音の分布を広い帯域に分布させ、多値ΔΣ変調部46でΔΣ変調することによって、再量子化雑音を整形する。その後、コード変換部47が、多値ΔΣ変調部46の多値ビット出力を、ボイスコイル数に対応したNビットの温度計コードに変換して出力する。
温度計コードに変換することによって、複数のボイスコイルに対応し、かつ、メインスピーカーユニット22Aを直接デジタル信号で駆動可能な複数(本例では6つ)の駆動用デジタル信号SS1〜SS6(SS)を生成する。
なお、この複数コイル用ΔΣ変調回路41には、特開2009−71872号公報に開示されるΔΣ変調回路が適用されているが、これに限らず、他のDA変換等に用いる公知のΔΣ変調回路を適用しても良い。
【0020】
ここで、コード変換部47から出力される複数の駆動用デジタル信号SSをドライバー回路33に供給してメインスピーカーユニット22Aを駆動すると、メインスピーカーユニット22Aの複数のボイスコイルのバラツキ(インピーダンス等のバラツキ)が再生音に悪影響を及ぼしてしまう。
本構成では、コード変換部47の出力側にミスマッチシェーピング回路42が設けられており、このミスマッチシェーピング回路42は、コード変換部47から出力される複数の駆動用デジタル信号SSにミスマッチシェーピング処理を行うことにより、複数のボイルコイルのバラツキやノイズによる再生音への影響を抑えることができる。このミスマッチシェーピング回路42には公知のミスマッチシェーピング回路を広く適用可能である。
【0021】
一コイル用ΔΣ変調回路43(図1参照)は、第2信号ラインL2のデジタル音声信号(第2デジタル音声信号)SB2にΔΣ(デルタシグマ)変調処理を行うものであり、単一のボイスコイルに対応した駆動用デジタル信号SS7(SS)を生成する点が上記複数コイル用ΔΣ変調回路41と異なり、それ以外は複数コイル用ΔΣ変調回路41とほぼ同様である。
一コイル用ΔΣ変調回路43から出力された駆動用デジタル信号SS7は、ドライバー回路33に供給され、サブスピーカーユニット22Bの駆動に供される。サブスピーカーユニット22Bは単一のボイスコイルしか備えないため、メインスピーカーユニット22Aに存在するような複数のボイスコイルのバラツキがない。このため、一コイル用ΔΣ変調回路43には、ミスマッチシェーピング回路が不要となっている。
すなわち、この一コイル用ΔΣ変調回路43では、複数コイル用ΔΣ変調回路41と比較して、複数の駆動用デジタル信号SSを生成する処理と、ミスマッチシェーピング処理とが省略されており、複数コイル用ΔΣ変調回路41と比べて簡素な構成となっている。
【0022】
ところで、メインスピーカーユニット22Aとサブスピーカーユニット22Bとを比較すると、高域を再生するサブスピーカーユニット22Bの方が、中低域を再生するメインスピーカーユニット22Aよりも早い動作速度が求められる一方、駆動エネルギーはずっと小さい。言い換えれば、中低域を再生するメインスピーカーユニット22Aでは、十分な音圧を確保するために、サブスピーカーユニット22Bに比して格段に高い駆動エネルギーが必要となる。
本構成では、メインスピーカーユニット22Aを、複数のボイスコイルを有するボイスコイルスピーカーとし、全てのボイスコイルに複数の駆動用デジタル信号SS1〜SS6を各々供給して駆動するようにしているため、複数のボイスコイルによって形成された磁場を加算して高いスピーカー駆動力を得ることができる。従って、中低域の再生に十分な駆動エネルギーを確保することができる。
【0023】
さらに、本構成では、サブスピーカーユニット22Bを、単一のボイスコイルを有するボイスコイルスピーカーとし、このボイスコイルに駆動用デジタル信号SS7を供給して駆動するようにしたので、高域再生に十分なスピーカー駆動力を満足しながら、ボイスコイルを含むボイスコイルボビン23Bを軽量、かつ、少ない部品点数で構成することができる。
これにより、デジタルスピーカーシステム10に使用されるサブスピーカーユニット22Bの振動系を軽くすることができ、高域再生能力を向上させることができ、かつ、部品点数を少なくすることができる。従って、再生能力の向上を図りながら構成の簡素化を図ることができ、製造し易くすることができ、低コストを実現することができる。
【0024】
以上説明したように、本実施の形態によれば、デジタル音声信号SAにΔΣ変調処理を行って生成した駆動用デジタル信号SSでスピーカーユニットを駆動するデジタルスピーカーシステム10において、デジタル音声信号SAを分岐した一方のデジタル音声信号SB1から複数の駆動用デジタル信号SS1〜SS6を生成する第1信号処理部32Aと、デジタル音声信号SAを分岐した他方のデジタル音声信号SB2から単一の駆動用デジタル信号SS7を生成する第2信号処理部32Bとを備えるとともに、一つの音声チャンネルに対応するスピーカーユニットを、複数の駆動用デジタル信号SS1〜SS6が供給される複数のボイスコイルを備えたボイスコイルボビン23Aを有するメインスピーカーユニット(第1スピーカーユニット)22Aと、単一の駆動用デジタル信号SS7が供給される単一のボイスコイルを備えたボイスコイルボビン23Bを有するサブスピーカーユニット(第2スピーカーユニット)22Bとで構成したので、両スピーカーユニット22A,22Bに求められる十分なスピーカー駆動力を確保しながら、サブスピーカーユニット22Bの振動系を軽く、かつ、部品点数を低減することができ、再生能力の向上と構成の簡素化とを両立することができる。これにより、高音質かつ低コストなデジタルスピーカーシステム10を実現することが可能になる。
【0025】
しかも、サブスピーカーユニット22Bがメインスピーカーユニット22Aよりも高音域を再生するツィーターであるため、ボイスコイル径が小さく振動系の軽さが求められるツィーターの該要求を満足することができ、高域再生能力の向上と構成の簡素化とを両立することができる。
また、第1信号処理部32Aは、複数の駆動用デジタル信号SS1〜SS6にミスマッチシェーピング処理を行うミスマッチシェーピング回路42を有するので、メインスピーカーユニット22Aが有する複数のボイルコイルのバラツキによる再生音への影響を抑えることができる。一方、第2信号処理部32Bはミスマッチシェーピング回路を備えないので、第2信号処理部32Bの構成を簡素化できる。
【0026】
さらに、第1信号処理部32Aと第2信号処理部32Bとの処理時間の差を相殺するための遅延回路として機能する信号調整回路36,38を備えるので、上記のように、第1信号処理部32Aにミスマッチシェーピング回路42があり、第2信号処理部32Bにミスマッチシェーピング回路がない等の理由により互いの信号処理時間が異なる構成であっても、両スピーカーユニット22A、22Bの同期をとることができる。
なお、本構成では、遅延回路として機能する2つの信号調整回路36,38を設ける場合を説明したが、要は、処理時間が短い方である第2信号処理部32B側の信号を遅延させればよく、第2信号調整回路38だけを設けるようにしてもよい。また、信号調整回路36,38の位置は適宜変更が可能である。
【0027】
また、本構成では、第1信号処理部32Aの前段にメインスピーカーユニット22Aの再生周波数域に対応する信号成分を通過帯域に制限するローパスフィルター(第1フィルター)35と、第2信号処理部32Bの前段にサブスピーカーユニット22Bの再生周波数域に対応する信号成分を通過帯域に制限するハイパスフィルター(第2フィルター)37とを有するので、第1信号処理部32A及び第2信号処理部32Bでの演算量を低減することができ、各信号処理部32A,32Bの処理負担を軽減することができる。
【0028】
<第2実施形態>
図3は第2実施形態を示す。第2実施形態では、第2信号処理部32Bとサブスピーカーユニット(第2スピーカーユニット)22Bとの間に、ノイズ除去用のコンデンサC1が設けられている。このコンデンサC1は、第2信号処理部32Bとサブスピーカーユニット22Bとの間の信号ラインLSと不図示のグランドラインとの間に設けられ、高周波のノイズ成分を除去することにより、高域再生能力を向上させる。
従来の複数のボイスコイルを備えたデジタルスピーカーシステムにおいては、信号処理部とスピーカーユニットが有する各ボイスコイルとをつなぐ多数の信号ラインが存在するため、上記のようなノイズ除去用のコンデンサC1を採用しようとすると、信号ラインの数だけコンデンサC1が必要となり、部品点数が増えてコストが高くなってしまう。
これに対し、本構成では、サブスピーカーユニット22Bについては、単一のボイスコイルとしているので、ノイズ除去用のコンデンサC1を多数設ける必要がなく、コストを抑えつつ高域再生に有利な構成にすることができる。
【0029】
<第3実施形態>
図4は第3実施形態を示す。第3実施形態では、3wayのスピーカーシステムに適用した態様を示しており、高域再生用の高域用スピーカーユニット(ツイーターに相当)22Bと、中域再生用の中域用スピーカーユニット(スコーカーに相当)22Cと、低域再生用の低域用スピーカーユニット(ウーファーに相当)22Aとを備えている。
なお、高域用スピーカーユニット22B及びその周辺構成は、上記実施形態のサブスピーカーユニット22B及びその周辺構成とほぼ同じであり、低域用スピーカーユニット22A及びその周辺回路は、上記実施形態のメインスピーカーユニット22A及びその周辺回路とほぼ同じであるため、同一の符号を付して重複する説明を省略する。また、それ以外の構成についても、上記実施形態と同様の構成は同一の符号を付して示して重複する説明を省略し、以下、異なる部分を詳述する。
【0030】
中域用スピーカーユニット22Cは、複数(本実施形態では3個)のボイスコイルを備えるボイスコイルボビン23Cを有した複数ボイスコイルスピーカー(第1スピーカーユニット)に構成されている。
信号処理装置21において、信号入力部31につながる入力ラインは3つに分岐しており、同じデジタル音声信号SAが3系統で信号入力部31に入力する。そして、信号入力部31、信号処理部32及びドライバー回路33には、低域用スピーカーユニット22Aに対応する第1信号ラインL1と、高域用スピーカーユニット22Bに対応する第2信号ラインL2と、中域用スピーカーユニット22Cに対応する第3信号ラインL3とが独立して設けられている。
【0031】
信号入力部31において、第3信号ラインL3には、バンドパスフィルター(BPF)51と、第3信号調整回路(EQ/Delay)52とが設けられ、バンドパスフィルター51によって、中域用スピーカーユニット22Cの再生周波数域に対応する信号成分を通過帯域に制限し、第3信号調整回路52によって、予め設定された音声周波数特性の変更(音質調整)及び遅延を行う。この場合、第3信号調整回路52は、中域用スピーカーユニット22Cに合わせた音質調整を行うとともに、全てのスピーカーユニット22A〜22Cの同期をとるように遅延量が設定される。
なお、第2信号ラインL2のローパスフィルター35は、低域用スピーカーユニット22Aの再生周波数域に対応する低域の信号成分だけを通過させる。
【0032】
信号処理部32において、第3信号ラインL3には第3信号処理部32Cが設けられ、第3信号処理部32Cは、複数コイル用ΔΣ(デルタシグマ)変調回路53と、ミスマッチシェーピング回路54とを有して構成される。
複数コイル用ΔΣ変調回路53は、第3信号ラインL3のデジタル音声信号(第3デジタル音声信号)SB3にΔΣ変調処理を行うものであり、第1信号ラインL1の複数コイル用ΔΣ変調回路41では6つの駆動用デジタル信号SSを生成するのに対し、3つの駆動用デジタル信号SSを生成する点が異なり、この点を除いて複数コイル用ΔΣ変調回路41と同様である。
また、ミスマッチシェーピング回路54についても、第1信号ラインL1のミスマッチシェーピング回路42では6つの駆動用デジタル信号SSに対してミスマッチシェーピング処理を行うのに対し、3つの駆動用デジタル信号SSに対してミスマッチシェーピング処理を行う点が異なり、この点を除いてミスマッチシェーピング回路42と同様である。
【0033】
上記ミスマッチシェーピング回路54から出力された駆動用デジタル信号SSは、ドライバー回路33を経由して中域用スピーカーユニット22Cの各ボイスコイルに供給され、各ボイスコイルによって形成された磁場を加算して高いスピーカー駆動力が得られる。
上記したように、本構成では、再生周波数域が高いスピーカーユニットほどボイスコイル数を少なくしているので、再生周波数域が高いスピーカーユニットほど振動系を軽くすることができ、再生周波数域が高いスピーカーユニットほど要求される早い動作速度を満足することができる。また、再生周波数域が低いスピーカーユニットほど多数のボイスコイルで駆動するので、再生周波数域が低いスピーカーユニットほど要求される駆動エネルギーを満足することができる。
【0034】
このように、本構成では、周波数帯域と駆動エネルギーとに応じてスピーカーユニット22A〜22Cのボイスコイルの本数を変えているので、各スピーカーユニット22A〜22Cに望まれる動作速度と駆動エネルギーとを満足することができる。
一般に再生周波数域が高いスピーカーユニットほどボイスコイル径が小さくなるが、本構成では、再生周波数域が高いスピーカーユニットほどボイスコイル数が少ないので、構成の簡素化を図り、製造し易くすることができる。
【0035】
上述した実施形態は、あくまで本発明の一態様に過ぎず、本発明の範囲内で任意に変形が可能である。例えば、上述の実施形態では、2way又は3wayのデジタルスピーカーシステムに本発明を適用する場合を説明したが、これに限らず、例えば、4wayのデジタルスピーカーシステムにも適用でき、要は、一つの音声チャンネルに複数のスピーカーユニットを使用するデジタルスピーカーシステムに広く適用することが可能である。さらに、車載スピーカーシステム以外のデジタルスピーカーシステムに適用することも可能である。
また、上述の実施形態では、ミスマッチシェーピング回路42を設ける場合を説明したが、これに限らず、ノイズシェーピング回路等の他のシェーピング回路を設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0036】
10 デジタルスピーカーシステム
11 車載オーディオ装置
21 信号処理装置
22A メインスピーカーユニット(低域用スピーカーユニット,第1スピーカーユニット)
22B サブスピーカーユニット(高域用スピーカーユニット,第2スピーカーユニット)
22C 中域用スピーカーユニット(第1スピーカーユニット)
23A〜23C ボイスコイルボビン
31 信号入力部
32 信号処理部
33 ドライバー回路
35 ローパスフィルター(第1フィルター)
36 第1信号調整回路(イコライザ/遅延回路)
37 ハイパスフィルター(第2フィルター)
38 第2信号調整回路(イコライザ/遅延回路)
41,53 複数コイル用ΔΣ変調回路
42,54 ミスマッチシェーピング回路
43 一コイル用ΔΣ変調回路
C1 コンデンサ
SA,SB1〜SB3 デジタル音声信号
SS 駆動用デジタル信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタル音声信号に対し、ΔΣ変調処理と、複数の駆動用デジタル信号に変換する処理とを行って、複数の駆動用デジタル信号を生成する第1信号処理部と、
前記デジタル音声信号に対し、ΔΣ変調処理を行って単一の駆動用デジタル信号を生成する第2信号処理部と、
前記第1信号処理部で生成された前記複数の駆動用デジタル信号が供給される複数のボイスコイルを備えるボイスコイルボビンを有する第1スピーカーユニットと、
前記第2信号処理部で生成された前記単一の駆動用デジタル信号が供給される単一のボイスコイルを有するボイスコイルボビンを有する第2スピーカーユニットとを備えることを特徴とするデジタルスピーカーシステム。
【請求項2】
前記第2スピーカーユニットは、前記第1スピーカーユニットよりも高音域を再生するスピーカーユニットであることを特徴とする請求項1に記載のデジタルスピーカーシステム。
【請求項3】
前記第1信号処理部は、前記複数の駆動用デジタル信号にシェーピング処理を行うシェーピング回路を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のデジタルスピーカーシステム。
【請求項4】
前記第1信号処理部と前記第2信号処理部との処理時間の差を相殺するための遅延回路を有することを特徴とする請求項3に記載のデジタルスピーカーシステム。
【請求項5】
前記第1信号処理部の前段に、前記第1スピーカーユニットの再生周波数域に対応する信号成分を通過帯域に制限する第1フィルターと、
前記第2信号処理部の前段に、前記第2スピーカーユニットの再生周波数域に対応する信号成分を通過帯域に制限する第2フィルターとを有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のデジタルスピーカーシステム。
【請求項6】
前記第2信号処理部と前記第2スピーカーユニットとの間に、ノイズ除去用のコンデンサを配置したことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のデジタルスピーカーシステム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−227589(P2012−227589A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90888(P2011−90888)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000001487)クラリオン株式会社 (1,722)
【Fターム(参考)】